著者
舛田 ゆづり 田髙 悦子 臺 有桂 糸井 和佳 田口 理恵 河原 智江
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1040-1048, 2011 (Released:2014-06-06)
参考文献数
22
被引用文献数
3 3

目的 近年,高齢者の孤立死が都市部を中心に社会問題となっている。この問題に対し,地域の見守り活動を推進していくことは喫緊の課題であるが,見守り活動を担う住民組織が直面する課題や方策に焦点化して明らかにしたものは見当たらない。本研究では,今後の都市部における孤立死予防に向けた地域見守り活動推進における住民組織が有しているジレンマならびにそれらに対処する方略を住民組織の立場から明らかにし,今後の実践の示唆を得ることを目的とした。方法 対象は,A 市 b 区 c 地区(中学校区)で見守り活動の実績のある住民組織の代表14人である。研究デザインは,質的帰納的研究である。データ収集は,フォーカスグループインタビュー法(FGI)を用い,テーマは,住民組織が地域の見守り活動を進めていく上で感じている困難や課題等とし,計 3 回実施した。データ分析は,FGI の逐語録から単独で意味の了解が可能な最小単位の単語や文章をコードとして抽出し,次いでコードの類似性を勘案してサブカテゴリとし,さらにサブカテゴリを抽象化してカテゴリとした。結果 住民組織における見守り活動の推進に向けた課題と取組みは個人,近隣,地域の 3 領域に抽象化された。まず,ジレンマについては【見守りの拒否や無関心】,【若年層での孤立や閉じこもり】,【家族が見守りをしない】,【近隣住民の関係性の希薄】,【新旧住民がつながりにくい】,【近所付き合いへの負担感】,【プライバシー意識の高まりによる情報共有の困難】,【見守りの担い手や集う場の資源不足】の各カテゴリーが抽出された。また,方略については【地域の中で 1 対 1 の関係をつくる】,【地域の集まりや輪へ引き込む】,【さりげない日々の安否確認を行う】,【助けが必要な人の存在を知らせる】,【生活の中で互いに知り合う仕掛けをする】,【近隣単位の小さな見守りのシステムをつくる】,【行政と住民組織が連携し地区組織を活かす】,【地域住民の信頼感やつながりを育む】が抽出された。結論 地域の見守り活動の推進に向けては,各住民組織が互いの活動や存在についてより理解を深めるとともに,連携が推進されるような機会の開催や場(ネットワーク)の整え,あるいはそのような風土を地域につくっていくための検討が必要である。
著者
山口 のり子 尾形 由起子 樋口 善之 松浦 賢長
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.69-78, 2013 (Released:2014-02-26)
参考文献数
33
被引用文献数
2

目的 地域社会全体で子育てに取り組む意識としての「子育ての社会化」の構成概念を明らかにし,その「子育ての社会化」意識・行動と「地域に対する評価」,「ソーシャル・キャピタルの認識」との関係について明らかにする。方法 調査Iでは,「子育ての社会化」に関連する文献検討により 7 つの構成概念を仮説として考え,その構成概念を表す58項目を作成し,A 町の20~60歳未満の女性227人を対象に自記式質問紙調査を行った。分析方法は,最尤法,バリマックス回転を用いた因子分析を実施し,クロンバックの α 係数を算出した。調査IIでは,調査Iで得られた「子育ての社会化」意識・行動を示す32項目と「地域に対する評価」15項目,「ソーシャル・キャピタルの認識」10項目について,B 市内の C 中学校区に居住する,就学前の子どもを持つ母親353人,小学生を持つ母親325人,45~60歳未満の壮年期女性383人,計1,061人を対象に自記式質問紙調査を行った。3 つの指標の関係を重回帰分析と共分散構造分析を用い検討した。結果 調査Iでは,有効回答148件を分析対象とし,「子育ての社会化」意識・行動の構成概念として,「地域共同子育て意識」,「子育て支援行動」,「子育て交流意識」,「ボランティア意識」,「公的扶助意識」,「子ども育成態度」,「地域へのまなざし」,「支え合い意識」の 8 因子32項目が抽出された。調査IIでは,有効回答375件を分析対象とし,「子育ての社会化」意識・行動を従属変数とし,「ソーシャル・キャピタルの認識」,「地域に対する評価」を独立変数とした重回帰分析の結果,「ソーシャル・キャピタルの認識」が「子育ての社会化」意識・行動に与えている影響は,有意であった。共分散構造分析の結果,「ソーシャル・キャピタルの認識」と「地域に対する評価」は,独立した関係であると仮定したモデルの適合度が高かった。「子育ての社会化」意識・行動を従属変数とし,「ソーシャル・キャピタルの認識」の下位尺度である「信頼」,「社会参加」,「つきあい・交流」を独立変数とした重回帰分析の結果,「つきあい・交流」が「子育ての社会化」意識・行動に与えている影響が有意であることが明らかになった。結論 「子育ての社会化」意識・行動に影響する要因として,母親や地域住民の「ソーシャル・キャピタルの認識」が関連していることが示され,その中でも「つながり・交流」が影響していることが明らかになった。
著者
杉下 由行 前田 秀雄 森 亨
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.1045-1049, 2005 (Released:2014-08-06)
参考文献数
7

