著者
佐々木 明彦 苅谷 愛彦
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.283-294, 2000-12-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
26
被引用文献数
3 4

三国山地平標山の亜高山帯斜面に分布する泥炭質土層の生成開始期を検討するために, 48地点で土層断面を調査した。その結果, 鬼界アカホヤ (7,200cal y BP), 浅間平標山第3 (6,600cal y BP), 妙高赤倉 (6,600cal y BP), および浅間平標山第2 (6,300cal y BP) などの完新世中期のテフラを挟む泥炭質土層が斜面の随所に分布することが明らかとなった。テフラの年代と分布深度から見積もられる泥炭質土層の平均堆積速度から, 各試坑における泥炭質土層の生成開始年代を推定すると, 早いところで9,000cal y BP頃, 一般には8,000~7,000cal y BPであることが判明した。これは, 他の日本海側多雪山地における泥炭質土層の一般的な生成開始年代と調和的である。一方, 完新世後半に生成し始めた泥炭質土層も存在するとみられるが, その分布は化石残雪凹地の中心部のごく狭い領域に限られる。
著者
奥村 晃史 井村 隆介 今泉 俊文 東郷 正美 澤 祥 水野 清秀 苅谷 愛彦 斉藤 英二
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.50, no.appendix, pp.35-51, 1998-03-31 (Released:2010-11-17)
参考文献数
25
被引用文献数
15

The Itoigawa?Shizuoka tectonic line active fault system (ISTL) is one of the longest and the most complex active fault systems on land in Japan with very high activity. The system comprises the northern (55 km long east dipping reverse faults), the middle (60 km long left-lateral strike-slip faults), and the southern (35 km long west-dipping reverse faults) sections. The estimates of the average slip rate range 2 to over 10 m/103 yr in the system. This high slip rate and probable quiescense of the system exceeding 1150 years indicate the possibility of a surface faulting event in the near future. Since historic and instrumental records of seismicity along the ISTL is very poor, geological study on the paleoseismology of the ISTL has an important clue to evaluate the long-term seismic risks of the fault zone. In 1995 and 1996 the Geological Survey of Japan opened six exploratory trenches in the fault system and the results from the three in the northern section are reported in this paper. The Hakuba trench on the Kamishiro fault brought four earthquake events since 6738 BP (dendrocorrected radiocarbon age in calendar year) with the average recurrence interval to be between 1108 and 2430 years. The last event here postdates 1538 BP. The Omachi trench exposed the last event after 6th to 7th century AD and before 12th century at the latest, Only one event after 3rd to 4th century AD was identified in the Ikeda trench. The timing of the last event from each trench is between 500 and 1500 BP, which interval coincides with the timing of the last event in the middle section as well as the 841 AD or 762 AD earthquake reported in historical documents. The dating of the upper age limit of the last event is not precise enough to correlate the event with any of known earthquake. The recurrence interval of the northern section, however, is significantly longer than that of the Gofukuji fault. The difference in the recurrence time from one section to another is concordant with the difference in the apparent slip rate.
著者
栗本 享宥 苅谷 愛彦 目代 邦康 山田 隆二 木村 誇 佐野 雅規 對馬 あかね 李 貞 中塚 武
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

