著者
岡本 秀明 岡田 進一 白澤 政和
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.504-515, 2006 (Released:2014-07-08)
参考文献数
33
被引用文献数
28

目的 大都市に居住する高齢者の社会活動に関連する要因を,身体,心理,社会・環境的な状況から総合的に検討することを目的とした。方法 大阪市に居住する65~84歳の高齢者1,500人を,選挙人名簿を用いて無作為に抽出した。調査は,自記式調査票を用いた郵送調査を実施した。有効回答数771人(51.4%)のうち,代理回答および IADL 得点が 0 点の者を除外したため,分析対象者は654人となった。社会活動は,個人活動,社会参加・奉仕活動,学習活動,仕事という 4 側面を捉える社会活動指標を用いて測定した。分析は,社会活動の 4 側面それぞれを従属変数,基本属性,身体,心理,社会・環境的な変数を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。結果 ロジスティック回帰分析を行った結果,個人活動が活発な者の特性は,外出時のからだのつらさがない,親しい友人や仲間の数が多い,活動情報をよく知っている,活動情報を教えてくれる人がいる者であった。社会参加・奉仕活動では,地域社会への態度の得点が高い,平穏でのんびり志向の得点が高い,親しい友人や仲間の数が多い,外出や活動参加への誘いがある,技術・知識・資格がある,中年期に地域とのかかわりがあった者であった。学習活動では,地域社会への態度の得点が高い,外出や活動参加への誘いがある,活動情報をよく知っている者であった。仕事では,変化や新しさを伴う活動的志向の得点が高い,技術・知識・資格がある,中年期に地域とのかかわりがあった者であった。結論 高齢者の社会活動には,身体,心理,社会・環境的な要因が幅広く関連していた。高齢者が社会活動に参加しやすい社会を構築していくためには,地域における仲間づくりや共通の関心を持つ者同士が出会ったり共に活動したりしやすいような支援や,地域の委員等が活動参加を適度に促すことなどが求められる。また,個人の側も高齢期以前から地域の活動に関心を持つなどの努力が必要であろう。
著者
岩佐 一 吉田 祐子 石岡 良子 鈴鴨 よしみ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.617-628, 2019-10-15 (Released:2019-11-09)
参考文献数
46
被引用文献数
2

目的 高齢者において,余暇活動の充実は,主観的幸福感の維持,介護予防の推進にとり重要である。本研究は,地域高齢者における余暇活動の実態を報告したIwasaら(2018)をふまえ,「現代高齢者版余暇活動尺度」を開発し,その計量心理学的特性を検討した。余暇活動に積極的に取り組む者は,認知機能が低下しにくいとされることから,余暇活動の測定尺度を開発するにあたり,認知機能との関連について検討する必要があると考えられる。本研究では,当該尺度の,因子構造の検討,信頼性の検証,基本統計量の算出,性差・年齢差の検討,認知機能との関連の検討を行った。方法 都市部に在住する地域高齢者(70-84歳)594人を無作為抽出して訪問調査を行い,316人から回答を得た。このうち,「現代高齢者版余暇活動尺度」,認知機能検査に欠損のない者306人(男性151人,女性155人)を分析の対象とした。「現代高齢者版余暇活動尺度」(4件法,11項目),外部基準変数として認知機能検査(Mini-Mental State Examination(MMSE),Memory Impairment Screen(MIS),語想起検査),基本属性(年齢,性別,教育歴,有償労働,経済状態自己評価,生活習慣病,手段的自立,居住形態)を測定し分析に用いた。当該尺度の再検査信頼性を検証するため,インターネット調査を2週間間隔で2回行い,192人(70-79歳)のデータを取得した(男性101人,女性91人)。結果 確証的因子分析の結果,「現代高齢者版余暇活動尺度」の一因子性が確認された。当該尺度におけるクロンバックのα係数は0.81,再検査信頼性係数は0.81であった。当該尺度得点の平均値は14.44,標準偏差は7.13,中央値は15,歪度は−0.12,尖度は−0.73であった。分散分析の結果,当該尺度得点における有意な年齢差が認められたが(70-74歳群>80-84歳群),性差は認められなかった。重回帰分析を行った結果,当該尺度得点は,MMSE(β=0.31),MIS(β=0.24),語想起検査(β=0.25)といずれも有意な関連を示した。結論 地域高齢者を対象として,「現代高齢者版余暇活動尺度」の計量心理学的特性(因子構造,信頼性,基本統計量,性差・年齢差,認知機能との関連)が確認された。今後は縦断調査デザインを用い,余暇活動尺度と認知機能低下や認知機能障害の発症の関連について検討していく必要がある。
著者
松岡 昌子 田中 美加
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.595-605, 2022-08-15 (Released:2022-08-04)
参考文献数
51

