著者
犬飼 賢也 須永 隆夫 関 義信
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.17-22, 2017 (Released:2017-07-05)
参考文献数
33
被引用文献数
1

耳鳴は西洋医学的な治療ではうまくいかないことが多い。症例1は65歳女性。初診5年前に突発性難聴になり,耳鳴が持続し当院を受診した。耳鳴日常生活支障度(Tinnitus Handicap Inventory ; THI)は66点であった。両側の翳風(TE17)に円皮鍼を貼った。THI は1ヵ月後に14 点,2ヵ月後に0点となり終診とした。症例2は69歳男性。初診の40年前頃,左耳の近くで鉄砲が発砲され,左耳鳴が出現し,寛解増悪していた。初診8年前より持続するようになり,当院を受診した。THI は18点であった。左側の翳風に円皮鍼を貼った。3ヵ月後THI は2点となった。症例3は31歳女性。初診15日前より両側の耳鳴が出現し当院を受診した。THI は34点であった。両側の翳風に円皮鍼を貼った。4ヵ月後THI は8点となった。翳風への円皮鍼は簡単に貼れ,目立たず試みる価値のある方法と思われる。
著者
原田 英昭
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.861-867, 1997-03-20
被引用文献数
3

当帰芍薬散が効果があったと思われる5症例につき報告した。臨床症状, CT, MRI, SPECTなどでアルツハイマー病と診断し, 脳代謝賦活剤を投与後しばらくしてから当帰芍薬散を上乗せして最低1年以上経過観察した。その結果, 徘徊, 多動, 意欲低下などの痴呆の周辺症状に効果を認めたものや, 知能スケールが改善した例もあり, 全体的に多少の改善, 進行の遅延が得られたという印象がある。アルツハイマー病では種々の神経伝達系の機能低下がみられ, とりわけアセチルコリン系の低下が著しい。当帰芍薬散はアセチルコリン合成酵素(CAT)の活性をたかめたり, ムスカリン性レセプターを賦活してアセチルコリンニューロンの機能を改善することが知られており, こうした面でアルツハイマー病の症状が多少改善した可能性がある。アルツハイマー病に有効な治療法はない現状では, 当帰芍薬散は試みてよい薬剤と思われる。
著者
鍋島 茂樹 増井 信太 坂本 篤彦 埜田 千里 菅沼 明彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.204-207, 2021 (Released:2022-07-29)
参考文献数
12
被引用文献数
1

症例は24歳女性。第1病日より咽頭痛が出現。第2病日より38℃台の悪寒・発熱がみられたため第3病日に発熱外来を受診し,感冒と診断された。鼻咽頭スワブより PCR にて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)遺伝子を検出したためホテルへ移動,しかしその後も連日高熱および嘔気が続いていた。第5病日の昼に主治医の指示により麻黄湯の内服を開始。内服後に発汗して解熱し,その後も発熱をみていない。しかし嘔気が増強したため,麻黄湯は1日のみで中止した。第7病日の PCR は陽性であったが,Ct 値ではウイルス量の低下が示唆された。麻黄湯はインフルエンザに有効であると報告されているが,本症例のように,インフルエンザ様症状の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対しても有効である可能性が示唆された。また,副作用として嘔気を助長する可能性があるため,柴胡剤など他の方剤との組み合わせも考慮されるべきである。
著者
高橋 浩子 日笠 久美 鎌田 周作 鎌田 ゆかり
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.252-261, 2018 (Released:2019-02-27)
参考文献数
21

不妊専門クリニックと患者情報を共有しながら,不妊患者に多い腎虚や瘀血の病態を考慮し,体外受精・顕微授精の採卵までは卵子の成熟を促し瘀血を改善する目的で補腎陰陽の八味地黄丸と駆瘀血作用の桂枝茯苓丸,採卵後移植までは,子宮内膜安定化の目的で温経・補血・駆瘀血の温経湯単独か桂枝茯苓丸を併用,移植後は安胎作用の当帰芍薬散を投与した20例を報告する。なお投与量については個々の状態に応じて調整した。20例中14例が妊娠反応陽性,うち10例が妊娠継続,4例は流産等。アンチミュラー管ホルモン値,子宮内膜厚,予測卵胞数,回収卵子数,受精卵数,初期胚到達数,胚盤胞到達数を,妊娠継続群と非妊娠群で比較したところ,子宮内膜厚以外で漢方併用後の数値の改善がみられ,回収卵子数と受精卵数で有意差を認めた。補助的な治療として,体外受精の段階にあわせた漢方薬は有効である可能性が示唆された。
著者
寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.413-418, 2016 (Released:2017-03-24)
参考文献数
22

