著者
藤田 浩之 曽我 隆義 鈴木 淳一 石ケ坪 良明 毛利 博 大久保 隆男 長嶋 洋治 三杉 和章
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 : 日本伝染病学会機関誌 : the journal of the Japanese Association for Infectious Diseases (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.398-403, 1995-04-20
参考文献数
18

横浜市立大学医学部第1内科に入院したHIV陽性患者について, 臨床的病理学的検討を加えたので報告する. 対象は, 1988年2月より1994年5月までの約6年間に, 当科に入院したHIV陽性患者13例で, 外国人の1例を含め, 全例が男性であり, 初回入院時の年齢は, 18~70歳であった. 感染経路は, 血液製剤輸注8例, 性交渉5例で, 現在までに11例がAIDSを発症しており, 内6例が死亡している. 発症原因は, カリニ肺炎, HIV脳症などで, 発症時のCD4陽性リンパ球数は3.4~220/μl (平均73/μ1) であった. 延べ25回の入院理由は, 日和見感染が19回で, その内6回をカリニ肺炎が占めるが, 最近では予防を行っているため減少している.剖検は4例で施行された. 死亡時のCD4陽性リンパ球数は平均6.1/μlであり, 高度に細胞性免疫が低下した状態であった. 脳では, 脳の萎縮や, HIV脳症の特徴的所見であるグリア結節の形成がみられ, 皮膚では, パピローマウイルスによる尖圭コンジローマや, ポックスウイルスによる伝染性軟属腫がみられた. また全例でサイトメガロウイルス感染を示す封入体が認められた. AIDS発症からの生存期間は5カ月から42カ月で, 50%生存期間は26カ月であった. 現在AIDSは予後不良の疾患群であるが, その生存日数は延長の方向にあり, すべての医療従事者はAIDSに対して, より積極的な対応を求められている.
著者
岡崎 武二郎 大橋 誠 一言 広 石上 武 町田 豊平 小野寺 昭一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.280-283, 1990

1988年に都立台東病院泌尿器科の男子淋菌性尿道炎患者から分離されたPPNG22株について, プラスミドDNAの測定を行った.<BR>PPNG22株のうち3株 (14%) は3.3メガダルトンのプラスミドを有し, しかも3株全部が同時に24.5メガダルトンの耐性伝達プラスミドをも有する新アフリカ型PPNGであった. また, 22株のうち19株 (86%) は4.4メガダルトンのプラスミドを有するアジア型であり, この19株のうち5株 (26%) は24.5メガダルトンのフプラスミドを有していた.<BR>新アフリカ型PPNG3症例の感染源は, 1例はフィリピンであったが, 2例は都内のソープランドであり, 新アフリカ型PPNGがすでに国内に定着していることが示唆された.
著者
松井 珠乃 高橋 央 大山 卓昭 田中 毅 加來 浩器 小坂 健 千々和 勝巳 岩城 詩子 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.161-166, 2002
被引用文献数
6

2000年7月にG8サミットが福岡・宮崎市で開催された際, 報告施設を設定し, 急性感染症が疑われる全ての症例を, 出血性・皮膚病変症候群, 呼吸器症候群, 胃腸炎症候群, 神経症候群, および非特異的症候群の5群に分類して集計した. サミット前後各1週間 (第27, 28週) の各症候群の報告数を, 感染症サーベイランスの全数および定数把握対象疾患の関連疾病群の報告数に対する比で表し, 第27週比の第28週比に対する比を算出して, その変動性を検討した. 福岡市の変動比は, 平均±標準偏差=0.99±0.291, 95%信頼区間0.71~1.28, 宮崎市は, 平均±標準偏差=1.19±0.298, 95%信頼区間0.93~1.45と算出され, 共に変動性は低いことが分かった. 宮崎市では複数の症状を有する症例は, 重複報告を許したが, 1症例1症候報告の福岡方式の方が解析は容易であった. 呼吸器感染症の動向は, 感染症サーベイランスでは成人症例が報告対象疾患に少ないため, 症候群サーベイランスの方が検出良好であった. 重大イベント (high-profile event) における症候群サーベイランスは動向を迅速に集計でき, 少ないコストと人力で実施でき, 実効性があると評価された. しかし, 報告集計の基線が観測期間の前後に充分ないと的確な判定が出来ないことや, 報告定点の数や種類に配慮が必要であることが分かった.
著者
太田 求磨 加澤 敏広 津畑 千佳子 鈴木 道雄 今岡 浩一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.83, no.6, pp.661-664, 2009-11-20 (Released:2017-08-18)
参考文献数
19
被引用文献数
5 4

