著者
町田 征己 井上 茂
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.23-004, (Released:2023-05-10)
参考文献数
52

定義・現状 Vaccine hesitancyは「予防接種サービスが利用できるにもかかわらず,予防接種の受け入れの遅れや拒否が起こること」と定義され,日本ではワクチン躊躇やワクチン忌避と呼ばれている。近年,ワクチン躊躇は世界的な問題となっており,世界保健機関(WHO)は2022年に世界の小児予防接種率に過去30年間で最大の持続的減少がみられていることを報告した。また,日本においても新型コロナワクチンの接種控えやヒトパピローマウイルスワクチンの普及などは社会問題になっている。そこで本総説では,ワクチン躊躇に関するこれまでの研究を整理して概説する。関連要因 ワクチン躊躇には様々な要因が影響するが代表的なものとして,ワクチンや政府関係機関への信頼(Confidence),個人が認識している罹患可能性・疾病危険性(Complacency),予防接種の物理的・心理的利便性(Convenience)の3つからなるワクチン躊躇の3Csがある。社会人口統計学的要因とワクチン躊躇の関連に注目した研究も増えており,年齢,性別,社会経済的地位,人種,ソーシャル・キャピタルなどがワクチン躊躇に関連することが報告されている。また,近年では予防接種に特有で修正可能な要因に注目した「予防接種の行動的・社会的促進要因フレームワーク」がWHOによって開発され,対策を検討する際のモデルとしての活用が期待される。評価方法 ワクチン躊躇とその要因の評価方法として,様々な尺度が開発されているが尺度によって評価項目,妥当性,信頼性,日本語質問票の有無などが異なり,調査目的に合わせて適切なものを選択する必要がある。代表的な尺度の一つの7C scaleは,日本語版を含む十か国語以上の翻訳版が公開されており国際的に広く使用されている。対策 ワクチン躊躇への対策や介入策についても欧米を中心に様々な研究やガイダンスが報告されている。エビデンスに基づいた対策は大まかに,1. 行動科学に基づいた予防接種システムの強化,2. 組織的なモニタリングによるテーラーメイドなアプローチの実施,3. 医療従事者を支援するためのエビデンスに基づいたリソースの提供,4. メディアの活用・情報発信,に分けられる。これらの知見を踏まえて,日本においても,様々な側面から接種率向上に向けたアプローチを実施することが期待される。
著者
劔 陽子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.146-153, 2020-02-15 (Released:2020-02-22)
参考文献数
9

目的 近年,動物の多頭飼育崩壊問題への関心が高まっている。周辺の生活環境の悪化や犬が徘徊していて怖いといったことが,地域住民から苦情として保健所に寄せられることも多い。この度,熊本県内の保健所で犬の多頭飼育事例に対し,多機関で連携して対応に取り組んだ2事例を経験したので報告する。方法 事例1については,以前より保健所に苦情が寄せられ,現在に至るまで10年間程度対応を続けている事例であり,保健所の担当者による記録が残っている対応について検証した。事例2については,一年間にわたって対応した事例であり,一定の対応が終了した後に関係した諸機関が集まって振り返り検証会を実施した。活動内容 事例1に対しては,苦情が寄せられ始めた当初は保健所衛生環境課が飼養主に対し犬の登録・注射・係留について指導し,時に係留されていない犬の捕獲を行い,飼養主からの要求があれば指導の後返還するということを繰り返していた。それにも関わらず非常に多数の近隣住民からの苦情が保健所に寄せられるようになって一層の対策を求められ,以降警察,市町村の保健福祉関係者,地域住民等とでたびたび話し合いがもたれた。とくに熊本地震で飼養主とその家族が被災し仮設住宅に入居して以降は,災害関連の支援機関や市町村の地域包括センターなども加わって飼養主の見守りを行い,犬の保健所への引き取り依頼・譲渡をするよう説得に努めた。熊本地震後累計30頭程を保護して多くを譲渡につなぎ,その後4頭程度の飼育となって近隣からの苦情も少なくなっている。事例2では,犬の放し飼い苦情対応に出かけた保健所衛生環境課職員により高齢夫婦が不衛生な環境下で多数の犬と生活をしている状況を発見し,県福祉事務所,市町村福祉課,地域包括センター,認知症初期集中支援チームなどと連携して見守り・支援活動を行った。多くの機関が関わったが,どこが全体を把握して主導するかが曖昧となり,情報共有も不十分であったため,効率的な連携ができず,対応が遅れがちになるなど,課題も見つかった。結論 多頭飼育に関しては,環境衛生,動物愛護の観点からの対応開始がなされることが多いが,精神保健,高齢者福祉,生活困窮など,多くの問題が含まれていることが多い。対応には難儀することが多く,すぐに問題が解決されるわけではないが,長期間にわたる多機関連携での対応が求められる。
著者
永井 亜貴子 李 怡然 藤澤 空見子 武藤 香織
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.554-567, 2022-07-15 (Released:2022-07-13)
参考文献数
24

