著者
西 啓太 鶴崎 俊哉 弦本 敏行 加藤 克知
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0835, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】臨床場面において,腰痛などの骨盤帯領域の機能障害は,腰椎・骨盤・股関節などの複数領域の機能障害が複雑に組み合わさっている場合が多い。そのため,近年では腰椎・骨盤・股関節を複合体としてとらえ,総合的に評価治療を行うことが重要と考えられている。諸家の報告では,Hip-spine syndromeのように股関節と腰椎の機能障害に関連性があるという報告は多いが,仙腸関節と他関節の機能障害の関連性を報告している研究は殆どみられない。そこで今回,腸骨耳状面の年齢推定法を仙腸関節の加齢性変化を示す指標として用い,他関節の加齢性変化との関係を調べた。本研究の目的は,仙腸関節の加齢性変化が股関節などの他関節と関連性があるのかを明らかにすることである。【方法】死亡時年齢が記録されている男性晒骨100体(平均年齢56.5歳:19-83歳)の左右腸骨耳状面(200側)を肉眼で観察し,Buckberryら及びIgarashiらによる年齢推定法に準じて関節面の年齢推定を行った。2法から得られた推定年齢値の平均をその個体における仙腸関節の『関節年齢』とし,実年齢と関節年齢から年齢校正値を算出した。次に,関節年齢と年齢校正値の差を,腸骨耳状面の加齢性変化の程度を表す『Gap』と定義した。他関節の加齢性変化の指標として,同一の骨標本を使用したTsurumoto(2013)らの先行研究から股関節(200側)と膝関節(102側)の関節周囲骨棘指数のデータを引用した。さらに,耳状面形態に個体によって多様性がみられたため,耳状面の『くびれ率』を定義し測定を行った。これは,耳状面の長腕と短腕の関節面の最後方を直線で結び,この直線と耳状面の前下縁と後上縁の最長距離を測定し,後上縁までの距離から前下縁までの距離を除した値のことである。2つの年齢推定法の妥当性を検討するために,実年齢との相関性を調査した。また,くびれ率と年齢,耳状面Gap,股関節骨棘指数との関連を検討した。さらに,耳状面形態が関節の加齢性変化に及ぼす影響を考慮し,くびれ率の大きさが仙腸関節と股関節の加齢性変化の関連性を検討した。統計学的分析はMicrosoft Excel 2010の分析ツールを用いて行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究で用いた骨標本は,長崎大学医学部生の解剖実習のために同意を得て献体されたご遺体から取り出した標本である。本研究では骨標本に直接手を加えず,肉眼観察を行うために使用したため,倫理的な問題はない。【結果】2つの年齢推定法ともに,実年齢との間に高い正の相関がみられた。2法の平均推定年齢も実年齢との高い正の相関を示した。耳状面Gapと股関節骨棘指数との間には中等度の正の相関を示し,膝関節との間には弱い正の相関を示した。くびれ率に関しては,耳状面Gapおよび股関節骨棘指数との間に相関はみられなかった。さらに,くびれ率の分布の90%領域中の個体群において,耳状面Gapと股関節骨棘指数の間にr=0.40の相関を示した。くびれ率の大きさで仙腸関節と股関節の加齢性変化の関連性をみたところ,くびれ率が小さいほど仙腸関節と股関節の加齢性変化の相関が強くなる傾向がみられた。【考察】Vleemingらは骨盤帯の関節安定戦略に異常をきたした場合,仙腸関節に破綻をきたし,退行変性を進行させてしまう可能性があると述べている。本研究で行った腸骨耳状面の加齢性変化の評価より,仙腸関節における安定機構の変化が他の関節に影響を及ぼす可能性があることが示唆された。本研究結果より,仙腸関節と股関節の加齢性変化の間に相関がみられた。腰痛患者に見られる骨盤帯のアライメント不良や諸筋の活動変化により,関節にストレスが加わり,その加齢性変化が進行する可能性があると考えられる。本研究からは,股関節と仙腸関節のどちらが原因で加齢性変化が生じるのかは知ることが出来ないが,腰椎・骨盤・股関節のアライメント異常などによる安定戦略の変化により,股関節と仙腸関節の両方に加齢性変化が生じる可能性が示唆された。また,仙腸関節面のくびれ率が小さいほど仙腸関節と股関節の加齢性変化の相関が強くなる傾向がみられた。このことより,仙腸関節の形状がHip-spine syndromeのような腰椎・骨盤・股関節領域の複合的な病態の生じやすさに影響を及ぼしている可能性があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,骨盤とその周囲の運動器疾患に対する考察を助けるデータとなり,さらに,腰椎・骨盤・股関節領域における運動器疾患の予防を行う上でも有用なデータになると考える。
著者
渋市 郁雄 安江 正明 加藤 克彦 渡邉 泰雄
出版者
日本微量元素学会
雑誌
Biomedical Research on Trace Elements (ISSN:0916717X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.11-16, 2006 (Released:2006-09-13)
参考文献数
24
被引用文献数
1

