著者
斎藤 文彦 岡部 義信 菅 偉哉 渡邉 徹 有永 照子 内藤 嘉記 内田 信治 久下 亨 豊永 純 神代 正道 木下 壽文 鶴田 修 佐田 通夫
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.105, no.10, pp.1509-1514, 2008 (Released:2008-10-08)
参考文献数
17
被引用文献数
3

68歳男性.猪飼育,生食歴あり.糖尿病加療中に好酸球増多と膵体部腫瘍を認め当院紹介.膵腫瘍は画像所見とERP下膵管擦過細胞診で膵癌と診断.肝に多発小結節を認め生検で好酸球性肉芽腫だった.免疫血清学的検査で線虫類抗体が強陽性で内臓幼虫移行症の肝好酸球性肉芽腫を強く疑い,膵癌と幼虫移行症が偶発的に発症したと考え膵体尾部切除を行った.好酸球増多をともなう多発性肝腫瘍の診断には本疾患も念頭におき病歴聴取する必要がある.
著者
福谷 洋樹 宮崎 将之 森田 祐輔 田中 紘介 矢田 雅佳 増本 陽秀 本村 健太
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.117, no.3, pp.270-276, 2020-03-10 (Released:2020-03-10)
参考文献数
29

症例は49歳男性.B型肝炎治療中にCTでS4,S7に腫瘤を指摘.MRIではCTとは異なるS7に腫瘤を認め,S4に腫瘤はみられなかった.2カ月後のMRIではS7/6に新たに腫瘤が出現した.好酸球増多がみられたため寄生虫検査を行い,トキソカラ抗体陽性であった.肝トキソカラ症と診断し,アルベンダゾール内服にて腫瘤は消失した.好酸球増多,多発病変,腫瘤の自然消失は内臓幼虫移行症に特徴的な所見と考えられた.
著者
中村 和彦 井星 陽一郎 伊原 栄吉
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.110, no.11, pp.1889-1899, 2013 (Released:2013-11-05)
参考文献数
71

炎症性腸疾患(IBD)の発症に腸管での過度のT helper(Th)反応が関与している.Th反応はTh1,Th2,Th17からなり,正常の腸管では免疫反応を制御するregulatory T cellとの間でバランスが保たれている.IBD腸管ではその調節機構が破綻しており,クローン病ではTh1,Th17反応の亢進が,潰瘍性大腸炎ではTh17反応の亢進とIL-13発現上昇がみられる.IBD腸管のTh制御機構破綻のメカニズムを明確にすることは,治療のターゲットを明らかにし,新規治療法開発に重要である.IBDにおけるTh反応制御異常に関して最新の知見を含めて解説する.
著者
井上 泉 岡 政志 一瀬 雅夫
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.117, no.6, pp.477-484, 2020-06-20 (Released:2020-06-20)
参考文献数
40

H.pylori感染胃炎を中核とする胃癌発生の自然史に関する理解がすすみ,癌発生リスクの把握が可能になって来た.その結果,胃癌検診効率化を視野に,血液検査によるH.pylori感染胃炎ステージ診断・胃癌リスク評価に基づくリスク検診が検討されている.いまだ理論的な段階に留まるものであるが,今後,安定したシステムの登場が期待される.“いわゆるABC検診”に関しては,受診者の不利益を回避する上で,現状のシステムの導入には慎重であるべきで,実施可能なシステム・責任ある体制の構築のために,充分な検討が必要である.その他,本稿では血液検体による胃癌診断の現状・検診導入の可能性について概説する.
著者
森崎 智仁 大仁田 賢 竹島 史直 赤澤 祐子 山口 直之 宮明 寿光 田浦 直太 市川 辰樹 磯本 一 鳥山 寛 中尾 一彦
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.108, no.2, pp.245-252, 2011 (Released:2011-02-07)
参考文献数
22
被引用文献数
1

79歳,女性.上腹部不快感あり,近医にて上部消化管内視鏡検査を施行.進行胃癌を認め,当院紹介.全身精査にて,全身リンパ節転移を認め,S-1単剤化学療法を開始.2カ月後に黄疸と肝機能障害が出現し,S-1を中止した.内視鏡的逆行性膵胆管造影検査にて,肝門部肝管を中心に多発性の胆管狭窄を認めた.肝門部に腫瘍を認めず,S-1による続発性硬化性胆管炎を疑った.加療を行ったが軽快せず,永眠された.
著者
斎藤 博 町井 涼子 高橋 則晃 雑賀 公美子
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.111, no.3, pp.453-463, 2014 (Released:2014-03-05)
参考文献数
63

