著者
唐 方 野田 裕司 吉村 昌雄 久保 道徳 阿部 博子
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.833-839, 1995-04-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
12
被引用文献数
1

亜鉛欠乏マウスに大量の硫酸亜鉛を投与すると, 投与1時間後の血清亜鉛濃度は正常対照マウスに比べて著しく増加し, 小腸粘膜病変も増悪するが, 漢方薬 (〓香, 紫蘇, 木香, 陳皮, 知母, 鶏内金) 投与した亜鉛欠乏マウスでは血清亜鉛濃度の上昇が抑制されると共に小腸粘膜の障害も軽減されることが見出された。
著者
岡田 裕美 渡辺 賢治 鈴木 幸男 鈴木 邦彦 伊藤 剛 村主 明彦 倉持 茂 土本 寛二 石野 尚吾 花輪 壽彦
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.57-65, 1999-07-20
参考文献数
19
被引用文献数
5 4

症例は60歳男性で平成9年6月3日腹部不快感を主訴に北里研究所東洋医学総合研究所を受診した。半夏瀉心湯の投与により腹部症状は軽減したが, 半夏瀉心湯の服用は6月より8月まで継続した。同年8月3日より悪寒, 発熱, 倦怠感が出現した。肝機能障害を指摘されたため, 半夏瀉心湯を中止し小柴胡湯を投与した。14日当院漢方科入院となり, 抗生剤, 強力ミノファーゲンCにて経過観察した。入院時の胸部レントゲンにて左上肺野にスリガラス状陰影を認めたため, 小柴胡湯を中止した。肝機能障害は改善したが, 呼吸困難が顕著となり, 捻髪音を聴取するようになった。胸部レントゲン, 胸部CTにて間質性変化を確認し, 9月5日よりPSLの投与を開始した。経過は良好で症状, 画像所見, 検査所見とも改善を認めた。DLSTは小柴胡湯, 柴胡, 黄苓で陽性だった。当初小柴胡湯による間質性肺炎を疑ったが, 小柴胡湯投与前の他院での胸部レントゲン写真でも左上肺野のスリガラス上陰影を認めたため, 本例は半夏瀉心湯が主でさらに小柴胡湯の投与により薬剤性の肝障害ならびに間質性肺炎を発症したものと考えられた。
著者
渡辺 哲郎 永田 豊 福田 秀彦 長坂 和彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.230-243, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
39
被引用文献数
2 4

特発性腸間膜静脈硬化症(idiopathic mesenteric phlebosclerosis, IMP)は,腸間膜静脈壁硬化に起因した還流障害による慢性虚血性腸病変で,右半結腸を主体に,青銅色調の粘膜変化,腹部単純X 線撮影検査や腹部CT 検査での腸管や腸管周囲静脈の石灰化を特徴とする。近年漢方薬長期投与中のIMP 発症例を散見するが,漢方診療を専門に行う外来での実態は明らかではない。今回,諏訪中央病院東洋医学センターを5年以上通院する患者を対象としてIMP 罹患の有無を検索したところ,対象257名中2名(0.8%)で認めた。いずれも山梔子を含む方剤を長期服薬し,一例は急性腹症で緊急手術が施行され,一例は無症状であった。発症機序は不明な疾患であるが,長期に漢方治療を受ける患者,特に山梔子服薬患者においては,その存在を念頭におき,無症状例であっても積極的な画像検索を行う必要があろう。
著者
櫻井 貴敏 青山 幸生 齋藤 紀彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.34-39, 2015 (Released:2015-06-29)
参考文献数
14
被引用文献数
1

【目的】我々の2次救急現場では,急性胃腸炎による腹痛などの入院を要しない疼痛患者をよく経験する。そこで,四肢の疼痛,胆石の疝痛発作などに頓服として用い,鎮痛効果があると報告されている芍薬甘草湯が,救急外来における急性疼痛症例に対し,有効であるかについて,検討した。【方法】平成23年8月から11月までの期間,救急外来に救急車で搬送され,疼痛を主訴とする患者のうち,理学的,画像診断にて,生命の危機を除外できる30症例を対象とした。芍薬甘草湯エキス剤2.5gを投与し,30分後に疼痛の改善の有無を判定した。有効性はvisual analog scale(VAS)を用いて投与前後で評価した。【結果】全症例の投与前後のVAS 平均値が投与前71.03 ± 19.42mm から投与後34.86 ± 34.89mm(P < 0.01)へ有意に変化した。【考察】芍薬甘草湯は救急外来における疼痛軽減に有効である。特に,急性胃腸炎による疼痛軽減に有効である。
著者
池田 清彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.173-184, 2006-03-20 (Released:2010-03-12)