目的 日本では,管針を用いた経皮接種により BCG 接種が行われている。本調査の目的は BCG 接種による針痕数が接種医によって異なるか否かを検証することである。対象と方法 東京都葛飾区の 3 歳児健診に来所した218人に調査を行った。対象者全員が葛飾区の保健所で生後 4 か月時に管針法による BCG 接種を受けている。管針法では最大18個の針痕を確認する事ができる。BCG 接種による針痕数の調査を行い,接種医別にその個数をまとめた。結果 平均針痕数は9.23個(SD6.11)であった。同じ管針法で行われた特別区22区の平均針痕数(12.18±5.64)より有意に低く(P<0.01),22区の中で 3 番目に低い結果であった。平成12年結核緊急実態調査での全国の針痕数の調査結果と比較しても,葛飾区の平均針痕数は有意に低かった(P<0.05)。葛飾区では 7 人の接種医の間で平均針痕数は明らかな違いを認めた。良好な接種医上位 2 人の平均針痕数はそれぞれ15.26個(SD3.62)と14.59個(SD3.58)で 7 人の接種医の平均針痕数より有意に高く(P<0.01),良好でない接種医 1 名の平均針痕数は,3.34個(SD4.46)で 7 人の接種医の平均針痕数より有意に低かった(P<0.01)。結論 接種医により平均針痕数は有意な違いを認めた。針痕の個数が少ないのは特定の接種医の技術に問題があるためで,接種技術水準向上のためには,これらの接種医に対する技術訓練が必要であると考えられた。
著者
井上 裕子 松山 祐輔 伊角 彩 土井 理美 越智 真奈美 藤原 武男
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.283-294, 2020-04-15 (Released:2020-05-08)
参考文献数
37

目的 う蝕は進行性の疾患であり,う蝕と診断された場合には早期に受診し適切な管理を受けることが重要である。しかし,う蝕と診断されても歯科受診に至らない子どもの存在が問題となっている。本研究では,う蝕と診断された子どもの歯科受診に消極的な保護者の態度(消極的受診態度)に関連する要因を明らかにすることを目的とした。方法 東京都足立区で実施された「足立区子どもの健康・生活実態調査」の2016年の調査データを使用し横断研究を行った。区立小学4年生,6年生,中学2年生の保護者1,994人に調査票を配布し,1,652人から有効回答を得た(有効回答率83%)。子どものう蝕が指摘された場合に保護者がすぐに歯科医院に連れて行けるかを「すぐに行く」「すぐには行けない」の二択で回答を得た。また,すぐには行けないと回答した理由についても回答を求めた。受診態度が実際の受診行動を反映しているか検証するために,学校歯科健康診断の結果から得た未処置歯の有無とクロス集計し,指標の妥当性を確認した。受診態度および未処置歯の項目が欠損値でない1,613人を対象に,消極的受診態度と子どもの性別,学年,世帯収入,父母の最終学歴,家族構成,きょうだい人数,祖父母との同居,父母の就業形態,父母の帰宅時間,朝食の頻度,間食摂取の自由度,ジュースの摂取頻度,歯みがき回数,子どもとの関わりの関連をロジスティック回帰分析で検証した。結果 269人(16.7%)の保護者が消極的受診態度を示した。その理由として「歯科医院へ連れていく時間がないから」(172人,55.8%)がもっとも多かった。未処置歯のある子どもの保護者は消極的受診態度を示す者が有意に多かった(P<0.001)。母親の最終学歴が中学校または高校であること,子どもが朝食を食べないこと,歯磨き回数が少ないことが保護者の消極的受診態度に有意に関連した。小学生においては,母親が就業していること,母親の帰宅時間が遅いこと,保護者が子どもの勉強をみていないことも保護者の消極的受診態度に有意に関連した。結論 医療費助成のある地域であっても,子どもの歯科受診は母親の社会的背景および家庭要因の影響を受けることが明らかになった。消極的受診態度の改善には,医療費助成だけでなく,家庭の社会的背景にも配慮した支援を積極的に行っていくことが求められる。
著者
菊島 良介 高橋 克也
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.261-271, 2020-04-15 (Released:2020-05-08)
参考文献数
27

目的 本研究は食料品アクセス困難者(以下,アクセス困難者)の栄養および食品摂取にみられる特徴を把握することを目的とした。方法 食料品アクセス問題に関する調査項目が唯一調査票に含まれている平成23年国民健康・栄養調査と平成23年国民生活基礎調査の両個票データのデータリンケージを行い,分析に用いた。 65歳以上の高齢女性1,051人を対象に,アクセス困難者の栄養および食品摂取状況について計量経済学的手法を用いて把握した。分析の目的変数としてエネルギー産生栄養素の蛋白質,脂質,炭水化物の摂取熱量(kcal),17品目の食品群別摂取量(g/1,000 kcal)を用いた。目的変数の同時決定による内生性に対処した同時方程式モデルの一種であるSeemingly Unrelated Regressionsモデルを推計した。この推計により各栄養素摂取熱量や食品群別摂取量の多寡を規定する要因(変数)の影響の程度が係数として示され,各栄養素間や各食品群間の代替・補完関係が誤差項間の相関行列として表現された。結果 アクセス困難者の特徴として65歳以上女性において,食料品アクセスとエネルギー産生栄養素摂取量との関連をみた結果,炭水化物の摂取熱量(kcal)が有意に高く,脂質の摂取熱量(kcal)が有意に低いことが明らかになった。このことは食品群別摂取量(g/1,000 kcal)をみても穀類が高く,油脂類が低いことからも確認された。これらのことから,アクセス困難者は代替・補完関係を考慮しても炭水化物摂取に偏った食生活を送っている可能性が高いと推察された。結論 本研究により栄養摂取状況に関してアクセス困難者が炭水化物摂取に偏る局面もみられた。単純に価格や嗜好の問題ではなく食環境の要因として,すなわち食料品へのアクセスの制約によりアクセス困難者は炭水化物摂取へ偏った食生活を送っている可能性が高いと推察される。個人が直面する経済的状況の影響を考慮しても食環境は食生活を規定しており,フードチェーンを構成する各主体間や行政との連携・協力による買い物サービスの利用促進に向けた環境整備の必要性が示唆された。
著者
山本 覚子 藤本 眞一 神尾 友佳 小窪 和博 稲葉 静代 藤原 奈緒子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.371-376, 2004 (Released:2014-08-29)
参考文献数
27

