著者
吉村 賢治 武内 美津乃 津田 健蔵 首藤公昭
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.294-301, 1989-03-15
被引用文献数
24

実用的な日本語文解析システムにおいて 入力文中に存在する未登録語の位置や文法情報等の推定は不可欠な処理である.日本語文の解析手順は 形態素解析 構文解析 意味解析などの各解析を段階的に行うものと これらを融合的に行うものとに大きく分類できる.本論文では前者の方式を想定し,形態素解析の段階における未登録語の処理について述べる.本論文で示す形態素解析アルゴリズムは基本的に解析表を利用した横型探索のアルゴリズムであり 入力文中の一文字の漢字 平仮名や英字列 片仮名列を自立語と同等に扱うことにより未登録語の処理を可能にしている.このとき入力文の一文字ごとに自立語辞書を検索するという効率の問題やシステムにとっては正しいが本質的には誤っている膨大な数の解析が発生するという尤度評価の問題が生じる.これに対して本アルゴリズムでは 字種情報に基づいた文節末の可能性と解析の単位に対するコストの付与という二つのヒューリスティック情報を利用している.アルゴリズムの能率は入力文の文字数nに対して時間計算量 領域計算量ともにO(n)である.また このアルゴリズムにより入力文中の未登録語の90.9%を正しく処理できることを実験により確認した.
著者
森下 博 天野 要 四ツ谷晶二
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.40, no.9, pp.3337-3344, 1999-09-15

代用電荷法はラプラス方程式の高速で高精度な近似解法として知られている. しかし 調和関数を基本解の1次結合で近似するという方法の原理から ポアソン方程式には適していないと考えられてきた. 最近 この代用電荷法の利点を生かしたポアソン方程式の数値計算法が提案された. その方法は ポアソン方程式の解を特解と調和関数の和に分解し 前者を基本解で表現して数値積分し 後者を代用電荷法で近似する というものである. その有効性は数値実験的にも検証されている. しかし 同時に この方法には特解の数値積分に要する計算量が少なくないという大きな問題が指摘されていた. 特解の数値積分はポアソン方程式の解の精度を決める鍵ともなっている. 本稿では この特解の数値積分の問題に注目して 改良されたポアソン方程式の数値計算法を提案し その有効性を数値実験的に検証する. 具体的には 特解の数値積分法として (1)極座標を導入して対数ポテンシャルがら生じる特異性を取り除き (2)積分領域を境界値がなめらかな範囲で問題の領域を含む円領域に拡張し さらに (3)数値積分公式として 偏角方向には台形公式を 絶対値方向には二重指数関数型数値積分公式 (DE公式) を採用する. 数値実験の結果 実際に非常に精度の高い特解を得ることができる. 最終的なポアソン方程式の数値解の精度も大幅に向上し 計算時間も短縮される. ここで注意すべきは 積分領域の拡張によって台形公式・DE公式という積分公式の優れた特徴が十分に発揮されるということである. この方法の基本的な考え方は3次元問題にも適用可能である.The charge simulation method is known as a rapid and accurate solver for Laplace's equation, in which the solution is approximated by a linear combination of logarithmic potentials. It has been regarded as being unsuitable for Poisson's equation. However, a feasible method was recently presented for Poisson's equation making the best use of the charge simulation method. A particular solution is first obtained by numerical integration of the logarithmic formula. The problem is now reduced to Laplace's equation, which is approximated by the conventional charge simulation method. But, the method requires too much computation in the numerical integration of the particular solution, which is also a key to the accuracy of final results. In this paper, we propose an improved numerical method for solving the Dirichlet problem of Poisson's equation paying special attention to the numerical integration of the particular solution. We (1) remove the singurality caused by logarithmic potential by using the polar coordinate system, (2) extend the integral domain to a disk including the original problem domain, and (3) apply Trapezoidal formula and Double Exponential formula to the numerical integration. The combination of (1)縲鰀(3) results in high accuracy of the particular solution and the final results, and also in a reduction of the computational cost. The basic idea of the method is applicable also to three dimensional problems.
著者
原 正巳 中島 浩之 木谷強
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.299-309, 1997-02-15
被引用文献数
10

