著者
清水 裕子 望月 宗一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.39-45, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
21

目的 一次救命処置(BLS)•自動体外式除細動器(AED)の技術習得と実施に関連した学校教職員の認識を明らかにすることを目的とした。方法 A 県内の中学校 2 校•高等学校 2 校の全 4 校の教職員計192人を対象に無記名自記式質問紙留め置き調査を行った。調査項目は,対象の属性のほか,BLS の講習受講状況や技術習得に関する認識,AED の設置状況,AED 技術習得状況等であった。結果 有効回答は160人(83.3%)であった。男性91人(56.9%),女性69人(43.1%)で,勤務先は中学校が52人(32.5%),高等学校が108人(67.5%)であった。BLS に関する講習を過去に受講したことのある者は144人(90.0%)で,AED の講習は105人(65.6%)が受講していた。BLS 技術を「習得できていない」と認識している者は39人(24.4%)で,BLS 実施に対し「不安や心配がある」者は140人(87.6%)であった。所属校に AED が設置されていると回答した156人(97.5%)のうち,AED の設置場所を把握していなかった者は 3 人(1.9%)であった。BLS と AED の講習については,「教員」が教員以外の者より有意に参加していた。学校主催の今年度の取り組みへの参加状況については,「教員」と「運動部顧問」が,それ以外の者より有意に参加していた。BLS の技術を習得できていると認識している者の割合は,「養護教諭•体育科教諭等の専門教員」,「教員」,「BLS 講習受講者」,「急変時遭遇者」が,各々それ以外の者よりも有意に多かった。「専門教員」はそれ以外の者よりも,BLS 実施に対し不安を抱える者が有意に少なかった。結論 BLS の技術習得に対する認識や BLS 実施に対する不安については,対象の属性で差がみられ,教員以外の職員や BLS 講習の未受講者はその認識が低かった。また,BLS 講習を受けたことのない者や勤務先の AED の設置場所を把握していない者も実在した。今後は,全教職員が正確な知識を持ち,緊急時に迅速かつ的確に対応できるよう,学校全体で組織的に取り組む必要性が示唆された。また,BLS や AED に関する知識や技術を習得しているという意識が高まることで,それを必要とする場面に遭遇した際の不安が軽減されるのではないかと考えられた。
著者
田中 宏和 小林 廉毅
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.433-443, 2021-06-15 (Released:2021-06-25)
参考文献数
28

目的 わが国で職業ごとの喫煙習慣にどのくらいの差があるか明らかでない。本研究は日本標準職業分類に基づく職業別喫煙率の推移を分析することで,喫煙対策のための基礎資料とすることを目的とした。方法 国民生活基礎調査の個票データを2001年から2016年までの3年ごとに分析した。喫煙に関する質問項目の「あなたはたばこを吸いますか」に対して「毎日吸っている」または「時々吸う日がある」と回答した人を現在喫煙者と定義し,25歳から64歳までの年齢調整喫煙率を算出した。職業は日本標準職業分類をもとに「管理的職業従事者」,「専門的・技術的職業従事者」,「事務従事者」,「販売従事者」,「サービス職業従事者」,「保安職業従事者」,「農林漁業従事者」,「輸送・機械運転従事者」,「生産工程従事者/建設・採掘従事者/運搬・清掃・包装等従事者」,「無職/不詳」の10区分に分類した。結果 全人口(25-64歳)の喫煙率はこの15年間に男性で56.0%から38.4%に,女性で17.0%から13.0%に低下していた。2016年において最も喫煙率が高かった職業は男女とも「輸送・機械運転従事者」で男性48.3%(95%信頼区間:46.8-49.7%),女性38.5%(95%信頼区間:32.6-44.5%)だった。最も喫煙率が低かった職業は男女とも「事務従事者」で男性27.9%(95%信頼区間:27.0-28.8%),女性9.4%(95%信頼区間:9.0-9.7%)だった。男性では2001年から2016年にかけてすべての職業で喫煙率は低下し,最も喫煙率が低下したのは「事務従事者」で21.0ポイント低下だった。女性では「輸送・機械運転従事者」と「保安職業従事者」を除くすべての職業で喫煙率は低下し,最も喫煙率が低下したのは「販売従事者」で7.2ポイント低下だった。どの年齢層においても「事務従事者」の喫煙率が最も低い傾向は男女とも一貫していた。男性では30-34歳において職業別喫煙率の差が最も大きかった。結論 わが国では2001年から2016年にかけて男女とも「事務従事者」の喫煙率が最も低く,「輸送・機械運転従事者」で最も高かった。喫煙率は低下しているものの職業別喫煙率の差は大きく,とくに若い世代で差が大きかった。職業や働き方は多様化しており,社会的背景や労働環境の変化を考慮した喫煙習慣の対策が必要である。
著者
塚崎 栄里子 岩上 将夫 佐藤 幹也 田宮 菜奈子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.118-130, 2021-02-15 (Released:2021-02-26)
参考文献数
24