大腸がん検診は便潜血検査による検診での死亡率,罹患率の減少効果が実証され,世界的にその成果が近い将来実現されると考えられている.また内視鏡検診の有効性のポテンシャルも示されつつある.今後,新規の検診法を求めて研究を進めていく上で,精度評価については健常者集団での測定,有効性は最終的に死亡率を指標として,評価される必要がある.新しい方法の研究とともに,成果を上げるために,海外で実績のあるorganized screeningを踏まえて,がん死亡率減少が実現可能な検診体制をわが国においても整備することが求められている.
著者
石井 直明
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病學會雜誌 = The Japanese journal of gastro-enterology (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.103, no.2, pp.143-148, 2006-02-05
参考文献数
5

近年飛躍的に進んでいる老化研究の結果から,老化のメカニズムがインスリン&middot;シグナル伝達経路やカロリー制限が関係する「エネルギー代謝」と,ヘリケースやテロメアが関係し,細胞老化やガン化につながる「細胞分裂」に集約されてきた.この両者は一見,つながりがないように思えるが,エネルギー代謝の副産物として産生される活性酸素による傷害が細胞分裂の停止や細胞死,ガン化に関与することや,インスリン&middot;シグナル伝達経路が細胞分裂を制御しているという報告があることから,老化の基本的なメカニズムが1つのネットワークの中に描かれる日が近いことを感じさせる.<br>
著者
入江 裕之 吉満 研吾 石神 康生 田嶋 強 浅山 良樹 平川 雅和 牛島 泰宏 本田 浩
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.103, no.12, pp.1333-1338, 2006 (Released:2006-12-06)
参考文献数
12
被引用文献数
4

膵疾患のMDCT診断を行うための必要な知識として,MDCTの特長,膵のダイナミックCT, 3次元画像の臨床的有用性について解説した.MDCTの特長は高時間分解能と高空間分解能にあり,それらを利用して得られるボリュームデータは臨床に役立つ3次元画像を提供する.膵のダイナミックCTは膵実質相,門脈相,遅延相の3相撮像が基本であり,適切な撮像開始時間を設定するためには造影剤の血行動態を理解しておくことが重要である.CTAは膵疾患の術前血管造影を不要にし,MPRは膵疾患の診断能を向上させた.さらに主膵管の全長を1画像で表示できるCPRは膵疾患のMDCT診断にはなくてはならない画像となっている.
著者
正宗 淳 下瀬川 徹
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.109, no.9, pp.1526-1534, 2012 (Released:2012-09-05)
参考文献数
50
被引用文献数
1

アルコールは急性および慢性膵炎の主要な成因である.最近の2007年全国調査では急性膵炎の31.4%,慢性膵炎の64.8%がアルコール性とされる.アルコールによる膵炎発症機序としてアルコール毒性説,蛋白塞栓説など,さまざまな仮説が提唱されているがいまだ確立されていない.膵炎を発症するのは大酒家の一部にすぎない.このため,臨床的に膵炎が成立するためにはアルコールの作用のみならず,喫煙などの生活習慣や遺伝的背景が複合的に関与すると考えられる.アルコール性膵炎の再発や進行予防のため,断酒や禁煙といった生活指導の重要性が再認識されている.
著者
三輪 洋人
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.111, no.10, pp.1911-1922, 2014-10-05 (Released:2014-10-05)
参考文献数
80

食道知覚は食道への刺激が侵害受容体および一次・二次知覚神経を介して中枢へと伝達されて生じる.これが病的に過敏となった食道知覚過敏は,非びらん性胃食道逆流症や機能性食道疾患における症状発生に大きな役割を果たしているが,その発生には粘膜の炎症やストレスが関与している.また,これまで胸やけ症状は傷害された食道粘膜内に胃酸がしみ込んで生じるという「しみこみ説」で説明されていたが,最近では酸が物理的にではなく食道上皮からの炎症性メディエーターの放出を介して症状をおこす可能性が論じられている.一方,明らかな逆流性食道炎があっても症状を示さない患者群の存在が注目されている.このように食道知覚・知覚過敏に関する研究は急速に進展している.
著者
崔 仁煥 有山 襄
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.96, no.3, pp.259-265, 1999-03-05 (Released:2008-02-26)
参考文献数
23

MRCPは非侵襲的に膵胆管像を描出できる画期的な画像診断法であり,診断的ERCPにかわる新たな検査法として有用性を発揮している.MRCPは,閉塞部より上流の膵胆管像や炎症にともなう滲出液の拡がりなど,ERCPでは得られない多くの情報を提供する.そのため,胆膵疾患に対するより深い理解と,詳細な病態の把握にもとづく診断および治療計画を可能にし,ERCPによる合併症の減少にも貢献する.また,外来で簡便かつ安全に施行できるため,胆膵疾患の早期診断や経過観察にも有用性が高い.MRI断層像と組み合わせることにより,さらに精密な診断も可能となる.今後,空間分解能の向上とともにますます発展,普及するものと考えられる.
著者
岩切 勝彦 川見 典之 田中 由理子 佐野 弘仁 星原 芳雄 野村 務 松谷 毅 萩原 信敏 宮下 正夫 坂本 長逸
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.109, no.5, pp.710-721, 2012 (Released:2012-05-28)
参考文献数
26

