著者
福井 里江 原谷 隆史 外島 裕 島 悟 高橋 正也 中田 光紀 深澤 健二 大庭 さよ 佐藤 恵美 廣田 靖子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.213-222, 2004 (Released:2006-09-21)
参考文献数
22
被引用文献数
4 9

組織風土尺度30項目版(外島・松田,1992,1995)の短縮版を作成し,信頼性と妥当性を検証するため,民間企業2社の正社員819名を対象として自記式質問紙調査を実施した.調査内容は,原版の組織風土尺度30項目版,NIOSH職業性ストレス調査票(the Generic Job Stress Questionnaire, GJSQ),および一般健康調査12項目版(the 12-item General Health Questionnaire, GHQ-12)であった.組織風土尺度には伝統性尺度,組織環境性尺度という2つの下位尺度があり,それらの得点の高低によって,各従業員が認知する組織風土を伝統自由・組織活発型(イキイキ型),伝統強制・組織活発型(シブシブ型),伝統自由・組織不活発型(バラバラ型),伝統強制・組織不活発型(イヤイヤ型)に分類することができる.原版の組織風土尺度の主成分分析を行った結果(バリマックス回転,因子数2),それぞれの因子における因子負荷量が0.50以上であった各6項目を短縮版に採用し,組織風土尺度12項目版(the 12-item Organizational Climate Scale, OCS-12)とした.内的一貫性は伝統性因子がα=0.63,組織環境性因子が0.71と許容範囲であった.OCS-12の各下位尺度はGJSQの多くの下位尺度およびGHQ-12と有意に相関し,構成概念妥当性が比較的高いことが示された.OCS-12を用いて分類した組織風土の4類型間では,イキイキ型における職業性ストレスが最も良好であった.OCS-12は職場の組織風土に関する従業員の認知を測定する上で,おおむね十分な信頼性と妥当性を有することが示唆された.
著者
髙田 琢弘 吉川 徹 佐々木 毅 山内 貴史 高橋 正也 梅崎 重夫
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2020-0022-GE, (Released:2021-02-11)
参考文献数
26

本研究は,過労死等の多発が指摘されている業種・職種のうち,教育・学習支援業(教職員)に着目し,それらの過労死等の実態と背景要因を検討することを目的とした.具体的には,労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センターが構築した電子データベース(脳・心臓疾患事案1,564件,精神障害・自殺事案2,000件,平成22年1月~平成27年3月の5年間)を用い,教育・学習支援業の事案(脳・心臓疾患事案25件,精神障害・自殺事案57件)を抽出し,性別,発症時年齢,生死,職種,疾患名,労災認定理由および労働時間以外の負荷要因,認定事由としての出来事,時間外労働時間数等の情報に関する集計を行った.結果から,教育・学習支援業の事案の特徴として,脳・心臓疾患事案では全業種と比較して長時間労働の割合が大きい一方,精神障害・自殺事案では上司とのトラブルなどの対人関係の出来事の割合が大きかったことが示された.また,教員の中で多かった職種は,脳・心臓疾患事案,精神障害・自殺事案ともに大学教員と高等学校教員であった.さらに,職種特有の負荷業務として大学教員では委員会・会議や出張が多く,高等学校教員では部活動顧問や担任が多いなど,学校種ごとに異なった負荷業務があることが示された.ここから,教育・学習支援業の過労死等を予防するためには,長時間労働対策のみだけでなく,それぞれの職種特有の負担を軽減するような支援が必要であると考えられる.
著者
鈴木 一弥 吉川 徹 高橋 正也
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.23-35, 2022-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
52