目的 全国の保健所およびその統合組織の実態を把握し,保健所の重要な任務である健康危機管理の体制を今後とも推進するためのより良い組織および権限付与のあり方を提言していくことを目的とした。方法 全国の保健所設置主体,合計123都道府県市区(以下,「県市区」という。)に郵送による自記式調査を実施し,平成14年10月現在の,各地方自治体の保健所と福祉事務所等の統合組織(以下,「統合組織」という。)の実態,および名称等について情報を得た。それらの調査資料をもとに,各県市区の健康危機管理対応のあり方を考察した。結果 112県市区(全都道府県,48市,17区)から回答(回収率91.0%)があった。統合組織は,市区では 7 市 1 区,都道府県では31府県存在していた。統合組織の長は,統合組織全体では医師34.7%,事務吏員63.5%,医師以外の技術吏員1.6%であった。統合組織の長と保健所長との間の情報提供のルールをあらかじめ作っているところはなかった。外部からの電話による問い合わせや,文書送付時の名称は,統合組織名を使用しているところが多かった。統合組織名は様々であったが,富山県や横浜市では,法律上の保健所の名称として「保健所」の名称は使用せず,それぞれ統合組織名である「厚生センター」,「福祉保健センター」を使用していた。考察・結論 保健所と福祉事務所の組織統合については,市区ではあまり進んでいなかったが,都道府県では31府県で,組織統合があり,約 7 割を占めており,単独の組織として保健所を考えることはもはや無意味である。統合形態としては,今後「ミニ県庁型」の組織統合が流行するものと予想される。また,統合組織の長からみた保健所長の位置付けから,健康危機発生時に,敏速な対応ができるのか疑問が残る。さらに,「○○保健所」と名乗らない「保健所」もあり,重大な問題があると考える。
著者
乾 愛 横山 美江
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.638-648, 2019-10-15 (Released:2019-11-09)
参考文献数
40

目的 妊娠間隔12か月未満で出産した母親の育児負担感の実態とその関連要因を明らかにすることを目的とした。方法 A市3か所の保健福祉センターにおける3か月児健康診査に来所した母親を対象に,妊娠間隔やEPDS,育児感情尺度等を問う無記名自記式質問紙調査を実施した。回答が得られた757人のうち,欠損項目を有する72人を除く685人(有効回答率90.4%)を分析対象とした。妊娠間隔は,妊娠間隔12か月未満群,妊娠間隔12か月以上24か月未満群,妊娠間隔24か月以上群,およびきょうだい児なし群に分類し,育児負担感との関連を分析した。統計学的分析方法は,χ2検定,一元配置分散分析またはKruskal-Walisの検定,および重回帰分析を実施した。結果 妊娠間隔12か月未満群が35人(5.1%),妊娠間隔12か月以上24か月未満群が114人(16.6%),妊娠間隔24か月以上群が194人(28.3%),きょうだい児なし群が342人(49.9%)であった。育児感情尺度の3つの下位項目に関連する要因を重回帰分析した結果,育児への束縛による負担感では,妊娠間隔(P=.032),家族構成(P=.014),睡眠時間(P=.010)および夜間起床回数(P=.001)と有意な関連が認められた。子どもの態度や行為への負担感では,妊娠間隔(P<.001),母親の年齢(P=.003),睡眠時間(P=.009)および夜間起床回数(P=.002)と有意な関連が認められた。育ちへの不安感では,妊娠間隔(P<.001),母親の年齢(P=.016)および在胎週数(P<.001)と有意な関連が認められた。加えて,妊娠間隔12か月未満群は他の妊娠間隔群に比べ,ひとり親世帯(P=.005),未婚(P=.007),最終学歴が中学卒業(P=.0027),24歳以下の若年(P<.001)が有意に多かった。結論 妊娠間隔は,育児感情尺度の育児への束縛による負担感,子どもの態度や行為への負担感および育ちへの不安感と有意に関連していた。さらに,育児への束縛による負担感,ならびに子どもの態度や行為への負担感は,妊娠間隔が短くなるほど母親の負担感が増大する可能性があることが示された。妊娠間隔12か月未満の母親は,ひとり親世帯,未婚者,低学歴,若年の割合が有意に高いことが明らかとなり,支援の必要性が示された。
著者
三原 麻実子 原田 萌香 岡 純 笠岡(坪山) 宜代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.629-637, 2019-10-15 (Released:2019-11-09)
参考文献数
21

