著者
福田 信二 横井 政人 小杉 清
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.29-33, 1970-12-31

1.高温下で花芽分化し,低温に会って開花の促進される花木の中,移植運搬の困難なウメ(新冬至),モモ(矢口),サクラ(早生彼岸)について,高冷地における促成用花木栽培の可能性を知ろうとして,この実験を行なった.なお比較のためにツツジ(紅霧島)と,ユキヤナギ(蒲田早生)を加えた.2.高冷地は日光市小倉山(標高610m)を,比較地は鹿沼市栃窪(標高140m)を選んだ.3.実験は1968年6月〜1969年2月の間に行ない,両地区に栽植されている前記の花木から,7日ごとにそれぞれ10〜15個体の試料を採集して,70%アルコールに浸漬貯蔵後,剥皮法によって花芽の状態を検鏡した.4.高温下で花芽分化する花木の花芽分化期は,高冷地で遅れたが,花芽の発育はかえって急速に進み,標高の低い地方のものに追い着くか,あるいは追い越した.5.このことから,これらの花木の高冷地における促成栽培も可能であることがわかった.6.低温下で花芽の分化発育が促進されるユキヤナギについては,既に行なわれた実験結果のとおりであり,高冷地における促成用花木栽培の可能性が再確認された.
著者
津田 治 大江 靖雄
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.107-109, 2005-03-31

本稿では,千葉県下の全市町村を対象に家庭ごみ排出量に影響を及ぼす所得要因,世帯規模要因,都市と農村の地域差を表す地域要因に対する仮説の検証を行った.結果は以下のとおりになった.1)所得については符号条件が正で一致したが統計的に有意にはならなかった.2)世帯規模については負に有意な結果となった.3)農村部と都市部では有意な差がなく,「都市部に比べ農村部は家庭系ごみの排出量が少ない」という結果は得られなかった.
著者
多々良 美春 Hamacher Andreas 白井 彦衛
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.33-42, 1998-03-31

浄土庭園は,浄土を象徴的に表現しているという概念に基づいて認識されている.しかし仏堂とその前方部に設けられた園池によって構成されるという条件以外に共通項はきわめて少ない.また浄土を表現するための具体的な手法についても明らかではない点が多い.本研究では,浄土庭園の初期の事例である法成寺(無量寿院)と平等院を対象に,庭園の空間構成の特徴に関してその把握を試みた.その際,庭園景観に影響する周辺景観を含めて考察を行った.その結果,法成寺では,周辺環境の影響に左右されない空間が,仏堂群に囲繞されることによって成立していたと考えられた.このような環境は,道長の個人的な信仰を支えるための予備的な空間として有効であることが推察された.また平等院では,小御所の成立によって阿弥陀堂と法会の鑑賞を主体とした,周辺景観から独立した空間の設営が実現した.従って宇治の環境,平等院の優れた庭園景観さらに阿弥陀堂との対面という求心的な空間構成は,阿弥陀に対する個人的な信仰形態を表現するものであると考えられ,法成寺と同質の性格を示していると推察する.
著者
沖津 進 高橋 啓二 池竹 則夫
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.149-155, 1985-12-25
被引用文献数
1

東京都西郊の多摩ニュータウン付近で,落葉広葉樹二次林中のコナラの種子生産を,16本を伐倒し,着果種子を直接数えることによって調査した.1.伐倒木のD. B. H.は8cmから37cmで調査地付近の林冠構成木のほぼ最小から最大までを含んでいた.これらの総健全果数はゼロから878個におよんだ.2.総健全果数は個体ごとに大きく異なり,また,D. B. H.,幹長,樹齢,樹冠投影面積とは明瞭な相関関係は認められなかった.樹冠投影面積1m^2当りの着果数はゼロから54.2個であったが,同じく個体間の差異は大きかった.3.個体ごとの総健全果数は年平均直径成長と大まかながら相関関係が認められ,直径成長の良い個体ほど着果数が多くなる傾向がある.4.枝ごとの着果も枝ごとに差異がみられたが,相対枝順位と枝直径との組み合わせである程度の傾向がみられた:同一順位の枝では太い枝のほうが着果が良かった;直径8cm以下の枝では同程度の直径の枝の場合上位の枝のほうが着果が良かった;直径8cm以上の大枝ではむしろ下位の枝のほうが着果が良くなる傾向にあった.5.枝方位別では南や西向きのものが,北や東向きのものに比べてやや着果が良かった.6.以上のようにコナラ種子生産は個体間や同一個体の枝間で大きく異なるため,小数の種子トラップからの種子生産量の推定は危険であると考えられる.
著者
中原 孫吉 野間 豊
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.93-98, 1972-12-25

