著者
高橋 雄介 山形 伸二 木島 伸彦 繁桝 算男 大野 裕 安藤 寿康
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.276-289, 2007-03-31
被引用文献数
60

本研究は,Grayの強化感受性理論(Reinforcement Sensitivity Theory)に基づいた2つの気質次元,行動抑制系(Behavioral Inhibition System)と行動賦活系(Behavioral Activation System)について,日本語版尺度の信頼性・妥当性の検討(研究1),生物学的基盤との対応関係の検討(研究2)を行った。研究1では,大学生446名を対象に質問紙調査を行い,Carver & White(1994)が作成した尺度の日本語版の信頼性を確認した。また,因子的妥当性,構成概念妥当性の検討を行い,十分な結果を得た。研究2では,慶應義塾双生児プロジェクトによって集められた双生児を対象に質問紙調査を実施し,293組から有効な回答を得た。行動遺伝学的解析の結果,BISとBASは遺伝要因によって部分的に説明され,お互いに独立な遺伝因子から寄与を受けていることが分かった。
著者
敷島 千鶴 安藤 寿康
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.12-20, 2004-07-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
28
被引用文献数
3 4

社会的態度の家族内伝達を媒介するのは専ら家庭環境か, それとも親子間の遺伝要因も関与しているのか。家族の凝集性は伝達に寄与しないか。本研究では一卵性双生児164組と二卵性双生児96組を用いて, 権威主義的伝統主義・集団同調性・自尊感情という3種の社会的態度の個人差に寄与する要因を解明し, 家族内伝達を媒介するものについて検討した。結果, 価値基準を伴う社会的態度である権威主義的伝統主義・集団同調性の伝達は, 家族の共有環境によって媒介され, 共有環境の寄与は家族の凝集性に依存することが明らかにされた。一方, 自尊感情の親子伝達は, 家族の遺伝的関係によって媒介されていることが示された。構造方程式モデリングを用いた行動遺伝学的解析を行うことにより, 伝達を家族の家庭環境と遺伝的関係という両側面から捉えた, 精緻な家族内伝達モデルの構築が可能となった。
著者
安藤 寿康
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.170-179, 1996-12-20

発達心理学では, 家庭環境の影響を示すために, 親の与える家庭環境の指標と子どもの行動指標との相関を用いる。しかしそこには遺伝的影響が関与している可能性がある。本研究では秋田(1992)が行った「子どもの読書行動に及ぼす家庭環境の影響に関する研究」に対して, 行動遺伝学的視点から批判的追試を行った。小学6年生の30組の一卵性双生児ならびに20組の二卵性双生児が, その親とともに読書に関連する家庭環境に関する質問紙に回答した。子どもはさらに読書行動に対する関与度についても評定が求められた。親の認知する家庭環境の諸側面は子の認知するそれと中程度の相関を示した。図書館・本屋に連れて行ったり読み聞かせをするなど, 親が直接に子どもに与える環境を子が認知する仕方には, 遺伝的影響がみられた。また子どもの読書量についても遺伝的影響が示唆された。だが子どもの読書に対する好意度には, 遺伝的影響ではなく, 親の認知する蔵書量が影響を及ぼしていた。
著者
安藤 寿康
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.244-255, 2022 (Released:2023-07-04)
参考文献数
25

双生児法は遺伝と生育環境を共有する一卵性双生児と,遺伝の共有は一卵性の半分だが生育環境は一卵性と等しい二卵性双生児の行動指標の類似性を比較し,遺伝と環境の影響を明らかにする行動遺伝学の方法論である。古典的双生児法では,遺伝要因は分子レベルではなく潜在変数として扱われ,平均値ではなく分散に関心をもつところが特徴である。心理学のさまざまな領域で,すでに双生児研究の膨大な蓄積があり,あらゆる行動に有意で大きな遺伝的影響があること,とはいえどんな形質100%遺伝的ではなく環境の影響もあること,そして環境要因のほとんどは家族で共有されないことが普遍的に示されている。特に発達心理学的な関心としては,遺伝的影響が動的に変化し,新しい遺伝要因の発現(遺伝的イノベーション)や,知能の遺伝率が発達を通じて増加することが示されている。また多くの形質で年齢間の安定性は主に遺伝によることも一般的な知見である。これらの知見の具体例を,大規模横断研究のメタ分析や,筆者らの双生児縦断プロジェクトからコレスキー分解モデル,潜在成長モデル,交差遅延モデル,一卵性双生児の差分析の結果を通して紹介する。発達心理学はじめ社会科学全般で,行動遺伝学が明らかにしてきた遺伝のダイナミズムが必ずしも十分に認識されないまま,遺伝情報だけはありきたりな変数となりつつあるいま,改めて双生児法による行動遺伝学の知見に注目が必要である。
著者
安藤 寿康
出版者
慶応義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