Capnocytophaga canimorsus, a commensal bacterium from the carine mouth, causes septicemia in human beings through bites or scratches. We report a case of a 60-year-old man contracting septicemia due to C. canimorsus infection after a dog bite who died less than 12 hours after admission. We observed neutrophils with intracytoplasmic bacilli in the peripheral blood smear. We discuss clinical presentation and autopsy findings.
著者
神原 賢治 藤井 信孝 中島 秀喜
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.237-244, 2000
被引用文献数
4

合成ペプチドT22は, カブトガニの血液細胞に存在する抗菌ペプチドであるpolyphelnusin IIをリード化合物として合成した, 18アミノ酸残基からなる塩基性ペプチドである. このT22は, T-tropic HIV-1感染のコレセプターであるCXCR4に作用して, HIVの標的細胞内への侵入を阻害する事が知られている. 我々は, T22の陽電荷を減少させた14アミノ酸残基から成る低分子類似体を合成し, その中でT134と命名したペプチドがさらに強い抗HIV活性を示し, 細胞毒性が減少することをみいだした. さらに, T134はPBMCへのCXCR4抗体の結合を阻止したが, CCR5抗体の結合にはなんら効果をおよぼさなかった. また, T134の抗HIV作用機序としては, これがMT-4細胞へのSDF-1の結合を阻害した事から, CXCR4と相互作用する事によって感染を阻止することが予想された. 他の研究グループから, バイサイクラムAMD3100やD-Arg9つから成るペプチドALX40~4Cなどの物質が, T22やT134と同様にCXCR4に作用してT-tropic HIV-1の侵入を阻害することが報告されている. さらに, カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス (HHV-8/KSHV) にコードされているケモカイン様物質, vMIP IIは, T-tropic HIV-1のみならずM-tropic HIV-1の感染も阻止し得る. 本研究では, AMD3100に対して耐性となったHIV-1を用いて, 野生型HIV-1株との抗HIV活性を比較する事により, T134, ALX40-4C, vMIP IIは, AMD3100耐性HIV-1株に対して交差耐性が見られず, CXCR4へ相互作用する部位がそれぞれ異なっている可能性を示した.
著者
相馬 裕樹 細田 智弘 伊藤 守 永江 真也 古橋 和謙 坂本 光男 野﨑 博之 清水 英明 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.500-506, 2020

<p>新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大によって,入院病床の確保が逼迫する問題となっている. 指定感染症であるCOVID-19 は,一定の基準に則って入退院の決定がなされており,入院期間は長期にわたる.大型クルーズ船によるCOVID-19 集団感染事例において,当院では軽症者を含む11 例のCOVID-19 感染症症例を経験したため,臨床経過から重症化因子と入院期間の延長に関わる因子を考察した.重症度は中国CDC の分類を用いて決定した.11 例の年齢中央値は62 歳,男性4 例・女性7 例で,軽症(mild)が 7 例,中等症(severe)が4 例,重症(critical)が0 例であった.発症から軽快の基準を満たすまでの日数の中央値は,中等症例13 日・軽症例7 日であった.発症からPCR の陰性化が確認できるまでの日数の中央値は,中等症例16 日・軽症例14 日であった.発症から退院までの日数は,中等症例22.5 日・軽症例16 日であった.COVID-19 症例は軽快した後も一部の症例でPCR 検査の陽性が継続し,入院期間の長期化の一因と考えられた.また,中等症例と軽症例を比較すると,中等症例は軽症例に比して入院時の血清フェリチンや血清アミロイドA 蛋白が高い傾向があった.COVID-19 症例の増加による病床数の確保が必要な状況においては,軽症例や入院後に軽快した症例の自宅・宿泊療養が検討される.また経過中に重症化する症例を適切に判別する方法を確立し,治療や二次感染防止のための入院・退院基準に反映することが必要であると考える.</p>
著者
葛本 佳以 久保田 紀子 齋藤 儀信 藤岡 文夫 湯本 佳良子 日髙 惠以子 川上 由行
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.207-210, 2013-03-20 (Released:2014-12-22)
参考文献数
6
被引用文献数
2 2

