著者
上田 誠二
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.13-27, 2007-03

本稿は、大衆文化の教育化という問題を、昭和戦前期における中山晋平作曲の流行歌=「晋平節」=晋平流の四七抜き五音短音階(ラ・シ・ド・ミ・ファ)の曲を素材に考察した。これまで日本教育史研究で音楽といえば唱歌であり、多くの蓄積がある。唱歌が創出する「日本」や「国家」という風景=学校的知識=学校文化を国民統合の装置として論じてきた従来の研究に対して本稿は、晋平節という大衆文化の教育化過程から、実はそうした学校文化が充分に機能していなかったことを示唆した。音楽の領域では、学校文化は大衆文化の人気に圧倒され、その担い手である音楽教師は機能不全の危機感に苛まれていたのである。そうした状況下に教育化した晋平節は、国策から学校文化の手の届かない部分の国民化を担わされたに過ぎなかった。本来晋平が構想していた、日常に疲れた大衆が晋平節を通し自然に明日への活力を得る、という教育の可能性は、戦前期社会教育の文脈では実現していない。
著者
小澤 薫
雑誌
経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.49, pp.227-239, 2017-10-10

本研究では,生活保護ケースワーカー,査察指導員の業務とそれへの意識から福祉事務所が直面している課題を明らかにすることを目的としている。研究対象は,新潟県内の福祉事務所で,生活保護業務を担当する現業員と査察指導員の全員とし,郵送で調査を行った。「担当ケース数」「所持資格」「経験年数」「訪問計画通りの訪問」「仕事への意識」などの項目から分析を行った。「希望の部署でなかった」「早く異動したい」という現在の職場・仕事に対して否定的な回答が多かった。その背景として,過重な業務量,専門性の欠如,指導支援体制の未確立という点が挙げられた。住民の福祉を守る最前線としての福祉事務所において,生活保護業務の意義を確認し, 1 人ひとりの住民,利用者に向き合う体制,組織として課題に取り組む体制が求められている。あわせて,国の決定だけでなく,自治体として住民の福祉を支えていく体制の在り方を見直していく必要がある。
著者
張 永嬌
出版者
千葉大学大学院人文公共学府
雑誌
千葉大学人文公共学研究論集 = Journal of Studies on Humanities and Public Affairs of Chiba University (ISSN:24332291)
巻号頁・発行日
no.40, pp.49-70, 2020-03-27

[要旨]一九二〇年代に草野心平の活動で、宮澤賢治のテクストが中国の広州に送られたことをはじめとして、第二次世界大戦下、宮澤賢治テクストの中国への紹介は少なくはない。一九二〇年代や戦時下の中国における宮澤賢治の受容と一九八〇年代以降の中国における宮澤賢治受容との差異とその原因を考察することが本論の問題意識となる。このような視座に立つ際に、「中国での宮澤賢治研究・翻訳」という現象そのものを研究対象とする「中国における宮澤賢治受容」について通時的に論じることが重要であると思われる。本論は広州・旧満州・上海における宮澤賢治テクストと関わった媒体を取り上げ、それに伴う「賢治像」を明らかにする上で、一九八〇年代以降に中国で再紹介されている際の「宮澤賢治像」も考察する。その具体的なイメージとして、日本のアンデルセン・教育的な機能・サブカルチャー(宮崎駿)・国民的な作家といったイメージが挙げられる。その上に、宮澤賢治受容が多様化されつつある現在において、従来の「宮澤賢治讃頌論」から脱していないという問題も残っていることを提起する。本論は中国における宮澤賢治の受容の変遷を辿る作業を通じて、全面的な作家像を浮かび上がらせることを試み、中日の文化に関する相互理解を深めるための一つの糸口として位置づけたい。
著者
林 貴啓
出版者
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
雑誌
トランスパーソナル心理学/精神医学 (ISSN:13454501)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.70-76, 2008

本論考は、『物質と記憶』『創造的進化』などで知られるH. ベ ルクソンを「スピリチュアリティの哲学者」として再評価するこ とを目的とする。スピリチュアリティの立場の妨げの一つは、そ の志向が現代社会で支配的な世界観―機械論的世界観、自然科学 的実証主義―と衝突することである。ベルクソンの創造的持続の 哲学は、こうした近代主義的世界観を乗り越える道を今なお示唆 しうる。さらに分析的知性・言語とは別のしかたで創造的なリア リティに触れる「直観」という道を示した認識論は、決して反知 性主義ではなく、既存の知の枠組みを打破し、より高次なリアリ ティを開示するものであり、確かな方法論に裏打ちされている。
著者
Takahashi Ryoko
出版者
金沢大学人間社会研究域人間科学系
雑誌
金沢大学人間科学系研究紀要 (ISSN:18835368)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.30-43, 2017-03-31

障害者政策の進展とともに,政策形成の場への当事者参加が進み,その体制が整えられてきた.本論では,エスピン‐アンデルセンが先進諸国の社会保障の特徴をふまえて提示した福祉レジームの類型に基づいて,社会民主主義レジームに分類されるフィンランド,自由主義レジームに分類されるアメリカ合衆国,保守主義レジームに分類されるとする日本において,障害者政策の歴史,障害のある当事者組織の形成と運動の発展,政府との関係と参画のあり方を比較検討し,障害のある当事者組織の政策形成への参加を促進する背景と条件について考察した結果,障害のある当事者組織が果たす役割と障害種別を越えた国内外のネットワーク化という共通性を確認した.
著者
志賀 文哉
出版者
富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース
雑誌
とやま発達福祉学年報 (ISSN:21850801)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.15-20, 2017-05-31

生活困窮者等に対する就労支援に関し現状と課題を示した。本稿では生活保護とその他施策での就労支援をともに扱い、雇用制度そのものの課題や今後の就労に係る潜在的な課題にも言及した。就労支援は多様化し充実化しているところもあるが、支援そのものや雇用の本質や形態の変化には課題が散在しており、そのような現状に沿う支援の実践が求められる。
著者
土橋 靖子
雑誌
大東書道研究 (ISSN:09183361)
巻号頁・発行日
no.26, pp.22-23, 2019-03-05

万葉集巻6山部赤人の長歌を万葉仮名で原文のまま書いた第一紙と、主に女手で書いた第二紙を二曲屏風仕立てでまとめた作品である。各々根底にある古典、古筆を示し、解説した。
著者
鵜飼 祐江
出版者
国立大学法人 東京医科歯科大学教養部
雑誌
東京医科歯科大学教養部研究紀要 (ISSN:03863492)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.50, pp.67-78, 2020

「近江の君」呼称の初出は、父内大臣の会話文中に見られ、異母姉弘徽殿女御のもとでの宮仕えを機に、女房名のようにして用いられはじめる。「内大臣家のむすめ(姫君)」から女房的な存在へと、彼女の扱いに変化が生じていることを窺わせる。同じく地名に因む呼称に明石の君の「明石」があるが、「明石」は、光源氏の流離と再起の物語を内包する呼称であり、質が異なる。出仕名には、父兄の身分が反映されることが多いが、「近江の君」は父によって、むしろ内大臣家から切り離された存在として呼ばれてゆくものと考えられる。