目的 精神的苦痛を有する集団における,精神疾患での通院と種々の背景の関連を明らかにする。方法 平成25年度国民生活基礎調査の匿名データ(健康票,世帯票)に含まれる97,345人の中で,15歳以上65歳未満である56,196人のうち,精神的苦痛をあらわすKessler Psychological Distress Scale(K6)の合計点が5点以上の17,077人(男性7,735人,女性9,342人)を研究対象者とした。健康票・世帯票の質問項目の中から,精神疾患を理由とした通院に関連しうる項目として,K6合計点(5~24点),年齢,性別,飲酒状況,喫煙状況,世帯人数,世帯所得,教育状況,就労状況,他疾患での通院の有無を選択した。「うつ病やその他のこころの病気」による現在の通院の有無をアウトカムとし,多変量ロジスティック回帰分析を行い,各因子の通院「有り」に対する調整後オッズ比(aOR)および95%信頼区間(95%CI)を求めた。結果 研究対象者17,077人のうち,精神疾患で現在通院していると回答したのは914人(5.4%)であった。通院している人のK6合計点の平均値(±標準偏差)は12.6(±5.1)点であり,通院していない人の平均値8.8(±3.8)点より有意に高かった。年齢ごとでは35~44歳で最も通院率が高かった。通院をしていると回答した人の女性の割合は58.3%で,通院していないと回答した集団より有意に多かった。飲酒状況,喫煙状況,世帯人数,就労状況,他疾患での通院の有無が,精神疾患での通院の有無とのカイ二乗検定で有意差が認められた。多変量解析の結果,飲酒,3人以上での家族との同居,仕事や家事は通院を阻害する方向に関連を示した。K6合計点が高い人や,35~44歳,高校以上の教育,喫煙,他疾患での通院をしている人がより多く通院している傾向にあった。結論 自己治療になりうる飲酒や,時間的余裕を妨げうる仕事が精神科への通院を阻害する可能性が示された。必要な通院を推進するには,若年者や高齢者,高校以上の教育を受けていない,飲酒しているといったハイリスク集団を意識した上で,社会的体制の充実,精神疾患に関する情報の普及が必要である。
著者
星 旦二 伊香賀 俊治 海塩 渉 藤野 善久 安藤 真太朗 吉村 健清
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.297-306, 2022-04-15 (Released:2022-04-26)
参考文献数
33

目的 本研究の目的は,我が国の冬期における戸建て住宅各室の室温と外気温の実態と共にその関連性について,国土交通省の定める省エネ地域区分別に明確にすることである。方法 本研究の対象者は,日本全国に居住している3,781人である。調査は2014年度冬季より,国土交通省の支援を得て全国的に実施されている,SWH(Smart Wellness Housing)事業の一環として5年間実施した。 各部屋別(居間・寝室・脱衣所)に測定された冬期二週間の床上1 m室温と床近傍室温,それに気象庁が測定した外気温の実態とともに,その関連について共分散構造分析を用いて解析した。これらの関連は,同時分析により全国の省エネ地域区分別に解析した。分析ソフトは,SPSS22.0とAMOS22.0を用いた。結果 冬季における住居内床近傍室温は床上1 m室温よりも低く,時間帯でみると床近傍ないし室温共に朝が低い温度を示した。部屋別室温較差は,居間と脱衣所間で大きかった。 室温を地域別にみると,省エネ地域2の室温が最も高く,省エネ地域4の室温が最も低いことが示された。冬期の外気温は各室温よりも床近傍室温と強い関連がみられた。結論 我が国の住宅床近傍室温は,床上1 m室温よりも低いことと,居間と脱衣所とでは大きな温度較差がみられた。省エネ地域区分4の住宅床近傍室温と床上1 m室温が最も低いことが示された。室温が外気温から影響される度合いは,省エネ地域7を除き地域番号とともに大きくなることが示された。
著者
黒田 藍 村山 洋史 黒谷 佳代 福田 吉治 桑原 恵介
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.284-296, 2022-04-15 (Released:2022-04-26)
参考文献数
35