Kingella species including K. kingae are non-motile coccobacilli or short straight rods, and their normal habitats appear to be the upper respiratory and oropharyngeal tracts of humans. In recent years, K. kingae strains have been in creasingly recognized as common causes of invasive infections in children at the age of less than 4 years. In Japan, however, invasive K. kingae infections including osteomyelitis have rarely been described. We incidentally encountered isolation of a K. kingae strain from intraoperatively obtained specimens from a previously healthy 44-month-old boy. He first consulted a nearby medical facility and a suspected diagnosis of osteomyelitis was made, after which the patient was then transferred to our Nagano Childrenʼs hospital. There was evidence of inflammation in his right calcaneus and toe walking was noted. He was treated with surgical drainage. An isolate grown on sheep blood agar with positive oxidase and negative catalase was biochemically characterized with the ID-Test HN20(Nissui Pharmaceutical Co., Ltd., Tokyo, Japan)kit system together with genetic examinations involving sequencing the 16S rRNA gene, and the infection was finally identified as K. kingae. The patient was successfully treated with cefotiam(CTM)for the first 7 days followed by the administration of trimethoprim-sulfamethoxazole(ST)for an additional 2 months. The K. kingae isolate was confirmed as a sure causative pathogen by observing that the serum showed high agglutinin titers against the isolate. Accumulation of the case reports in Japan with the isolation of this species is essential for clarifying invasive infections due to K. kingae. Our case report is a noteworthy and useful piece of information.
著者
菅原 民枝 大日 康史 川野原 弘和 谷口 清州 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 : 日本伝染病学会機関誌 : the journal of the Japanese Association for Infectious Diseases (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.8-15, 2011-01-20
参考文献数
14
被引用文献数
2 5

【目的】新型インフルエンザ(2009 インフルエンザA(H1N1))対策では,発生時の早期探知,日ごとの流行状況をモニターするリアルタイムサーベイランスが必要である.そこで本研究は調剤薬局の院外処方せんによる薬局サーベイランスを運用し評価する.抗インフルエンザウイルス剤を処方された人数より,対策に必要な推定患者数を算出しその有用性も検討する. 【方法】全国3,959 薬局から自動的に抗インフルエンザウイルス剤データを収集し,インフルエンザ推定患者数を算出した.サーベイランスの評価は,感染症発生動向調査及び感染症法上届出の新型インフルエンザの全数報告との比較とした.推定患者数の比較は,感染症発生動向調査と岐阜県の全数調査に基づいた推定患者数で行う. 【結果】2009 年4 月20 日から新型インフルエンザ対策として薬局サーベイランスを強化し,翌日7 時には協力薬局および自治体対策関係者に情報提供した.2009 年第28 週から2010 年第12 週までの推定患者数は,9,234,289 人であった.発生動向調査との相関係数は0.992 であった.薬局サーベイランスのインフルエンザ推定患者数,感染症発生動向調査と2 倍強の違いがみられ,岐阜県全数調査で調整した発生動向調査の推定患者数は近似していた. 【考察】薬局サーベイランスは,流行の立ち上がり,ピークの見極め,再度の流行への警戒と長期間にわたってのリアルタイムサーベイランスとして実用的であった.発生動向調査と高い相関関係を示しており,先行指標となった.日ごとのデータによる早期探知,報告基準をかえずに自動的にモニタリングすること,常時運用という態勢は有用であると示唆された.インフルエンザ推定患者数は,発生動向調査の推定患者数の過大推計が示唆され,今後の課題点と考えられた.次のパンデミックを含むインフルエンザ対策として利用可能な手段であり,またインフルエンザに限定せず,アシクロビル製剤による水痘や抗生剤の使用状況のモニタリングといった広い応用が期待される.
著者
櫛田 宏幸 中内 崇夫 矢倉 裕輝 渡邊 大 上平 朝子 白阪 琢磨
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.95, no.3, pp.319-323, 2021-05-20 (Released:2021-11-26)
参考文献数
15

