著者
根路銘 安仁 西 順一郎 藤山 りか 武井 修治 吉永 正夫 河野 嘉文
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.78, no.11, pp.967-974, 2004
被引用文献数
7

風疹の局地的流行は現在も続いており, 先天性風疹症候群 (CRS) の報告も増加しているが, 播した院内感染を経験した. 2003年3月から4月に計15名の院内感染者を認め, 院内感染対策として全病院関係者259名に風疹抗体検査 (赤血球凝集阻止反応;HI法) を病院全額負担で説明を行い, 同意を得て検査した. 発症者と拒否者2名を除いた251名が検査を受け, 感受性者が67名みられた. 発症者を除いた53名に風疹ワクチンを病院半額補助で勧奨接種した. その後速やかに終息し, 職員から患者への伝播は無かった. 発症者15名のうち9名は, 感染前の調査では, 既往歴または予防接種歴があると答えており問診だけでは信頼性に乏しいと考えられた. 感受性者・発症者は高年女性, 男性に多く, 全年齢層に対策が必要と考えられた. 抗体検査, ワクチン費用補助で約20万円を要した. 発症者の欠勤日数は平均6日, 平均賃金は約12,000円で, 今回の院内感染で総額約140万円が病院の損失になった. 女性の多い職場である病院では妊娠に伴う問題があり, 予防接種の時期やCRSの危険性等, 風疹感染対策は重要であると考えられる. 風疹の病院職員における流行は, 発症者の賃金の損失だけでなく病院運営に支障をきたし収入面での損失の可能性もあり, 事前の風疹感染対策は経営上充分に投資効果があると考えられる.
著者
帖佐 浩 戸田 眞佐子 大久保 幸枝 原 征彦 島村 忠勝
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.606-611, 1992
被引用文献数
17

<I>mycoplasma</I>に対する茶エキスおよびカテキンの抗菌・殺菌作用を検討した.緑茶エキスおよび紅茶エキスは<I>Mycoplasma pneumoniae</I>に対して, 抗菌作用を示した.緑茶エキスおよび紅茶エキスは<I>M.pneumoniae</I>と<I>M. orale</I>に対して顕著な殺菌作用を示した.2%紅茶エキスは<I>M. salioarium</I>に対しても殺菌作用を示したが, 緑茶エキスの<I>M. salivarium</I>に対する殺菌作用は弱かった.プアール茶エキスの三菌種に対する殺菌作用は弱かった.緑茶から精製した (-) エピガロカテキンガレート (EGCg) および紅茶から精製したテアフラビンジガレート (TF3) は三菌種に対して殺菌作用を示し, <I>M. pneumoniae</I>に対しては特に強い殺菌作用を示した.以上の結果, 茶およびカテキンは殺マイコプラズマ作用を有することが明らかになった.
著者
増井 幸雄 板橋 愛宜 石井 暁 伴 文彦 井上 栄
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.81, no.6, pp.707-713, 2007-11-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
25
被引用文献数
1 3

Epstein-Barrウイルスのカプシド抗原 (VCA) に対するIgM抗体検査は, 主として伝染性単核症の病原診断に使われている.本論文では, 1999~2006年の8年間に全国の医療機関から1臨床検査会社に間接蛍光抗体法によるVCA-IgM抗体検査の依頼があった約18万件の血清検体の検査結果を集計・解析した. 集計結果は, IgM抗体陽性数の年齢分布は2峰性 (乳幼児期および青年期) を示した. 年齢により男女差があり, 乳幼児では男性が多く, 青年では女性が多かった. IgM抗体陽性数の月別変動を見ると, 青年層で春から秋にかけて増加が認められた. この検査室データは, 国内の青年層において伝染性単核症が発生していることを示唆している. 今後, 乳幼児期より症状が重い青年層での同症発生の実態を知るための疫学調査が必要であろう.
著者
福山 正文 上村 知雄 伊藤 武 村田 元秀 光崎 研一 原 元宣 田淵 清
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.565-574, 1989
被引用文献数
2