目的 厚生労働省は,都道府県と保健所設置市への事務連絡で,新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)を含む感染症法上の一類感染症以外の感染症に関わる情報公表について,「一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針」(以下,基本方針)を踏まえ,適切な情報公表に努めるよう求めているが,自治体が公表した情報を発端として生じた感染者へのスティグマへの懸念が指摘されている。本研究では,都道府県・保健所設置市・特別区におけるCOVID-19の感染者に関する情報公表の実態を明らかにする。方法 47都道府県,保健所設置市(87市),特別区(23区)の公式ウェブサイトで公表されているCOVID-19の感染者に関する情報を収集した。2020年2月27日以前,基本方針に関する事務連絡後(3月1~31日),緊急事態宣言期間中(4月8~30日),8月の各時期で最も早い日にちに公表された情報を分析対象とし,基本方針で公表・非公表とされている情報の有無や,公表内容に感染者の特定につながる可能性がある情報が含まれていないかを確認した。結果 個別の感染者に関して情報公表を行っていたのは,都道府県では全自治体,保健所設置市等では84自治体であった。自治体が公表していた感染者に関する情報は,自治体間で項目や内容にばらつきが見られ,公表時期によっても異なっていた。基本方針で非公表と示されている感染者の国籍,居住市区町村,職業を公表している自治体があり,居住市区町村と職業は,感染拡大初期の1~3月に比べて,4月以降で公表する自治体が増加していた。一部では,感染者の勤務先名称や,感染者の家族の続柄・年代・居住市区町村などの情報が公表されていた。結論 自治体が行ったCOVID-19感染者に関する情報公表を調査した結果,自治体間や公表時期によって情報公表に用いられる様式や公表内容に違いがみられ,一部に感染者の個人特定につながりうる情報が含まれている事例があることが明らかとなった。COVID-19の疾患の特徴や感染経路などが明らかになってきた現状において,感染者の個人情報やプライバシーを保護しつつ,感染症のまん延防止に資する情報公表のあり方について,再検討が必要と考えられる。さらに,再検討を経て決定した情報公表の方法や内容について市民や報道機関に丁寧に説明し,理解を得る必要があると考えられる。
著者
天笠 志保 荒神 裕之 鎌田 真光 福岡 豊 井上 茂
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.9, pp.585-596, 2021-09-15 (Released:2021-09-07)
参考文献数
71
被引用文献数
2

抄録 スマートフォンやウェアラブル端末などのモバイルヘルスデバイス(mHealthデバイス)の普及に伴い,医療・健康分野における情報通信技術の重要性が高まっている。本総説では,mHealthデバイスを用いた身体活動評価の現状を概観し,主要な研究成果の整理を通じて,mHealthデバイスを用いた身体活動研究の今後を展望する。mHealthデバイスの活用により,調査方法の主流であった質問紙を用いた主観的な評価とは異なり,客観的な身体活動の評価を大規模でリアルタイムに実施することが可能となっている。また,mHealthデバイスはデータを自動で収集し蓄積しているため,遡及的に多様な分析が可能である。とくにスマートフォンは利用者数が多く,大規模モニタリングや大規模介入に資する可能性が高い。一方,手首装着型のウェアラブルデバイス(リスト型デバイス)は,スマートフォンに比べると利用者数は少ないものの,より精度の高い睡眠などスマートフォンで取得困難なデータを含めた24時間の行動評価が可能となっている。このため,身体活動の総量のみならず,強度,継続時間,頻度,種類,時間帯など多様な観点を含む身体活動の質に着目したより精緻な分析が実現する。さらに,リスト型デバイスは,心拍数などの生体情報や位置情報を測定する機器が搭載されているものもあり,これらのデータをデバイスの加速度情報と組み合わせることで,身体活動のより具体的かつ詳細な評価が可能になると考えられる。主要なmHealthデバイスによる身体活動評価の妥当性は多くの研究によって確認されており,研究用に開発された歩数計や加速度計と比較可能である。mHealthデバイスを用いた身体活動の評価は,対象者の代表性やデータの継続性等に関する課題,プライバシーポリシーを踏まえた倫理的な配慮の必要性があるものの,個人の健康管理ツールとしての用途だけでなく,身体活動に関する疫学研究や臨床研究,さらには身体活動指標を利用した社会サービスなどの多様な場面での活用が期待される。
著者
宮田 潤 村木 功 磯 博康
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.327-333, 2020-05-15 (Released:2020-06-02)
参考文献数
25

