- 著者
-
安藤 寿康
- 出版者
- 一般社団法人 日本発達心理学会
- 雑誌
- 発達心理学研究 (ISSN:09159029)
- 巻号頁・発行日
- vol.33, no.4, pp.244-255, 2022 (Released:2023-07-04)
- 参考文献数
- 25
双生児法は遺伝と生育環境を共有する一卵性双生児と,遺伝の共有は一卵性の半分だが生育環境は一卵性と等しい二卵性双生児の行動指標の類似性を比較し,遺伝と環境の影響を明らかにする行動遺伝学の方法論である。古典的双生児法では,遺伝要因は分子レベルではなく潜在変数として扱われ,平均値ではなく分散に関心をもつところが特徴である。心理学のさまざまな領域で,すでに双生児研究の膨大な蓄積があり,あらゆる行動に有意で大きな遺伝的影響があること,とはいえどんな形質100%遺伝的ではなく環境の影響もあること,そして環境要因のほとんどは家族で共有されないことが普遍的に示されている。特に発達心理学的な関心としては,遺伝的影響が動的に変化し,新しい遺伝要因の発現(遺伝的イノベーション)や,知能の遺伝率が発達を通じて増加することが示されている。また多くの形質で年齢間の安定性は主に遺伝によることも一般的な知見である。これらの知見の具体例を,大規模横断研究のメタ分析や,筆者らの双生児縦断プロジェクトからコレスキー分解モデル,潜在成長モデル,交差遅延モデル,一卵性双生児の差分析の結果を通して紹介する。発達心理学はじめ社会科学全般で,行動遺伝学が明らかにしてきた遺伝のダイナミズムが必ずしも十分に認識されないまま,遺伝情報だけはありきたりな変数となりつつあるいま,改めて双生児法による行動遺伝学の知見に注目が必要である。