著者
鷲家 勇紀 西川 友章 藤野 槌美
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.286-294, 2013-06-15 (Released:2013-07-31)
参考文献数
20
被引用文献数
4

市販のコーヒー焙煎豆は,通常エージング処理が施されている.エージング処理によるコーヒー抽出液中の揮発性成分量の変化を検証した結果,多くの成分に減少が認められた.マウスに,エージング処理時間の異なる焙煎豆の抽出液を投与したところ,エージング処理をしていないコーヒー焙煎豆に最も高い腸管IgA産生増強効果が認められた.関与する成分は2-methylpyrazine,2,5-dimethylpyrazine,2,6-dimethylpyrazineの3成分であり,何れもエージング処理時間の経過と共に減少する成分であった.以上の結果から,エージング処理をしていないコーヒー焙煎豆は,腸管IgA産生増強効果を有することが分かった.またエージング処理は焙煎豆中の有効成分の減少を招き,腸管IgA産生増強効果を弱めることが分かった.
著者
前橋 健二 大戸 亜梨花 山本 達彦 浅利 妙峰 柏木 豊
出版者
日本食品科学工学会
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.290-296, 2015 (Released:2015-11-24)

(1) 市販塩麹製品14点の成分の平均値は,水分50.2%,食塩11.0%,還元糖21.9%,ホルモール窒素0.07%であった。酵素活性は全く検出されないものも見られたが多くの製品にデンプン分解系酵素やタンパク質分解系酵素が検出された。(2) 塩麹の製造条件として,還元糖およびホルモール窒素量の消長の点では60℃で6時間以上の消化が必要であるが,残存酵素活性を考慮すると50℃~60℃で6時間程度の短時間消化による方が適当であると判断された。(3) 麹抽出液での試験では,10%食塩の存在でα-アミラーゼ活性の熱安定性は低下しプロテアーゼの熱安定性は若干向上する傾向が見られた。また,10%グルコースの存在ではプロテアーゼ活性の熱安定性がさらに向上する傾向が見られた。
著者
包 航 任 恵峰 遠藤 英明 高木 敬彦 林 哲仁
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.591-597, 2002-09-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

16種のフラボノイド自身の変異原性と抗変異原性を前進突然変異試験法を用いて検討した.活性を検出した11種について未加熱,単純加熱,混合調味液添加後の加熱による活性の変化を調べた.(1) カテキン,エピカテキン,ヘスペリジン,ネオヘスペリジン,ネオヘスペリジンデヒドロカルコンの5検体は,変異原性・抗変異原性ともに全く示さなかった.(2) 残り11種フラボノイドの中で,バイカレインなどのように抗変異原性のみを示すものもあれば,ケルセチンやモリンのように変異原性と抗変異原性の両方を示すものもあった.(3) これらの活性に対する影響は加熱そのものより,むしろ調味料の存在の影響の方が大きかった.(4) 調味料添加条件下での加熱で著しく変化したのは,S9存在下で測定した抗変異原性であった.
著者
岡崎 尚 前重 静彦 鈴木 寛一
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.9, pp.647-652, 1997-09-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
16
被引用文献数
6 7

ダイコンの加熱による軟化速度と柑橘ペクチンの加熱による分解速度を90℃~110℃の温度範囲で測定し,両者の関係を速度論的に比較した.(1) 加熱によるダイコンの軟化は,90℃~110℃の温度範囲で一次の速度式に近似した.(2) 加熱による柑橘ペクチンの分解は,90℃~110℃の温度範囲で一次の速度式に近似した.(3) 加熱によるダイコンの軟化速度と柑橘ペクチンの分解速度は,90℃~110℃の温度範囲でアレニウス式に従い,みかけの活性化エネルギーは,それぞれ146kJ・mol-1と144kJ・mol-1でほとんど等しかった.このことから,ダイコンの軟化はペクチンの分解によって支されている可能性が高い.
著者
塚本 研一 戸枝 一喜 船木 勉 大久 長範 松永 隆司
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.313-319, 2007-07-15 (Released:2007-10-04)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

