著者
佐々木 香織
出版者
筑波大学哲学・思想学会
雑誌
哲学・思想論叢 (ISSN:02873702)
巻号頁・発行日
no.20, pp.37-47, 2002-01-31

「軍隊の能姿。仮令、源平の名将の人体の本説ならば、ことに[?]平家の物語のまゝに書べし。」これは世阿弥と『平家物語』との関わりを論じる際には、必ずといっていいほど引用される世阿弥の言葉である。しかし、この「まゝ」が何を指しているかについては、内容や詞章をそのままに書くという ...
著者
立川 明
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A, 教育研究 (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.1-26, 2006-03

定説では,19世紀の半ば以降に登場するランド・グラント・カレジは,1828年のイエィル・レポートが定式化した古典的カレジにとって替ったといわれる.本論では,こうした定説に疑義を差し挟み,定説とは反対にランド・グラント・カレジの構想はイエィル・レポートの主張の延長線上にあり,後者の提案の具体化でさえある,と主張する.イエィル卒のジョナサン・ボールドウィン・ターナーは1851年,科学と文芸の諸原理こそ優れた教育の基礎であるとの原則を応用して「産業大学論」を公表した.産業大学を中心として,ワシントンの中央研究所と産業諸階級とを結ぶ教育体系を提唱したターナーは,宗教に基づくかつての「公共性」に替えて,知の共和国に基づく新しい「公共性」を高等教育に打ち立てたのである.
著者
岸本 千佳司 Chikashi KISHIMOTO
雑誌
AGI Working Paper Series = AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2019-03, pp.1-61, 2019-02

本研究は、台湾の「台達電子(Delta Electronics)」(以下、「台達」と略記)の事例研究である。台達は 1971 年に社員 15 人の町工場として創設され、その後ほぼ一貫して成長し、2017 年時点で、全世界で従業員数約 8 万 7,000 人、売上高約 73 億 4,500 万米ドルの大企業グループとなっている。主要製品は電源供給器をはじめとする各種電機・電子部品で、近年ではそれをシステムとして提供し、省エネ・低炭素化に資する電気エネルギーマネジメントのソリューション・ビジネスを展開している。 持続的な成長性の背景には、創業者の鄭崇華(Bruce C.H. Cheng)氏の経営哲学を反映した堅実な経営姿勢がある。本研究では、①ものづくり企業としての堅実性(主力製品・事業の変遷・拡充、海外展開、研究開発体制)、およびそれを支える②企業経営での堅実性(企業グループの組織運営、人材経営、環境経営)の 2 側面に分けて分析する。 分析の結果、①については、創業当初からの研究開発と品質管理の重視、それに基づく顧客への迅速な対応と手厚いサービス、そして早くから欧米顧客の開拓へと進んだ国際性の強さが見出された。これを土台に、1970 年代以降、様々な応用製品市場(家電、ICT、グリーンエネルギー、産業自動化、グリーン建築、EV 等)が次々と勃興してきたことを背景に、着実に製品の拡充・多角化を進めてきたのである。堅実さの表れとして、既存製品とのシナジーを活かしつつ、高付加価値・高利潤の市場を常に開拓し、しかも製品の性能向上にも継続的に取り組んできたことが指摘される。 ②については、グローバルに展開した企業グループ統合の仕組み、人を大切にし社員の学習と創意工夫を奨励する人材経営、および積極的な環境経営へのコミットメントが明らかとされる。とりわけ環境経営は、台達にとって、単なる時流に合わせた付随的な取り組みではなく、同社の経営理念である「環境保護 省エネ 地球愛護」(「環保 節能 愛地球」)を実現するための不可欠の一環として行われていることが示される。 最後に、近年本格化した大規模な経営改革についても分析する。これには、中国等の新興競合企業の追い上げを背景に、これまでの環境エネルギービジネスに加え、次世代産業(インダストリー4.0/ビッグデータ/5G/EV 等)勃興に伴うビジネスチャンスをつかみとろうとする狙いがあることを示す。新事業展開として、とりわけ、スマート製造ソリューションが今後の成長分野として期待されている。
著者
増田 いづみ 生田 久美子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 = Bulletin of Den-en Chofu University (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.10, pp.91-109, 2016-03

福祉における「自立」についての重要性は倫理的側面を含めて,様々な形で論じられており,その重要性については誰もが認めるものである。しかしながら,その「じりつ」には,同じ読み方でも「自立」と「自律」が存在し,両者の概念の違いについてはこれまで明確な形で議論されてこなかった。そしてそのことが,実践における「じりつ」をめぐる様々な在り様を現出させてきたと言えよう。そこで本論では,介護の中で用いられる「自立」「自律」という概念に注目し,各々の概念の意味するところを整理するとともに,特に高齢者介護その目指すべきものはなにかということについて,哲学・教育・介護の領域における文献分析を基に考察していく。
著者
唐澤 太輔
出版者
東洋大学国際哲学研究センター(「エコ・フィロソフィ」学際研究イニシアティブ)事務局
雑誌
「エコ・フィロソフィ」研究 = Eco-Philosophy (ISSN:18846904)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.25-38, 2018-03

