著者
石橋 啓如 足立 清太郎 片倉 芳樹 吹田 洋將 糸林 詠 横須賀 收
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.170-175, 2014-03-20 (Released:2014-04-07)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

症例は48歳の男性.5年前の健診で食道静脈瘤(LmF2CbRC0Lg-)を指摘され,精査にて悪性腫瘍や肝硬変症の合併を認めず,門脈本幹部血栓,肝門部海綿状血管増生,脾腫が確認され,非硬変性門脈血栓症に伴う肝外門脈閉塞症と診断された.5年の経過で門脈血栓,食道胃静脈瘤(LsF3CbRC2LgcF2)は増悪し,予防的に内視鏡的硬化療法を施行した.慢性骨髄増殖性疾患を疑い施行した骨髄生検では慢性骨髄増殖性疾患の合併は否定的であったが,血液検査にてJanus activating kinase 2のV617F遺伝子変異(JAK2変異)が確認されたことから,JAK2変異が門脈血栓症に関与したと考えられた.本症例では5年の経過中,脾腫に比して血小板数が正常域値内に保たれていた.明らかな基礎疾患が指摘されない門脈血栓症に伴う肝外門脈閉塞症ではJAK2変異が存在する可能性について考慮する必要がある.
著者
西村 貴士 飯島 尋子
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.240-250, 2021-05-01 (Released:2021-05-14)
参考文献数
26

肝腫瘍に対して,米国を中心として画像診断レポートの標準化が行われている.CT/MRIに続いて超音波判定システムであるUS/CEUS LI-RADSは,American College of Radiology(ACR)によって提唱された肝癌診断アルゴリズムであり,American Institute of Ultrasound in Medicine(AIUM)やAmerican Association for the Study of Liver Diseases(AASLD)でも推奨され用いられている.今後わが国でも,US/CEUS LI-RADSに基づいた肝腫瘍のカテゴリー分類,レポートの標準化に向かう方向と考えられ,米国のCEUS LI-RADSとわが国の肝癌診療ガイドラインを併せてSonazoidⓇによる診断を追記し概説する.
著者
堀江 義則 菊池 真大 海老沼 浩利 志波 俊輔 谷木 信仁 褚 柏松 中本 伸宏 金井 隆典
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.538-547, 2016-10-20 (Released:2016-11-04)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2

本邦のアルコール総消費量は近年大きな変化はなく,欧米と同等の高い水準で推移している.今回,肝細胞癌(HCC)発症における飲酒の影響について検討した.全国の1496施設に対し,2014年度に診断・治療されたHCC患者についてアンケート調査を行った.7047例のHCC患者の成因は,HBV 13.9%,HCV 54.7%,HBV+HCV 3.6%,アルコール単独によるもの(ALD-HCC)13.9%,非アルコール性脂肪性肝疾患関連4.6%,その他9.5%で,2009年度と比較してALD-HCCの割合が増加傾向にあった.背景因子が確認された333例の初回診断ALD-HCCでは,平均年齢は69.8歳,男性が94%,糖尿病有病率50%,肝硬変合併率85%であった.AFP低値例が多く,66歳以上で肝硬変がない例とChild-PughスコアAの割合が多かった.肝予備能が保たれたまま長期に飲酒し,高齢になって肝発癌が増えたことが予測される.ALD-HCCへの対策としては早期介入による飲酒量の低減が根本的な課題ではあるが,画像診断等により早期にHCCを診断し,治療に結び付けることも今後の課題である.
著者
井上 和明 与 芝真 関山 和彦 黄 一宇 藤田 力也
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.401-407, 1995-07-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
14
被引用文献数
2 1

肝性脳症用特殊組成アミノ酸輸液(Fischer液)が劇症肝炎の予後を悪化させると報告されている.今回同液がurea cycle機能の障害の強い急性重症肝障害例の臨床症状とN処理能に与える影響を知る目的で,劇症肝炎3例,急性肝炎重症型1例にFischer液500mlを2時間で点滴静注し,投与前後での臨床症状,血中の尿素,アンモニア(NH3),グルタミン(Gln),アラニン(Ala)の各値の推移を検討した.一旦肝性脳症から完全に覚醒した劇症肝炎亜急性型の1例で投与後昏睡0度からIV度に悪化し,1例はIV度のまま不変,回復期の2例は0度だがnumber connection testが悪化した.全例で投与直後に血中NH3, Gln, Alaの異常高値が認められ,尿素生成の不良な2例では高値が持続した.urea cycle機能の高度に障害された急性重症肝障害例では他のN処理系を含めたN処理能を上回った量のアミノ酸輸液を行った場合,Fischer液の形でもNH3を増加させ,脳症を悪化させる危険がある.
著者
中田 進
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.194-197, 1993-03-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
5