従来のキーワード抽出における単語の重要度を決定する手法は 頻度情報や位置情報など個々の単語に閉じた情報を利用していたため 高い抽出精度が得られなかった.本稿では特許明細書を対象に テキストの表層情報を利用して実用的な処理速度を維持すると同時に 特定範囲内での単語の出現の有無を単語の重要度に反映させることで キーワードを高精度で抽出する手法について述べる.まず 特許明細書に特有なフォーマット情報を利用してキーワードの抽出範囲を限定し 不要語の混入を回避した.次に 各抽出範囲ごとに出現する語のみに付与する重要度(範囲内重要度)を新規に導入し 抽出精度の向上を図った.また テキストの内容を把握できるキーワードを獲得するために 文字列の包含関係に着目して 語の意味を具体的に表す語長の長い語を優先して抽出した.プロトタイプを作成し評価した結果 本手法が抽出キーワードの適合率と再現率の向上に有効であることを確認した.Existing keyword extraction methods use only word-specific information such as word frequency and word location in a text in order to decide the importance of the keyword. Since they do not consider relationships among individual keywords, the extraction quality is not satisfactory to users. Our method proposed in this paper using Japanese patents also processes only surface information of the text to extract keywords. The simple mechanism performs keyword extraction fast enough to he used as a practical system. In spite of the simplicity of our method, a high quality of keywords can he obtained by choosing only a few crucial fields from entire patents and by considering word importance in a specific field in the text, based on a supposition that keywords should relate to each other in its context. To help users quickly understand the text with keywords, compound words including a few primitive words are chosen as keywords, since longer words usually have more concrete meaning than a primitive word. Moreover, the text is segmented by a simple algorithm for fast keyword extraction in our prototype system. According to the system evaluation, the proposed method has proved to be effective in improving both recall and precision of the extraction.
著者
高田 真吾 佐藤 聡 新城 靖 中井 央 板野 肯三
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:03875806)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.1043-1052, 2009-03

企業や大学など多数のコンピュータが導入されている組織では,利用者に対する計算機利用の自由度を高く維持しつつ,稼動しているOS の種類とその最大稼動数を適切に管理する必要がある.本研究では認証デバイスを用いて,管理者により承認された複数のOSから適切なOSの起動と終了を制御できるシステムを提案する.提案システムの特徴は,OSの種類とは独立に,起動されるOSの数を把握するために認証デバイスを用いる点にある.利用者は,システム利用時に利用したいハードウェアに認証デバイスを挿入する.提案システムは,デバイスの挿入を検出するとハードウェアと認証デバイスの組合せにより,管理者が定めた起動すべきOSを決定し,起動する.認証デバイスが抜かれると,起動したOSを停止する.これらの動作は,制御対象のOSより下位に配置するOS制御レイヤにおいて行う.このOS制御レイヤを仮想計算機モニタXenを用いて実装し,動作実験を行い,提案システムの有効性を確認した.
著者
森田 和宏 望月久稔 山川 善弘 青江 順一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.39, no.9, pp.2563-2571, 1998-09-15