目的 孤立や孤独を防ぎ,かつ食事を確保する方策として食支援活動が行われてきたが,その実践に関する学術的知見は乏しい。本稿では,住民がボランティアで食支援活動を行う地域食堂のコロナ下での活動プロセスを記述し,地域食堂の活動継続が利用者や住民ボランティアにもたらした効果について予備的に検証することを目的とした。方法 本研究は東京都内の独居高齢者が多く居住する大規模団地にて,飲食店と同水準の食品衛生管理体制のもと運営されている地域食堂「たてキッチン“さくら”」で筆頭著者が実施するアクションリサーチの一部である。2020年2月から同年5月までの地域食堂の活動を報告対象とした。活動プロセスは運営の活動記録,運営メンバーと住民との対話記録,活動時の画像記録を用いて記述した。地域食堂の利用住民10人と住民ボランティア6人との対話記録をKJ法に基づき分類し,彼らが認識する地域食堂の活動継続がもたらした効果を評価した。活動内容 対象期間中に地域食堂の役員や住民ボランティアは定期的に会議等を行い,市民向け新型コロナウイルス感染症対策ガイドや保健医療専門職の助言,利用者の意見等を参考にしながら,運営形態の検討と修正を続けた。結果として,地域食堂は高齢住民ボランティアが中心となって住民の食と健康を守るために週5日の営業を継続した。店頭の販売個数は形態変更に伴い5月に半減した一方(2020年2月4,670個,同5月2,149個),各戸への配食数は需要の増加に伴い3月以降増加した(2020年2月301個,同5月492個)。事後評価の結果,地域食堂の新型コロナウイルス感染症対策は外食業の事業継続のためのガイドラインを遵守していた。活動継続の効果として,地域食堂利用者では〈食の確保〉,〈人とのつながり〉,〈健康維持増進〉の3つのカテゴリー,住民ボランティアでは〈社会とのつながり〉,〈健康維持増進〉の2つのカテゴリーが抽出された。結論 住民ボランティアが,住民の食と健康を守るとの活動理念を確認しながら,新型コロナウイルス感染症の対策情報等を参照し,ステークホルダーを巻き込み,一般に求められる水準の感染症対策を取り入れて食支援活動を継続していた。この取組継続は,住民の食確保や健康支援に加え,住民同士のつながり維持に役立ったことが示唆された。
著者
紺野 圭太 奥 祐三郎 神谷 正男 土井 陸雄 玉城 英彦
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.6-17, 2002 (Released:2015-04-08)
参考文献数
60
被引用文献数
2

Purpose This article focuses on understanding epidemiological features of alveolar echinococcosis and discussing its prevention and control, especially from a viewpoint of the ecosystem and risk management.Method Publications on alveolar echinococcosis throughout the world were systematically reviewed with special reference to ecology, epidemiology and countermeasures.Results Alveolar echinococcosis, caused by accidental infection with larva of the parasite Echinococcus multilocularis is fatal to humans unless diagnosed at an early stage. No effective control measures have been identified so far because it is difficult to fully understand the ecology of the parasite and its intermediate and definitive hosts. It is also not easy to determine the precise infection route to humans mainly because of the long latent period.In Hokkaido, infection rates among red foxes have recently risen even in low endemic districts. Not only stray and domestic dogs but also some pigs in Hokkaido have been found to be infected. While the number of reported human cases is still small, around 10 cases per year, local residents seem to be threatened with the risk of infection.Discussion and Conclusions We predict that the incidence of alveolar echinococcosis among humans in Japan will increase in the near future if no effective preventive measures are conducted. In addition, Echinococcus multilocularis infection has the potential to affect the economy of Hokkaido because of its impact on the agricultural and tourist industries.Well-designed epidemiological surveys are therefore urgently required, in the context of ecosystem and risk management prior to large outbreaks. International collaboration is also desired.
著者
藤田 和樹 陣内 裕成 藤井 淳子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.23-32, 2021-01-15 (Released:2021-01-30)
参考文献数
35
被引用文献数
1

目的 本研究の目的は,地域の自立した高齢者を対象にロコモティブシンドローム(以下,ロコモと省略)と認知機能低下の関連を横断調査により検討することである。方法 対象者は,2014~2016年度に大阪府泉佐野市が実施した介護予防に関する質問票(基本チェックリスト)により一次予防事業の候補者と判定され,ロコモに関する質問票(ロコモ25)に回答した高齢男女3,751人(男性;1,914人,女性;1,837人,平均71.9±5.7歳)とした。ロコモのステージ(ロコモ度)はロコモ25の合計点を用いて判定した(ロコモ非該当:ロコモ25≦6点,ロコモ度1:7点≦ロコモ25≦15点,ロコモ度2:ロコモ25≧16点)。認知機能低下のレベルは基本チェックリストの認知関連の3項目を用いて評価した(該当項目なし:低下なし,1項目該当:軽度低下,2項目以上該当:中等度低下)。本研究では,ロコモと認知機能低下の関連を検討するため,認知機能低下を目的変数,ロコモ度を説明変数とする多項ロジスティック回帰分析を用いオッズ比を算出した。また,ロコモ度が他の要介護危険要因とは独立した認知機能低下の要因になるかを検討するため,年齢,BMI,基本チェックリストの低栄養,口腔機能,閉じこもりを調整した多変量調整オッズ比を推定した。結果 多項ロジスティック回帰分析の結果,認知機能軽度低下に対する多変量調整オッズ比と95%信頼区間は,男性では,ロコモ度1で1.63(1.22-2.18),ロコモ度2で1.78(1.15-2.75)であり,女性では,ロコモ度1で1.65(1.22-2.21),ロコモ度2で1.81(1.18-2.77)であった。同様の解析により,認知機能中等度低下に対する多変量調整オッズ比と95%信頼区間は,男性では,ロコモ度1で1.65(0.97-2.81),ロコモ度2で2.99(1.56-5.73)であり,女性では,ロコモ度1で1.97(1.11-3.50),ロコモ度2で2.43(1.14-5.19)であった。男女ともにロコモ度が高いほど認知機能低下者の割合が多くなる傾向が認められた。結論 地域の自立高齢者では,男女ともにロコモ度と認知機能低下の間に有意な関連が認められた。また,ロコモは認知機能低下の独立した関連因子になる可能性が示唆された。今後,縦断研究による検証が必要と考えられた。
著者
森田 一三 森岡 久尚 阿部 義和 野村 岳嗣 稲川 祐成 近藤 由香 亀山 千里 近藤 香苗 小林 尚司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.167-179, 2021-03-15 (Released:2021-03-30)
参考文献数
30