秋田県産のはたはたずし製品について秋田県内3地域の代表的製品の製品形態,各種化学成分,遊離アミノ酸,有機酸,遊離糖類,微生物について検討した結果,以下の特徴を明らかにした.(1)沿岸北部の製品は原料にハタハタ,米,野菜を主に使用し,熟成期間が短く乳酸発酵がない早ずしである.主に食酢処理による酢酸の浸透により微生物を抑制していた.(2)沿岸中央部の製品は原料にハタハタ,米,米麹,野菜を主に使用し,乳酸発酵があるなまなれずしである.使用原材料ではいずしに近く,米麹,野菜を使用し乳酸発酵を促進するなまなれずしの伝統的な製造法に近かった.(3)沿岸南部の製品は原料にハタハタ,米飯,米麹,野菜を主に使用し,米飯の米麹による糖化を十分に行っているが,乳酸発酵はない早ずしである.使用原材料ではいずしに近いが,食酢処理による酢酸の浸透および米飯の米麹による十分な糖化と砂糖添加による水分活性低下で微生物を抑制していた.これらの結果から秋田県のハタハタずし製品は乳酸発酵があるなまなれずしタイプと早ずしタイプの2つに分類された
著者
原 佑介 菅原 彩華 山田 クリス孝介 遠藤 慶子 芦谷 早苗 五十嵐 香織 曽我 朋義 神成 淳司 黒田 裕樹
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.12, pp.499-513, 2020-12-15 (Released:2020-12-24)
参考文献数
29

ウンシュウミカンの成分分析では,高水溶性のイオン性低分子を網羅的に探索した研究はほとんど無い.本研究では,静岡県三ヶ日産ウンシュウミカンの ‘青島温州’ や ‘興津・宮川早生’ を対象に,高水溶性成分をキャピラリー電気泳動-質量分析法によるメタボローム解析を用いて調査し,品種,グレード,処理方法ごとの総測定データも蓄積させた.この分析では,対象とした151の成分のうち,早生ではメチオニン,グリシン,アスパラギン酸が,青島ではオルニチン,プトレシン,シネフリン,グルタミンが,青島の果汁ではピログルタミン酸,GABA(γ-アミノ酪酸),マロン酸が,有意に多く検出された.さらに,生果と加工品,および加工前後での比較結果を統合し,含有成分量の変化に寄与すると推測される要因も整理した.これらの解析は,三ヶ日産ウンシュウミカンに含まれる高水溶性成分の基礎データとして,今後,代謝や加工による成分変化のさらなる検証につながることが期待される.また,本研究において,クエン酸やGABAなどの機能性表示登録がすでにある成分に加えて,機能性が示唆される成分も検出された.農産物の新規機能性成分表示の検討等においてもメタボローム解析は有用であることを強く示していると言える.
著者
杉浦 実
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.373-381, 2014-08-15 (Released:2014-09-30)
参考文献数
24
被引用文献数
5 8

Antioxidant micronutrients such as vitamins and carotenoids exist in abundance in fruits and vegetables and are known to contribute to the body’s defense against reactive oxygen species. Numerous recent epidemiologic studies have demonstrated that a high dietary consumption of fruits and vegetables rich in carotenoids or producing high serum carotenoid concentrations results in a decreased risk for certain cancers, diabetes, and cardiovascular disease. These epidemiologic studies have suggested that antioxidant carotenoids exert a protective effect against several lifestyle-related diseases. Beta-cryptoxanthin is a carotenoid pigment particularly found in Japanese mandarin (Citrus unshiu Marc.) fruit, which is heavily produced in Japan. Our nutritional epidemiologic survey, the Mikkabi Study, utilized data derived from health examinations involving inhabitants of the town of Mikkabi in Shizuoka, Japan. In this survey, we measured serum beta-cryptoxanthin as a specific bio-marker to estimate the consumption of Japanese mandarin fruit. The cross-sectional analyses of the Mikkabi Study indicated inverse associations between serum β-cryptoxanthin and the risk for atherosclerosis, insulin resistance, liver dysfunction, metabolic syndrome, low bone mineral density and oxidative stress. In this chapter, recent epidemiologic studies of the association between serum beta-cryptoxanthin and the risk for several lifestyle-related diseases are reviewed.
著者
熊谷 武久 瀬野 公子 渡辺 紀之
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.179-184, 2006-03-15
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