岐阜県北西部から中央部にかけて走る庄川断層帯は,1586年天正地震の起震断層帯として強く疑われている断層帯であり,4条の活断層から成る.その最南端部である三尾河断層の南に移動体体積が2.2×107m3の大規模地すべり地が存在する.これは伝承で「水沢上の大割れ」と呼ばれ,天正地震で生じたとされてきた.しかし,当地すべりに関する地形学・地質学的な観点からの詳しい検討はなかった.演者らは,当地すべりを水沢上地すべり(以下ML)と命名し,現地踏査と1 m-DEMデータから作成した各種主題図(地形陰影図など)に基づく地形判読と現地で採取した試料の年代測定および年代値の分析を基礎として,MLの地形・地質特性や発生時期,誘因を検討した.やや開析された円弧状の滑落崖は北東方向に開き,その直下に地すべり移動体が分布する.移動体末端の一部は直下の河川(吉田川)を越えて対岸の谷壁斜面に乗り上げる.また移動体の一部は比高40~50 mの段丘状地形を成す.滑落崖,移動体の形状はそれらが複数回の地すべりで形成されたことを示唆し,地表面には地すべりに起因する大小の凹凸地形が発達する.地すべり移動体は不淘汰・無層理の安山岩角礫と細粒の基質から成り,礫にはジグソークラックが発達する.Loc. 1の左岸側露頭では移動体構成物質中に,地すべり移動時に巻き込まれたと推定されるクロボク状表土の破片が認められる.この破片に含まれる木片2点の較正年代(2δ)はcal AD 1492~1645の範囲に及ぶ.また,地すべり移動体が吉田川を堰き止めて生じた層厚約2 mの湖沼・氾濫原堆積物も確認できる.この湖沼・氾濫原堆積物の下限の約90 cm上位から採取した直径約20 cmの丸太材の外周部の14C年代はcal AD1513~1618であり,細胞セルロース酸素同位体比年輪年代測定によってAD1615~1620頃と推定された同材の枯死年代とは調和的である.以上のように,MLの規模や地すべり移動体と堰き止め湖沼・氾濫原堆積物の層相および年代から,MLの誘因は強震動が第一に想定される.試料の年代からみて,誘因が1586年天正地震であった可能性は高まったといえる.ただし歴史地震学において提唱されている天正地震の本質から,本震と考えられる1586年1月18日の地震でMLが形成されたか否かといった問題について,なお検討を加える余地がある.同時に1596年慶長伏見地震との関係についても検討の対象となる.
著者
苅谷 愛彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.149-164, 2012 (Released:2012-03-26)
参考文献数
24
被引用文献数
1

南米ペルーの中央アンデスには,標高4,000 mを上回る広大な高原であるプナ(アルチプラノ)が広がる.一方,プナは深さ2,000 m以上の河谷に刻まれる.広い高原と深い河谷という,二つの対照的な地形はインカ時代,あるいはそれ以前のプレ・インカ時代から集落の形成や農耕・牧畜の発達など,中央アンデスの人間生活に有形無形の影響を与えてきた.特に,プナを刻む深い河谷の谷壁には巨大な地すべりが随所に発達し,緩傾斜地をもたらしている.それらの地すべり地は集落や耕地として選択的に利用されてきた.本稿では,ペルー南部のアレキーパ県コタワシやプイカ周辺において,プナの縁や河谷の谷壁で認められる大規模地すべりに着目し,その発達過程や現在の様相を述べる.また人間生活との関わりも論述する.
著者
苅谷 愛彦 松四 雄騎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
巻号頁・発行日
pp.000156, 2018 (Released:2018-06-27)
被引用文献数
34

安倍川上流部にある静岡県静岡市有東木地区(東沢流域)では約6000年前に泥流が発生した.その後,長い時間差をおかず身延山地の主稜線付近を発生域とする岩石なだれ(深層崩壊)が起こった.約5500年前には泥流堆積物や岩石なだれ堆積物を覆うように,流域の広範囲に土石流が発生した.以上のマスムーブメントの誘因は不明であるが,駿河-南海トラフ起源の海溝型巨大地震が関係した可能性がある.
著者
徳本 直生 苅谷 愛彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.117, 2022 (Released:2022-03-28)