目的 患者ケアの質の向上や看護師の心身の健康,離職意思の低下などとの関連が示されているワーク・エンゲイジメントは,組織公平性との関連が示唆されている。そこで本研究においては看護師における主観的な組織公平性とワーク・エンゲイジメントとの関連を明らかにすることを目的とする。方法 首都圏内にある中規模病院に勤務する日本人看護師を対象とし,無記名の自記式質問票を使用したアンケート調査を行った。解析では日本語版ユトレヒト・ワークエンゲイジメント尺度得点(UWES-J)を従属変数,組織公平性尺度得点(OJS-J),年齢,性別,役職,雇用形態,勤務形態,自己効力感,ソーシャルサポート,仕事のコントロール,仕事の量的負荷を独立変数として,段階的に重回帰分析を行った。さらにOJS-Jの各下位尺度得点についても同様に段階的に重回帰分析を行った。結果 270人に調査票を配布しそのうち有効回答のあった219人(回収率83.0%)を解析対象とした。UWES-Jを従属変数とし,年齢,性別のみ調整したモデル1,加えて役職,雇用形態,勤務形態,自己効力感得点を調整したモデル2,さらにソーシャルサポート得点,仕事のコントロール得点,仕事の量的負荷得点を調整したモデル3のすべてのモデルにおいてUWES-JとOJS-Jとの間に有意な正の関連が認められた(モデル3:β=0.202, P<0.01, R2=0.363)。さらに,OJS-Jの各下位尺度得点について同様の分析を行ったところ,手続き公平性得点とUWES-Jとの間に有意な正の関連が認められた(モデル3:β=0.165, P<0.05, R2=0.383)。いずれのモデルにおいても,分配公平性得点と情報公平性得点には有意差を認めなかった。結論 病院に勤務する看護師のワーク・エンゲイジメントと組織公平性との関連を調べた結果,ワーク・エンゲイジメントと組織公平性,とくに手続き公平性との正の関連が認められた。これらより,看護師のワーク・エンゲイジメントを向上させるためには組織公平性の保持と向上が重要であることが示唆された。
著者
細谷 紀子 佐藤 紀子 杉本 健太郎 雨宮 有子 泰羅 万純
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.606-616, 2022-08-15 (Released:2022-08-04)
参考文献数
27

目的 本研究は,全国市区町村における災害時の共助を意図した平常時の保健師活動の実態とその実施に関連する要因を明らかにし,災害時の共助,すなわち住民相互の助け合いを推進するための平常時における保健師活動に示唆を得ることを目的とする。方法 2019年1月1日現在,全国市区町村(特別区含む,政令指定都市は本庁を除き各区を対象)のうち,2019年中に災害救助法の適用があった市区町村を除く,1,463市区町村を対象に郵送式による無記名自記式質問紙調査を行った。回答は統括的な役割を担う保健師に依頼した。調査項目は市区町村概要,保健師の活動体制,防災に関する活動基盤,災害時の共助を意図した活動の実施状況である。得られたデータを用いて,災害時の共助を意図した平常時の保健師活動の実施を従属変数とする多重ロジスティック回帰分析を行い,関連する要因を検討した。結果 541件の回答があり(回収率37.0%),主要な項目に欠損値があった6件を除く535件の回答を分析した(有効回答率36.6%)。保健師の活動体制は地区担当制と業務担当制の併用が81.7%,地域防災計画策定への保健師の関与有は31.6%であった。「災害時の共助を意図した平常時の保健師活動」のうち,避難行動要支援者等への「個別支援」実施有は223(41.7%),自主防災組織等の「住民組織への支援協働」実施有は186(34.8%),その他の「共助を意図した活動」実施有は160(29.9%)であった。未実施の理由は,防災対策が「事務分掌外」であること,「住民組織との接点がない」などが上位に挙がった。ロジスティック回帰分析の結果,災害時の共助を意図した平常時の保健師活動の実施には「保健師の活動体制が地区担当制であること」「地域防災計画策定への保健師の関与があること」「災害対策に関する保健師活動マニュアルの作成があること」などが有意に関連していた。結論 災害時の共助を意図した平常時の保健師活動として個別支援は4割,それ以外は3割の実施であり,十分に行われていない実態が示された。担当地区をベースにした地区活動のあり方を見直すこと,地域防災計画策定への保健師の関与と災害対策に関する保健師活動マニュアルの作成に向けた統括保健師の役割発揮および外部支援の必要性が示唆された。
著者
佐藤 幹也 伊藤 智子 谷口 雄大 大森 千尋 金 雪瑩 渡邉 多永子 高橋 秀人 野口 晴子 田宮 菜奈子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.617-624, 2022-08-15 (Released:2022-08-04)
参考文献数
23

目的 介護保険総合データベース(介護DB)の導入により,悉皆的な介護保険研究が可能になった。反面,介護DBでは死亡情報が含まれず他データとの突合も制限されているため,死亡に関する研究は実施困難である。本研究では,統計法に基いて入手した介護保険受給者台帳(受給者台帳)と人口動態統計死亡票(死亡票)を用いて,受給者台帳の受給資格喪失記録を死亡の代理変数として使用することの妥当性を評価した。方法 受給者台帳に記録された受給者情報の月次断面を2007年4月から2017年3月まで累積し,介護度が自立または年齢が65歳未満の者を除外した510,751,798件を研究対象とした。受給者台帳の異動区分コードが終了の場合を受給資格喪失とし,これと死亡票とを確定的マッチング(性別,生年月日,死亡年月日,居住市区町村)で突合できた場合を死亡例として,受給資格喪失の死亡に対する検査特性(感度,特異度,陽性反応的中率,陰性反応的中率)を算出した。結果 受給者台帳510,751,798件中の5,986,991件(1.17%)で受給資格喪失となり,うち5,295,961件の死亡が特定された。受給資格喪失の死亡に対する感度は100%,特異度は99.9%,陽性反応的中率は88.5%,陰性反応的中率は100%だった。陽性反応的中率を層別化すると,2012年以前は85~88%程度,2013年以降は91%前後,男性(91.9%)は女性(85.9%)よりも高く,年齢階級(65-69歳:80.6%,70-74歳:86.7%,75-79歳:86.4%,80-84歳:86.7%,85-89歳:88.0%,90-94歳:90.6%,95歳以上:93.4%)や要介護度(要支援1・2含む要支援:72.2%,要介護1:79.7%,要介護2:85.9%,要介護3:89.3%,要介護4:92.3%,要介護5:94.0%)とともに上昇した。結論 受給資格喪失を死亡の代理変数として用いると偽陽性が1割程度発生するため,受給資格喪失を死亡率そのものの推計に用いるのは適切ではない。しかし曝露因子間の交絡の影響や曝露因子の死亡への効果が過小評価される可能性があることに留意すれば,受給資格喪失を死亡の代理変数としてアウトカムに用いることは許容できると考えられた。
著者
酒井 太一 大森 純子 高橋 和子 三森 寧子 小林 真朝 小野 若菜子 宮崎 紀枝 安齋 ひとみ 齋藤 美華
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.664-674, 2016 (Released:2016-12-08)
参考文献数
19
被引用文献数
3