河川水やその泥土および淡水魚などの自然環境における運動性<I>Aerornonas</I>の分布を明らかにするため, 相模川7ヵ所, 多摩川8ヵ所, 津久井湖5ヵ所を対象に本菌の検索を定量的に実施した.また両河川で捕獲した淡水魚の腸管内容物, 鯉, 体表からの菌検索を行った結果以下の成績を得た.<BR>1.相模川の泥土208件中134件 (64.4%) から運動性<I>Aerornonas</I>が検出された.多摩川の泥土では186件中101件 (54.3%), 津久井湖の泥土120件中68件 (56.7%) が本菌陽性であった.これらの泥土から分離された運動性<I>Aerornonas</I>176株について同定したところ, 21.6%が<I>A. hydrophila</I>, 13.1%が<I>A. sobria</I>, 24.4%が<I>A.caviae</I>であった.なおPopoffの分類で同定出来ない菌株が74株 (42.0%) 認められた.<BR>2.泥土を採取した同一地点について水からの運動性<I>Aerornonas</I>の検索を行ったところ, 相模川河川水48件, 多摩川河川水44件および津久井湖の湖水40件全例から本菌が検出された.分離菌株120株の内14.2%がA. hydrophila, 27.5%がA. sobria, 29.2%がA. oaviaeであり, 末同定株が29.2%みられた.<BR>3.河川泥土や湖泥土中の運動性Aerormnas菌数は前者平均が2.5×105個/g, 後者が平均8.8×105個/gであった.河川泥土の一部の定点において菌数が大きくばらついたが全体的には4月に減少し, 7月と10月に増加する傾向がみられた.津久井湖の泥土では採取地点により菌数の変動が著しかったが, 河川泥土と同様に7月と10月に高くなる傾向がみられた.<BR>河川水と湖水については前者が平均1L当たり1.4×10<SUP>3</SUP>個, 後者が約3.3×10<SUP>2</SUP>個であった.各定点での菌数に一部の例外以外それほどの大きな変動はみられず, 季節により菌数に与える影響もみられなかった.<BR>4.相模川と多摩川で捕獲した淡水魚511件中462件 (90.4%) から運動性Aeronzonasが検出された.分離菌株1,056株の内17.2%がA. hydrophila, 31.4%がA. sobriaおよび19.5%がA. caviaeであった.
著者
大高 道也
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.18-25, 1997
被引用文献数
1

国際交流の進展に伴って海外旅行者が急増し, 入国時の有症者あるいは輸入感染症例も多くなっている. また, 海外では様々な新興感染症の流行をみており, 伝染病の侵入防止と海外旅行者の健康管理は国民の大きなニーズとなっている.<BR>このような状況を踏まえ, 成田空港検疫所では, 入国時に幅広く応じられる健康相談室と併せ, 出国者に対しても健康相談コーナーを設けるなど,"海外で感染症にかからない, 持ち込まない" を旨として, 渡航先の保健医療情報の提供など感染症予防と健康管理のための啓発と支援を推進している.<BR>輸入感染症に対しては, 主として国内での早期発見・治療ならびに海外での一次予防への取り組みが重要であり, 検疫所と国内防疫機関などとの連携, 海外保健医療情報の収集・提供システムの構築, 保健・環境領域における国際協力の推進など, 国内外を広く視野にいれた多面的な対策が求められている.
著者
那須 美行 野坂 嘉友 大塚 喜人 敦賀 俊彦 中島 道子 渡辺 泰宏 神 雅彦
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.77, no.10, pp.844-848, 2003-10-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
11
被引用文献数
3 8

We report a case of Paenibacillus polymyxa bacteremia in a patient with cerebral infarction. The patient was a 93-year-old female who was admitted to our hospital. On the 4 day after admitted, she had a fever 38.2°C. The result of the blood culture showed a gram positive spore bacillus in the blood culture bottle. As a result of performing 16SrDNA sequence analysis (500bp), it was a close relationship most by 99.26% P. polymlxa of coincidence was found. With a result using api 20E and api 50CH, this bacillus turned out to be P. polymyxa.The patient had a habit of weeding around her house daily. So we had to take her habit into consideration. We thought she could to get her hands injured. We assumed probably her habit might put her into high risk state of infection of this bacillus. We have supposed this bacillus might be infected with her through her blood.
著者
廣田 良夫 加地 正郎
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.1293-1305, 1994-11-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
31
被引用文献数
1 2