わが国の果樹園は風衡地の傾斜地や砂丘地に植栽されている場合が少くないので,その防風施設の1資料として熱川暖地農場の風衡地の早生温州宮川系34年生の地上1m高の直径1.2cmの側枝に止め金を付けその水平面内の動揺を変位計で測り,昭和46年7月23日の記録をもとにして振動の幅やその周期を測定し第2表および第9,10図に示したが,強風時の動揺の振幅は弱風時のそれに対比すると劣ることは当然であり,地上1m高の側枝さえ約15cm位の幅でゆれるので上梢部ではさらに大きく振動するものと思われ,その結果着生した果実の動揺も大きく互いの衝撃によって損傷することは当然の結果と思われるが,その割合は風上側に多く,風下側に少いことが立証されたわけである.われわれは風衡地の果樹園で防風施設が当然必要なことはいうまでもないが,その一資料の立証ができるものと思われる.
著者
丸山 敦史 浅野 志保 菊池 眞夫
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.59-66, 2004-03-31
被引用文献数
4

文部科学省が総合学習を導入する以前から農業体験学習は練馬区の小学校のカリキュラムに広く取り入れられてきた.本研究で調査した総ての小学校で,農業体験学習担当の先生は,自然とのふれあい,農業や食料生産の大切さ,労働の大切さなどを知るというこの体験学習の諸目的は達成されていると評価している.しかし同時に,適切な知識の不足,十分な大きさの農場を確保することの難しさ,担当教員に過重な負担を与える等の問題点の存在も指摘された.小学校の児童から得られたデータを用いて行われたプロビット分析の結果も,自然や農業の大切さの自覚等の面で農業体験学習が児童に良い影響を与えていることを明らかにした.しかし,そのようなプラスの効果が男子児童をバイパスしている傾向も見出された.
著者
柴沼 忠三 石井 弘 間瀬 哲也
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.89-94, 1961-12-31

著者等はβ-インドール酢酸のPaperchromatographyについて研究し,更に植物材料からこれの分離定量を試みた.展開剤にはiso-Propanol: NH_4oH: H_2O=10: 1: 1,呈色剤にはEhrlich試薬を用いたが,β-インドール酢酸のRf値は同試薬で発色する数種の他の物質のRf値とはかなりの差異があるので発色相当部を切離して定量することが出来た.これにより馬鈴薯および小麦の中の遊離および複合β-インドール酸酸を定量した.
著者
矢橋 晨吾 雨宮 悠 高 錫九 高橋 悟 田中 弥寿男
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.129-134, 1992-03-25
被引用文献数
1

以上の結果を総合的にまとめると以下のとおりになる.保水性及び通気性が良好であることは植物の生育にとって重要な条件であり,鹿沼土がこれらの条件を満たすのは,大粒径ほど多量に微細間隙を持ち保水性を高める一方,鹿沼土粒子が形成する粒間大間隙が通気性に大きく寄与していることが保水特性ならびに通気性の測定より明らかになった.さらに,単一混合する場合もなるべく粒径の大きいものを用いるのが良いことも明らかになった.今日,採取したものを風乾させ袋詰めにされ,園芸店において市販されているが,以上のことを考慮にいれ,今後鹿沼土を合理的に利用するには,袋詰めにする前において粒径及び間隙により分類し,植物により使い分ければ一層の効果が得られるものと考える.
著者
小原 均 岡本 敏 松井 弘之 平田 尚美
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.187-193, 1992-03-25