医療用漢方製剤の当帰四逆加呉茱萸生姜湯の効能の一つに凍瘡(しもやけ)がある。凍瘡は寒冷な環境で見られるありふれた病症であり,この病症が末梢の血流低下と関連することは既に記されている。しかし,これに伴う炎症機転がどのようなものであるかについては不明であった。筆者は最近の免疫学が提唱している自然炎症の視点からその発症機序を推測することを意図した。凍瘡は細静脈の微小血栓を伴い,虚血にさらされた血管あるいは細胞から放出されるサイトカインにより起こるものであろうと考察した。
著者
桜井 みち代 石川 由香子 大塚 吉則 八重樫 稔 宮坂 史路 今井 純生 本間 行彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.155-159, 2009 (Released:2009-08-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

漢方治療をおこなって著効を得た脂漏性皮膚炎の5症例を経験した。うち3例は1ないし2年前から,顔面に皮疹がみられ,ステロイド剤やケトコナゾール外用剤による治療をうけていたが効果なく,十味敗毒湯により数カ月でほぼ完治した。他の2例はそれぞれ10年と25年前から被髪頭部に皮疹が続いていたが,荊芥連翹湯,麻杏よく甘湯,抑肝散加陳皮半夏の合方で,それぞれ2カ月後と8カ月後に著しく改善した。
著者
土倉 潤一郎 高橋 佑一朗 前田 ひろみ 吉永 亮 井上 博喜 矢野 博美 犬塚 央 川口 哲 田原 英一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.40-46, 2017 (Released:2017-07-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

「1週間に1回以上の頻度」かつ「2週間以上の持続」で再発するこむら返り33例に対して,疎経活血湯を使用した。判定は薬剤開始1ヵ月後に行い,薬剤開始直後から症状が消失したものを「著効」,1ヵ月後に症状が消失していたものを「有効」,1ヵ月後に半分未満へ軽減したものを「やや有効」,1ヵ月後に半分以上が残存したものを「無効」とした。結果は,「著効」12例,「有効」11例,「やや有効」9例,「無効」1例であった。1ヵ月後までに23/33例(69.6%)でこむら返りが消失し,32/33例(96.95%)において半分未満に改善した。さらに3ヵ月後までに29/33例(87.8%)で消失しており,高い有効性を認めた。夜間から明け方のこむら返りに対しては,“夕より眠前”“1包より2包”でより効果を認め,眠前2包の“発作前の集中的投与”が最も有効であった。再発性のこむら返りに対して疎経活血湯は有用だと思われる。
著者
角藤 裕 清水 元気 山岡 傳一郎
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.161-167, 2018 (Released:2018-11-08)
参考文献数
8
被引用文献数
3 3

持続する吃逆は患者のQuality of Life を大きく損なうため速やかな治療が求められるが,時に治療に難渋する。 当院では,吃逆の治療に柿蔕湯を日常的に用いており効果を実感しているがその有効率についてのデータは無いままであった。そこで2014年2月1日~2016年2月28日までの25ヵ月間に,吃逆を主訴として当院漢方内科を受診し,第一選択薬として柿蔕湯が処方された患者について,カルテを後方視的に調査し検討した。対象患者は27名(女性3名),年齢65.4±15.1歳(24~89歳)であった。対象者の59.3%で奏効し,症状軽快例を含め全体の66.7%に効果が認められた。投与後2日以内に効果を確認できる例が多く,有効例の88.9%が投与開始4日以内に効果を確認できた。証によらず病名処方的に投与を行った例も多くあったにも関わらず有効率が高く,臨床的に非常に重要と考えられた。
著者
矢久保 修嗣 並木 隆雄 伊藤 美千穂 星野 卓之 奥見 裕邦 天野 陽介 津田 篤太郎 東郷 俊宏 山口 孝二郎 和辻 直
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.167-174, 2019 (Released:2019-12-20)
参考文献数
15
被引用文献数
1

国際疾病分類(ICD)は疾病,傷害及び死因の統計を国際比較するため世界保健機関(WHO)から勧告される統計分類である。この国際疾病分類第11改訂(ICD-11)のimplementation version が2018年6月18日に全世界に向けてリリースされた。これに伝統医学分類が新たに加えられた。ICD の概要を示すとともにICD-11の改訂の過程やICD-11伝統医学分類の課題をまとめる。ICD-11は2019年5月の世界保健総会で採択される。我が国がICD-11を導入し,実際の発効までには,翻訳作業や周知期間なども必要であるためまだ猶予が必要となるが,国内で漢方医学の診断用語も分類のひとつとして使用できることが期待される。このICD-11伝統医学分類を活用することにより,漢方医学を含む伝統医学の有用性などが示されることも期待され,ICD に伝統医学が加わる意義は大きいものと考えられる。
著者
本間 行彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1-4, 1996-07-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
6
被引用文献数
1 2
著者
小林 陽二 福生 吉裕 赫 彰郎 金川 卓郎
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.263-273, 1992-10-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

