著者
鈴木 石根
出版者
筑波大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

藻類は、効率的にバイオマスを生産でき、かつ食糧生産と競合しないバイオマス源として近年注目を集めている。しかしながら、藻類は細胞内にオイル成分を蓄積するため、培地から希薄な細胞を濃縮・回収し、抽出を行う必要がある。また、細胞の培養には窒素・リン酸・金属イオンなどの培養液成分が必要である。本研究は、藻類による有用物質の大量生産の問題点を解決するため、ラン藻細胞に導入した複数の代謝系をファージに倣って時系列的に誘導制御することにより、有用バイオマスであるアルカン/アルケンの高生産系を構築、藻類ファージのように細胞内の高分子を分解し、最終的に可溶化させることで、培地中に生産したオイル類やアミノ酸・ヌクレオチド類を放出させることで、オイル成分の回収を容易にするとともに、培地を再利用する方策を開発することを目的とする。ラン藻細胞の代謝改変のシグナルとして、植物ホルモンのエチレンとエチレンのセンサーをラン藻の内在性のヒスチジンキナーゼと連結して、エチレンセンサーとして働くキメラセンサーの作製を試みた。ラン藻細胞内でのキメラセンサーのア構築はこれまでに複数の成功例があり、機能未同定のHik2の機能解析については今年度公表した1)。シロイヌナズナの5種のエチレンセンサーから、キメラ型のヒスチジンキナーゼを作製し、ラン藻内で発現させた結果、3種は常に活性型で2種は常に不活性型であったが、いずれもエチレンの刺激に応答しなかった。植物のエチレンセンサーは、3回の膜貫通ヘリックスとGAFドメインをシグナルインプットドメインに持ち、膜貫通ドメインにエチレンの結合部位が存在する。5つのセンサーは互いに相同性が高く、アミノ酸配列の比較だけからは、活性の有無を評価できなかったため、様々なドメイン交換体を作製した。その結果、活性型の膜貫通ドメインを有することが、活性の発現に必須であることがわかった。
著者
谷岡 能史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

1 はじめに<br>「御用部屋日記」(以下「日記」とする.)は,兵庫県豊岡市にあった出石藩の公式記録である.日記のうち1815年(文化12)~1869年(明治2)の664冊は現存し,豊岡市立図書館のホームページで閲覧できる.今回の発表はここから天候記録を抽出した結果である.<br><br>2 集計方法<br> 今回の発表では,日記において各日の記載の冒頭にある天候に関する記載を集計した.<br>「雨」「小雨」「大雪」などが記され,降水があったと考えられる日の数を降水日数,そうでない日(天候に関する記載がない日を除く.)の数を無降水日数として集計した.<br>また,降水日数のうち,「雪」「小雪」などの記載がある日の数を雪日数,「雨」を雨日数,雨と雪の両方が記載されている日をみぞれ日数とした.「霰」(あられ)と判読できた日もあり,便宜上「みぞれ」として集計したが,「霧」と見分けがつきにくかった.<br><br>3 集計結果<br> 1815~1869年について集計したところ,降水日数は2774,無降水日数は5543,判読不能の日数が39であった.図1はこれを月ごとに示したもので,12~2月に降水日数が多く,5月と8月は少なかった.<br> 時系列でみると,天候記録は1810年代後半と1850年代に多く,1820年代後半と1860年代は少なかった. <br> 冬(前年12月~2月)について,図2に示した中で降雪率が最も高かったのは1845/46年で,1月26日(和暦では弘化2年12月29日)には積雪が5尺に達したという.また,積雪7尺の記載がある1849/50年冬も降雪率が高かった.<br> 7月の降水率について,図3に示した中では1823年・1853年・1861年が0.10を下回った.このうち,1823年は「因府年表」(鳥取)等にも干ばつが記載されていた.逆に,1840年は日記において降水率が0.44と高かったが,「因府年表」には干ばつの記載もあった。しかし,日記で降水率が高いのは7月前半であり,「因府年表」においても7月13日(和暦6月15日)までは雨が多かったと記され,両者はこの点で整合的であった.<br> また,1850年10月8日(嘉永3年9月3日)には北東風を伴った水害の様子が書かれ,他地域との比較による台風進路の推定にも役立つと期待される.
著者
中村 和子 相原 道子 三谷 直子 田中 良知 池澤 善郎
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.115, no.12, pp.1779-1790, 2005-11-20 (Released:2014-12-10)
被引用文献数
4

