著者
大河原 眞 梶木 繫之 楠本 朗 藤野 善久 新開 隆弘 森本 英樹 日野 義之 山下 哲史 服部 理裕 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-14, 2018-01-20 (Released:2018-02-01)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

目的:産業医-主治医間におけるメンタルヘルス不調者の就労状況や診療情報の共有方法とその効果に関する具体的な検証は少ない.本研究では,精神科主治医からの診療情報の提供を充実させるため,産業医から精神科主治医へ向けた診療情報提供依頼書(以下 依頼書)に記載すべき内容の検討と,依頼書の記載内容の違いが主治医の印象に与える影響の検証を行った.対象と方法:依頼書に記載が必要な項目及び連携に際して主治医の抱く懸念を明らかにするため,フォーカスグループディスカッション(FGD)を行った.FGDは9名ずつの異なる精神科医集団を対象として計2回実施した.FGD結果の分析を行い,依頼書に記載が必要な項目を設定した.つづいて異なる2つの事例を想定し,それぞれ記載項目,記載量の異なる3パターンの依頼書の雛型の作成を行ったうえで,雛型を読んだ精神科医が感じる印象について,臨床の精神科医に対する質問紙調査を実施し,得られた回答についてロジスティック回帰分析を行った.結果:FGDの結果から,依頼書に記載が必要な項目について,職場における状況,確認事項の明確化,産業医の立ち位置の表明,主治医が提供した情報の取り扱い等が抽出された.これらの結果と研究班内での検討をもとに,依頼書に記載が必要な項目を設定した.質問紙調査の結果は,設定した記載項目を網羅するにつれ,依頼書に書かれた情報の十分さや情報提供に対する安心感等の項目で,好意的な回答の割合が増えた(p<.01).一方で,読みやすさについては好意的な回答の割合が減った.考察:産業医と精神科医の連携を阻害する要因として,主治医が診療情報を提供することで労働者の不利になる可能性を懸念していること,産業医が求める診療情報が明確でないことなどがあることが示唆された.産業医が依頼書を記載する際に,文章量に留意しながら記載内容を充実させ,産業医の立ち位置や提供された情報の使用方法を含めて記載することで主治医との連携が促進する可能性があることが明らかとなった.
著者
吉川 泰弘 久和 茂 中山 裕之 局 博一 西原 眞杉 寺尾 恵治 土井 邦雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2002

研究目的:内分泌撹乱化学物質の神経発達に対する影響の研究は比較的新しく、まだ遺伝子レベルや個体レベルの影響評価がランダムに報告されているに過ぎない。特にげっ歯類から霊長類にわたる一貫性のあるリスク評価研究はほとんど行われていない。本研究ではラット、サル類、チンパンジーの個体を用いて環境化学物質代謝のヒトへの外挿を行う。またラット胎児、げっ歯類・霊長類の神経培養、マウス・サル類のES細胞などを用いて、さまざまなレベルで環境化学物質の影響を解析する。高等動物の比較生物学を得意とする獣医学領域の研究者が研究成果を帰納的に統合しヒトへの外挿を行い、内分泌撹乱化学物質の神経発達に対するリスク評価をすることを目的とした。研究の経過と成果ラットを用いたビスフェノールA(BPA),ノニルフェノールなどのエストロゲン様作用物質、及び神経発達に必須の甲状腺ホルモンを阻害するポリ塩化ビフェニール(PCB),チアマゾール、アミオダロンなどをもちいて神経発達への影響を評価した。主として神経行動学的評価を中心にリスク評価を行い、その結果を公表した。また齧歯類を用いた評価を行うとともにヒトに近縁なサル類も対象に研究を進めた。その結果、(1)齧歯類は神経回路が極めて未熟な状態で生まれるのに対し、霊長類の神経系は胎児期に充分に発達すること、(2)BPAや甲状腺ホルモンの代謝が齧歯類とサル類では著しく異なること、(3)妊娠のステージにより、BPAの胎児移行・中枢神経への暴露量が異なることが明らかになり、齧歯類のデータを単純に、ヒトを含む霊長類に外挿することは危険であることが示唆された。サル類を用いたリスク評価ではアカゲザルでダイオキシン投与により、新生児の社会行動に異常が見られること、BPA投与では暴露された次世代オスのみがメスの行動を示す、いわゆる性同一性障害のような行動を示すこと、甲状腺ホルモンの阻害作用を示すチアマゾールでは著しい神経細胞の減少と分化の遅延が起こること、PCBの高濃度暴露個体から生まれた次世代では高次認知機能に低下傾向が見られることなどの、新しい研究結果を得た。
著者
石原 眞理
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.17-33, 2010
被引用文献数
1