This paper argues the possible effects of natural vanadium-containing Mt. Fuji ground water on the hyperglycemia based on our previously reported animal and clinical studies. In the animal studies, we documented that the activities of liver insulin receptors, particularly β subunit, and primary insulin-like growth factor-1 β were recovered to the normal levels by the daily forced oral treatment with Mt. Fuji ground water containing natural vanadium in Goto-Kakisaki (GK) rat which is the genetic model of Type II diabetes. Furthermore the increased levels of blood glucose and serum hemoglobin A1C (HbA1C) of GK rats were significantly blocked by the consecutive treatment of natural vanadium water. It is interesting that the other genetic model of Type II diabetes, KKAy mice, were likely to be shown the inhibitory effects of the consecutive treatment of natural vanadium water on increases of blood glucose but not significant. In these animals, however, the significant improvements of Glut 4 transporter and receptor activities in the adipose and muscle were detected. In the clinical studies, the levels of blood glucose and serum HbA1C of hyperglycemic patients were significantly reduced by three month consecutive treatment of this Mt. Fuji ground water, and also the QOL of these patients were completely improved, although these effects were clearly affected by the changes in each life style. Thus both animal and human studies suggest that the daily treatment with Mt. Fuji ground water containing natural vanadium is useful for the regulation of blood glucose levels and the improvement of QOL to the hyperglycemia patients due to the improvements of glucose transporter and the insulin receptor and so on. However it might be little difficult to expect the significant improvement of the severe conditions of diabetes mellitus by the consecutive treatment of natural vanadium water, since this ground water is good as a supplement.
著者
宇次原 清尚 加藤 克彦 三輪 俊貴
出版者
岐阜県農業技術研究所
雑誌
岐阜県農業技術研究所研究報告 (ISSN:13464396)
巻号頁・発行日
no.6, pp.1-6, 2006-03

平成11年にオーストラリア、ニュー・サウス・ウェールズ州立園芸研究所から育成中のフランネルフラワーの矮性系統の挿し木苗を導入した。自家受粉により得た種子から増殖と選抜により鉢花として形質の優れた系統を育成した。育成系統は、草丈が20-30cm程度のわい性で、四季咲き性を有する。花の形態及び大きさは、野生種と同じである。平成17年7月に品種登録申請を行った。
著者
ローゼナウ ヘニング 加藤 克佳
出版者
近畿大学法学会
雑誌
近畿大学法学 (ISSN:09164537)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.409-430, 2013-12

目次 I. 外国の事情:刑事手続における合意の国際的動向 II. 合意手続の概念 III. 憲法上の視点 1. 法治国家原理 2. 公正手続の原則 3. 責任主義 4. 合意手続の憲法審査 a) 職権〔審理 〕主義 b) 責任に適合した刑罰の原則 (刑法46条1項1文) c) 公開性の原則 (裁判所構成法169条1文) d) 刑事司法の機能性 IV. 結論 1. 衝突する訴訟原理の調整 2. 同意に基づく刑事手続の表現としての合意手続 〔付録 〕 (1) ドイツ刑事訴訟法第257c条 (2) 連邦憲法裁判所第2小法廷2013年3月19日判決要旨〔 訳者あとがき 〕
著者
井関 文 畠 榮 加藤 克幸 小林 晴美 原 稔晶 下山 芳江 中村 栄男 松下 正
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.289-296, 2017-05-25 (Released:2017-05-31)
参考文献数
14