ヴィェトナム難民におけるB型肝炎ウィルス(HBV)の侵淫状況について検討した.対象は日本に来た2,428人の難民で,男女比は1,587:841 (1.89:1),年齢は0~86歳であった.HBsAg陽性者は316/2,428名(13%)で,男は243/1,587名(15.3%),女は73/841名(8.7%)であった.HBsAg陽性率を年齢群ごとに検討すると,0~9歳群で11~12%であるのに比し10~19歳群では19.9%とより高率であった.ヴィェトナムでは家旅単位が大きいこと,輸血のスクリーニング体制の不備に加えて,非衛生的な医療施設の現状,売春,麻薬の蔓延などの社会状況がHBV感染に大きく関係していると推定される.今回対象とした難民は北部出身者も含み,現状では調査が困難なヴィェトナムの一般人口におけるHBVの侵淫状況を良く反映したものと考えられる.同国ではB型肝炎の抑制は保健上重大な問題であり,早急な対策が望まれる.
著者
柴田 大介 新垣 伸吾 前城 達次 佐久川 廣 青山 肇 植田 玲 外間 昭 藤田 次郎
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.677-682, 2014-11-20 (Released:2014-12-03)
参考文献数
10

症例は23歳女性.成長ホルモン分泌不全症の既往がある.2010年8月から肝機能障害の悪化が認められ精査目的に当科に紹介となった.肥満は認められなかったがCTで著明な脂肪肝が認められ,成長ホルモン分泌の指標であるinsulin like growth factor-1(IGF-1)が25 ng/ml(基準値119-389 ng/ml)と低値であった.肝生検を行いAdult growth hormone deficiency(AGHD)によるnon-alcoholic steatohepatitis(NASH),Bruntの分類Grade 1,Stage 1と診断した.治療として成長ホルモンの補充療法を行い,肝機能の改善が認められた.AGHDのNASHでは通常の生活習慣病にともなうNASHと違い成長ホルモンの補充療法が重要な治療の選択肢の一つであると考えられた.
著者
金子 晃 巽 智秀 藥師神 崇行 平松 直樹 三田 英治 中西 文彦 尾下 正秀 吉原 治正 今井 康陽 福井 弘幸 小林 一三 土井 喜宣 林 英二朗 筒井 秀作 澁川 成弘 巽 信之 堀 由美子 森井 英一 竹原 徹郎
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.507-517, 2015-10-20 (Released:2015-11-02)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

自己免疫性肝炎200例を対象としてステロイド治療の現状と再燃に関連する因子について検討を行った.ステロイドは162例,81%の症例で投与されたが,そのうち149例92%で著効が得られた.一方,著効した症例のうち約半数で再燃を認めたが,そのうちの約半数はプレドニゾロン5 mg/日未満の時点で再燃していた.再燃群と非再燃群の2群間では有意差のある因子は認めなかったが,プレドニゾロン5 mg/日以上で再燃した32例をステロイド依存群,5 mg/日以下の維持量で再燃を認めなかった62例をステロイド非依存群として解析したところ,有意差のある因子を複数認めた.さらに,多変量解析にて年齢とγ-GTPが再燃に関連する因子であるという結果が得られた.このことより,再燃に関連する因子の検討においては,再燃時のステロイド用量も考慮して解析することが重要であると考えられた.
著者
井出 達也
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.31, no.11, pp.1315-1323, 1990-11-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
20
被引用文献数
2 3

原発性胆汁性肝硬変症(PBC)における高IgM血症の成因を検討した.Monomer型IgMの増加はなく,血中総IgM値はpolymer型IgM値と正の相関を示した.血中secretory IgM (sIgM) levelの増加も認めたが,血中総IgM値と強い相関はなく,疾患特異性もなかった.肝内門脈域浸潤細胞ではIgM保有細胞が有意に多かった.電顕によるKupffer細胞の観察では病初期からの貪食能低下の所見が得られた.IgMクラス抗Lipid A抗体はPBCで最も増加していた.以上より,高IgM血症を来たす原因として,monomer型IgMの関与は否定的で,胆管破壊に伴うsIgMの排泄障害によるとも考えられなかった.血中IgMの産生部位としては肝局所が重要であり,Kupffer細胞の機能異常に伴う腸管内細菌性抗原の処理能の低下が,細菌性抗原に対する抗Lipid A抗体をはじめとしたIgMクラスの抗体産生を誘導していることが示唆され,このことが高IgM血症の一因を成すと考えられた.
著者
中村 篤志 吉村 翼 出口 愛美 細川 悠栄 染矢 剛 佐藤 知巳 市川 武 奥山 啓二 吉岡 政洋 朝倉 均
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.552-563, 2020-11-01 (Released:2020-11-09)
参考文献数
42
被引用文献数
1

