著者
永井 龍夫 白松 幸爾
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.186-190, 1983-02-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
15

わが国におけるヒトのリステリア症から分離されたリステリア菌の血清型は1型或いは1b型と4b型がほとんどである. そのほかの血清型として, 著者の一人永井は1974年に4d型, 1977年に2型の分離症例を感染症学雑誌に報告している.1980年5月, 胆石症で札幌医大病院第一外科に入院, 胆石の摘出手術をうけた患者 (23歳, 女性) の手術時に採取した胆汁からリステリア菌が純培養の形で分離された.分離菌株 (越前株) はグラム陽性の短桿菌で, 生物学的諸性状はリステリア菌に一致する. リステリア菌標準菌株の免疫血清 (O血清とH血清) について定量凝集反応および吸収試験を実施した結果, 越前株はリステリア菌3型と同定された.リステリア菌3型の分離ははじめてなので念の為, 越前株の免疫血清 (O血清とH血清) を作製して, 交叉的に定量凝集反応と吸収試験を行った結果, 越前株はまちがいなくリステリア菌3型であることが証明された.本症例は胆石症であって臨床的に胆嚢炎などの炎症は全く認められていない. 従って胆汁から分離された越前株と胆石症の間には因果関係はないものと思われる.リステリア菌が健康人の糞便から0.5%の割合で見出されるという報告があるが, 本症例は胆汁中に潜伏的に存在する可能性を示唆する点が興味深く思われる.
著者
加藤 明彦 深山 牧子 稲松 孝思
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.62, no.9, pp.830-834, 1988
被引用文献数
1

肝胆道系由来の<I>K. pneumoniae</I>による転移性全眼球炎2例を経験したので, 文献的考察を加えて報告する. (症例1) 69歳, 女性. 39℃ 台の発熱, 右季肋部不快感にて発症. 第5病日には右眼窩痛, 視力低下が出現した. 眼窩蜂窩織炎にて眼窩内容摘出術を施行. また右季肋部不快感, 軽度のアルカリフォスファターゼ上昇, 画像診断より胆嚢炎と診断し, 胆嚢摘出術を施行した. 眼窩内容, 術中胆汁より<I>K. pneumoniae</I>が検出された. (症例2) 77歳, 女性. 39℃ 台の発熱, 嘔気にて発症.第3病日より左眼痛, 視力低下が出現し, 全眼球炎にて眼窩内ドレナージが施行された.入院後, 画像診断より肝膿瘍と診断し, ドレナージを施行した. 硝子体液, 肝膿瘍より<I>K. pneumoniae</I>が検出された. いずれも血液培養は施行されていないが, 肝胆道系感染に伴う菌血症に続発した全眼球炎であったと思われた. <I>K. pneumoniae</I>による転移性全眼球炎は, 今まで自験例を含め20例報告されている. 感染原発巣としては肝胆道系が15例 (75%) と最も多い. 視力に対する予後は悪く, 16例 (80%) は失明し, 残る4例も視力の著しい低下を残していた. 従って, 原発巣の検索も含め, 早期からの対応が必要と思われた.
著者
深見 重子 井関 幹郎 村瀬 雄二 石飛 アミ子 岩田 崇 村瀬 敏郎
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.1372-1378, 1990-11-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

我が国における破傷風予防接種が, DPTワクチンを用い, 全国規模で開始され, 20年を経過した現時点での, 破傷風抗毒素保有状況を知る目的で, 国内二つの地域を選び, 年齢別に血中破傷風抗毒素価を測定した.1. 東京都渋谷区で採取された211例中102例 (48.3%) が感染防御水準の0.01 HAU/ml以上の抗毒素価を保有していた. 抗毒素陽性率は, DPTワクチンの接種を受けた可能性のある3歳から21歳までの年齢層では90.8%, 22歳以上では27.7%で, 21歳以下の年齢層で有意に高率であった. また, 抗体陽性者のしめる割合は加齢とともに減少した.2. 静岡県浜松市における外傷患者128例中60例 (46.1%) は0.01 HAU/ml以上の抗毒素を保有していた. 抗体陽性率は, 21歳以下の年齢層では96.7%, 22歳以上では29.5%と有意差が認められ, 現行のDPTワクチンによる破傷風予防接種が有効に働いていることが示唆された.
著者
田代 隆良 重野 秀明 後藤 純 菊池 博 寺尾 英夫 那須 勝
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.63, no.8, pp.859-866, 1989
被引用文献数
3