アカラシアは下部食道括約筋(LES)の弛緩不全および食道体部の蠕動障害により,嚥下障害をきたす1次性食道運動障害の代表的疾患である.アカラシアの確定診断は食道内圧検査により行われるが内視鏡検査も有用である.LES弛緩不全を認めない場合には,下部食道を深吸気時に観察すると柵状血管の下端を含めた全体像が観察されるが,アカラシア患者では深吸気時にも柵状血管の全体像は観察されず,下部食道の狭窄部に集中する全周性の襞像が観察される.アカラシアのバルーン拡張術は有効な治療法の1つである.拡張術において重要なことは拡張時のバルーンの切れこみを消失させることであるが,切れこみは低圧な状態でも消失させることが可能であり,ゆっくりと低圧にて加圧することが重要である.最も使用される30mmバルーンでの当科における拡張術の治療成功率は約75%である.治療成功率に関連する因子は年齢であり,30歳未満の患者に対するバルーン拡張術の成功例はないが,30~40歳未満の患者での治療成功率は約60%,40歳以上では約85%である.
著者
所 安夫 小金澤 滋
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.73, no.8, pp.972-985, 1976 (Released:2007-12-26)
参考文献数
60
被引用文献数
3

日本住血吸虫症に随伴した直腸癌及びS状結腸巨大ポリープ集落の各1例を資料とし, 前者標本全域の虫卵の分布を算え, 且癌境界部の粘膜の厚さと組成とを測定し, 計測病理組織学見地より若干の考察を企てた. 1) 虫卵は癌巣内及びそれより肛門側に皆無, 2) 粘膜下層全体の虫卵と直腸全体のそれと略等しい, 3)虫卵による異物炎は殆んどない, 4) 虫卵と上皮腺の増殖とは特に関係せぬ. 5) 癌境界域の組成と厚さとは全周で極めて不整, 6) 6mmの厚さは全て癌巣よりなるが4mm~2mmは正常粘膜内又は下に入りこんだ癌との総和である, 7) 癌の側方伸展は甚だ強烈, 8) 癌化腺と非癌腺との境は常に鋭利且鮮明, 癌化の過程を実像として追跡不可能, 9) 境界部も虫卵に乏しい, 10) 粘膜腺増殖は全く非特異的, 11) 随伴癌成り立ちの因果性は薄弱.
著者
藤田 きみゑ 長谷川 美幸 藤田 麻里 小林 寅〓 小笹 晃太郎 渡辺 能行
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病學會雜誌 = The Japanese journal of gastro-enterology (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.379-385, 2002-04-05
参考文献数
37

今回,われわれは古くより民間薬として用いられてきた梅肉エキスの<I>Helicobacter pylori</I>(<I>H.p</I>.)に対する殺菌効果を検討した.梅肉工キスの主成分は約3296のクエン酸1196がリンゴ酸などで,pHは強酸性である,この梅肉エキスの0.156%,0.313%,0.625%,0.9%各濃度工キス剤溶液に対して,胃粘膜由来の<I>H.p</I>.臨床分離株10株を各々濃度溶液にて培養し,菌培養MIC(最小発育阻止濃度)測定を行った.その結果,<I>H.p</I>.10株のうち<I>H.p</I>.4株に対しては梅肉工キス剤濃度0.156%以下で,また,<I>H.p</I>.6株に対してはエキス剤濃度0313%で強い抗菌力を示した.さらに,梅肉エキス0.3%,0.9%濃度溶液に混和された<I>H.p</I>.臨床分離株10株の生理的食塩水懸濁液は,5分後および15分後にて<I>H.p</I>.菌量の99.995%から99.999%が減少し強い殺菌効果を認めた.これ等結果より,梅肉エキスは安価で副作用のない<I>H.p</I>.を予防し得る食品と考えられた.
著者
加藤 淳二
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.102, no.5, pp.552-558, 2005 (Released:2005-06-14)
参考文献数
20

鉄はすべての細胞にとって必要不可欠な元素である.通常,鉄は細胞内で蛋白質と結合し毒性を発揮しないようになっているが,病的に増加した場合,遊離鉄イオンが生ずる.鉄イオンはフェントン反応などを介して最も毒性の強い活性酸素種の・OHラジカル産生を促進する.・OHラジカルは酸化的DNA損傷をおこし遺伝子変異(発癌)を誘発することが明らかにされている.鉄過剰を来す代表的疾患としては,ヘモクロマトーシスがあるが,それはさまざまな鉄代謝に関連する遺伝子の異常でおこることが明らかにされている.さらに最近,C型肝炎や非アルコール性脂肪性肝炎などでも,肝内鉄過剰が病態進展に関わっている可能性が指摘され注目されている.