本邦でDrug-induced hypersensitivity syndrome(DIHS)として報告された症例94例(8カ月~89歳,平均48.2歳,男性50例,女性44例)について臨床的特徴およびウイルスの再活性化について検討した.94例中,DIHS診断基準(案)による典型DIHSが34例,非典型DIHSが50例,HHV-6の再活性化はみられたが,診断基準の1から5のいずれか一つを満たさない症例が10例であった.原因薬剤では抗痙攣薬が62例(63.2%)を占め,なかでもカルバマゼピンが40例と最も多かった.その他塩酸メキシレチン,アロプリノール,DDSなどが多かったが,これまで原因薬剤として注目されていない抗菌薬やシアナマイドなどによるものが10例みられた.投薬から発症までの期間は平均34.5日であり,2カ月を超えるものが8例みられた.皮疹は紅斑丘疹型と紅皮症型が多くを占めた.顔面の腫脹や膿疱,水疱を伴う症例がみられた.経過中の症状再燃は43.3%にみられた.検査異常の出現率は肝障害96.8%,白血球増多86.7%,好酸球増多69.7%,異型リンパ球出現78.9%であった.腎障害5例,呼吸器障害,心筋障害がそれぞれ2例みられた.Human herpesvirus 6(HHV-6)の再活性化は94例中77例でみられ,投薬期間が長い症例でHHV-6の再活性化の頻度が高かった.HHV-7は19例中10例で,Cytomegalovirusは15例中8例で,Epstein-Barr virusは7例中1例で再活性を認め,多くはHHV-6の再活性化を伴っていた.死亡例は4例で,全例HHV-6の再活性化を認め,心筋炎や多臓器障害,敗血症などで死亡した.HHV-6の再活性化と臨床像の関係については,活性化の証明された症例とされなかった症例の間に,発症までの投薬期間を除き有意な差はみられなかった.
著者
鯨岡 栄一郎
出版者
医学書院
雑誌
理学療法ジャーナル (ISSN:09150552)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.305-311, 2014-04-15

はじめに 近年,リハビリテーション領域におけるコーチングやコミュニケーションに対する関心の高まりを感じる.理学療法を進めていくうえで,治療技術以外の要素の必要性をどこかに感じている現れかもしれない.とはいえ,リハビリテーションのみならず,医療において最も課題となる患者の動機づけ(=モチベーション)そのものの実際に関しては,まだまだ乏しいのではないだろうか? 今日,パソコンやスマートフォンに代表されるウェブ環境が整い,医学的知識は無料でいくらでも集めることができるようになった.これからの時代に着目すべきは,むしろ情報量ではなく,「知っていること」と「実際の行動」の溝である.多くの場合,人は自分が何をすべきなのかはすでにわかっている.しかし,それを実行し続けられるかどうかはまた別の問題である.人はそのくらい,自分1人だけでは,自らの行動を変え,習慣化させるということが難しい生き物であると言える.そのギャップを埋めるのが,これからのわれわれ療法士に求められる役割と言えよう. そこで今回,私からはあくまで現場実践のコーチング的視点から,臨床において患者を動機づけするための具体的なスキルと考え方について紹介したい.
著者
北澄 忠雄 貞包 典子 嶋田 和幸 小沢 利男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-12, 1985
被引用文献数
1