1981年10月から1988年10月までの7年間に当内科で経験した連続剖検200例中8例 (4.0%) に単純ヘルペスウイルス (HSV) 臓器感染を認めた. また, 肝臓のnecropsyを行った1例にHSV感染を認めた. 9例の年齢は35~70歳 (平均58歳), 男女比は5/4で, 原疾患は非ポジキソリンパ腫4例, 成人T細胞白血病1例, 多発性骨髄腫1例, 特発性間質性肺炎1例, 気管支喘息1例であり, 残りの1例には基礎疾患はなかった.<BR>9例中2例はHSV劇症肝炎が, 1例はHSV肺炎が直接死因だった. HSV感染臓器は食道が87.5%と最も多く, 舌62.5%, 肝臓33.3%, 脾臓, 膵臓, リンパ節25.0%, 肺, 副腎, 扁桃12.5%だった. 細胞の風船様膨化, 多核巨細胞, スリガラス状核 (full型核内封入体), Cowdry A型核内封入体などの特徴的組織像は潰瘍や凝固壊死巣の辺縁に認められた. 間接酵素抗体法による免疫染色で9例全例にHSV-1抗原が証明され, 電顕により2例でウイルス粒子が証明された.<BR>7例に重複感染が認められ, 病原体はサイトメガロウイルス5例, <I>Aspergillus</I>4例, <I>Candida</I>3例, 細菌3例だった.
著者
田中 朝雄
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.71, no.9, pp.903-909, 1997
被引用文献数
5

クルーズ・トリパノソーマはシャガス病の原因寄生原虫であり, 非常に近縁のランゲル・トリパノソーマはヒトに無害である。これらの鑑別診断のため, システイン・タンパク質分解酵素の遺伝子の一部をポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) で増幅し, 制限断片長多型性 (RFLPs) による区別を行った。この手技による感度は鋭敏で、1個の細胞を検出し得た。この手技の高感度および簡易性により, 実地への応用が期待できる.
著者
東野 俊洋 高山 陽子 小川 英佑 星山 隆行 東野 紀子 相原 智子 和田 達彦 永井 立夫 廣畑 俊成
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.87, no.6, pp.752-755, 2013-11-20 (Released:2015-02-18)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

We report herein on a 52-year-old Japanese woman with acute pericarditis and glomerulonephritis associated with human parvovirus B19 infection, who had no significant medical history. The patient was admitted for progressive edema and upper abdominal pain. On physical examination, she had hypertension, generalized edema and upper abdominal tenderness. Urinalysis revealed protein (1+), and occult blood (±), with cellular casts. Echocardiography revealed pericardial effusion measuring 3-9mm in diameter. A serological test showed elevation of serum IgM antibodies for parvovirus B19. At the end of two weeks, generalized edema and glomerulonephritis improved spontaneously, and pericardial effusion was resolved three weeks after admission. This case would appear to be a very rare case indicating a direct relationship between human parvovirus B19 infection and acute pericarditis in a healthy adult patient.
著者
荒島 康友 熊坂 一成 土屋 俊夫 矢内 充 河野 均也
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.623-625, 1999-06-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

We encountered two cases of Pasteurella multocida subsp. septica isolation from exudates with seminal fluid-like odor from dog scratch and cat bite.Case 1: A 78-year-old male who had been diagnosed as having diabetes mellitus five years ago was scratched by the claw of a pet dog (Pekinese) on the back of the right hand. Since inflammation ascended to the arm, the patient visited Nihon University Itabashi hospital for a medical examination. Case 2: A 51-year-old female without a specific past history other than hyperlipidemia was bitten by a pet cat at the medical and lateral sides of the left carpus. The patient immediately opened the wound and washed it with tap water, followed by disinfection using a non-iodine disinfectant at home. Two hours later, the patient felt an unpleasant sensation and smelled a seminal fluid-like odor at the wound. The next morning, the entire left arm swelled and pain worsened, then the patient sought medical attention. The patients were treated with antibiotics and the wound completely healed on the 16days from on set in Case1and on the 10days from oncet in Case 2.From these two cases, Pasteurella multocida subsp. septica was isolated from the exudate, suggesting that when wounds caused by animals smell like seminal fluid, the wound is infected with Pasteurellae. This finding may be an important clue for differentiation in clinical diagnosis.
著者
古屋 宏二 川中 正憲 山野 公明 佐藤 直樹 本間 寛
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.320-326, 2004
被引用文献数
4