乳酸菌添加液に玄米を浸漬することによる乳酸菌の付着性を検討した.<BR>(1)米及び米加工品より分離した<I>L. casei</I> subsp. <I>casei</I> 327を乳酸菌スターターとして,コシヒカリ,ミルキークイーン及びこしいぶきの玄米を用い,玄米浸漬液にスターターを添加して37℃,17時間発酵することにより,乳酸菌の増殖が浸漬液及び玄米で見られた.16SrRNA遺伝子塩基配列により当該菌が増殖したことを確認した.<BR>(2)発酵処理した玄米のpHはおおよそ6であり,炊飯後の米飯の食味に影響を及ぼさなかった.<BR>(3)発酵温度の低下により発酵処理玄米の<I>Lactobacillus</I>数が低下し,玄米と浸漬液の配合比及びスターター量の変化では,大きな影響はなかった.<BR>(4)乳酸菌を添加しない区では,乳酸菌以外の菌数が増加し,<I>Enterobacteriaceae</I>が主要な菌であった.<BR>(5)5菌種,7菌株の乳酸菌,全てで発酵液及び発酵処理玄米の<I>Lactobacillus</I>数の増加が見られ,<I>L. acidophilus</I> JCM1132<SUP>T</SUP>のみ生育が悪く,<I>L. casei</I> subsp. <I>casei</I> 327が最も増殖効果が高かった.

1 0 0 0 OA ヒスタミン

著者
里見 正隆
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.366, 2010-08-15 (Released:2010-10-02)
参考文献数
2
被引用文献数
2

