著者
岑 友里恵
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.568, 2007-12-15 (Released:2008-02-01)
参考文献数
2

トランスグルタミナーゼ(EC 2.3.2.13 : TGase)は1957年にClarkeらによってモルモット肝に見出されたトランスアミド化活性を有する酵素として紹介された.1968年,Pisanoらによる血液凝固の研究で,ペプチド結合-グルタミル残基(アシル供与体)のγ-カルボキシアミド基とペプチド結合-リジン(アシル受容体)のε-アミノ基との間のアシル転位反応を触媒し,ε-(γ-グルタミル)リジン(G-L)結合を形成してタンパク質間を架橋することが明らかにされた(図1).その後,TGaseは無脊椎動物,両生類,魚類,鳥類,哺乳類,植物,微生物等,自然界に広く存在することがわかり,その存在理由や生理学的役割の究明に関する生化学的分野での研究が活発化した.当初は牛,豚,魚類といった食用動物の組織や体液からの酵素抽出が行われ,分子量70~90kDa,活性中心がシステイン残基で,Ca2+依存性のモルモット肝TGaseや牛血漿TGaseが実験室規模で単離され,特に前者がTGaseとしてよく研究に用いられた.そして,動物TGaseは血液凝固,傷回復,外皮ケラチン化,赤血球膜硬化などの生理学的役割を有していることが明らかにされた.我が国においてはSekiらがカマボコ製造工程での坐りが魚の内生TGaseに起因していることを示し,Kumazawaらが実際に,すり身製造に使うスケトウダラの分子量77kDaでCa2+依存性の内生TGaseを分離・精製して以来,食品タンパク質の改質のための応用研究が盛んになった.と同時に,本酵素の食品工業向け生産方法が探索され,1989年,培養液中にTGaseを分泌する微生物Streptomyces mobarensisの変異株が発見され,通常の発酵法によりS. mobarensis起源のTGaseが工業生産されるようになった.この酵素の至適pHは5~8,至適温度は55℃で,活性中心は動物TGaseと同じで,従って反応性も同じであるが,その分子量(38kDa)及びCa2+非依存性においてそれと異なっている.この微生物TGaseのCa2+非依存性はCa2+で沈澱しやすい食品タンパク質の修飾にとって好適で,近年,魚肉すり身ゲルの弾力強化,鶏肉ゲルの食感改善,麺の歯ごたえの増加や茹で延び防止,豆腐の弾性付与,食用素材の接着,非加熱凝固ゼラチンの調製,そして可食フィルムの調製等,数多くの新規食品や機能性改変法の開発をもたらしている.また,これらTGase処理架橋タンパク質は摂食後,胃腸消化酵素でG-Lジペプチドを残してアミノ酸に分解される.G-L結合は腎臓のγ-グルタミルアミンシクロトランスフェラーゼと,腸の刷子縁膜と血液中に存在するγ-グルタミルトランスフェラーゼ(血液検査で肝臓疾患の指標とされるγ-GPT)によってグルタミン酸誘導体(G)とリジン(L)に代謝され,遊離したLは栄養成分(必須アミノ酸の1つ)として吸収される.一方,G-L結合は多くの一般食品中にも存在し,また食品調理そのものも加熱による食品素材に内在するTGaseの反応でタンパク質中のG-L結合を増加させるため,人類は火と調理の発見以来,G-L結合を摂取してきていることになり,TGaseによるタンパク質修飾は栄養学的にも有用で,安全なものであるといえる.
著者
秋山 正行 片倉 友義 渡邊 武俊 今吉 有理子 池田 三知男 市橋 信夫 大西 正展 岩渕 久克
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.76-83, 2012-02-15
参考文献数
12
被引用文献数
1