北海道の多包性エキノコックス症患者血清材料を用いて, 市販エキノコックス症血清診断キット"<I>Echinococcus</I> Western Blot IgG" (以下FIA (French immunoblot assay) と略; Ldbio Diagnostics, Lyon, France) の臨床検査的評価を行った. 使用した80血清のうち64検体は術前多包性エキノコックス症患者血清, 9検体は術後患者血清, 7検体は北海道の一次検診でELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) 陽性となり感染が疑われた住民の血清であった.<BR>1987年から1993年の間に北海道立衛生研究所で実施したウエスタンブロット血清検査法 (Hokkaido Western blot method, 以下HWBと略) による試験では, 64例の術前多包性エキノコックス症患者血清のうち53例が陽性, 6例が疑陽性であっ た (陽性例+疑陽性例の割合: 92.2%). 53陽性例のうち43例が多バンド形成の完全型, 10例が寡バンド形成の不完全型と判定された.<BR>一方, FIAによる試験では, 64例の術前多包性エキノコックス症患者血清のうち60例 (93.8%) が陽性, 4例が陰性であった. 60例の陽性例のうち, 47例 (78.3%) がP3, 5例 (8.3%) がP4, 8例 (13.3%) がP5パターンを示した. HWBで完全型と判定された血清のすべてはFIAでP3パターンとなり, 高力価抗体血清を示唆する結果となった.<BR>反対に, HWBで不完全型あるいは疑陽性と判定された血清のほとんどはP4あるいはP5のような他のパターンとなり, 低力価抗体血清を示唆する結果となった.<BR>極端に低力価の抗体を示す症例の病理学的解釈はさておき, FIAの使用はHWBで判定が苦慮される疑陽性例について血清学的に判定を容易にするなど, FIAは高感度で有用な試験法であると考えられた.
著者
所 光男 加藤 樹夫 後藤 喜一 渡辺 実 山田 不二造 酒向 俊雄 大塚 一幸 杉山 治 古川 雅宏 丹羽 昭司 長山 千秋
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.1038-1045, 1984
被引用文献数
2

1983年7月から9月にかけて岐阜県内で2事例の集団下痢症が発生した. 2事例の患者総数は31名であり, 患者の主症状は下痢 (100%), 腹痛 (93.5%), 嘔気 (80.6%), 嘔吐 (58.1%), 発熱 (35.5%) であった. 原因食品は事例1が鯛の塩焼き, 事例2が卵焼きであった.<BR>これら2事例の患者ふん便12件中11件 (91.7%) から腸炎ビブリオが, 8件 (66.7%) から<I>Vibrio fluoialis</I>が検出された. 腸炎ビブリオ分離株の血清型は事例1の患者5名から分離された15株がO5: K15であり, 事例2の患者7名から分離された28株のうち25株がO10: K19, 3株がO5: K17であった.<BR><I>V. fluvialis</I>分離株のうち, 事例1の患者由来の15株中8株, 事例2の患者由来の30株中12株および原因食品の卵焼きから分離された1株を任意に選び東京都立衛生研究所に依頼して血清型別試験を行った. その結果, 事例1の患者2名から分離された3株がTFO-12に, 事例2の患者2名から分離された2株がTFO-4に, 患者4名から分離された5株がTFO-17に型別され, 両事例とも患者間に血清型の一致が認められた. しかしながら, 事例1の残り5株, 事例2の残り5株および卵焼き由来の1株は型別不能であった.<BR>以上の結果から, これら2事例の集団下痢症は腸炎ビブリオと<I>V. fluvialis</I>の混合感染による食中毒事例であると結論した. 腸炎ビブリオと<I>V. fluvialis</I>の混合感染として細菌学的にも, 血清学的にも証明された食中毒事例はこれら2事例がわが国では最初のものと思われる.
著者
馬原 文彦 古賀 敬一 沢田 誠三 谷口 哲三 重見 文雄 須藤 恒久 坪井 義昌 大谷 明 小山 一 内山 恒夫 内田 孝宏
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.1165-1172, 1985
被引用文献数
22 61 50

昭和59年5月中旬より7月までの短期間に, 徳島県阿南市において, 紅斑と高熱を主徴とし特徴的な経過を辿ったリケッチア症と思われる3症例を経験した. これらの症例は, Weil-Felix反応OX2陽性で, 恙虫病とは異なる反応を示し, 詳細な臨床的血清学的検索の結果, わが国初の紅斑熱リケッチア症と判明した.<BR>症例は, 62~69歳の農家主婦で, 藪または畑に入ってから2~8日後に発熱, 悪寒戦標をもって発病し, 稽留熱 (39~40℃ 以上) と, 四肢末梢から全身に拡がる皮疹を特徴とした. 皮疹は, 米粒大から小豆大, 淡紅色の痒みを伴わない紅斑で, ガラス圧により消退するが, 次第に出血性となった. 3例中2例で痂皮または潰瘍を伴う硬結を認めた (刺し口). 全身リンパ節腫脹, 肝脾の腫大は認めなかった. 治療は, テトラサイクリン系抗生剤 (DOXY) が著効を示した.<BR>血清学的検査では, Weil-Felix反応で, 3症例共OX2に有意の抗体価上昇を示した. 間接免疫ペルオキシダーゼ反応では, 恙虫病リケッチア3株に陰性であり恙虫病では無いことが証明された. 更に, CF反応で紅斑熱群特異抗原に対し陽性となり, 本症例は, 紅斑熱リケッチア感染症であることが確認された.
著者
磯山 恵一 石川 昭
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.194-198, 1987-02-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
12