キウイフルーツ'ヘイワード'の果実肥大と成熟時の品質に対する葉果比(1.5, 3, 4.5, 6)の影響を調査した.結果枝に環状剥皮を行うと葉果比が増加するに従って果実重量が増加したが,葉果比1.5では果実を適正または積極的に肥大させるまでには至らず,葉果比3では通常の果実の肥大(約100g)を示し,葉果比4.5及び6では肥大が促進された.一方,結果枝に環状剥皮を行わないと,葉果比にかかわらず果実の大きさはほぼ同じであった.KT-30処理果実でも肥大に対する葉果比の影響は,KT-30無処理果実と同様な結果であったが,結果枝に環状剥皮を行った葉果比4.5及び6の果実では,著しく肥大が促進された.正常な果実の肥大のためには,葉果比が3であれば十分であり,また,KT-30による果実肥大促進にも葉果比が3であれば十分であった.なお,果実肥大に対するKT-30の効果は,果実のsink能を高めることであることが,葉果比の面からも推察された.葉果比が果実の品質に及ぼす影響は,特に糖度に認められ,結果枝に環状剥皮を行うと,KT-30処理にかかわらず葉果比1.5で低く,また,KT-30無処理果実では葉果比3でも低かった.正常な品質の果実に生長するためには,葉果比で4.5は必要であると推察された.
著者
綾野 雄幸 大塚 慎二郎
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.41-47, 1968-12-31

食用レバー(豚)を水煮した場合,加熱が蛋白質の消化にどのように影響するか,また脱脂ならびに脱糖処理をして水煮した場合,消化性がどのように向上するかについて,ペプシンによる人工消化試験を行なった.1.消化過程中における消化率の変化は,生のもの,加熱したもの(100℃および120℃で1時間)両者とも時間の経過にともない上昇した.しかし加熱温度が高いものほど消化率は低かった.37℃で24時間消化後の消化率は生のもの89.1%,100℃で加熱したもの84.4%,120℃で加熱したもの77.6%であった.2.脱脂(凍結乾燥レバーをエチルエーテルで処理)ならびに脱糖(生レバーをglucose-oxidaseで処理した後,凍結乾燥,脱糖率59.3%)処理により消化率は向上した.脱脂したものの消化率は無処理のものより各加熱段階(60℃,100℃および120℃で1時間)とも約3〜4%高くなった.脱糖したものも約2%高くなった.消化生成物中の窒素成分の組成の点からみても,脱脂ならびに脱糖処理を行なったものは無処理のものより小分子のものに分解されていることが認められた.特に120℃に加熱したものではその傾向が顕著にあらわれた.3.レバーの消化を阻害する因子として蛋白質の加熱変性以外に,脂肪や還元糖の存在が考えられ,これらは加熱温度が高い場合に著しく影響することが分った.
著者
今 久 羽生 寿郎
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.17-22, 1987-03-30

1985年4月24日関東地方の広い範囲でひょうが降った.被害は約5億円に達したが,季節的に早かったせいもあり,規模の割には少なかったといえる.しかし,降ひょうの規模が大きかったので,降ひょう予測という点に注目しながら解析を行なった.その結果,次のような知見が得られた.1.進行速度は日本海上で少し遅くなるが,500mbの寒気の大陸上の移動速度を使って外挿することでおおむね予想できた.2.降ひょう日には対流不安定が地上から3000mまで達し,下層は南よりの風で湿度が高く,上層は北よりの風が卓越していた.3.ショワルターの安定指数を用いた降ひょう子測では850mbより900mbの気塊を用いた方がうまく予報できた.4.クラスターの南側と東側では風向・風速・気温降下の間に異なる関係が見られた.5.風向が変化した時から降ひょうと風速ピークが生ずるまでの時間は,平均的に見ると30から40分程度であった.6.降雨域と気温降下域にずれがあったが,最大の気温降下量は温度の時間変化の軌跡から,連続した複数の積乱雲による下降気流によってもたらされたと判断された.
著者
中村 攻 宮崎 元夫
出版者
千葉大学園芸学部
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
no.34, pp.p45-55, 1984-12

