著者
島村 和夫 三善 正道 平川 利幸 岡本 五郎
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.422-428, 1987 (Released:2007-07-05)
参考文献数
21
被引用文献数
3 3

ユスラウメ台及び共台 (寿星桃) の‘山陽水蜜桃’を王幹形で育て, ほぼ成木期に達した6年生及び8年生時に新梢, 根, 果実の生育を比較調査した.1. ユスラウメ台では10cm以下の新梢の比率が共台よりも高く, これらは着葉密度が高く, 伸長が5月中に停止した. 20cm以上の新梢は共台の方がユスラウメ台より多く, これらは6月以降も伸長を続けた.2. ユスラウメ台の新根生長は4月下旬から5月上旬にかけて活発で, 6月中旬にはほとんどが褐変し, 白根は消失した. 共台の新根生長はユスラウメ台より約1か月遅く始まり, 7月中旬まで多くの白根がみられた.3. ユスラウメ台の果実は硬核期中も活発に肥大を続け, 共台よりも大果となり, 4~5日早く完熟した. 果汁の糖度は1983年はユスラウメ台の方が高かったが, 6月下旬から7月上旬に降雨が続いた1985年は共台の方が高かった.4. 以上のように, モモの主幹形仕立にはユスラウメ台が適していると考えられるが, 共台でも幼木期から積極的に着果させ, 夏季せん定を十分行うなど樹勢安定を図れば, 主幹形で栽培することは十分可能であると思われる.
著者
田附 明夫 崎山 亮三
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.62-68, 1986
被引用文献数
9 11

1. ガラス室で栽培したキュウリの幼果を植物体に付けたまま果実チェンバーに入れ, 果実周囲の温度を5~30&deg;Cの一定温度とする処理を行い, 果実温度が果実の体積生長に及ぼす影響を調べた.<br>2. 果実体積の相対生長率 (RGR) は約5&deg;Cで0となり, 高温ほど高い値となった. RGRの果実温度と果実体積に対する重回帰を各栽培時期について品種別に計算すると, いずれも重相関係数が高かった. RGRは果実温度及び果実体積とそれぞれ正, 負の偏相関を有した. その重回帰式は体積が等しい果実では. RGRが果実温度に対してほぼ直線的に関係することを示した. しかし, RGRのアレニウス&bull;プロットは12&deg;C付近に屈曲点を持つ直線で表され, 果実生長がこの温度を境に質的に異なる可能性が示唆された.<br>3. RGRのQ<sub>10</sub>は15~30&deg;Cの範囲では季節にかかわらず約2であったが, 春のRGRは冬の値より, その範囲のいずれの温度においても高かった. これらの結果を説明するため, RGRの季節間差は果実に流入する師部液の糖濃度の季節間差によってもたらされ, また, 果実温度は果実に対する師部液の流入速度を決定するという仮説を示した.<br>4. 供試した2品種間でRGRの温度反応には差が認められなかった.
著者
艾爾肯 牙生 加藤 鎌司 明石 由香利 Nhi Phan Thi Phuong Halidan Yikeremu 田中 克典 龍 波 西田 英隆 龍 春林 Wu Min Zhu
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.52-65, 2011
被引用文献数
18