目的:過労死等の防止のために職場で行う自主的・組織的対策を支援する方法あるいはツールを検討するための文献・資料調査を実施する.調査結果に基づいて既存の成果と今後の課題を整理する.方法:長時間労働による心身の健康障害の予防のためにこれまでに開発されたツールの事例(対策支援のチ ェックリスト, ガイドライン等)を学術文献データベース(MEDLINE,PubMed,JMEDPlus)の検索で収集し た.検索キーワードはツール等を示す用語(チェックリスト,ガイドライン,マネジメントシステム,ツールキ ット)と労働時間との論理積とした.2000~2019年の英語および日本語の学術論文を対象とした.公的または 公益的機関が提供しているツールに関して,インターネットによる探索的な検索も実施した.結果:学術文献データベースで72件(英文)および67件(日本語)がヒットした.タイトルと抄録の内容 により,対策を支援するツールの開発・提案や言及がなされた文献を選択した結果,労働時間の長い労働者に対する面接指導の実施を定めた「総合対策」への組織的な対応方法を改善するアクションチェックリストの開発が 1編,面接指導を支援する実務的ツールに関する研究が2編,交代勤務に関するチェックリストの開発が1編,航空安全を主目的としたFRMS(Fatigue risk management system)に関する研究が2編あった.インターネットの 検索の結果では,省庁と公益的な組織によって,いくつかの特定の業種・職種を対象としたツールの公開があった.医療労働のコンプライアンス支援ツール,交代制勤務に関するガイドライン,職場環境の自主的改善を支援するアクションチェックリスト,運送業における業務の内容や建設業における商慣行の改善のためのガイドライン,医療と運送業の対策好事例の提供等があった.交代勤務に関するガイドラインは,その予防的・包括的な内 容が特に参考になると思われたので,4種のガイドラインの内容を整理して表に示した.収集されたすべてのツ ールを,包括性,直接の使用者,改善の対象,介入の方法等に基づいて分類した.考察:長時間労働にかかわる自主的な取り組みを支援するツールの開発は現状では少数であった.組織体制の改善,参加型の人間工学的改善の支援,ストレスに関わる心理社会的要因の改善,職種・業種に特有の業務の改善を支援するものがあり,それぞれに特徴があった.過労死等を予防する包括的な対策ツールの要件に関する参考資料の収集ができた.
著者
高橋 正也
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.23-30, 2014 (Released:2014-04-13)
参考文献数
43
被引用文献数
1

労働者の安全と健康を確保するためには,労働の量的および質的側面の改善が必要である.現在でも,長時間労働の削減や職場の心理社会的環境の改善に向けて,多くの努力がなされている.このような職場の労働条件の向上に加えて,職場以外における過ごし方,特に余暇,を適正にすることは,労働安全衛生の水準をさらに高めるのに有益であると期待されている.最も基本的な余暇は終業後から次の勤務までの時間である.欧州連合の労働時間指令に示されているように,この時間間隔の確保はなにより重要であり,そこで行われる休養や睡眠の充実に不可欠である.同時に,労働に費やす時間の減少にもつながる.一日ごとの余暇活動の中でも,量的および質的に充分な睡眠は労働者の安全,疲労回復,健康維持に必須であることが実証されている.一方,週休二日制であれば,週末に二日間にわたる休日が得られる.こうした一週ごとの余暇を適切に過ごせると(例えば,長い朝寝を避ける),疲労回復には一定の効果がある.ただし,週内で蓄積した睡眠不足による心身への負担を完全に解消するのは難しいことに留意する必要がある.さらに,良好な睡眠を長年にわたってとれない状況が続くと,高血圧,心疾患,糖尿病,肥満などの健康障害が起こりやすくなるばかりか,筋骨格系障害や精神障害などの理由で早期に退職せざるをえない確率が2~3倍高まることが示されている.多くの労働者では,一生の中で労働者として過ごす時間はほぼ半分を占める.一生涯の生活の質を高めるためにも,労働時間の中,そして外の要因(余暇と睡眠)が最適化されなければならない.この課題を達成するには,行政,事業所,労働者個人それぞれの層で,余暇の見直しと根拠に基づいた実践が求められる.
著者
岩切 一幸 高橋 正也 外山 みどり 平田 衛 久永 直見
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.12-20, 2007 (Released:2007-02-16)
参考文献数
23
被引用文献数
23 16

高齢者介護施設における介護機器の使用状況とその問題点:岩切一幸ほか.独立行政法人労働安全衛生総合研究所―近年,介護者の筋骨格系障害が急速に増加している.この対策としては,介護機器の使用が必要と考えられることから,現在の高齢者介護施設における介護機器の使用状況と問題点・要望を把握することを目的としたアンケート調査を実施した.調査では,特別養護老人ホーム2施設と介護老人保健施設1施設を対象に,事業所調査票と個人調査票を配布した.解析対象者は,平均年齢32.2歳の介護福祉士およびケアワーカーの81名(女性63名,男性18名)とした.施設の平均入所者数は70.0名,平均要介護度は3.6であった.3施設とも車いすと高さ可変式ベッドは必要数確保されており,常に使用されていた.しかし,床走行式リフト,天井走行式リフト,スライディングボードの導入数は少なく,それぞれの使用割合も14.8%,16.0%,23.5%と低かった.特に使用割合の低かったリフトの問題点は,乗り降りに手間がかかる,落下の危険性を感じるであった.その他にも,機器の問題点や改良への要望があげられた.介護者は,約9割の者が介護動作に関する教育や訓練を受けていたにも関わらず,移乗作業での腰部負担は大きいと訴えていた.このことから,筋骨格系障害の予防策としては,欧米のような介護機器の使用が必要と考えられた.また,そのためには,使い勝手を考慮した機器の改良も必要と考えられた. (産衛誌2007; 49: 12-20)
著者
高橋 正也
出版者
National Institute of Occupational Safety and Health
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.23-30, 2014

