著者
上村 恵子 小里 明男 志賀 孝広 早川 敬一郎
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

本研究では国内外における人工知能(AI)技術の倫理、法、社会的課題(ELSI)検討団体が報告したガイドラインや提言について、特徴や相違点を整理し、各国および地域の国民性と関連付けて考察した。日・米・欧の各地域で発行されたガイドラインを対象として、頻出する語句や項目に着目して特徴を整理すると、日本のガイドラインでは研究者倫理や技術面の原則が中心であることに比べ、欧州では人の権利や責任に重点を置き、米国では自律型兵器の長期的なリスクにも積極的に言及しているなど、特徴の違いがみられた。これは、各国の宗教観やルール作りに対する考え方などの国民性や価値観の違いから生じるものと推察される。今後、国際的な議論において協調が求められる中で、このような価値観や考え方の違いをふまえ、より深い相互理解が求められると考える。
著者
小山 真人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

1707年富士山宝永噴火の火口は、これまで富士山南東斜面にある火口列(宝永第1〜第3火口)とされ、その脇にある宝永山は宝永噴火中のマグマの突き上げによって古い地層(古富士火山の一部)が隆起したものと解釈されていた(宮地・小山, 2007,「富士火山」;Miyaji et al., 2011, JVGRなど)。しかしながら、最近の台風通過による露頭状況の改善後に現地の地形・地質を見直した結果、従来の考え方と異なる結論に達したので報告する。宝永山付近の地質と赤岩の成因宝永山の山頂近くの赤岩に露出する凝灰角礫岩(ATB)は、1)黄褐色をして変質・固結が進んでいること、2)山体の傾斜とは不調和な南西方向に傾斜し、周囲の地層と不整合関係に見えること、3)宝永山の膨らみが宝永第2火口底を変形させたように見えること、4)周囲には見られない複数の断層が観察されることから、古富士火山時代の古い地層が宝永噴火の際に隆起して地表に露出したものと考えられてきた。しかしながら、地質調査ならびにドローンを用いた近接撮影画像とそれらのSfM(Structure from Motion)解析の結果、ATBは未固結・新鮮な降下スコリア(宝永スコリア:図のHSc)と指交関係にあり、従来考えられていた不整合は見当たらない。また、ATBは、着地時の高温で周囲を焼いた新鮮な火山弾・火山礫を含む。これらの観察事実から、ATBは宝永噴火堆積物の一部と考えられる。黄褐色の変質部分は、おそらく噴火時かその直後の熱水変質によるものであろう。また、第2火口底の「変形」は、HScが風下の東側に厚く堆積したことと、堆積後の斜面移動の影響と考えて矛盾はない。なお、赤岩表面の断層群には南東傾斜と北西傾斜の2系統(走向はともに尾根の伸びに沿う北東―南西)があって共役断層の疑いがあり、隆起の可能性は残される。HScの下位には、細粒基質をもつ凝灰角礫岩(宝永噴火堆積物の一般的特徴であるハンレイ岩礫を多く含む)が宝永山の東側斜面を取り巻くように広く露出しており、第1火口によって形成された火砕丘(HCC)と考えられる。宝永噴火の給源火口と推移 宝永噴火を起こした火口は、従来の考えでは宝永山の南西に隣接して北西―南東方位に並ぶ火口列(宝永第1、第2、第3火口)であり、噴火初期の軽石(宝永軽石)の給源が第2・第3火口、以後のスコリアの給源が主に第1火口と考えられてきた(宮地, 1984, 第四紀研究)。しかしながら、実際には第1〜第3のいずれの火口の周囲にも軽石が見当たらず(第1火口の東側地表に変質した軽石がまれに見つかるが、転石状で層位不明)、宝永軽石の給源火口は不明と言わざるを得ない。 一方、第3火口の東側にU字形をした火砕丘とみられる地形があり(ここでは御殿庭東火砕丘GHCと呼ぶ)、その表面ならびに断面には灰色で雑多な岩質の巨礫を多数含む角礫岩(基質は均質で新鮮な黒色岩片)が露出する。その特徴は、宝永第2・第3火口周囲の火砕丘HCCと類似し、噴火堆積物と考えられる。GHCのU字形の北西延長上には宝永山がある。 以上のことと前節で述べた宝永山付近の観察事実に加え、宝永噴火の古記録と絵図(小山, 2009,古今書院)、宝永軽石と宝永スコリアの等層厚線図(宮地, 1984)、宝永噴火のメカニズムに関する岩石学的解釈(藤井, 2007,「富士火山」;Miyaji et al., 2011)も考慮に入れて、宝永噴火の推移を次のように見直した(1〜5が従来の考え方と大きく異なる)。