【はじめに】飛騨山脈・立山火山南部に位置する五色ヶ原には,モレーン状の微高地群が分布する.従来の研究では,これらは氷河成と考えられてきたが,次のような問題点が挙げられる.すなわち,i)航空レーザ測量技術の進展による高精度・高解像度な地形解析が可能になって以降の研究はほとんどなされていないこと,ii)大縮尺での微地形判読がなされていないこと,iii)詳細な地質学的記載などの根拠に基づく議論に乏しいこと,iv)成因について地形形成作用が多角的に検討されていないこと,である.飛騨山脈の氷河地形に関しては,成因が再検討された結果,崩壊成と結論付けられた例が増えている.以上の経緯から,本研究では五色ヶ原に分布するモレーン状地形について,1 m-DEMを用いた地形判読と現地踏査を基にその成因を再検討した.【結果】モレーン状地形は,細長く直線に近い堤防状地形(lv),楕円形のマウンド状地形(md),環状に湾曲するループ状地形(md)の3つの形態の微高地からなることがわかった.lv は比高0.5-2 m,長さ数mから約150 m,幅2-10 mであり,長軸の走向は台地の一般最大傾斜方向とほぼ一致する.md は比高最大5 m,長径数mから40 mである.lp は比高数m,幅数mから20 mであり,長さ100 m近く連続するものが多い.md と lp は,lv の斜面下方で卓越する.また,これら微高地群の間には凹地が分布する.凹地は大きなもので長径30 m前後であり,周囲にlpを持つものもある.踏査の結果,モレーン状地形は安山岩・アグルチネート岩塊を含む不淘汰岩屑層からなることがわかった.地表面に巨礫が濃集し,細粒物質に乏しい.擦痕のついた基盤岩や氷食礫は認められない.【考察】モレーン状地形の成因を再検討し,次の結論を得た.a)モレーン状地形は氷成とされてきたが,以下の点で否定される.すなわち,氷河の推定流動経路に氷河侵食地形(氷河擦痕のある基盤岩や氷食礫)が認められないこと,モレーン状地形の構成物質に氷河底変形構造など氷河地質特有の構造が認められないこと,である.b)モレーン状地形は岩石なだれで形成されたと考えられる.その発生域は,lv の長軸方向の延長から五色ヶ原西方にかつて存在した火山体と考えられる.c)微高地群間の凹地は,岩石なだれが雪氷塊を含んだ状態で定置したことに起因する.移動物質内の雪氷塊が融解することで地表面が陥没し,凹地が形成された.これは,岩石なだれ発生域の火山体が氷河や大型越年雪渓を湛えていたことを前提とする.d)この前提に依れば,岩石なだれの発生年代は更新世後期と考えられる.
著者
鈴木 輝美 苅谷 愛彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

山梨県御坂山地西部に位置する四尾連湖(湖面標高885 m,深度9.9 m)について,これまで演者らは地形・地質情報に基づきその成因と形成年代,発達過程を議論した(鈴木ほか2014 JpGU HDS29-P06;鈴木・苅谷2015 JpGU HDS25-P02)。その後の調査で新たに得た地形・地質情報や年代値から,四尾連湖を形成した地すべりの発生過程や,地すべり性湖沼の形成・消滅過程をさらに考察した。本大会では,これまでの議論と新たな成果を総合した四尾連湖の地形発達史について報告する。 現在の四尾連湖が成立する過程において,地すべりが重要な役割を演じてきたことが確認できた。この地域における地すべりの活動は,50 cal ka以降,繰り返されてきたと考えられる。地すべり性の地形変化により,地すべり性湖沼が成立してきた。実際,地すべり地内の数地点に湖成堆積物が分布しており,古湖沼の存在が示唆される。湖成堆積物の分布地点や分布高度から古湖沼は3つ存在していたと考えられる(古湖沼A,B,C)。これらの古湖沼は地すべり移動体にせき止められて形成されたと考えられる。湖成堆積物中の年代試料から得た14C年代値より,3つの古湖沼の形成は50~47 cal kaに完了したと考えられる。特に,現在の四尾連湖に継承された原初的な四尾連湖は50 cal ka頃に最初に成立し,当時の四尾連湖は東西に長い湖水域を持っていたと考えられる。その後,この原初四尾連湖は二次地すべり活動(47 cal ka頃)によって湖水域に流入した地すべり移動体で分断され,古湖沼Aが成立した。また原初四尾連湖の形成とほぼ同時に,古湖沼Bと同Cも成立した。さらに,現四尾連湖の湖岸堆積物を解析したところ,3.5 cal ka以前には四尾連湖の湖面水位が約1 m低かったことも明らかとなった。このように,現四尾連湖は湖水域の変化を伴ったものの現在まで約50 kyにわたり存続してきたが,古湖沼A,B,Cは地形変化による排水や土砂流入により消失した。 山地域においては,地すべりによって湖沼が形成され,水域が変化しつつ,存続したり消失したりする。地すべり性湖沼の地形発達は湖成堆積物から読み取ることが可能であり,さらにそれによって過去の地すべり活動についても考察することができる。地すべり地内においては地すべり変動とそれに伴う湖沼の形成や地形発達は密接に関わっているものと考えられる。
著者
山田 隆二 木村 誇 苅谷 愛彦 佐野 雅規 對馬 あかね 李 貞 中塚 武 國分(齋藤) 陽子 井上 公夫
出版者
公益社団法人 砂防学会
雑誌
砂防学会誌 (ISSN:02868385)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.3-14, 2021-01-15 (Released:2022-01-17)
参考文献数
46
被引用文献数
1