本研究の目的は,横浜アメリカ文化センター(以下ACC)の旧所蔵資料を調査することにより,その特徴を明らかにすることである。調査結果を基に,それらの資料がACCの設置者たちの目的や運営方針を反映するものであったのか,という観点から考察する。これまでACCや前身であるCIE図書館の所蔵資料に関する研究はほとんど行われていない。現在ACCの所蔵資料がまとまって残っている例は少ないが,神奈川県立図書館のACC文庫は,横浜ACCの所蔵資料を,当時の蔵書構成の特徴を残しながら継承している。ACC文庫に対する調査は,(1)個々の資料の書誌事項及び現物の確認,(2)DDC10区分の構成比とOCLCの分類別構成比との比較,(3)ACC文庫の関係者に対するインタビュー調査,の各種の方法に拠った。調査の結果,CIE横浜図書館時代の資料は「公共図書館のモデル」及び「日本の民主化・非軍事化」,横浜ACC時代の資料は「アメリカの広報・宣伝」を実現するような内容であったことが推定できた。
著者
荻原 眞子
出版者
千葉大学ユーラシア言語文化論講座
雑誌
千葉大学ユーラシア言語文化論集 = Journal of Chiba University Eurasian Society (ISSN:21857148)
巻号頁・発行日
no.20, pp.5-14, 2018-12-25

[ABSTRACT] The paper focuses on the different appearances of the soul in the Mongolian epic Geser Khan (edition of Japanese translation by Hiroshi Wakamatsu, 1993.) Geser as well as the multi-headed antagonist takes very many various features of souls by means of transformation, incarnation, creation of "the other self" clone. Usually the souls of the antagonists are hidden in secret that Geser has to find and perish. Here the decisive roles are played by the brides of the hero Geser. At the same time the heroines-brides are the spiritual guardian of Geser, warriors in case of need. It seems that the diversity of soul appearance and female roles are, roughly speaking, common features in the heroic epics of the northern peoples. Consequently it could serve as means for the comparative study of the heroic epics in Eurasia, including the Yukar of the Ainu.
著者
大原 眞弓
出版者
京都女子大学史学会
雑誌
史窓 (ISSN:03868931)
巻号頁・発行日
no.78, pp.93-110, 2021-03-06
著者
藤原 眞砂 久場 嬉子 矢野 眞和 平田 道憲 貴志 倫子
出版者
島根県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

子育てや看護をはじめとする家庭生活の多様な環境に配慮した企業および行政のワーク・ライフ・バランス(WLB)施策は、勤労者の生活に安心とゆとりをもたらし、ひいては企業、社会の活性化(少子化の克服も含む)に資する。本研究は総務省社会生活基本調査ミクロデータの独自の再集計値をもとに家庭内の男女、成員の役割関係の実態を解明し、WLBを実現する政策的含意の抽出を試みた。あわせて理論的研究も行った。
著者
冨原 眞弓
出版者
上智大学
雑誌
Les Lettres francaises (ISSN:02851547)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.34-58, 1981-05