ヒスタミンは分子式C5H9N3,分子量111.14の活性アミンで,アミノ酸であるヒスチジンの脱炭酸反応で誘導される.無色,無臭で一般的な加熱調理では分解しない.人体では肥満細胞のほか,好塩基球やECL細胞(enterochromaffin-like cell)がヒスタミン産生細胞として知られている.血圧降下,血管透過性亢進,平滑筋収縮,血管拡張,腺分泌促進などの薬理作用があり,アレルギー反応や炎症の発現に介在物質として働く.生体内で普段は細胞内の顆粒に貯蔵されており,細胞表面の抗体に抗原が結合するなどの外部刺激により細胞外へ一過的に放出される.また,マクロファージ等の細胞ではヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)により産生されたヒスタミンを顆粒に貯蔵せず,持続的に放出することが知られている.食品中に蓄積されたヒスタミンを摂取すると,アレルギー様症状を呈するためアレルギー様食中毒と呼ばれている.1. アレルギー様食中毒アレルギー様食中毒の原因となるヒスタミンは,食品中のヒスチジンが,微生物により変換されて生じるもので,食品のなかでもサバやマグロなど,ヒスチジンを大量に含む赤身魚は原因食品となることが多い.原因物質を許容量以上食べると症状が出る食物アレルギーと異なり,アレルギー様食中毒は,魚介類が新鮮でヒスタミンが大量に含まれていなければ食中毒は起こらない.水産物のヒスタミン生成の原因となるのは主に腸内細菌,海洋細菌および乳酸菌で,鮮魚の場合は主に腸内細菌および海洋細菌,発酵食品の場合は乳酸菌による蓄積事例が報告されている.水産物のヒスタミン量についてCODEXをはじめ各機関で規制値を設けているが,我国では規制値を設定していない.毎年,学校給食等で20件程度の食中毒事例が報告され,患者数は500名程度,死亡例は報告されていない.原因食品として赤身魚加工品が多いとされている1) .2. ヒスタミン生成菌ヒスタミン生成菌はヒスチジン脱炭酸酵素(EC.4.1.1.22)を有し,低pHストレスに応答してヒスタミンを生成すると考えられている.2種類のアイソザイムが知られており,補酵素にピリドキサル五リン酸(PLP)を要求するPLP依存型酵素と,活性中心がピルボイル基であるピルボイル酵素に分けられる.PLP依存型HDCはグラム陰性菌の他,哺乳類の肝臓等に存在し,ピルボイル型HDCはグラム陽性細菌にのみ存在する.(1) PLP依存型HDC分子量約170kDa,四量体で,補酵素としてPLPを要求する.Morganella morganiiを含む腸内細菌群や海洋性のPhotobacterium damselaeおよびP. phosphoreum等のグラム陰性菌が保有する2) .本酵素を有する細菌は鮮魚や加工水産物のヒスタミン蓄積の原因菌と考えられている.海洋由来のヒスタミン生成菌には好冷性のものも存在するため,冷蔵保存中でもヒスタミンが蓄積することがあり,注意が必要である.酵素および細菌ともに加熱により失活または,死滅する.(2) ピルボイル型HDC分子量約200kDa, α, βサブユニットで構成されるヘテロ六量体で,翻訳後一本のペプチド鎖がα, βサブユニットに切断され,αサブユニットにピルビン酸から誘導されるピルボイル基を修飾後,成熟酵素として機能すると考えられている.本酵素はLactobacillus属やOenococcus oenii等の乳酸菌,Staphylococcus sp., およびClostridium perfringensのようなグラム陽性菌に存在し,チーズ,ワイン等の農産発酵食品の製造において問題となる.水産発酵食品では好塩性乳酸菌Tetragenococcus spp. がヒスタミン生成菌として分離されている.鮮魚では温度管理が悪いと筋肉組織が速やかに崩壊し,体表や腸内の細菌が侵入する.通常は腐敗菌もヒスタミン生成菌とともに侵入して腐敗臭を発するため,ヒスタミンの蓄積が起こるより早く食用に適さないと判断できるが,ヒスタミン生成菌のみが増殖できる特殊な環境が揃うと,官能的に可食と判断できてもヒスタミンを大量に蓄積している状態になり,食中毒を引き起こすと考えられている.ヒスタミン蓄積の予防は通常の食中毒防止の3原則と同様,「つけない」,「増やさない」「やっつける」を実践することが大事である.
著者
鶴永 陽子 仙田 真夕 楫野 紋美 三島 晶太 高橋 哲也 吉野 勝美
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.70-77, 2016-02-15 (Released:2016-03-29)
参考文献数
15

鶏卵,エバミルク,砂糖に脱渋ペースト,渋ペースト,渋搾汁液を追加してプディングを調製し,色調,物性,内部構造ならびに官能評価に及ぼす影響について調べた.その結果,渋搾汁液を添加したプディングは,官能評価の外観,舌触り,なめらかさ,食感,総合的なおいしさで有意に高い評価だった.また,プディング製造時に渋搾汁液や渋ペーストを添加すると,暗い色調になることがわかった.さらに,渋搾汁液や渋ペースト自体は非常に強い渋味を呈するが,プディングに加工することで,渋味が消失することが明らかとなった.以上のことより,渋ガキを用いてプディングを製造する場合,渋搾汁液を使用するのが最も良いことが明らかとなった.
著者
越智 洋 水谷 政美 松浦 靖 古市 佳代 林 幸男
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.274-279, 2016-06-15 (Released:2016-07-31)
参考文献数
22

オカラ麹と発酵原料としてのオカラや米を使用して,新しい発酵物を製造し,その成分含量とACE阻害活性について検討した.オカラ麹を使用すると,有機酸,アミノ酸が豊富でACE阻害活性の高い発酵物が得られた.アミノ酸の中では特に必須アミノ酸が大きく増加し,機能性成分のGABAも増加した.また,オカラ麹の発酵物は発酵初期から高いACE阻害活性を示し,発酵終了まで高い活性で推移した.一方,米麹発酵物は,発酵初期はACE阻害活性がなく,時間の経過に従い高くなったが,オカラ麹と比較すると低い値であった.オカラ麹発酵物は体内消化液処理後もACE阻害活性を維持していたので,経口摂取した場合でも有効であると考えられた.
著者
浜渦 康範 飯島 悦子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.645-651, 1999-10-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
29
被引用文献数
7 12