中国新疆ウィグル自治区のハミウリは <i>cassaba</i>, <i>chandalak</i>, <i>ameri</i> および <i>zard</i> の 4 変種に分類されているが,その遺伝的多様性についてはほとんど研究されていない.そこで,ハミウリおよび近隣地域の在来品種を含むメロン 120 系統を供試して,遺伝的多様性ならびに類縁関係を解析した.ハミウリ 24 品種の種子長はいずれも 9 mm 以上であり,欧米のフユメロン変種と同じく大粒系に分類され,中国東部のマクワ・シロウリ(小粒系)とは明瞭に異なった.一方,イラン,アフガニスタン,パキスタンおよび中央アジア諸国では,大粒系および小粒系の両者が混在していた.PS-ID 領域(<i>Rpl16-Rpl14</i>)の SNP(一塩基多型)および ccSSR7 マーカーにより葉緑体ゲノムの塩基配列多型を解析した結果,供試したメロン品種が 3 種類の細胞質型(母系)に分けられること,そしてハミウリの細胞質型(T/338bp 型)が欧米のフユメロン品種(T/333bp 型)と異なることが明らかになった.一方,RAPD および SSR マーカーを用いた核ゲノムの多様性解析では,ハミウリの多様性指数(D = 0.243)が他地域の在来メロンより低いことが判明した.系統間での遺伝的距離に基づくクラスター分析の結果,ハミウリのうち果実の貯蔵性に優れる <i>ameri</i> 変種および <i>zard</i> 変種のほとんどが第 2 クラスターに分類されたことから,両変種は遺伝的に分化していないと考えられた.一方,早熟で果実の貯蔵性が悪い <i>chandalak</i> 変種は第 4,第 6 クラスターに分類され,上記 2 変種とは遺伝的に分化していることが判明した.第 2 クラスターには他地域のメロン 12 系統も含まれたが,このうちトルクメニスタンおよびアフガニスタンのメロン 3 系統がハミウリと同じく大粒系(種子)で T/338bp 型(細胞質)であったことから,ハミウリが西方から導入されたと考えられた.これに対して,中国東部のマクワ・シロウリは小粒系,A/338bp 型であり,また核ゲノムの解析でも第 1~第 9 クラスターから遠く離れた第 10 クラスターに分類されたことから,ハミウリとは別起源であることが示された.<br>
著者
杉山 信男 岩下 浩太郎 久我 芳昭
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.78-85, 1981
被引用文献数
2 2

そ菜の生育に対するカリ施肥の効果と葉中カリ濃度及びナトリウム濃度との関係を明らかにするため, 1/2,000aワグナーポットで, 硫酸カリの施用量を0gから8gまでの6段階, 硫酸ナトリウムの施用量を0, 4,40gの3段階に変えて, キャベツとインゲンを土耕した. それとともに, 1/5,000aワグナーポットで, 培養液1<i>l</i>中のカリとナトリウムの合計量を4me一定とし, その比率を5段階に変えて, ハツカダイコン, キャベツ, インゲンを砂耕した.<br>1. キャベツとインゲンの土耕実験において, カリ施用量が不十分なために生育が低下し始める区 (硫酸カリ4g区及び8g区のどちらと比べても地上部重に差が認められる区) は, ナトリウムの施用量に関係なく, 硫酸カリ0.5g区であった.<br>2. インゲンでは, ナトリウムの施用量に関係なく, 最大葉カリ濃度 (およそ50me) によって, カリ施用量が不十分なために生育が低下した区とそうでない区とを区分できた.<br>3. インゲンでは, 最大葉におけるカリ濃度とナトリウム濃度の和は最大葉カリ濃度とほぼ同じ値だったので, カリ施用量が不十分なために生育が低下した区とそうでない区とは, カリ濃度とナトリウム濃度の和 (およそ50me) によっても区分できた.<br>4. キャベツでは, 最大葉カリ濃度によっても, 最大葉におけるカリ濃度とナトリウム濃度の和によっても, カリ施用量が不十分なために生育が低下した区とそうでない区とを区分できなかった.<br>5. インゲンの砂耕実験で, 培養液中のカリ含量が0me及び0.5meの区では, 対照区 (4me区) に比べると, 最大葉カリ濃度もカリ濃度とナトリウム濃度の和もともに低く, 生育も劣った.<br>6. ハツカダイコンとキャベツの砂耕実験で, 培養液中のカリ含量が, それぞれ, 0meと0me及び0.5meの区では, 最大葉におけるカリ濃度とナトリウム濃度の和は高いのに生育が低下した. これらの区の最大葉カリ濃度は, ハツカダイコンで25me以下, キャベツで45me以下であった.<br>7. キャベツの土耕実験で, 最大葉カリ濃度が45me以下となった場合を除けば, カリ施用量が不十分なために生育が低下した区とそうでない区とは, 最大葉におけるカリ濃度とナトリウム濃度の和 (およそ85me) によって区分できる (第3表, 第4表).
著者
塩崎 雄之輔 菊池 卓郎
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.827-832, 1992
被引用文献数
1 3