目的 高齢者における多剤併用は唾液の流量低下や口腔乾燥症を引き起こす可能性を高める。口腔の乾燥は口腔機能の低下をもたらすが,多剤併用と自覚的な口腔機能低下や客観的な口腔機能低下の関連について報告は見られない。そこで,本研究は投薬薬剤成分数と自覚的および客観的口腔機能低下の関連を明らかにすることを目的として行った。方法 2019年1月から2月に歯科健康診断のために中部地方の歯科医院を受診した,75歳以上の在宅高齢者215人を対象とした。自覚的口腔機能の評価として3項目の問診,客観的口腔機能として4項目の実測調査を行った。また,現在治療中の疾患および服薬している薬剤の情報を得た。自覚的口腔機能の3項目のいずれかに低下がある者を自覚的口腔機能の低下が認められるとした。客観的口腔機能の低下は2つのタイプについて検討した。1つは客観的口腔機能の4項目すべての項目に低下がある,もう1つは客観的口腔機能の4項目のうち2つの項目に低下があるとした。性別,年齢階級および治療中の疾患を調整した,自覚的および客観的口腔機能低下と投薬成分数の関連についてロジスティック回帰分析を用いて分析した。結果 8種類以上の成分を投薬されている者は7種類以下の者に比べ,自覚的口腔機能低下がみられた(オッズ比:95%信頼区間,2.3:1.0-5.1,P<0.05)。8種類以上の成分を投薬されている群は7種類以下の群に比べ4項目すべての客観的口腔機能に低下が見られた(4.4:1.5-12.6,P<0.01)。4項目のうち2項目以上の客観的口腔機能の低下は10種類以上の成分の投薬と関連していた(4.3:1.2-16.2,P<0.05)。 さらに,8種類以上の投薬成分数は自覚的口腔機能または客観的口腔機能4項目すべての低下をもたらした(8.1:2.1-30.8,P<0.01)。自覚的口腔機能または客観的口腔機能4項目のうち2項目以上の低下と10種類以上の成分を投薬されていることが関連していた(4.9:1.6-15.6,P<0.01)。結論 高齢者において薬剤成分数で8種類以上の投薬は,自覚的または客観的口腔の機能低下が見られることと関連した。
著者
山内 加奈子 斉藤 功 加藤 匡宏 谷川 武 小林 敏生
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.9, pp.537-547, 2015 (Released:2015-11-25)
参考文献数
43
被引用文献数
3

目的 地域高齢者における 5 年間の縦断的研究により主観的健康感の低下に影響を及ぼす心理・社会活動要因について明らかにすることを目的とする。方法 愛媛県東温市に在住する65歳以上の高齢者7,413人全員に「高齢者総合健康調査」を実施し,85歳以上または日常生活動作で介助を必要とする者および 5 年間における死亡・異動等を除く4,372人を追跡対象者とし,3,358人を分析対象者とした(追跡率76.8%)。主観的健康感は「普段,自分を健康だと思いますか」に 4 件法で回答を求め,さらに「非常に健康である」,「まあ健康である」を主観的健康感の健康群,「あまり健康でない」,「健康でない」を非健康群に分類した。この 2 群について,5 年間追跡することで,主観的健康感の変化およびそのパターン別の割合を検討した。次に,初回調査時における主観的健康感の健康群を対象とし,5 年後の主観的健康感が健康か非健康かを目的変数として交絡因子を調整の上,初回調査時の老研式活動能力指標,生活満足度尺度 K,認知症傾向,うつ傾向の心理・社会活動指標の各因子との関連についてロジスティック回帰分析を用いて検討した。結果 5 年間の追跡調査後に,主観的健康感の健康群は男女ともに減少した。追跡期間中に健康を維持した者の割合は,男女とも,前期高齢者では約 6 割,後期高齢者では約 4 割であった。前期高齢者においては,初回調査時の生活満足度が高いことの低いことに対する 5 年後の主観的健康感が非健康であるオッズ比は,男性で0.85(95%信頼区間:0.77-0.93),女性で0.79(95% CI: 0.72-0.87)とそれぞれ有意に低く,さらにうつ傾向有のうつ傾向無に対するオッズ比は女性でのみ1.68(95% CI: 1.11-2.56)と有意に高かった。後期高齢者においては,生活満足度が高いことの低いことに対する 5 年後の主観的健康感が非健康であるオッズ比は,男性で0.87(95% CI: 0.77-1.00),女性で0.89(95% CI: 0.80-0.99)と有意に低く,さらに老研式活動能力が高いことの低いことに対するオッズ比は,男性で0.80(95% CI: 0.70-0.91),女性で0.88(95% CI: 0.80-0.97)と有意に低かった。結論 本研究から,地域高齢者の主観的健康感の低下を防ぐためには,男女ともに生活満足感を高めることが必要と考えられた。加えて,前期高齢者の女性においてうつ傾向がないこと,および後期高齢者では,男女共に日常生活活動能力を維持することが,主観的健康感の維持のためには重要と考えられる。
著者
佐々木 渓円 平澤 秋子 山崎 嘉久 石川 みどり
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.12-22, 2021-01-15 (Released:2021-01-30)
参考文献数
36

