著者
大西 泰歩 柳井 清治
出版者
石川県立大学
雑誌
石川県立大学研究紀要 = Bulletin of Ishikawa Prefectural University (ISSN:24347167)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.23-31, 2021

石川県に生息する絶滅危惧種ホクリクサンショウオの保全のため、1980 ~ 1990 年代の分布データから生息環境の特徴を解析し、現在の生息地から MaxEnt モデルを用いて生息適地の予測を行った。過去の生息地データから、本種は同属のクロサンショウウオやヒダサンショウウオ、そして別属のハコネサンショウウオに比べて低標高、緩勾配、年降水量が少なく、年平均気温が高く、そして積雪深(3 月)が少ない地域を好む傾向があった。ロジスティック回帰分析から、重要な生息環境要因として、最大傾斜、森林率、水田率、年降水量そして 3 月積雪深が選択された。この結果を元に MaxEnt モデルにより現在の生息適地を推定したところ、能登半島、特に羽咋市から中能登町にかけての丘陵地帯、七尾湾沿岸、そして加賀市の海岸地帯が抽出された。今後、里山と密接に結びついた生態的性質を持つ本種の保全のため、これらの地域の里山環境の保全と維持を行うことが重要となる。Here, we aimed to predict the habitat distribution of an endangered salamander, Hynobius takedai , in Ishikawa Prefecture,by building GIS and MaxEnt models using habitat data from the 1980s and 1990s. Compared with two congeners (H.nigrescens and H. kimurae ) and Onchodactylus japonicus , the historical distribution of H. takedai was associated with lower elevation, more gentle slopes lower annual rainfall, higher annual accumulated temperature, anshallow springsnow depts. H. takedai showed a preference for areas with a lower proportion of forest and higher proportion of rice paddies. H. takedai appeared to prefer swampy sites near villages in rural regions, i.e., satoyama landscapes. In logistic regression analysis, maximum slope, proportion of forest area, annual precipitation, March snow depth, and proportion of rice paddy area were important factors for predicting H. takedai occurrence. Based on these factors, we determined the amount of potential habitat available to this species in Ishikawa using a Max nt model, and found that highly suitable areas were distributed in the Noto Peninsula, especially in central Noto, and in hilly areas from Hakui to Nanao, montaneareas at the foot of Houdatsu Shimizu-cho, and the coastal area around Kaga. The distance from oak-dominated stands and March snow depth were particularly important predictor variables. Preservation of H. takedai will likely depend on the preservation of satoyama landscapes, wherein humans and nature coexist.
著者
宮本 淳子 金子 彰
雑誌
日本文學 (ISSN:03863336)
巻号頁・発行日
vol.106, pp.205-233, 2009-03-15
著者
梶原 洋
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館年報 = Tohoku Fukushi University Serizawa Keisuke Art and Craft Museum annual report (ISSN:21862699)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.57-80, 2010-06-23

小札は、アッシリアに始まり、内陸アジアを通して東西に広がった。本論では、ユーラシアに分布する小札について、アルファベットや記号、数字を用いて簡単に小札の縅孔、綴孔などの配置を表現し、それに基づいてA-Hの形式分類と細分を行った。小札鎧は、ユーラシア全体の分布をみると、内陸アジアを中心に西はヨーロッパから東は日本まで分布している(表1)。編年的には、5-6世紀を中心に古くは紀元前から新しくは19世紀まで用いられたことが分かる。(表2)。日本列島における小札鎧もユーラシアに広範に分布する小札鎧文化伝統の最東端に位置するものである。鎧文化における大陸との関係は、古代ばかりでなく中世もしくは近代にまで続き、大鎧の成立や北海道、樺太のアイヌ民族の鎧の存在にも大きな影響を与えたことが考えられる。 Lamellar armor, constructed of hundreds of small rectangular lamellae of wood, hide, bone, antler, bronze, or iron, has been widely used across Eurasia, from Europe to Japan. Rectangular lamellae with holes for lacing one to another with straps or cordsf irst appeared in Assyria in the eighth or seventh century B.C., then spread through central Asia to Siberia, Mongolia, China,Korea and finally Japan in the fifth century A.D.