欧米ではハイリスク者 (老齢者を含む) に対するインフルエンザ予防接種を積極的に推進する方向にあるが, 我が国では予防接種への対応は消極的であり, 効果そのものを否定する見解もある. そこで, ワクチン有効性の評価を中心に疫学研究手法を考察した.1. インフルエンザ流行は時間と場所によって異なるので, 地域が異なる多施設の調査結果をプールして解析する時には注意を要する.2. 対象集団中で観察した急性呼吸器疾患の集団発生が, インフルエンザウイルスによるものかどうかを, まず議論せねぼならない.3. 接種・非接種の群間で差を検出できない最大の理由に, 非インフルエンザによる結果の希釈があげられる. 罹患調査に当たっては, (1) 観察期間を最流行期間に限定する, (2) strictcriteriaを適用する, (3) 流行規模が比較的大きなシーズンに実施する, の3項目が重要である.4. 自然感染により既に十分な抗体価を有する者の影響を考慮するためには, antibody efficacyを求める方法がある.今後は, インフルエンザと関連する個人の特性を明らかにして, バイアスや交絡などについても検討を深める必要がある.
著者
薩田 清明 乗木 秀夫 坂井 富士子 薮内 清
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.355-365, 1985-04-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
16
被引用文献数
5 2

1983~1984年にかけてのインフルエンザの流行は主としてAソ連型ウイルスによるものであり, 同流行での患者発生の全国的傾向は1984年1月下旬から2月初旬をピーク期として認められた.しかし, 東京地域でのそのピーク期は1983年12月11~17日にかけての第50週に認められ, 全国との間に著しい流行の時間差が認められた.そこで, 著者らはこの流行の時間差を解明するために福岡地域を対照に気象学的に検討し, 次のような成績が得られた.1) 平均気温の上では両地域とも平年に比較して今季は異常低温で流行期を経過したことを認めたが, 地域間に差は認められなかった.2) 平均相対湿度50%以下の日数 (1983年11月~12月の間) をみると東京地域は平年同期および福岡地域の今季と比較しても有意にその割合の多いことが認められた.3) 1~3月末の間の平均相対湿度60%以上の日数は東京地域で平年に比べて今季のほうが有意に多く認められた.以上のごとく, 今季の全国と東京地域のインフルエンザ流行との間に生じたピーク期の時間差に, 平均相対湿度50%以下の日数を占める割合に強い関連性が考えられた.
著者
水谷 尚雄
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.506-512, 2009-09-20 (Released:2016-08-20)
参考文献数
18
被引用文献数
2

呼吸器外科で手術部位感染(surgical site infection,以下SSI)として発生する膿胸の頻度は高くはないが,MRSA 膿胸を発生すると治療に難渋する.当院で過去10 年間に経験したSSI のMRSA 膿胸3 例について検討し,その対策を考察した.対象:3 症例とも診断確定とともにバンコマイシン(以下VCM)の全身投与を行った.症例1.小型肺癌に対する区域切除後に発症.切開創のSSI と診断して対処したために有効な胸腔ドレナージが遅れ治療に難渋した.菌は陰性化することなく治癒した.症例2.塵肺に合併した進行肺癌の肺葉切除後に発症.気管支形成を行い情報ドレーンとして胸腔ドレーンを長期間留置した.VCM で菌が陰性化せずリネゾリドを使用し陰性化し治癒した.症例3.続発性気胸の症例.胸腔鏡下肺部分切除を施行し術中所見から胸腔内感染を疑った.胸腔ドレーンを予防的に留置したが発症した.ドレナージ不良に対してウロキナーゼによる線維素溶解療法が有効であった.菌は陰性化することなく治癒した.結論:(1)手術時に留置した胸腔ドレーンを情報ドレーンとして長期留置すると逆行性感染を起こす可能性がある.(2)肺切除量を少なくする術式は膿胸の発生と進展の予防に有効な可能性がある.(3)膿胸の病期II 期以降に起こるドレナージ不良に対して線維素溶解療法は胸腔鏡手術に優先して試みる価値がある.(4)抗MRSA 薬の投与は全身への炎症の波及予防には必要であるが,中止の基準は菌の陰性化を目標とせず臨床経過から判断するべきである.
著者
塩田 恒三 有薗 直樹 吉岡 徹朗 石川 和弘 藤竹 純子 藤井 逸人 立岡 良久 金 龍起
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.76-82, 1999-01-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
20
被引用文献数
6 12