目的 避難所生活での食事状況の改善は喫緊の課題である。避難所における栄養改善のための新たな要因を探索する目的で,弁当等の食事提供方法の有用性について解析した。方法 宮城県による「避難所食事状況・栄養関連ニーズ調査」の結果を2次利用解析した。2011年3月に発生した東日本大震災から約2か月後(216避難所)と約3か月後(49避難所)における弁当の提供有無とエネルギー・栄養素提供量,食品群別提供量等の関係について解析した。また,炊き出し回数との関連性についても解析した。結果 発災約2か月後では弁当の提供有無によってエネルギー・栄養素提供量に有意差がみられたが,発災約3か月後では有意差は認められなかった。発災約2か月後では,弁当の提供が無い避難所に比べ弁当を提供した避難所では,エネルギー,たんぱく質,魚介類,油脂類の提供量が有意に高値を示した。一方,弁当を提供した避難所ではビタミンB1,ビタミンC,いも類,野菜類の提供量が低値を示した。発災約2か月後に炊き出しが有る避難所では,いも類,肉類,野菜類の提供量が有意に高値を示した。結論 発災約2か月後において,避難所での弁当の提供は,エネルギー・たんぱく質や,避難所において不足するといわれている魚介類の提供量も増やす可能性がある一方,ビタミンB1やビタミンCの提供量は低くなる可能性が示唆された。これらの結果から,エネルギーやたんぱく質の提供が求められる発災後の早い段階で弁当を提供することは食事状況改善につながると考えられる。しかしながら,弁当の提供のみでは提供できる栄養素に限界があるため,炊き出し等を柔軟に組み合わせて食事提供をすることが望ましい。
著者
田口 敦子 村山 洋史 竹田 香織 伊藤 海 藤内 修二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.712-722, 2019-11-15 (Released:2019-11-26)
参考文献数
25

目的 地域保健に関わる住民組織には食生活改善推進員,健康づくり推進員,母子保健推進員,愛育班等がある。これらの住民組織は,行政によって育成・支援され,住民の身近な存在として,住民への健康情報の提供や意識啓発を行っている。その活動効果が報告されている一方で,成り手の減少等の課題がある。そこで,本研究では,全国調査により地域保健に関わる4つの住民組織の特徴と課題を明らかにすることを目的とした。これにより,住民組織の養成・支援の方策を立てるのに有益な資料となり得ることを目指す。方法 対象は,全国の市町村1,873か所であった。全国の市町村のうち政令指定都市は行政区ごとを対象とし,特別区は除外した。市町村自治体の健康増進担当者を対象に,メールまたは郵送にて調査を実施した。調査期間は2017年2月~3月末であった。食生活改善推進員,健康づくり推進員等,母子保健推進員等,愛育班について,それぞれ住民組織の設置の有無,組織の設立年,会員数,最も多くを占める年代,メンバーの主な選出方法,等について尋ねた。組織の現在の課題は12項目を6件法(1=全くそう思わない~6=非常にそう思う)で尋ねた。活発に活動しているメンバーの割合を0~10割の範囲で尋ねた。結果 全国の市町村808件の回答を得た(有効回答数805件,有効回答率43.0%)。設置の有無は,食生活改善推進員が最も多く全対象市町村の84.7%であり,続いて健康づくり推進員等(64.3%),母子保健推進員等(26.4%),愛育班(10.1%)であった。組織の課題について「非常にそう思う」,「そう思う」,「まあそう思う」の回答を合計した割合は,「新しいメンバーがなかなかみつからない」,「活動の対象者が固定化している」等で4組織共に50%以上であった。また,4つの組織に共通して「活動を楽しめていないメンバーが多い」,「仕事や介護等の理由により活動への関わり方に制約があるメンバーが多い」,「活動の目的がメンバー全体で共有されていない」の課題は,組織の中で活発に活動しているメンバーの割合と,中程度または弱い負の相関がみられた。結論 4つの住民組織の特徴には違いもみられたが,組織の課題は全国的に共通するものが多いことが明らかになった。
著者
原田 萌香 瀧沢 あす香 岡 純 笠岡(坪山) 宜代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.9, pp.547-555, 2017 (Released:2017-10-07)
参考文献数
21

目的 避難所の食事を改善する新たな要因を探索する目的で,東日本大震災の避難所における食事提供体制(炊き出し回数,炊き出し献立作成者等)が食事内容を改善するか否かを検討した。方法 宮城県内の避難所386か所を対象とした,「避難所食事状況・栄養関連ニーズ調査(調査主体:宮城県保健福祉部)」の結果を二次利用し,被災から約1か月後の2011年4月時点での食事内容や炊き出し回数,献立作成者等について解析を行った。結果 1日の食事提供回数が0回または1回だった避難所はなかった。食事提供回数が2回の避難所に比べ3回の避難所では主食の提供は有意に多かった(P<0.05)が,主菜・副菜・乳製品・果物について著しい改善はみられなかった。食事回数以外の改善要因について検討したところ,炊き出し回数が多い避難所では,主食・主菜・副菜・果物の提供回数が多かった(P<0.05)。また,栄養士らが献立を作成した避難所では,乳製品および果物の提供回数が多かった(P<0.05)。結論 炊き出し実施は,災害時に不足するといわれている主菜・副菜・果物の提供を多くし,さらに献立作成者が栄養士らの場合,乳製品および果物の提供が多かった。これらの結果から,主食が中心となる災害時の食事は炊き出し実施や栄養士らが食事に関わることで改善される可能性が示唆された。
著者
小林 良清
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.615-620, 2018-10-15 (Released:2018-10-31)
参考文献数
11