目的 乳幼児健康診査(乳幼児健診)では,生活習慣に関する問診が行われている。乳幼児健診の受診率は極めて高いため,問診結果を活用した地域診断が可能である。本研究では,幼児期における菓子や甘味飲料(甘い間食)の習慣的な摂取と生活習慣との関連性について,問診結果を活用して分析した。方法 対象地域は,個々の児の健診結果を突合できる愛知県内35市町村である。解析対象者は,2013年度の1歳6か月児健診(18 m)と2014~2015年度の3歳児健診(36 m)を同一市町村で受診した18,251人(男児,9,393人(51.5%))とした。「甘い間食」の習慣化に基づいて,次の4つのカテゴリに対象者を分類した。18 mと36 mで「甘い間食」の習慣化がないN-N群,18 mのみで習慣化があるY-N群,36 mのみで習慣化があるN-Y群,18 mと36 mで「甘い間食」の習慣化があるY-Y群である。その他の生活習慣は,望ましい習慣と望ましくない習慣の2水準に区分した。「甘い間食」の摂取のカテゴリを従属変数とし,生活習慣を独立変数とした多項ロジスティック回帰分析を行った。従属変数の対照カテゴリはY-Y群とし,独立変数の対照は望ましくない生活習慣とした。結果 対象者の構成比は,N-N群:Y-N群:N-Y群:Y-Y群=27.7:8.6:24.1:39.6であった。18 mでは48.2%の児に「甘い間食」の習慣化があり,その割合は36 mで63.7%に増加した。18 mで「甘い間食」の習慣化がある児の82.2%が,36 mでも「甘い間食」を習慣的に摂取していた。18 mで就寝時の授乳がないことが,N-N群(オッズ比[99%信頼区間]=1.25[1.11-1.41])やY-N群(1.28[1.07-1.52])と正の関連を示したが,N-Y群(0.99[0.88-1.11])との関連は認められなかった。18 mで親が仕上げ磨きをすることは,N-N群のみに正の関連を示す傾向を呈した(1.10[0.99-1.23])。結論 半数近くの児が18 mまでに「甘い間食」の摂取を習慣化し,その多くが36 mまでに改善できないことが示された。18 mにおける口腔衛生行動が,36 mまでの幼児の「甘い間食」の習慣的な摂取と関連していた。乳幼児健診の結果を活用した地域診断は,健康課題と関連する因子の同定に有用である。
著者
岡 浩一朗
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.208-215, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
24
被引用文献数
25

行動変容のトランスセオレティカル・モデル(TTM)は,人がどのように健康行動を変容するかを理解するために用いられてきた。元々は,不健康な習慣的行動(たとえば,喫煙)の変容を説明あるいは予測するために開発されたものであった。最近では,身体活動・運動行動の研究分野においても TTM を利用することが支持されている。本研究は,日本人中年者を対象に,運動行動における TTM の構成要素について検討した。特に,運動行動の変容段階と運動セルフ・エフィカシーとの関係を調べた。 初めに,本研究では運動セルフ・エフィカシーを査定するための尺度を開発した。467人の中年者が,調査票に回答した。ステップワイズ変数選択による探索的因子分析の結果,5 項目 1 因子からなる尺度が開発された。計量心理学的分析の結果,この尺度が高い信頼性と妥当性を有することが示唆された。 次に,変容段階とセルフ・エフィカシーの関係を検討するため,中年者808人を対象に横断的調査が行われた。運動行動の変容段階と運動セルフ・エフィカシーを査定する調査票を実施した。運動行動の変容段階分類と運動セルフ・エフィカシーとの間に有意な関連が認められた。特に,本研究の対象者におけるセルフ・エフィカシー得点は,無関心期に属する人が他の段階の人と比較して最も低く,維持期の人が最も高かった。一般的に,段階を通じて直線的なパターンで変化した。 本研究では横断的調査デザインおよび非無作為サンプル抽出法を用いているために結果の解釈が制限されるが,本研究と先行研究の結果の類似性は,運動行動の変容段階と運動セルフ・エフィカシーの関係が,年齢や文化の違いに関わらず支持されることを示している。これらの関係を正しく理解することによって,健康増進に関わる専門家は身体活動・運動の増進に対する働きかけを改善させることができる。
著者
蔭山 正子 横山 恵子 坂本 拓 小林 鮎奈 平間 安喜子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.20-036, (Released:2020-12-26)
参考文献数
18