リンゴ'ふじ'/マルバカイドウの開心形樹 (栽植距離9m&times;9m, 栽植密度123本/ha) 12樹について, 5年生から24年生までの20年間にわたって, 収量と葉面積指数, 新梢長等のいくつかの樹体特性について測定を行った. 10年生以降, 樹高は3.5~4.0mに維持され, 樹冠はもっぱら水平方向に拡大した. 樹冠占有面積率および葉面積指数 (LAI) は20年生まで増加を続け, 前者は約70% (1樹当たり約55m2), 後者は約2.0に達し, 以後ほぼ一定になった. 収量 (1ha当たり)は樹冠占有面積率およびLAIの増加に伴って増加した.LAIとそれに対応する収量 (1ha当たり) は, 1.0で約20t, 1.5で約35t, 2.0で55t以上であった. 樹冠占有面積の増加に伴い, 樹冠占有面積当たり収量と単位葉面積当たり収量の増加が認められた. これは樹冠が扁平で樹冠内部に光線がよく透入するように枝が配置されていることに加え, 樹冠占有面積当たりspur数の増加と平均shoot長の減少とが大きく寄与していることが示唆された.
著者
曹 萬鉉 山本 昌豊 松原 幸子 村上 賢治
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.713-722, 1997 (Released:2008-05-15)
参考文献数
10
被引用文献数
1

高収量•高品質のトウガラシ新品種を生育する目的で,日本在来種および韓国のF1品種を供試し,親品種と比較しながら品種間雑種の収量,果実のアスコルビン酸含量およびカプサイシノイド含量を調査した.1.日本の固定種間のF1雑種はいずれも親品種より高収量であり,特に'カリフォルニア•ワンダ-(CW)'を片親とした場合,-果重が大きく果数も多く,高収量であった.2.アスコルビン酸は,胎座より果皮に多く含まれていた.アスコルビン酸含量は,品種間差異は少なく,収穫時期による差が大きかった.いずれの品種でも,9月に最も含量が多かった.果実の発育に伴うアスコルビン酸含量の経時的変化を調べたところ,開花4~5週間後まではどの品種,F1雑種も増加したが,その後も緩やかに増加する品種と,ほとんど増加しないかむしろ減少する品種があった.3.カプサイシノイドは,果皮より胎座に高濃度で含まれていた.胎座のカプサイシノイド含量は,'八房などの辛味品種では1000mg/100gDW以上で,一方,辛味のない品種の°CW'と状見甘長では,カプサイシノイドはほとんど含まれていなかった.辛味のない品種と辛味品種のF1雑種のカプサイシノイド含量は,正逆交雑により大きな差が見られた.果実の発育に伴うカプサイシノイド含量の経時的変化では,どの品種でも開花2~3週間後に急激な増加が起こり,5週間後で最大となり,その後は徐々に減少した.カプサイ噛シノイド含量の最大となる時期は,果実の大きさが最大となる時期とほぼ一致していた.
著者
松井 鋳一郎 中村 三夫
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.222-232, 1988
被引用文献数
12