Tenofovir disoproxil fumarate(TDF)is a prodrug of tenofovir(TFV), used in the treatment of hepatitis B(HBV)and HIV-1. TFV is a renally excreted drug;a weekly dose of 300mg is recommended for patients suffering from HIV/HBV co-infection and undergoing hemodialysis(HD)for renal failure. The pharmacokinetics of TFV in Japanese patients undergoing HD has not yet been thoroughly explored. Herein, we report a case of HD in which the plasma concentrations of TFV were measured serially after the start of treatment with TDF. An 80-year-old Japanese man with HIV-1 was undergoing HD thrice weekly for end-stage renal failure. Concomitantly, the patient was receiving treatment with darunavir ethanolate, ritonavir, and raltegravir potassium for HIV-1 infection. With the treatment, the blood HIV-RNA levels had decreased to below 20 copies/mL. However, the patient developed acute HBV while under follow-up as an outpatient. He was started on treatment with TDF/emtricitabine, administered once weekly after HD, as treatment for HBV. The 7-day TFV trough concentrations measured in two consecutive weeks were 54 and 45ng/mL. The values were comparable with those in the general Japanese population(non-HD subjects)and to other previous reports. The treatment resulted in suppression of both HIV-1 and HBV. However, based on the combination of drugs and HD conditions, the dialysis clearance and removal rates vary. In conclusion, measurement of the plasma drug concentrations is useful for appropriate and definitive treatment of HIV-1 and HBV in patients undergoing HD.
著者
堀内 弘司 佐々木 裕明 宮田 順之 吉村 幸浩 原田 壮平 立川 夏夫
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.95, no.3, pp.324-327, 2021-05-20 (Released:2021-11-26)
参考文献数
7

Klebsiella pneumoniae independently causing necrotizing fasciitis in patients with Klebsiella pneumoniae bacteremia is known and has mainly been reported from East Asia, especially Taiwan and Korea. The clinical course of necrotizing fasciitis developing in association with K. pneumoniae bacteremia has not yet been clearly described. We report a case of lower leg K. pneumoniae necrotizing fasciitis in a patient with following K. pneumoniae bacteremia, which was unrecognized on day 1 of admission. The necrotizing fasciitis, which necessitated surgical treatment, became clinically evident only after the bacteremia diagnosis. A 65- year-old Korean woman who presented with a history of fever and malaise developed septic shock of unknown origin. Although effective antimicrobial therapy was initiated soon after she was admitted to us, purpura and pain in the left lower leg appeared on day 6 of admission, and necrotizing fasciitis was suspected. The patient recovered after surgical treatment and was discharged on day 25 of hospitalization. The isolated K. pneumoniae showed a positive string test, and genetic analysis identified it as the K1-ST23 strain, which is known to be a hypervirulent K. pneumoniae (hvKp) strain. It has been suggested that hvKp bacteremia can cause necrotizing fasciitis even during effective antimicrobial therapy, and because of the need for immediate surgical treatment, clinicians should be very attentive to the appearance of a new skin or soft tissue lesion in patients with K. pneumoniae bacteremia. The index of suspicion should be even higher in patients from East Asia and for K. pneumoniae strains that are string test-positive.
著者
濱田 博史 林 雅
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.95, no.3, pp.301-306, 2021-05-20 (Released:2021-11-26)
参考文献数
16

グラム陰性ブドウ糖非発酵性のアシネトバクターは,自然環境や,健常人および免役能低下患者の皮膚や腸管などから分離され,免疫不全となるような基礎疾患を有する患者で肺炎やカテーテル感染症を起こす場合がある.またアシネトバクターは複数の抗菌薬に耐性を示すことが多いため,経験的治療として選択された初期治療薬に耐性を示す場合には予後が悪化する可能性がある.一方,担癌患者や終末期など状態が悪い患者での感染が多いこと,日本においては,海外に比較して多剤耐性菌のリスクが低いことなどの点も存在する.今まで初期治療とその予後に関しての研究は限られており今回は自施設での2009 年1 月から2018 年 7 月までのアシネトバクター菌血症68 症例を後ろ向きに解析し,初期治療の選択と予後への影響について検討した.患者の平均年齢は69 歳.感染巣は腸管感染症(34%),カテーテル感染(25%)が多かった.初期治療の抗菌薬が適切と判断された症例は43 例(63%),不適切と判断された症例は25 例(37%)だった. 2 群間の30 日死亡率において差は認めず9 名(21%)及び6 名(24%)(P 値=0.90)であった.現在の日本において,アシネトバクター菌血症では初期治療の選択は重要でなく,予後の規定因子として初期治療の選択には左右されず,背景疾患や年齢が予後を規定する因子である可能性がある.必ずしも初期から広域に加療する必要はなく,培養結果に応じて適切に選択することが重要であることが示唆された.
著者
藤田 晃三 吉河 道人 室野 晃一 村井 貞子 岸下 雅通 山崎 伸二 竹田 美文
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.1229-1236, 1994
被引用文献数
3

