著者
松尾 英輔
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.229-241, 1978-03-19

植木鉢の原点を探ってみると, 1)植物を植えるための土を保持できること, 2)水によってこわれないこと, の2点があげられる.ここでは, この原点にたって植物が植えられている容器のうち, 植物を植える目的をもって開発された容器類以外のすべてを"アイディア鉢(Idea Pot)"と称する.本調査では, 鹿児島市内の1333戸を対象として, 1)アイディア鉢の保有状態, 2)アイディア鉢として使われた素材, 3)アイディア鉢に植えられている植物を明らかにすることを目的とした.アイディア鉢の保有率は調査戸数の約30%であった.また, 屋敷内の緑が少ないほどアイディア鉢の保有率は高い傾向がみられた.アイディア鉢の種類は70種以上, その延べ総数は1423個であった.このなかには, 数こそ少なかったが, 電燈のかさ, 切り株, タイヤ, 浴用椅子, ブロックの穴, ビニール袋, 石臼など, 園芸専門家の常識では考えつきそうにないものが含まれていた.アイディア鉢の材料についてみると, 種類としては合成樹脂製品, 金属製品が多く, 数のうえでは木製品の比率が高かった.アイディア鉢への転用の仕方をみると, 種類, 保有戸数, 総数のいずれについても, 使い古したもの, 欠損したもの, あるいは, 魚箱, リンゴ箱のような, 本来の目的を達したものが多かった.アイディア鉢となったものがもともと使われていた場所の面からみると, 種類および保有率では台所用品が多く, 数のうえからは, 普通の家庭ではあまり使われないもの(たとえば, 魚箱, リンゴ箱など)が多かった.アイディア鉢の植物は260種以上に及び, 観賞植物は約70%でもっとも多かった.個々の植物の出現率についてみると, ネギがもっとも多く, ついで, ニラ, ゼラニウム, キク, シソの順であった.野菜は植木鉢にはあまり植えられていなかったが, アイディア鉢ではきわめて多かった.
著者
杉島 一郎 松田 瀬菜
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.103, 2014 (Released:2014-10-05)

本研究は,左右の指示をされてもとっさに反応できなかったり,場所を左右で答えるのが困難であったりする左右識別困難について,その原因として認知スタイル(言語優位,視覚優位)が関係あるのではないかとして質問紙による調査を行ったものである。質問紙は谷岡・山下(2005)の左右識別困難質問紙と荒木・木村(2005)のVVQ日本語版,および八田・中塚(1975)の利き手検査を用い,加えて左右識別能力への自信を2件法で質問したものである。99名の大学生を対象に調査を行った結果,左右識別能力に関して性差と認知スタイルの影響がみられた。男性では言語が優位ではなく視覚優位のものほど左右識別が困難で,女性では言語が優位でない方が左右識別困難になりやすいということが示唆された。
著者
市川 正人
出版者
立命館大学法学会
雑誌
立命館法學 (ISSN:04831330)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.2, pp.516-528, 2015
著者
濱田 桂佑 佐々木 誠
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.463-467, 2008 (Released:2008-07-28)
参考文献数
15
被引用文献数
8 5

〔目的〕本研究の目的は,静的ストレッチングがジャンプ能力に及ぼす効果について,生理学面ならびに機能面の2つの側面から検討することである。〔対象〕対象は,健常学生20名であった。〔方法〕静的ストレッチング前後で,生理学面として伸張反射の潜時,機能面として等運動性筋力(60 deg/secと240 deg/sec),ジャンプ能力として垂直跳び,立ち幅跳びを計測した。〔結果〕各項目を静的ストレッチング前後で比較したところ,ストレッチング後に伸張反射発現までの潜時,60 deg/secの筋力,垂直跳び,立ち幅跳びは有意に低下していた。〔結語〕静的ストレッチングを行った後にジャンプ能力が低下した。その原因として,筋紡錘の感受性低下ならびにゴルジ腱器官の関与による,筋緊張の調節にかかわる中枢神経系の筋緊張抑制メカニズムに基づく筋緊張低下に伴う筋力低下に加えて,伸張反射発現までの時間の延長によって筋収縮にタイミングの遅れが生じたことが示唆された。
著者
濱田 国佑
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.181-194, 2021-06-25

本稿では,大衆化が進んだ大学において民主主義的な価値観がどの程度育まれるのかについて検討を行った。具体的には「リベラル」の対をなす価値観として,「権威主義的態度」および「格差容認意識」の2つの価値意識を設定し,大学教育がこれらの意識に与える効果が1995年から2015年にかけてどのように変化したかを検討した。その結果,特に「権威主義的態度」において,時点間の差異が顕著であり,大学で学ぶことによって権威主義的態度を弱める効果,つまりリベラルな価値観を育む効果は失われつつあることが示唆された。また,1995年時点では,権威主義的態度に対する出身階層の負の影響が,大学教育を受けることで縮小していた。つまり大学教育を受けることで出身階層の高低にかかわらず,非権威主義的な態度が育まれていたのに対し,2015年時点においてこうした傾向は失われていた。
著者
鈴木 美花 室 雅子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集 69回大会(2017)
巻号頁・発行日
pp.251, 2017 (Released:2017-07-08)

