- 著者
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南原 宗治
槌谷 宏幸
和久 美紀
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.1259, 2016 (Released:2016-04-28)
【はじめに】仙骨疲労骨折は,疲労骨折の中でも単純X線画像では診断されがたく,見逃し例もある診断困難な疾患である。また,陸上選手に多い疾患と報告されているが,走行量が多い他のスポーツでも発症する報告が散見される。今回当院で仙骨疲労骨折と診断された女子バスケットボール選手から,仙骨疲労骨折と身体運動機能との因果関係を検証し考察したので報告する。【症例紹介】右仙骨疲労骨折16歳 女性。全国大会出場レベルの高校女子バスケットボール部所属。過去に腰痛既往歴なし。入部2ヶ月後からジャンプやダッシュ時に腰痛が発症したが,安静時に痛みが治まるので練習と試合を継続した。翌月,腰痛が増悪して歩行困難となり当院を受診した。X線画像所見で異常は認められず,MRI画像所見にて上記診断された。【理学療法評価及び治療経過】診断後,理学療法(以下PT)を開始した。2ヶ月間運動中止とし,下肢・体幹のストレッチングと非荷重筋力強化を中心に進めた。初期評価時は,歩行・走行時,長坐位での右上殿部痛が主訴で,右股関節伸展・外転筋の筋力低下,エリーテストとSLRテストの右側陽性,右片脚立位姿勢不安定と右片脚スクワット時knee-inを認めた。PT開始から右側股関節伸展・外転の可動域exと非荷重筋力強化,ハムストリングスのストレッチングを行った。2ヶ月時に痛みは消失し,荷重トレーニングを開始して負荷を徐々に増していった。PT3カ月時にジョギングを開始したが,走行動作は重心上下運動が大きく,股関節伸展運動が不足していた。PT開始4ヶ月後にダッシュなどの高負荷トレーニングで症状を認めず,CT所見で骨癒合を確認したため部練習と試合に復帰してPT終了となった。PT終了時,最大負荷運動時痛はなく,股関節ROM左右差は消失していた。筋力は右中殿筋,右ハムストリングスがやや低下,右片脚スクワット時knee-inは軽減していた。走行動作は重心上下運動が減少し,股関節伸展運動が増大した。【考察】過去の症例報告から,本疾患は股関節外転筋力の低下,仙骨翼骨梁の圧迫と垂直方向への反復衝撃負荷が仙骨への剪断力の主因ではないかと報告されている。本症例は,過度の走行,患側股関節周囲筋力の低下,腰椎前彎,ハムストリングスの柔軟性低下など,仙骨疲労骨折症例の特徴が類似して骨盤へ剪断力を高めるメカニズムと一致する。さらに,本症例の走行フォームは重心上下運動が大きく,このフォームが走行時に骨盤の衝撃負荷を増強した要因ではないかと考えられた。また,この走行フォームは股関節ROM・筋力向上に伴い改善されたため,股関節伸展運動が走行時の重心上下運動にも影響していることが示唆される。本症例より,仙骨疲労骨折は股関節周囲の筋力アンバランスや柔軟性だけではなく,股関節伸展運動や走行フォームも関連因子となり,適切な走行動作が本障害の予防に重要であると考えられた。