著者
糸林 誉史
出版者
文化学園大学・文化学園大学短期大学部
雑誌
文化学園大学・文化学園大学短期大学部紀要 = Journal of Bunka Gakuen University and Bunka Gakuen Junior College (ISSN:24325848)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.1-11, 2017-01

モラル・エコノミーは,社会に埋め込まれ道徳的規範を伴った社会関係に焦点を当てることの重要性を指摘した。だが,地域社会や規範を本質的なものとして想定しており,その規範がなにに由来するのか,どのような実践の場で生成しているのか,その条件とは何かなど,動態的なプロセスや市場経済との関係についての究明が不十分であった。構造的な組み合わせとして文化と経済を分析することの困難を乗り越え,経済的な活動がいかに生じているのか,それが文化的に構築された文脈の中にいかに埋め込まれているのかを明らかにする必要がある。本研究の目的は,1970年代のモラル・エコノミー論争と1990年代の記号論的転回を経由して「経済的なもの」を捉えるための社会的文脈へと拡張するために,各分野の理論を比較検討することによって,結合体,連結体,ネットワークなどの概念と「経済的なもの」をめぐる説明モデルの内容や有効性を検証することである。また,近年,再評価の高まりつつある記述モデルとしての「アクターネットワーク理論」の可能性をみることで,物質的記号論の次元が切り開く社会形成の邂逅の層位の可能性についても検討を加えたい1)。
著者
東中 竜一郎 船越 孝太郎 荒木 雅弘 塚原 裕史 小林 優佳 水上 雅博
出版者
一般社団法人 言語処理学会
雑誌
自然言語処理 (ISSN:13407619)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.59-86, 2016-01-25 (Released:2016-04-25)
参考文献数
32
被引用文献数
6

対話システムが扱う対話は大きく課題指向対話と非課題指向対話(雑談対話)に分けられるが,近年Webからの自動知識獲得が可能になったことなどから,雑談対話への関心が高まってきている.課題指向対話におけるエラーに関しては一定量の先行研究が存在するが,雑談対話に関するエラーの研究はまだ少ない.対話システムがエラーを起こせば対話の破綻が起こり,ユーザが円滑に対話を継続することができなくなる.しかし複雑かつ多様な内部構造を持つ対話システムの内部で起きているエラーを直接分析することは容易ではない.そこで我々はまず,音声誤認識の影響を受けないテキストチャットにおける雑談対話の表層に注目し,破綻の類型化に取り組んだ.本論文では,雑談対話における破綻の類型化のために必要な人・機械間の雑談対話コーパスの構築について報告し,コーパスに含まれる破綻について分析・議論する.
著者
江林 明志 井上 和明 高橋 和明 渡邊 綱正 山田 雅哉 安田 宏 三代 俊治 与芝 真彰
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.60-64, 2009 (Released:2009-03-02)
参考文献数
25
被引用文献数
3 4

E型肝炎ウイルス(HEV)はアジア・アフリカにおける流行性肝炎の重要な原因で,一般にはself-limitedな経過を取るが,妊婦では重症化しやすく致死率が高く胎児の合併症も多いとされる.今回我々は本邦で初めて妊娠中のHEV感染により急性肝炎重症型に陥った邦人妊婦例を経験した.本例はインドに長期滞在して帰国後2週間で発症し,入院時の血清よりgenotype 1のHEV RNA(JHN-Kan07R,AB447389)が検出された.抗ウイルス治療開始後速やかに肝機能は回復し,早産であったものの周産期の合併症もなく,母児共にその後は順調な経過をとった.
著者
若林 功
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.5-32, 2009-03-30 (Released:2017-06-28)

発達障害者の就労支援に関する応用行動分析学的な手法を用いた研究に関する文献レビューはわが国ではあまり見られない。本稿では、米国における発達障害者の職業に関するスキル習得の報告を中心に、まず70年代から90年代中盤までの研究の流れを概観した。続いて、1998年以降の応用行動分析学に基づいた発達障害者への就労支援に関する研究について概観し、「作業技能(正確性・効率)」「作業技能(作業の自発的開始・課題従事・終了)」「対人生活技能」「問題行動低減」「就労支援者への指導」に分け内容を述べた。そして、米国の研究報告では、十分にエビデンスレベルが確保されているとは言えないまでも、有効な支援方法を開発しようとする流れが確かにあることを確認した。一方で、軽度発達障害者への取り組みや職業相談・職業評価等に関してはあまり応用行動分析学に基づいた研究が行なわれていないことも示された。また、なぜ応用行動分析学が発達障害者の障害者就労支援に有効なのか考察した。
著者
大嶋 弘子 内藤 俊夫 久木野 純子 福田 友紀子 坂本 直治 三橋 和則 武田 直人 奥村 徹 礒沼 弘 渡邉 一功 林田 康男
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.167-173, 2005-06-30
参考文献数
18
被引用文献数
1