人間行動遺伝学によって一般知能や外向性などの適性に高い遺伝規定性があることから、数学の問題解決という知的課題を、教授者や仲間関係の中でどのように学習してゆくか、その学習プロセスの中で遺伝要因がどのような役割を演じているかを、一卵性双生児の学習行動とその成果を比較することによって検討した。実験は2回にわたって行われた。実験1 中学2年生の8組の一卵性双生児を対象に2日間8時間の学習教室。異なる4種類の学習スタイル(個別問題解決、共同問題解決、個別問題訂正、教師との1対1活動)を双生児きょうだいは独立に経験させ、それぞれへの学習態度を質問紙法によって訪ねた。その結果、いくつかの学習態度(気楽、緊張、達成、弛緩、有能感)で、偶然よりも高い確率で、双生児きょうだい間の態度に一致が見られた。実験2 小学6年生から中学3年生までの双生児20組を対象に、個別学習と共同学習をそれぞれ4日間8時間行う。ここでは実験1のような質問紙による態度評価だけでなく、より詳しい行動観察と、何組かについて血液検査によるいくつかの神経生理学的形質の遺伝子型の診断も行った。また新奇性探究をはじめとする新しい性格検査、知能検査も実施し、それらの関係を分析してゆく予定である。
著者
安藤 寿康 岡田 光弘 長谷川 寿一 大野 裕 平石 界 岡田 光弘 長谷川 寿一 大野 裕 平石 界
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

800組の青年・成人期の双生児を対象とした行動遺伝学的研究から、認知能力、パーソナリティなどの遺伝・環境構造の解明を行った。一般知能の遺伝的実在性、社会的適応に及ぼす内的環境適応の過程、パーソナリティの普遍的遺伝構造モデルの提案、自尊心感情の縦断的変化などが成果としてなされた。また双生児データのデータベース化、webによる双生児調査フレームワークの確立もなされた。
著者
安藤 寿康 内田 亮子 長谷川 寿一 大野 裕 神庭 重信
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

研究実施・運営上の主な実績は以下の通りである。(1)双生児レジストリの拡大:神奈川県、千葉県を中心に住民基本台帳から地域の双生児の悉皆的住所調査を行って住所リスト(レジストリ)を拡大し9000組のデータを得た。これにより、東京都その隣接県の主要地域をカバーする規模の大きな双生児研究を実施する基盤が整備されたと言える。(2)双生児サンプルの拡大と維持:上記のレジストリに基づいて調査への参加を呼びかけ、新たに約500組の青年期双生児の新サンプルを得、双生児被験者の数は800組を超した。またこれまでに協力してくれた双生児の親からも、養育態度、社会的態度に関する双生児の親からもデータを収集した。これにより、養育態度や社会的態度の家族内伝達に関する遺伝と環境の構造に関する研究が可能となった。(3)データの追加と収集:旧サンプルから新たに事象関連電位{作動記憶、情報処理測度、個別式知能検査(WAIS)のデータを、また新サンプルからは質問紙による卵性診断、と各種パーソナリティや摂食行動などに関するデータを入手した。これにより、より信頼性の高い遺伝率や遺伝と環境の構造のモデル探索が可能となった。これらの分析には構造方程式モデリングによるモデル適合を行った。(4)脳波解析プログラムの開発、脳波測定環境の改善:現在の測定状況に適合した特別の脳波解析プログラムを開発するとともに、正確な脳波測定のためにシールドルームを設置した。これは予定外の都合により脳波測定を行う実験室の場所の移動を余儀なくされたためであったが、結果的に実験条件の改善に寄与することとなった。
著者
安藤 寿康 坂上 雅道 染谷 芳明
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