目的 精神疾患のある親をもつ人を対象とし,小・中・高校時代の体験および学校での相談状況を把握することを目的とした。方法 精神疾患のある親をもつ人の会に参加したことのある240人を対象とし,ウェブ上のアンケート調査を実施した。小・中・高校時代の体験,学校での相談状況,子どもの頃に認識した教師の反応,学校以外での援助などを質問した。分析は単純集計を行い,学校内外の相談歴について回答者の年代で比較した。自由記載は内容の抽象度をあげて分類した。結果 120人から回答を得た。年齢は20歳代から50歳以上まで幅広く,女性が85.8%だった。精神疾患をもつ親は,母親のみが多く67.5%であり,親の精神疾患推定発症年齢は,回答者が小学校に入るまでが73.1%だった。 ヤングケアラーとしての役割は,小・中・高校時代で親の情緒的ケアが最も多く57.8~61.5%が経験し,手伝い以上の家事は29.7~32.1%が経験していた。小学生の頃は62.4%が大人同士の喧嘩を,51.4%が親からの攻撃を経験していた。周囲が問題に気づけると思うサインには,親が授業参観や保護者面談に来ない,いじめ,忘れ物が多い,遅刻欠席が多い,学業の停滞があった。しかし,サインは出していなかったとした人は小・中・高校時代で43.2~55.0%であった。回答者が認識した教師の反応では,精神疾患に関する偏見や差別的な言動,プライバシーへの配慮不足などで嫌な思いをしていた。家庭の事情や悩みを気にかけ,話を聞いて欲しかったという意見が多かった。 学校への相談歴のなかった人は小学生の頃91.7%,中学生の頃84.5%,高校生の頃で78.6%だった。相談しなかった理由としては,問題に気づかない,発信することに抵抗がある,相談する準備性がない,相談環境が不十分というものがあった。相談しやすかった人は,すべての時期で担任の先生が最も多かった。30歳代以下の人は,40歳代以上の人に比べて小学生や高校生の頃に学校への相談歴がある人が有意に多かった。結論 精神疾患のある親をもつ子どもは,支援が必要な状況にありながら,支援につながりにくい子どもたちであった。学校では,子ども自身が家庭の問題に気づけるような働きかけが必要である。教師はまず子どものことを気にかけ,話をよく聞くことが求められる。
著者
佐藤 美樹 田髙 悦子 有本 梓
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.121-129, 2014 (Released:2014-04-16)
参考文献数
31

目的 孤独感に関する研究は,一般成人や高齢者を対象とした研究は比較的多くみられるものの,乳幼児を持つ母親を対象とした研究は,まだ限られている。本研究の目的は,都市部在住の乳幼児を持つ母親の孤独感の実態ならびに関連する要因について,乳幼児の年齢集団別(4 か月,1 歳 6 か月)に個人要因ならびに環境要因から検討を行い,育児支援に関する実践への示唆を得ることである。方法 A 市 B 区の乳幼児健康診査に2012年 9 月~11月(計10回)に来所した母親を対象に無記名自記式質問紙調査を実施した。分析は,日本語版 UCLA 孤独感尺度得点を従属変数とし,乳幼児の年齢集団別に基本属性,個人要因(内的作業モデル,育児感情),地域要因(子育てのしやすさ,近所との付き合い方,ソーシャルネットワーク)を独立変数とした重回帰分析を行った。結果 回収した251票(回収率58.4%)のうち回答に欠損のあった 3 人を除く248人(有効回答率57.7%)を分析対象とした。なお,4 か月児は125人(55.8%),1 歳 6 か月児は123人(59.7%)であった。その結果,4 か月児を持つ母親の孤独感尺度の平均点は39.2±9.4点,孤独感の高い者は,内的作業モデルタイプがアンビバレント型(β=.354,P<.001)傾向もしくは回避型(β=.331,P<.001)傾向であり,また育児感情の負担感(β=.180,P<.05)の得点が高く,ソーシャルネットワークの家族(β=−.144,P<.05),育児仲間(β=−.255,P<.01)の得点が低かった。また 1 歳 6 か月児を持つ母親の孤独感尺度の平均点は37.5±10.0点,孤独感の高い者は,母の主観的健康感(β=−.191,P<.01)が低く,内的作業モデルタイプがアンビバレント型(β=.297,P<.001)傾向もしくは回避型(β=.190,P<.05)傾向であり,育児感情の負担感(β=.283,P<.001)の得点が高く,ソーシャルネットワークの育児仲間(β=−.213,P<.01)の得点が低かった。結論 母親の孤独感を予防•軽減するためには,母親が育児を通じた人間関係を構築することやサポートを受けながら育児を行っていくための力を高める支援とともに,地域の人的ネットワークを含む地域の環境づくりへの支援が重要であると考えられた。
著者
杉原 陽子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.233-242, 2018 (Released:2018-05-29)
参考文献数
29