浸潤性小葉癌組織球様細胞亜型(histiocytoid breast carcinoma; HBC)は,多形型浸潤性小葉癌に含まれるまれな組織型で,アポクリン分化が指摘される。今回われわれは,細胞診で組織球様腫瘍細胞が多量に出現したHBCの1例を経験した。症例は80歳代,女性で,左乳房腫瘤の穿刺吸引細胞診で,広い泡沫状細胞質を有する組織球様細胞や,好酸性顆粒に富むアポクリン様細胞を,散在性または疎な結合の重積性集塊で認めた。病理組織学的には,Alcian blue染色がびまん性陽性を呈した。ジアスターゼ抵抗性PAS反応は好酸性顆粒に富む細胞では強陽性,好酸性の弱い泡沫状細胞では陰性もしくは弱陽性を示した。GCDFP-15は陽性で,好酸性の弱い細胞により強染した。Adipophilin陰性,CD68陽性,ER,PgR,HER2陰性,androgen receptor陽性,Ki-67陽性率2%,p53はweakly 5–10%であった。E-cadherinは陰性,p120は細胞質内にびまん性陽性を示し,浸潤性小葉癌の組織球様細胞亜型(HBC)と診断した。HBCは,出現様式や粘液の染色態度が多形型浸潤性小葉癌と同様であったが,核異型,HER2,p53発現,Ki-67陽性率が異なり,それらは両者の鑑別点となると考えられた。またadipophilinが陰性を示し,アポクリン所見は不完全であった。
著者
昌子 浩孝 加藤 克紀
出版者
日本動物心理学会
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.45-55, 2003 (Released:2008-01-16)
参考文献数
23

The effects of male parents on later parental behavior of their pups were investigated in ICR mice. Male parents were vasectomized to prevent female parents from giving birth to the second litter before weaning of the first one. The subjects were reared by a female parent alone or by both parents until 30 days old. When they were exposed to stimulus pups at 10-11 weeks of age (Exp. 1), their parental behaviors didn't differ from each other for their rearing conditions. However, when they were tested after experiencing copulation (Exp. 2), nest-building significantly decreased in the females reared by both parents. These results suggest that in mice the effects of cohabitation with a male parent in the early rearing environment on parental behavior were modifiable by the experience of copulation, but such effects were largely limited.
著者
加藤 克佳 辻本 典央
出版者
近畿大学法学会
雑誌
近畿大學法學 = Kinkidaigaku hogaku: the law review of Kinki University (ISSN:09164537)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.275-316, 2013-06-01

[目次] はじめに, 第1部.刑事法部会の提言, 第2部.刑事法部会の決議, 第3部.関連文献
著者
内藤 芳篤 加藤 克知 六反田 篤 中谷 昭二 分部 哲秋 松下 孝幸
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1.研究方法および資料九州から出土した縄文人骨について、マルチンの方法により人類学的計測および観察を行い、時代差とともに、同じ時代でも遺跡の立地条件による差異について比較検討した。資料は、長崎大学に保管されている人骨の他に、九州大学,久留米大学,鹿児島大学および京都大学所蔵の人骨で、縄文時代早期21体,前期56体,後期71体,晩期3体,合計151体である。2.人骨の形質(1)脳頭蓋では、洞穴出土の早期人は長頭(頭長幅示数74.74),前期人は中頭(77.29),後期人は短頭(82.24)であるが、貝塚出土の人骨は、いずれも中頭(76.82)に属し、全般に長頭に傾いていた。(2)顔面頭蓋では、洞穴出土の前期人(上顔示数59.13),後期人(59.83)ともに低顔性が強く、貝塚出土の前期人(64.00),後期人(63.38)はやや高顔であった。すなわち顔面については、時代差よりも山間部の洞穴人と海岸部の貝塚人との差が認められた。(3)四肢骨については、早期・前期人は後期・晩期人に比して、細くて,周径や長厚示数が小さく、また洞穴人は貝塚人に比して時代差と同じように細く、きゃしゃであった。しかし長径については、必ずしも周径にみられたような傾向は認め得なかった。(4)推定身長をピアソンの方法式で算出すると、洞穴人は、早期(男性167.22cm),前期(162.82cm),後期(157.95cm),貝塚人は前期(162.48cm),後期(161.17cm)で、縄文人としてはやや高身長であった。3.今後の研究方針九州縄文人骨の収集につとめ、時代差,洞穴人と貝塚人との差の他に、地域差の有無について検討したい。
著者
加藤 克知
雑誌
保健学研究 (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.1-17, 2009-03