目的:特定の診療科を決めかねる病態として不明熱がある.順天堂大学医学部附属順天堂医院総合診療科を初診し入院を要した不明熱患者215症例について,今後の診断の参考とするためその特徴を解析し検討した.対象および方法:1994年10月から2004年8月までに当科を初診し,入院治療が必要となった成人の原因不明の発熱患者215名について検討した.対象患者の発熱の原因を疾患別に分類し検討した.また,65歳以上の高齢者と65歳未満の非高齢者での原因疾患について比較を行った.結果:原因疾患として,感染症が102名(47.4%),非感染性炎症性疾患が40名(18.6%),悪性疾患が14名(6.5%),その他の疾患が21名(9.8%),原因不明が38名(17.7%)であった.頻度の高かった伝染性単核球症・髄膜炎・深部膿瘍・感染性心内膜炎の中で,初診時の平均年齢は深部膿瘍で有意に高く,平均体温は伝染性単核症で有意に低かった.65歳以上の高齢者では65歳未満の患者に比較し,感染症を原因とする不明熱の割合が低く,原因不明の症例が多かった.85歳以上の超高齢者も7名含まれた.考察:不明熱の原因の約半数は感染症であった.特に,伝染性単核球症・感染性心内膜炎・深部膿瘍・髄膜炎の頻度が高く注意が必要である.HIV関連不明熱・麻疹・風疹の患者も比較的多く認められた.悪性腫瘍は多岐に渡ったが,画像検査の普及や進歩のため不明熱の原因となることは少なくなっており,過去の報告に比べ割合が低下していた.7症例は診断確定までに60日以上を要しており,周期的な発熱のみを症状とし,診断の手掛かりが得られ難かった症例であった.この中で死亡後に病理解剖により原疾患が判明した患者が2名おり,共に悪性リンパ腫と診断された.不明熱患者の診断には,感染症を中心とした多疾患にわたる知識が必要であると考えられた.
著者
神林 寿幸
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.25-35, 2015 (Released:2016-05-19)
参考文献数
22

近年、教員の多忙化が政策課題とされており、教育学研究でも事務処理などの周辺的職務に伴う教員の多忙化が複数指摘されてきた。しかしこれらの指摘は十分な実証に基づくものではなかった。そこで本稿では現存する1950~60年代と2000年代後半の教員の労働時間調査について、一般線形モデルを用いた比較を行った。その結果、1950~60年代に比べて、2000年代後半以降の教員は、事務処理等の周辺的職務に長い時間を費やしているとは必ずしもいえず、他方で教育活動(特に課外活動)に費やす時間が長いことが明らかとなった。

2 0 0 0 OA 東京方眼図

著者
森鴎外 (林太郎) 立案
出版者
春陽堂
巻号頁・発行日
vol.2冊, 1909
著者
今村 祐一朗 小嶋 圭介 廣佐古 進 平田 圭 東 美保子 柿本 裕貴 岡林 比呂子 濱田 昌平 渡邉 玲子 興梠 博次
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.273-276, 2016-08-31 (Released:2016-09-15)
参考文献数
7

慢性呼吸器疾患患者の排泄行動時の,酸素飽和度,息切れの程度の変化を検討した研究は少ない.本研究の目的は,排泄中の低酸素血症を客観的に評価することである.2015年2月から9月の期間に当診療科に入院した慢性呼吸器疾患患者15名に対して24時間 SpO2モニタリングを行い,排尿・排便中のSpO2値低下の程度を分析した.対象患者の平均年齢は61.2歳,男性9名,女性6名であり,基礎疾患は間質性肺炎 10名,慢性閉塞性肺疾患(COPD)2名,リンパ脈管筋腫症1名,また,肺切除術後患者が2名であった。SpO2値が90%未満となった患者割合は,排尿時 66.7%,排便時 71.4%であった.6分間歩行試験が行われていた7名の患者において,排泄時のSpO2値低下の程度は歩行時と同程度であった。排尿・排便時に歩行時以上のSpO2値低下を認める場合もあった.今後,排泄中の酸素吸入量の再設定や呼吸法の指導が必要である.
著者
山田 知佳 小林 恵子 関 奈緒
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.718-726, 2017 (Released:2018-01-05)
参考文献数
21