A 38-year-old Japanese male who had traveled in China from September 13 to October 5, 1997, developed fever and severe conjunctivitis from October 20. After he was hospitalized in Kyoto CityHospital for persistent high fever on October 29, he developed muscular weakness and dysphagiawhich continued for two weeks. An electromyogram showed a myogenic pattern, and laboratoryfindings showed significant elevation of serum enzyme levels of muscle origin: CPK, 3, 095 IU/l; aldorase, 195 IU/l; myoglobin, 7, 570 ng/ml, and myoglobinuria, 94, 700 ng/ml. The WBC was 10, 800/111with 45% eosinophils. Muscular biopsy showed degeneration of muscle fibers with infiltration ofmacrophages and lymphocytes.On further inquiry, it was revealed that the patient had eaten smoked bear meat in China onSeptember 30, three weeks prior to the onset of symptoms. A dot-ELISA serologic test for parasiteswas positive forTrichinella. Further, a coiled 1.2 mm longTrichinellalarve was recovered from approximately100 mg of frozen biopsied muscle by an enzyme digestion method. Mebendazole wasgiven to the patient at a dosage of 200 mg/day for seven days. CPK levels were normalized within 3days of the beginning of the treatment, and he was discharged without any symptoms. Physiciansmust be aware of trichinellosis and should include it in their differential diagnosis when examiningpatients with myositis and eosinophilia of unknown origin.
著者
三鴨 廣繁 和泉 孝治 伊藤 邦彦 玉舎 輝彦 澤 赫代 渡辺 邦友 上野 一恵
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.1090-1092, 1992-08-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

近年, 細菌性腟症の原因菌の一つとして, Mobiluncus属があげられており, この菌はSTDとも関係あるとされている. しかし, Mobiluncus属の培養は難しく, 日数を要するため, 細菌性膣症の患者の腟分泌物についてMobiluncus属を含めた系統的な細菌学的検索の報告は少ない. 今回我々は, WHOの細菌性腟症の診断基準を満たした20例の腟分泌物の培養検査を施行した. その結果, 細菌性腟症の診断基準を満たした20症例中の7症例 (35%) からMobiluncus属が検出された.それらのうち, Mobiluncus mulierisが5症例から, Mobiluncus curtisiiをま2症例から検出された. 以上の結果から, G. vaginalis, Mobiluncus属単独で病原性が発現され細菌性腟症となるわけではなく, G. vaginalisやMobiluncus属が, 他の好気性菌, 嫌気性菌とともに存在するときに細菌性腟症を引き起こすものと考えられた.
著者
山内 勇人 曽我 進司 河野 秀久 近藤 俊文 佐山 浩二 丹下 宜紀 藤田 繁
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.840-843, 1995-07-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
12
被引用文献数
1

We report a case of tsutsugamushi disease found in south western Shikoku. A 64-year-old male who lived in Towa Village in Kochi, developed a fever and headache on April 6, 1994, and was admitted to Uwajima City Hospital on April 15, with a ten-day history of illness. He had an eschar on the right anterior side of the breast and an enlargement of the right axillar lymph node, without a rash. Laboratory data showed mild liver injury and atypical lymphocytes with 6% in peripheral blood. After his blood was drawn for rickettsial isolation, the minocycline was administered. His symptoms improved rapidly and was discharged in good condition.We successfully isolated the causative agent, Rickettsia tsutsugamushi, and designated it as the Shiba strain. High antibody titer against the Kato, Karp and Gilliam strains was detected in serum on admission and increased during the course of the disease.In Shikoku, tsutsugamushi disease is rare and only 13 cases were reported during last ten years. Especially in south western district of Shikoku, there have been no case reported since 1960. This case is important epidemiologically and suggests that we should pay attention to this disease.
著者
上田 泰史 鈴木 則彦 古川 徹也 竹垣 友香子 高橋 直樹 宮城 和文 野田 孝治 廣瀬 英昭 橋本 智 宮本 彦四郎 矢野 周作 宮田 義人 田口 真澄 石橋 正憲 本田 武司
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.110-121, 1999
被引用文献数
8