本研究は, 東京都特別区の基本構想における都市施設の整備計画について, つぎのような事項を明らかにした.(1)住宅供給計画-区が直接供給する区営住宅, その他の公的住宅, 民間住宅の3種類があり, 区営住宅をふくめた公的住宅は, 福祉対策・居住環境改善対策・人口確保対策といった公共的性格の強いものに限定され, 一般の住宅需要は民間住宅対策が中心となっている.(2)交通計画-幹線道路建設では, 自動車交通一般の円滑化を目的としたものと, バス交通や避難路の確保といった目的が限定されたものがある.しかし, 幹線道路のモータリゼーション抑制策は, 公共交通の拡充と物流の共同化を抽象的にあげるにとどまり, 具体策を見出しえない状況にある.生活道路では, 歩行者空間の確保が中心課題であり, この他には自転車対策がとりあげられている.また, 現状の求心型の公共交通体系のなかでの横の移動が大きな問題となっている.(3)防災対策-防災計画の作成, 防災都市化の推進, 自主的防災対策の確立, 応急活動体制の確立が中心的課題となっているが, いずれも計画内容は未整備であり, 具体性に欠けるものが多い.そのなかで中野区・世田谷区の計画は, 具体性において注目される.(4)公害対策-測定・監視体制の整備, 原因者規制, さらには広域対策としての環境アセスメントの制度や河川浄化の協議会の設置があげられる.(5)公園-いずれの区も低い整備目標しかあげえず, 高密市街地に位置する区ほどその目標は低い.そして, 具体策としてあげる事項は, 民有地の一時的借りあげ, 河川敷の活用や暗渠化, 残存農地の活用などである.(6)下水道-都心・山手地域とそれ以外では普及率に大きな差があり, 周辺地域では重大
著者
渡辺 幸雄 猿丸 仁美 嶋田 典司
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.37-43, 1983-12-25

134種の植物についてウレアーゼ活性を調べた結果,大部分の植物でその活性が検出された.活性がもっとも高かったものはナタマメであった.ウレアーゼ活性が検出されなかった植物でも,生育環境が異なると活性を発現するものもみられ,まったくウレアーゼが存在しない植物があったとはいいきれないと思われる.供試植物を草本と木本とに分けて比較すると,草本の方が高いウレアーゼ活性を示す傾向にあった.ウレアーゼ活性が検出されなかったシコロベンケイに尿素を与え,その同化を検討したところ, Niの存在下でのみウレアーゼ活性の上昇が認められた.
著者
嶋田 典司 矢島 聡 渡邊 幸雄
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.15-21, 1988-03-18
被引用文献数
3

水生シダであるオオサンショウモを用いて下水二次処理水及び富栄養化された湖沼の水から栄養塩を除去することを目的に基礎的な実験を行い,以下の結果を得た.1)合成培養液を用いた室内実験から,オオサンショウモはpH4から8の広い範囲で生育が可能であることがわかり,植物体が2倍になる時間は4.5日であった.N源ではNO_3-NよりもNH_4-Nをよく吸収し,生育も良好であった.N,Pの吸収量は新鮮重1gあたりNとし23.5〜5mg,Pとして1〜1.5mgであった.2)下水二次処理水を用いた栽培実験では栽培期間中にNO_2-Nが18ppmになったが,オオサンショウモには障害は発生しなかった.処理水中のPが0.1ppmと低濃度の場合でもオオサンショウモの生育は可能であったが,Pを1ppm添加することにより,Nの吸収が増し,添加したPもほぼ吸収しつくした.3)手賀沼の水を用いた実験ではオオサンショウモの生育は10日で約4倍になり,N,Pの濃度低下も顕著であった.以上の結果から,富栄養化された水からの栄養塩の除去にオオサンショウモの利用はきわめて有効であることがわかった.
著者
浅野 二郎 仲 隆裕 藤井 英二郎
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.69-78, 1986-03-30
被引用文献数
1

わび茶が創始され,多くの人たちがそれを継承するなかで,わび茶は大きく発展する.わび茶が発展するなかで,やがて,遊芸の茶ともいえる贅と華美に流れる茶が流行する時期を迎える.この時流のなかで,わび茶本来の姿へ立ち戻るべし,とする人達があらわれる.本報告では,このような人達の中から,資料によってその事績を比較的明確にとらえることのできる藤村庸軒と井伊直弼の茶と茶庭について取り上げ,検討した.特に茶庭については現存する西翁院・澱看席と,埋木舎・〓露軒および茶湯一会集を中心にして考察を加えた.そこでは,いずれも,わび茶の原点への回帰を希う真摯な姿勢が,具体的な作例あるいは著書・諸記録を通してうかがい知ることができる.
著者
門間 要吉 慶野 征〓 小林 康平
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.81-91, 1991-03-01