目的 本研究は,地域福祉の担い手として重要な役割を果たしている民生委員の活動継続意欲を促進・阻害する要因を解明することを目的とした。方法 東京都区市部の2~3期目の民生委員全数(1,936人)に対して郵送法による質問紙調査を実施した。有効回収数は1,346票(69.5%)であった。結果 共分散構造分析の結果,(1)役割ストレスのようなネガティブな感情よりも援助成果といったポジティブな感情の方が民生委員の継続意欲に強く関連すること,(2)仕事の量的負担(役割過重)や役割葛藤よりも役割の曖昧さが継続意欲の低下に関連すること,(3)公的・専門的機関からのサポートは援助成果の増加や役割曖昧の減少を介して間接的に継続意欲を高めることが明らかとなった。結論 地域住民による対人支援ボランティア活動を維持するためには,やりがい等の心理社会的恩恵を増やすとともに,役割の曖昧さの問題を軽減する必要があり,そのために公的・専門的機関からのサポートが有効であることが示唆された。
著者
吉岡 京子 黒田 眞理子
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.20-27, 2015

<b>目的</b> 本研究の目的は,行政の保健福祉専門職が対応に苦慮する困難な事例のうち,その支援を拒否する住民の特徴および関連要因を検討することである。<br/><b>方法</b> 本調査は,対応困難事例への支援について精神科医等が助言する専門相談事業を2006年から実施している A 自治体と共同研究協定を締結し実施した。この事業に2006~2012年に提出された372人を分析した。対象者の基本属性,家族要因,精神科的要因,問題行動,保健福祉専門職による支援への拒否の有無について個人名を特定できない状態でデータ提供を受けた。保健福祉専門職による支援への拒否の有無とその関連要因を検討するためロジスティック回帰分析を行った。<br/><b>結果</b> 分析対象とした309人のうち,支援拒否なし群は102人(33.0%),支援拒否あり群は207人(67.0%)だった。ロジスティック回帰分析の結果,生活保護を受給していること(Odds Ratio=1.86, 95%CI=1.02–3.39),拒薬があること(Odds Ratio=2.07, 95%CI=1.10–3.90),暴言があること(Odds Ratio=1.97, 95%CI=1.09–3.55)が,保健福祉専門職による支援への拒否があることに有意に関連していた。<br/><b>結論</b> 本結果から支援拒否あり群は,支援拒否なし群よりも病状悪化の危険性や危機介入の必要性がより高い者である可能性が示唆された。
著者
椛 勇三郎 西田 和子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.98-106, 2007 (Released:2014-07-03)
参考文献数
20

目的 近年,眼精疲労を引き起こすと考えられる生活習慣の激変が子どもたちの視力低下を引き起こしているのではないかと懸念されている。本研究では,女子中学生の視力低下に関連する要因を検討するために,生活習慣や生活環境に着目し視力低下との関連性を評価することを目的とした。方法 女子中学生を対象に生活習慣に関する横断的調査を実施し,視力低下要因に関する統計的分析を行った。屈折力の測定を行わない学校健診では,精度が高い測定を期待することは難しい。また,変数によっては非対称で右に裾を引く分布およびはずれ値が存在する。これらの影響を受けにくくするために,本論文では対象とする変数をすべてカテゴリー化してロジスティックモデルによって解析した。ロジスティックモデルの構築には,グラフィカルモデリングによって要因間の相互関連性を調べたうえで,AIC(赤池情報量基準)によるモデル選択技法を適用した。結果 ロジスティックモデルより得られた主要な結果として,自宅や学習塾での勉強時間,読書時間,親や兄弟のメガネやコンタクトレンズの使用状況,睡眠時間で調整した TV からの視聴距離が「2 m 未満」の「2 m 以上」に対する調整オッズ比は2.08で有意であった(95%CI: 1.23-3.50)。しかし,TV の視聴時間が「2 時間以上」の「2 時間未満」に対する調整オッズ比は,1 に近くモデルに選択されなかった。自宅や学習塾での勉強時間が「2 時間以上」の「2 時間未満」に対する調整オッズ比,読書時間が「2 時間以上」の「2 時間未満」に対する調整オッズ比,親や兄弟がメガネやコンタクトレンズの「使用あり」の「使用なし」に対する調整オッズ比は,いずれも有意であった。結論 以上より,女子中学生の視力低下に関連する要因として「TV からの視聴距離」のほうが「TV の視聴時間」よりも強い関連性を持つ要因であることが示唆された。さらに,視力低下要因の多変量的評価をオッズ比で与えた結果は,教育現場における生活習慣,生活環境の改善を推進する上で有意義なものと考える。
著者
竹鼻 ゆかり 高橋 浩之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.1159-1168, 2002 (Released:2015-12-07)
参考文献数
21