目的 近年,薬局・薬剤師による公衆衛生の向上に向けた取り組みへの期待が高まっており,禁煙支援もその一つである。一方,一部の薬局・薬店ではタバコ販売が行われていることが知られている。筆者らは,本邦の薬局におけるタバコ販売の実態調査を行い,地域差や運営形態の差がないかを検討することとした。方法 全国調査として,2018年の地方財務局「製造たばこ小売販売業許可者一覧」と地方厚生局「保険薬局一覧」を突合させ,2018年開設の保険薬局のうち,タバコ販売許可を受けた数と割合を調べた。加えて,コンビニエンスストアの名称を含む保険薬局について,各コンビニエンスストアのウェブサイトの情報をもとに,タバコ販売状況を確認した。さらに,既存保険薬局の実態調査として,大阪府A市(都市部)と石川県B市(地方)の2地域を対象に,2018年12月~2019年2月に「保険薬局一覧」に掲載された薬局の巡視調査を行い,タバコ販売状況,喫煙スペースの設置状況,薬店・コンビニエンスストアの併設状況を確認した。結果 全国で2018年に新規指定の保険薬局1,766軒のうち,124軒(7.0%)がタバコ販売許可を受けていた。都道府県別では千葉県(72軒中18軒;25%),山梨県(9軒中2軒;22%),青森県(17軒中3軒;18%)に多く,地方区分別では関東地方(602軒中71軒;11.8%),東北地方(110軒中9軒;8.2%)に多かった。一方,22府県では,タバコ販売許可を新規に受けた保険薬局数は0軒であり,地方区分別では四国地方(64軒中0軒;0.0%),九州地方(211軒中1軒;0.5%)において少なかった。全国におけるコンビニエンスストア併設保険薬局の検討では,都市部を中心に併設薬局は42軒あり,そのうち東京都の8軒を除く34軒(81%)で,タバコ販売が行われていた。保険薬局の巡視調査では,A市で28軒中1軒(4%),B市で29軒中3軒(10%)が対面のみによるタバコ販売を行っており,いずれも薬店併設の薬局であった。そのうちA市の1軒とB市の2軒では周辺と遮蔽されていない屋外喫煙スペースがあった。結論 今回の研究より,タバコ販売を行っている保険薬局が少なからず存在することが確認された。薬剤師による禁煙支援の推進において,薬局・薬店におけるタバコ販売の在り方について十分な議論が望まれる。
著者
矢野 真沙代 橋本 英樹
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.811-818, 2020-11-15 (Released:2020-12-23)
参考文献数
29

目的 高齢運転者による交通事故を防止するべく,免許の“自主”返納をめぐる議論が進んでいる。しかし,“自主”返納の意思決定プロセスやだれがそれに関わっているのかについて現状では情報が乏しい。本研究では,高齢による運転免許の“自主”返納を経験した高齢者を中心に,それを取り巻く人々や環境との間の関係,高齢者の身体認識の変化に注目しつつ,意思決定のプロセスと“自主”の意味を明らかにすることを目的とした。方法 探索的目的を鑑み質的研究法を選択した。日常生活で自動車運転の頻度が高く,自主返納率が全国に比し低い茨城県に着目した。同県A市の一般医療機関を受診中の高齢者のうち,配偶者と暮らしており,運転免許を返納ないし返納を検討中の男性8人を対象に半構造化面接を行った。個別インタビューにて免許取得・返納時期,生活内での運転の意義,免許返納に至る過程と相談者の有無,免許返納後の生活等を尋ねた。インタビュー結果を録音し逐語録に起こしたのち,グラウンデッド・セオリー・アプローチに基づき分析した。結果 当事者は,運転中や日常生活において自分の意思に身体が伴わない《身体の乖離》を経験することで,これまで《身体》は《自分》に内在化され意識していなかった状態から,《身体》を操作する《自分》を日常的に意識しなくてはならないことに戸惑っていた。家族や周囲からの運転技能に対する疑念,運転事故のリスクをめぐるやり取りは,意識化された《自分》にどう対峙するかによって,異なる形で《自主》返納のプロセスにつながっていた。《自分》が事故リスクを抱えた《身体》として内在化された場合,《自分》は喪失され《自主》返納は周囲の意見に折れる形で決定されていた。一方《自分》を過去の人生経験に照らして《再評価》した場合,《自分》を社会のなかで実現する手段として《自主》返納は選択・実行に移されていた。いずれも返納後に生じる《不便》は生じていたが,《自分》の《再評価》がなされたケースでは,返納の判断を積極的に意味づけることができていた。結論 高齢による運転免許返納の意思決定過程は障害の受容過程と近似しており,《自主》返納は,加齢をきっかけとした,《自分》と《身体》,そして社会との関係性の断絶事象であると考えられた。以上から,自分・身体・社会の関係性の再構築を促すことが“自主”返納による心理的影響を緩和するうえで必要であることが示唆された。
著者
佐野 智子 森田 恵子 奥山 陽子 伊藤 直子 長田 久雄
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.288-299, 2018 (Released:2018-06-29)
参考文献数
35
被引用文献数
2

