著者
大賀 哲 佐古田 彰 大井 由紀 中藤 哲也 上田 純子 松井 仁 清野 聡子 内田 交謹
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-07-19

研究期間の2年目にあたる今年度は、所定の役割分担に基づいて研究代表者・分担者・連携研究者間で相互調整および個別の研究を進めた。全体を制度分析・人権規範・経営規範・環境規範・データ分析の5グループに分け、大賀が制度分析、松井・大井・吾郷が人権規範、内田・上田が経営規範、佐古田・清野・渡邉が環境規範、中藤がデータ分析を担当した。研究メンバー間での勉強会を5回(6月・9月・12月・2月・3月)、外部の研究者を招聘しての公開研究会を2回(10月・2月)行った。勉強会では大賀・内田・佐古田・渡邉・松井・上田・中藤がそれぞれ研究報告を行った。公開研究会では石井梨紗子准教授(神奈川大学)、畠田公明教授(福岡大学)を招聘し、また連携研究者の吾郷も研究報告を行った。勉強会、公開研究会では、研究分担者・連携研究者とともに報告内容を討議した。「企業の社会的責任」・国連グローバル・コンパクトの研究動向への理解を深める上で非常に有意義な機会となった。来年度以降は個別の研究を進めるとともに、研究成果の発信と各グループの研究成果の比較を行っていく予定である。
著者
板谷 晋嗣 清野 聡子 和田 年史 秀野 真理
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1817, (Released:2019-11-08)
参考文献数
21

福岡県津屋崎入江において、カブトガニを対象に航空写真の判読によって、戦後から現在に至るまでの生息地の変遷をたどり、住民からの聞き取り調査結果と繁殖ペアのモニタリング調査結果と照合しながら、カブトガニの減少要因の解明を行った。聞き取り調査では、津屋崎沿岸域には戦後から 1980年代にかけて多くのカブトガニが生息していたが、その数は徐々に減少し 2000年代初めには、ほとんど見られなくなった状況が把握できた。繁殖ペア数は 2005年以降、毎年減少した。この繁殖ペア数の減少は、入江湾口部の累積的改変に伴う産卵基盤の砂州の劣化が一因を担っている可能性が示唆された。本研究の歴史生態学的なアプローチは、カブトガニなどの沿岸域を生息場所とする希少種の保全において、個体数減少と沿岸開発との因果関係をひも解く際の初期解析方法として有効であると考えられる。
著者
桑江 朝比呂 三戸 勇吾 有川 太郎 石川 洋一 木所 英昭 澁谷 容子 志村 智也 清野 聡子 羽角 華奈子 茂木 博匡 山北 剛久 李 漢洙 金 洙列 久保田 真一 倉原 義之介 辻尾 大樹 二宮 順一 伴野 雅之 古市 尚基 安田 誠宏 森 信人 武若 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.1-17, 2021 (Released:2021-02-20)
参考文献数
67

今後の我が国の沿岸分野における気候変動対応で取り組むべき課題について,どのような内容に研究者が関心を抱いているのか検討された例はない.そこで,気候変動に関連する様々な学会に対してアンケートを実施した.その結果,「気温・海水温」,「生物多様性の減少」,「海面上昇」,「極端気象・気候」,「温室効果ガス」,「生態系サービスの劣化」,「台風・低気圧」,「水産物の減少」,「国土減少・海岸侵食」,そして,「漁業管理」が優先すべき課題の上位10キーワードとして選択された.すなわち,自然現象や人間活動への影響に関する課題解決の優先度が高く,緩和・適応策の優先度は低かった.これらのキーワードの選択理由について考察するとともに,我が国における現状と今後の課題や展望について,キーワードごとにとりまとめた.
著者
西山 浩司 清野 聡子 石原 大樹 森山 聡之
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F6(安全問題)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.I_191-I_198, 2016
被引用文献数
1

2015年9月1日午前3時台,対馬海域で発生した突風の影響で漁船が転覆する死亡事故が起こった.しかし,夜間は目視ができず,突風の予測も難しい現状にある.そこで本研究では,対馬事例を含めて,2007~13年に前線活動に伴って陸上で確認された,西日本・東日本の突風事例(54事例)を対象に,気象レーダーの分析に基づいて,突風を取り巻く降水域の特徴を調べた.その結果,突風発生時間の緯度経度0.2度幅の狭い範囲で,80%以上の事例で強い降水強度の領域(80mm/h以上)を捉えた.また,緯度経度1度幅の範囲に拡大すると,発生1時間前に70%程度の事例で強い降水強度を捉えた.従って,前線活動に起因する突風の場合,発生1時間前までであれば,気象レーダーで強い降水強度の領域の接近を監視することで,夜間の突風被害から身を守ることが可能と考えられる.
著者
櫻田 歩夢 西山 浩司 清野 聡子
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.137-155, 2020 (Released:2021-02-24)
参考文献数
30