目的:近年、様々な職業で女性の活躍が見られるが、現実の社会では「男性の職業」「女性の職業」といったジェンダーに基づく男女の職業イメージは今でも存在する。 学校は男女が平等に扱われるべき場であるが、学校で使用される教科書も同様であると考えられる。ではその毎日子どもたちが目にする教科書の中の職業人の挿絵は、男女等しく描かれているのであろうか。本研究では小学校教科書に描かれた職業の挿絵に着目し、1人の小学生が6年間で目にする教科書には男女がどのような割合で描かれているのかを明らかにすることを目的とした。 方法:愛知県の西三河地区に通う現在小学6年生である児童が、これまで6年間で使用してきた全教科の教科書51冊を分析対象とし、教科書に描かれた職業従事者を全体、職業分類別、職業別、教科別、学年別に比較、検討した。 結果:全教科書における職業従事者の挿絵は男性65%、女性27%で男性の方が2倍以上多く、職業の種類は男性102種類、女性67種類で男性がより多くの職業で描かれていた。職業分類別では女性の割合が50%を超える職業はなく、「建設・採掘業」では女性の働く挿絵がなかった。「保健」以外の9教科では男性の方が多く、すべての学年でも男性の方が多く描かれていた。これらのことから、教科書の挿絵であるにもかかわらず、職業に携わる人の挿絵は男女等しく描かれているとは言えず偏りがあることが明らかとなった。
著者
森本 岩太郎
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.95, no.4, pp.477-486, 1987
被引用文献数
11

打ち首(斬首)の所見が認められる古人首例は比較的少なく,偶然に発見されたとしても,頭蓋の刀創などから斬首を間接的に想定した場合が大部分を占めると思われる.著者が最近経験した鎌倉市今小路西遺跡出土の南北朝期(14世紀後半)に属する斬首された2個体分の中世頭蓋の場合は,切られた上位頸椎が一緒に残っていたので打ち首の技法がよく分かる.当時の屋敷の門付近に,A•B2個体分の頭蓋と上位頸椎だけが一緒に埋められていた.首実験後に首だけが遺族に返されず,そこに仮埋葬されたものであるらしい.2体とも男性で,年齢は A が壮年期前半,B が壮年期後半と推定される.頭蓋は無傷で,それぞれの頸椎が日本刀のような鋭利な刃物により切断されている.頭蓋と第1~3頸椎からなる男性 A の場合,切断面は第3頸椎体の前下部を右後下方から左前上方へ走って椎体の途中で止まり,その先の椎体部分は刀の衝撃によって破壊され失われている.切断面の走向からみて,第4頸椎(残存せず)を右後下方から切断した刃先が第3頸椎体に達して止まったと思われる.頭蓋と第1~4頸椎からなる男性 B の場合,主切断面は第4頸椎の中央を右からほぼ水平に走っている.切断面より上方にある右横突起と右上関節突起の上半部だけが残存し,それ以外の第4頸椎の大部分は失われている.A の場合と同様に,刃先が第4頸椎の椎体の途中で止まって,その先の部分が破壊されたものと推定される.別に第3頸椎の左下関節突起先端部から右椎弓根基部上面へ向けて椎体を左下方から右上方へ斜めに走る副切断面があり,この副切断面によって改めて首が切り離されている.失われた第3頸椎の椎弓板もこのとき壊されたと思われる.切断面の走向からみて,両個体とも,垂直に立てた頸部を横切りにされたというよりは,むしろ正座のような低い姿勢をとって前方に差し伸べた頸部を,左側やや後方に立った右利きの執刀者により切り下ろす形で右背後から鋭く切断され,絶命したと推定される.この際,首は一気に切り落とされていない.これは俗に「打ち首はクビの前皮一枚を残すのが定法」と言われるところに近似の所見であり,この技法の確立が中世までさかのぼり得るものであることが分かる.2体とも最初に第4頸椎部を正確に切断され,頭蓋には刀創の見られないところから,同一の練達者によって斬首されたと推測されるが,切られたほうも死を覚悟した武士であったかも知れない.英国のSutton Walls 出土の鉄器時代人骨における斬首例のように,首を刀で一気に切り離すのが昔のヨーロッパ流のやり方とすれば,中世における日本の打ち首では頸部を後方から半切して処刑する点にその特徴があると思われる.
著者
牧野 智和
出版者
東洋館出版社
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.129-146, 2006