目的 加齢性難聴は大きな健康課題のひとつであり,早期の発見が望まれる。難聴の簡易スクリーニング検査として,指こすり音聴取検査があるが,これまでは加齢性難聴を対象として検討されてこなかった。本研究の目的は,従来の方法を改良した「指こすり・指タップ音聴取検査(Finger Rub/Finger Tap screening test: FRFT検査)」を提唱し,加齢性難聴のスクリーニング検査として,その有効性を検討することである。方法 健康状態を比較的維持し,地域で自立した生活を送っている65歳以上の高齢者を対象とした。介護予防事業(運動教室)の参加者のうち調査協力に同意した73人を対象とし,FRFT検査と純音検査を実施した35人(70耳)を分析対象とした。FRFT検査は,耳からの距離5 cm,30 cm,60 cmの条件で,指こすり音および指タップ音を2回ずつ提示し,その反応を記録するものである。正答を1点,誤答および無答を0点として得点化した。純音検査の結果から4周波数平均聴力を算出し,平均聴力とFRFT合計得点のスピアマンの順位相関係数を算出した。FRFT検査得点を検定変数として,receiver operating characteristics(ROC)解析を行い,感度・特異度からFRFT検査の妥当性を検討した。状態変数は,軽度難聴以上の有無と中等度難聴の有無の2種類で行った。結果 純音聴力とFRFT合計得点に有意な負の相関(r=−0.79, P<0.01)があり,併存的妥当性が確認された。ROC解析により,FRFT合計得点は感度97.6%,特異度71.4%で26 dB以上の難聴を検出可能であった。また,60 cm条件を含めない短縮版(5 cm条件と30 cm条件の合計)でも,感度95.2%,特異度71.4%で26 dB以上の軽度難聴を検出できた。結論 FRFT検査によって,加齢性難聴のスクリーニングが可能であることが明らかになった。非検査耳を遮蔽することなく,軽度難聴以上を検出することができる,非常に簡便で,非侵襲性の高い,優れた検査であることが示された。また,音響分析によって,指こすり音は高音漸傾型の難聴に,指タップ音は低音障害型や全般的に聴力低下がみられる耳垢栓塞にも有効である可能性が示唆された。
著者
星 淑玲 近藤 正英 大久保 一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.505-513, 2010 (Released:2014-06-12)
参考文献数
15
被引用文献数
1

目的 近年,高齢者に対する肺炎球菌ワクチンの公費助成接種事業を実施する自治体が増加している。本研究は,実施経験を持つ全自治体を対象に調査を行い,1 接種あたりの公費助成額•自己負担額および特定期間の接種率などについて明らかにする。方法 2007年までに高齢者を対象に肺炎球菌ワクチンの公費助成接種事業の実施経験を有する63自治体に調査票を郵送した。1 接種あたりの公費助成額•自己負担額の年度別平均値および特定期間の接種率の平均値の年次推移は分散分析を用いて検討した。その後の比較は多重比較の問題を考慮して行った。なお,有効回答数が 2 以下の場合は分析から除外した。結果 2001~2007年度の年度別実施自治体数は,1, 2, 18, 18, 24, 41, 56で,延べ実施年数は160年あった。年度別公費助成額(回答率93.1%, 149/160)の平均値は2003~2007年年度順で3,233円,3,225円,3,168円,3,158円,3,351円であり,年次推移に有意差が認められなかった(F=0.195, P=0.964)。自己負担額(回答率68.1%, 109/160)の平均値は2003~2007年年度順で3,899円,3,928円,3,979円,3,891円,3,672円であり,年次推移に有意差は認められなかった(F=0.271, P=0.949)。実施年数ごと(0~1 年,1~2 年,2~3 年,3~4 年,4~5 年)の年間接種率(回答率68.1%, 109/160)の平均値はそれぞれ17.7%, 5.4%, 3.7%, 3.4%, 4.6%,であり,0~1 年以外のいずれの年のも 0~1 年より有意に接種率が低下していた(Dunnett T3 法,P<0.001)。実施初年度接種率(回答率80.9%, 51/63)の平均は,2003年度が32.1%, 2005年度が8.5%, 2006年度が13.6%, 2007年度が16.5%であり,2003年度は2005年度と2006年度の間にそれぞれ有意差が認められた(Tukey's HSD 法,P 値はそれぞれ0.030と0.015である)。結論 高齢者に対する肺炎球菌ワクチンの公費助成接種の 1 接種あたりの公費助成額•自己負担額および特定期間の接種率の実態が結果に示したように初めて明らかになった。今後の予防接種や感染症行政等の評価に有用な情報が得られた。
著者
横山 美江 畠山 典子 村上 奈々美
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.357-367, 2022-05-15 (Released:2022-05-24)
参考文献数
27