目的 2015年の都道府県別生命表において長野県男性の平均寿命が滋賀県男性の平均寿命に準じて全国2位に後退したが,20歳以上の平均余命がいずれも全国1位であることから,20歳未満の年齢層における死亡率が2位後退に大きく影響していると考え,既存の統計資料等を活用してその状況を明らかにする。方法 政府統計から都道府県別生命表を入手し,長野県,滋賀県,全国における男性のそれぞれの年齢別死亡率を確認した。そして,平均寿命の計算式を作成し,仮の年齢別死亡率における長野県男性の平均寿命を試算した。さらに,長野県の衛生統計から男性の年齢階級別死因別死亡数を入手し,死因の状況を確認した。結果 2015年長野県男性の年齢別死亡率は,9歳から13歳において2010年長野県男性の年齢別死亡率より2倍以上高く,9歳から14歳において2015年滋賀県男性の年齢別死亡率より2倍以上高くなっていた。そして,平均寿命の計算式を用い,9歳から13歳における2015年長野県男性の年齢別死亡率が2010年長野県男性の年齢別死亡率と同じだったと仮定して平均寿命を試算すると81.77885歳となり,2015年滋賀県男性で試算される平均寿命81.77882歳を上回った。また,9歳から14歳における2015年長野県男性の年齢別死亡率が2010年長野県男性の年齢別死亡率と同じだったと仮定すると,平均寿命が81.78154歳となった。10歳から14歳において2015年長野県男性の死亡数は,2010年長野県男性の死亡数に比べて2.4倍に増えており,死因別死亡数がわかっている2014年から2015年を2010年と比較すると,「傷病および死亡の外因」に含まれるもの,含まれないものがともに増えていた。結論 平均寿命は,すべての年齢の死亡状況が反映された一つの数字であり,その値から課題を抽出するためには年齢に着目した分析が不可欠である。今回の分析により,2015年長野県男性の平均寿命が2015年滋賀県男性の平均寿命に準じて全国2位に後退したのは,10代前半の死亡数・率の増加が大きく影響していたものと推測された。
著者
間瀬 知紀 宮脇 千惠美 甲田 勝康 藤田 裕規 沖田 善光 小原 久未子 見正 富美子 中村 晴信
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.371-380, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
30
被引用文献数
2

目的 本研究は,女子学生を対象として,若年女性における正常体重肥満者,いわゆる「隠れ肥満」の体組成に影響を及ぼすと考えられる食行動,運動習慣および身体活動量について検討した。方法 対象は京都府内の大学 6 校に在籍する18~21歳の女子学生530人である。体脂肪率,歩数の測定および無記名自記式の質問紙調査を2010年 1 月~2010年 7 月にかけて実施した。質問紙調査項目は生活環境,体型認識,体型への希望,ダイエット経験,運動習慣,睡眠時間および食行動に関する 7 項目であった。食行動調査は EAT–26(Eating Attitude Test 26:摂食態度調査票)を実施した。BMI が18.5以上25.0未満の「標準体重(n=439)」判定者の中で,体脂肪率が75%タイル以上の者を「High group(n=115)」,体脂肪率が25%タイル以下の者を「Low group(n=111)」,この 2 群以外の者を「Middle group(n=213)」と分類し,3 群について比較検討した。結果 質問紙調査より,グループ間に体型認識,体型への希望,やせたい理由,ダイエット経験の有無,ダイエットの失敗の有無および睡眠時間についての回答の比率に有意な差がみられた。しかしながら,身体活動量はグループ間に差がみられなかった。さらに,EAT–26を用いて食行動を検討すると第 3 因子「Oral control」においては High group は Low group と比較し,有意に高値が認められた。結論 標準体重者で体脂肪率が高い者は,やせ願望やダイエット行動が関連していた。やせ願望の強い学生に対し,適正な体組成の維持と適切な食生活を確立させるための健康教育の必要性が示された。
著者
安梅 勅江 篠原 亮次 杉澤 悠圭 伊藤 澄雄
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 = JAPANESE JOURNAL OF PUBLIC HEALTH (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.681-687, 2006-09-15
被引用文献数
6

<b>目的</b> 本研究は,大都市近郊の農村に居住する65歳以上の者全数801人に対する1998年から2005年までの追跡調査により,社会とのかかわり状況と死亡率との関連を社会関連性指標を用いて明らかにしたものである。社会関連性指標は,地域社会の中での人間関係の有無,環境とのかかわりの頻度などにより測定される,人間と環境とのかかわりの量的側面を測定する指標である。<br/><b>方法</b> 1998年に配票留置の質問紙に回答した者の死亡に関するデータを2005年まで集計した。有効回答は,回答者のうち事故死および死亡理由不明者,転出者,基準年の介護状態不明者を除いた669人とした。7 年間の死亡者は139人(12.7%)であった。調査内容は,年齢,性別,罹患,介護,ADL,社会関連性指標であった。<br/><b>結果</b> 1) 社会関連性指標の項目のうち,「家族以外との会話」,「訪問の機会」,「活動参加」,「テレビの視聴」,「新聞の購読」,「本・雑誌の購読」,「役割の遂行」,「近所づきあい」,「趣味」,「ビデオ等の利用」,「健康への配慮」,「生活の工夫」,「積極性」,「社会貢献への意識」が乏しい場合,7 年後の死亡率が有意に高くなっていた。<br/> 2) 多重ロジスティック回帰分析を用い,基準年の年齢,性別,罹患,介護,移動機能,感覚機能,身辺処理機能を調整変数として社会関連性指標の各項目の死亡に対するオッズ比を算出した。「活動参加」,「趣味」,「役割の遂行」,「積極性」,「ビデオ等の利用」の項目が有意となり,調整変数に関わらず,社会関連性が乏しいと死亡率が高いという関連が示された。<br/><b>結論</b> 社会関連性は生命予後との関連がみられた。具体的な行動と活動状況を評価基準とする社会関連性指標を用いることにより,地域で生活する高齢者の日常生活における社会とのかかわり状況を把握し,介護予防マネジメント等に活用可能なことが示唆された。
著者
渡辺 晃紀 早川 貴裕 佐藤 栄治 三宅 貴之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.96-106, 2019-02-15 (Released:2019-02-26)
参考文献数
21