自然言語辞書に構築される基本語彙は有限であるが,それら基本語の関係を定義することで,膨大な数の関係情報が作り出される.複合語,慣用表現,格関係などもこの関係情報の範疇に属し,これらを基本単語の共起情報と呼ぶ.共起情報を基本単語の並びとして格納すると,記憶効率が非常に悪くなるので,これら関係情報の効率的な記憶検索技法は重要な課題である.本論文では,基本単語からなる共起情報をトライ構造で効率的に記憶検索する手法を提案する.本手法では共起情報を構成する2つの基本単語を1つのトライに登録し,関係情報をトライの葉ノード間のリンク関数で定義する.共起情報の登録による記憶量の増加はこのリンク情報のみとなり,リンク情報もトライに格納する.本手法では,トライのアークを高速にたどる必要があるので,これをO(1)の計算量で実現するダブル配列法を適用する.この結果,共起情報の検索時間は,基本単語数や葉ノード間のリンク数に依存しない一定の計算量となった.約10万語の基本単語に対して,複合語,同音語判定の共起語,格構造辞書などの約100万の関係情報を構築した実験結果より,検索時間は1.2msと一定となること,また記憶量は従来法より1/3に圧縮できることが分かった.Collocational information is very useful for natural language processing systems and it includes compound words,cooccurrency words,verbs and the role of nouns in the case slot,and so on.Collocational information can be constructed by combining basic words infinitely,so it is important to propose a fast and compact structure representing them.This paper presents an efficient data structure by introducing a trie that can define the linkage among leaves.It enables us to decrease the amount of memory required for the same basic words.Theoretical observations show that the worst-case time complexity of retrieving collocational information is a constant,independent of the number of words and linkages.From the simulation results for collocational information,it is shown that the presented method is about 1/3 smaller than that of the competitive methods.
著者
木村 昌司 田口 友康
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.38, no.11, pp.2209-2216, 1997-11-15

日本語の文章は仮名漢字混じり文であり,その印刷文書は仮名書体の違いによって視覚的印象が変わるといわれている.この研究では,6種類の仮名書体を選んで,その印象の変化が何と関係しているのかを分析した.始めに物理計測で縦横の幅と黒領域の面積比を計測した.次に心理実験で被験者にサンプルを提示し,その印象を40種類の形容詞を用いた選択記述法で解答させた.この両者から,全体として文字間が一定に見えるようにデザインされた時代の新しい書体が良い印象を与え,縦または横に長い,時代の古い書体が読みにくくかつ悪い印象を与えるという結果が得られた.Japanese texts are written in kanji(Chinese)and kana characters.It is said that the use of different typefaces of kana characters may result in different visual impressions in the printed texts.This paper studies the kana typefaces in Japanese typesetting in two aspects,that is,a physical measurement and a psychological experiment with the use of six typical kana typefaces.In the physical measurement,the vertical and horizontal widths as well as the density of black area were measured.In the psychological experiment,the impression of the typefaces were evaluated for texts of different styles by the method of selected description on forty adjectives.The result showed that the kana typefaces of modern time,designed in a square-like shape,gave a good impression,while those of ancient time,characterized by the shapes of unequal vertical vs.horizontal widths,gave a poor impression,as a whole.
著者
藤川 真樹
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.1937-1947, 2021-12-15

釈迦は,3つの教理(十二縁起,四諦,八正道)を説いたとされる.本稿では,当該教理に対する著者の理解と仏教研究者とのディスカッションに基づき,(1) ソーシャルエンジニアの思惑どおりにモノを渡したり受け取ったりしがちな人の傾向性,(2) モノを授受するという判断に至るまでの心理的過程,(3) ソーシャルエンジニアリングに対抗するために人が日常的に実践すべき行動を考察する.この研究は,人工知能の父であるMarvin Minsky氏が残した興味深い言葉に著者が出会ったことがきっかけである.
著者
森勢将雅 村主 大輔 馬場 隆 片寄 晴弘
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.1244-1253, 2013-04-15

電子的に合成される歌唱が音楽コンテンツ制作に用いられるようになって以来,パソコンを用いた音楽制作はこれまでにない盛り上がりを見せている.Vocaloidに代表的される歌唱合成ソフトウェアでは,煩雑なパラメータの調整(歌唱デザイン)が自然な歌声を生み出すために必要であり,クリエイタは,作業時間の多くを歌唱デザインに割いている.本研究では,歌唱デザインの1つの形として,歌唱素材に対して,特定の歌手の歌唱スタイルを転写する方法を取り扱う.本論文では,島唄風歌唱における歌唱技巧「グイン」を対象とし,入力された歌声を島唄風に変換する技術,および,歌唱デザインを支援するインタフェース「グインレゾネータ」を提案する.F値により性能を評価した結果,67.8%であることが示され,主観評価では知覚的にグインを転写できることが確認された.
著者
菅野 翔平 片寄 晴弘
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.1463-1473, 2023-11-15