南米古代アンデス社会におけるヒト頭部の変工または加工に関係する風習的事象,「人工頭蓋変形」,「生体頭蓋穿孔(開頭術)」および「首狩りと首級」という3つのテーマについて,筆者のデータを交え形質人類学の観点から解説した.それぞれは古代アンデス社会に深く浸透し,おおむねアンデス文明成立当初からインカ帝国滅亡の日まで,社会の中で連綿と生き続けた.ペルーの考古学の父であるJulio C. Telloは,古代アンデス社会においては,頭部は宗教的シンボル,権力のシンボルであり,最も高貴な神格をもったものであった,と述べた.つまり,これらの頭部関連風習の原点は,古代アンデス社会における頭部崇拝の宇宙観にあったと考えられる.
著者
昌子 浩孝 加藤 克紀
出版者
日本動物心理学会
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.45-55, 2003

処女雌と童貞雄および交尾を統験した雌雄において,養育行動に対する幼若時の雄親との同居の影響についてICR系マウスを用いて検討した。雄親として用いる雄は,分娩後発情による第2仔の妊娠を防ぐため,断種した上で妊娠雌と同居させた。分娩後、仔は両親あるいは雌親のみと30日齢まで同居させ,10〜11週齢時に新生仔提示テストを行い養育行動を調べた(実験1)。処女雌および童貞雄の養育行動には雄親による影響が認められなかったが,交尾を経験した個体に新生仔を提示した場合(実験2)には,雌の巣作りが雄親との同居によって抑制された。マウスにおいては,養育行動に対する幼若時の雄親との同居の影響は交尾経験によって変容されうるが,それらの影響は小さく限定的であることが示唆された。
著者
加藤 克紀
出版者
日本動物心理学会
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.11-18, 2006-06-25

ICR雄マウスにおいて,離乳後5-6週間の社会的隔離がオープンフィールド行動に及ぼす影響を直接観察法を用いて検討した。10分間のオープンフィールドテストにおいて隔離飼育個体と集団飼育個体は類似した行動変化を示したが,2つの行動成分,すなわち伸展と毛づくろいについては異なっていた。隔離飼育個体の方が最初の4分間の伸展の減少が有意に遅く,また隔離飼育個体でのみ最後の4分間に毛づくろいの有意な増加が認められた。以上の結果は,若齢期における社会的経験の剥奪が新奇環境における不安やストレス反応を強め,慣れを抑制する可能性を示唆した。
著者
高橋 阿貴 加藤 克紀 牧野 順四郎
出版者
日本動物心理学会
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.73-85, 2004-12-25
被引用文献数
3

本研究では,高・低活動系マウスとその基礎集団であるICR,そして5系統の近交系マウス(BALB,C3H,CBA,DBA,C57BL,ICR)のオープンフィールド行動について検討した。高・低活動系は,他の近交系と比較しても,十分に高活動あるいは低活動であったが,脱糞数には差がなかった。11種の行動項目に基づく行動観察データに主成分分析を適用した結果,4つの主成分が得られ,それらにより全体分散の64%が説明された。第1,第2主成分に基づいて系統比較を行ったところ,オープンフィールド行動の時間的変化には,遺伝的背景の異なる4つの側面(初期値,テスト前半と後半の行動変化,終了値)がある可能性が示唆された。高・低活動系は第1主成分については対照的であったが,第2主成分についてはよく似ており,活動量や脱糞数が大きく異なるBALBとC57BLにおいても同様の傾向が認められたことから,第2主成分はいわゆる「活動性」や「情動反応性」とは独立した特性を示しているようであった。また,高活動系のオープンフィールド行動は基礎集団であるICRとほとんど違いがなく,選択交配による遺伝的変異は主に低活動系において生じたことが明らかとなった。
著者
佐々木 史郎 小谷 凱宣 荻原 眞子 佐々木 利和 財部 香枝 谷本 晃久 加藤 克 立澤 史郎 佐々木 史郎 出利葉 浩司 池田 透 沖野 慎二
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、北海道内の博物館に収蔵きれている、アイヌ民族資料の所在を確認し、その記録を取るとともに、その資料が収蔵された歴史的な背景を解明することを目的としていた。本研究で調査対象としたのは、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園(北大植物園)、函館市北方民族資料館、松前城資料館である。この3つの博物館が調査の対象とされたのは、資料の収集経緯に関する記録が比較的よく残されていたからである。3年にわたる調査の結果、北大植物園が所蔵する2600点に及ぶアイヌ文化関連の標本資料全点と松前城資料館が所蔵する320点余りの資料の全点について調書が作成され、写真が撮影された。また、函館市北方民族資料館では約700点(総数約2500点の内)の資料について、調書作成、写真撮影を行った。その結果、総計約3500点を超えるアイヌ文化の標本資料の詳しい調書と写真が作成された。本科研での調査研究活動では、標本資料の熟覧、調書作成、写真撮影にとどまらず、当該資料が各博物館に所蔵された経緯や背景も調べられた。植物園の資料の収集には、明治に北海道開拓指導のためにやってきた御雇外国人が関わっていたことから、彼らに関する史料をアメリカの図書館に求めた。調査の過程で、これらの博物館、資料館の資料が、明治から大正にかけての時代に収集されていたことが判明した。それは時代背景が明らかな欧米の博物館に所蔵されているアイヌ資料の収集時期と一致する。本科研の調査により、以上の3つの博物館のアイヌ資料は、すでに数度にわたる科研で調査された欧米の博物館の資料に匹敵するほどの記録と情報を備えることになった。それは、記録がない他の国内の博物館のアイヌ資料の同定、年代決定の参照に使えるとともに、アイヌ文化の振興と研究の将来の発展に大きく寄与することになるだろう。
著者
篠田 謙一 加藤 克知 北川 賀一 米田 穣
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究ではプレインカからインカ帝国成立期の人骨試料を用いて、集団の系統関係の解明と古代社会の多元的な復元を試みた。その結果、アンデス南海岸地域では、紀元前には北部海岸地域と遺伝的に似ているが、時代とともに山岳地域からの集団の移入を受け,インカ時代には集団の置換が起こったことが判明した。一方北海岸においては人口規模の違いから、集団の遺伝的組成に変化はなく、文化変容が遺伝的な変化を伴わないものであることが判明した。これらの結果は古代アンデスにおける文化変容を解釈する際に新たな重要な情報を付け加えることになった。
著者
篠田 謙一 加藤 克知 北川 賀一 真鍋 義孝 中橋 孝博
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