<i>Cattleya</i> とその近縁のラン科11属の種の花被組織における色素分布および花被表皮細胞の形状を調査し, 花被の表色との関係を考察した.<br>1. 供試した68種は, 花弁の表皮と柵状および海綿状組織におけるカロチノイドとアントシアニンの分布の違いから9群に分類できた. 黄色花は花弁にカロチノイドがあるが, <i>Cattleya</i>(C.) <i>dowiana</i> や <i>Laelia</i> (<i>L</i>.)<i>flava</i>などでは柵状&bull;海綿状組織にのみあり, <i>L. harpophylla</i>や <i>L. cinnabarina</i> などでは表皮細胞にも含まれていた.<br>赤色花には, カロチノイドおよびアントシアニン両者ともにあり, <i>Sophronitis coccinea</i> や <i>L. milleri</i> ではカロチノイドが表皮および柵状&bull;海綿状組織に, アントシアニンは表皮にのみあった. <i>L. tenebrosa</i> の褐色の花弁ではアントシニンは柵状海綿状組織にあった.赤紫色花はアントシアニンが表皮にのみあるか, 柵状海綿状組織にあるか, その両者にあるかによって3群に分けられた. <i>Cattleya</i> はこの花色の代表的な属であるが, 多くの種ではアントシアニンは柵状&bull;海綿状組織にあった. <i>C. intermedia</i> var. <i>aquinii</i> や <i>C. leopoldii</i>の花弁着色部分やスポットには表皮細胞にもあった.<i>Laelia</i> の濃紫赤色花は表皮および柵状&bull;海線状組織ともにアントシアニンを含み, 淡紫赤色のものでは表皮にはなかった.<br>2. 供試した種は Hunter 表色法によって3群に分けられた. 花弁にカロチノイドのみを含む, 黄色ないし橙色花は色相(b/a)が0.47以上に, カロチノイドとアントシアニンが共にある赤色花は0.47_??_b/a>-0.13に,アントシアニンのみを含むいわゆるカトレア色の紫赤色花は-0.13_??_b/a>-1.0にあった.<br>カロチノイドを含む花弁では, カロチノイドが多いと明度が高くなった. アントシアニンのみを含む花弁や唇弁では, アントシアニンが多いと明度が低くなった.<br>3. 花弁と唇弁の上面表皮細胞は種によって大きさおよび形に変異がみられた. 属を同じくする種ごとにみると変異は連続的であり, 小さいものは四角で, 光沢のある花にみられ, 大きいものはビロード状を示す花にみられて長三角形であった. 表皮細胞の大型化と四角形から長三角形への変化は進化の方向を示すものと思われ,<i>C. labiata, L. purpurata</i> や <i>Brassavola digbyana</i> などのように鑑賞価値が高く, 花径の大きな花の表皮細胞は, それぞれの属内では最大で長三角形であった.
著者
市村 一雄 小田 雅行
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.341-346, 1998-05-15 (Released:2008-01-31)
参考文献数
23
被引用文献数
3 4

市販の植物多糖である寒天, アガロース, セルロース, ジェランガム, ペクチン, アルギン酸ナトリウムおよびデンプンの浸漬液がレタスの根の伸長に及ぼす影響を調べたところ, 寒天の促進効果が最も大きかった.寒天による根の伸長促進効果はキュウリ, ダイコン, イネ, ホウレンソウ, トマトおよびネギと比べて, レタスで最も大きかった.それに加えて, レタスでの促進効果は変動が小さく, 取り扱いが容易であったため, 以下の実験にはすべてレタスを用いた.根の伸長は寒天抽出液によっても促進された.寒天抽出液に含まれる無機イオンと同じ組成に調製した溶液は寒天抽出液より根の伸長促進効果は小さかった.これより, 寒天抽出液に含まれる根の伸長促進物質は無機イオンとは異なる物質であると考えられた.寒天抽出液をSephadex G-25カラムおよびBio-Gel P-2カラムを用いて分画したところ, 根の伸長促進活性は低分子領域の数画分に認められた.これらの活性画分をShodex C18カラムで分画したところ, グルコースより早く溶出した.これらの結果より, 寒天に含まれる根伸長促進物質は数種類存在しており, これらはいずれも低分子で, 親水性の高い物質であると示唆された.
著者
賈 惠娟 岡本 五郎
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.223-225, 2001-03-15
参考文献数
9
被引用文献数
5

モモ'白鳳'果実の皮, 果肉あるいは果実全体から発散される揮発成分をヘッドスペース法で定量し, 併せて施肥濃度の影響も調査した.モモの香りの主成分であるlactone類は, 皮よりも果肉に高濃度で存在し, 適濃度の施肥をした果実に最も多かった.他の揮発成分のアルデヒド, アルコール, エステルは, 青臭さを与えるが, 果肉より皮の方が濃度が高く, 施肥区の中では高濃度区の方が高かった.果実全体から発散される揮発成分の量は, 皮や果肉に比べてわずかであった.果実1個の皮と果肉中に含まれる揮発成分の分布をみると, lactone類は97&acd;98%が, 他の揮発成分は86&acd;89%が果肉中に存在した.
著者
酒井 昭
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.248-260, 1978 (Released:2007-07-05)
参考文献数
32
被引用文献数
4 6