本研究では,平成29年 7 月九州北部豪雨の被害を受けた福岡県東峰村とその隣接地域に立地 する水神を対象に,その立地特性を把握し,現地住民に対するヒアリング調査,災害に関する歴史文献調査を通して,水神と災害との関連性を調査した。その結果,約8割の水神が,土石流を含む渓流の氾濫が起こりやすい場所に立地していることがわかった。また,ヒアリングから得られた4つの水神は災害,または,農業に関連して祀られており,桑鶴地区と葛生地区の水神は,台山の土石流と大肥川の氾濫から地域を守るために祀られていることがわかった。急峻な谷筋を持つ台山では,歴史的に何度も土石流災害が発生してきたと推定できるため,災害の危険性を訴える大切なメッセージが,大蛇の言い伝えとなって桑鶴地区に伝わったと考えられる。以上の結果から桑鶴地区の水神が持つ防災上のメッセージの内容について考察すると,大蛇の言い伝えを介して語り継がれた,繰り返し起こる台山の土石流災害の特徴を水神のメッセージに含ませることによって,水神が台山に繋がる地域の災害の危険性を意識付ける役割と その危険性を後世に伝える役割を持つようになり,地域の防災モニュメントとして水神を活用することができるようになると期待される。
著者
酒井 和也 宇多 高明 足利 由紀子 清野 聡子 山本 真哉 三原 博起 沖 靖弘
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B3(海洋開発)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.I_1075-I_1080, 2011

大分県中津干潟の三百間地区の砂州においては、隣接する蛎瀬川の河口閉塞が著しいことから、対策として河口前面の堆積土砂を除去する一方、その砂を三百間砂州の西部へ運んで養浜するというサンドリサイクルの計画が立てられた。養浜砂は、三百間砂州の頂部から3600m<sup>3</sup>浚渫され、西端の斜路前に投入された。その際、投入砂が先端部へと急速に戻るのを防止するために、砂州の中央部に袋詰め石製の長さ24mの突堤が設置された。本研究では、この間、2007年から2010年までに4回の空中写真撮影と縦断形測量を行って海浜状況の変化を調べ、サンドリサイクルの効果と沿岸漂砂の制御を目的とした袋詰め石突堤の効果を調べた。この結果、袋詰め石突堤は延長が短く天端高も低いことから、既存の突堤と比較して、緩やかな汀線変化をおこすことがわかった。
著者
清野 聡子
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
環境システム研究論文集 (ISSN:13459597)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.37-46, 2006-10-10 (Released:2010-06-04)
参考文献数
9

沖縄本島の泡瀬干潟には, 人工島建設の開発計画があり, 地域振興と生態系保全の両立が焦眉となっている. 地域史のシンボル「塩田」に着目し, 郷土史, ヒアリング, 写真記録をもとに地域住民の自然観と地域開発の要望の根源を解析した. 住民は, 入浜式塩田での製塩経験から, 塩の品質管理のため水質や塩田基盤の底質環境に対する関心が歴史的に高かった. 地域開発では, その地の自然特性と住民の自然認識の関係性や歴史性により注目すべきである.
著者
日野 明日香 清野 聡子 釘宮 浩三
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
環境システム研究論文集 (ISSN:13459597)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.29-36, 2006-10-10 (Released:2010-06-04)
参考文献数
15

現在, 沿岸域には多種多様なニーズが寄せられ, その利用は多元化している. 沿岸域の自然環境は, 微妙なバランスのもとに成立しているため, 持続可能な利活用を実現するためには, 管理や環境への配慮を個別活動ごとに行うだけでは不十分であり, 複数の問題へ配慮した統合的沿岸域管理 (ICM) を実現することが必要である. 大分県杵築市では, 守江湾に生息するカブトガニの保護に特化した活動から, ICMを目指した守江湾会議の設立へと地域の取り組みを展開させることに成功した. このような杵築市の経験は, 沿岸域管理の実現を考えている他の地域にとって, 参考になると考えられる. そこで, 本論文では, カブトガニ保護から守江湾会議設立までの経緯を整理し, その過程で重要な役割を果たした要因を分析した.
著者
清野 聡子 宇多 高明
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.117-124, 2002
被引用文献数
2