目的 向老期世代における新たな社会関係の醸成と保健事業での活用を目指し,“地域への愛着”を測定するための尺度を開発することを目的とした。方法 “地域への愛着”の概念を明らかにした先行研究に基づき合計30項目を“地域への愛着”の尺度案とした。対象は東京近郊に位置する A 県 B 市の住民とし住民基本台帳データより,50~69歳の地域住民から居住エリア・年代・男女比に基づき1,000人を多段階無作為抽出し,無記名自記式質問用紙を郵送にて配布・回収した。収集されたデータを用いて尺度の計量心理学的検討を行った。結果 583人から有効回答が得られた(有効回答率58.3%)。項目分析では項目の削除はなかった。次いで因子分析を行い,因子負荷量が0.40未満の 2 項目,複数の因子にまたがって0.40以上であった 3 項目,因子間相関が0.04~0.16と低くかつ項目数が 2 項目と少なかった因子に含まれる 2 項目の計 7 項目を削除し 4 因子構造23項目を採用し尺度項目とした。各因子は“生きるための活力の源”,“人とのつながりを大切にする思い”,“自分らしくいられるところ”,“住民であることの誇り”と命名した。 “地域への愛着”尺度全体の Cronbach の α 係数は α=0.95であり内的整合性が確認された。既存のソーシャル・サポートを測定する尺度と相関をみたところ統計学的に有意な相関があり(P<0.001)基準関連妥当性も確認された。また,共分散構造分析による適合度指標も十分な値を示した。結論 開発した尺度は“地域への愛着”を測定する尺度として信頼性・妥当性を有すると考えられた。
著者
平井 寛 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.505-516, 2022-07-15 (Released:2022-07-13)
参考文献数
28

目的 介護予防の重点分野の1つ「閉じこもり」は,外出頻度が週に1回未満の者とされることが多い。しかし質問文に外出の定義がない場合,外出しても外出と認識せず,頻度を少なく回答し閉じこもりと判定される可能性がある。本研究では,高齢者対象の質問紙調査において,外出の定義の有無による閉じこもり割合,要介護リスクの違いを明らかにする。また,目的別の外出頻度を用いて,週1回以上外出しているにもかかわらず閉じこもりとなる「外出頻度回答の矛盾」に外出の定義の有無が関連しているかどうかを検討した。方法 愛知県の4介護保険者A~D在住の自立高齢者に対し2006~2007年に行った自記式調査の回答者10,802人を対象とした。全般的な外出頻度を尋ねる際,保険者Dのみ「屋外に出れば外出とします」という定義を示した。また全4保険者で,買い物等5種類の目的別外出頻度を尋ねた。全般的な外出頻度で週1回未満の者を「全般的閉じこもり」,目的別外出頻度いずれかで週1回以上の者を「目的別非閉じこもり」とした。「全般的閉じこもり」について,約10年間の要介護認定ハザード比(Hazard Ratio, HR)の違いを検討した。「目的別非閉じこもり」かつ「全般的閉じこもり」の者を「外出頻度回答に矛盾がある者」とし,発生割合,発生に関連する要因のPrevalence Ratio(PR)を算出した。結果 全般的閉じこもりの粗割合は保険者ABCでは11.7%であったのに対し,定義を示した保険者Dでは2.8%であった。保険者ABCに対し,保険者Dの全般的閉じこもりは要介護認定を受けるHRが有意に高かった(HR=1.56)。目的別非閉じこもりであるにもかかわらず全般的閉じこもりという矛盾回答は保険者ABCで10.2%,保険者Dで2.2%みられた。矛盾回答の発生に正の関連を示したのは女性,高い年齢,配偶者・子世代との同居,教育年数が短いこと,主観的健康感がよくないこと,うつ,島嶼部の居住者であることであった。外出の定義を示した保険者Dでは有意に矛盾が発生しにくかった(PR=0.29)。結論 外出の定義の有無により閉じこもり割合,要介護リスクに違いがみられた。外出の定義がないことは外出頻度回答の矛盾発生に有意に関連していた。閉じこもりを把握するために外出頻度を尋ねる際には外出の定義を示すことが望ましい。
著者
小林 江里香 植田 拓也 高橋 淳太 清野 諭 野藤 悠 根本 裕太 倉岡 正高 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.544-553, 2022-07-15 (Released:2022-07-13)
参考文献数
10