自律神経機能検査ならびに血漿ノルエピネフリン (以下PNE), リンパ球β受容体の測定を行ない, 交感神経と副交感神経による循環調節機能に及ぼす加齢と高血圧の影響を検討した. 対象は正常血圧者 (140/80mmHg以下) 54名 (14~77歳) と本態性高血圧 (160/95mmHg以上) 36名 (40~78歳) である. 方法は Valsalva 試験, 70度起立試験, 寒冷昇圧試験, アトロピン (0.02mg/kg) 静注負荷試験を行ない, PNEと血漿レニン活性 (PRA) を測定した. 自律神経機能の評価は Valsalva 試験は第II相および第IV相における収縮期血圧に対する心拍数の回帰係数 (Baroreflex Sensitivity Index, BRSI), 起立試験は起立時心拍数, 血圧, PNEとPRAの変化, 寒冷昇圧試験とアトロピン負荷試験は心拍数と血圧の変化を観察した. β受容体はリンパ球を分離し<sup>125</sup>Iodocyanopindolol と結合させ結合容量と結合親和性を測定した.<br>結果: 1) Valsalva 試験での第II相及び第IV相のBRSIは加齢と共に低下し (p<0.01), 高血圧群 (H群) は正常血圧群 (N群) に比べ第II相で有意に低下した (p<0.05). 2) 起立時の血圧低下度は加齢の影響が少ないが, 心拍数増加度 (ΔHR) は若年群に比し中老年群で有意に低かった. 安静時PNEは加齢に伴ない上昇した (r=0.315, p<0.05). ΔHRとPNEの増加度 (ΔPNE) との間に有意の相関があり, ΔHR/ΔPNEの値は加齢に伴って低下した (r=0.498, p<0.01). H群でも同様の傾向がみられた. (p<0.05). PRAの起立時の変化は加齢と共に低下した (p<0.001) がH群では有意でなかった. 3) 寒冷昇圧試験における心拍数増加は加齢により抑制された. 4) アトロピン負荷試験では加齢に伴ない心拍数の増加が低下した. 5) リンパ球β受容体結合容量と結合親和性は共に加齢の影響がなかった. 以上加齢と高血圧の影響で交感神経と副交感神経による循環調節機能の低下が認められ, 特に心拍数に関係した副交感神経機能の障害が顕著であった. β受容体結合能の成績から受容体以後の障害や心血管系の構築変化による機能不全も大きい役割を担っているものと考えられる.
著者
畠山 輝雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.476-488, 2016 (Released:2017-03-29)
参考文献数
22
被引用文献数
2

本稿は,徳島県三好市三野地区太刀野山地域を事例に,過疎地域における集落維持を目的とした廃校利活用事業の可能性と,同事業が地域住民へ及ぼす影響について明らかにした.太刀野山地域の廃校利活用事業は,域外からの社会的企業が三好市の休廃校等利活用事業を活用し,介護保険事業の地域密着型通所介護や地域支援事業(介護予防)を核としたコミュニティビジネスを実施している.同事業の結果,利用者の活動増加や健康増進がはかれただけでなく,太刀野山地域の住民の集落維持意識が向上した.このように,同事業は公民連携の「新しい公共」による地域づくりとしての事例だけでなく,近年過疎地域の地域づくりのあり方として議論されている「ネオ内発的発展論」の事例として,研究蓄積に寄与できると考える.
著者
藤原 芳朗
出版者
川崎医療短期大学
雑誌
川崎医療短期大学紀要 (ISSN:02873028)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.27-32, 2012

現代社会は,可能な限り死を遠ざけ,疎んじ,関わりを少なくしていこうとする風潮が蔓延している.しかし,死は自身が体験できない以上近親者の死等からしか,その意味や大切さは学ぶことができない.私たちは死を意識することで翻って今の生を見つめ,残された生の時間をよく生きていこうと気づくのであるが,死を直視しないことでこのことから疎外されている.いまこそ,死の尊厳性に気づき,死から目を逸らさず生命の有限性を自覚し,死を意識しながら今を生きる意味を感じ取ることができる方法を考えねばならない.
著者
山本 貴恵
出版者
研究と資料の会
雑誌
研究と資料 (ISSN:03898121)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.39-42, 2013

正誤表(1p)あり
著者
吉田 昌志
出版者
昭和女子大学近代文化研究所
雑誌
学苑 = Gakuen (ISSN:13480103)
巻号頁・発行日
no.917, pp.1-23, 2017-03-01
著者
Ohmori Hajime Kume Toshiro Sasaki Kazushige OHYAMA BYUN Keigo TAKAHASHI Hideyuki KUBOTA Tatsumasa
出版者
Japan Society of Exercise and Sports Physiology
雑誌
Advances in exercise and sports physiology (ISSN:13403141)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.1-5, 2010-10
被引用文献数
1

The purpose of this study was to investigate the effects of low-frequency isometric training (1 day of training every 2 weeks) on muscle strength, which had been thought to have no effect. Fourteen male university students who had not experienced hard strength training were randomly assigned to train either 1 day per 2 weeks (2T group, n=7) or 1 day per 3 weeks (3T group, n=7). The 2T and 3T groups trained the knee extensors of the right leg by producing 3 sets of 5 seconds maximal isometric contraction per day for 8 weeks and 12 weeks, respectively. After 8 weeks of training, in the 2T group, maximal isometric torque in the trained leg significantly increased 15.0% (208.3±18.4Nm to 237.4±19.5Nm); iEMG of the m. rectus femoris significantly increased 30.7%; and the iEMG of the m. vastus lateralis increased 43.6% without any significant difference. On the other hand, there was no change in the cross-sectional area of the m. quadriceps femoris. The same measures in the untrained leg of the 2T group and in both legs of the 3T group were not changed after training. These results suggest that 1) low-frequency isometric training 1 day per 2 weeks increases muscle strength in untrained subjects and 2) the improvement in strength is mainly accounted for by neural factors.
著者
矢嶋 直規
出版者
国際基督教大学キリスト教と文化研究所
雑誌
人文科学研究 : キリスト教と文化 : Christianity and culture (ISSN:00733938)
巻号頁・発行日
no.46, pp.281-301, 2015-03