肝硬変(LC)は多様な免疫異常を呈し,リンパ球減少が特徴となる.近年,LCの免疫不全と惹起される感染症・炎症はcirrhosis-associated immune dysfunction(CAID)と呼ばれ,肝病態の悪化との関連から注目されている.我々はLCの総リンパ球数(total lymphocyte counts,以下TLC)を調査し,さらにTLCと白血球の好中球分画を基にCAIDのステージ分類を作成した.LCでは早期からTLCが減少し,多変量解析で白血球数,脾腫,肝細胞癌,好中球増多がTLC減少に寄与する因子であった.またTLCはLCの独立した予後因子となり,CAID分類はLCの生存率を有意に層別化し得た.LCの免疫不全は炎症の誘因としてCAIDによる肝病態悪化に寄与する可能性があり,hemogramによるCAID分類の有用性が示された.
著者
上田 英雄 奥村 英正 堀口 正晴 浪久 利彦 斧田 大公望 岩村 健一郎 上野 幸久 奥田 邦雄 大森 亮雅 小林 節雄 酒井 和夫 滝野 辰郎 土屋 雅春 橋本 修治 広重 嘉一郎 矢野 幹夫 山本 繁
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.162-171, 1974-03-25 (Released:2009-05-26)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

冷蔵人胎盤の加水分解によるCE14(ラエンネック(L))は各種アミノ酸を含んでおり,その作用として,抗脂肝作用,組織呼吸の促進効果,肝再生の促進などが,実験的研究から知られている.今回の研究は,本剤が慢性肝疾患の治療に有効な薬剤かどうかを知ることであった.患者を二重盲検により,2群にランダムに分けた.Placeboとしては生理的食塩水を用いた.第I群は,L注射を2週間受けた後,Placeboを2週間受け,この方法をもう一度くり返した.第II群は,始めPlacebo注射を2週間受け,つぎの2週はLの注射を毎日受けた.その後は第I群と同様にもう一度くり返した.肝機能検査を2週毎に行なって,その前と2週後の値を比較した.両群とも,GOT, GPTはL投与期間で下降し,それは統計的に有意であった.これに比して,両群のPlacebo期間におけるGOT, GPTの下降は有意ではなかった.以上より,Lは慢性肝疾患患者に効果があるといえよう.
著者
児玉 健一郎 河岡 友和 相方 浩 若井 雅貴 寺岡 雄吏 稲垣 有希 盛生 慶 中原 隆志 平松 憲 柘植 雅貴 今村 道雄 川上 由育 岡田 友里 森本 恭子 織田 麻琴 木村 修士 有廣 光司 茶山 一彰
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.162-170, 2018-03-20 (Released:2018-03-29)
参考文献数
22
被引用文献数
1

63歳,男性.20年前,検診にて肝腫瘤を指摘されたが詳細不明であった.4年前の40×35 mmから60×50 mmと増大傾向となり,紹介入院となった.腹部超音波検査では肝S6/7に60×50 mm大の不整形,境界不明瞭,内部不均一,低エコー腫瘤を認めた.造影CT検査では肝S6/7に60×50 mm大の病変は共に単純CTで等吸収,造影早期相で濃染,後期相で淡い低吸収となった.ソナゾイド造影超音波検査では動脈優位相では全体が不均一に濃染された.門脈優位相ではhypo echoicとなりpost-vascular phase(Kupffer phase)ではdefectを呈した.病理組織検査では肝原発濾胞性リンパ腫と診断され,外科手術にて完全著効となり12カ月生存中である.肝原発濾胞性リンパ腫は非常に稀な疾患であり報告する.
著者
大平 弘正 田中 篤
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.653-654, 2018