1981~90年に分離されたA群溶連菌670株について, 患者の背景と分離菌の性状を調べた.<BR>感染症の内訳は咽頭炎479, 狸紅熱133, 化膿性疾患35, 非化膿性合併症23で, 分離材料は咽頭スワブ655, 皮膚スワブや膿など15であった.発疹症を含めた咽頭炎の再燃は5.3%, 再発は13.4%の症例に認め, 再発エピソードの15.7%は同一のM血清型株によるものであった.発疹症に2回罹患した6例は, 2回目それぞれ前回と異なるM血清型株に感染し, その中4例は新たな型の毒素を産生する株に感染した.<BR>M血清型とT血清型の一致率は73.3%(同じT血清型を含む混合型まで入れると83.0%) であった.全体ではM12, 4, 1, 3, 28型の順に多く, M12, 4型が主流であったが, 年度によっては1, 3, 28型株の分離頻度が最も高かった.<BR>ペニシリン・セファロスポリン耐性株は認めず, erthromycin耐性株の分離率は1981年26.5%, 1982年18.4%であったが, 1983年以後激減し1986年以降0に近い.Chloramphenicol耐性もerythromycin耐性と同様で, tetracycline耐性株の分離率は60%から20%以下に年を追って減少した.
著者
齋藤 淑子 内藤 俊夫 久木野 純子 奥村 徹 関谷 栄 礒沼 弘 渡邉 一功 檀原 高 林田 康男
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.70-75, 2004
被引用文献数
1

We report a 32-year-old female with eating disorder whose body weight was only 20kg. She was admitted to the hospital with severe low nutrition, low proteinemia, liver dysfunction, hypokalemia and hypoglycemia. On the third hospital day, she had a high fever and <I>Campylobacter fetus</I> subsp. fetus (<I>C. fetus</I>) was isolated from the blood. After treatment with meropenem (1g/day) intravenous drip injection, her condition improved.<BR><I>C. fetus</I> sepsis is not common disease in Japan. A review of 37 cases of this disease in Japan revealed that the age range of adult patients was 20 to 60 years old. The male-to-female ratio was 4.6 to 1.0. Seventy-eight percent of the patients had underlying diseases which were composed of 11 patients with liver disease, 6 patients with blood dyscrasia and some with diabetes mellitus, heart disease, other malignant tumor and collagen disease. There was no case with eating disorder. All apparent sources of infection in Japan originate from eating raw food. Gastrointestinal symptoms were observed in only 16% of the patients. Recent recommendations for the treatment of <I>C. fetus</I> sepsis are to use gentamicin, imipenem and meropenem. Some strains of <I>C. fetus</I> have resistance to erythromycin, ciprofloxacin. The mortality of this infection is 14% in Japan.
著者
倉島 一喜 鍵山 奈保 石黒 卓 春日 啓介 森本 康弘 小澤 亮太 高野 賢治 磯野 泰輔 西田 隆 河手 絵理子 細田 千晶 小林 洋一 高久 洋太郎 高柳 昇 柳沢 勉
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.483-489, 2020-07-20 (Released:2021-02-07)
参考文献数
19
被引用文献数
4

現在新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では50 歳以上で低酸素血症を認めた段階で他疾患に適応のある抗ウイルス薬の投与が推奨されている.しかし治療が必要となる重症化因子についての検討は少ない.今回COVID-19 により入院した患者で抗ウイルス薬による治療を必要とした群と経過観察のみで改善した群を後方視的に検討し,抗ウイルス薬が必要となる臨床所見について検討した.まず当院に入院した49 例のCOVID-19 感染患者について,A 群:無症候性病原体保有者,B 群:症状あり,ウイルス肺炎像なし,C 群:ウイルス肺炎像あり,呼吸不全なし,D 群:ウイルス肺炎像あり,呼吸不全あり,に分類した.C 群は無治療で軽快し,D 群では抗ウイルス薬治療が行われた.重症度と相関した背景因子と症状は年齢,合併症の有無,喫煙歴,発熱,下痢であったが,治療を必要としたD 群に特徴的な所見は喫煙歴のみであった.次に重症度と相関した臨床検査値はPaO2,リンパ球数,D-dimer,AST,CK,LDH,CRP,PCT,ferritin であったが,多変量解析で治療必要群と有意に相関した検査値はリンパ球数,CRP,ferritin となった.両群を区別するカットオフ値をROC 曲線より求めると,リンパ球数1,200/μL 以下,CRP 2.38mg/dL 以上,ferritin 394ng/mL 以上となった.画像所見では,抗ウイルス薬治療を要しなかったC 群と要したD 群とを最もよく区別する所見は浸潤影の有無だった.以上よりこれらの重症化因子は呼吸不全への進展を考慮すべき臨床指標になると思われた.また喫煙歴,リンパ球数1,200/μL 以下,CRP 2.5mg/dL 以上,ferritin 400ng/mL 以上,CT 上の浸潤影の5 つをリスク因子として選ぶと発症からPCR 陰性化までの日数と強い相関を示した(p<0.0001).
著者
中山 哲夫
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.93, no.4, pp.493-499, 2019