In this article, surrounding the word “Yariate” coined by Kumagusu Minakata (1867–1941, a naturalist, folklorist, myxomycete researcher) and the concept “Bricolage” advocated by Claude Lévi-Strauss (1908–2009, a cultural anthropologist), I compare and discuss the key concepts of their respective thought. Through this process, I reveal that what are essential in Minakata’s “Yariate” are highly intuitive wisdom beyond analytical and objective knowledge, as well as tact, namely the ability to connect things belonging to different semantic fields each other.“Yariate" is an intellectual Bricolage. It is extremely savage, nevertheless, is as beautiful as a “myth.” Under extremely limited circumstances where there were few books and seldom information arrived from outside world, Minakata’s Bricolage was performed to its full potential. In this article, quoting Minakata’s discourses, I discuss the process he performed tact andconducted “Yariate” in Nachi-san Mountain with his books “in hand” and the knowledge he had accumulated so far.
著者
片山 善博 Yoshihiro Katayama
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of culture in our time
巻号頁・発行日
vol.131, pp.1-16, 2015-03-31

遺族が故人とのつながりを維持することがグリーフケア(特に遺族のケア)にとって重要であるという研究が様々な課題を抱えながらも主流になりつつある.とはいえ,遺族の個人に対する関係は一方的なものである.近年の承認論の研究では,自己と他者との間の承認関係が自己の成り立ちやアイデンティティにとって極めて重要であることが指摘されている.従って,遺族が故人との承認関係を維持するためには,故人が他者の地位にあることが望ましいことになる.遺族ケアの課題として,できるだけ双方向的なつながりを維持できるための故人の他者化が必要である.しかし,故人はいわゆる実在する他者ではない.そこで本論では,どのような他者化が可能なのか,また双方向的なつながりの維持のために何が必要なのかを考察した.精神的な他者化を推進する個別的なケアと同時に,こうした関係を安定的に維持させる社会・文化的な価値の創造が必要であると結論づけた.
著者
深田 三徳
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.2369-2411, 2007-03

本稿は、近年、司法制度改革などとの関連で学問的関心を集めている法の支配について、法哲学の視角から考察しようとするものである。「人の支配」「力の支配」と対比される「法の支配」は多義的であるが、まず英米独仏における近代憲法上の法の支配(ないし法治国家)の歴史的展開について概観している。その後、その影響を受けている日本国憲法上の法の支配とそれをめぐる議論について検討している。そして善き統治・政府のあり方、善き法(システム)のあり方に関係する政治理念(ないし法理念)としての法の支配に照準を合わせ、それを形式的考え方と実質的考え方に区分している。その後で、とくに法の支配の形式的考え方に関連して、L.L.フラー、J.ラズ、R.S.サマーズの見解を比較しながら検討している。
著者
石田 雅樹
出版者
宮城教育大学
雑誌
宮城教育大学紀要 = Bulletin of Miyagi University of Education (ISSN:13461621)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.57-67, 2016-01-29

ウォルター・リップマンの政治思想は、その「世論」民主主義批判の文脈において「エリート主義」「保守主義」と解釈され、ジョン・デューイらリベラリズムの論敵として理解されてきた。しかしながら、リップマンの「政治」と「教育」をめぐる議論を検証すると、そこにはニつの政治教育論が存在し、一方はデューイらと同様に学校教育を通じてアメリカ社会を民主的に変革するものとして、他方はそれとは別の教育論理でアメリカのリベラル・デモクラシーを再構築するものとして描かれていることに気づく。本論はこれまで論じられてこなかったこのリップマンにおける二つの政治教育論を取り上げ、一方の政治教育論が「市民教育」[メディア・リテラシー」「知能テスト批判」をキーワードとして市民の政治知識の向上に寄与するものであり、他方が「コモンローの精神」「公共哲学」「文明的作法」をキーワードとして一般公衆の精神的陶冶を強調するものであることを明らかにした。
著者
梶尾 悠史
出版者
奈良教育大学
雑誌
奈良教育大学紀要. 人文・社会科学 (ISSN:05472393)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.105-115, 2018-11-30

This paper examines the validity of the theory of values clarification (VC) from a philosophical perspective. The first two chapters present some ethical stances of VC such as “emotivism” and “virtue ethics,” and compare this theory with Kohlberg’s cognitive development theory, which accepts “autonomism” as its moral, philosophical standpoint. The next two chapters discuss the inseparable relationship between emotion and reason in moral judgment by considering Hume’s discussion in A Treatise of Human Nature. The last chapter emphasizes the importance of linguistic activities as indispensable elements in the valuing process, and presents a more persuasive model of the theory of VC.