著者
外池 亜紀子
出版者
麻布大学
巻号頁・発行日
2015-03-31

イヌの起源は1万5千年から3万3千年前と考えられており、祖先種の一部の集団がヒトの近くで生活するようになってイヌへ進化したと言われている。その後、およそ1万年前に農業の発達と共に小ささや従順さなどによる強い人為的選択が始まったとされている。さらに200年前に、犬種クラブや組織的な繁殖が始まり、多くの犬種が急激に作成された歴史がある。この進化と家畜化の過程において気質・行動や認知能力が選択圧に大きく寄与して、変化したと予測できる。例えばイヌはオオカミに比べて解決不可能な課題が提示された場合にヒトの方を早く振り返ることや、ヒトの指差しにしたがって指し示されたカップを選ぶ確率が高いことが報告されており、イヌはその進化・家畜化の過程で特異的な認知能力を獲得したと考えられる。しかし、その遺伝的背景は未だ明らかとなっていない。 現在、非公認犬種も含め世界には700から800もの犬種が確立されている。最近の遺伝子クラスター解析により、それらの犬種の中には祖先種に近いクラスター(以降原始的な犬グループと呼ぶ)が存在することが明らかとなり、原始的な犬グループには、柴犬や秋田犬等の日本固有の犬種が含まれていた。このことは柴犬や秋田犬等の日本犬が、その他の犬種よりも遺伝的にオオカミに近いことを意味している。 本研究では、イヌの選択圧の中心的役割と考えられる気質・行動や認知能力において、原始的な犬が一般的な犬種とオオカミの間に位置し、その行動は遺伝的に制御されていると仮説を立てた。さらにこの仮説に基づき、イヌの進化・家畜化の過程でオオカミから変化した行動に関与する遺伝子の探索を目指し、以下の第1章から第4章までの研究を行った。第1章:原始的な犬グループのイヌの一般的な飼育下における行動特性 日本及び米国における一般の飼い主及びブリーダーを対象としたイヌの行動特性に関するアンケート調査を、インターネット媒体を用いて実施した。イヌの行動解析システムは、C-barqを用いた。質問は、米国100問、日本78問から成り、様々な場面における犬の行動を5段階で評価する内容である。犬種を既に報告されていた遺伝分岐図を元に8つのグループに分類し、犬の行動特性の犬種グループ比較に用いた。質問項目について因子分析及び平行分析を行い、各因子の平均値を因子得点として分析に使用した。 アンケート結果を因子分析したところ、11の因子に分類された(訓練性、活発度、愛着、分離不安、侵入者に対する攻撃性、飼い主に対する攻撃性、見知らぬ人に対する攻撃性、見知らぬ犬に対する攻撃性、非社会的刺激に対する恐怖反応、見知らぬ人に対する恐怖反応、見知らぬ犬に対する恐怖反応)。そのうち、原始的な犬グループのイヌはどの犬種グループよりもヒトへの愛着が低いことが明らかとなった(p<0.05)。原始的な犬の愛着はその他のどの犬種グループよりも低く、先行研究で知られている遺伝分岐図と一致した結果である。その他の犬種グループでは、ワーキンググループは、見知らぬ人に対する恐怖反応、見知らぬ犬に対する恐怖反応、非社会的刺激に対する恐怖反応、飼い主に対する攻撃性、活発度が低いことが明らかとなった。また、ハーディンググループは訓練性が高く、トイグループは飼い主に対する攻撃性、見知らぬ人に対する攻撃性、侵入者に対する攻撃性が高かった。第2章:原始的な犬グループのイヌの社会的認知能力の特性 様々な犬種のイヌを用い、イヌの認知能力の犬種差を解決不可能課題及び指差し二者選択課題により評価した。解決不可能課題では、餌を容器で覆い容器を固定した状態で、イヌがヒトを見るまでの時間、ヒトを見ている時間、ヒトを見る回数、交互凝視の回数を測定した。指差し二者選択課題では、2つのカップのどちらかに餌を隠した上で、ヒントを出すことによりイヌが餌の入っている方のカップを選ぶ回数を測定した。ヒントとしては容器をとんとんとたたく(タッピング)、容器へ視線を向ける(視線)、容器を指差す(指差し)の3種類を組み合わせて用いた。 解決不可能課題では、原始的な犬は、最初にヒトを見るまでの時間がトイグループ、スパニエルグループ、ハーディンググループよりも長く、ヒトを見ている時間がスパニエルグループ、ハーディンググループ、レトリバーグループよりも短く、ヒトを見る回数がスパニエルグループ、ハーディンググループよりも少なく、交互凝視の回数がトイグループ、スパニエルグループ、ハーディンググループ、レトリバーグループよりも少なかった。