- 著者
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馬場 章
藤井 敏嗣
千葉 達朗
吉本 充宏
西澤 文勝
渋谷 秀敏
- 出版者
- 日本地球惑星科学連合
- 雑誌
- 日本地球惑星科学連合2019年大会
- 巻号頁・発行日
- 2019-03-14
将来起こりうる火山災害を軽減するためには,過去の噴火推移の詳細を明らかにすることが重要である.特に西暦1707年の宝永噴火については,富士火山では比較的例の少ない大規模爆発的噴火の例として,ハザードマップ作成でも重要視されている.宝永噴火は基本的にプリニー式噴火であったとみなされているが,火口近傍相の研究は多くない.また,宝永山については,脱ガスしたマグマの貫入による隆起モデルが提唱されており(Miyaji et al.,2011),さらにはマグマ貫入による山体崩壊未遂の可能性と,予知可能な山体崩壊の例として避難計画策定の必要性が指摘されている(小山,2018).本発表では,宝永噴火の火口近傍相の地質調査・全岩化学組成分析・古地磁気測定などから新たに得られた知見をもとに,宝永山の形成過程について考察する.富士火山南東麓に位置する宝永山は,宝永噴火の際に古富士火山の一部が隆起して形成されたと推定されてきた(Tsuya,1955 ; Miyaji et al.,2011).しかし,赤岩を含む宝永山には多種多様な類質岩片は認められるものの,主には緻密な暗灰色スコリア片、火山弾から構成され,斑れい岩岩片や斑れい岩を捕獲した火山弾も認められる.それらの鏡下観察・全岩化学組成分析・古地磁気測定から,赤岩を含む宝永山は,Ho-Ⅲでもステージ2(Miyaji et al.,2011)に対比され ,マグマ水蒸気爆発による火口近傍の降下堆積物ないしサージ堆積物と推定される.また,宝永第2・第3火口縁,御殿庭の侵食谷側壁は,宝永噴火の降下堆積物で構成されており,ステージ1のHo-Ⅰ~Ⅲ(Miyaji et al.,2011)に対比される.侵食谷の基底部に白色・縞状軽石層は現時点において確認できないものの,下位から上位にかけて安山岩質から玄武岩質に漸移的な組成変化(SiO2=62.8~52.2wt%)をしている.そして,宝永第1火口内の火砕丘,宝永山山頂付近,御殿庭の侵食谷から得た古地磁気方位は,古地磁気永年変化曲線(JRFM2K.1)の西暦1707頃の古地磁気方位と一致する.これらの新たな知見に加えて,宝永噴出物のアイソパック(Miyaji et al.,2011),マグマ供給系(藤井,2007 ; 安田ほか,2015)と史料と絵図(小山,2009)も考慮し,宝永噴火に伴う宝永山の形成過程を推定した.宝永山はわずか9日間で形成された宝永噴火の給源近傍相としての火砕丘である.1.玄武岩質マグマがデイサイト質マグマに接触・混合したことで白色・縞状軽石が第1火口付近から噴出し,偏西風により東方向に流された(12月16日10~17時頃,Miyaji et al.,(2011)のUnit A,Bに相当).2.火口拡大に伴って第1火口の山体側も削剥され,多量の類質岩片が本質物と共に東~南方向に放出し,宝永山を形成し始めた(12月17日未明,Miyaji et al.,(2011)のUnit C~Fに相当).3.第1火口縁の地すべりによる火口閉塞ないし火口域の拡大により,噴出中心は第2火口に移行した(12月17~19日、Miyaji et al.,(2011)のUnit G~Iに相当).4.火口閉塞した類質岩片が噴出されることにより,噴火中心は第1火口に遷移し,断続的なマグマ水蒸気爆発により宝永山(赤岩)が形成された(12月19~25日、Miyaji et al.,(2011)のUnit J~Mに相当).5.噴火口が第1火口に限定されることで類質岩片の流入が止み,玄武岩質マグマによるプリニー噴火が6日間継続したのち,噴火が終了した(12月25~30日,Miyaji et al.,(2011)のUnit N~Qに相当).