本論は,序論,結論を含めて全五章より成る。序論では,三世紀半ばに没し,聖書の極端な寓意的解釈が,プラトン哲学を始めとするギリシア思想の影響によるものとされて,再度,公会議に於て断罪されたアレクサンドリアの神学者の命題が,十三世紀半ばに編纂された,ロンバルディア地方のカタリ派の書物『二原理の書』に,直接,間接の影響を及し得たか否かについて,両者の文献の比較研究に基づいた批判,検討を試みる.序論で得られた肯定的な結論に則って,本論を構成する三章では,オリゲネスの『魂の前存在説』とカタリ派の『原初的諸原素の前存在説』との比較を,以下に述べる三段階に分けて行う.オリゲネスが,創造に先立って存在していた,純粋な霊的実体=魂なるものを想定していたことは,彼の著作『諸原理について』,『ヨハネ福音書注解』からも明らかである.彼は,これらの霊的実体が,神の創造のわざを通じて,前世に於ける功徳の度合に応じて,天使,人間,悪魔の三種の範鴫に振り分けられたとする.一方,『二元理の書』の編纂者は,《無からの創造》というカトリックの概念に真向から対立し,神の創造のわざとは,既に原初から存在していた《基本諸原素》に,新らたな要素を附加して,三種の質的に異なる現実を生み出すことであると考えた.カタリ派はこれらを,純粋に善の原理からのみ成る第一の創造,完全に悪の原理からのみ成る第三の創造,そして,両者の中間に位置する,善悪二原理の混淆より成る第二の創造と呼んだ.カタリ派の《原初的諸原素の前存在説》は,アラビア哲学を仲介とした古代ギリシア哲学の遥かな反映であることは疑い得ない.従って,本論の目的は,オリゲネス,カタリ派の両者が,如何なる意図と視座に基づいて,魂,或いは,原初的諸原素の前存在説という,すぐれてギリシア哲学的概念を,自らの神学休系の中に吸収していったかを解明することにある.独特の用語法,聖書の寓意的解釈,霊肉二元論の強調,仮現説と御子従属説を想起させなくもないキリスト論など,オリゲネスとカタリ派の思想的類縁性を示唆する要素は多い.一方,両者の前存在説が,同一のコスモロジーに基くものでもなければ,同一の論理的必然性に支えられているものでもないことは確かである.悪の存在と,自由意志の問題が,それぞれの前存在説に,全く異なった論証への道を開く.絶対的唯神論者であるオリゲネスは,悪の導入が善そのものである神の直接的介入によるものとは考えず,創造以前に既に存在していた《霊魂》の過ちによるものと考える.天使,人間,悪魔という範疇も,神の任意の選びに基くものではなく,それぞれの魂の前世の行いに照応した賞罰の論理的帰結に他ならない.オリゲネスの前存在説は,かくして,悪の存在に関しての神の無罪証明と,神の公平さと理性的被造物の自主性の確信の上に成り立っている.然るに,善悪二元論を標榜するカタリ派にとっては,善の神は全能でもなければ,生成生起するものすべての直接原因でもない.善の神の権能は,純粋に霊的な分野に限られており,霊肉混淆の現世は悪の原理の支配下にあると見倣される.悪が存在するのは,原初から存在する悪の原理の働きによるもので,理性的存在の自由意志は完全に否定され,すべては一種の救霊予定説によって予め決定されている.結論として,幾つか認められる教義上,用語上の類似にも拘らず,オリゲネスとカタリ派の前存在説は,自由意志と悪の原因に関する限り,それぞれの神学体系内に於て全く異質の射程を持つものであると言えよう.
著者
石原 眞理
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.74-79, 2009-02-01

ここ数年,図書館関係の機関・団体が,図書館員の研修や養成に関する調査研究を行っている。本稿では,主に全国公共図書館協議会が行った研究を基に,図書館員の研修とキャリアパスについて考察した。図書館においては,急激に人員の削減や非正規職員化が進んでいる。一方,図書館に対する利用者の期待は,年々高まっている。図書館の現場では,従来から続いている図書・逐次刊行物などの現物提供に加え,ITC関連の技術の進展など図書館サービスをめぐる変化がある。このような状況の中で,研修の主催側は,これまで以上に研修の強化が必要になっている。図書館員側は自らのキャリアパスについての認識を持ち,受講する研修を主体的に選択することが必要であるだろう。
著者
尾熊 隆嘉 矢野 義孝 財前 政美 牡丹 義弘 伊賀 立二 全田 浩 奥村 勝彦 安原 眞人 堀 了平
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雑誌 (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.987-994, 1997-12-25 (Released:2011-08-04)
参考文献数
18
被引用文献数
1 3