目的 第7次医療計画の策定に向け,栃木県(人口196.8万人)内の入院患者の受療動向を把握する。方法 栃木県内の病床を有する全221医療機関(病院107,診療所114)を対象とし,対象日(2016年9月1日)の全入院患者および対象月(2016年9月)の全退院患者について,調査票またはDPCデータにより,住所(郵便番号),性,年齢,入退院日,診療科,入院前の場所,救急搬送,傷病名(調査票は疾病分類コード,DPCはICD基本分類),手術(診療報酬のKコード),転帰,退院後の行き先を尋ねた。活動内容 回収率は施設単位で68%,病床単位で一般87%,療養74%,精神89%で,入院票13,052件,退院票17,468件の回答を得た。 一般・療養病床では,入院10,407件のうち,年齢別では65歳以上72%(75歳以上51%),診療科別では内科系49%,外科系19%,整形外科系15%,疾病分類別では循環器系21%,新生物17%,呼吸器系10%であり,2次医療圏ごとで,人口10万対入院受療率は385-647,居住する圏内に入院(圏内入院)した割合は58-90%,救急搬送ありは12-18%,救急搬送ありのうち圏内入院の割合は69-95%だった。 退院17,161件のうち,年齢別では65歳以上57%(75歳以上34%,以下同じ),Kコードが記載されていた割合は43%で,多いものは水晶体再建術833件,内視鏡的大腸ポリープ・粘膜切除術398件等であり,転帰では退院後の在宅医療ありは65歳以上で4.3%(5.2%),介護・福祉施設へは65歳以上で5.2%(7.8%),死亡退院は4.9%(9.5%)だった。 精神病床では,入院2,640件のうち65歳以上48%,疾病分類別では統合失調症67%,躁うつ病を含む気分障害9%,退院302件の平均在院日数は359日だった。 調査後,住所,疾病,診療科,手術ごとの医療機関別入退院数等,必要な項目で集計し,結果を表で出力できるマクロを含むMicrosoft Excelファイルを作成し,活用できる環境とした。結論 医療計画策定にあたり,疾病,診療科,手術ごとの患者数や流出入,退院後の行き先や在宅医療導入の割合などの把握は有用であり,DPCデータの活用や調査による継続的な観察が必要と考えられた。
著者
小笹 晃太郎 鷲尾 昌一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.18-24, 2009 (Released:2014-06-13)
参考文献数
19

インフルエンザ予防接種は,インフルエンザに罹患することによって重篤な合併症を生じやすい高リスク者を守るという考え方に基づいて勧奨されているが,高齢者でのインフルエンザ予防接種の有効性は,無作為化対照試験が少なく観察研究に負うところが多く,観察研究にはその実施上種々の課題がある。まず,評価のアウトカムは,できるだけ診断の特異度が高く,誤分類の小さいものが望ましい。しかし,医療機関で診断されたインフルエンザをアウトカムとすると,特異度は高いが医療機関への受診行動や医療機関での診断過程で,ワクチン接種群と非接種群でのインフルエンザ診断の精度に差異の生じることが考えられる。したがって,このような差異的誤分類を避けるために,特異度が比較的高くなくて非差異的誤分類が生じるアウトカムであっても,接種群と非接種群から同じ精度で把握するほうが,正確な評価の観点から望ましい場合もあると思われる。 高齢者を対象としたインフルエンザ予防接種の有効性を評価する従来の観察研究の結果から,ワクチン接種者は非接種者に比べてインフルエンザ罹患や死亡等のアウトカムを生じにくい低リスク者が多く,そのためにワクチンの有効性が過大評価されているのではないかという疑問が指摘されている。このような偏りや交絡を評価して調整するために,インフルエンザ流行期と非流行期,ワクチン合致度の高いシーズンと低いシーズン,大規模流行シーズンと小規模流行シーズン,および特異度の高いアウトカムと低いアウトカムを使用することで有効性の比較を行うことが求められる。いずれも後の群で有効性が低くなることが期待され,そうでない場合には偏りや交絡が残されている可能性が高いので,それらの偏りや交絡を除去して得られる高リスク因子を見いだす必要がある。その結果として見いだされたインフルエンザによる死亡が生じやすい高リスク者,たとえば,基礎疾患と機能性障害を併せ持つような人たちでの有効性の評価と,その人たちに対する接種を進めていくことが望まれる。
著者
伊藤 ゆり 中村 正和
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.613-618, 2013-09-15
参考文献数
12