教育学習は個体学習、観察学習とは異なる進化的に獲得されたヒトに顕著な学習様式と考えられ、それに対応する特殊な脳活動があることが予想される。本研究では、指運動の系列の記憶と再生を、個体・観察・教育の3学習条件で実行している際の脳活動をfMRIによって把握することを目的とした。予備実験の段階として、課題の検討と開発を経て、個体と観察学習の脳活動の指運動データを収集した。その結果、個体学習では視覚野、一次感覚運動野、補足運動野、被殻、視床視覚野、小脳、視床の賦活が、また観察学習では視覚野、被殻、両側中側頭回、縁上回、両側前頭前野の賦活が顕著であり、学習様式間の差が先行研究と整合的に見いだされた。
著者
安藤 寿康 坂上 雅道 小林 千浩 藤澤 啓子 山形 伸二 戸田 達史 豊田 敦 染谷 芳明
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

児童期と成人期の2コホートによる双生児縦断研究を実施した。児童期は小学5年生(11歳児)約200組に対する質問紙と120組への個別発達調査を行った。読み能力や実行機能の発達的変化に及ぼす遺伝と環境の変化と安定性、リズム行動に及ぼす遺伝と環境の交互作用、きょうだい関係の特殊性などが明らかになった。成人期では社会的達成・心身の健康度などの質問紙調査を実施し約200組から回答を得た。また認知能力の不一致一卵性の安静時脳画像とエピジェネティクスのデータを収集した。下側頭回のネットワークの差が一卵性双生児間のIQ差と関連のあることが示された。向社会性への遺伝的寄与が状況により変化することが示された。
著者
安藤 寿康
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本研究は教育学を生物学に位置づけ、「進化教育学」という新たな分野を開拓することを目指し、「教育学習」というヒトに顕著な学習様式が、ヒト以外の動物も行なう「個体学習」や「観察学習」とは異なる独特な脳活動によることを、fMRIによる実験課題によって示すことを目的とし、指運動学習を自分のペースで行う「個体学習」、見本を観察して行う「観察学習」、教師が指導する「教育学習」の三学習条件で実施し、脳活動の差異を検討した。個体学習ではさまざまな部位が活動しており、個人個人が自分の仕方で学習している様子がうかがえたのに対し、観察学習や教育学習では心の理論に関与する部位の活動が高くなっていた。
著者
安藤 寿康
出版者
慶應義塾大学
雑誌
戦略的な研究開発の推進 社会技術研究開発事業
巻号頁・発行日
2004

本研究は子どもの身体的、心理行動的、脳生理学的な特性の正常な、あるいは問題のある発達に関わる遺伝要因と環境要因の相互作用の過程を、双生児法を用いて明らかにすることを目的とする。そのために東京都とその隣接県で2004年11月から2006年3月にかけて出生する全双生児の50%にあたる約2000組のコホートサンプルを構築し、5年間の縦断発育調査を実施、個人の遺伝的素質に適合する教育システムの設計の可能性を考察するための基礎的な情報を得る。
著者
安藤 寿康
出版者
慶応義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

小学6年生の双生児34組(一卵性19組、二卵性15組)を対象に、英語教授法に関する双生児統制実験を行った。すなわち2つの異なる教授法群(コミュニカティヴ・アプローチ「CA」と文法的アプローチ「GA」)に双生児きょうだいを別々に割り当て、8日間のべ7時間の教授・学習過程後の成果を比較した。ここで一卵性双生児は遺伝要因を完全に共有しているので、50%の遺伝的関係である二卵性双生児と比較することによって、学習成果に及ぼす遺伝要因の効果、教授条件の効果ならびに両者の交互作用を明らかにすることが可能である。口頭による会話能力では遺伝規定性が見いだされたが、筆記による読む・書く・聞く・文法の各能力では遺伝規定性は見いだされなかった。一般知能、言語性知能、ならびに理科の能力の3つの適性次元と各教授法との間に、統計的にマージナルな交互作用が見いだされた。これらはいずれも、それぞれの適性において、高いものではGAが、低いものではCAがそれぞれ有利であることを示したもので、これまでの研究を追証するものであった。これは表現型と教授法との交互作用である。しかし各適性次元の双生児きょうだいの平均値を遺伝子型の推定値とみなすと、遺伝子型と教授法との間に、その傾向はあるが統計的に有意な交互作用は見いだされなかった。なお筆記能力ではGAが、また会話能力ではCAがそれぞれ有意であることは、本研究の教授法の妥当性を示したものといえる。
著者
敷島 千鶴 木島 伸彦 安藤 寿康
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.197-200, 2012-11-30 (Released:2013-02-11)
参考文献数
17
被引用文献数
1