Establishing chronologies for large-scale landslides is crucial to understand the cause of the mass movements and to take measures against potential hazards in future. We discuss the applicability of dating methods for determining landslide chronologies in relation to the type of samples and the stratigraphic setting of sampling location. Case studies are carried out with fossil wood samples buried in the deposits of large-scale landslides in two areas of the Japanese Alps region in historic times ; Dondokosawa rock avalanche (DRA) and Ohtsukigawa debris avalanche (ODA). Ages are determined by accelerator mass spectrometry radiocarbon dating and dendrochronological analysis using the oxygen isotope composition of tree ring cellulose. We report seven radiocarbon ages and five dendrochronology data for the wood samples taken from outcrops and excavated trenches in the lacustrine sediments of dammed lakes formed by DRA, and two radiocarbon ages and two dendrochronology data for wood samples of ODA. Two sets of data for DRA are crosschecked independently to ensure the accuracy of results. Most of ages in the DRA area are concordant with the period of AD 887 Ninna (Goki-Shichido) mega-earthquake as proposed in previous studies. In the ODA area, ages are not concentrated in a specific period. When the preservation condition of buried wood trunks is good enough to date the exact or approximate tree-death years dendrochronologically, it is possible to estimate landslide occurrence periods in further detail by comparing the landslide chronology with historical records of heavy rainfall and large earthquakes.
著者
苅谷 愛彦 原山 智 松四 雄騎 清水 勇介 松崎 浩之
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.131, no.4, pp.447-462, 2022-08-25 (Released:2022-09-08)
参考文献数
59
被引用文献数
1

The geomorphological and geological characteristics, distributions, and ages of block slopes that developed at two alluvial cones (Bentenzawa valley and Okumatazirodani valley) along the Azusa River in the Kamikochi area, northern Japanese Alps, are clarified. These block slopes were believed to be of Pleistocene glacial origin in previous studies. A field survey was conducted, applying microtremor array observations to estimate subsurface geology, and in situ terrestrial cosmogenic nuclide (TCN) dating to estimate age of occurrence. At the Bentenzawa alluvial cone, the block slope is composed of large blocks and lithic fragments originating from heterogeneous igneous rocks, mainly of welded tuff and granophyre, that do not exist in the Bentenzawa valley watershed. Large blocks and lithic fragments of the block slope show clast-supported facies accompanied by jigsaw-crack fracture structures without a fine matrix. A mass of rock blocks fell from a steep wall of igneous rocks around the head of the Okumatajirodani valley, at approximately 2280 to 3090 m a.s.l., on the opposite side of the Bentenzawa valley. Rock slope failure and runout debris flow of blocks are thought to be the principal motions behind the mass movement from the rockwall. Block behavior comprised 3 km horizontal and 1.5 km vertical movements. Blocks were finally transported to the alluvial cone of the Bentenzawa valley to form an opposing impact slope. The results of microtremor array observations suggest that materials of rock blocks about 20 m thick spread and were buried beneath the present riverbed of the Azusa River. The estimated volume of landslide materials is more than 1.1 × 107 m3; age is estimated to be 6900 ± 1000 yrs BP. The Bentennzawa block slope is not of glacial origin. The block slope at the Okumatajirodani alluvial cone consists of large lithic fragments of igneous rocks distributed in this watershed. A mass of rock blocks was supplied by slope failure or debris flow in the Okumatajirodani valley, and was transported and emplaced on the alluvial cone. The volume of the failure is estimated to exceed 2.9 × 105 m3 and its age is estimated to be 900 ± 100 yrs BP.
著者
富田 国良 苅谷 愛彦 佐藤 剛
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.11-22, 2010-12-01 (Released:2012-03-27)
参考文献数
38
被引用文献数
5 8