目的 本研究では,フィンランドの基盤のシステムである就学前のすべての子どもをもつ家族を担当保健師が継続して支援するシステムを導入した自治体において,システム導入前と導入後の保健師の母子保健活動に対する認識の変化について分析することを目的とした。方法 データ収集期間は,2020年9月から10月であった。データ収集は,インタビューガイドに基づいた半構造化面接によるフォーカスグループインタビューを実施した。本研究は,大阪市立大学大学院看護学研究科倫理審査委員会の承認を得て実施した。結果 研究参加者は,12人であった。担当保健師が継続して支援するシステムを導入する前の保健師の母子保健活動に関する認識として4つのカテゴリーが抽出され,導入後の認識としては8つのカテゴリーを抽出した。担当保健師による継続支援システムを導入する前から,保健師は【ハイリスクケースを中心とした継続的な対応】を行い,【対象者のリスクに注力】しながら活動していたものの,【ハイリスクケース以外の対象者への点での関りによるその場しのぎの対応】にならざるを得ない状況で,【積極的に対象者に介入することに躊躇】していた。しかしながら,担当保健師による継続支援システムの導入後,担当保健師としてハイリスクケース以外の家族に対しても【継続支援による信頼関係から生じる対象者の変化に応じた対応】ができるようになり,【対象者の些細な変化への気づき】もできるようになっていた。そのため,【担当保健師として積極的に対応】し,【早期からの継続的な予防的介入】が可能になったと認識していた。保健師は,【対象者への直接的な支援の増加による忙しさ】を感じつつも,【児の成長や育児スキルの上達への喜びを母親と共感】し,【保健師として喜びとやりがい】を感じながら,【保健師(専門職)としてのスキルアップ】の必要性も強く認識していることが明らかとなった。結論 本研究結果より,担当保健師による継続支援システムを導入することにより,保健師がハイリスクケース以外の家族に対しても積極的に関わることができ,早期からの予防的介入ができる可能性が高いことが示された。また,保健師としての喜びややりがいを高めることができることも示され,保健師としてのスキルアップの必要性も強く認識していることが明らかとなった。
著者
瀧澤 透
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.399-406, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
19
被引用文献数
2

目的 統合失調症やうつ病など精神疾患は自殺の危険因子とされるが,自殺死亡の実態は十分に把握されていない。本研究は人口動態統計の自殺死亡について,死亡票の「死亡の原因」欄などにある精神疾患の記載状況を調査集計することで,自殺死亡における精神疾患の実態を明らかにすることを目的とする。方法 調査対象は平成20年人口動態統計の自殺死亡30,229人であり,方法は目的外使用による死亡票閲覧•転写入力と提供を受けたオンラインデータの分析より精神疾患の記載状況を検討した。なお,平成20年自殺死亡30,229人のうち確認できたものは29,799人(98.3%)であった。精神疾患については,死亡票の「死亡の原因」欄のほか,「外因死の追加事項」,「その他付言すべきことがら」の各欄に記載があった場合を有効とした。結果 なんらかの精神疾患の記載があった者は29,799人中2,964人であった。主な記載は次の通りであった。認知症55人(このうちアルツハイマー型認知症は13人),アルコール依存症•精神病116人,統合失調症550人,躁うつ病•双極性障害101人,うつ病1,913人,強迫性障害13人,適応障害22人,摂食障害14人,不眠症•睡眠障害49人,パーソナリティ障害24人,広汎性発達障害 6 人。なお,複数の診断がある者は125人いた。結論 平成20年警察統計では,統合失調症は1,368人,うつ病は6,490人であり,本研究と大きな違いがあった。近年,法医学では検死制度の在り方が提言されているが,公衆衛生学や精神医学の立場からも死因究明に対して提案していくことが必要であると思われた。
著者
Ling LING 辻 大士 長嶺 由衣子 宮國 康弘 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.800-810, 2020-11-15 (Released:2020-12-23)
参考文献数
41
被引用文献数
3

目的 超高齢社会において,認知症予防は重要な課題である。先行研究では,趣味を有する高齢者は認知症リスクが低く園芸,観光,スポーツ系の趣味を行っている者では認知症リスクが低いと報告されている。しかし,趣味の種類の数が増えれば効果も上乗せされるのか,またたとえばスポーツ系の中でも種類によって認知症の発症リスクが異なるのかは明らかでない。本研究の目的は,趣味の種類および数と認知症発症との関連を,約6年間の大規模縦断データを用いて明らかにすることである。方法 日本老年学的評価研究(JAGES)が2010年に実施した要介護認定を受けていない高齢者を対象とした調査の回答者で,年齢と性に欠損がない56,624人を6年間追跡した。趣味の質問に有効回答が得られた者のうち,追跡期間が365日未満の者を除く49,705人を分析対象者とした。アウトカムの認知症発症は,365日以降の認知症を伴う要介護認定の発生と定義した。実践者割合が5%以上の趣味の種類(男性14種類,女性11種類)およびその数(0~5種類以上)を説明変数とし,基本属性,疾患,健康行動,社会的サポート,心理・認知機能,手段的日常生活動作能力の計22変数を調整したCox比例ハザードモデルを用いハザード比(HR)を算出した。結果 追跡期間中に4,758人(9.6%)に認知症を伴う要介護認定が発生した。男女いずれも,認知症リスク(HR)はグラウンド・ゴルフ(男:0.80,女:0.80),旅行(男:0.80,女:0.76)を趣味としている者において,それらが趣味ではない者と比較して低かった。さらに男性ではゴルフ(0.61),パソコン(0.65),釣り(0.81),写真撮影(0.83),女性では手工芸(0.73),園芸・庭いじり(0.85)を趣味とする者で低かった。男女ともに趣味の種類の数が多くなるほど認知症発症リスクが低くなる有意なトレンドが確認された(男:0.84,女:0.78)。結論 男女ともグラウンド・ゴルフ,旅行が趣味の者では認知症リスクが低く,また趣味の種類の数が増えるほどリスクは低下することが示唆された。本研究で有意な関連が見られた趣味の種類を中心に,高齢者が多様な趣味を実践できる環境づくりが,認知症予防を効果的に進めるうえで重要であることが示唆された。
著者
中村 好一 松原 優里 笹原 鉄平 古城 隆雄 阿江 竜介 青山 泰子 牧野 伸子 小池 創一 石川 鎮清
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.72-82, 2018 (Released:2018-04-03)
参考文献数
27