目的 介護保険施策では,近年,介護予防に資する住民活動として,体操など機能訓練中心の「通いの場」だけではなく,多様な「通いの場」の推進が期待されている。本研究では高齢者が参加する自主グループを通いの場として,その類型別の特徴を「参加者の多様性」と「住民の主体性」の点から比較検討した。方法 東京都内の38自治体の介護予防事業関連担当課より,1)3人以上の住民が月に1回以上集まって活動,2)高齢者の参加が多い,または高齢者を含む多世代の住民が参加,3)活動の運営に住民が参加の3条件を満たす175の自主グループの推薦を受け,うち165グループの代表者等よりアンケートの回答を得た。グループの類型化は,活動目的と活動内容により潜在クラス分析を用いて行った。参加者の多様性は,年齢,性別,健康状態等,住民の主体性は,グループの運営や活動実施の支援を行う住民の人数と,活動において住民が果たしている役割から評価した。結果 グループは,体操・運動を中心とした「体操・運動型」,活動目的や実施する活動内容が多い「多目的型」,参加者との交流を目的とし,体操・運動は行わない「交流重視型」,参加者との交流を目的としない「非交流型」の4類型に分かれた。多目的型は,体操・運動型や交流重視型に比べ,幅広い年齢層の参加があり,「移動に介助が必要」「認知症」「虚弱・病弱」など健康に問題を抱える人も参加する傾向があった。また,運営・支援者数も多く,住民が担う役割も多様であった。結論 参加者の多様性,住民の主体性とも多目的型が最も高かった。しかしながら,通いの場の類型は固定的なものではなく,住民のニーズや状況に応じて新たな活動を追加するなどの柔軟な変化を支援する体制も必要と考えられる。
著者
齋藤 義正 高橋 宏和 若尾 文彦
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.527-535, 2022-07-15 (Released:2022-07-13)
参考文献数
7

目的 国立がん研究センター(当センター)は地域のがん医療の質を向上させる取り組みを支援するための手段の一つとしてがん化学療法医療チーム研修会を開催してきた。がん対策基本法が施行されてから15年が過ぎ,これまでの活動を振り返り,今後のがん医療体制の整備の充実を図るための一助とすることとした。方法 2006年度から2020年度までに当センターが主催した研修会のうち,がん薬物療法に携わる多職種が受講対象となる研修会(緩和ケアの研修会は除く)を調査した。研修会ごとに開催年度,受講対象,研修目的,受講施設数を調査し,第1期から第3期までのがん対策推進基本計画の取組むべき施策の中でこれまで開催した研修会の位置づけを考察した。活動内容 すべての研修会の共通目標は,がん薬物療法の医療水準の向上に貢献し,がん医療の均てん化につなげることだが,研修会ごとに行動目標が異なっている。第1期がん対策推進基本計画は,2007年度から5年間を対象とし,化学療法を専門的に行う医師の養成とともに専門的にがん治療を行う薬剤師や看護師等の医療従事者が協力して治療に当たる体制を構築していく必要性が示されている。この目標を達成するために,がん化学療法チーム養成にかかる研修(2006~2008年度)およびがん化学療法医療チーム養成にかかる指導者研修(2009~2018年度)が開催され,それぞれ103施設および143施設が受講し,各都道府県内のがん化学療法医療チームが少なくとも1回はどちらかの研修会を受講したことになる。この間,がん対策推進基本計画は2012年6月および2018年3月に改定され,がん診療連携拠点病院は,わが国のがん医療の中心的な担い手として位置づけられている。その過程で,受講対象を都道府県がん診療連携拠点病院のがん化学療法チームとし,2014年度からは地域におけるがん化学療法研修実施にかかる指導者養成研修を開催している。さらに,2017年度からは都道府県指導者養成研修を開催し,受講者を対象としたアンケート調査では,研修受講後にすべての職種で地域のがん医療の質を向上させるための取り組みを行う自信の向上がみられた。結論 当センターが主催したがん薬物療法に携わる多職種を対象とした研修会は,がん対策推進基本計画の改定とともに目的に合致した研修会を開催し,人材育成の一翼を担ってきたことが推察された。
著者
植田 拓也 倉岡 正高 清野 諭 小林 江里香 服部 真治 澤岡 詩野 野藤 悠 本川 佳子 野中 久美子 村山 洋史 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.497-504, 2022-07-15 (Released:2022-07-13)
参考文献数
13

抄録 一般介護予防施策としての「地域づくりによる介護予防」において「通いの場」への支援は自治体にとって主要事業の一つである。「通いの場」の多様性が求められる一方で,行政が把握し,支援・連携すべき「通いの場」の概念や類型は明確ではない。そこで,東京都健康長寿医療センター研究所(東京都介護予防・フレイル予防推進支援センター)と東京都は「通いの場」の概念整理検討委員会を設置し,東京都内62自治体が,一般介護予防施策のPDCAサイクルに沿って「通いの場」を把握し展開する際の目安として概念および主目的による類型を提示した。 「通いの場」の類型は,3つのタイプ(タイプⅠ:趣味活動,他者と一緒に取り組む就労的活動,ボランティア活動の場等の「共通の生きがい・楽しみを主目的」,タイプⅡ:住民組織が運営するサロン,老人クラブ等の「交流(孤立予防)を主目的」,タイプⅢ:住民組織が運営する体操グループ活動等の「心身機能の維持・向上等を主目的」)に分類した。この類型に基づき,地域資源としての「通いの場」を把握することにより,市区町村・生活圏域単位での地域のニーズと照らし合わせた戦略的かつ系統的な「通いの場」づくりの一助となると考えられる。
著者
西谷 梨花 田渕 紗也香 月野木 ルミ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.536-543, 2022-07-15 (Released:2022-07-13)
参考文献数
39