飛彈山脈南部の蝶ヶ岳(標高2,664 m)の東面には,圏谷状の急斜面と堆石堤状の低丘からなる一連の地形が存在する.これらの地形の成因について,氷河説と崩壊説の2つの対立意見があったが,決着はついていなかった.筆者らは野外地質記載と地形分析に基づき,一連の地形の最終成因を再検討した.堆石堤状の低丘の周辺には,厚さ100 mを超える角礫主体の堆積物が分布する.砂岩・泥岩からなる角礫は著しく破砕・変形しており,堆積物全体が砂~シルト・サイズの基質に支持される.一方,堆積物に流水運搬・堆積を示す構造は認められず,ティルやアウトウオッシュとも異なり,亜角礫や亜円礫はほとんど含まれない.また,一連の地形をとり囲む稜線の上やその下方の谷壁には,岩盤クリープやトップリングの発生を示唆する線状凹地やバルジが発達する.こうした状況から,一連の地形は大規模崩壊で形成されたとみるのが合理的である.残存する崩壊堆積物の総量は約3.2×107 m3に達する.蝶ヶ岳の近傍に存在する活断層・活火山や,当山域に卓越する多雨多雪気候は,崩壊の発生に好適な条件を提供してきたと考えられる.崩壊の誘因と発生時期は未詳である.
著者
吉岡 敏和 苅谷 愛彦 七山 太 岡田 篤正 竹村 恵二
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.83-97, 1998-07-03 (Released:2010-03-11)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

The Hanaore fault is a right-lateral strike-slip active fault about 48km long in central Japan. We carried out comprehensive surveys including trench excavations on the Hanaore fault to evaluate the seismic risk of the highly populated area, such as Kyoto City, along this fault. Three trenches were excavated on the fault. On the exposure of the northernmost Tochudani trench, a fault cutting fluvial sediments and humic soil beds appeared. The youngest age of displaced sediments is 460±60 14C yBP, and the sediments covering the fault is 360±60 14C yBP. This faulting event may be correlated to the historical 1662 Kambun earthquake. The southernmost Imadegawa trench was excavated on the road in the urban area of Kyoto City. A thrust fault cutting humic soil with pottery fragments of the Late Jomon period (about 3, 500 years ago) was observed on the trench walls. It was difficult to detect the age of the last faulting event due to lack of younger sediments and artificial modifications of the surficial materials. However, the southern part of the fault might not move during the 1662 earthquake because the damage in this area was much less than in along the northern and middle part of the fault. The historical documents recorded that the land along the Mikata fault which is located at the north of the Hanaore fault was uplifted, and the land along the western shoreline of Lake Biwa where is the east of the Hanaore fault was subsided during the 1662 earthquake. This means that the 1662 earthquake might be a multi-segment event caused by these three faults, the Mikata fault, the northern part of the Hanaore fault, and the faults along the western shoreline of Lake Biwa.
著者
栗本 享宥 苅谷 愛彦 目代 邦康
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.69, 2019 (Released:2019-03-30)