1.宝永噴火は、現在の宝永山から南東に伸びる割れ目(第1噴火割れ目)の噴火として始まり、最初に宝永軽石を噴出した後、割れ目火口の南東端に火砕丘GHCを形成した。2.宝永軽石(流紋岩質マグマ)の噴火を誘発した玄武岩質マグマが、軽石に引き続いて上昇し、若干南西側にずれた場所に新たに北西―南東方位の割れ目火口(第2噴火割れ目)を開いた。3.第2噴火割れ目上に並んだ宝永第1〜第3火口から爆発的な噴火が起き(火口が開いた順序は、地形から判断して南東→北西)、火口の周囲に火砕丘HCCを形成した。4.宝永スコリアが主として第1火口から噴出し、すでにあった火砕丘(GHCとHCC)の一部を厚くおおった(図のHSc)。この際に赤岩のATBも堆積した。5.主として3〜4の結果として、噴火初期にできた宝永軽石の給源火口が埋没し、宝永山が形成された。なお、宝永軽石の元となった流紋岩質マグマの一部が宝永山を若干隆起させた可能性が残る。6.噴火の最終段階に至り、第1火口底にスパター丘HSpが形成され、最後の爆発でその山頂に小火口が開いた。
著者
大塚雄作 内田良# 尾見康博 金子雅臣#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

企画趣旨 日本教育心理学会でハラスメント防止委員会が発足し,総会時に同委員会の企画する講演会やシンポジウムが開催されるようになって,今年度で9回目を迎える。これまでの企画では,主にハラスメントに対する会員への啓発的な内容が取り上げられてきた。昨年11月の同委員会で本年度の企画について話し合われ,われわれ教育心理学の教育,研究に携わる者として小学校~高校の教育現場でのハラスメントの実際をもっと知る必要があるのではないかという提案があった。たしかに,教育現場でのハラスメントがマスコミで伝えられることが少なくないにも拘わらず,その実態を深く知る機会は少ない。そこで,今回は教育現場でのハラスメントのうち,部活動に焦点を当てて,教育社会学と教育心理学の立場からこの問題を研究されている,それぞれ内田良氏と尾見康博氏の2人の研究者にご登壇いただき,教育現場のハラスメントについて深く知る機会としたい。 なお,指定討論者を本防止委員会専門委員の金子雅臣氏,司会を本企画立案の中心となった大塚雄作前委員長が務める。大塚氏は京都大学アメリカンフットボール部長の経験ももつ。制度設計なき部活動のリスクと未来を考える内田 良 本報告では,「制度設計の不備」の視点から,学校の部活動に付随するリスク(ハラスメントや事故)を検討する。学習指導要領において部活動は,教育課程外ではあるものの「学校教育の一環」として「生徒の自主的,自発的な参加により行われる」というかたちで,学校の教育活動のなかに位置づけられている。この中途半端な位置づけによって,生徒はさまざまなハラスメントや事故のリスクに晒される。危険な場所での活動 部活動の練習はしばしば,廊下や階段を含むさまざまな空きスペースでおこなわれる。教育課程内の授業であれば,学習指導要領に定められた事項が適切に教育されるよう,施設(校舎外のグラウンドを含む)が用意されている。だが部活動においては,「学校教育の一環」であること以上の具体的な設計がなく,リソースも配分されていない。それゆえ一斉に部活動が開始されると,練習場所が不足し,不適当な空きスペースで練習がおこなわれ,事故のリスクが高まる。問われる外部指導者の質 部活動では,人的資源(専門的指導者)も不足している。教員は,部活動指導の専門家ではない。その解決策として,外部指導者の導入が進められている。ところが外部指導者も不足しているため,その質が問われないままに,生徒の指導が任されていく。指導者が外部の者である場合,学校や教育委員会の管理が届きにくく,また暴言・暴行事案を起こしても,介入が難しい。過熱が止まらない 教科というのは年間の標準的な時間数や単位数が決まっており,各クラスで時間割も組まれている。教えるべき内容も定まっている。このように制度設計が整っていると,50分の時間のなかで,授業が楽しくなる方法を教師は考える。他方で部活動では,活動時間をどれくらいに設定するかは,学校現場の自由裁量である。全国大会を頂点とする競争原理のもとに部活動が置かれている限りは,その活動実態はおのずと肥大化し,生徒に過酷な練習を突きつけることになる。 