1994年9月4日の開港から1996年12月まで, 2年4カ月の調査期間における関西空港の検疫人員は11, 44a534名であり, 検疫時に下痢を申告したものは22, 187名であった。そのうち9, 299名について下痢原因菌の検索を行い, 以下の成績を得た.<BR>1) 下痢原因菌が検出されたのは3,096名 (33.3%) であった.これらの症例から検出された病原菌は<I>Plesiomonas shigelloids</I>が最も多く2,066名 (66.7%), 次いで<I>Aeromonas spp.</I>484名 (156%), <I>Vibrio parahaemolyticus</I>358名 (11.6%), <I>Shigella spp.</I>291名 (9.4%), Salmonella spp.183名 (59%), <I>Vibrio choleraenon</I>-O1 121名 (39%) の順で検出された.下痢原因菌検出例のうち, この6種類の病原菌が検出されなかった症例はわずか2.8%であり, 上記の6種類が海外旅行者下痢症の主原因菌であると考えられた.なお, <I>enterotoxigenic Escherichia coli</I>については検査対象としなかった.<BR>2) 2種類以上の下痢原因菌が同時に検出された症例 (混合感染) が502例みられ, 下痢原因菌検出例の16.2%を占めた.<BR>3) 1995年2月~3月に, インドネシア (バリ島) 旅行者に集中してコレラ患者 (13例) が発見されたその他は, 各菌種とも検出頻度に季節的な大きな偏りは認められなかった。<BR>4) <I>Vibrio spp</I>.の推定感染地はアジア地域に限定され, <I>Shigella spp., Salmonella</I> spp.および<I>P.shigelloides</I>の感染地は広範囲にわたっていたが, <I>Shigella spp</I>. ではとくにインドおよびインドネシアに集中していた.<BR>5)<I>Shigella spp</I>.のうちわけは, <I>S.sonnei</I>が最も多く, 次いで<I>S. flexneri, S. boydii, S.dysmteriae</I>の順に検出された.また, インド・ネパール旅行者から<I>S.boydii</I> provisional serovar E16553が検出された.<BR>6) <I>Salmonella</I> spp.の血清型では, <I>S.</I>Enteritidisが最も多く検出され, 49例 (25.7%) を占めていた.<BR>7) 薬剤耐性株の頻度は<I>Shigella</I> spp.89.2%, <I>Salmonella</I> spp.27.2%, <I>V.cholerae</I>O195.0%であった.<BR>8) <I>V.cholerae</I>01はすべてEI Tor Ogawa型コレラ毒素産生株であった.<BR>9) <I>V.parahaemolyticus</I>の血清型は03: K6が最多数を占めた.耐熱性溶血毒遺伝子 (tdh), 易熱性溶血毒遺伝子 (trh) 保有株がそれぞれ89.8%と14.6%に確認された.
著者
木村 明生 峯川 好一 北浦 敏行 中野 宏秋 後藤 郁夫 池田 長繁 阿部 久夫 小野 忠相 中林 敏夫
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.789-796, 1987
被引用文献数
1

大阪空港検疫所において帰国時に下痢を申告した海外旅行者の腸管寄生原虫検索を行った. 1983年と1984年の2年間 (第1期) 及び1985年7月から1986年6月までの1年間 (第2期) に分けて検索を実施して, 次の成績を得た.<BR>1) 第1期調査は, 旅行期間が5日以上の1,256名についての検索を行ない, Giardia lamblia (39例) をはじめとして7種の腸管原虫を検出した (検出率3.9%).<BR>2) 陽性者の旅行期間は, 98%が10日以上であり, 30日以上の長期滞在者は全体の67.4%であった.<BR>3) 検出率には季節的変動が認められた.<BR>4) 第1期のG.lamblia陽性者39名中36名 (92%) がインドへ旅行しており, ついでタイ25名 (64%), ネパール16名 (41%) であった.インドまたはネパール旅行のG.lamblia陽性者中の70%以上は, それぞれの国で10日以上滞在していた.<BR>5) 第2期ではインド・ネパールへ10日以上旅行した者の178名について検索を行ない, G.lamblia 25例 (14.0%) をはじめ3種の腸管原虫を検出した.<BR>6) 両期間のG.lamblia陽性者64名のうち29名 (45.3%) から, 病原細菌や他の腸管原虫が同時に検出された.<BR>7) 第1期でのインド・ネパール10日以上滞在者中のG.lamblia陽性率は, 1983年12.9%, 1984年12.2%で, 第2期 (14.0%) とほとんど変りなかった.
著者
海老沢 功 高柳 満喜子 倉田 真理子 城川 美佳
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.277-282, 1986-04-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
5
被引用文献数
1