Using a behavioral genetic approach, we examined the association between Cloninger’s Temperament and Character Inventory (TCI) and IQ in terms of underlying genetic and environmental etiological overlap. Using the TCI personality dimensions (4 temperaments and 3 character traits) and IQ data for 199 pairs of adolescent and young adult twins, we found a genetic negative correlation between one of the character traits (self-transcendence) and IQ. In contrast, we did not find significant environmental correlations between any of the personality dimensions and IQ. These results suggest that contributions from the same genetic factor operate on both self-transcendence and IQ.
著者
岡田 光弘 安藤 寿康 大野 裕
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

1)昨年度に引き続き線形論理や種々の新しい論理学理論の立場から、伝統的な認知科学的理論推論モデルや理論哲学的論理推論モデルの批判的分析や改訂を行った。特に、メンタルモデル理論とメンタルロジック理論に関する認知心理学の古典的論争やシンタクスとセマンティクスに関する論理哲学、情報科学等における二元論を現代論理学的観点から見直した。2)これまでは比較的少数の被験者調査を行うのが常であったが、統計的手法による実証的なデータ解析による大規模調査の方法論の研究を行った。「Baroco論理推論課題集」と呼ばれる演繹推論標準課題集を本申請グループが開発してきたが、これをさらに改良した。この課題集を用いて通常のIQ課題の関連性や、図形的表現による論理推論と言語的理論推論の(パフォーマンス)比較、抽象的推論と内容的推論の比較、信念相反的推論や領域依存的推論、論証構成と反例検索などに関わるデータの分析を行った。白血球中のRNAの転写量の差を調べるという方法論を導入することによって認知能力の関連遺伝子の所在とその効果量について調査する方法論を開発した。
著者
安藤 寿康
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.p96-107, 1992-03
被引用文献数
1

The present paper reviews the methodology and findings of recent human behavioral genetics in relation to education. Under "interactionism", genetic factors in human development and education have been minimized or treated as taboo. Genetic effect is, however, mainly additive and, heritabilities of IQ and various personality traits are considered to be about 50% in adulthood. Further more, concerning IQ, genetic effects tend to increase from infancy to childhood because of genotype-environment correlation. Recent behavioral genetics are also focusing on environmental effects and the concepts of shared / nonshared environment have been introduced. These findings suggest that genetic factors, are not only related to learning and development but also an important role in the making of one's individuality. Finally, the educational implications of human behavioral genetics are making the topic for a discussion.
著者
鈴木 国威 安藤 寿康
出版者
文教大学生活科学研究所
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.141-145, 2011-03-01

本研究では、双生児の生後38ヶ月と50ヶ月の箸の持ち方に着目し、一卵性と二卵性の双生児ペアー内の類似度を比較することで、その遺伝と環境の影響の有無を検討した。生後38ヶ月の一卵性ペアーと二卵性ペアー内の箸の持ち方の類似度はほぼ同程度であり、他方生後50ヶ月では、一卵性双生児の方が二卵性双生児よりも箸の持ち方の類似度が高かった。これらの結果は、生後38ヶ月では、箸の持ち方には環境の要因が強く影響を受けており、生後50ヶ月では遺伝の影響が大きいことを示している。箸の持ち方の環境要因として、家庭や保育園などの大人との共有する場が重要ではないかと推察した。また、箸の使用において、遺伝と環境の要因が発達と共に変化する可能性を示した。