以上の3つのリスクを踏まえるならば,部活動を「自主的な活動」だと美化するわけにはいかない。むしろ,教育行政がそこに積極的に管理・介入することが,部活動のリスクを低減し,その持続可能性を高めていく。『主体的な学び』はハラスメント構造に風穴を開けられるか尾見康博 『ハラスメント』概念の登場によって,それまで後景に退いていたものが可視化され,女性をはじめ社会的弱者の(隠されていた)人権が認められるようになったことはたしかであろう。他方,現役大臣が「セクハラ罪という罪はない」と,セクハラの疑いのある部下をかばう発言をするなど,ハラスメントが軽く扱われることも少なくない。 部活においても,あたかも対応する刑罰がないから問題ないといわんばかりの指導がなされることがある。体罰を行使する指導者は体罰を『指導の一環』だと強弁することが多いし,身体的接触を伴わない怒号や罵声も「厳しい」「熱い」指導としていまだに受け入れられている。さらに深刻なのは,体罰を受けたと自認する者が受けた体罰を積極的にかつ前向きに容認していることであり,「たしかに殴られたが自分は体罰とは思っていない。厳しい指導をして下さって感謝している」といった受け止め方が珍しくないことである。 こうしたことの背景に,部活の集団組織としての特徴があると考えられる。そしてこの特徴は同時にハラスメントの背景にもなっていると考えられる。理不尽なことであっても顧問や先輩が絶対,といった『長幼の序』の過度の運用が部活において慣習化されていることがその一つである。たとえば,中学校に入ったとたん,誕生日が一日違うだけで「さん」とか「先輩」をつけて呼ばなければいけなくなったり敬語の使用が求められたりする。部活の場合にはさらに,後輩は先輩より先に集合しなければならない,などといった独自のルールが作られていることもある。こうした規律が厳しくなればなるほど,後輩は顧問や先輩に言われたことに疑問を感じても,何も言わずに黙って従うことが無難であり「正解」であり,主体的に考えないようになっていく。 逆に言えば,主体的に考えるような子どもたちばかりになれば,部活特有の規律は成立しにくくなる。そうした意味で,昨今の学校教育界隈で推奨されている『主体的な学び』に向けた積極的な取り組みは,部活の文化を変えることになるかもしれないし,逆に,部活が変わらなければ子どもたちに主体的に学ばせる習慣を身につけさせられなかったということになり,教育政策の失敗ということになるかもしれない。参考文献内田 良 (2019). 学校ハラスメント:暴力・セクハラ・部活動―なぜ教育は「行き過ぎる」か 朝日新書内田 良ほか (2018). 調査報告 学校の部活動と働き方改革:教師の意識と実態から考える 岩波ブックレット内田 良 (2017). ブラック部活動―子どもと先生の苦しみに向き合う 東洋館出版社内田 良 (2015). 教育という病―子どもと先生を苦しめる「教育リスク」 光文社新書尾見康博 (2019). 日本の部活(BUKATSU)―文化と心理・行動を読み解く ちとせプレス尾見康博 (2019). 日本の部活の特殊性 心と社会(日本精神衛生会),175,115-119.Omi, Y. (2019). Corporal punishment in extracurricular sports activities (bukatsu) represents an aspect of Japanese culture. In L. Tateo., (ed.) Educational dilemmas: A Cultural psychological perspective. Routledge, pp.139-145.Omi, Y. (2015). The potential of the globalization of education in Japan: The Japanese style of school sports activities (Bukatsu). In G. Marsico, V. Dazzani, M. Ristum, & A.C.S., Bastos (eds.) Educational contexts and borders through a cultural lens: Looking inside, viewing outside. Springer, pp.255-266.