目的 精神障害者の地域移行に伴い生活基盤の構築のために在宅精神障害者の就労支援が推進される中で,精神障害者の就労が継続するための行政保健師が行う支援内容を明らかにすることを目的とした。方法 本研究では,質的記述的研究を用いた。研究対象者は,関東圏または関西圏の都道府県型保健所もしくは中核市,政令指定都市での勤務経験が10年以上あり,2013年以降の精神保健福祉担当経験が3年以上ある保健師5人とした。インタビューガイドに基づく半構造化面接を行い,①就労移行期・就労継続期にある精神障害者と家族が抱える主な困難や問題とその支援内容,②精神障害者と家族が就労意欲を維持するための支援内容について質問した。行政保健師による「就労支援」は,行政保健師が「精神障害者とその家族に対して,就労移行と就労継続できるよう行う支援」と定義した。データ分析は,逐語録からコード化,コードの類似性・相違性を比較しながら,抽象度を上げて,サブカテゴリー,カテゴリーを抽出した。結果 精神障害者の就労が継続するために行政保健師が行う支援内容について,6カテゴリー【人生における就労の意味・目標を明確にし,本人の主体性を引き出す】【病状を見極めて就労支援を進める】【本人の強みを生かし,本人の希望に合った就労支援の計画を立てる】【就労継続の支援体制を整え,就労の振り返りと次のステップを一緒に考える】【家族が就労の支え方に気づけるように促す】【精神障害者や支援者とともに精神障害者の就労を支える地域づくりを行う】と14サブカテゴリーが抽出された。カテゴリーは,行政保健師の属性,地域,経験の違いによらず共通していた。結論 本研究結果から,行政保健師による精神障害者の就労から定着までの支援内容が明らかとなった。行政保健師による精神障害者の就労継続支援は,本人だけでなく家族支援や地域づくりまで展開した支援を行う必要性が示唆された。
著者
永井 亜貴子 李 怡然 藤澤 空見子 武藤 香織
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.21-111, (Released:2022-05-12)
参考文献数
24

目的 厚生労働省は,都道府県と保健所設置市への事務連絡で,新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)を含む感染症法上の一類感染症以外の感染症に関わる情報公表について,「一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針」(以下,基本方針)を踏まえ,適切な情報公表に努めるよう求めているが,自治体が公表した情報を発端として生じた感染者へのスティグマへの懸念が指摘されている。本研究では,都道府県・保健所設置市・特別区におけるCOVID-19の感染者に関する情報公表の実態を明らかにする。方法 47都道府県,保健所設置市(87市),特別区(23区)の公式ウェブサイトで公表されているCOVID-19の感染者に関する情報を収集した。2020年2月27日以前,基本方針に関する事務連絡後(3月1~31日),緊急事態宣言期間中(4月8~30日),8月の各時期で最も早い日にちに公表された情報を分析対象とし,基本方針で公表・非公表とされている情報の有無や,公表内容に感染者の特定につながる可能性がある情報が含まれていないかを確認した。結果 個別の感染者に関して情報公表を行っていたのは,都道府県では全自治体,保健所設置市等では84自治体であった。自治体が公表していた感染者に関する情報は,自治体間で項目や内容にばらつきが見られ,公表時期によっても異なっていた。基本方針で非公表と示されている感染者の国籍,居住市区町村,職業を公表している自治体があり,居住市区町村と職業は,感染拡大初期の1~3月に比べて,4月以降で公表する自治体が増加していた。一部では,感染者の勤務先名称や,感染者の家族の続柄・年代・居住市区町村などの情報が公表されていた。結論 自治体が行ったCOVID-19感染者に関する情報公表を調査した結果,自治体間や公表時期によって情報公表に用いられる様式や公表内容に違いがみられ,一部に感染者の個人特定につながりうる情報が含まれている事例があることが明らかとなった。COVID-19の疾患の特徴や感染経路などが明らかになってきた現状において,感染者の個人情報やプライバシーを保護しつつ,感染症のまん延防止に資する情報公表のあり方について,再検討が必要と考えられる。さらに,再検討を経て決定した情報公表の方法や内容について市民や報道機関に丁寧に説明し,理解を得る必要があると考えられる。
著者
久保 彰子 久野 一恵 丸山 広達 月野木 ルミ 野田 博之 江川 賢一 澁谷 いづみ 勢井 雅子 千原 三枝子 仁科 一江 八谷 寛
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-020, (Released:2022-06-30)
参考文献数
15

目的 新型コロナウイルス感染症の蔓延により2020年度および2021年度の国民健康・栄養調査が中止され,都道府県の調査も中止または延期が予想されたため,日本公衆衛生学会公衆衛生モニタリング・レポート委員会生活習慣病・公衆栄養グループでは都道府県民健康・栄養調査の実施状況を調査し,公衆衛生施策立案のために必要なデータ収集の現状と課題を検討した。方法 47都道府県の調査担当者を対象に,郵送もしくは電子媒体による自記式質問紙調査を実施した。結果 47都道府県(回収率100%)から回答が得られた。健康・栄養調査を実施しているのは44自治体(93.6%)であった。新型コロナウイルス感染症の影響から2020年度調査予定の18自治体のうち「予定通りの内容で実施した」は2(11.1%)「中止した」は16(88.9%)であった。2021年度調査予定の31自治体のうち「予定通りの内容で実施した」は4(12.9%)「内容を一部変更して実施した」は5(16.1%)「中止した」は22(71.0%)であった。今後の調査方法について,身体状況調査実施の32自治体のうち「変更する予定はない」は6(18.8%)「未定」は18(56.3%)であった。栄養摂取状況調査実施の40自治体のうち「変更する予定はない」は12(30.0%)「未定」は19(47.5%)であった。2か年とも調査を中止した13自治体の各種計画評価は「各種計画期間を延長する」8(61.5%)「その他」7(53.8%)であった。2か年に調査を中止または延期した38自治体のうち,各種計画評価に関する問題点は「調査法の変更に伴う経年評価が不可能になる」「コロナ禍でのライフスタイル変化の影響が想定される」「評価に影響はないが評価期間が短縮となる」「国民健康・栄養調査中止により全国比較が不可能である」等があげられた。結論 都道府県健康増進計画等の評価のため,ほとんどの自治体が都道府県民健康・栄養調査を実施していた。また,全国比較ができるよう国民健康・栄養調査と同じ方式で実施する自治体が多かった。新型コロナウイルス感染症の影響により,国民健康・栄養調査と同様に調査を中止する都道府県が多く,今後の調査も未定と回答する自治体が多かった。
著者
高瀬 寛子 荒木田 美香子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.21-108, (Released:2022-06-30)
参考文献数
31