労働者の安全と健康を確保するためには,労働の量的および質的側面の改善が必要である.現在でも,長時間労働の削減や職場の心理社会的環境の改善に向けて,多くの努力がなされている.このような職場の労働条件の向上に加えて,職場以外における過ごし方,特に余暇,を適正にすることは,労働安全衛生の水準をさらに高めるのに有益であると期待されている.最も基本的な余暇は終業後から次の勤務までの時間である.欧州連合の労働時間指令に示されているように,この時間間隔の確保はなにより重要であり,そこで行われる休養や睡眠の充実に不可欠である.同時に,労働に費やす時間の減少にもつながる.一日ごとの余暇活動の中でも,量的および質的に充分な睡眠は労働者の安全,疲労回復,健康維持に必須であることが実証されている.一方,週休二日制であれば,週末に二日間にわたる休日が得られる.こうした一週ごとの余暇を適切に過ごせると(例えば,長い朝寝を避ける),疲労回復には一定の効果がある.ただし,週内で蓄積した睡眠不足による心身への負担を完全に解消するのは難しいことに留意する必要がある.さらに,良好な睡眠を長年にわたってとれない状況が続くと,高血圧,心疾患,糖尿病,肥満などの健康障害が起こりやすくなるばかりか,筋骨格系障害や精神障害などの理由で早期に退職せざるをえない確率が2~3倍高まることが示されている.多くの労働者では,一生の中で労働者として過ごす時間はほぼ半分を占める.一生涯の生活の質を高めるためにも,労働時間の中,そして外の要因(余暇と睡眠)が最適化されなければならない.この課題を達成するには,行政,事業所,労働者個人それぞれの層で,余暇の見直しと根拠に基づいた実践が求められる.
著者
高橋 正也 比屋根 哲 林 雅秀
出版者
農村計画学会
雑誌
農村計画学会誌 = Journal of Rural Planning Association (ISSN:09129731)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.174-182, 2012-09-30
被引用文献数
3 1

農山村集落(以下,集落と表記)は高齢化,担い手不足による農業の荒廃や伝統行事の途絶,地理的要因における生活水準の低下や経営困難に陥った交通機関の撤退など様々な面で不利な状況が続いており,何らかの維持・活性化が望まれている。本研究では集落住民の社会ネットワークに注目し,ソーシャル・キャピタルがどのように活動の展開に作用したのか過程をみながら分析した。本研究の分析から,集落のソーシャル・キャピタルが作用し,活動へと展開するためには,1)普段からの付き合い関係が豊富な住民を活動の初期段階から関係させること,2)集落住民自らにイベントや事業が実現可能か判断させること,の2つが不可欠であることが要件として明らかになった。
著者
福井 里江 原谷 隆史 外島 裕 島 悟 高橋 正也 中田 光紀 深澤 健二 大庭 さよ 佐藤 恵美 廣田 靖子
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.213-222, 2004-11-20
被引用文献数
1 9