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症の治療時におけるバンコマイシンの有効性, 安全性に関与する要因を統計的に検討する目的で, Therapeutic Drug Monitoringの対象となった患者の背景, 病態, 投薬履歴, 血漿中濃度等の要因と, 有効性, 安全性の臨床評価のデータを集積した。有効性としては効果の有無を, 安全性としては副作用として比較的報告例数の多かった腎機能, 肝機能を対象とし, その検査値異常の発現を採用した。患者背景, 病態, 治療履歴, 体内動態の各要因について, さらに項目ごとに有効性, 安全性との関連性を直接確率計算法, ロジスティック回帰分析法にて検討した。有効性に関しては高齢患者におけるアミノグリコシドの先行投与が有効率の向上に対し, 有意な関連性を示した。安全性に関しては肝機能, 腎機能の検査値異常発現率に対する1日投与量の関連性が強いことが示された。特に, 高齢患者においては血清クレアチニン値, 重症度, 総ビリルビン濃度が影響要因になることが明らかとなった。さらに, 腎機能異常値発現率の影響要因となることが示されたトラフ濃度とその発現率についてノンパラメトリックな2値回帰分析により解析したところ, アミノグリコシドとの併用により発現率が高くなることが示されたが, いずれの場合においてもトラフ濃度を10μg/ml以下にコントロールすることにより, 発現率を15%以下に抑制できることが示された。バンコマイシンの適正使用を推進するうえで, 今回の検討において有効性, 安全性に関与する要因を明らかにできたことは意義深いものと考えられるが, 今回の検討によって, 必ずしも十分な結論が得られたとは言い難く, 今後さらに臨床データを蓄積し, より精度の高い検討をする必要があると思われる。
著者
萩原 眞一
出版者
慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会
雑誌
慶應義塾大学日吉紀要. 言語・文化・コミュニケーション (ISSN:09117229)
巻号頁・発行日
no.43, pp.17-35, 2011

The aim of this paper is to demonstrate the relationship between "the Cave of Mithra at Capri" Yeats visited in1925 and "that curious cave" in Botticelli's painting Mystic Nativity (1501) in the National Gallery of London, and to propose their possible connection with Porphyry's treatise On the Cave of the Nymphs.This paper first discusses Porphyry's discourse. It interprets 11 verses of Odyssey in which Homer describes the cave of the water-nymphs on the island of Ithaca as an allegory of the soul's cycle of descent and return. Yeats might have read Porphyry's exposition through the translation made by the English Platonist Tomas Taylor. Porphyry's Neoplatonic view of Homer's cave is epitomized in Kathleen Raine's illuminating remark: "Porphyry's cave is the womb by which man enters life; but, seen otherwise, it is the grave in which he dies to eternity."Secondly, this paper refers to Yeats's visit to the Mithraic cave of Capri. Yeats and his wife Georgie first travelled to Sicily, where they joined the Pounds, and then to Naples and Capri. Pound remembered Yeats trying out the acoustics at the amphitheatre near Syracuse, and staring in wonder at the "golden mosaic" of the superb Byzantine walls at Monreale near Palermo. Unfortunately, there is no photographic record of the poet's visit to Capri, only the recollections recorded in the prose of the Dedication to A Vision and in the note discussing his visit to the cave. Yeats recollects the details he observed: "When I saw the Cave of Mithra at Capri I wondered if that were Porphyry's Cave. The two entrances are there, one reached by a stair of 100 feet or so from the sea..., and one reached from above by some hundred and fifty steps...." Yeats clearly links the Mithraic cave having "two entrances" with "Porphyry's Cave" telling the cycle of generation.Thirdly, particular attention is paid to Botticelli's Mystic Nativity. According to Yeats, the inscription at the top of the picture says that "Botticelli's world is in the 'second woe' of the Apocalypse," and that "after certain other Apocalyptic events the Christ of the picture will appear." Botticelli's work reflects catastrophic expectations at the end of the 15th century which echo the rebellious Dominican priest Savonarola's apocalyptic visions. In conclusion, Botticelli's use of the "curious cave" located at the centre of Mystic Nativity seems an appropriate way of symbolising "Porphyry's Cave" as a metaphor of the world of matter into which the souls are incarnated.