インカによる統一以前のアンデスには、多数の地域国家が存在した。これらは生業形態や地理的環境から大きく海岸地帯と山岳地域または南部と北部に分類することができる。今回の研究では、かつてこれらの地域に存在した集団の遺伝的な関係と、集団内部の血縁関係を考察する目的で、骨と歯の形態学的な研究と人骨から抽出したDNAを解析した。4年間の研究で、ペルー北海岸では紀元前後から11世紀までの遺跡、アンデスの山岳地域ではインカ時代の遺跡、そして南部の海岸地域では紀元前後から7世紀にかけての遺跡を調査して、合計で2百体以上の人骨の研究を行うことができた。得られたサンプルに対し、形態学的な研究からは、各集団の歯の形態学的な特徴の抽出、頭蓋骨の形態学的な研究、そして頭蓋変形と開頭術の時代的な変遷についての解析を行った。また、DNA分析では、抽出したDNAを用いてPCR法でミトコンドリアDNAのD-loop領域とcoding領域の一部を増幅した。この塩基配列データ解析することによって、遺跡内部での血縁関係の追求と、周辺遺跡との系統的な関係についての考察を行った。北海岸のシカンの遺跡では、埋葬された人物間の血縁関係をDNA分析によって推定し、歯の形態学的な研究結果や考古学的な証拠と併せて考察を行った。また、モチェとガイナッソの遺跡を研究し、双方の関係について考察した。それらの知見と考古学的な証拠とを総合的に判断した結果、基本的には北海岸と南の海岸及び山岳地域とは、集団の構成に違いがあることが明らかとなった。また、アンデスのウルバンバ川周辺の遺跡のDNA解析からは、現代の先住民につながる人々がこの時代から居住していたことが明らかにした。
著者
加藤 克知 沖田 実 田原 弘幸
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大学医療技術短期大学部紀要 (ISSN:09160841)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-5, 2001-03

65歳男性遺体の右膝に見いだされた円板状外側半月を観察し,特に関節内付属靱帯との関係を記載した.円板状外側半月は比較的幅広く,脛骨の外側顆上関節面をほぼ完全に被い,肉眼的観察およびX線撮影ではその損傷や石灰化などの異常は見られなかった.本例では,全体的に半月の固定に関係する靱帯の発達が良好であった.すなわち,半月の前角と後角は靱帯を介して強固に脛骨に付着し,さらに,強い半月横靱帯が内・外側半月の前部を連結していた.後方では外側半月後角から起こる太い後半月大腿靱帯が認められた.加えて,内側・外側半月の前角から起こり前十字靱帯に合流する靱帯小束が認められたが,これらは半月の前部固定に関与すると考えられた.