<p> ワクチン接種後の有害事象が「副反応の疑い」として報告されており報告された事象がワクチン接種により発症するかのような誤解が生じる.厚生科学審議会(厚生労働省予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会:第1回から第35回,一部第34回)で審議された副反応疑い報告状況に公開されている資料を参考に平成25年4月から平成30年4月(一部2月)までに報告された事象を対象として重篤な副反応,特に死亡例の報告をまとめた.麻しん・風しん混合ワクチン(MR),麻しん,風しん,おたふくかぜ,水痘の生ワクチン接種後の重篤な副反応は10万あたり0.51~1.91 で死亡例については5年間のうちでMRワクチン接種後では5例のみであった.ジフテリア・破傷風・百日咳(DTaP),不活化ポリオ(IPV),DTaP-IPV,インフルエンザ桿菌タイプB(Hib),肺炎球菌(PCV),日本脳炎ワクチン接種後の重篤な副反応の頻度は10 万あたり2.03以下で死亡例はHib,PCV同時接種の44例であった.23価肺炎球菌,インフルエンザワクチン接種後死亡例は51例,63例であった.報告された死亡原因としては小児では乳幼児突然死症候群(SIDS:Sudden Infant Death Syndrome)と原因不明が多く,成人では一般の死亡原因と一致していた.ワクチンは生体の免疫応答を利用して感染防御,症状の軽減を目的とするものである.ワクチン接種後の有害事象の発症は避けることができないがワクチン接種との直接的な因果関係は科学的な原因究明が必要となる.</p>
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 : 日本伝染病学会機関誌 : the journal of the Japanese Association for Infectious Diseases (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.86, no.6, pp.723-733, 2012-11-20
参考文献数
17
被引用文献数
3

本邦では,空中へ特殊な物質の放出により環境中においてウイルス不活化や殺菌の効果をもたらすとする複数の電気製品が市販されており,寒天培地上に塗布した細菌に対する殺菌効果も謳っている.そこで本研究では,プラズマクラスター,ナノイー,ビオンの3 機種について,腸球菌,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,セレウス菌での追試を試みた.一定数の生菌含有菌液を普通寒天平板上に塗布し,14.4m<sup>3 </sup>閉鎖空間に対象機器とともに置き,機器を2 時間運転させた後培養し,出現するコロニー数を,非運転環境下においた対照のそれと比較した.その結果,調べた3 機種,4 種の菌のすべての組み合わせで,形成されるコロニーの数は対照のそれと変わらなかった.一方,細菌を塗布した寒天培地を容積0.2m<sup>3 </sup>の密閉グローブボックス内に置き,同様の実験を行ったところ,3 機種すべてが,腸球菌と黄色ブドウ球菌のコロニー形成を,程度の差はあれ対照と比べて有意に減少させ,一方緑膿菌については減少させなかった.前二者に対するコロニー形成抑制/殺菌の機序について,これらの機器が放出するオゾンが原因である可能性を検討した.その結果,殺菌効果は,それらが発生させるイオンや特殊微粒子を除去しても変わらず,一方で発生するオゾンを除去すると激減した. 以上の成績により,調べた電気製品には,1)通常の生活空間のような広い空間における使用では,ほとんど殺菌効果が期待できないこと,しかし,2)きわめて狭い空間における寒天培地上のある種の細菌という限定的な対象に対しては,ある程度の殺菌作用は認められること,だが,3)そうした効果は,一義的には,それらの機器が放出している特殊物質というより,それらが同時に放出しているオゾンによる殺菌効果で十分説明可能であること,が明らかになった.今回対象となった機器のみならず,こうした類の殺菌効果を謳う電気製品については,オゾンの関与を疑う必要があろう.