目的 地方紙における遺族の自己申告型死亡記事の記載事項を集計し,その地域での死亡やそれに伴う儀式の実態を明らかにするとともに,死亡記事のデータベースとしての利点と問題点を明らかにする。方法 栃木の地方紙である下野新聞の自己申告型死亡記事「おくやみ」欄に掲載された2011~2015年の栃木県内の死亡者全員のデータを集計解析し,一部の結果は人口動態統計と比較した。観察項目は掲載年月日,市町村,住所の表示(市町村名のみ,町名・字まで,番地まで含めた詳細な住所),氏名,性別,死亡年月日,死因,死亡時年齢,通夜・告別式などの名称,通夜などの年月日,告別式などの年月日,喪主と喪主の死亡者との続柄の情報である。結果 観察期間中の掲載死亡者数は69,793人で,同時期の人口動態統計による死亡者数の67.6%であった。人口動態統計と比較した掲載割合は男女で差がなく,小児期には掲載割合が低く,10歳代で高く,20歳台で低下し,以降は年齢とともに上昇していた。市町別の掲載割合は宇都宮市や小山市など都市化が進んだ地域では低く,県東部や北部で高い市町がみられた。最も掲載割合が高かったのは茂木町(88.0%),低かったのは野木町(38.0%)であった。死亡日から通夜や告別式などの日数から,東京などで起こっている火葬場の供給不足に起因する火葬待ち現象は起こっていないことが判明した。六曜の友引の日の告別式はほとんどなく,今後,高齢者の増加に伴う死者の増加によって火葬場の供給不足が起こった場合には,告別式と火葬を切り離して友引に火葬を行うことも解決策の1つと考えられた。死亡者の子供,死亡者の両親,死亡者の子供の配偶者が喪主の場合には,喪主は男の方が多いことが判明した。老衰,自殺,他殺の解析から,掲載された死因の妥当性は低いことが示された。結論 栃木県の地方紙である下野新聞の自己申告型死亡記事「おくやみ」欄の5年分の観察を行い,実態を明らかにした。約3分の2に死亡が掲載されており,データベースとしての使用に一定の価値があると考えられたが,記載された死因の妥当性は低いことが判明した。
著者
小林 真之 武知 茉莉亜 近藤 亨子 大藤 さとこ 福島 若葉 前田 章子 廣田 良夫
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.605-611, 2010 (Released:2014-06-12)
参考文献数
27

目的 不活化インフルエンザワクチン接種とギラン•バレー症候群(GBS)の関連について文献的に考察する。方法 米国予防接種諮問委員会(The US Advisory Committee on Immunization Practices: US-ACIP)の勧告に引用されている文献を中心に,不活化インフルエンザワクチンと GBS の関連についてこれまでの報告を要約するとともに,考察を加える。結果 1976年,米国において接種キャンペーンが実施された A/New Jersey/76インフルエンザワクチンについては GBS との因果関係が明らかであった。その後の季節性インフルエンザワクチンと GBS については,一貫した論拠は得られなかった。統計学的に有意な関連を報告した文献では,研究の限界を考慮した寄与危険は最大で100万接種あたり1.6例と推定されていた。考察 通常の季節性インフルエンザワクチンと GBS の因果関係について,結論は得られなかった。しかし,これまで報告されているインフルエンザの疾病負担およびワクチン有効性と対比すると,インフルエンザワクチン接種が疾病負担を軽減する有益性は,観察されている季節性ワクチン接種後の GBS のリスクを大きく上まわると考察された。
著者
片野田 耕太 十川 佳代 中村 正和
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.23-076, (Released:2023-12-21)
参考文献数
57