1) 破傷風菌は川や池の湿った岸辺, 田や畑, 民家の庭から容易に分離される.種々の場所から集めた土100検体のうち破傷風菌が37株分離され, さらに14検体から破傷風毒素が証明された.その内乾燥した土1mgから10株の破傷風菌が分離された.0.1mgの土から破傷風毒素が証明されたものもある.ここで外傷を受けた患者は外科的処置を受けた後に破傷風にかかった.2) 破傷風菌は同一場所に何時も同一量の菌数を保っているものではない.また地表の方が地下深い所よりも破傷風菌は多い.3) 破傷風患者が発生した家の庭で, その患者が受傷後2年7ヵ月たってから, 50cmおきに採取した土10検体からは全て破傷風菌が分離された.
著者
小島 弘敬 高井 計弘
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.1237-1242, 1994-10-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
16
被引用文献数
4 2

咽頭, 直腸からの淋菌, C.tnchomatisの検出は, 分離培養では偽陰性, 非培養検出法では偽陽性の誤った結果を呈しやすく正診率がひくく, これまで臨床的知見の蓄積が少ない.各種の非培養検出法の咽頭, 直腸スワブを検体としての偽陽性反応の出現率を検討した.Gen-Probe Pace2®のみが他の非培養検出法と異なって, 咽頭, 直腸スワブを検体とする淋菌, C.trachomatisの検出について偽陽性が認められなかった.Gen-Probe Pace2®による淋菌生殖器感染症患者の淋菌陽性率は男子咽頭29.4%, 女子咽頭33.3%, 男子直腸0%, 女子直腸46.7%, C.tmchomatis生殖器感染症患者のC.tmckomatis陽性率は男子咽頭3.9%, 女子咽頭10.5%, 男子真腸0%, 女子直腸53.3%であった.淋菌, C.trachomatisの女子直腸炎は頚管分泌物の汚染による直腸への感染拡大と考えられ, C.trachomatisの咽頭感染合併率は淋菌に比してひくく, C.tmchomatisの咽頭感染性は淋菌よりひくいと考えられた.
著者
篠原 美千代 内田 和江 島田 慎一 後藤 敦
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.73, no.8, pp.749-757, 1999-08-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
19
被引用文献数
1

手足口病の主要な原因ウイルスであるコクサッキーウイルスA16型 (CA16) とエンテロウイルス71型 (Ev71) の簡便な検査方法, 特に中和反応を用いない同定方法を検討した.ウイルス分離では1990年にはVero細胞による分離が最も多かったが, 1994年以降は分離数が減少し, 代わってCaco-2細胞による分離が増加した.1998年はCA16の分離にMRC-5細胞も使用したが, Caco-2細胞と同等の感受性であった.細胞変性効果の出現はMRC-5細胞が最も早かった.CA1-10, ポリオウイルス1-3, エコーウイルス1~7, 9, 11, 14, 16, 17, 18, 24, 25, 27, 30, Ev71の各ウイルス及び分離ウイルスについてRNAを抽出し, 2種の下流プライマー (E31及びE33) を用いて2系列の逆転写反応を行った後, 同一の上流プライマー (P-2) を加えてPCRを実施した.P-2/E31の系では増幅されず, P-2/E33の系で増幅されるのはCA6, CA16, Ev71のみであった.分離ウイルスのP-2/E33系の増幅産物を制限酵素Taq I及びEcoT22Iで処理したところ, Ev71はすべて切断されなかったが, CA16はすべて切断され, その切断パターンはTaq Iでは3種類, EcoT22 Iでは1種類であった.この結果は塩基配列上の切断部位とも一致した.Caco-2, MRC-5細胞を使用してウイルス分離を行い, さらにRT-PCR, Taq I, EcoT22I切断を実施することにより1週間程度でCA16及びEv71を分離同定することが可能であった.