組織風土尺度30項目版(外島・松田, 1992, 1995)の短縮版を作成し, 信頼性と妥当性を検証するため, 民間企業2社の正社員819名を対象として自記式質問紙調査を実施した. 調査内容は, 原版の組織風土尺度30項目版, NIOSH職業性ストレス調査票(the Generic Job Stress Questionnaire, GJSQ), および一般健康調査12項目版(the 12-item General Health Questionnaire, GHQ-12)であった. 組織風土尺度には伝統性尺度, 組織環境性尺度という2つの下位尺度があり, それらの得点の高低によって, 各従業員が認知する組織風土を伝統自由・組織活発型(イキイキ型), 伝統強制・組織活発型(シブシブ型), 伝統自由・組織不活発型(バラバラ型), 伝統強制・組織不活発型(イヤイヤ型)に分類することができる. 原版の組織風土尺度の主成分分析を行った結果(バリマックス回転, 因子数2), それぞれの因子における因子負荷量が0.50以上であった各6項目を短縮版に採用し, 組織風土尺度12項目版(the 12-item Organizational Climate Scale, OCS-12)とした. 内的一貫性は伝統性因子がα=0.63, 組織環境性因子が0.71と許容範囲であった. OCS12の各下位尺度はGJSQの多くの下位尺度およびGHQ-12と有意に相関し, 構成概念妥当性が比較的高いことが示された. OCS-12を用いて分類した組織風土の4類型間では, イキイキ型における職業性ストレスが最も良好であった. OCS-12は職場の組織風土に関する従業員の認知を測定する上で, おおむね十分な信頼性と妥当性を有することが示唆された. (産衛誌2004;46:213-222)
著者
茂木 伸之 吉川 徹 佐々木 毅 山内 貴史 髙田 琢弘 高橋 正也
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2022-0018-CHO, (Released:2023-09-05)
参考文献数
28

日本では教員の長時間労働や精神疾患による病気休職者数が減少していない状況である.本研究は,過労死等の重点業職種である教職員に該当する義務教育教員の多くを占める公立小中学校教員の公務災害の過労死等防止対策に資する課題抽出を目的として,公務災害として認定された過労死等の負荷業務の特徴について検討した.対象は2010年1 月から2019年3月までに公務災害に認定された全392件(脳・心臓疾患事案146件,精神疾患等事案246件)の内,教員88件(脳・心臓疾患事案52件,精神疾患等事案36件)とした.その結果,脳・心臓疾患の100万人当たりの発症件数は男性が80%を占め,男女の疾患名では脳内出血が最も多かった.精神疾患等は,100万人当たりの発症件数は男性が多く,疾患名はうつ病エピソードが最も多かった.学校別の件数は,脳・心臓疾患は中学校で多く,精神疾患等は小中学校それぞれ半数であった.脳・心臓疾患事案では,負荷業務として「部活動顧問」が最も多く,長時間労働を認定要件とする事案に影響を及ぼした.精神疾患等では,業務による負荷の「住民等の公務上での関係」における保護者によるものが最も多かった.負荷業務である「部活動顧問」,「住民等の公務上での関係」の課題を解決することが,公立小中学校教員の過労死等防止対策のひとつになると考えられる.
著者
松元 俊 久保 智英 井澤 修平 池田 大樹 高橋 正也 甲田 茂樹
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1-11, 2022-01-20 (Released:2022-01-25)
参考文献数
38

目的:日本においてトラックドライバーは脳・心臓疾患による過労死や健康起因事故が多い職種である.また,トラックドライバーは,脳・心臓疾患のリスクである高血圧症,肥満,高脂血症,糖尿病に関連する項目の定期健診での有所見率も高い.そこで,トラックドライバーの過労死防止策の立案に向けて,職種の特徴を踏まえた労働生活条件と,脳・心臓疾患に高血圧症,肥満,高脂血症,糖尿病を含めた健康障害,疾患前としての過労状態との関連について検討した.対象と方法:全国のトラックドライバーを対象として,上記の健康障害の既往歴および過労状態を含む,基本属性,生活習慣,働き方,休み方,運転労働の負担について質問紙調査を行った.47都道府県の1,082のトラック運送事業所に5部ずつ合計5,410部を配送し,1,992部を回収した(回収率36.8%).そのうち,女性41人および性別不明4件を除く男性1947人を解析対象とした.労働生活条件と各種健康障害との関連は多重ロジスティック回帰分析を用いて検証した.結果:解析対象トラックドライバーにおいて,肥満は22.2%,高血圧症は19.3%,高脂血症は8.5%,糖尿病は5.6%,心臓疾患は2.5%,脳血管疾患は0.7%,過労状態は6.0%に見られた.多重ロジスティック回帰分析の結果,健康障害の既往歴は,運行形態が長距離2泊以上と地場夜間早朝,勤務日の早朝覚醒有り,休日の過し方が不活発,夜間運転の重い負担と有意な関連が示された.また,過労状態は,勤務日の中途覚醒および睡眠不足感有り,休日の睡眠時間が6時間未満および睡眠不足感有り,ひと月あたりの休日数が0–3日,運転・夜間運転・作業環境の重い負担と有意な関連が示された.考察と結論:トラックドライバーにおける健康障害および過労状態と有意な関連は,夜間・早朝勤務への従事および夜間運転の負担が重いこと,また夜間・早朝勤務に付随する睡眠の量と質の低下に見られた.本研究より,過労死防止策を念頭に置いた勤務の改善点として,夜間運転の負担軽減や,十分な夜間睡眠取得および活動的に過ごすための休日配置の重要性が示唆された.
著者
岩切 一幸 松平 浩 市川 洌 高橋 正也
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.82-92, 2017-05-20 (Released:2017-05-31)
参考文献数
13
被引用文献数
6 6