<p>Azathioprine, a drug used in the treatment of autoimmune hepatitis (AIH), is now covered by health insurance in Japan. It has long been used in combination with steroids as a standard therapy for AIH in other countries, and its use is expected to increase in Japan. Side effects of azathioprine include cholestatic hepatitis, pancreatitis, and opportunistic infections. Periodic observation is important to ensure timely treatment of adverse effects. Recently, the <i>NUDT15</i> gene polymorphism, associated with severe leukopenia, has been reported as an adverse effect of azathioprine. Although it is covered by insurance, azathioprine is still not used frequently to treat AIH in Japan, and it is necessary to clarify the indications for and problems associated with azathioprine treatment in Japan.</p>
著者
河野 豊 吉田 純一 浅香 正博 原田 文也 舞田 建夫 川上 智史 江口 有一郎
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.527-530, 2020-10-01 (Released:2020-10-08)
参考文献数
4
被引用文献数
1

We investigated the positive detection rates for hepatitis B surface antigens (HBsAg) and hepatitis C (HCV) antibodies as well as the elevation of AST and ALT in patients who were to undergo oral surgery. Our results revealed positive rates of 1.1% and 1.5% for HBsAgs and HCV antibodies, respectively. Patients older than 40 years had a higher proportion of positive HBsAg or HCV antibody results than did patients younger than 40 years. The rate of AST and ALT elevation was 7.3%. There were some missing data on viral infection in patient referral documents or interview sheets, suggesting a perception gap existed with respect to the seriousness of viral hepatitis among dental doctors and patients. These findings suggest that designating a hepatitis medical care coordinator might help not only in understanding patients' infection status but also in collaborating with hepatologists in the field of oral surgery.
著者
松本 修一 滝澤 直歩 金山 泰成 宮井 仁毅 児玉 亘弘 松林 直
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.530-536, 2014-09-19 (Released:2014-10-06)
参考文献数
25

目的:腹水を伴う肝硬変患者における特発性細菌性腹膜炎のリスクファクター(特にPPIとのかかわり)につき検討した.方法:2006年1月から2011年10月までの期間に診断的腹水穿刺を行った肝硬変に伴う腹水症例157例を対象とした.腹水中好中球数250/mm3以上または腹水培養陽性となったものをSBPと診断した.背景因子および腹水穿刺時の血液検査所見から多変量解析を用いてSBPのリスクファクターを抽出した.結果:対象157例のうち38例をSBPと診断した.多変量解析でSBPの危険因子は,肝細胞癌(OR=5.09, 95% CI 2.09-13.05;p<0.01),MELDスコア(20以上,OR=3.57, 95% CI 1.40-9.69, p<0.01),PPI内服(OR=2.60, 95% CI 1.13-6.12;p=0.02)であった.結語:PPI内服は,肝細胞癌,MELDスコア高値とともにSBPの独立した危険因子であった.PPIは様々な理由で頻用されているが,腹水を有する肝硬変症例に対するPPI投与は慎重に行うべきであり,漫然とした投与は避けるべきである.
著者
門倉 信 奥脇 徹也 今川 直人 島村 成樹 高田 ひとみ 雨宮 史武
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.229-236, 2019-07-01 (Released:2019-07-18)
参考文献数
26
被引用文献数
1

100例の肝細胞癌終末期患者を対象に,予後予測モデルの週単位(3週生存)の精度について後ろ向きに検討した.Receiver operating characteristic(ROC)解析とArea Under the Curve(AUC)より3週生存における各モデルのcut off値を選定し,予測能を感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率・正診率を用いて評価した.Palliative Prognostic Index(PPI)がAUC 0.89,正診率80%・Biological Prognostic Score(BPS)2がAUC 0.72,正診率72%・BPS3がAUC 0.82,正診率79%・Model for End-Stage Liver Disease(MELD)スコアがAUC 0.71,正診率70%と優秀な予測能を示し,これらの組み合わせで予後予測の層別化が可能であった.
著者
畑 耕治郎
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.31, no.10, pp.1210-1217, 1990-10-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

肝細胞癌21例を対象として,超微形態学的ならびに第VIII因子関連抗原,OKM5,IV型コラーゲン,ラミニンに対する抗体を用いた免疫組織化学的観察を行い,肝細胞癌血洞壁の特徴および特異性を検討した.血洞内皮細胞は胞体のfenestraeの形成は乏しく細胞間はtight junctionにて接合し,Weibel-Palade体が認められ,内皮細胞下のDisse腔様腔には基底膜構造が認められた.血洞内皮細胞の第VIII因子関連抗原陽性例では,OKM5は陰性であり,また腫瘍径の大きい例に多く,血洞壁にはラミニンの沈着や基底膜様構造の出現が有意に高く,ラミニンの細胞内産生像や細胞外への放出像が認められた.一方,血洞内皮細胞がOKM5陽性を示す例は比較的腫瘍径の小さい例に多い傾向にあった.早期の肝細胞癌では血洞壁は既存の類洞内皮細胞により被覆されているが,肝細胞癌の発育過程で血洞壁は毛細血管としての特徴を有し,これには基底膜形成も関与していると示唆された.
著者
竹井 謙之
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.305-311, 2018-07-20 (Released:2018-07-27)
参考文献数
7
著者
古河 隆二 佐藤 彬 川原 健次郎 楠本 征夫 棟久 龍夫 長瀧 重信 石井 伸子 小路 敏彦 土屋 凉一 大津留 晶 松尾 彰 後藤 誠 原田 良策 田島 平一郎 中田 恵輔 河野 健次 室 豊吉
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.753-758, 1985