亜熱帯, 暖帯, 温帯および亜寒帯性の約180種類の主要花木および緑化樹の冬の休止中の枝の耐凍性を測定した. 採集した枝はあらかじめ人工的に寒さにさらし耐凍性を充分に高めてから測定した.1. アジアおよびアメリカの亜熱帯に自生しているものは凍結に耐えないものが多かった. たとえ凍結に耐えたとしても-3~-5°Cていどであった.2. 暖帯性の樹種は常緑樹も落葉樹も-8~-18°Cの凍結に耐えるものが多かった. これらの大部分のものは札幌 (平均年最低気温: 約-20°C) では越冬が困難である.3. 温帯性の樹種は-20~-30°Cの凍結に耐えるものが多く, 大部分のものが札幌で植栽されている.4. 一般に花芽は葉芽より耐凍性の低いものが多かった.5. 花木類のある場所での植栽の可能性は, その植物がそこでの平均年最低気温までの凍結に耐えるか否かが一つの指標になりうるものと思う. 得られた耐凍性の値は花木類の植栽可能範囲を推定したり, また, 耐寒性育種の基礎資料として役立つものと思う.
著者
平塚 伸 渡辺 学 河合 義隆 前島 勤 川村 啓太郎 加藤 尉行
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.62-67, 2002-01-15
参考文献数
10
被引用文献数
5 9

ギ酸カルシウムによるニホンナシの摘花効果と, その機構について検討した.1%のギ酸カルシウム溶液を受精前の雌ずいに散布すると, 柱頭への花粉の付着と花柱内の花粉管伸長が明確に抑制され, 30&acd;40%の果実が落果した.一方, 同濃度の酢酸カルシウムや乳酸カルシウム溶液による摘花効果は認められなかった.有機酸カルシウムが花粉発芽に及ぼす影響をin vitroで比較すると, ギ酸カルシウムは他の塩より明らかに強い抑制力を示した.有機酸について同様に調査した結果, ギ酸の発芽抑制作用は際立っていた.以上の結果より, ギ酸カルシウムによるニホンナシの摘花機構は, ギ酸による受精阻害と考えられた.摘花されなかった果実の生長や成熟期の果汁糖度は, 対照区と殆ど差が認められなかった.このように, ギ酸カルシウムはニホンナシの摘花剤として利用できる可能性が示された.
著者
稲垣 昇 津田 和久 前川 進 寺分 元一
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.369-376, 1989 (Released:2007-07-05)
参考文献数
14
被引用文献数
4 11

暖地におけるアスパラガスの生理•生態的特性を明らかにし合理的な栽培体系を確立することを目的に, 本報では物質生産の基礎となる光合成特性について検討した.(1) アスパラガスの主たる光合成器官は葉状茎であったが, 側枝や主茎でも光合成が行われており, 特に0.5~1mmほどの太さの側枝では単位乾物重当りで見ると葉状茎の光合成速度の30%近い値を示した.(2) 光合成速度に及ぼす光強度の影響を見ると, 光飽和点は生育前期及び中期の株で40~50klx付近, 生育後期の株では10~20klxであった. また, 光補償点は1.5~2klx付近であった.(3) CO2濃度の影響を見ると, CO2濃度を上げながら (400→1,400ppm) 測定した場合は600~1,000ppm付近にCO2飽和点があることが観察されたが, CO2濃度を下げながら (1,400→400) 測定した場合は1,400ppmでも飽和しなかった. また, 後者はそれぞれの測定濃度での光合成速度において前者を下回っていた.(4) 光合成に好適な温度範囲は20±5°Cであることが推察され, アスパラガスが冷涼な地域に適した作物であることを示していた.(5) 光, CO2及び温度に対する各生育期間 (生育初期, 中期及び後期) の株の反応特性はほぼ共通していた.(6) 光合成の日内変動はポットの状態で測定した場合顕著に見られ午後に光合成速度が低下する傾向を示した. 一方根から切り離した状態で測定した場合はほとんど違いはみられなかった.
著者
宍戸 良洋 熊倉 裕史 堀 裕
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.95-102, 1993 (Released:2008-05-15)
参考文献数
16
被引用文献数
4 4