目的:本研究の目的は,介護者に福祉用具を使用させるプログラムを作成し,そのプログラムによる組織的な福祉用具の使用が介護者の腰痛症状に及ぼす影響について検討することとした.対象と方法:アンケート調査は,対象施設とした2つの特別養護老人ホームのうち,1つを対照施設,もう1つを介入施設とし,その施設の介護者全員に対して介入前,介入1年後,介入2年半後の時期に実施した.調査票は,施設用および介護者用アンケートを用いた.介入施設では,福祉用具を適用すると判断した入居者に対し(全入居者の27.5%),移乗介助において移動式リフト,スライディングボード,スライディングシートを必ず使用するプログラムを作成し,介護者に実施させた.一方,対照施設では,福祉用具の使用に関する指導は行わなかった.両施設とも,介入前の時期から福祉用具は導入されており,介護者の判断で個々に使用されていた.結果:施設用および介護者用アンケートの平均回収率は100%と90.3%であった.介護者用アンケートの解析対象者は,3回の調査全てに回答した対照施設の23名,介入施設の29名とした.福祉用具は,介入前調査の時点において既に対照施設と介入施設に導入されていたが,福祉用具を必ず使用している介護者はいなかった.その2年半後には,介入施設の31.0%の介護者が,移乗介助時にリフトを必ず使用していた.しかし,対照施設では必ず使用していた介護者は4.3%のみであった.また,介入施設の27.6%の介護者は,スライディングボートまたはスライディングシートを必ず使用していたが,対照施設にて必ず使用していた介護者は4.3%のみであった.介護者の腰痛の訴えは,両施設とも2年半の調査を通して約6~7割を占めており,施設間および調査期間において統計的有意差はなく,介入施設における施設全体としての介入効果は認められなかった.しかし,介入施設では移動式リフト,スライディングボード,スライディングシートを積極的に使用していた介護者に腰痛の改善効果が認められた.一方,対照施設では福祉用具を使用していた介護者に腰痛の改善効果は認められなかった.考察:これらの結果から,介護者の腰痛症状を緩和したり,腰痛を予防したりするには,福祉用具を導入するだけではなく,介護者に福祉用具を使用させる組織的な取り組みが必要と考えられる.また,福祉用具を適用する入居者が今後増えると,この組織的な福祉用具の使用が介護者の腰痛をさらに改善し,より安全で健康な介護環境を構築するものと思われる.
著者
松元 俊 久保 智英 井澤 修平 池田 大樹 高橋 正也 甲田 茂樹
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.3-10, 2020-02-28 (Released:2020-02-29)
参考文献数
23
被引用文献数
2 1

本研究は,脳・心臓疾患による過労死の多発職種であるトラックドライバーにおいて,労災認定要件であ る過重負荷と過労の関連について質問紙調査を行った.1911人の男性トラックドライバーから,属性,健康状態, 過重負荷(労働条件:運行形態,時間外労働時間,夜間・早朝勤務回数,休息条件:睡眠取得状況,休日数),疲労感に関する回答を得た.運行形態別には,地場夜間・早朝運行で他運行に比して一か月間の時間外労働が 101時間を超す割合が多く,深夜・早朝勤務回数が多く,勤務日の睡眠時間が短く,1日の疲労を持ち越す割合 が多かった.長距離運行では地場昼間運行に比して夜勤・早朝勤務回数が多く,休日数が少なかったものの, 睡眠時間は勤務日も休日も長く,過労トラックドライバーの割合は変わらなかった.過労状態は,1日の疲労の持ち越しに対して勤務日と休日の5時間未満の睡眠との間に関連が見られた.週の疲労の持ち越しに対しては,一か月間の101時間以上の時間外労働,休日の7時間未満の睡眠,4日未満の休日の影響が見られた。運行形態間で労働・休息条件が異なること,また1日と週の過労に関連する労働・休息条件が異なること,過労に影響 を与えたのは主に睡眠時間と休日数の休息条件であったことから,トラックドライバーの過労対策には運行形態にあわせた休日配置と睡眠管理の重要性が示唆された.
著者
岩切 一幸 外山 みどり 高橋 正也 劉 欣欣
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.198-210, 2022-07-20 (Released:2022-07-25)
参考文献数
30