また、原始的な犬と一般的な犬種とで2群比較を行ったところ、最初にヒトを見るまでの時間、ヒトを見ている時間、ヒトを見る回数、交互凝視の回数の全てにおいて、原始的な犬は一般的な犬種よりも有意にヒトを見ない結果が得られた(p<0.01)。 指差し二者選択課題では、原始的な犬の成績は、視線+指差し+タッピング課題、視線+指差し課題、指差し課題の全てにおいてその他の犬種グループと同等であり、犬種グループによる有意な差は見られなかった。原始的な犬と一般的な犬種とで2群比較を行ったところ、視線+指差し+タッピング課題において、原始的な犬は一般的な犬種よりも正答数が有意に高かった(p<0.05)。視線+指差し課題、指差し課題では、有意な差は見られなかった。第3章:イヌの認知能力に関連する遺伝子の探索 コミュニケーション能力に関わるホルモンとして、オキシトシンとコルチゾールに着目し、メラノコルチン2受容体(MC2R)とオキシトシン、オキシトシン受容体の遺伝子を選択した。さらにゲノムワイド解析によってイヌの進化に関わると報告されている候補遺伝子からWBSCR17を選抜し、これらに関連する遺伝子の多型を調べ、犬種差や行動実験の結果との関連性を調べた。 イヌの進化候補遺伝子であるWBSCR17(ウィリアムズ症候群関連遺伝子)において、原始的な犬と一般的な犬種とで出現頻度の異なる一塩基多型(C>T)が検出され、原始的な犬では一般的な犬種に比べTを持つ頻度が高かった。またこのT型の遺伝子型を持つ個体では、指差し二者選択課題の視線+指差し+タッピングの課題の正答数が高い結果となった(p<0.05)。MC2R(メラノコルチン2受容体遺伝子)において、原始的な犬と一般的な犬種とで出現頻度の異なる一塩基多型(G>A)が検出され、原始的な犬では一般的な犬種に比べAを持つ頻度が高かった。またこのA型の遺伝子型を持つ個体を一般的な犬種内で比較した結果、指差し二者選択課題の視線+指差し+タッピング課題、視線+指差し課題、指差し課題の正答数が低い結果となった(p<0.05)。OT(オキシトシン遺伝子)において、原始的な犬と一般的な犬種とで出現頻度の異なる一塩基多型(C>A)と反復数多型(repGGGGCC)が検出され、原始的な犬では一般的な犬種に比べ一塩基多型ではAを持つ頻度が高く、反復数多型では25塩基及び37塩基の長さの配列を持つ頻度が低かった。原始的な犬に多いA/A型の一塩基多型を持つ個体では、A/C型の遺伝子型を持つ個体よりも、解決不可能課題のヒトを見ている時間、ヒトを見る回数、交互凝視の回数においてヒトを見ない結果となった(p<0.05)。反復数多型では25塩基又は37塩基の長さの配列をヘテロで持つ個体において、挿入を持たない個体よりも解決不可能課題でヒトを見る回数が多い傾向が見られた(p=0.078)。OTR(オキシトシン受容体遺伝子)においては、原始的な犬と一般的な犬種とで出現頻度の異なる一塩基多型が検出されたものの、行動実験の結果とは関連性が見られなかった。第4章:日本犬のβアミラーゼコピー数多型 オオカミ、秋田犬、柴犬、原始的な犬グループ以外のイヌ(ラブラドール、スタンダードプードル等の様々な犬種)のアミラーゼコピー数を調査した。柴犬は、一般的にペットとして飼われている柴犬と天然記念物柴犬保存会の厳しい管理の元で交配が行われている縄文柴を用いた。 オオカミのアミラーゼコピー数は先行研究で報告されているとおり、2コピー程度であった。また、オオカミへの遺伝的近さから予想したとおり、秋田犬のコピー数はオオカミよりも多いが一般的な犬種より少なかった(p<0.01)。一方、秋田犬と同じく原始的な犬グループに含まれる柴犬のコピー数は、一般的な犬種と同程度であり、柴犬のオオカミへの遺伝的近さと反した結果となった。縄文柴のコピー数は、柴犬より少なく(p<0.01)、秋田犬より多かった(p<0.05)。 本研究によって、原始的な犬グループのイヌは一般的な犬種と比較してヒトへの愛着が低く、解決不可能課題においてヒトを見ないことが明らかとなった。これは先行研究によって知られている遺伝分岐図の結果と一致する結果であり、イヌの進化・家畜化は気質・行動や認知能力によって選択されていることを示唆する内容である。一方で、指差し二者選択課題でヒトからの社会的な指示を読み取る能力では、原始的な犬グループのイヌは一般的な犬種と同程度又はより高いという結果が得られた。解決不可能課題と指差し二者選択課題では関連性が見られず、解決不可能課題においてヒトを見ることや指差し二者選択課題でヒトからの社会的な指示を読み取る能力は、イヌの進化・家畜化において別々に獲得されたものであることを示唆する結果といえた。イヌの認知能力に関連する遺伝子の探索では、WBSCR17遺伝子、MC2R遺伝子が第一の選択に関与し、OT遺伝子が第二の選択に関わると考えられ、探索した遺伝子型の結果からも、イヌの進化・家畜化に二段階が存在する可能性が示された。