目的 問題飲酒の早期発見と適切な介入のための示唆を得るために,交代勤務労働者の飲酒行動の特徴と問題飲酒に関連する要因を明らかにする。方法 A工場の全従業員を対象に無記名自記式質問紙調査を実施した。交代勤務労働者が全員男性であったため,性差を考慮し,日勤者から女性を除外し,230人を分析対象とした。調査内容は問題飲酒の有無,飲酒行動,問題飲酒の関連項目等とし,交代勤務と問題飲酒,交代勤務および問題飲酒と各飲酒行動等の関連について分析を行った。また「問題飲酒の有無」を従属変数とし,単変量解析でP<0.20の変数を独立変数として,年齢を強制投入した上で,変数減少法による二項ロジスティック回帰分析を行った。結果 交代勤務労働者の飲酒行動の特徴として,「自宅」での飲酒が日勤者に比べ有意に多かった(P=0.037)。交代勤務労働者の飲酒理由は日勤者に比べ「よく眠れるように」(P=0.006)が有意に多く,入眠のために飲酒することがある交代勤務労働者が,日勤者に比べ有意に多かった(P<0.001)。 「入眠のための飲酒あり」(OR 6.38, 95%CI:2.11-19.29, P=0.001),「(職業性ストレスの)身体的負担が高いこと」(OR 2.24, 95%CI:1.11-4.51, P=0.024)は問題飲酒のリスク増加と有意に関連が認められ,「家族・友人からのサポートが高いこと」は問題飲酒のリスク減少と有意な関連が認められた(OR 0.75, 95%CI:0.58-0.97, P=0.030)。結論 男性交代勤務労働者の飲酒行動の特徴と問題飲酒の関連要因について検討した結果,日勤者に比べ「自宅での飲酒」,「入眠のための飲酒」が有意に多いことが特徴であった。 男性交代勤務労働者の問題飲酒のリスク増加には,「入眠のための飲酒あり」,「身体的負担が高い」ことが関連し,「家族・友人からのサポート」は問題飲酒のリスク減少に関連していたことから,夜間の勤務終了後の入眠困難感を把握し,飲酒以外の対処行動を支援するとともに,友人や家族からのサポートの重要性について啓発が必要である。
著者
土井 俊祐 井出 博生 井上 崇 北山 裕子 西出 朱美 中村 利仁 藤田 伸輔 鈴木 隆弘 高林 克日己
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.157-166, 2015 (Released:2016-10-21)
参考文献数
8

急速に高齢化が進む首都圏においては,医療機関が充実しているにもかかわらず,今後近隣の病院を受診できない事態が想定される.そこで本研究では,交通解析に基づく患者受療圏モデルにより,患者が通院できる範囲を考慮した上で将来の医療の需給バランスを推計する手法を検討した.方法として,1都3県の500 mメッシュごとに,国勢調査人口と各政府統計から2040年までの病院への入院患者数を推計した.病院までの移動時間は車で60分以内としてシミュレートし,患者数と各病院の病床数と比較した.結果として,2020年以降病床数の不足するメッシュが発生し,東京を中心に広がっていくことが示された.また,平均在院日数等のパラメータを変化させ需要超過の推移を見たところ,需要超過量の減少傾向を地理的・経時的に見ることができたことから,本研究により医療需要の急増に備える対策を検討する上で,具体的な目標値を提供することに期待できる.
著者
柳下 和夫 若林 宏明
出版者
金沢工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は海に近い砂漠に雨を降らせようというものである。その方法は砂漠に近い海の表面に黒色物質を浮かべる。これが太陽光を全部吸収し海面の温度が上昇する。すると海水の蒸発が増える。一方砂漠にも黒色物質を撒いておくと太陽光が全部吸収される。すると地面の温度が上昇し空気は膨張し軽くなる。そして上昇気流となる.その下は低気圧になる。そこへ海上の水蒸気が流れ込んでくる。すると上昇気流に引きずられて上昇する。そして上空で断熱膨張し、温度が下がり雲ができて雨が降るというのである。海に浮かべる物質としてどんなものが良いかいくつかの材料をテストした。水道水と塩水で差はあるが黒色物質を浮かべると最高41%も蒸発が加速されることが分かった。一方砂漠の上にも黒色物質を撒くとどれくらい太陽光熱が吸収されるかを調べるために、世界各国の砂漠の砂を入手し光の反射率を測定した。その結果砂の色にもよるが1/3ないし2/3の反射率であった。これを黒く塗れば吸収されるエネルギーは1.5倍ないし3倍増え、その分だけ余計に空気を暖めることができる。また一度砂漠緑化に成功すれば、植物からの蒸発水分により、自然の雨が降って緑化が持続するかどうかを,好塩性植物によるシミュレーションしたところ雨量が増えることが分かった。上昇気流を起こすものとして,大火や雨乞いがあるが、その後雨が降ったかは定かではない。この方法で砂漠に雨を降らせば良いこと尽くめかというと、マイナス面もある。そこでテクノロジーアセスメントを行ない、問題点を抽出した。海の生態系に対する配慮が必要なことなどが分かった。海と砂漠の距離がどれくらい離れていても水蒸気が移動するかについては,実験に失敗し分からなかった。