目的 本研究は,父親の子育て参加促進に向けた基礎資料とするために,1歳から3歳未満の第1子をもつ父親を対象に育児および家事における実施状況とその関連要因を明らかにすることを目的とした。方法 2020年10月にWEB調査を行った。調査項目は基本属性,就業状況,子育てに関する情報,育児と家事の実施頻度,夫婦関係満足尺度(以下,QMI),ワーク・ファミリー・コンフリクト尺度日本語版(以下,WFCS),K6日本語版について尋ねた。育児と家事の実施頻度を各高低で2群化し,さらに育児と家事の各高低群を4群に分類した。育児高低群,家事高低群,育児家事の4群を各々従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。結果 44の都道府県から回答が得られ,406人(欠損値なし)を分析対象とした。育児と家事の実施頻度の高い項目は,抱っこする,一緒に遊ぶ,ゴミだしであり,低い項目は定期健診や予防接種の受診,病院受診,食事をつくる,寝かしつけであった。多重ロジスティック回帰分析の結果,育児の実施頻度の高い群において,両親学級や父親学級の参加あり,育児休業取得あり,妻の就労あり,残業時間10時間未満,最終学歴(中学・高校・専門・高専・短大卒業:非大学卒業),低いWFCS,高いQMIとの関連が認められた。一方,家事の実施頻度の高い群において,両親との同居なし,交替勤務あり,両親学級や父親学級の参加あり,世帯年収600万円以上,最終学歴(非大学卒業),妻の就労あり,妻の健康状態(普通・悪い・とても悪い),高いQMIとの関連が認められ,育児の実施頻度の関連要因とは異なる項目が抽出された。続いて4群に分類したところ,育児家事高群(38.4%),育児高く家事低い群(14.0%),育児低く家事高い群(19.5%),育児家事低群(28.1%)に分類された。この4群において,最も関連のあったものは両親学級や父親学級の参加,残業時間,妻の就労,QMIであった。結論 父親の育児および家事の実施頻度において,両親学級や父親学級への参加,残業時間,妻の就労,QMIとの関連が明らかになった。子育て参加への促進に向け,実施頻度の少ない育児や家事への働きかけや父親を対象とした学級等の支援方法の検討の必要性が示唆された。
著者
田島 敬之 原田 和弘 小熊 祐子 澤田 亨
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.21-150, (Released:2022-06-30)
参考文献数
42

目的 本研究では,アクティブガイドの認知・知識・信念・行動意図の現状と,身体活動・座位行動,個人属性との関連を明らかにする。方法 オンライン調査会社に登録する20~69歳のモニター7,000人を対象に,横断的調査を実施した。アクティブガイドの認知は,純粋想起法と助成想起法により,知識は「1日の推奨活動時間(18~64歳/65歳以上)」と「今から増やすべき身体活動時間(プラス・テン)」を数値回答で調査した。信念と行動意図はアクティブガイドに対応する形で新たに尺度を作成し,信念の合計得点と行動意図を有する者の割合を算出した。身体活動は多目的コホート研究(JPHC study)の身体活動質問票から中高強度身体活動量を,特定健診・保健指導の標準的な質問票から活動レベルを算出した。座位行動は国際標準化身体活動質問表(IPAQ)日本語版を使用した。記述的要約を実施した後,従属変数を認知・知識・信念・行動意図のそれぞれの項目,独立変数を身体活動量,座位行動,個人属性(性別,年代,BMI,配偶者の有無,教育歴,仕事の有無,世帯収入)とし,ロジスティック回帰分析でこれらの関連を検討した。結果 アクティブガイドの認知率は純粋想起法で1.7%,助成想起法で5.3~13.4%であった。知識の正答率は,「1日の推奨活動時間(18~64歳)」で37.2%,「1日の身体活動時間(65歳以上)」で7.0%,「プラス・テン」で24.8%,3項目すべて正答で2.6%だった。信念の中央値(四分位範囲)は21(16~25)点であった(32点満点)。行動意図を有する者は,「1日の推奨活動量」で51.4%,「プラス・テン」で66.9%だった。ロジスティック回帰分析の結果,認知・知識・信念・行動意図は中高強度身体活動量や活動レベルでいずれも正の関連が観察された一方で,座位行動では一貫した関連は観察されなかった。個人属性は,評価項目によって異なるが,主に年代や教育歴,仕事の有無,世帯年収との関連を認めた。結論 本研究より,アクティブガイドの認知や知識を有する者は未だ少ない現状が明らかとなった。さらにアクティブガイドの認知・知識・信念・行動意図を有する者は身体活動量が多いことが明らかとなったが,座位行動は一貫した関連が観察されず,この点はさらなる調査が必要である。さらに,今後は経時的な定点調査も求められる。
著者
新開 省二 藤田 幸司 藤原 佳典 熊谷 修 天野 秀紀 吉田 裕人 竇 貴旺 渡辺 修一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.443-455, 2005 (Released:2014-08-06)
参考文献数
30
被引用文献数
18