スピノザは彼以降の西洋近代哲学の展開に大きな影響を与えた哲学者である。ヒュームの哲学もまたスピノザの影響を受けて成立した体系の一つである。スピノザとヒュームに共通する最大の主題は「自然」である。両者は、倫理を自然によって基礎づけることを哲学の根本的な目的としていた。ヒュームにとってhuman nature とはいわゆる人間本性ではなく、人間に固有の知覚の連合とそれに基づいて成立する現象の総体としての自然を意味する。ヒュームもスピノザも因果の本質が必然性にあると見なしている。ただしスピノザの必然性が理性により認識されるのに対し、ヒュームの必然性は感覚によって感じられるという違いがある。ヒュームとスピノザの体系の共通点と相違点を理解する上でスピノザの「一般的概念(notiones universales)」とヒュームの「一般観念(general ideas)」の関係を考察することが重要である。スピノザは「一般的概念」を第一種認識に属する想像力の働きに基づく人間の誤謬の源泉として批判している。それに対してヒュームはロックの「抽象観念(abstract ideas)」を批判しながら、一般観念に独自の理解を付与している。とりわけヒュームはロックによる抽象観念を、人間精神の有限性を根拠として批判しており、この点でヒュームとスピノザは共通の認識に基づいている。スピノザは一般的概念を理性による「共通概念(notiones communes)」によって克服し、十全な認識としての第二種認識へと移行する。それに対してヒュームは一般観念に止まりつつ、一般性の拡大によってより妥当な認識が成立していくという観念の自然な発展の理論を提示する。ヒュームの一般観念は習慣から社会的な慣習へと発展することで単に個人的な主観的認識に止まるものではなくなる。スピノザもヒュームもそれぞれの哲学によって他者と協働して幸福を達成する筋道を示そうとする。ただし、スピノザが哲学的認識による理性的主体自身の救いを目的とするのに対してヒュームは一般的認識の成立に基づく共同体全体の安定を目的としている。安定した共同体は富と学芸を生み出し、人間性そのものを発展させる。スピノザとは対照的にヒュームにおいて個人の救いは、個人の理性による哲学的認識にではなく共同体全体の力に委ねられるのである。
著者
加賀爪 優
出版者
北海道農業経済学会
雑誌
北海道農業経済研究 (ISSN:09189742)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.1-17, 2009-02-27

Historically, Australia had been substantially supported by the British Commonwealth's preferential treaties. However, after the UK joined the EC, the Australian economy stagnated for a long period. This situation was remedied by import demand expansion due to Japan's rapid industrialization in the 1970s. After a long term recession, Australia has been enjoying an economic boom since the Sydney Olympics in 2000, recently even more so due to the booming import demand from China. Australia has shown an exceptional pattern against the law of Colin Clark, i.e. the service sector has expanded greatly without the maturing process of the manufacturing sector from the early stage dominance of the primary sector. Australian agricultural policy has been based on intervention for market stabilization but not support. Marketing boards have played substantial roles for these agricultural measures. As for agricultural free trade negotiations, Australia has shown strong leadership in promoting global liberalization under the GATT Uruguay round with the USA by forming the Cairns group. However, WTO negotiations have not been agreed upon since 1999, and instead, FTAs have sharply increased. Under these circumstances, Australia has gradually changed its stance towards regional liberalization by FTAs from global liberalization by the WTO. Among current FTA negotiations in Australia, an FTA with China is the most significant. Australia has been indecisive and left behind by the world movement on FTAs, GMO and Bio fuel projects. These situations are partially caused by unfriendly relations between the federal government and the state governments, and also friction among the state governments. As for future prospects, important factors are the possibility of renewal of the single desk function of AWB, impacts of the climate situation such as droughts and floods, and environmental resource issues such as soil erosion, salinity and water degradation, etc. Also, policy attitudes on FTA, Bio fuel project, GMO and APEC have substantial implications.