「たばこハームリダクション」は「たばことニコチンの使用を完全に排除することなく,害を最小限に抑え,死亡と疾病を減少させること」と定義される。加熱式たばこが普及している日本において,たばこ産業側の「たばこハームリダクション」を用いたプロモーションが活発化しており,たばこ対策関係者は背景や考え方を共有する必要がある。本稿は,「たばこハームリダクション」を公衆衛生施策として実施するための要件を,①リスク低減,②禁煙の効果,③新たな公衆衛生上の懸念,および④保健当局の規制権限,の4つに集約し,ニコチン入り電子たばこ(以下,電子たばこ),加熱式たばこのそれぞれについて検討することを目的とした。さらに,国際機関(世界保健機関;WHO)および諸外国(米国,英国,オーストラリア,イタリア,および韓国)の保健当局の「たばこハームリダクション」に対する方針についてまとめた。最初の3つの要件について,電子たばこは,リスク低減および禁煙の効果については一定の科学的証拠があるが,若年者における使用の流行と紙巻たばこ使用へのゲートウェイドラッグ(入門薬)になりえるという公衆衛生上の懸念については一致した見解が得られていなかった。加熱式たばこについては最初の3つの要件いずれについても十分な科学的証拠はなかった。WHOはあらゆるたばこ製品について同じ規制をすべきであるという立場をとっていた。保健当局が「たばこハームリダクション」の考え方を制度として導入していたのは英国と米国のみであり,加熱式たばこが比較的普及しているイタリアおよび韓国でもリスク低減については保健当局が否定していた。英国は電子たばこによる禁煙支援を公式に認めていた一方,米国は2009年に制定された連邦法に基づいてmodified risk tobacco product(リスク改変たばこ製品)の制度を設けたが,2023年6月現在,加熱式たばこまたは電子たばこで健康リスクを低減すると認められた製品はなかった。4つ目の要件について,英国,米国ともたばこ産業から独立した保健当局の規制の下に「たばこハームリダクション」が制度化されていた。「たばこハームリダクション」の導入には,たばこ産業から独立した保健当局の規制権限と包括的なたばこ対策の履行が必須だと考えられる。
著者
西岡 大輔 上野 恵子 舟越 光彦 斉藤 雅茂 近藤 尚己
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.461-470, 2020-07-15 (Released:2020-07-31)
参考文献数
43

目的 経済的困窮や社会的孤立など,生活困窮状態は健康の社会的リスクであり,医療的ケアの効果を阻害する要因でもある。近年,患者の社会的リスクに対応する医療機関の取り組みが広がりを見せつつあり,その対象者を適切にスクリーニングできる方法の確立が求められる。そこで,医療機関で活用することを想定した生活困窮評価尺度を開発しその妥当性と信頼性の一部を検証した。方法 5つの医療機関を新規に受診した成人を対象に横断研究を実施した。生活困窮に関する25の質問の回答結果を用いて探索的因子分析を行った。反復主因子法により因子数を規定し因子を抽出した。プロマックス回転を用いた。抽出された因子の妥当性と信頼性を検証した。信頼性の検証には標準化クロンバックα係数を算出した。得られた結果から因子負荷量が高い設問を選択し,簡易尺度の問診項目を選定した。結果 対象者は265人であった(回答率:75.1%)。因子分析の結果,経済的困窮と社会的孤立の2因子が抽出され,因子負荷量が0.40以上のものとして,経済的困窮尺度では8問,社会的孤立尺度では5問が主要な設問の候補として抽出された。標準化クロンバックα係数は,経済的困窮尺度で0.88,社会的孤立尺度で0.74であった。さらに,簡易尺度の問診項目を各因子の因子負荷量が高いものから2項目ずつ選定した。すなわち「この1年で,家計の支払い(税金,保険料,通信費,電気代,クレジットカードなど)に困ったことはありますか。」「この1年間に,給与や年金の支給日前に,暮らしに困ることがありましたか。」「友人・知人と連絡する機会はどのくらいありますか。」「家族や親戚と連絡する機会はどのくらいありますか。」であった。考察 医療機関で患者の生活困窮を評価することを想定した尺度を開発し,一定の妥当性・信頼性を確認した。尺度の実用化に向けては,保健・医療・介護・福祉・地域社会の十分な連携のもと,質問項目の回答に対するスコアリングと地域や医療機関の特性に応じた本尺度のカットオフ値の設定,さらなる一般化可能性の検証等が必要である。
著者
熊谷 修 渡辺 修一郎 柴田 博 天野 秀紀 藤原 佳典 新開 省二 吉田 英世 鈴木 隆雄 湯川 晴美 安村 誠司 芳賀 博
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1117-1124, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
23
被引用文献数
35