トマトのソース•シンク関係に及ぼすソース葉やシンク葉の摘除ならびに暗黒処理の影響を明らかにしようとした.その結果,8葉期のトマトでは第3および4葉はそれぞれ,全シンク器官に光合成産物を分配しており,独立したソース•シンク関係を持っていることが認められた.さらに,第3葉は第8葉とは強く,第7葉とは弱いソース•シンク関係があり,第4葉では第8葉とは弱く,第7葉とは強いソース•シンク関係を持っていることが認められた.それらの関係の中で,弱い関係のシンクを摘除してもソース葉からの分配パターンはあまり変化しないが,強い関係のシンクを摘除すると大きく変化するというように,シンクの摘除は二つのタイプの反応を引き起こすことが認められた.1枚のソース葉以外の全てのソース葉を摘除または暗黒処理すると,残ったソース葉からの光合成産物の転流は減少した.この場合,根への分配を減少させても,将来ソースになるべき若い葉への分配を増加させるような分配パターンを示し,シンク葉を暗黒下において光合成を抑制した場合には,この分配パターンの傾向が強まることが認められた.このような反応は光合成産物の転流分配現象における劣悪な条件に対する植物体のサバイバル反応と考えられる.
著者
中野 有加 渡邉 慎一 岡野 邦夫 巽 二郎
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.683-690, 2002-09-15 (Released:2008-01-31)
参考文献数
21
被引用文献数
6 6

湿気中根を形成する保水シート耕(WSC区)と水中根を形成する湛液水耕(DFT区)において, 人工気象室内で生育温度条件を15℃, 25℃および35℃の3段階に変えてトマトを栽培し, 根の生理活性や根系形態を比較することにより湿気中根と水中根の温度適応性の違いを検討した.DFT区における液中溶存酸素濃度は飽和量の93%以上で推移した.トマト植物体の生長は, 全ての温度条件下において, WSC区でDFT区より旺盛であった.根系当たりの出液速度は15℃区と35℃区ではWSC区でDFT区より大きかったが, 根乾物重当たりの呼吸速度は常にDFT区でWSC区より大きかった.根系形態は25℃区では両方式で差異はなかったが, 15℃および35℃区ではWSC区でDFT区より側根長および根投影面積が大きかった.また, フラクタル次元は15℃ではWSC区でDFT区より大きく, 根系がより複雑に発達したことを示した.これらの結果から, 湿気中根は水中根に比べて温度適応性に優れ, 不適温度条件下においても根系の拡大・発達と生理活性を維持できるため, 地上部生長の抑制が水中根と比較して小さかったものと考えられる.
著者
土岐 健次郎 勝山 信之
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.853-861, 1995 (Released:2008-05-15)
参考文献数
10
被引用文献数
6 8

サルスベリの花色育種に関する基礎資料を得る目的で, 紅色~紫色の変異機構の解明を試みた. 結果は以下の通りである.1. シアニック系67個体の測色で, 紅色系 (b/a,-0.183~+0.165) と紫色系 (同, -0.785~-0.442) に大別された.2. 生花弁の吸収スペクトル測定では, 紅色系は524~544nm, 紫色系は, 555~570nmにλmaxがあり,紫色系において360nm付近に強い吸収が観察された.また, E360/EVIS.maxとb/aの間には, 高い負の相関(r=-0.897***) がみられた.3. 含有する主要アントシアニンは, 紅色, 紫色ともDp3G, Pt3GおよびMv3Gであった. これら3色素の量比は, 大きく変異するが, 全体でみるとb/a値との間には相関関係はなかった. ただし, 紅色系に限るとMv3G比 (Dp3G比) とb/aには負の (正の) 相関がみられた.4. 花弁細胞液のpHの測定値は, 4.2~5.1の範囲で, 変異した. しかし, これと花色には, 有意な相関はなかった.5. 粗抽出水溶液を酢酸エチルと振って分画し, 水分画に酢酸エチル分画を加えることにより, 吸収極大は長波長側にシフトし, 逆に粗抽出液を酢酸エチルで洗浄することにより, 短波長側に移動した.6. TLC分析により, エラグ酸誘導体と考えられる物質が, 特に紫色花弁に多量含まれることより, この物質がサルスベリの花の青色化に関係する主要なコピグメントの一つであると推定された.
著者
加藤 公道
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.278-289, 1984
被引用文献数
1 11