はじめに 水沢上地すべり(以下ML:35.9363°N,137.0445°E)は岐阜県郡上市明宝に存在する大規模地すべり地である.MLは古文書に基づきAD1586天正地震で生じたとされてきた1,2).しかし先行研究では地質学的論拠が示されていない.筆者らは地質調査と地形判読を基礎として,MLの地形・地質的特徴と最新滑動年代を明らかにした.地域概要と研究方法 <地形>MLは飛騨高地南東部に位置し,周辺には標高2000 m以下の山岳が卓越する.木曽川水系吉田川とその支流がMLを貫く.<地質>ML一帯には烏帽子岳安山岩類が分布する.これはML西方の烏帽子岳から1 Maごろ噴出した安山岩と火山砕屑岩からなる2).同安山岩類は下部の凝灰角礫岩質の部分(以下Ep)と上部の安山岩溶岩(以下Ea)に分類される.他に貫入岩や,花崗岩,かんらん岩,美濃帯堆積岩類も分布する.MLの北に庄川断層帯三尾河断層(以下MF:B級左横ずれ)が走る.MFの最新イベントは840年前以降で,AD1586天正地震が対応する可能性が高い3).<方法>空中写真やDEM傾斜量図等を用いた地形判読と野外踏査を主な手法とした.踏査で採取した試料の14C年代測定も行った。MLの地形と地質 MLは3条の滑落崖と,複数の地すべり移動体に分類される.やや開析された滑落崖は円弧状を呈し,急崖をなす地点ではEaが露出する.地すべり移動体南部の平坦面についてはその分布標高からL~H面に分類できる.全移動体の体積は約2.2×107 ㎥である(侵食部分を含む).以下,各地点での地形・地質的特徴を述べる.<P1>不淘汰かつ無層理のEaの角礫からなる地すべり堆積物を,シルト~中粒砂の堰止湖沼堆積物が覆う.地すべり堆積物にはパッチワーク構造が観察できる.地すべり堆積物に含まれる材はcal AD1494~1601を示す.堰止湖沼堆積物層最下部の材はcal AD1552~1634である.<P2>P2周辺の吉田川の渓岸には割れ目に富むジグソーパズル状に破砕されたEaの岩盤や,シート状の粘土層や著しく座屈・褶曲したEp層がみられる.この堆積物の特徴は大規模崩壊堆積物にしばしば認められる特徴と類似・一致する.<P3>P3を代表とする地すべり移動体南部のL~H面上には,比高がまばらな長円形の小丘状地形や閉塞凹地が分布する.小丘状地形は破砕されたEa・Ep岩屑などで主に構成される。このような地形は、地すべりの移動方向に短軸をもつ4).小丘状地形の短軸方向と分布を集計し,各地形面の移動方向を検討した.地形面同士の関係(切る・切られる)も考慮した結果,過去3回の滑動が推測できた.<P4>P4付近では高さ約20 m,幅約50~100 mにわたり蛇紋岩化の著しいかんらん岩が分布する.かんらん岩は,およそ北―北北東方向に発達しているとみられる2).おわりに本研究は以下のようにまとめられる.①MLの各所に大規模地すべりと判断できる地形や地質的証拠がみられた.②P1ではcal AD1552~1634に地すべりによる堰き止め湖沼が生じた.③地すべり移動体上の微地形判読から,過去3回の滑動が推測された.④そのうち最新の滑動がcal AD1494~1601に発生したことは確実で,その誘因としてAD1586天正地震が挙げられる.⑤地すべりの誘因はML周辺の活断層による地震が,素因は蛇紋岩などの地質的な条件が考えられる参考文献 1)飯田(1987)『天正大地震誌』、井上・今村(1998)歴史地震,14,57-58. 2)河田・磯見・杉山(1988)「萩原地域の地質」.地調.3)杉山・粟田・佃(1991)地震,44,283-295. 4)木全・宮城(1985)地すべり,21(4),1-9.
著者
苅谷 愛彦 高岡 貞夫 佐藤 剛
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.122, no.4, pp.768-790, 2013-08-25 (Released:2013-09-11)
参考文献数
63
被引用文献数
12 13