著者
坂田 雄亮 馬場 雪乃 鹿島 久嗣
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

機械学習を行う為には入力となる特徴量が必要であるが、抽象性の高いデータを学習対象とすると機械的な方法では本質的な特徴量を得られない場合がある為、人による特徴抽出を行いたい。人間をアルゴリズムに組み込むには本来であれば多大なコストが必要となるが、クラウドソーシングの発展により安価にかつ大量に人的リソースを得る事が出来る様になったため現実的なコストで人間参加型のアルゴリズムを組む事が出来る。しかし人間の能力には個人差があるため成果物の品質にばらつきが出てしまう。よって頑健化の為に複数のワーカの意見を統合した物を成果とする手法が一般に行われている。本研究では特徴抽出にクラウドソーシングを用いて分類器の生成を行う過程で、分類器の精度向上を目的として複数のワーカの意見を適切に統合する手法を考察する。そのような手法として畳み込みニューラルネットワークを応用してワーカの能力と各ノードの重みを纏めて学習する事でより良く意見統合を行うCrowd Neural Networkを提案する。上記の手法の性能を確認する為に4つの抽象性の高いデータセットを用いて実験を行い、提案手法が既存手法に優る例を示した。
著者
後藤 優介 砂山 渡 畑中 裕司 小郷原 一智
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

深層学習を用いた,対話文の自動生成が行われるようになってきた.対話文の自動生成においては,対話相手との話の繋がりが重要視されるとともに,対話相手のキャラクタ性によって,対話に魅力を感じさせたり,コンピュータの向こう側に人格を感じさせることが重要である.しかしこれまでの研究においては,文章をある地方の方言にや,侍風に変換するなど,変換先の語彙集合が定義しやすいキャラクタ性を対象としてコーパスを作成,特徴を学習し,変換が行われることが多かった.そこで本研究においては,文章に語彙集合の定義が難しいキャラクタ性をもたせる変換を行う.特に本論文においては,「かわいさ」をキャラクタ性としてもたせることを目的とした,任意の文章にかわいさを付与するための方法を検討し,かわいさを付与できる文と付与できない文を評価した.結果,かわいさを感じさせる要素を付与する事はできたが,かわいさは文の内容に大きく依存することがわかった.
著者
松田 法子
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

講演者は都市史・建築史を専門とする。まちの成り立ちやその展開の歴史を、地理的、建築的、社会的、文化的に検討し、わたしたちの居住地や、他の様々な土地が、いったいどのような背景や経緯によって現在に至っているのかを探っている。またそこから、土地と人とが取り結んできた本質的な関係とその意義を考えようとしている。さて、「ブラタモリ」では、番組の冒頭近くで、その土地に対するある「お題」(設問)が示される。それは一見平易な内容で、出演者や視聴者は、その設問に納得したり、そんなことはもうわかっているよ、と思ったり、あるいはまた少々戸惑ったりしながら、番組の道のりを楽しく想像する。しかし問いに的確に答えていくことは、専門家をもってしても実はかなり難しい。それは既に、多岐にわたる学術分野の知見を制作チームが吸収したうえで、かつ誰もがその土地のイメージとして理解できるようなフレーズとする、という絶妙なバランスによって練られたテーマだからだ。その後に続くまち(土地)歩きは、そのお題を軸に組み立てられていく。複数分野の専門家がリレー式にバトンをつなぎながら土地の解読に付き添うスタイルは、土地を見る視点の複数性と幅広さを担保する。そして、歩きながら答えを見つけていくこのやり方は、都市や山岳、巨大土木構築物などスケールの大きな対象や長い時間の流れを、手元や足元といった身体的で小さなスケールから体感的に理解していくという、フィールドサーヴェイの醍醐味も具現化している。そうした一方で、TVプログラムであるという媒体の特性上、問いの答え探しの道のりやそのストーリー立ては、視覚的に認識しやすい資史料や場所がつながれやすいという側面ももっている。歴史分野で言えば、絵図や古文書、古写真、現場の遺構などは大いに力を発揮するが、目で見てわかりにくい事物や、土地の歴史を語る上では重要であるものの、前提として込み入った解説が必要な事項は通過されがちになるだろう。以上について、講演者の知る範囲に限り若干の話題提供を行う予定である。
著者
大道 博文 林 柚季 目良 和也 黒澤 義明 竹澤 寿幸
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

近年,インターネット上でCGアバターを介した他者とのコミュニケーションが普及しつつある.しかしアバターの表情・動作パターンを生成する際,複数の感情が混在する表情やある感情を抑圧しているような表情を表現するための典型的な特徴や統一された指標は無く,モデル作成者の経験や感覚に依るところが大きい.そのため,非熟練者や表情自動合成手法による表情モデルの作成は現状困難である.そこで本研究では,感情の部分的表出(Action Unit(AU))の組み合わせに基づいて複数の表情アニメーション動画を作成し,Shefféの一対比較法を用いて表出したい表情に対する各AUの効果について分析を行う.本研究では“ツンデレ”と呼ばれる「快感情の抑圧表情」を対象として,Ekmanの知見に基づき“中立化”と“隠蔽”の二種類の抑圧表現を用いる.実験の結果,中立化によるツンデレ表現に最も適しているAUの組み合わせは,AU6+12(幸福の目,頬,口の動作)が弱いか無い,かつ赤面が起こっている表情であった.また隠蔽によるツンデレ表現に最も適しているAUの組み合わせは,AU4(怒りの眉)かつ赤面が表出している表情であった.