(1)本稿はイチゴの養液栽培農家14戸の収益性を実態調査の資料を用いて検討したものである.収益性の高い農家は収穫量が多いのみならず,その多くを市場価格の高い時期に出荷している.逆に収益性の低い農家は収穫量が少いだけでなく,生産費も高く,かつ出荷期は市場価格の低い時期である.(2)イチゴの市場価格は季節別に大幅に変動し,11月末から翌年1月中旬にかけて高く,春に低い.収益性を高める最大の要因は,市場価格の高い時期に収穫量のピークを合わせることである.しかし,11月末から12月に収穫期を合わせるためには,イチゴ苗の花芽分化を8月末から9月に行わなければならない.ところが,この時期は気温が高く,苗の栄養成長の旺盛なときである.したがって,人工的に苗を冷蔵庫に入れ,あるいは根を切断して,花芽分化を促進させることになるが,これが他方,その後の苗の成長に大きく影響し,収穫の時期と量を左右することになる.イチゴ栽培技術の決定的なポイントである.(3)養液栽培は,多額の資本投入によって経営が成立する.したがって,極めて集約的でかつ高収入獲得可能な経営として展開されなければならない.イチゴ養液栽培の経済的安定のためにはまず,増収技術の確立が重要であり,さらに高価格期に大量収穫を実現する技術的対応が欠かせない.そのためには,経営者は,常に養液栽培の基本的理論に立脚した科学的な施設の利用と同時に,イチゴのもつ生理生態上の特性を完全に理解するとともに,この特性を十二分に発現可能な諸施設の整備充実,適確な技術的対応の可能性を確保されなければならない.たとえば,養液調製補給にしても,メーカーの定める基準や手法を尊守して忠実に実践することも重要であろうし,水質・水温もかなり重要な生育安定要因と考えられるので,常に検定を基礎とした調整をおこたらず,生育の充実と促進のための最適条件を確保することが肝要であろう.また,花芽分化促進の技術対応は極めて重要である.その施設の不備などから充分な効果が得られないこともある.現状では農家個々が,思い思いの施設で冷蔵処理が行われているが,これなどは,生産地域における組織化のなかで,最適処理施設を完備して共同利用による処理機能の高度化なども今後の課題である.(4)養液栽培は土耕栽培にはみられない有利な成果が期待される.すなわち,収益性のみでなく,作業管理の側面でも作業の能率化や作業労働強度の軽減に大きな効果を発揮している.したがって,栽培プラントだけではなく,栽培全般の合理化のために必要な諸設備も含めて総合的な施設設備が永続的かつ安定的なイチゴ養液栽培の可能性を保証するものではないだろうか.
著者
本多 〓
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.91-98, 1974-03-15

1.都市樹木の公害抵抗性を増進するための管理技術開発の一環として,施肥による効果について実験を行った.2.供試樹木はケヤキZelkova serrata MAKINOで用土は肥料のほとんどない心土の赤土を用い,所定の施肥を行った後,1972年7月13日に木箱に植付けた.3.実験区は,多肥区・中肥区・少肥区・無肥区の4区を設け5連制で行った.植付けどきに化成肥料を元肥として施し,追肥は行わなかった.4.SO_2処理には,人工気象室より成るガスチェンバーを用い,樹木が活着し,肥料吸収の時間として1ヵ月および2ヵ月を経過した後に行った(2.5ppm,2時間).5.煙斑発生率よりみると,施肥区が無肥区に比べて被害は少なかった.1ヵ月では各区の差はあまり多くはなかったが,肥料の吸収利用が多くなったと考えられる2ヵ月後の実験においては,各区の差は大きく,中肥と多肥の区では無肥区の約1/3に減少した.6.落葉率よりみると,多肥区は少く,無肥区を100とすると多肥区では約40%にとどまった.7.SO_2接触24時間後に摘葉を行い,その後の再生展葉状態を調べたところ,肥料の少い区ほど再生力が乏しく,多肥区・中肥区では旺盛な恢復がみられ,少肥区・無肥区に比べ顕著な差があった.8.以上の諸点を総合すれば,樹木の公害抵抗性を高め,被害よりの恢復を促進し,被害を最少限度にとどめるための対策として,施肥は有効な手段である.9.従来都市緑化樹木に対して,施肥はほとんど行われていないが,今後緑化対策の一環として,施肥は不可欠の要素として取り入れるべきである.
著者
安藤 敏夫 上田 善弘 橋本 悟郎
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.17-26, 1992-02-25
被引用文献数
5