(1) ゲーブルトップ紙容器の透過香気成分を捕集するガラス製装置を作製した.<BR>(2) グレープティーの透過香気成分の捕集条件を検討した結果,SPMEファイバー種:PDMS/DVB,捕集温度:10℃,捕集時間:30分間,捕集タイミング:24時間静置後,に設定した.<BR>(3) ノンバリアとバリア容器種間で,香気成分量に差が認められるグレープティーの透過香気成分を明らかにした.特にエステル類において差が顕著であった.<BR>(4) 容器種間で透過香気の匂い強度が顕著に異なる,6種の匂い成分(ethyl 2-methylpentanoate, ethyl butanoate, ethyl 2-methylbutanoate, ethyl 3-methylbutanoate, ethyl 2-methylpentanoate, methyl anthranilate)を明らかにした.
著者
佐藤 三佳子 岩井 浩二 鬼塚 英一郎 高畑 能久 森松 文毅 佐藤 雄二
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.159-163, 2011-04-15 (Released:2011-05-31)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

ブタ大動脈を原料としてエラスチン加水分解ペプチド(エラスチンペプチド)を調製し,その摂取がヒトの皮膚弾力性にもたらす影響について検討した.はじめに,エラスチンペプチド経口摂取後のヒト血液中のアミノ酸濃度の変化を観察した.成人男性5名を被験者として,12時間絶食後にエラスチンペプチドを摂取させた.その結果,エラスチンペプチド経口摂取後に血中の総アミノ酸量が増加し,増加したアミノ酸の組成は,摂取したエラスチンペプチドのアミノ酸組成に類似していた.また,ハイドロキシプロリンおよびアルギニンがそれぞれペプチド態として血中に検出され,エラスチンペプチドの少なくとも一部はペプチド態として血中に移行していると考えられた.次に,39名の中高齢者を3群にわけ1日量0, 100, 200mgのエラスチンペプチドを8週間継続摂取させ皮膚弾力性を測定した.100mg, 200mg摂取群において摂取開始8週目に摂取前と比較して有意に皮膚弾力性が上昇した.またその変化率は0mgと比較して200mg群で有意に高値を示した.以上より,エラスチンペプチドの経口摂取はヒトの皮膚弾力性を向上させることが示唆された.
著者
貝沼 やす子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.487-493, 2008-10-15
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

精白米を10℃,-20℃,-40℃,-60℃に6ケ月間保存したところ,いずれの保存温度においても保存中に水分は変動しなかった.米への吸水は,10℃に保存した場合,保存期間が長くなるに連れ減少し,6ケ月後には顕著に低い吸水率となった.-20℃,-40℃と保存温度が低くなるにつれて0ケ月との差は小さくなり,-60℃保存は最も差が小さかった.0ケ月との差は浸漬の最初の段階で顕著に現れ,表層部に生じた古米化現象による影響であると考えられた.吸水後の米粒の硬度は,-60℃保存は0ケ月と変わっていなかったが,-40℃,-20℃保存はわずかに差が生じ,10℃保存については大きな差が見られ,いずれも硬く変化していた.浸漬液に溶出した還元糖量は10℃,-20℃,-40℃保存では,保存期間が長くなるにつれて減少したが,-60℃保存では溶出する還元糖に変化が見られず,酵素の活性が維持されていると考えられた.<BR>米飯の破断強度測定,テクスチャー測定では,保存期間が長くなると0ケ月と比較してかたく,付着性が少ない米飯となり,保存により米飯の物性が変化した.この変化は10℃保存の米飯で顕著であった.-20℃,-40℃と温度が低下するにつれて変化は小さくなり,-60℃保存では0ケ月の米飯の物性とほぼ同じ状態であった.官能検査においても,保存温度が最も低い-60℃保存の米で炊飯した米飯は10℃保存の米飯に比較して,有意に粘りがあり,やわらかいと評価され,総合評価においても有意に好まれた.
著者
伊藤 満敏 大原 絵里 小林 篤 山崎 彬 梶 亮太 山口 誠之 石崎 和彦 奈良 悦子 大坪 研一
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.576-582, 2011-12-15
参考文献数
31
被引用文献数
2 7