カキ果実をいろいろな条件下でアルコール処理して果実内のエタノール含量を変え (0.00~1.40%), それらの脱渋性及び追熟中の果実成分の変化, 炭酸ガス及びエチレン排出量の変化などを調査した.<br>1. 果実内のエタノール含量が多くなるにつれて, タンニン含量の減少が始まる時期が早くなるとともに減少速度も速くなった.ただし, タンニン含量の減少が始まるまでには一定の期間が必要であり, 20&deg;Cでは約2日であった. エタノール含量の影響は, およそ0.2%ないし0.3%以下で顕著に現れた.<br>2. 果実内のエタノール含量が多いほど, アセトアルデヒド含量も多くなった.<br>3. アルコール脱渋処理により果実のエチレン排出量が増加し, そのピーク値はエタノールガス濃度が濃いほど高かった. 20&deg;Cではエチレン排出量は処理を開始して約1日後にピーク値に達し, これに伴って炭酸ガス排出量の増加が起こり, さらに, 硬度低下及び果皮のクロロフィル含量の減少が促進される傾向が認められた.<br>4. 果肉硬度の低下速度は, 果実内のエタノール含量が0.1~0.2%以下のアルコール処理果と無処理果との間では相違がほとんど認められなかった.<br>5. 果皮のカロチノイド含量は, エタノール含量が0.03~0.20%のアルコール処理果と無処理果との間では相違がほとんどないか, または, 処理果の方がやや緩やかに増加する傾向が認められた.<br>6. 汚損果の発生はエタノール含量が約0.1%以下では少なく, エタノール含量が約0.1%以上で過湿条件, あるいは約0.3%以上でやや多かった. アルコール脱渋処理時の温度では, 低温の方が汚損果の発生が多かった.<br>7. アルコール処理による脱渋時の果実内のエタノール含量は, 脱渋性及びその後の果実の品質からみて, 10~20&deg;Cでは0.1~0.2%, 30&deg;Cでは0.2%前後が適当と判断された.
著者
池田 勇 山田 昌彦 栗原 昭夫 西田 光夫
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.39-45, 1985
被引用文献数
3 58

旧園芸試験場 (現在, 果樹試験場興津支場) における30年間にわたるカキ交雑育種の調査結果をとりまとめ, カキの甘渋の遺伝様式を検討した.<br>1. PCNA同志の交雑からはほとんどPCNAしか生じなかった. PCNAと「PCNA以外」の交雑及び「PCNA以外」同志の交雑からは, PCNAはほとんど生じなかった. これらのことから, PCNAと「PCNA以外」は質的遺伝をし, 前者は後者に対して劣性であると考えられた. PCNAと「PCNA以外」とを交雑して得た後代のPCAをPCNAに戻し交雑した場合には, 15%程度の割合でPCNAを生じた.<br>2. 「PCNA以外」における脱渋性の遺伝は, 育種的にはPVNA, PVA及びPCAの3段階に区分されるしきい形質として, 量的遺伝をするととらえるのが有効であると考えられた. PCA同志の交雑からはPVNAはほとんど生じなかったが, PVNA同志の交雑からはPCAがかなり生じた.<br>3. PCNAとPCAとの交雑において, &lsquo;富有&rsquo;は他のPCNA品種に比べて特異的にPVNAまたはPVAを多く分離した.
著者
土井 元章 小田 尚 小笠原 宣好 浅平 端
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.963-970, 1992
被引用文献数
2 3