著者
佐倉 統 福住 伸一 中川 裕志
出版者
人工知能学会
雑誌
2019年度 人工知能学会全国大会(第33回)
巻号頁・発行日
2019-04-08

この論文の目的は,人とAIが一緒に写っている写真を対象にしてそれらの構図を分析すること(図像分析)が,人−AI関係の文化的相違の解明に資すると示すことである.試行的に得られたインターネット上の画像から,日本由来の写真では人とAI/ロボットは横並びに位置してこちらを見ていることが多く,欧米由来の写真では人とロボットがお互いに向き合っている構図が多いことがわかった.共視論研究(北山,2005)によれば,日本の浮世絵の母子像は何か別の物(第三項)を一緒に注視していることが多く,西洋の絵画ではこのような共視は少ないという.このような“共視”は人では生後9か月から見られるようになる.浮世絵の母子関係と同じパターンが人−AI関係にも見られるのだとすると,それはAIやロボットが人間の子供と同じく何物か(第三項)を共同注視することのできる存在,それだけの認知能力をもった存在として日本では無意識に認知していることを示唆する.欧米ではAI/ロボットはもっと人に従属する存在として位置づけられているのではないか.今後より体系的な図像分析をおこない,東アジア内での国際比較(日韓台)をおこなう必要がある.
著者
宮下 由香里 吾妻 崇 小峰 佑介 亀高 正男 岸山 碧
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

日奈久断層帯は,2016年熊本地震の発生を受け,地震活動が活発化するエリアに属することが指摘されている.しかし,日奈久断層帯の古地震履歴は不明な点が多い.産総研は,熊本地震以降,3年間にわたって日奈久断層帯の陸域及び海域において古地震調査を実施してきた.その結果,日奈久断層帯はこれまでに考えられてきたよりも,高頻度で地震を起こしてきたことが明らかとなりつつある.プロジェクト最終年度にあたる今年度は,八代市でトレンチ調査を行った.速報的な結果と過去2年間の調査結果,今後の課題を紹介する.トレンチ調査は,八代市川田町西地点で行った.トレンチは昨年度同地点で掘削したトレンチ南側に隣接する場所で掘削した.トレンチ掘削に先立ち,7孔のボーリングを掘削して,堆積物の層相と分布を把握し,断層通過位置を推定した.トレンチは2段階に分けて掘削した.1個目のトレンチでは,西側導入路部分に断層が露出したため,断層がトレンチ壁面の中央にくるように2個目のトレンチを掘削した.2個目のトレンチは,長さ17m,幅10m,深さ6m程度で,2段堀とした.トレンチ壁面の地層は,南北両壁面において,上位より,A:人工改変土,B:河川成のシルト,砂,C:チャネルを充填するシルト,砂,砂礫,D:河川成のシルト,砂,砂礫の各層に大別される.B層は古代の土師器を含む.D層は上部の縄文後期の土器を含むシルト・砂,中部の腐植質シルト,下部のK-Ah火山灰層を含むシルト/砂互層,最下部の砂礫層から構成される.断層は,南北両壁面で観察され,北東—南西走向,高角西傾斜の見かけ正断層である.D層以下を変位・変形させる.北壁面では,断層はD層中で上方に向かって分岐する.C層に削り込まれるが,C層最下底は変形に伴う開口亀裂を充填しているようにも見える.以上より,D層/C層境界付近にイベント層準を認定した.D層を構成する地層中では,断層両側での変位量の差違,引きずり変形の程度の違い,断層低下側での層厚の変化などが認められ,D層中に1回の古地震イベントがある可能性がある.南壁面では,平行な2条の断層面が認められる.いずれもD層上部で不明瞭となるが,B層には確実に覆われる.予察的な年代測定の結果,C層から1130±30 yBP,D層から6240±30 yBPが得られている.以上より,1130±30 yBPと6240±30 yBP間に,2回以上の古地震イベントが推定される.