動脈硬化症や血栓症に伴う〓血状態の臨床的判定の一助として Diagonal Ear Lobe Crease (ELC) の有無判定が有用か否かを768名の健康診断受診者を対象に行った。その結果, ELC (+) 群において高血圧者や心電図異常者の頻度およびTC,β-Lp, Atherogenic Index などの血清脂質は有意に高く, Apo AI, Apo AI/B ratio は低値傾向, Apo AII は有意に低値であった。各種疾患で入院中の患者34例を対象に行った寺澤らの診断法による〓血度測定とELCの有無判測の結果, ELC (+) 群で有意に〓血度は高かった。以上の成績からELCと動脈硬化症は関連性が高いものと考えられ, 動脈硬化症や血栓症に伴う〓血の判定においてELCの有無判定を考慮して良いものと考えられた。動脈硬化症は未病の状態と考えられることから, ELC有無判定のような簡易な方法で〓血状態を臨床的に診断できることは有用であると思慮定れた。

5 0 0 0 OA 漢方と温泉

著者
大塚 吉則
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.159-167, 2012 (Released:2012-10-11)
参考文献数
14
被引用文献数
1

古代中国においては,時の権力者は温泉を憩いの場として利用していた。玄宗皇帝は温泉を引いて宮殿(華清宮)を建てて内部に池を配置し,楊貴妃を伴ってこの地で時を過ごしていた。温泉の効能は古代中国でも知られており,漢の科学者張衡の温泉賦をはじめとして多くの記載が残っているが,漢方医学と直接関連した書物としては,李時珍の本草綱目が有名である。温泉は「温湯」として地水類の一つに数えられており,硫黄の臭いを発する地表からわき出る(沸泉)熱い湯として認識されている。日本においては江戸時代,貝原益軒が養生訓に温泉入浴についての注意事項を記載している。その後,後藤艮山が高温泉に入ることが重要であるとし,彼の弟子香川修徳はその著書一本堂薬選で,温泉入浴方法にまで言及している。温泉療法は「気血水」のすべてに影響を与えており,漢方とともに用いればさらにお互いの効用を増強させうるものと思われる。
著者
玉野 雅裕 加藤 士郎 岡村 麻子 星野 朝文 高橋 晶
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.275-280, 2018 (Released:2019-02-27)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

高齢の慢性心不全患者は増加しており,感染の合併などで高率に急性増悪を来し,フロセミド静脈注射,トルバプタン内服治療が行われている。しかし,一定の頻度で難治性患者(フロセミドやトルバプタンに対するノンレスポンダー)が存在し,臨床上問題になっている。今回我々は,難治性の心不全に五苓散が著効した2症例を経験した。五苓散投与により2症例とも尿量が増加し,症状,理学所見,各種の検査所見は著明に改善した。さらに退院後,これらの薬剤は継続投与され,心不全の増悪による再入院は約1年間にわたって回避された。この結果は,五苓散の臓器,組織の水の偏在を正常化する作用,および腎集合管におけるトルバプタンの作用を再活性化させた可能性が考えられ,今後,慢性のうっ血性心不全に対する五苓散併用の有用性が示唆された。
著者
舟橋 節夫
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.101-103, 1995-07-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
4

ナルコレプシーの患者に釣藤散を投与し, 4日後に, 睡眠発作, 情動性脱力発作, 入眠時幻覚などの症状の消失をみた。ナルコレプシーの漢方治療では葛根湯, および補中益気湯加味方の使用で症状が著明に軽減した報告があるが, 今回のように釣水藤散で極めて短時日のうちに症状の消失をみた報告はない。
著者
新井 信 佐藤 弘 代田 文彦
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.247-254, 2000-09-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
12
被引用文献数
1

軽症のSLEと診断され, 顔面, 頭部および背部の皮疹と脱毛を主訴に来院した26歳の女性患者に対し, 小柴胡湯合黄連解毒湯加〓苡仁を用いて治療した。その後の経過として, 紅斑, 脱毛, 光線過敏症などの皮膚症状が消失したうえ, 初診時に640倍を示していた抗核抗体が約2年後には陰性化した。さらに, 約1年間休薬しても皮膚症状が再燃せず, 抗核抗体もほとんど再上昇しなかった。調べ得た限り, SLEに対して漢方薬単独で治療して抗核抗体が陰性化した報告, 小柴胡湯合黄連解毒湯あるいはその加味方で治療した報告はなかった。以上のことから, 本例は軽症のSLEの一部, あるいはSLEと診断できず, 西洋医学的にステロイド治療の対象とならない疑SLE症例に対して, 漢方薬を試みる価値があることを示唆する興味深い症例と考えられた。