<b>目的</b> 1998年にたばこ特別税が創設されて以来,2003年,2006年,2010年と過去 3 回のたばこ税•価格の引き上げが実施された。我が国におけるたばこ販売数量および販売代金に関する統計データの年次推移を用いて,過去のたばこ税•価格引き上げの影響を評価する。<br/><b>方法</b> (社)日本たばこ協会による紙巻たばこ統計データより,平成 2 年~平成22年度(1990~2010年)の年度別販売実績(数量および代金)をそれぞれ,Joinpoint Regression Model に適用し,年次推移を分析した。また,過去三回のたばこ税•価格引き上げの影響を平野らの方法を用いて,たばこ価格引き上げ前の販売数量の減少(税•価格引き上げ以外の要因による減少)を考慮した上で,価格引き上げによる販売数量減少効果を推定した。<br/><b>結果</b> Joinpoint Regression Model により,1998年度以降たばこ販売数量は減少に転じ,2005年度以降は年率平均 5%で減少傾向にあることがわかった。また,2003年度,2006年度,2010年度のたばこ税•価格引き上げ年度における減少効果はそれぞれ−2.4%,−2.9%,−10.1%(震災影響の補正後)であり,価格弾力性はそれぞれ−0.30,−0.27,−0.28(同補正後)であった。2010年度の大幅値上げ時に販売数量の減少効果がもっとも大きくなった。一方,価格弾力性は2003年度,2006年度とほぼ同レベルで,税•価格を大幅にあげても販売代金および税収への影響は小さいことが示唆された。<br/><b>結論</b> 2010年度におけるたばこ税•価格の大幅引き上げは,たばこ販売数量を大きく減少させたが,価格弾力性は2003年度,2006年度とさほど変わらなかった。今後我が国における喫煙の被害を減少させるためにも,さらに大幅なたばこ価格の引き上げが必要であることが示唆された。
著者
関 奈緒 関島 香代子 田辺 直仁 鈴木 宏
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.252-256, 2004

<b>目的</b> 成人式における喫煙率調査を試行し,未成年者喫煙防止対策の基礎値把握および長期評価指標としての実用性を考察する。<br/><b>対象および方法</b> 学校・地域保健連携による包括的地域たばこ対策を推進している新潟県 A 村(人口約6,500人)とその近隣の B 町(同12,000人)を対象地区とした。平成14年度に 2 地域の公的行事である成人式に出席した新成人(A 村69人,B 町118人)を対象に,現在の喫煙状況,初喫煙年齢,喫煙常習化年齢(A 村のみ),出身小学校等を無記名自記式アンケートにより調査した。<br/><b>結果</b> A 村の男女別新成人喫煙率は,男性68.0%,女性48.6%,かつその約 9 割は毎日喫煙者であり,喫煙者の 7 割以上が未成年期で常習化を来していた。B 町の新成人喫煙率もほぼ同様の結果であった。なお,高校生を対象とした喫煙率調査のみでは未成年者喫煙率が20%程度低く見積もられる可能性が示唆された。<br/><b>結論</b> 成人式を活用した喫煙率調査は,未成年者喫煙防止対策の基礎値把握および長期評価の簡便な指標として実用可能である。
著者
町田 夏雅子 石川 ひろの 岡田 昌史 加藤 美生 奥原 剛 木内 貴弘
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.637-645, 2018-11-15 (Released:2018-12-05)
参考文献数
17

目的 東京五輪開催決定後,国内外で受動喫煙規制強化を求める声が増え厚生労働省が対策強化に取り組んでいる。本研究では受動喫煙規制に関する新聞報道の現状と傾向を内容分析により明らかにし,行政側の報告書との比較から課題を示すことを目的とした。方法 分析対象は全国普及率が上位の3紙(朝日・読売・毎日)の2013年9月7日から2017年3月31日までに発行された東京本社版の朝刊と夕刊で,キーワードとして「受動喫煙・全面禁煙・屋内喫煙・屋内禁煙・建物内禁煙・敷地内禁煙」を見出しか本文に含む記事のうち,投稿記事および受動喫煙規制に関係のない記事を除いた182記事である。規制に対する肯定的記載および否定的記載に分けた全37のコーディング項目を作成した。また行政側が発表した内容を記事が反映しているかを考察するため,平成28年8月に厚生労働省が改訂発表した喫煙の健康影響に関する検討会報告書(たばこ白書)より受動喫煙に関する記載を抜き出し,コーディング項目に組み入れた。結果 コーディングの結果,記事数の内訳はそれぞれ肯定的107,否定的7,両論併記50,その他18であった。両論併記のうち否定意見への反論を含むものが14記事(28%)であり,反論の内容は主に「屋内禁煙による経済的悪影響はない」,「分煙では受動喫煙防止の効果はない」という記載であり,いずれもたばこ白書に明示されている内容であった。結論 受動喫煙規制に関する新聞記事は,規制に肯定的な内容の一面提示が最も多く,最も読み手への説得力が高いとされる否定意見への反論を含む両論併記の記事は少数であったが,社説においては両論併記の記事が一定数認められた。もし新聞が受動喫煙規制に対して賛成なり反対なり何らかの立場を持つのであれば,記者の意見を述べる社説において,反対意見への反論を含む両論併記を行えば,社説の影響力が高まるかもしれない。また,報道が不十分と考えられるトピックも見られ,受動喫煙規制に関する新聞報道の課題が示唆された。
著者
藤原 佳典 西 真理子 渡辺 直紀 李 相侖 井上 かず子 吉田 裕人 佐久間 尚子 呉田 陽一 石井 賢二 内田 勇人 角野 文彦 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 = JAPANESE JOURNAL OF PUBLIC HEALTH (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.702-714, 2006-09-15
参考文献数
29
被引用文献数
16