著者
今津 勝紀 中塚 武
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

年輪酸素同位体比の解析により、年単位の高解像度の気候復原が実現し、過去数千年にわたる気候変動が明らかになった。年輪を構成するセルロースの酸素同位体比はその年の夏期の乾燥と湿潤を反映する。文字資料のない先史時代などの分析では、気候の数十年から数百年の中期的・長期的変動が有効であるが、文字を本格的に利用する国家成立以降の段階では、年単位のイベントと気象のあり方を照合することが可能となったのである。人間の生活が、自然との応答の中にあることは間違いないが、これまでの歴史学においては、過去の人間の生活と自然との応答を客観的に把握する方法が十分ではなかった。高解像度の古気候復原は、歴史学に新たな「ものさし」をもたらしたのである。本研究では、日本の古代、とりわけ8世紀と9世紀を取りあげ、当該期の気候と社会との応答関係を明らかにする。中塚武による当該期の年単位気候復原により、8世紀は総体として乾燥気味ではあったが安定的であり、9世紀後半に不安定化して湿潤化し、10世紀に一転して乾燥が進行することが明らかとなった。当該期の歴史を記した文献資料『続日本紀』・『日本後紀』・『続日本後紀』・『日本文徳天皇実録』・『日本三代実録』にも気象に関する記事が含まれるが、それは簡略なものであり、実際にどれだけの旱や旱魃、霖雨や大雨であったのかはわからなかった。ようやく、高解像度の気候復原により、夏期の極端な乾燥や湿潤がどのような規模で、どのような被害をもたらしたのかを史料に即して理解することができるようになった。また、中長期的な気候の変動が把握できるようになることで、気候変動と国家や社会の変容との関連について見通しをえることも可能になった。とりわけ、本研究で注目したいのは、古代の人口変動と社会システムの変容についてである。8世紀初頭の大宝律令の施行により、中国に範を求めた律令国家が完成するが、律令国家の諸制度は、日本という枠組みの起源となり、その後の日本の歴史を根底において規定する重要な意味をもった。律令国家の支配人口は、8世紀初頭で450万人程度、9世紀初頭で550万人程度と見込まれており、8世紀から9世紀の年平均人口増加率は0.2%となる。江戸時代の初頭、17世紀の人口は1200万人~1800万人と推定されており、古代から近世にかけて人口は微増するのだが、中世から近世に至る800年間の年平均人口増加率はせいぜい0.1%から0.15%である。日本古代は飢饉や疫病が頻発し脆弱で流動性の高い社会であったが、中世に比して高率の人口増加が実現した。その背景には、人と田を中央集権的に管理する律令制による再生産システムが機能していたことが想定できるとともに、8世紀の比較的安定的な気候が作用していたことが考えられる。また、唐や新羅といった日本の周辺諸国の変動にともない、日本の律令制もなし崩し的に崩壊する。律令国家は、9世紀の後半から10世紀後半にかけて大きく変容するのだが、こうした社会システムの変容には、当時の世界情勢の変化とともに気候の変動が作用した。9世紀の後半には、耕作できない土地の増加や水損被害の田が問題化するが、その現実的な背景として、湿潤化という気候の変動があったことは間違いない。律令国家は、人と田を把握し管理することを放棄するようになるのであり、律令制再生産システムは崩壊していった。この時期は日本列島で地震が頻発し、火山の噴火もみられ、飢饉に疫病が集中する時期でもある。いわば、9世紀後半は日本古代社会の全般的危機の時代であった。8世紀の初頭に完成した律令国家の中央集権的構造は、9世紀の後半以降、崩壊しはじめ、中央政府は都市平安京の王朝政府へと縮小するのであった。