順化準備段階(培養最終段階)にあるカラジウム(C3植物),サトウキビ(C4植物),ファレノプシス(CAM植物)を2%のショ糖を含む培地を用いて,全日長,16時間日長,8時間日長下で培養した.半数の培養器に対して,0.8±0.4%のCO2を含む空気を連続通気することでCO2施用を行った.残り半数の培養器では,気相をなりゆきとした。<BR>CO2施用を行わず気相をなりゆきとした場合,CO2施用を行った場合とも,日長が長いほど培養植物の生長は促進された.培養植物にCO2を供給することにより,全日長下で培養したカラジウムを除き,いずれの日長下でも乾物生産が増加した.このCO2による生育促進効果は,主として根に顕著に認められた。<BR>カラジウムとファレノプシスにおけるCO2施用下の培養では,葉身のクロロフィル含量が減少する傾向にあった.しかし,CO2飽和レベルで測定した明期中央におけるCO2の取り込み速度は,CO2無施用の場合に比べて,CO2施用区で大きくなった。<BR>培養器中のO2濃度もまた,培養植物の生長に影響を及ぼした。CO2施用下でO2濃度を37%に高めると,カラジウムおよびデンドロビウム•ファレノプシス(CAM植物)の生長が促進された。<BR>糖を含まない培地でCO2施用を行い培養して得たカラジウムのプラグ苗は,培養時に光独立栄養状態への移行が促されたことにより,慣行の培養方法で得られた苗に比べて,培養終了直後の順化期間中の生育がすぐれていた。<BR>謝 辞 本稿をとりまとめるにあたり,御校閲を賜った大阪府立大学今西英雄教授に謝意を表する。
著者
山下 研介
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.268-272, 1987 (Released:2007-07-05)
参考文献数
13
被引用文献数
3 3

ハッサクの自家不和合性について二, 三の基礎的実験を行い, 次のような知見を得た.1. 自家ならびに他家受粉を行って15分後の成蕾雌ずい中に含まれる糖タンパクを等電点電気泳動で分析したところ, 枯頭, 花柱, 子房のいずれの部位についても, 両受粉区間に差が認められた. しかしながら, その差は受粉後30分におけるほど顕著ではなかった.2. 花柱や子房を切り落した成蕾雌ずいに自家受粉を行っても, 自家花粉管の伸長は促進されず, ほとんどすべての花粉管は柱頭内で伸長を停止した.3. 幼蕾柱頭に, 晩白柚成蕾の柱頭粘液を塗布した後自家受粉を行ったところ, 多数の自殖種子が得られた.以上の結果, ハッサクの不和合反応において柱頭の果す役割が, きわめて重要であることが示唆された.
著者
福島 栄二 岩佐 正一 遠藤 伸夫 吉成 竜也
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.413-421, 1966 (Released:2007-07-05)
参考文献数
21
被引用文献数
3 6

1. 著者らは Camellia assimilis, C. granthamiana, C. hiemalis のそれぞれ1品種, C. japonica の14品 種, C. japonica subsp. rusticana の3品種, C. salicifolia, C. saluenensis のそれぞれ1品種, および不詳の C. spp. 3品種について体細胞染色体数の調査を行なうとともに一部の種については核型分析を行なつた。2. 核型分析の結果は次のごとくであつたC. japonica K(2n)=16V+8J+2Jt+4vC. japonica subsp. rusticana (野生1品種) K(2n)=16V+8J+J1t+J2t+4vC. salicifolia K(2n)=16V+8J+2Jt+4vC. saluenensis (1品種) K(2n)=17V+7J+J1t+J2t+4vC. japonica subsp. rusticana (野生1品種) とC. saluenensisの1品種と推定した“西王母”は核学的調査の結果染色体の構造的雑種あるいは真正雑種である可能性が強い。3. 染色体数の調査結果は第1表に示した。附表として取りまとめた現在までの研究結果に対して, 著者らにより新たに附加された知見は次のごとくである。(i) C. assimilis は2倍体種であること, (ii)C. japonicaにおいて低3倍体 (3X-1=44) および5倍体が見いだされたこと, (iii) C. reticulataの1品種“大谷唐椿”(2n=91) の染色体中には1つの小型過剰染色体が存在すること, (iv) ツバキ系の園芸品種と見られる“手向山”および“梅ケ香”はともに4倍体であること, などである。4. ツバキ属の倍数性系列は2倍体 (2n=30) から8倍体(2n=120)におよび, 染色体数の明らかにされた種の過半数は倍数体種であるか種内倍数性の分化を含む種である。しかも4倍体が意外に少なく3倍体, 6倍体が非常に多いことなどの事実は, ツバキ属の倍数性系列の成立には3倍体が主要な役割をになつてきたことを強く示唆する。ツバキの5倍体品種, ツバキ系4倍体品種 (雑種起源の疑いが強い) の発見は, 倍数体レベルでのツバキの交雑育種に対する強い期待をいだかせる。