近年,男性ボーカルのポップス楽曲が歌いにくいと指摘する声をよく耳にするようになった.主要因の1つとして単純なメロディ音高の上昇が考えられるが,これまでに精緻な調査は実施されていない.また,ミックスボイスと呼ばれる発声法が多用されるようになったとの指摘もあるが,こちらも精緻な調査に基づく主張ではない.この状況に際し,我々は50年規模の調査を実施することとした.発声法の分類については,メインボーカル(非コーラス),コーラスの分類,さらに,メインボーカルについてはチェスト,ファルセット,ミックスボイス,プルの4種類のタイプ分類を目指すが,大量データに対してのラベリングはきわめて煩雑な処理となる.そこで,深層学習による発声法の自動分類処理を実装したうえ,メロディの基本周波数推定をあわせて,過去52年間合計1,560曲に対して分析を実施した.この結果,約一音半分の平均ピッチの上昇と,地声から高音域に用いられる発声法へと徐々に変化している状況を確認した.また,メロディピッチの上昇とミックスボイス,プルによる歌唱の推移に強い正の相関を確認した.
著者
有山 大地 安藤 大地 串山 久美子
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.1729-1740, 2020-11-15

エレキギターの音作りは一般的にアナログのアンプ,エフェクタなどを用いて行われ,その組合せは膨大な数にのぼり,演奏者やエンジニアが求めている音色を得るために大きな労力を必要とする.たとえば,憧れのギタリストの音色を再現したいという場合,まず同一の機材の入手,加えてステージセッティングの画像などからエフェクタのつまみの位置を推測する必要があり,手動での再現のプロセスは困難なものである.そこで音色再現の問題を解決するため,ユーザが所持している1つのソフトウェアエフェクタのみを用いて,ユーザが目標とする音になるべく近い音作りができることを目標として,エフェクタの複数のパラメータを機械学習により探索する手法の開発を行った.本研究は現在までにギターエフェクトの1つである「歪み系エフェクト」を中心に,開発したシステムによって再現された音色について調査・実験を行い,再現度の評価において一定の成果を得た.また,本研究で開発した手法がエレキギター音色の再現において有効であることを確認した.
著者
河合 直樹
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.586-593, 2000-03-15

木目模様は最も代表的なテクスチャの1つであり,コンピュータグラフィクスによるソリッドテクスチャ生成技法も種々報告されている.従来の技法では木目の年輪模様の再現に注力されてきたが,年輪以外の微細組織の表現や繊維の流れに関する研究は少なく,得られる質感は十分ではなかった.本論文では樹木の内部構造に着目し,木理と呼ばれる樹木内部の繊維配向性をモデル化する.代表的な木理のパターンと一般的な木理の記述手法を示した後,レンダリング時に必要な局所的な座標変換に基づいたモデルを示す.次に微細組織の例として道管と呼ばれる鉛直な組織について,代表的なパターンのモデリング技法を示し,呈示した座標変換を作用させて表示することで,木理のモデルの妥当性を検証する.続いて微細組織の簡易的な表現として提案されている明度シフト法を,年輪構造と微細繊維組織を一元的に記述する手法として一般化し,木理による座標変換を作用させることにより,樹木構造の合理的な記述手法を提案する.最後に繊維の勾配に依存する鏡面反射モデルを導入し,木理の影響で材面に現れる光源と視点に依存する反射現象をシミュレーションする.これらの手法を導入することで,従来法よりもリアルな質感表現が可能になり,CG映像や産業デザインにおいて有用な品質高いソリッドテクスチャを生成することが可能な技法を示すことができた.
著者
山下 祐貴 森本 有紀 秋田 健太
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.1065-1073, 2023-05-15