We studied the geomorphological and geological characteristics of four medium- to large-scale landslides that occurred in the alpine and subalpine zones of the northern Japanese Alps and assessed the relationship between landslide features and vegetation diversity in the landslide areas. To achieve this, we conducted field investigation and laboratory work including airphoto interpretation and radiometric dating of soils and fossil logs. Our field investigations indicate that, even in alpine and subalpine zones, landslide blocks (i.e., landslide deposition areas) display specific landforms such as scarplets, shallow depressions, and low mounds with linear or curved forms. Vegetation cover and aquatic areas such as peat bogs and moors also display linear or curved patterns that are superimposed on these small topographic features. We found that the highly diverse landscapes in landslide blocks were substantially different from those in present-day or fossil periglacial slopes near the main ridges, both of which displayed monotonous facies. The specific patterns of vegetation cover seen on landslide blocks probably formed under the influence of different slope environments, with variations of parameters such as inclination, soil properties, thermal-water regimes, and microclimate occurring as a result of landslide activities. Similarly, geomorphic changes such as channel migration and waterfall formation in and around areas of landsliding probably affected biological evolution and differentiation, and resulted in multiple modulations of the gene expression of aquatic organisms. Medium- to large-scale landslides are often reactivated by secondary movement. We suggest that subsequent variations of the landforms in the landslide blocks caused sudden or gradual changes in the surrounding natural environments, which had been forming since the initial mass movement. The biota present in a landslide block is the result of evolution and differentiation during geomorphic changes such as those described here; therefore, it is possible that secondary landsliding resulted in increased biological diversity and complexity.
著者
高岡 貞夫 井上 恵輔 東城 幸治 齋藤 めぐみ 苅谷 愛彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2023年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.35, 2023 (Released:2023-04-06)

1.はじめに ジオ多様性と生物多様性の関係は理論的には確立されているものの、この関係を実証的に示す研究が十分に行われているとは言えない。両者の関係を探る研究はしばしば大スケール(大陸規模,国土規模)におけるグリッドセルデータを用いたGISベースの研究として行われるが、両多様性の関係の背景にある生態学的なプロセスを直接的に理解するには、グリッドセルにデータ化できない環境の特質も含めて、両者の間の複雑な関係を小スケールの地域研究として行うことが必要であろう。本講演では山地の池沼を例に検討した結果を示す。2.山地池沼のジオ多様性 中部山岳地域の標高2000m以上の地域にある、面積約50m2以上の池沼304 個について、その成因を地形と対応づけて整理した結果、池沼は線状凹地、地すべり移動体、圏谷底、火山地形(火口、溶岩台地など)などがつくる凹地に形成されていた。しかし凹地さえあれば池沼が形成されるということではなく、決定木を用いた分析によれば、気候(特に積雪深)や地質など地域的な条件を背景に池沼が成立していることが明らかになった。池沼の規模や標高分布は池沼の成因別に特徴があり、池沼の古さも成因と関係があると推察される。 上高地周辺の池沼に関する現地での観測や観察によれば、水質や水温、水位の季節変化、消雪時期、周囲の植生の特質は、地形と結びついて形成されている池沼の成因ごとに特徴がある。したがって、池沼に生息する生物の多様性には、池沼の成因と関連づけて理解できる部分があるものと考えられる。3.山地池沼の生物多様性(1) 水生昆虫 上高地周辺の高山帯・亜高山帯に存在する23池沼の止水性昆虫相を調べたところ、7目15科19種が確認された。これらの池沼は群集構造に基づいて4つのグループに分類され、それらは圏谷底に位置するもの、主に線状凹地に位置するもの、焼岳火口を含む前二者以外の主稜線付近に位置するもの、梓川氾濫原に位置するものであった。圏谷底の池沼では幼虫期に砂粒を巣材に用いる種群が優占し、線状凹地の池沼では水際の植物を利用して倒垂型の羽化を行う種や葉片・樹木片を幼虫期の巣材に用いる種が優占していた。梓川氾濫原では、流水環境にも適応した種群が優占していた。マメゲンゴロウについて遺伝子マーカーを用いた集団遺伝解析を行った結果、近接する池沼では遺伝構造が類似する一方で、特定の山域に集中するハプロタイプも検出された。以上のことから、種レベルの多様性は池沼の成因に結び付いた環境条件の違いによって生み出され、遺伝子レベルの多様性には、分散の障壁となる尾根や谷といった小地形・中地形スケールの地形がかかわっていると考えられる。(2) 珪藻群集 同地域の45池沼において、池底の表層堆積物に含まれる珪藻を殻の形態にもとづいて分類したところ、75分類群以上が確認された。これらの池沼は群集構造に基づいて4つのグループに分類され、それらは圏谷底に位置するもの、線状凹地に位置するもの、梓川氾濫原に位置するもの、氾濫原上の流れ山群内に位置するものであった。各池沼に出現する分類群はECやpHといった水質の他に、池沼の面積や周囲の植生に影響を受けていると考えられる。また、線状凹地に位置するグループには、梓川の左岸側稜線に集中して分布するグループと流域内に広く分布するグループが含まれる。これらのことから、珪藻群集の構造は、池沼の環境(植生発達や水質)と分散の歴史の双方の影響を受けて成立していることが示唆される。池沼の環境は地形と関連した池沼の成因と結びついて形成され、一方で、小地形・中地形スケールの地形がつくりだす距離や標高差が分散に対する障壁として働いている可能性がある。止水性の珪藻は水生昆虫よりも相対的に分散が難しいと考えられるが、このことが種相当のレベルの多様性においても分散の影響が表れる原因になっていることが示唆される。4.今後の課題 これまで、ジオ多様性や生物多様性という用語が使われなかった場合も含めて、植生(植物)についてはジオ多様性との関係についての研究が地理学分野においてなされてきた。山地地形の研究の進展によって地形の形成過程や年代に関する理解が一層深まる中で、今後取り組むべき研究課題は少なくない。氷期の遺存種的な性格を持つ植物の、分布の成因の解明などはその一つであろう。 他方、地理学において山地の野生動物に関する研究は進んでいない。移動性の高い動物は、その分布の特徴を地形に関連づけて理解することは必ずしもできないであろう。しかし、潜在的な分布頻度が、地形を軸とするジオ多様性と関連付けて理解できれば、動物と生息環境の関係を空間的にとらえる視点が得られる。このことは、生物多様性の保全を考えるうえで重要である。
著者
苅谷 愛彦
出版者
日本山の科学会
雑誌
山の科学 (ISSN:24357839)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-11, 2019 (Released:2022-01-04)