現在,「環境修復」や「環境復元」が注目され,沿岸域についても人工干潟や藻場の造成なども行われている.本研究では,大分県の守江湾を対象として絶滅危惧生物カブトガニ(Tachypleus tridentatus)の生息と守江湾の環境変遷の関係について考察し,生息場の修復のためのミティゲーションについて述べた.干潟の環境調査では,一般に干潟が空間的に広くしかも干潮時にのみ出現するために網羅的調査には限界がある.このことから,空中写真を利用した効果的な環境調査法を開発した.空中写真により干潟の微地形分類を精度よく行うことができた.また洪水が干潟に及ぼすインパクトを調べるために,洪水前後に詳細測量を行って干潟の地形変化量を把握し,それと生物の生息条件の関係について調べた.守江湾への流入河川である八坂川では,2000年に河口から2~4km区間に残されていた感潮域蛇行部の捷水路事業が行われたが,河川改修による下流への影響として洪水時の流速の増大が見込まれ,それに起因して河口部のカブトガニ産卵地砂州の流出可能性が指摘された.そこで産卵地の代替適地を選定し養浜を行った.環境対策のために,他の流域や沿岸からの土砂の使用を極力避けるという思想のもと,養浜材料には近傍の河道掘削土砂を活用した.
著者
清野 聡子 宇多 高明 前田 耕作 綿末 しのぶ
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
海洋開発論文集 (ISSN:09127348)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.431-436, 2002 (Released:2011-06-27)
参考文献数
7

Field observation of spawning ground of horseshoe crab Tachypleus tridentatus was carried out in August 2000 at a river mouth in Seikai-cho in Nagasaki Prefecture. Many eggs spawned under thegroundof river mouth bars were found. Morphological features of spawning ground including surrounding vegetations were investigated and compared with the results of the former studies. Results were well explained by the features summarized in the former studies. A note on conservation of rare species was discussed.
著者
清野 聡子 足利 由紀子 山下 博由 土屋 康文 花輪 伸一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
海岸工学論文集 (ISSN:09167897)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.1136-1140, 2002-10-10 (Released:2010-03-17)
参考文献数
10

生物相や環境変遷の自然史文献がない海域では, 環境の基礎情報が決定的に不足しており, 管理や保全の計画の立案のための基礎情報がない. 瀬戸内海西部周防灘は豊かな生態系に恵まれているが自然史情報が欠落している. 大分県中津干潟では市民が中心となり研究者が支援する環境調査活動が行われている. その結果にもとづき, 無堤地区の海岸環境保全策の提言が行われた. 港湾開発時の環境アセスメント結果は広く公開されなかったため, 干潟の広域的な情報が含まれていたが活用され得なかった. 地域住民の主体的な調査は, 地元での環境学習や永続的環境管理の動機付けとなる. 今後は官学民の調査の各々の特性を活かした補間関係による情報の重層化と活用が不可欠である.
著者
堂前 雅史 廣野 喜幸 佐倉 統 清野 聡子
出版者
和光大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

聞きとり調査では、主として、死生観に関する知識のいくつかについて、生産・流通・受容過程の情報を収集した。まず、日本では、脳死問題が現れる以前に「三徴候説」のような死の基準は法的には一定せず、むしろ法曹界は医者に一任することをもってよしとする傾向があったことが示唆された。以上より、1.死に関しては法律家による専門的知識の生産があったとしても、それが流通・受容過程に乗ったのではない、2.科学に関する事項に関しては、料学者による知識が法律家よりも優位に立って流通するシステムになっている、3.脳死概念登場以前は、むしろ一般の想定が法曹家の世界に流入したと見るべきことが判明した。次に、中国伝統医療では、生きている者のみであり、死にゆく者は除外されつづけた。よって、東洋医学では、死の判定基準を医者が設ける発想すら希薄であった.また、緻密な世界観・生命観に裏打ちされた中国伝統医学が日本に入る際、背後の生命観は捨象され、純粋に技術として吸収された。したがって、4.科学技術が受容される際は、技術のみを導入し、背後の科学思想を拒否することが可能であること、また、5.科学知識は人々の嗜好によって受容が拒否される、6.一般市民にただ科学知識を注入してもサイエンス・リテラシーは向上しない可能性があることが分かった。今日の科学技術においても、一般人を科学知識の生産者と見なしうる場合がある。しかし、こうした「素人理論」の流通機構は整備されていない。そこで、本研究では、吉野川可動堰問題を対象に、一般市民が科学知識の生産・流通に成功した例を分析し、7.一般市民の科学知識生産を促すシステムが整備される必要があることを明らかにした(廣野)。また、そうしたシステム整備の具体的提言として、8.市民科学がもたらす「公共空間の科学知識」媒体の必要を唱え、大学紀要の利用を提唱した(堂前)。