本研究では,深層学習により入力テキストの内容に対応した色付きメッシュモデルを生成する手法を提案する.これまでに深層学習を用いて様々な表現形式の3次元モデルを生成する手法が広く提案されている.その中でも,入力した画像に対応する3次元モデルを生成する3次元再構成手法が多く提案されている.しかしこのような手法では,ユーザが作成したい形状や色などの3次元モデルを得るために,その特徴に対応する画像を用意する必要があり,手間がかかる.本研究では,テキストによる自由形式の説明文を入力とすることでそのような手間を軽減する.3次元モデルの大規模データセットを用いた定量的・定性的な評価を行い,提案手法がテキスト入力による柔軟な色付きメッシュモデルの生成において有効であることを示した.
著者
藤居 祐輔 安積 卓也 西尾 信彦 加藤 真平
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.1048-1058, 2014-02-15

サイバーフィジカルシステム(CPS)が注目される中,その技術基盤として,GPUなどのデバイスが利用され始めている.GPUはデバイスドライバを経由して利用されているが,CPSのように短い周期で繰り返し多くの処理が行われると,ホストへの負担が増えるとともに,デバイス制御や処理の同期によってレイテンシが発生する.さらにGPU処理では,データをデバイスメモリへと転送する必要があり,上記問題を悪化させ,データ転送処理自体にも影響を与える.そのため我々は,GPU制御処理の一部をGPUマイクロコントローラ上で動作するファームウェアへオフロードし,GPU処理の効率化をめざす.本論文では,オフロード基盤としてコンパイラ,デバッグ支援ツールを含んだGPU制御ファームウェア開発環境と,既存のNVIDIA社製ファームウェアと同等の機能を持つファームウェアを開発する.次に,オフロード基盤を用いて,制御処理の一部であるDMA転送処理をファームウェアに追加実装することで,オフロードを実現しGPU処理を効率化する.我々は,実装したファームウェアと既存のファームウェアを比較し,性能低下がないことを示すことで,オフロード基盤の有効性を確認した.オフロードしたデータ転送処理では,既存のデータ転送処理と比べ,一部のデータサイズにおいて約1.5倍の転送速度を実現し,さらに既存データ転送処理へのオーバラップ転送を実現した.
著者
高 友康 筧 康明
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.1083-1094, 2023-06-15

オーディオゲームとは,視覚情報を用いずに音声のみでプレイするデジタルゲームジャンルである.オーディオゲームはこれまで視覚障がい者を中心に親しまれてきたが,視覚を前提とせず聴覚に集中してゲームをプレイするという体験は,より幅広い層から楽しめるコンテンツとして近年注目を集めている.すでに様々な種類のオーディオゲームが制作されているが,既存のオーディオゲームでは,音声のみでの空間的な情報提示が困難であるといった課題がある.それに対し今回筆者らは,プレイヤがより自由に空間的な移動・回転が可能なオーディオゲームの制作を試み,「大爆走!オーディオレーシング」と名づけるレーシング型オーディオゲームを提案する.これはゲーム内での音楽の連続的なパンニングをコース形状の手がかりとして用い,音の聞こえる方向へハンドルを操作することで走行が可能になるものである.また,ゲームとしてのエンタテインメント性を向上させるため,ボイス実況や,サウンド演出,適切な難易度での体験のための運転アシスト機能の設計を行った.本稿では,設計・実装の詳細と,オンライン展示および物理展示を通して得られた走行データから読み取れる考察,そして誘導方式について行ったユーザスタディについて述べる.
著者
矢野 翔平 伊藤 弘大 山下 真由 高嶋 和毅 伊藤 雄一
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.1002-1013, 2023-05-15