背景 地域高齢者における“タイプ別”閉じこもりの実態についてはほとんどわかっていない。目的 地域高齢者における“タイプ別”閉じこもりの出現頻度とその特徴を明らかにする。方法 地域特性の異なる二地域[新潟県与板町および埼玉県鳩山町鳩山ニュータウン(以下鳩山 NT と略す)]に住む65歳以上の地域高齢者全員(それぞれ1,673人,1,213人)を対象に横断調査を実施した。ふだんの外出頻度が「週 1 回程度以下」にあるものを「閉じこもり」と定義し,そのうち総合的移動能力尺度でレベル 3~5 にあるものを“タイプ 1”,同レベル 1 または 2 にあるものを“タイプ 2”,と二つに分類した。地域,性,年齢階級別にタイプ別閉じこもりの出現頻度を比較するとともに,総合的移動能力が同レベルにあり,ふだんの外出頻度が「2, 3 日に 1 回程度以上」に該当する「非閉じこもり」との間で,身体的,心理・精神的,社会的特徴を比較した。成績 調査時点で死亡,入院・入所中,長期不在のものを除くと,与板町では97.2%(1,544/1,588),鳩山 NT では88.3%(1,002/1,135)という高い応答率が得られた。両地域とも地域高齢者のうち「閉じこもり」は約10%にみられ,そのタイプ別内訳は,与板町ではタイプ 1 が4.1%(男4.0%,女4.2%),タイプ 2 が5.4%(男5.2%,女5.6%),鳩山 NT ではそれぞれ3.3%(男1.5%,女4.9%)と6.8%(男5.7%,女7.8%)であった。潜在的交絡要因である性,年齢,総合的移動能力(レベル 1, 2 あるいはレベル 3-5)を調整すると,タイプ 2 の出現率に地域差がみられた[鳩山 NT/与板町のオッズ比=1.44(1.02-2.03)]。一方,タイプ 1 の出現率における地域差や両タイプの出現率における性差は認められなかった。両地域,男女において,年齢階級が上がるにしたがって両タイプの出現率は上昇し,タイプ 2 は80歳以降で,タイプ 1 は85歳以降で10%を越えていた。タイプ 2 はレベル 1 または 2 にある「非閉じこもり」に比べると,潜在的交絡要因を調整しても,歩行障害や失禁の保有率が高く,健康度自己評価や抑うつ度などの心理的側面,さらには高次生活機能や人・社会との交流といった社会的側面での水準が低かった。一方,タイプ 1 は,レベル 3~5 にある「非閉じこもり」に比べると,基本的 ADL 障害や「知的能動性」の低下を示す割合が低いにもかかわらず,家の中での役割がなく,転倒不安による外出制限があり,散歩・体操の習慣をもたないと答えた割合が高かった。結論 タイプ別閉じこもりの出現率には,地域差,年齢差を認めた。タイプ 2 には“要介護状態”のハイリスク者が多く含まれており,タイプ 1 を含めタイプ 2 も介護予防のターゲットとして位置づけるべきである。
著者
Riho IWASAKI-MOTEGI Kyoko YOSHIOKA-MAEDA Chikako HONDA Noriko YAMAMOTO-MITANI
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.417-423, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
27

Objective This study aimed to explore the support extended by prefectural public health nurses (PHNs) toward the human resource development (HRD) of municipal PHNs in Japan.Methods We performed a qualitative descriptive study involving nine prefectural PHNs from April 2019 to May 2020. The data were collected through semi-structured interviews using an interview guide, described qualitatively, coded, and then categorized.Results Five categories were extracted. “Clarifying the needs and problems related to HRD and daily PHN activities in the municipalities,” “Creating an environment where all municipal PHNs have equal opportunities for off-the-job training,” and “Helping municipal PHNs recognize the meaning of practice and develop an evaluation perspective” were extracted from the prefectural government PHNs and prefectural health center (HC) PHNs. “Clarifying problems and future prospects to encourage the growth of PHNs” and “Creating an environment where the significance and value of the activities of PHNs are recognized within the organization and HRD can easily take place” were extracted from the HC PHNs.Conclusion Much of the HRD support provided by the prefectural PHNs to the municipal PHNs was analogous to the PHN activities provided to the community and residents. To promote HRD effectively, prefectural PHNs should apply their individual care skills to the HRD of municipal PHNs.
著者
稲垣 宏樹 杉山 美香 井藤 佳恵 佐久間 尚子 宇良 千秋 宮前 史子 岡村 毅 粟田 主一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.459-472, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
37