有色素米8品種(赤米4種,紫黒米4種)と対照のコシヒカリについて,抗酸化能(活性酸素吸収能(ORAC)およびDPPHラジカル消去能)の測定,ならびにフォーリン-チオカルト法を用いた総ポリフェノール含量の測定を行った.有色素米の抗酸化能は総ORACが58.0-169.4 &mu;mol TE/g-dry weight,DPPHラジカル消去能が10.8-52.2 &mu;mol TE/g-dry weightの範囲であり,いずれも「コシヒカリ」の24.9および2.5 &mu;mol TE/g-dry weightに比べて著しく高かった.総ポリフェノール含量とH-ORACおよびDPPHラジカル消去能には高い正の相関(<I>r</I>=0.984および<I>r</I>=0.948,<I>p</I><0.01)があり,H-ORACとDPPHラジカル消去能との相関性も高かった(<I>r</I>=0.946,<I>p</I><0.01).また赤米からはプロアントシアニジンが,紫黒米からはアントシアニンが検出され,これらポリフェノール成分含量と抗酸化能との相関も高かった.5品種の有色素米において,収穫年の違いにより抗酸化能およびポリフェノール含量は増減したが,品種間の大小関係への影響は少なかった.以上の結果より,有色素米が抗酸化能の供給源として有用であり,その主要な抗酸化成分はポリフェノールであることが示唆された.
著者
深井 洋一 塚田 清秀
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.587-591, 2006-11-15 (Released:2007-09-29)
参考文献数
17
被引用文献数
4 4

米の収穫された年産および品種を異にした3試料を供試し,洗米時の研ぎ回数1回および3回で炊飯後,ジャー炊飯器内保温を24時間まで行い,保温時間の経過に伴う,品質・食味差を検証した.炊飯食味計測定値,色調およびにおい識別値の測定結果から,保温時間の経過に伴う,研ぎ回数別の傾向は,研ぎ回数1回よりも3回の方が,品質劣化の度合が小さかった.主成分分析により,研ぎ回数別で散布傾向が異なるグループ形成をすることを明らかにした.研ぎ回数を増やすことにより,炊飯米の保温中の品質保持に一定の効果があることが示唆された.
著者
石崎 太一 黒田 素央 久野 真奈見 北面 美穂 早渕 仁美
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.343-346, 2007-07-15 (Released:2007-10-04)
参考文献数
14
被引用文献数
8 7

鰹節だしの継続摂取が単純作業負荷によって生じる精神疲労やストレス,および作業効率に対する影響について,健常な成人女性を対象として調査を行った.1週間の非摂取期間の後,被験者に鰹だしを1週間摂取させた.非摂取期間後および鰹節だし摂取期間後に評価を実施した.単純作業負荷として内田-クレペリンテスト(UKP)を行い,UKPの前後にProfile of Mood States(POMS)による気分·感情状態の調査,フリッカー値の測定ならびに唾液コルチゾールの測定を行った.非摂取期間後には,UKP負荷後のフリッカー値は負荷前に比べて有意に低値を示したが,鰹節だし摂取期間後には負荷前後で有意な変化は見られなかった.負荷前の唾液コルチゾール値は非摂取期間後に比べて鰹節だし摂取期間後に有意に低下した.さらに,鰹節だし摂取期間後のUKPの誤答率は,非摂取期間後の誤答率と比較して,有意に低値を示した.これらの結果から,鰹節だしの継続摂取により,単純作業負荷時に精神的疲労が少なくなる傾向,ストレス応答が低下する傾向ならびに計算作業効率の低下が抑制される可能性が示唆された.
著者
海野 知紀 駒込 乃莉子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.9, pp.457-462, 2018-09-15 (Released:2018-09-19)
参考文献数
22