目的 地域在宅高齢者における食品摂取の多様性と高次生活機能の自立度低下の関連を分析する。対象と方法 対象は,秋田県南外村に在住する65歳以上の地域高齢者である。ベーライン調査は1992年,追跡調査は1997年に行われた。ベースライン調査には748人が参加し,追跡時に生存し調査に参加した男性235人,女性373人,計608人(平均年齢:71.5歳)を分析対象とした。調査方法は面接聞き取り調査法を採用した。高次生活機能の自立度は,老研式活動能力指標により測定した。食品摂取の多様性は,肉類,魚介類,卵類,牛乳,大豆製品,緑黄色野菜類,海草類,果物,芋類,および油脂類の10食品群を選び,1 週間の食品摂取頻度で把握した。各食品群について「ほぼ毎日食べる」に 1 点,「2日 1 回食べる」,「週に 1, 2 回食べる」,および「ほとんど食べない」の摂取頻度は 0 点とし,合計点数を求め食品摂取の多様性得点とした。解析は,1 点以上の老研式活動能力指標得点の低下の有無を従属変数(低下あり 1,なし 0),食品摂取の多様性得点を説明変数とする多重ロジスティック回帰分析によった。結果 分析対象のベースライン時の食品摂取の多様性得点の平均値は男性,6.5,女性6.7点であった。老研式活動能力指標総合点の平均点は11.4点であった。食品摂取の多様性得点の高い群で老研式活動能力指標の得点低下の危険度が低いことが認められた。老研式活動能力指標の得点低下の相対危険度[95%信頼区間]は,食品摂取の多様性得点が 3 点以下の群(10パーセンタイル(P)以下)を基準としたとき,4~8 点の群(10P 超90P 未満)および 9 点以上の群(90P 以上)では,手段的自立においては,それぞれ0.72[0.50-1.67], 0.61[0.34-1.48],知的能動性においては,それぞれ0.50[0.29-0.86], 0.40[0.20-0.77],社会的役割においては,それぞれ0.44[0.26-0.0.75], 0.43[0.20-0.82]であった。この関係は,性,年齢,学歴,およびベースラインの各下位尺度得点の影響を調整した後のものである。結論 多様な食品を摂取することが地域在宅高齢者の高次生活機能の自立性の低下を予防することが示唆された。
著者
杉山 雄大 今井 健二郎 東 尚弘 冨尾 淳 田宮 菜奈子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.567-572, 2020-09-15 (Released:2020-10-10)
参考文献数
20
被引用文献数
1

目的 米国CDCについて概説し,今般のCOVID-19拡大とその対応を受けて今後日本版CDCを構想する際に検討するべき論点について提案する。方法 筆者らがCDCを訪問した際のインタビュー,ウェブサイト等からの情報をもとに,CDCについて概説した。その上で,日本版CDCに関する既存の見解や本邦の現状,COVID-19対応の教訓を踏まえて日本版CDCを構想する上で検討するべき論点を整理した。結果・結論 CDCは「健康,安全,セキュリティの脅威から米国を守る」ことをミッションとする,公衆衛生の主導的立場にある米国連邦政府機関である。実地疫学,緊急準備と対応,サーベイランス・統計調査,検査方法・調査方法の開発,情報発信,人材育成,検疫,予算配分などを行っており,COVID-19にも様々な対応をしている。日本版CDCを構想する際には,対象とする疾患や課題のスコープ,組織体制,ミッション,科学的中立性の担保,人材育成のあり方などについて議論する必要がある。
著者
久保 達彦 蓮沼 英樹 森松 嘉孝 藤野 善久 原 邦夫 石竹 達也
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.8, pp.403-411, 2017 (Released:2017-09-30)
参考文献数
24
被引用文献数
1

目的 環境負荷の少ないクリーンなエネルギーとして,風力発電の導入が先進国を中心に世界各国で進んでいる。一方で,風力発電施設からの低周波音・騒音に関して近隣住民の健康被害の訴えが報告されており,わが国においても風車騒音に係る基準やガイドライン策定の検討が行われている。そこで本研究では,今後,健康影響を考慮にいれた低周波音・騒音基準の設定を行う上で参考となる知見を明らかにすることを目的に,風力発電風車の近隣住民を対象にした疫学研究について文献レビューを実施した。方法 風力発電風車からの騒音に伴う健康影響に関する疫学研究論文を,PubMEDを用いて収集した。また最新の情報を収集するために関連国際学会Inter-Noise 2013, Wind Turbine Noise 2015の抄録からも追補的に情報を得た。抽出された疫学研究論文を研究デザイン,研究対象者,曝露評価,アウトカム,交絡要因および研究結果に関する情報別に整理しエビデンステーブルを作成した。結果 近隣住民を対象とした疫学研究として11件が抽出された(うち2件は国際学会抄録)。アウトカムとして,騒音の知覚(Perception),アノイアンス(Annoyance:騒音によるうるささ),ストレス,睡眠との関連が報告されていた。風車騒音とアノイアンス,主観的評価に基づく健康指標の間には統計的に有意な関連が繰り返し報告されていた。影響の大きさは,A特性音圧レベル1 dB増加あたりオッズ比1.1程度と2つの研究が報告していた。その他のアウトカムでは影響の大きさに関して研究間比較ができなかった。交絡因子として,風力発電への姿勢,景観に対する姿勢,風力発電からの経済的恩恵,風車の可視性,音への感受性,健康への懸念との影響が報告されていた。結論 風力騒音とアノイアンスについては,主観的評価に基づく健康指標の間には統計的に有意な関連が繰り返し報告されていた。ただし,アノイアンスが風力発電施設建設に対する心理的影響なのか,騒音曝露による心理的影響なのかについて,現状のエビデンスにおいてはその区別が明確にはつけられない状況であった。
著者
上田 博三
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.157-164, 2010 (Released:2014-06-12)
参考文献数
13