A case of acute thrombocytopenic purpura due to mycoplasma pneumoniae (M. P.) infection is described. The patient, a 12 year-old girl, was admitted to our hospital because of a sudden onset of epistaxis and purpuric rash. She had been suffering from cough, rhinorrhea and fever of 10 days duration. On admission, there was a evidence of mucocutaneus purpura on the oralmucosa, lips, upper limbs and neck. Also, macrohematuria was detected. No jaundice, anemia nor lymphadenopathy were present. Platelt count on admission was remarkably decreased. Examination of chest X-ray on two occasion was normal. Direct and indirect Coombs test, Ham test, immune complex and platlet associated (P. A.) IgG were all positive. The cold hemoagglutinin test was positive. Elevated M. P. complement fixation titer and indirect hemoagglutinin titer were detected. The ELISA IgM antibody to M. P. was elevated and return to within normal limits 21 days lator. These findings seems to be compatible to the antibody production mechanism in M. P. infection.
著者
大西 司 足立 満
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.81, no.6, pp.689-694, 2007-11-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

平成16年1月昭和大学東病院でノロウイルスによる感染性胃腸炎のアウトブレイクを経験し, 12日間で患者20名, 職員19名が発症した. 流行曲線からヒトーヒト感染例と考え, 標準予防策を行ったが, 感染はフロア全体に広がった. 感染対策は保健所の指導を仰ぎ実践した. 手洗い, 消毒手袋-マスク-防護衣着用の徹底移動制限, 隔離部屋をつくるなどの厳密な院内感染対策により, 感染を1フロアに留めることができた. また同3月, 病院食堂に端を発したノロウイルスによる食中毒事例が発生し54名の職員および患者家族1名が発症したが, 早期に発症者を把握し出勤停止をかけることで二次感染を防止できた. 早期の感染対策すなわちアウトブレイクの発生を知り周知させること, 健常者と患者を分けること, そして感染防御を行うことは, 感染症のコントロールを行う上で重要と思われた.
著者
前田 光一 喜多 英二 澤木 政好 三笠 桂一 古西 満 森 啓 坂本 正洋 辻本 正之 竹内 章治 濱田 薫 国松 幹和 奥 大介 樫葉 周三 成田 亘啓
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.1223-1228, 1994

ムチン様glycoproteinを産生するIshikawa細胞の培養系を用いて緑膿菌の温度感受性 (Ts) 変異株によるバイオフィルムモデルを作成し, エリスロマイシン (EM) のバイオフィルム形成抑制効果を検討した.本細胞培養系において緑膿菌Ts変異株は培養開始10日目で通常約40個/well前後のmicrocolony (バイオフィルム) を形成したが, EMは0.2μg/mlの濃度から細胞への菌付着およびバイオフィルム形成を抑制し得た.この系の培養上清中のglycoprotein量は1μg/ml以上のEM濃度で, またelastase, exoenzymeA量は2μg/ml以上のEM濃度で抑制された.以上から細胞培養系での緑膿菌によるバイオフィルム形成抑制効果がEMに存在することが示唆された.また菌体外酵素産生を抑制するEM濃度以下でバイオフィルム形成抑制およびIshikawa細胞からのglycoprotein産生抑制がみられたことから, EMのバイオフィルム抑制効果は細胞側因子への作用の関与がより大きいものと考えられた.
著者
藤田 和恵 本多 宣裕 栗原 武幸 大場 秀夫 沖本 二郎
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.78, no.10, pp.905-909, 2004-10-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
8
被引用文献数
4 3

A 47-year-old woman was hospitalized because of urinary-tract infection. She was treated with antibiotics for 6 days. However, severe watery diarrhea and pyrexia developed 6 days after stopping administration of antibiotics. Stool, throat and blood cultures were positive for methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) and negative for Clostridium difficile DI toxin. In spite of administration of VCM, she died of septic shock. At autopsy, macroscopic observation revealed a pseudomembrane in the ileum. MRSA enterocolitis can occur in patients with antibiotic-related diarrhea, and physicians should be aware of its rapid clinical course and possible lethal outcome.