ラードを配合した高脂肪食に大麦若葉搾汁末を添加し,これをラットに4週間自由摂取させたときの糞中腸内細菌叢を分析した.本飼育開始前後における比較では,大麦若葉搾汁末を添加した群でBacteroides属の占有率が有意に減少し,Prevotella属の占有率が上昇した.また,群間での比較では,C群,HF群と比較して2% YBL群,10% YBL群のPrevotella属の占有率が高値を示し,Bacteroides属に対するPrevotella属の比(P/B比)の上昇が認められた.以上より,大麦若葉搾汁末は高脂肪食を負荷したラットにおいて腸内細菌叢に変化をもたらすことが示唆された.
著者
木谷 裕亮 堀田 博 本多 一郎
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.49-52, 2002-01-15
参考文献数
12
被引用文献数
2 2

小麦4品種(バンドウワセ,農林61号,つるぴかり,あやひかり)を,様々な栽培条件や収穫時期で栽培・収穫した.収穫物は60%粉(A粉)に製粉し,色相(L*, a*, b*値)を測定し, Ca, K, Mg, Cu, Fe, Mn, Znの含有量を測定した.<BR>ミネラル含有量と小麦粉の色相を比較したところ,窒素施肥量の増加により色相が低下した場合,Mg, Cu, Znの含有量が増加し,収穫時期の遅れに伴って色相が低下した場合,Ca, K, Mg, Znの含有量が減少したが,Feの含有量は増加した.<BR>また,鉄の含有量の増加に伴ってL*値の減少が観察され,鉄の含有量とL*値の間には相関関係があった(相関係数は0.70-0.84)ことから,鉄が小麦粉の色相と関連していることが示唆された.
著者
林 徹 翠川 美穂
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.471-475, 2011-10-15
参考文献数
8
被引用文献数
2

3月11日の東日本大震災に伴う原子力発電所の事故以降、われわれが口にする食品や水などの放射能汚染が次々と明らかになっている.3月中旬の水素爆発直後はホウレンソウ、しいたけ、牛乳、水道水などの汚染、汚染水の海洋放出が始まるとコウナゴをはじめとする魚介類の汚染、そして7月中旬にはセシウムで汚染した牛肉の販売が明らかになった.また、母乳や子供の尿からは放射性元素が検出されている.その結果、国民の間に健康への不安が広がり、科学的な情報提供が求められている.そこで、放射能や放射線の基礎から放射能汚染した食品、飲料、大地が健康に及ぼす影響について解説する.
著者
津田 孝範 深谷 吉則 大島 克己 山本 明 川岸 舜朗 大澤 俊彦
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.430-435, 1995-06-15
参考文献数
18
被引用文献数
2 11

タマリンド種皮抽出物の抗酸化性を食品加工へ利用するための基礎について検討した.<BR>(1) タマリンド種皮抽出物は,リノール酸モデル系において強い抗酸化性を示し,クエン酸及びα-トコフェロールとの間に相乗効果を示した.<BR>(2) タマリンド種皮抽出物は,100℃,2時間の加熱に対して安定であり,pHの変化に対しては,pH 5.0で抗酸化性の低下が認められた.また塩化ナトリウム存在下では,10%溶液中でも抗酸化性は,70%以上の残存率を示した.<BR>(3) 実際の食用油脂としてラード及びコーンサラダ油にタマリンド種皮抽出物を添加したところ,いずれの油脂においても抗酸化性を示した.
著者
高杉 美佳子 加藤 雅子 前田 典子 島田 和子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.121-127, 2010-03-15 (Released:2010-05-01)
参考文献数
32

14種の乾燥ハーブ熱水抽出物のヒスタミンおよびロイコトリエン(LT) B4放出抑制作用,DPPHラジカル消去活性,デオキシグアノシン酸化阻害活性を検討し,ポリフェノール量およびフラボノール類量を定量した.ペパーミント,ローレル,バジル(F),ローズマリーは,ラット腹腔細胞からのヒスタミンの放出を50%以上抑制し,ポリフェノール量の多い乾燥ハーブ熱水抽出物ほどヒスタミン放出量が低下する傾向が認められた.また,タイム,スペアミント,マジョラム,セージ,オレガノ,ペパーミント,タイム(F),ローズマリー(F),ローズマリーは,LTB4の放出を約50%以上抑制した.ヒスタミンおよびLTB4放出を抑制した乾燥ハーブ熱水抽出物には,ポリフェノールが多く含まれ,DPPHラジカル消去活性およびデオキシグアノシン酸化阻害活性が高い傾向が認められた.この結果は,ハーブ熱水抽出物によるヒスタミンおよびLTB4放出抑制作用では抗酸化作用を有するポリフェノール類が関与している可能性を示唆しており,その作用機序の一つとして,ラジカルの消去が考えられる.
著者
立山 千草 五十嵐 喜治
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.218-224, 2006-04-15 (Released:2007-05-15)
参考文献数
19
被引用文献数
6 11