リンゴ果実の果肉抽出物およびその画分について,ポリフェノール組成とSDSミセル内のリノール酸の酸化に対する抗酸化活性を調べた.(1) 果肉抽出物より酢酸エチルで抽出されるポリフェノール画分(画分B)において,主要な成分はクロロゲン酸,(+)-カテキンおよび(-)-エピカテキン,プロシアニジンオリゴマーおよびフロリジンであり,水溶液に残留したポリフェノール画分(画分A)においてはプロシアニジンポリマーが主要成分であった.(2) リンゴの果肉ポリフェノールにおける主要成分はカテキン類とその重合体であり,中でもプロシアニジンポリマーが占める割合が最も多かった.(3) 果肉抽出物のポリフェノール濃度と抗酸化活性の関係は標準(-)-エピカテキン溶液のそれと同程度であったが,画分ごとでみると画分Bの活性が画分Aの活性をやや上回る傾向があった.(4) 抗酸化活性およびDPPHラジカル消去能は,カテキン類よりもプロシアニジンオリゴマーの方が高かった.プロシアニジンポリマーを含む画分はカテキン類および二~三量体のプロシアニジン画分に比べて抗酸化活性が低かったが,DPPHラジカル消去能は最も高かった.
著者
東 知宏 長田 恭一 相倉 悦子 今坂 浩 半田 正之
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.184-192, 2013-04-15 (Released:2013-06-04)
参考文献数
38
被引用文献数
1 7

一般に,りんごは中心果実を肥大させるために摘果される.摘果された未熟果実はプロシアニジン化合物を多く有するが,ほとんど利用されていない.りんご未熟果実の有効利用法を考えるために,4週齢のSprague-Dawly (SD)系雄性ラットに10 %の脂肪と0.17 %のりんご未熟果実由来ポリフェノール(UP)を含む飼料を62日間与え,UPによる脂肪蓄積抑制作用と血糖値上昇抑制作用を検討した.その結果,白色脂肪組織重量は,対照(C)群と比べてUPを摂取したラット(UP群)は有意に低くなった.血漿と肝臓のトリグリセリド濃度はC群よりもUP群は有意に低くなった.空腹時血糖値と血漿インスリン濃度は,C群と比べてUP群は有意に低くなり,血漿アディポネクチン濃度は,C群よりもUP群は高くなる傾向にあった.脂肪酸β酸化酵素のCPTIIとACOXのmRNA発現量は,両者ともにC群と比べてUP群は有意に高くなり,さらに,脂肪酸β酸化系酵素のmRNA発現に関連する核内受容体のPPARαのmRNA発現量も,C群と比べてUP群は有意に高くなった.また,in vitro試験で,UPの脂肪と糖質の吸収に与える作用を調べたところ,リパーゼと種々の糖質加水分解酵素の活性は阻害され,ミセル形成も阻害された.UPによる糖質と加水分解した脂肪の吸収阻害作用が反転腸管法でも確認された.以上のことから,UPの摂取により肝臓の脂肪酸β酸化が促進され,かつ,小腸からの脂肪と糖質の吸収が阻害されることで,生体内の脂肪蓄積が抑制されると考えられる.よって,ポリフェノールを多く含むりんご未熟果実は肥満予防食材として,有効利用できるのではないかと考えられる.
著者
伊藤 知子 田中 陽子 成田 美代 磯部 由香
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.463-467, 2007-11-15
被引用文献数
4