The purpose of this study is to examine the feelings of "uneasiness" that have become the dominant image where we consider the issue of juvenile crime, and which became the driving force for the enactment of various ordinances. The material used for this examination is reports of the juvenile crimes in the pseudo-environment that mediates the holding of this image, that is, in the mass media. Concretely, the analysis and consideration were done based on reports on juvenile homicides in "Asahi Shimbun" in the postwar period. As a result, the following tendencies in recent years have been extracted as a symptom that people have come to feel uneasiness. 1) The number of juveniles arrested on charges of homicide in recent years is low compared with the peak in the 1950s and 1960s. However, newspaper reports on homicides have become much more numerous since 1997. This made people widely aware of crimes by "ordinary children," and it appears that this is related to the uneasiness people feel that they or their children might be victims of juvenile crime or that their child might become an assailant. 2) In recent years, the malicious nature and cruelty of assailants is often reported along with the tendency to focus on "psychological problems" (kokoro no yami) in the articles. As a result, assailants and their parents and teachers have been subjected to criticism that did not exist in the past. 3) From the same focus on "psychology," references to "child-rearing" and "educational methods" have been made from a professional viewpoint by specialists in psychology. As a result, everyday life, which was once self-evident, has come under questioning. Moreover, the usage of psychological terms in recent years has been used not only to label assailants as abnormal, but also to make parents and teachers reflexively think, "Is your child OK?" It was thought that the rise of uneasiness is related to these psychological references that destroy the self-evidence of everyday life of parents and teachers.
著者
井上 学 桐村 喬
雑誌
じんもんこん2009論文集
巻号頁・発行日
vol.2009, no.16, pp.345-350, 2009-12-11

本研究は,戦前期における大都市内部の公共交通機関の利用実態を復原することを目的としている.対象地域は京都市であり,1937年に実施された市電・市バスの交通調査結果と,1941年に実施された市民調査結果を利用する.GISを利用した2つの資料の地図化により,当時の都市内交通の結節点が示され,市電と市バスの利用パターンの差異が示された.また,都心部での昼間時の在宅者が多い一方で,都心部への通勤・通学需要の大きさも示された.
著者
岡本 久
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.8, pp.526-532, 2016-08-05 (Released:2016-11-16)
参考文献数
21

流体力学は古典物理学の問題であり,統計物理学の活躍する乱流理論を除けば物理学的に面白いものではない.こう考える読者は多いのではなかろうか.「大きなコンピュータさえあれば,流体力学のたいていの問題は解ける」という人もいる.だが,コンピュータシミュレーションで現れ出る結果をそのまま鵜呑みにする物理学者はいるまい.やはり,その物理的な背景が理解できるまでは納得できるものではなかろう.流体力学には物理的な背景説明の難しい現象は結構あるように思う.私のような数学者としては,以下に述べるような流れ現象の背景説明を物理学の研究者から得たいのである.考察の対象は2次元の流れである.現実の流れはすべて3次元であるとはいうものの,地球規模の流れのように,高さが横方向に対して極端に小さい場合には2次元流れがよいモデルになると信じている人は多い.2次元には3次元とは異なる特有の現象(例えば乱流の逆カスケードなど)があり,独自のおもしろさがある.背景説明を期待したい流れ現象はいろいろとあるものであるが,中でも2次元における大規模渦の存在が厄介な問題である.それは非常にしばしば発生し,しかも長時間にわたって維持されるけれども,普遍的な現象と言えるほどの法則性が見つかっていない(ようだ).だからと言って物理学や数学になじまないということもなかろう.環境が違っていても同じような渦があっちにもこっちにもみられるというのは何か底に潜むものがあるに違いない.ここでいう大規模渦とは,一言で言えば,流線のトポロジーが単純である解である.典型的な例は,流れ関数が1点のみで最大値をとり,最小値を取るのも1点で,その他の領域では単調な場合である.そこまで数学的に厳密にしてしまうと発見が困難な場合もあるが,「ほとんど単調」と言える場合も込めて考えれば非常に多くの場合にこうした大規模で単調な解が見つかるのである.統計力学の理論を乱流現象にあてはめるとき,大規模渦は厄介者である.性質の似通ったものが大量にあることが統計力学の前提であるから,典型的な大きさと同程度の渦が1個だけ存在しているというのは好ましくない.それが例外的なものならばよい.しかし,様々な知見の積み重ねによって,大規模渦は不可避であると考える研究者は増えてきたように思える.実際,こうした大規模渦の存在は古くから指摘されてきた.一方で,「レイノルズ数が小さいからそうしたものが現れるのであって,レイノルズ数が十分に大きければそのようなものは崩れてしまい,観測されないであろう」という意見もあるかもしれない.しかし,筆者らの研究は,(相当に多くの場合に)どんなにレイノルズ数を大きくしても大規模渦が不可避であることを強く示唆する.しかも,それが,定常な流れという,一番単純なものの中に見つかるのである.こうした渦の存在を生み出すメカニズムは何か,人それぞれに意見の分かれるところであろう.何らかの意味で関連しそうなのは,「逆カスケード」や「最大エントロピー解」であろう.読者の中から物理的な説明を与える人が現れてくることを期待する.