ナス果菜外果皮の色が異なる4種のナス果菜において,外果皮,果肉,花弁部位を3%トリフルオロ酢酸で抽出して得られる粗抽出液およびそのSep-Pak Plus C18カートリッジ吸着画分からメタノールで溶出して得られる画分(粗精製抽出液)についてアントシアニン色素およびクロロゲン酸含量の測定を行った.また,DPPHラジカル消去活性を測定し,それら含量と消去活性との関連性について推察した.(1)緑ナスおよび白ナス外果皮の試料からはアントシアニン色素が検出されなかった.これらの花弁には,ナスニンが主要アントシアニン色素として含まれていた.米ナス外果皮の主要アントシアニンはデルフィニジン3-O-ルチノシドと同定された.また,新たにデルフィニジン3-O-ルチノシド-5-O-グルコシドも含まれることが明らかとなった.(2)各種ナス果菜外果皮および花弁粗抽出液,粗精製抽出液はいずれも,DPPHラジカル消去活性を示した.各ナスのDPPHラジカル消去活性は,クロロゲン酸含量と高い相関を示し(相関係数r=0.762),クロロゲン酸がこれらナスのラジカル消去活性と強く関わっていることが推察された.
著者
森田 亜紀 早川 文代 香西 みどり
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.13-23, 2020-01-15 (Released:2020-01-27)
参考文献数
27
被引用文献数
1

パルミジャーノ・レッジャーノを添加したチーズブレッドの風味に寄与する成分について,アミノ酸,脂肪酸,有機酸からなる32成分モデルチーズを用いた評価を実施した.チーズブレッドの風味に対して,オミッションテストにより,アミノ酸,脂肪酸の寄与が大きいこと,さらに,アディッションテストにより,グルタミン酸ナトリウム,バリン,メチオニン,イソロイシン,ロイシン,フェニルアラニン,プロリン,酪酸が風味に影響していることが確認できた.これら8成分を添加することによりパルミジャーノ・レッジャーノを添加したパンの風味に関する官能特性を再現できた.アディッションテストの結果を主成分分析で解析したところ,第1主成分は「チーズの濃厚感」,第2主成分は「パンらしい香ばしさ」,第3主成分は「発酵香」と解釈でき,これらの風味特性のバランスでチーズブレッドの風味が形成されていることが確認できた.グルタミン酸ナトリウムはうま味だけでなく,チーズブレッドの風味形成に大きな役割を果たしていた.揮発性成分の分析結果より,バリン,メチオニン,イソロイシン,ロイシン,フェニルアラニンを添加することにより,イーストの発酵により生成するアルデヒド類やアルコール類,メイラード反応で生成するアルデヒド類が増加しており,これら成分がチーズブレッドの風味を形成していると考えられた.本研究により,チーズブレッドの風味に寄与する8成分をパン生地に添加することで,チーズブレッドの風味を再現でき,その製パン性はチーズブレッドよりも良好であったことから,良好な品質のチーズ風味ブレッドを作成する手段を提案できた.
著者
中川 良二
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.283-289, 2018-06-15 (Released:2018-06-21)
参考文献数
8
被引用文献数
1