目的 認知的スキルのひとつである一般的な自己管理スキルと糖尿病患者特有の自己管理スキルはどのような関連を持ち,またそれらが糖尿病患者の自己管理行動とどのように関連しているかについて検討する。方法 糖尿病外来に通院する糖尿病患者306人を調査対象者とし,自記式の質問紙と診療記録からの情報収集を行った。質問紙の内容は,患者の属性,一般的自己管理スキル尺度(高橋による自己管理スキル尺度,以下 SMS 尺度),糖尿病患者特有の自己管理スキルについての質問項目(以下糖尿病スキル得点),糖尿病患者の自己管理行動(安酸,木下が作成した尺度の項目を参考として使用)である。成績 1. SMS 尺度と糖尿病スキル得点は相関を有し,ともに自己管理行動と関連していた。またその度合いは,SMS 尺度よりも,糖尿病スキル得点の方が強かった。 2. 自己管理行動と関連する要因についてパス解析を用いて検討した結果,糖尿病の自己管理行動と有意に直接関連する要因は,SMS 尺度,糖尿病スキル得点,仕事の有無だった。また,糖尿病スキル得点を媒介として自己管理行動と間接的に関連する要因は,SMS 尺度,知識の程度,家族の支援の程度,仕事の有無だった。また自己管理行動と直接関連している要因の標準偏回帰係数(β)の大きさから,糖尿病スキル得点が自己管理行動に比較的強く関与していることが示された。結論 糖尿病患者の自己管理行動を改善するためには,糖尿病と関連した認知的スキルを考慮した支援が有効である可能性が示唆された。
著者
佐藤 陽子 中西 朋子 千葉 剛 梅垣 敬三
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.321-332, 2014 (Released:2014-08-08)
参考文献数
25
被引用文献数
2

目的 葉酸には天然型と合成型(folic acid)がある。胎児の神経管閉鎖障害(NTD)リスク低減に対する葉酸摂取の意義は明確で,妊娠可能な女性には利用効率の良い folic acid 摂取が推奨されているが,我が国の NTD 発症率に減少傾向はみられない。本研究は,妊婦における葉酸の摂取時期や摂取量に関する認識と folic acid 摂取行動に影響を与える要因を全国規模で明らかにし,現状の問題点を把握することを目的とした。方法 2012年 1 月に,インターネットを用いた質問調査を実施した。調査会社の登録モニターである20~40代の妊婦2,367人を対象とし,1,236人から回答を得た。調査項目は,属性,葉酸および胎児の NTD に対する認識と行動,サプリメント利用状況とした。妊娠 3 か月までの folic acid 摂取行動と他項目との関連を,クロス表における χ2 検定にて,また,属性との関連については,非摂取群を基準としたロジスティック回帰分析にて検討した。結果 85.2%の妊婦が妊娠中に意識的に葉酸を摂取しており,その多くは妊娠 1 か月以降から,錠剤・カプセルなどのサプリメントから folic acid として摂取を開始していた。妊娠 3 か月までの folic acid 摂取行動は,葉酸に関する認識,サプリメント利用経験と関連が認められ,さらに,若年,第 2 子以降の妊娠であることが負の影響を示した。結論 多くの妊婦が妊娠中に folic acid をサプリメントから摂取していたものの,その開始時期は NTD リスク低減のためには遅すぎることが示された。今後の NTD 予防のための folic acid 摂取の対策として,経産婦も対象に含めた正確な情報提供の他,folic acid を添加した加工食品の利用の推奨,食材への folic acid 添加の推進など,新たな対策に向けた検討が必要である。
著者
宮脇 梨奈 加藤 美生 河村 洋子 石川 ひろの 岡 浩一朗
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.23-021, (Released:2023-09-05)
参考文献数
24

目的 近年,インターネットは,情報を検索し取得するだけでなく,情報発信や共有も可能となっている。それに伴い医療・健康分野でも,健康情報を収集する能力だけでなく,双方向性に対応した多様な能力も必要とされるようになっている。しかし,両方の能力を評価する尺度は見当たらない。そのため,本研究では欧米で開発されたDigital Health Literacy Instrument (DHLI)の日本語版を作成し,その妥当性と信頼性について検討した。またデジタル・ヘルスリテラシー(DHL)の程度と対象者の特徴との関連を明らかにした。方法 尺度翻訳に関する基本指針を参考にDHLI日本語版を作成した。社会調査会社にモニター登録している20~64歳男女2,000人(男性:50%,年齢:40.7±12.0歳)にインターネット調査を実施した。DHLI日本語版,社会人口統計学的属性,健康状態,インターネットの利用状況,eヘルスリテラシー(eHEALS)を調査した。構成概念妥当性は,確証的因子分析による適合度の確認,基準関連妥当性は,eHEALSとの相関により検討した。内部一貫性および再検査による尺度得点の相関により信頼性を検証した。DHLと各変数との関連は,t検定,一元配置分散分析および多重比較検定を用いた。結果 確証的因子分析では,GFI=.946,CFI=.969,RMSEA=.054と良好な適合値が得られ,日本語版も原版同様に7因子構造であることを確認した。またeHEALS得点との相関(r=.40,P<.001)を示し妥当性が確認された。信頼性では,Cronbachのα係数は.92であり,再検査による尺度得点の級内相関係数はr=.88(P<.001)であった。尺度得点は,主に性,世帯収入,健康状態,インターネットでの情報検索頻度および使用端末が関連していた。また信頼性の評価,適応可能性の判断,コンテンツ投稿の下位尺度得点が低い傾向にあった。結論 DHLI日本語版は,日本語を介する成人のDHLを評価するために十分な信頼性と妥当性を有する尺度であることが確認された。DHLの低さが健康情報格差につながる可能性もあるため,DHLの向上が必要な者や強化が必要なスキルの特定をし,それに合わせた支援策を検討する必要がある。