目的:介護施設における介護職員(以下,介護者と記載)の人材不足が問題となっている.この対策として,働きやすい職場の構築が求められており,労働生活の質(Quality of Working Life:QWLと以下記載)の向上が必要になっている.しかし,優先的かつ重点的に取り組むべきQWL要因は明らかではない.そこで本研究では,現在の介護施設における介護者のQWLに影響する主要な要因と取り組むべき優先度を明らかにすることを目的としたアンケート調査を実施した.対象と方法:調査は,施設用および介護者用アンケートを用いて2018年10~12月に実施した.対象施設は全国の特別養護老人ホームから無作為抽出した1,000施設とし,対象介護者は1施設あたり8名の計8,000名とした.解析では,ロジスティック回帰分析を用いてQWLに影響する要因を抽出した.結果:解析対象施設は504施設,解析対象者は3,478名であった.解析の結果,介護者QWLとの関係において有意かつ最も高いオッズ比(OR)を示したのは人間関係(OR: 3.92, 95% CI: 3.09–4.97),次いで作業人数・配置(OR: 3.69, 95% CI: 2.56–5.32),コミュニケーション(OR: 3.42, 95% CI: 2.66–4.40),施設からのサポート(OR: 3.37, 95% CI: 2.69–4.23),労働時間・休み(OR: 3.20, 95% CI: 2.53–4.04),裁量(OR: 3.09, 95% CI: 2.46–3.88)と続いた.一方,給与はQWLと有意に関連したが,人間関係などに比べてオッズ比は低かった(OR: 2.81, 95% CI: 2.19–3.61).また,腰痛のない者ほど高いQWLが示された.考察と結論:介護者のQWLを向上させるには人間関係,さらには作業人数・配置,コミュニケーション,施設からのサポート,労働時間・休み,裁量に関する改善を優先的かつ重点的に実施すべきと考えられた.QWL向上のための改善策としては,介護者の不満理由から勘案して,上司・同僚との情報交換の促進,労働時間や休暇,メンタルヘルスを相談できる担当者の活用などが必要と思われた.給与はQWLを向上させる要因ではあるが,人間関係などに比べて関連性は低く,以前ほど重要ではなくなっていた.また,介護者の腰痛対策は,QWLの改善に貢献すると思われた.
著者
髙田 琢弘 吉川 徹 佐々木 毅 山内 貴史 高橋 正也 梅崎 重夫
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.29-37, 2021

<p>本研究は,過労死等の多発が指摘されている業種・職種のうち,教育・学習支援業(教職員)に着目し,それらの過労死等の実態と背景要因を検討することを目的とした.具体的には,労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センターが構築した電子データベース(脳・心臓疾患事案1,564件,精神障害・自殺事案2,000件,平成22年1月~平成27年3月の5年間)を用い,教育・学習支援業の事案(脳・心臓疾患事案25件,精神障害・自殺事案57件)を抽出し,性別,発症時年齢,生死,職種,疾患名,労災認定理由および労働時間以外の負荷要因,認定事由としての出来事,時間外労働時間数等の情報に関する集計を行った.結果から,教育・学習支援業の事案の特徴として,脳・心臓疾患事案では全業種と比較して長時間労働の割合が大きい一方,精神障害・自殺事案では上司とのトラブルなどの対人関係の出来事の割合が大きかったことが示された.また,教員の中で多かった職種は,脳・心臓疾患事案,精神障害・自殺事案ともに大学教員と高等学校教員であった.さらに,職種特有の負荷業務として大学教員では委員会・会議や出張が多く,高等学校教員では部活動顧問や担任が多いなど,学校種ごとに異なった負荷業務があることが示された.ここから,教育・学習支援業の過労死等を予防するためには,長時間労働対策のみだけでなく,それぞれの職種特有の負担を軽減するような支援が必要であると考えられる.</p>