We have isolated a new strain of Lactobacillus plantarum from Japanese pickles produced by a farmer in Hokkaido, and have named the strain HOKKAIDO. Our investigation of HOKKAIDO strain revealed several characteristics. The strain exhibits digestive juice tolerance and can survive in the intestine. The strain strongly adheres to human enterocyte-like Caco-2 cells, and cells of HOKKAIDO strain competed with E. coli O-157 cells for adhesion to Caco-2 cells. From several examinations with human dendritic cells, this strain may act to improve immune function. It was found that HOKKAIDO strain is superior in the fermentation of vegetables, fruits, and cereals. These characteristics were exploited to produce foods such as fermented soybean milk, alcoholic beverages using sake lees, and fermented carrot drink. In addition, HOKKAIDO strain as a probiotic was contained in commercial products such as yogurt and a milk substitute for calves.
著者
柴田 真理朗 杉山 純一 蔦 瑞樹 藤田 かおり 杉山 武裕 粉川 美踏 荒木 徹也 鍋谷 浩志 相良 泰行
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.296-303, 2010-07-15 (Released:2010-09-01)
参考文献数
10
被引用文献数
3 1

すだち(気泡構造)からパンの食感を推定するために,粘弾性と気泡計測パラメータを計測し,それらの関係の定量化を行った.(1) すだちの構造把握に十分な数の気泡を含む大きさを持ち,合わせて試料間にバラツキが確保されるようにサンプリングするために,試料サイズの最適値を決定した.気泡パラメータの変動および実際の計測の安定性を考慮した結果,試料サイズの最適値は1辺20mmの立方体とした.(2) クリープ試験により得られた時間-歪曲線に4要素フォークト粘弾性モデルを適用し,4つの粘弾性係数(瞬間弾性,遅延弾性,遅延粘性および永久粘性)を得た.一方,イメージスキャナにより撮像したデータに,画像処理を利用した既往の研究8) の気泡検出法を適用し,平均気泡面積,平均気泡周囲長,単位面積当たりの気泡数,および気泡面積割合の4つの気泡パラメータを算出した.粘弾性係数および気泡パラメータの変動係数は7.5~49.2%であり,パン試料断面の部位によって不均一であることが明らかになった.(3) 粘弾性係数および気泡パラメータに相関分析を適用した結果,瞬間弾性,遅延弾性および永久粘性と気泡面積割合(画像全体に占める気泡面積の割合)に有意な相関がみられた(r>0.6, p<0.05).本実験で用いた試料においては計測した咀嚼面の気泡面積割合が大きいほど,「かたく」感じられることが示唆された.また,既往の研究と異なる方向の画像解析においても食感を推測できる可能を示せた.
著者
増田 秀樹 深尾 奈央 小林 里穂 蜂須賀 祥子 森 紀之
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.200-210, 2017
被引用文献数
1

<p>官能評価(試験1,2)により,刺激的な香味が軽減された液状ウィンターセイボリーエキス(WSL)の用量(0.25g ; カルバクロール(CAR)含有量 : 0.075mg,チモール(THY)含有量 : 0.015mg)とWSLの濃度(0.25% ; CAR濃度 : 0.75ppm,THY濃度 : 0.15ppm)を決定した.次いで,試験1,2で定めた用量と濃度のWSL含有飲料(DK1) 100mLの摂取試験を行なった(試験3).その結果,上肢(手首,手指),下肢(足首,足指)の体表温低下が有意に抑制され,首の体表温が有意に上昇した.さらに,口腔·咽頭内での刺激が体温変化に関与しているかどうか明らかにするため,ウィンターセイボリーエキス粉末(WSP)(80mg ; CAR含有量 : 0.075mg,THY含有量 : 0.015mg)のカプセル(CP)摂取試験を行なった結果,上肢のみに有意な体表温低下抑制効果がみられた(試験4).次いで,口腔内刺激の強弱を決定する因子となるCAR,THY濃度が重要であるのか明らかにするため,試験3と同用量のWSLを含有し,希釈媒体量を100mLから20mLに低減することでCAR,THY濃度をDK1の5倍に高めたWSL含有飲料(DK2)の摂取試験を行った(試験5).その結果,DK2摂取群(上肢,下肢に有意な体表温低下抑制 ; 額,首に有意な体表温上昇 ; 鼓膜温(深部温)の有意な上昇)は,DK1摂取群(上肢,下肢に有意な体表温低下抑制 ; 首に有意な体表温上昇)に比べ体温に影響がみられる部位が増加した.DK1摂取群とCP摂取群の比較,DK1摂取群とDK2摂取群の比較から,体温変化に,CAR,THYによる口腔·咽頭内の神経刺激が関与していることが示唆された.本結果から,ウィンターセイボリーが手軽に飲用し得る冷え抑制効果素材として有用なことが分かった.さらに,体温変化をもたらす同様な成分についても,口腔·咽頭内刺激を利用することにより,効果が増強される可能性があると考えられる.</p>
著者
吉田 正
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.534-539, 2013-09-15 (Released:2013-10-31)
参考文献数
28
被引用文献数
4 2