Petunia属の今後の研究に資する為,Calibrachoa属を含めた広義のPetunia属を記載した文献,71編を集め,最新の記載に従って配列し解析した.文献には,64種類の種名が認められ,それらはFries(1911),Wijsman and de Jong (1985)およびWijsman(1990)に従って7グループに類別できた.そのうち,およそ40種類の種名は,採用可能なものであったが,いずれも今後の検討を必要とした.いくつかの種名に対しては,手続き上の誤りが認められた.ブラジル,ウルグアイ,アルゼンチン,パラグアイ及びボリビアに於けるPetuniaの分布がまとめられ,各国,各州に分布する種数が推定された.それぞれの種に対して,タイプ標本の種類とその存否が検討された.
著者
礒田 昭弘 王 培武
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.1-9, 2001-03-31

中国新疆において,水分ストレス条件下のダイズ数品種の蒸散速度と葉温を経時的に測定し,その品種間差異と葉の調位運動との関係について検討した.4品種(青豆7232,8285-8,高肥16,東農87-138)を用い,播種から開花期の7月2日まで適宜かん水を行い,7月2日から8月12日の期間かん水処理を行った.かん水処理開始16日後に,水平に固定した葉身(葉身角度処理区)と自由に調位運動を行っている葉身(葉身角度無処理区)の葉温の経時的変化を測定した.同時にかん水区,無かん水区の1個体につき,単位葉面積当たりの茎流速度(蒸散速度)を測定した.各品種,処理区の小葉ごとの受光量も調査した.土壌水分条件が変化することにより,葉の調位運動に加えて葉温および蒸散速度の対応が品種間で大きく異なることが認められ,葉温と密接に関係していた.葉温の制御を主に葉の調位運動で行っているタイプ(東農87-138,高肥16),主に蒸散で行っているタイプ(青豆7232),そして両方によっているタイプ(8285-8)が認められた.かん水区の上位2層の受光量は,青豆7232が最も大きく,次いで東農87-138,8285-8,高肥16の順でとなり,無かん水区に比べかん水区の受光量が高くなった.単位土地面積当たり受光量は,かん水区で東農87-138,8285-8が大きくなり,無かん水区で若干減少した.葉面積,乾物重は,かん水区に比べ無かん水区では,高肥16および東農87-138は大きな差がなかったが,8285-8では葉面積,乾物重は大きく減少した.青豆7232は葉群構造は大きな変化はなかったが,無かん水区の葉面積,乾物重はかん水区に比べ一回り小さくなった.以上のことから,ダイズは葉の調位運動によって水分の損失を防ぎ,受光態勢の悪化を抑えることで乾物生産を保ち,水分利用効率を大きく向上させているものと考えられた.
著者
渡部 亮 坂田 祥子 丸山 敦史 菊池 眞夫
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.51-58, 2004-03-31

横浜市の三つ池公園の利用者から得られた支払意志額(WTP)を用いて都市公園の選好構造を検討した.公園が現状のままで有料化された場合入場料として幾ら払うかという質問に対して得られたWTPの平均値は138円であった.これに対して公園のサービスとインフラストラクチュアを改善した上で有料化するとした場合のWTPは平均180円であった.WTP関数の計測により,所得,年齢,公園訪問の目的が複数ある場合にWTPが統計的に有意に高められることが明らかにされた.公園の機能と快適さを高く評価する訪問者も高いWTP水準を示した.また計測された年齢とWTPの関係から,公園の入園料を平均WTPより低い100円に設定するとしても,35歳以下の若い世代の来園者を失う可能性が高いことが明らかになった.