広く信じられていることと異なり, 科学は真理を追求する営為ではなく, 何らかの同一性により, 現象を説明する営為である。この立場から, 現在の遺伝子還元主義的な生物学を批判し, システムを重視する対抗理論について論じた。
著者
植田 圭吾 八木 明男 王子 剛 韓 哲舜 岡本 英輝 平崎 能郎 並木 隆雄
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.119-123, 2015 (Released:2015-08-12)
参考文献数
15
被引用文献数
1

腸膣瘻は膣からの排ガス,排便,会陰部のびらんや膣炎などをきたす病態である。腸膣瘻に漢方治療が有効であった症例を経験したので報告する。症例は62歳女性。潰瘍性大腸炎(UC)に対して大腸亜全摘術,回腸嚢肛門管吻合術を施行された。その後腸膣瘻によると考えられる膣からのガス・便排出を生じ,残存直腸におけるUC 再燃を考慮した内科的治療で軽快した。この7年後に同様の症状を生じたが,同様の内科的治療は効果なく回腸嚢炎はあるものの瘻孔が同定されないなどの理由のため手術による閉鎖の適応もなかった。内科的治療の継続による症状の軽快はなく漢方治療を行うこととなった。胃風湯加黄耆の投与で若干の改善がみられたが,五苓散料に転方したところ症状の消失を得た。五苓散による腸膣瘻の治験例は近年見られないため貴重な症例と考えた。また,今回のように西洋医学的な治療が難しい腸膣瘻に対し,漢方治療は試みる価値があると考えた。
著者
長坂 和彦
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.699-704, 2007-07-20
被引用文献数
1

二千年以上にわたり漢方が永続し得だのは,「漢方は効く」この一点に尽きる。二千年前の薬が効くのは,人の体が二千年前とほとんど変わらないからである。一説には400万年の間,人はほとんど進化していないという。しかし我々を取り巻く環境は著しく変化し,アレルギー疾患のような新たな証を引き起こす要因となっている。日本漢方は証を決定する上で,傷寒論・金匱要略を重視している。それ以外の考えを排除する,あるいは傷寒論・金匱要略に収載されている薬方以外は用いない,という行き過ぎと思われる意見もある。しかし証を決定する上で根底を成す傷寒論・金匱要略は時代より変化しているのではないかと思う。傷寒論は林億らの宋改を経ている。金匱要略はまだしも,傷寒論は宋改を経ていない医心方や太平聖恵方と異なっている点も多い。我々は,張仲景が書いた傷寒論・全国要略を重視するといいながら,実は,林億らが書き換えた,あるいは,それ以前に書き換えられていた傷寒論に基づいて証を決定している可能性が高い。ここで注意してほしいのは,書き換えたことがいけないということではない。むしろ,宋板傷寒論は現代によりマッチしていると思っている。我々は,古いスタイルから脱皮することを恐れてはならない。漢方医学は四診をことのほか重視する,といわれているが,これは単に漢方医学が成立した時点で四診くらいしか情報を得る手段がなかったからである。現在の医療機器の進歩にはめざましいものがある。白血球やCRPが上昇している場合は,闘病反応が強いので実の反応と捉えることも可能である。我々は,有用であるものは可能な限り取り入れ治療に当たるべきである。これは,傷寒論の序文にある,「博采衆方」という考えに合致すると信ずる。
著者
後藤 博三 嶋田 豊 引網 宏彰 小林 祥泰 山口 修平 松井 龍吉 下手 公一 三潴 忠道 新谷 卓弘 二宮 裕幸 新澤 敦 長坂 和彦 柴原 直利 寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.471-476, 2008 (Released:2008-11-13)
参考文献数
22
被引用文献数
1