目的 要介護状態や認知症への移行リスクは,心身の健康状態に加え,社会・対人関係といった社会的な健康状態もあわせて評価することでより適切に予測できると考えられる。本研究では,要介護未認定の地域在住高齢者を対象に身体・精神・社会的機能を包括的かつ簡便に評価できる項目を選定し,それらが将来的な要介護状態や認知症への移行を予測できるか検討した。方法 2011年時点で東京都A区に在住の要介護未認定高齢者4,439人を対象に自記式郵送調査を実施した。既存尺度を参考に選択された54個の候補項目から通過率や因子分析により評価項目を決定した。2014年時の要介護認定(要支援1以上),認知症高齢者の日常生活自立度(自立度Ⅰ以上)を外的基準としたROC分析により選定項目の合計得点のカットオフ値を推計した。次に,合計得点のカットオフ値,下位領域の得点を説明変数,2014年時の要介護認定,認知症自立度判定を目的変数とする二項ロジスティック回帰分析により予測妥当性を検討した。結果 2011年調査で54個の候補項目に欠損のなかった1,810人を対象とした因子分析により,5領域(精神的健康,歩行機能,生活機能,認知機能,ソーシャルサポート)24項目を選択した。ROC分析の結果,合計得点のカットオフ値は20/21点と推定された(要介護認定AUC 0.75,感度0.77,特異度0.56;認知症自立度判定では0.75,0.79,0.55)。二項ロジスティック分析の結果,2011年時点の合計得点がカットオフ値(20点)以下の場合3年後(2014年)の要介護認定または認知症自立度判定で支障ありの比率が有意に高く(それぞれ,オッズ比2.57,95%CI 1.69~3.92;オッズ比3.12,95%CI 1.83~5.32,ともにP<0.01),下位領域では要介護認定は精神的健康,歩行機能,生活機能と,認知症自立度判定は歩行機能,認知機能と有意な関連を示した。結論 本研究で選択された項目は3年後の要介護・認知症状態への移行の予測に有用であると考えられた。とくに認知症状態への移行の予測能が高かった。下位領域では,身体・精神機能との関連が示唆されたが,社会的機能との関連は示されなかった。
著者
中川 栄利子 樋口 倫代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.447-458, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
33

目的 女性就労者を対象に,代表サンプリングによる全国規模の社会調査のデータを使用し,就労形態別に労働要因および社会経済的要因と受診抑制との関連を分析することを目的とした。方法 日本版総合的社会調査2010年調査(JGSS-2010)のデータセット2,496人分より,20歳以上65歳未満の女性就労者639人分を抽出して行った二次データ分析である。まず,受診抑制の有無,労働要因(職種,就労年数,労働時間,会社の規模)および社会経済要因(年齢,婚姻状況,15歳以下の子どもの数,学歴,等価可処分所得)を就労形態別にクロス集計した。さらに,受診抑制の有無を目的変数,労働要因と社会経済要因を説明変数としたロジスティック回帰分析を就労形態で層化して行なった。結果 全対象者中,受診抑制ありと答えた者は227人(35.5%)であった。受診抑制の有無と就労形態の間に有意な関連は認めなかった。調べた労働要因および社会経済要因は就労形態と強い関連を認めた。正規雇用などの女性に限定すると,就労年数2年未満の者に対する2年以上5年未満,5年以上10年未満および10年以上の者の受診抑制のオッズ比は,それぞれ3.91(95%信頼区間(CI): 1.31-11.7),2.86(95%CI: 0.97-8.44),1.99(95%CI: 0.70-5.66)であった。非正規雇用などの女性の分析では,60代に対する50代,40代,30代,20代の受診抑制の調整オッズ比は,それぞれ2.26(95%CI: 0.99-5.16),4.09(95%CI: 1.70-9.82),5.03(95%CI: 1.90-13.30),5.32(95%CI: 1.87-15.10)と若い年齢群ほど受診抑制のオッズ比が大きくなる傾向を認めた。その他の労働要因,社会経済要因と受診抑制の有無には有意な関連を認めなかった。結論 3割以上の人が過去1年間に医療を受けることを控えた経験を有していた。就労形態と受診抑制の間には有意な関連を認めなかったが,正規雇用などの女性では中堅と考えられる群,非正規雇用などの女性では妊娠・出産や子育ての世代で受診抑制のオッズ比が有意に大きくなっていた。これは,就労形態による女性の健康問題の違いを示唆していると考えられる。個人のライフステージや家族関係とともに,労働状況や環境を考慮した健康支援が必要であろう。
著者
木村 博子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.424-434, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
27

目的 都心部において増加する高齢者の孤立死の背景にある課題を明らかにすることを目的とした。方法 国に東京都23区内A区の2016年の人口動態調査に係る調査票情報の提供の申出を行った。死亡票の記載項目には,死亡診断書と死体検案書の区別はない。しかし,監察医制度のある東京都23区では,死亡診断書または死体検案書を記載した医師の所属施設等が検案を実施する東京都監察医務院等の場合,死体検案書と判定することが可能である。病院・診療所等の記載がある場合は死亡診断書とみなした。自宅死および病院死のうち検案となった病死と,在宅患者訪問診療等により死亡診断書が作成された「自宅看取り死」について,死因,男女別,年齢,配偶者の有無等との関連を記述統計学的に分析した。結果 2016年のA区の死亡件数4,429件のうち,613件が検案死と判定され,うち65歳以上の高齢者は436件(71.1%)であった。自宅死757件のうち,検案死は399件(52.7%)であり,うち病死は271件であった。自宅看取り死は358件(47.3%)であった。34歳以上の検案で病死と判明した自宅死268件の死亡年齢は,男性145件が73.6±11.9(平均値±標準偏差)歳,女性123件が79.5±11.4歳であった。同様の病院死133件の死亡年齢は,男性76件が73.6±14.7歳,女性57件が81.9±9.7歳であった。一方,自宅看取り死358件の死亡年齢は,男性172件が81.3±13.7歳,女性186件が87.0±10.8歳であり,検案死に比べて死亡年齢は有意に高かった。自宅検案死の病死の65.3%,病院検案死の病死の54.1%が虚血性心疾患等の突然死型の疾患によるものであり,自宅看取り死の64.6%は悪性新生物等によるものであった。検案で病死と判明した自宅死のうち,65歳以上の男性110件の65.5%,女性110件の87.3%が単身であり,男性27.3%,女性52.7%が死別,男性16.4%,女性9.1%が離別,男性21.8%,女性25.5%が未婚であった。結論 都心部高齢者の孤立死には,主に突然死疾患の死因に加えて,女性では配偶者との死別,男性では死別以外に離別,男女ともに未婚という背景が影響していると考えられた。