3回の摘出術と2回の肝動脈塞栓術(TAE)により10年8カ月生存している肝細胞癌の1例を報告した.症例は62歳の女性,1971年肝生検で肝硬変と診断.1973年10月血中AFP上昇のため当科入院.HBs抗原,HBe抗原ともに陽性.血管造影で腫瘍膿染像をみとめ,摘出術施行,右葉後上区域の3.5cm大の肝癌を摘出した.非癌部は乙型肝硬変であった.6年10カ月後に肝癌の再発がみられ,やはり右葉後上区域にて2.0cm大の肝癌を摘出.さらに10カ月後に肝癌が出現,右葉後下区域より1.0cm大の肝癌を摘出した.組織学的には,3回ともtrabeculartypeであった.さらに1年8カ月後肝癌が出現,TAEを2回施行し外来通院中である.本例の肝癌発生様式は,多中心性と思われるが,血中AFPの厳重なfollowにより3回もの肝癌摘出術に成功し,10年以上の生存をみているため報告した.
著者
道堯 浩二郎 平岡 淳 鶴田 美帆 相引 利彦 奥平 知成 山子 泰加 岩﨑 竜一朗 壷内 栄治 渡辺 崇夫 吉田 理 阿部 雅則 二宮 朋之 日浅 陽一
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.641-646, 2018-11-20 (Released:2018-11-28)
参考文献数
16

HBs抗原の測定法が改良され検出感度が高くなっているが,HBs抗原低値陽性例では偽陽性が危惧される.偽陽性の疑われる例を判定困難例とし,HBs抗原濃度別の判定困難例の頻度を明らかにすることを目的とした.41,186検体を対象にHBs抗原を化学発光免疫測定法で測定し,後方視的に検討した.判定困難例の基準をHBc抗体,HBe抗原・抗体,HBV-DNAすべて陰性,後日採血された検体でHBs抗原が陰性,の全条件を満たす例とし,HBs抗原濃度別の判定困難例の頻度を検討した.HBs抗原は1,147検体(2.8%)で陽性であった.判定困難例は6検体で,HBs抗原濃度(IU/ml)は,全例0.05以上0.20未満であり,0.20以上例には基準を満たす例はなかった.以上より,HBs抗原低値陽性例は偽陽性の可能性に留意する必要があることが示唆された.
著者
土屋 雅春 石井 裕正 宮本 京 荒井 正夫 奥野 府夫 山内 浩 海老原 洋子 高木 俊和 神谷 知至 陶山 匡一郎
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.21, no.12, pp.1606-1613, 1980-12-25 (Released:2010-01-19)
参考文献数
13
被引用文献数
2

肝細胞固有の機能の一つとして重要視されている糖新生能を,糖原性アミノ酸であるL-Alanine (以下Ala)を負荷したときの血糖上昇度および糖代謝調節諸因子の動態を観察することにより判定し,本検査の肝細胞予備能判定法としての有用性につき検討した.対象は慶大内科において確診した肝硬変症17例(代償期8例,非代償期9例)および健常対照例6例の計23例である.15時間絶食後に10% Ala溶液300mlを30分間で静注し経時的に180分まで血糖, IRI,乳酸,アラニン,IRG値を測定した.Ala負荷後,対照群では,点滴終了直後に約10mg/dlの血糖上昇を認め,以後速やかに下降したが肝硬変代償期群では血糖上昇度は7mg/dlと低下傾向をみたが有意差はなかった.これに対して非代償期群では血糖上昇度は全くみられず,むしろ低血糖傾向すら示した.この非代償期群ではAla負荷後の血中乳酸・アラニン値も停滞しAlaの利用障害が示唆された.Ala負荷後血糖上昇のみられなかった群の予後は不良であり,本試験は肝細胞予備能判定の手段として有用であることが示唆された.