ツタンカーメンエンドウの子葉細胞および単離デンプンを用いて,細胞内デンプンの糊化について検討を行った.細胞内デンプンの規則構造の崩壊は,単離デンプンと比較して,崩壊が始まるのが遅く,抑制されることが明らかとなった.また溶解度,膨潤力ともに単離デンプンと比較して抑制されていた.小豆の場合と比較して,細胞壁の性状,また抑制のパターンは若干異なるが,ツタンカーメンエンドウの子葉細胞内デンプンの糊化はその他のあん原料豆と似た性質を示したことから,ツタンカーメンエンドウは製餡適性を有すると考えられた.
著者
山下 麻美 加藤 陽二 吉村 美紀
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.178-181, 2013-04-10 (Released:2014-05-31)
参考文献数
16

本研究では,シカ肉の機能性食品としての活用を目的として,シカ肉の加熱調理によるカルニチン含有量の変化について検討を行った.加熱調理により,親水性であるL-カルニチンは,煮る調理加熱とスチーム加熱において,肉汁とともに溶出したため損失傾向を示した.疎水性であるアシルカルニチン類は,揚げる調理加熱を除いて,加熱調理により濃縮し,増加傾向を示した.アセチルカルニチンにおいてのみ,ヘキサノイルカルニチン,ミリストイルカルニチン,パルミトイルカルニチンほどの増加傾向は示さず,損失傾向を示す調理加熱方法もあった.アセチルカルニチンは,疎水性ではあるものの低分子であることが影響していると推察される.腸内細菌による代謝物を介して,アテローム性動脈硬化を引き起こす可能性が示唆されているL-カルニチンが,加熱調理により損失することで,疾病の予防につながることも考えられる.また,脳機能向上などの機能性が示唆されているアセチルカルニチンが加熱調理により損失せず,生肉の状態と同程度の含有量を保持する調理方法が望ましいと考えられる.これらの事より,本実験の加熱調理方法の中では,スチーム加熱がシカ肉の機能性食品としての活用を促進する上で,最も有効であると推察される.
著者
門間 美千子 齋藤 昌義 千国 幸一 斎尾 恭子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.12, pp.938-942, 2000-12-15 (Released:2009-02-19)
参考文献数
23
被引用文献数
2 2

米胚乳部の主要な貯蔵タンパク質であるプロラミンは層状の堅固な構造をもつ難消化性のプロテインボディに蓄積される.本研究では,胚乳に含まれる貯蔵タンパク質の組成や,そのうちのプロラミンのポリペプチド組成がPB-Iの構造に与える影響を検討するために,貯蔵タンパク質組成の異なる変異体米の胚乳組織の微細構造を透過型電子顕微鏡で観察した.プロラミン組成の変異体のうち,esp-1(13kd-b減少変異体)の組織構造およびPB-Iの構造は,これまでに報告した通常の米とほぼ同様であった.しかし,esp-3(13kd-a,10kd減少変異体)では,PB-Iの層状構造の密度が低く,輪郭が不明瞭であり,Esp-4(10kd,16kdプロラミン増加変異体)では,高密度の層状構造をもったPB-Iが数多く観察された.これらPB-I構造の差異は,プロラミン構成ポリペプチドに含まれるシステイン含量の変動によると推定された.一方,グルテリン増加変異体の胚乳細胞では,PB-Iと見られる顆粒は,小型で層状構造もほとんど観察されず,グルテリンの増加が,PB-Iの形成に影響を与えることが示唆された.
著者
木村 俊之
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.57-62, 2010-02-15
参考文献数
24
被引用文献数
2 6

近年の疫学的研究により、食後高血糖が心筋梗塞などの動脈硬化性疾患に対する独立した危険因子であることが明らかにされ、食事後の血糖のコントロールが糖尿病予防のターゲットと考えられている。我々が摂取している食品成分の中には食後血糖値の上昇を穏やかにするものがあり、食習慣に取り入れることで糖尿病の予防効果が期待される。桑葉は古くから糖尿病の予防効果が謳われてきた素材であり、科学的アプローチにより、その有効成分、メカニズム、効能などが解明されつつある。本総説では、桑葉の糖尿病予防食素材への可能性と筆者らの取り組みについて解説する。