著者
武田 征士
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.95-99, 2013 (Released:2014-09-26)
参考文献数
44

植物にとって,花は次世代へ遺伝情報を伝える重要な生殖器官である.雄しべと雌しべは生殖そのものに関わる一方,萼(がく)は花器官を外環境から守り,花びらは虫や鳥などの花粉の運び屋を惹き付ける.花びらはこの役割を果たすため,最も多様性に富む植物器官に進化してきている.モデル植物のシロイヌナズナの研究を中心に,花器官作りのメカニズムが遺伝子レベルで明らかにされてきた.最近の報告を含め,植物にとって重要な「花びら作り」に関わる遺伝子とメカニズムについて述べる.
著者
日沼 千尋 荒木 尚 種市 尋宙 西山 和孝
出版者
日本脳死・脳蘇生学会
雑誌
脳死・脳蘇生 (ISSN:1348429X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.82-90, 2022 (Released:2022-08-26)
参考文献数
6

〔目的〕脳死下臓器提供をする子どもと家族へのケアと支援の実際を明らかにし,体制整備に関して検討すること。〔方法〕小児の脳死下臓器提供を経験し,施設名が公表されている10医療施設の11例のドナーを担当した医療チームメンバーに子どもと家族に行った支援,ケアについてインタビューを行った。インタビューデータの中から子どもと家族に行ったケアに注目してデータを抽出し,質的に分析した。〔結果〕【子どもの尊厳を守りいつもと変わらずていねいに終末期のケアをする】【家族が子どものためにしてあげたいことは,できるだけ叶える】【自由に面会してもらい,ともに過ごす時間を十分にとる】【子どもと家族の物語りに耳を傾け,感情の揺れを受け止める】【家族の意思決定を支える】【きょうだいへのケアと説明を担う】【多職種チームでケアする体制を整え,カンファレンスで情報共有と検討を重ねる】【最期まで大切な子どもとしてケアする】【家族とともに体験を振り返る機会をもつ】の9つのカテゴリーが抽出された。〔考察〕脳死下臓器提供をする子どもと家族のケアにおいては,家族が子どものためにできるだけのことをやれたと思える丁寧な看取りのケアを基盤に,意思決定支援としては,子どもと家族のこれまでと,これからに描いていた物語に耳を傾けることの重要性が示唆された。課題としては,脳死下臓器提供時のケアに当たる医療スタッフの精神的な支援と学習機会の提供があげられた。
著者
石綿 寛
雑誌
総合福祉研究 = Social welfare research bulletin (ISSN:18818315)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.115-128, 2018-03-31

本論は,人文学不要言説の分析を実施した.既存の人文学を擁護する人文学擁護言説は,人文学の危機を人文学を聴く人々の無理解を巡る問題として議論していた.これに対し本論は,人文学の危機を人々の人文学からの撤退として議論する.この立場を取るならば,人文学の危機は,人々に人文学の意義を語ることでは解決されない.取り組むべきは,人々がなぜ人文学から撤退することが可能なのかという人文学と人々の距離を問うことである.このような問題意識にもとづき,本論は,人文学から距離を取り既存の人文学を不要とする冨山和彦の議論を分析した.冨山の論考から明確になったことは,社会構造を巡る理解の違いである.冨山にとって,技術革新などによって実現される社会構造は所与であり,その中でいかに効率的に政策を実施するかが重要な課題になっている.この理解の枠組みの中では,人間が社会構造を変えていくことを所与とする人文学は必要がないものとなる.
著者
田中 愼一
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.9-18, 2005-03-10

近代日本の人傑をとらえ、これを論評するのは容易であるはずはないだろう。高尚偉大なる人物にして且つ文筆家であれば、その一代の文業に精通することが期待されるだけに、余計そうなるであろう。1984 年制定の五千円札以来にわかに族生の感ある新渡戸稲造研究家、その一員に達していない私としては、いわゆる群盲象を評す、にとどまることを危惧しつつ書いたのがこの小論である。焦点は新渡戸稲造の朝鮮(韓国)観、それが年代を経るなかでどのように推移していったのか、を追跡しようとした。しかも、関連する事柄で興味が湧いた際には、追求していく本来の大通りから、時には註をステップ台にして横町へ飛び込み、場合によってはさらに横町から左右の細い路地を覗き込みながらあわただしく出入りしたかのごとき叙述もしたのであった。文化的架橋者たらんことを使命にしていたとおぼしき新渡戸稲造は、その生きた多端な時代の運命をよく担っていた方なのではないか、というのが私の擱筆感の一つである。
著者
片岡 孝介
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

先進国で高齢化が加速度的に進む中で加齢性記憶障害の発症機構の研究は重要性を増している。脳内で多く発現しているCB1受容体は、加齢性記憶障害に深く関与することが知られているが、その機構には不明な点が多い。助成対象者は、CB1受容体がミトコンドリアの品質を管理することで海馬神経細胞の機能を維持していると予想している。本研究では、CB1受容体によるミトコンドリア品質管理機構を解明することで、今後増加すると予想される加齢性記憶障害の機構解明や予防戦略の確立につなげることを目的としている。
著者
楠 幹江 山田 俊亮 Mikie Kusunoki Shunsuke Yamada
出版者
安田女子大学大学院
雑誌
安田女子大学大学院紀要 = The journal of the Graduate School, Yasuda Women's University (ISSN:24323772)
巻号頁・発行日
no.23, pp.171-182, 2018-03-31

衣・食・住などの生活は,生きる基本であり,幸せの基盤でもある。家政学はこの人間の生活を研究対象としており,生活の向上と人類の福祉を目的としている。「人類の福祉」の「福」「祉」は,共に幸せを意味する言葉であり,このため,家政学そのものを,幸せを追求する学問として捉えることができる。幸せとは何か?を検討する場合,健康をキーワードとすることは意味があることだと考える。ここでの健康は,WHO 憲章における内容を意味している。すなわち,「肉体的,精神的,社会的に完全に良好な状態である」ことが,健康の意味する内容である。したがって,衣・食・住それぞれの生活において,肉体的,精神的,社会的に良好な状態を維持することが,幸せな生活に繋がると考える。そのために,個人でできることは,家庭生活の営み行動を重視することである。
著者
大石 千歳 吉田 富二雄
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.445-453, 2001-02-25 (Released:2010-07-16)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

Based on social identity theory (Tajfel, 1978), it is expected that black sheep effect occurs only in cases where ingroup members are compared with outgroup individuals. In study 1, 112 female student nurses were divided into two groups, and evaluated both outgroup and ingroup individuals (outgroup-ingroup condition), or ingroup members only (ingroup-only condition). Black sheep effect was found only in the outgroup-ingroup condition. Ingroup members in the condition were evaluated more extremely than those in the ingroup-only condition, and there was no significant difference between the evaluations of outgroup individuals in the outgroup-ingroup condition and ingroup members in the ingroup-only condition. The results confirmed the ingroup-outgroup comparison prediction. In study 2, in addition to rating four individuals, desirable or undesirable and ingroup or outgroup, 86 female student nurses were asked to indicate the importance of their own social identity. Mack sheep effect was observed, with perception of ingroup homogeneity strengthening ingroup identification, thereby facilitating black sheep effect. These findings support Turners self categorization theory (1982) as an explanation of the mechanism for black sheep effect.