無症候性脳梗塞患者に対する桂枝茯苓丸を主体とした漢方薬の効果を3年間にわたり前向き研究により検討した。対象は富山大学附属病院ならびに関連病院を受診した無症候性脳梗塞患者93名で男性24名,女性69名,平均年齢70.0±0.8才である。桂枝茯苓丸エキスを1年あたり6カ月以上内服した51名をSK群,漢方薬を内服せずに経過を観察した42名をSC群とし,MRI上明らかな無症候性脳梗塞を認めない高齢者44名,平均年齢70.7±0.7才をNS群とした。3群間において,開始時と3年経過後の改訂版長谷川式痴呆スケール,やる気スコア(apathy scale),自己評価式うつ状態スコア(self-rating depression scale)を比較した。また,SK群とSC群においては自覚症状(頭重感,頭痛,めまい,肩凝り)の経過も比較検討した。その結果,3群間の比較では,自己評価式うつ状態スコアにおいて開始時のSK群とSC群は,NS群に比べて有意にスコアが高かった。しかし,3年経過後にはNS群は開始時に比較し有意に上昇したが,SK群は有意に減少した。さらに無症候性脳梗塞にしばしば合併する自覚症状の頭重感において桂枝茯苓丸は有効であった。以上の結果から,無症候性脳梗塞患者の精神症状と自覚症状に対して桂枝茯苓丸が有効である可能性が示唆された。
著者
笛木 司 松岡 尚則 牧野 利明 並木 隆雄 別府 正志 山口 秀敏 中田 英之 頼 建守 萩原 圭祐 田中 耕一郎 長坂 和彦 須永 隆夫 李 宜融 岡田 研吉 岩井 祐泉 牧角 和宏
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.38-45, 2014 (Released:2014-07-22)
参考文献数
22
被引用文献数
2

『傷寒論』成立時代の権衡の考証を目的に,近接した年代に著された『本草経集注』「序録」の権衡を検討した。同書の度量衡は,権衡の記述に混乱が見られ,また度・量についての検証がこれまで十分に行われていなかった。そこで敦煌本『本草経集注』の「1方寸匕に等しい容積の薬升」の記述に着目,同記述が『漢書』「律暦志」の度に従っていることを仮定して計算を行い,1方寸匕の容量として5.07cm3の値を得た。得られた値を生薬の実測数値を用いて検証し,仮定を肯定する結果を得た。得られた1方寸匕の容量から換算した1合の値は『漢書』「律暦志」のそれと一致しており,『本草経集注』「序録」の度量が『漢書』「律暦志」に従っていることが確認された。次いで同書中に記述された蜂蜜と豚脂の密度について実測と計算値の比較を行い,『本草経集注』「序録」中の薬物の記述の権衡は『漢書』「律暦志」に従っていることが明らかになった。
著者
伊藤 隆 仙田 晶子 井上 博喜 斉藤 康栄 鏡味 勝 松原 史典 青柳 晴彦
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.933-939, 2005-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
9
被引用文献数
6 6

外来を受診した肥満患者127例に―律に防風通聖散 (Bo) を投与し, 6ヵ月以上服薬できた33例についてエキス剤の体重減量効果を検討した。対象例の腹力は5段階で (4) 以上の強が多かったが, これは腹痛下痢などの副作用で長期投与ができなかった9例で中間 (3) が多かったのに比較して, 腹力の強さの点で有意に高かった。服薬後の食欲低下は16例に認められた。食欲低下例と食欲不変例の投与前の体重はそれぞれ67.1±2.5kg, 75.9±2.4kgであり, 推計学的有意差を認めた。食欲低下例の体重の変化は-4.8±1.0kgで, 食欲不変例の-1.4±0.7kgに比較して明らかな差がみられた。血中中性脂肪値はBo投与後有意に低下した。作用機序として麻黄, 荊芥, 大黄, 連翹, 甘草による Adrenalin β3 receptor の活性化だけでなく, 大黄と山梔子による向精神作用が推測された。近年本薬に関する重篤な副作用報告がなされている。本剤の投与対象は腹力が強 (4) 以上が望ましく, 長期投与は食欲低下が認められる例によいと思われた。
著者
乙竹 秀明 東 いぶき 久保川 哲 近藤 亮一郎 有田 龍太郎 沼田 健裕 大澤 稔 菊地 章子 髙山 真 石井 正
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.419-429, 2019 (Released:2020-03-06)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