In soybean, a number of biologically active, and thus beneficial, substances have been identified ; including isoflavone, lecithin, and saponin. Some of these are currently being marketed because their health promoting functions have been publicly approved. Moreover, recent evidence has accumulated suggesting that soybeans could contain other unused compounds with valuable functions as food additives. In this review, we focus on black soybean seed coat polyphenols (BSCP) and pinitol (PI). BSCP mainly consists of procyanidin, cyanidin 3-glucoside, and epicatechin, which are all well known for their antioxidant properties. Procyanidin represents a group of oligomeric compounds formed from catechin and epicatechin molecules. BSCP is characterized by its specific composition of procyanidin, and is particularly rich in smaller oligomer forms. It is thought that procyanidin oligomer size is inversely correlated to bioavailability. PI (3-O-methyl-D-chiro-inositol) is an inositol derivative that chiefly exists in legumes and pines, and is characterized by its extremely high water-solubility. PI content in soybean seed was reported to be around 0.2% dry weight, while in soybean plant, it is one of the major low-molecular weight carbohydrates ; moreover, it is very rich in soybean leaves (up to 2% of dry weight). Intriguingly, both BSCP and PI exert anti-diabetic and anti-obesity effects. However, they have been under-utilized mainly due to a lack of efficient methods for stable and effective handling. Here we discuss both plausible mechanisms that could enable the exertion of beneficial functions and recent developments in their preparation from raw materials.
著者
熊沢 賢二 和田 善行 増田 秀樹
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.266-273, 2007-06-15 (Released:2007-10-04)
参考文献数
18
被引用文献数
7 6

カンキツ(グレープフルーツ,オレンジ)果汁の香気寄与成分および加熱による香気変化に関与する成分の特性を検討し,以下の結果を得た.(1)AEDAによりカンキツ果汁の香気に寄与する41ピークを見出し,GC-MSおよびGC-Oにおける保持指標の比較により33成分を同定した.これらの成分の中でカンキツ果汁より初めてcis-4,5-epoxy-(E)-2-decenalを同定した.(2)FD-factorの比較から,各々のカンキツ果汁を特徴づける成分を明らかにした.また,加熱による香気変化の原因物質はいずれの果汁にも共通することを見出し,さらに,加熱による香気変化は減少する成分よりも増加する成分がより重要であることを推定した.(3)加熱によるカンキツ果汁の香気変化は,その大部分を加熱により増加した6成分にて説明することが可能であり,それらの中で2-methyl-3-furanthiolが最も重要な成分であることを明らかにした.さらに,この成分の重要性はいずれの果汁にも共通することを明らかにした.
著者
高橋 朝歌 松岡 寛樹 宇田 靖
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.610-614, 2005-12-15
参考文献数
7
被引用文献数
1

アリルイソチオシアナートを含む市販の加工食品 (調味浅漬, わさび漬け, のり佃煮) を用いて, 2-チオヒダントイン化合物の検索を行った. その結果, 調味浅漬とのり佃煮からグルタミン酸との反応物であるATH-Gluが生成していることを確認した. また, のり佃煮中にはATH-Val, ATH-Phe, ATH-Leuの存在も確認された.