<b>目的</b>&emsp;高齢者の高次生活機能である社会的役割と知的能動性を継続的に必要とする知的ボランティア活動&mdash;子供への絵本の読み聞かせ&mdash;による介入研究&ldquo;REPRINTS&rdquo;を開始した。その 1 年間にわたる取り組みから得られた知見と課題を整理し,高齢者による社会活動の有効性と活動継続に向けた方策を明らかにする。<br/><b>方法</b>&emsp;&ldquo;REPRINTS&rdquo;プログラムの基本コンセプトは高齢者による「社会貢献」,「生涯学習」,「グループ活動」である。対象地域は都心部(東京都中央区),住宅地(川崎市多摩区),地方小都市(滋賀県長浜市)を選び,2004年 6 月一般公募による60歳以上ボランティア群67人と対照群74人にベースライン健診を行った。3 か月間(週 1 回 2 時間)のボランティア養成セミナーを修了後,6~10人単位のグループに分かれ地域の公立小学校,幼稚園,児童館への定期的な訪問・交流活動(主な内容は絵本の読み聞かせ)を開始し,2005年 3 月に第二回健康診査を行った。<br/><b>結果</b>&emsp;ベースライン健診において,孫のいない者の割合(41.8% vs. 20.3%,<i>P</i>=0.006),就学年数(13.4&plusmn;2.5 vs. 12.3&plusmn;2.5年,<i>P</i>=0.008),過去のボランティア経験あり(79.1% vs. 52.7%, <i>P</i>=0.001),通常歩行速度(86.7&plusmn;12.3 vs. 81.3&plusmn;12.9 m/分,<i>P</i>=0.012)で,ボランティア群は対照群に比べそれぞれ有意に高かったが,他の諸変数では両群に有意差はなかった。第二回健診時点での活動継続者56人は社会的ネットワーク得点で,孫,近隣以外の子供との交流頻度および近隣以外の友人・知人の数が対照群に比べて有意に増加した。社会的サポート得点でボランティア群は対照群に比べて友人・近隣の人からの受領サポート得点は有意に減少したが,提供サポート得点は有意に増加した。ボランティア群は対照群に比べて「地域への愛着と誇り」,健康度自己評価,および握力において有意な改善または低下の抑制がみられた。<br/><b>結論</b>&emsp;9 か月間の世代間交流を通した知的ボランティア活動により健常高齢者の主観的健康感や社会的サポート・ネットワークが増進し,地域共生意識および体力の一部に効果がみられた。自治体との協働により,新たな地域高齢者のヘルスプロモーションプログラムを構築しうることが示唆された。
著者
豊田 泰弘 中山 厚子 藤原 秀一 真 和弘 松尾 吉郎 田中 博之 高鳥毛 敏雄 磯 博康
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.247-253, 2008 (Released:2014-07-01)
参考文献数
25

目的 地域の救急活動記録を元に自殺企図者(自殺未遂者・自殺死亡者)の特徴を分析し,今後の自殺対策に資することを目的とした。方法 2004年 4 月から2006年 3 月までの岸和田市消防本部の救急活動記録より,246例(延べ人数)・196人(実人数)の自殺企図者(自殺未遂者・自殺死亡者)を把握した。これらにつき,性,年齢,調査期間内の自殺企図回数,企図手段,月,曜日,救急覚知時刻(救急隊に連絡のあった時刻)について集計解析した。結果 196人の自殺企図者のうち,自殺死亡者は52人(男性32人,女性20人),自殺未遂者は144人(男性32人,女性112人)であり,2 回以上にわたって自殺企図を繰り返した実人数は29人(男性 3 人,女性26人)であった。 男性の自殺死亡者は40歳代から70歳代の中高年に多く,女性の自殺死亡者は40歳代に多かった。男性の自殺未遂者には30歳代になだらかなピークがあり,女性の自殺未遂者は20歳代から40歳代の比較的若年者に急峻なピークがあった。 自殺死亡者の主たる手段は男性では縊頸,ガス,女性では縊頸,飛び降り・飛び込みであった。自殺未遂者の主たる手段は男女ともに服薬,四肢切創であった。 月については,男性の自殺死亡者は 4 月から 6 月に多く,女性の自殺死亡者は11月に多かった。男性の自殺未遂者は 7 月,8 月,9 月に多く,女性の自殺未遂者は 1 月,8 月,9 月に多かった。 曜日については,男性の自殺死亡者は月曜,水曜が多く,女性の自殺死亡者は日曜が多かった。男性の自殺未遂者は金曜が多く,女性の自殺未遂者は月曜と火曜に著明なピークがあった。 覚知時刻については,自殺死亡者は男女とも夕方から夜半に少なく,未明から日中に多かった。男性の自殺未遂者は午前日中と夕方に多かった。女性の自殺未遂者は午前日中にきわだって少なかった。結論 救急車が出動する自殺企図者の大部分は女性の自殺未遂者であった。女性の自殺未遂者は男性に比べて若年者に多く,自殺企図を頻回に繰り返すという特徴があり,これらを考慮した対策がのぞまれる。