漢方薬を用いたランダム化比較試験(RCT)を,日本東洋医学会は漢方治療エビデンスレポート(EKAT)としてまとめている。本研究では,漢方薬の RCT の現状と変遷を検討することを目的として,EKAT の分類法(研究デザイン,介入方法,研究目的,掲載雑誌の信頼度,出版年)を考案し,416本の RCT の分類と比較を行った。研究デザインで分類すると二重盲検 RCT(DB-RCT)は全体の8.9%と少なかったが,その86.5%がプラセボを用いた試験であった。標準治療のない疾病に対し漢方薬の効果を評価した研究の6割以上が DB-RCT であり,漢方薬への期待がうかがえた。近年になるにつれて,封筒法 RCT や準 RCT の割合が減少する一方,インパクトファクターの付く雑誌への掲載割合が増えており,質の高い漢方研究が行われ評価されてきていると示唆された。本研究は医学部医学科第2学年問題発見・解決型実習で行われた。
著者
江崎 裕敬 井口 貴文 谷脇 正哲 山本 裕貞 土井 宏 三宅 隆之 桜田 真己
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.169-177, 2016 (Released:2016-08-18)
参考文献数
26
被引用文献数
3 3

心不全に対する西洋医学的治療は飛躍的に進歩しているが,西洋薬と機械的補助を用いても治療に難渋する症例は未だ存在する。このような重症難治性心不全患者に対して推奨されている標準治療に加え漢方薬を用いることで病態の改善が得られるかは判然としていない。そこで当院にて過去2年間に木防已湯を用いた重症難治性心不全患者を後ろ向きに検討した。研究期間は2013年4月から2015年4月とし,この期間に木防已湯が投与された患者12人の自覚症状の変化,血清 BNP 濃度,左室駆出率などについて後ろ向きに検討した。投与前後で血清 BNP 濃度は796.8 ± 830.8 g/ml から215.6 ± 85.5 pg/ml(p < 0.01)へ減少し,全例において自覚症状の改善を認めた。左室駆出率含め他のパラメーターに関しては有意差を認めなかった。西洋医学的対処が限界に達した患者において木防已湯の投与は有用である可能性が示唆された。
著者
小池 宙 吉野 雄大 松本 紘太郎 竹原 朋宏 竹本 治 松浦 恵子 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.238-244, 2012 (Released:2013-02-13)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

近年,気候変動や生薬輸出国の経済発展により生薬の供給は不安定になりつつある。本稿では,生薬原料の国内生産の増加・自給率向上を目的に,需要が減少傾向にある葉タバコから生薬原料への転作の可能性について検討した。まず,転作をすすめる生薬原料として需要・品質・価格面を考慮し,当帰と柴胡を選定した。次に,これら生薬原料と葉タバコの国内生産について収益性等を比較した。当帰の収益性は葉タバコよりも低かったが,転作奨励金等で収益を補えば葉タバコからの転作が促されると考えられた。具体的には,年間3,500万円の転作奨励金により当帰の自給率は10割にまで上がるという試算結果となった。一方,柴胡の収益性は葉タバコを上回っていたが,国産品の販売価格は輸入品の約3倍であり,薬価よりも高く,生産補助金で価格競争力を補う必要があると考えられた。具体的には,年間6.6億円の生産補助金で柴胡の自給率は5割に上がるとの試算結果となった。
著者
大井 逸輝 河﨑 亮一 田中 健太郎 御影 雅幸
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.305-312, 2012 (Released:2013-02-14)
参考文献数
8

漢方生薬「附子」は強毒性のブシジエステルアルカロイド(BDA)を含むが,生薬原料には BDA 含量の高いものがよいと考えられてきた。一方,第十六改正日本薬局方では減毒処理方法および BDA 含量の上限値が規定された。本研究では,古文献の附子の良品に関する記載内容を検討し,附子の形状と BDA 含量の関係について調査した。その結果,大型で角(細根基部肥大部)がある附子が尊ばれていたこと,また使用時は,原材料(子根)から細根基部肥大部(節・角)および根頭部(臍)を切り取る修治が行われていたことが明らかとなった。大型の附子は BDA 含量が低値に安定し,根頭部(臍)および細根基部肥大部(角)は子根本体に比べて BDA 含量が高いことが明らかになったことから,選品においても修治法においても BDA 含量を低くする目的があった可能性が示唆された。したがって,古来の良質品附子は毒性が低くかつ安定したものであったと考証した。
著者
田原 英一 犬塚 央 岩永 淳 村井 政史 大竹 実 土倉 潤一郎 矢野 博美 木村 豪雄 三潴 忠道
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.660-663, 2011 (Released:2011-12-27)
参考文献数
10
被引用文献数
1 4