日本の山地は内的営力の影響を強く受ける変動帯にあり,外的営力をもたらすモンスーン性の多雨・多雪気候下に置かれている.このような自然特性を持つ日本の山地では,残雪凹地や地すべり地形は,氷河地形および凍結融解作用や永久凍土の影響を強く受ける周氷河地形と同等かそれ以上に普遍的な存在である.それにもかかわらず,高山帯や亜高山帯で展開される日本の山地地形学および気候地形学において,残雪凹地と地すべり地形は研究上のニッチともいうべき状況にあり,研究の蓄積は不十分である.本稿は日本の山地における残雪凹地と地すべり地形の地形学的研究について,研究動向を整理・論評したものである.また,これらの地形を研究対象とする意義や今後の課題に言及している.多雨多雪かつ地殻変動の活発な湿潤変動帯にある山地を扱う日本の地形学を持続・発展させるために,残雪凹地や地すべり地形を取りあげ,内外に成果を発信する意味は大きい.
著者
苅谷 愛彦 高岡 貞夫 齋藤 めぐみ
出版者
専修大学自然科学研究所
雑誌
専修自然科学紀要 (ISSN:03865827)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.1-10, 2020-03-05

北アルプス南部・上高地西方の「西穂池」は,第四紀花崗閃緑岩の岩盤重力変形で生じた主稜線上の線状凹地に存在する小規模な水域である.西穂池を擁する線状凹地の地形発達過程および環境変化にかかわる議論に資する目的で,線状凹地底部においてハンドオーガーによる掘削を行った.その結果,長さ(深さ)210cmに達するほぼ連続的な柱状コアの回収に成功した.このコアから7点の[14]C年代試料と3点のテフラ試料を採取し,年代モデルの構築や示準面の挿入を試みた.西穂池の周辺では4200cal BPころまでに凹地が形成された可能性があり,3500cal BPころ以降に植生が侵入して腐植や泥炭の集積が現在まで続いている.このコアは過去4200年間以上の斜面変動や植生変遷を論じるための重要な資料となる.