著者
上杉 邦憲 平尾 邦雄 林 友直 原 宏徳 山本 東光 升本 喜就 折井 武 上村 正幸 UESUGI Kuninori HIRAO Kunio HAYASHI Tomonao HARA Hironori YAMAMOTO Harumitsu MASUMOTO Yoshinari ORII Takeshi KAMIMURA Masayuki
出版者
宇宙科学研究所
雑誌
宇宙科学研究所報告. 特集: ハレー彗星探査計画報告 (ISSN:02859920)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.17-31, 1987-03

「さきがけ」, 「すいせい」両探査機に対する科学観測ミッションからの要求, 重量, 電力, 通信, 熱設計等工学上の諸要求と制限を考慮したシステム設計及び打上げ後の運用結果によるその評価について述べる。
著者
松本 純一
出版者
東洋学園大学
雑誌
東洋学園大学紀要 = Bulletin of Toyo Gakuen University (ISSN:09196110)
巻号頁・発行日
no.12, pp.29-38, 2004-03-15

近年日本語の話し言葉でよく聞かれる「~円からお預かりします」という言い回しに関して,その表現の成立と存在意義について,生成文法を始めとする理論言語学及び普遍文法の観点から考察する。結論として,この表現は本来助詞が存在しなくてよい部分に,丁寧さを高めるために日本語におけるデフォールトな後置詞「から」が挿入されたものであるという説明を提案する。この結論を支持する根拠として,現代日本語文法論における構造格と内在格との区別・日本語の後置詞「から」が持つ独自の性質・他言語における格体系・英語におけるデフォールトな前置詞などの言語現象を取り上げる。
著者
義江 明子
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.35-65, 1992-03-31

日本の伝統的「家」は、一筋の継承ラインにそう永続性を第一義とし、血縁のつながりを必ずしも重視しない。また、非血縁の従属者も「家の子」として包摂される。こうした「家」の非血縁原理は、古代の氏、及び氏形成の基盤となった共同体の構成原理にまでその淵源をたどることができる。古代には「祖の子」(OyanoKo)という非血縁の「オヤ―コ」(Oya-Ko)観念が広く存在し、血縁の親子関係はそれと区別して敢えて「生の子」(UminoKo)といわれた。七世紀末までは、両者はそれぞれ異なる類型の系譜に表されている。氏は、本来、「祖の子」の観念を骨格とする非出自集団である。「祖の子」の「祖」(Oya)は集団の統合の象徴である英雄的首長(始祖)、「子」(Ko)は成員(氏人)を意味し、代々の首長(氏上)は血縁関係と関わりなく前首長の「子」とみなされ、儀礼を通じて霊力(集団を統合する力)を始祖と一体化した前首長から更新=継承した。一方の「生の子」は、親子関係の連鎖による双方的親族関係を表すだけで、集団の構成原理とはなっていない。八~九世紀以降、氏の出自集団化に伴って、二つの類型の系譜は次第に一つに重ね合わされ父系の出自系譜が成立していく。しかし、集団の構成員全体が統率者(Oya)のもとに「子」(Ko)として包摂されるというあり方は、氏の中から形成された「家」の構成原理の中にも受け継がれていった。「家の御先祖様」は、生物的血縁関係ではなく家筋観念にそって、「家」を起こした初代のみ、あるいは代々の当主夫妻が集合的に祀られ、田の神=山の神とも融合する。その底流には、出自原理以前の、地域(共同体)に根ざした融合的祖霊観が一貫して生き続けていたのである。現在、家筋観念の急速な消滅によって、旧来の祖先祭祀は大きく揺らぎはじめている。基層に存在した血縁観念の希薄さにもう一度目を据え、血縁を超える共同性として再生することによって、「家」の枠組みにとらわれない新たな祖先祭祀のあり方もみえてくるのではないだろうか。