芍薬甘草湯が無効で,疎経活血湯が奏効したこむら返りの4例を経験した。症例1は73歳,男性。以前からあったこむら返りが1ヵ月くらい前から増強し,当科を初診。芍薬甘草湯7.5g/日を投与したが不変のため,疎経活血湯7.5g/日に変更したところ,速やかに軽減した。症例2は67歳女性。肩こり,腰痛などで通院中。夜間にこむら返りが出現するようになり,芍薬甘草湯7.5g/日を投与したが不変。疎経活血湯2.5g/眠前投与に変更したところ,こむら返りは速やかに軽減した。症例3は66歳女性。腰痛にて当科治療中。こむら返りが出現したため,芍薬甘草附子湯3.0g/日を投与したが,効果が少なく,疎経活血湯7.5g/日に変更したところ,速やかに消失した。症例4は75歳男性。左の下肢冷感で加療中。こむら返りが出現したため,芍薬甘草附子湯1.5g/日投与したが,変化は一時的で,疎経活血湯2.5g/日に変更したところ,速やかに消失した。血流を改善し,鎮痛効果の期待できる疎経活血湯は,芍薬甘草湯無効のこむら返りに試みられてよい方剤と考えられる。
著者
髙田 久実子 蛯子 慶三 木村 容子 伊藤 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.191-194, 2016 (Released:2016-08-18)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

近年,日本ではインターネット販売により,鍼灸師や医師以外の者が医家向けの管理医療機器を安易に購入し購入使用するケースも少なくない。プラスチックとシールが一体になった円皮鍼(以下パイオネックス®)は操作性がよく,これまでの報告では有害事象もテープによる皮膚炎程度で安全性が比較的高く広く普及している。今回,患者が貼付していたパイオネックス®を剥離した際にプラスチック部が破損し鍼先が身体に挿入されたままになり,伏鍼などの事故につながる可能性のあった事例を経験した。患者は自己判断で購入し長期間保管して使用期限を10ヵ月過ぎたパイオネックス®を約3週間貼付していた。プラスチックは性質上劣化をおこすものであり紫外線や水,衝撃などでも破損することがある。使用期限を守ることはもちろん,貼付期間が長くなると劣化が進む可能性があり,使用上の注意喚起が改めて必要と考え急ぎ報告する。
著者
関矢 信康 引網 宏彰 古田 一史 小尾 龍右 後藤 博三 柴原 直利 嶋田 豊 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.811-815, 2004-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

難治性の気管支喘息の3症例に対して咽喉不快感, 動悸, 自汗を目標として清暑益気湯を投与した。目標とした症状および所見は速やかに改善した。さらに発作の回数が著明に減少あるいは消失した。そのほか3症例に共通していた事柄は中年期であること, 発作が通年性であること, 心窩部不快感, 心下痞〓, 臍上悸を認めることであった。これまで清暑益気湯は夏やせ, 夏まけに対して用いられることが多かったが中年期の気管支喘息の長期管理薬 (コントローラー) としても認識されるべき処方であると考えられた。
著者
石川 利博
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.234-242, 2013 (Released:2013-11-19)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

漢方医学では「恐怖」は「腎」と密接な関係がある。故に,腎の障害に使用する六味丸が恐怖と関連のある精神疾患の症状に有効であると期待できる。筆者は六味丸が有効であった神経症の7例を経験した。3例は適応障害,2例は社会恐怖,1例は全般性不安障害,1例は心身症であった。3例は六味丸単独で有効であり,4例はエチゾラムや他の漢方方剤が必要であった。全例に腰膝酸軟,小腹不仁,尺部の弱脈のような腎虚を示す症候が存在した。全例に熱証の症候があり,6例に気虚の症候が存在した。さらに,症例では,六味丸は恐怖,不安や睡眠障害だけでなく,排尿障害,同時に存在する寒熱証,不正性器出血に有効であった。