一般的な教育現場では,教師が生徒の理解状況を把握するために,テストを実施したり,机間巡視をして問題解答の様子を観察したりする.しかし,教師の能力や状況によっては正しく理解状況を把握できていない場合がある.近年では,情報技術を用いた学習支援システムが発達し,学習時の情報を取得することが容易になった.一方,情報教材が普及してきたとはいえ,現在最も普及している学習方法はペンを用いてノートに筆記するものである.また,紙を使用して学習する方が,電子デバイスを使用して学習するよりも優れているという結果が報告されている.そこで本研究では,筆記行動から理解状況を推定する手法を検討する.筆記量や筆記速度は,理解状況と相関があるといわれており,学習者の理解状況が筆記行動に表れていると考えられる.理解状況の評価には,解答した問題の正誤判定と学習者の解答に対する自信度を組み合わせて評価する統合評価法を用いる.また,筆記行動取得の手段として,学習者のペンを握る力(ペン把持力)を用いる.60名の実験データより,理解状況は,特に解答時間やペン把持力の平均変化量に表れていることが確認された.また,ペン把持力には自信度の影響が強く表れていることが分かった.理解状況の推定精度を評価したところ,圧力センサ付きペンから得られる情報と解答用紙から得られる情報(解答情報)を組み合わせることで72.1%の推定精度が得られた.
著者
披田野 清良 大木 哲史 高橋 健太
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.2383-2391, 2013-11-15

ここ10年あまりにわたり,生体情報を秘匿して認証を行うテンプレート保護型生体認証が注目されている.しかしながら,それらの安全性に関する議論では,生体情報間の相関性により,当該情報量が減少し,保護テンプレートが漏洩した際に,生体情報の推定が容易となる可能性については必ずしも十分に言及されていない.そこで,本論文では,テンプレート保護型生体認証の一方式であるFuzzy Commitment Scheme(FCS)を用いたバイオメトリック暗号に着目し,生体情報間の相関性を考慮して保護テンプレートの安全性を評価する.FCSでは,ユーザが提示する生体情報から生成されたビット列と誤り訂正符号の符号語との排他的論理和を計算してコミットメントを作成し,これを保護テンプレートとすることにより安全性を確保している.本論文では,まず,ビット間に相関性の残る可能性が高い指紋情報に着目し,筆者らが提案する2次のRenyiエントロピーを用いた生体情報の情報量評価手法に基づき,実際に指紋ビット列のビット間には何らかの相関性があることを明らかにする.次いで,生体ビット列のビット間の相関性を利用したなりすましに関する新たな脅威としてDecodable Biometric Dictionary Attack(DBDA)を提案し,DBDAに対する安全性を理論的に考察するとともに,シミュレーション結果を交えて定量的に評価する.
著者
油田 健太郎 山場 久昭 片山 徹郎 朴 美娘 岡崎 直宣
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.2395-2405, 2015-12-15

現在,P2Pファイル共有ネットワークが世界中で利用されている.しかし,その多くはファイルの流通制御を持たないため,著作権侵害ファイルの流通やコンピュータウイルスによる個人情報の流出などが社会問題となっている.その解決策としてインデックスポイゾニングと呼ばれるファイル流通制御方式が研究されている.しかし,P2Pファイル共有ネットワークへインデックスポイゾニングを適用する際に,トラフィックの増大やインデックスの汚染などの問題が発生することが確認されている.そこで本論文では,ファイルの流通制御を低下させることなく,それらの問題を解決する手法として,P2Pファイル共有でのクラスタリングに着目して,重点的なポイゾニング機能を提案することで従来手法を改善し,その一部をWinnyネットワーク向けに実装することで,提案手法の有効性を評価する.
著者
土居 誉生 隅田 英一郎
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.1742-1752, 2006-06-15

コーパスベース翻訳は高い翻訳品質を実現しうる有望な技術である.しかし,入力文と関連のない語が訳文に湧き出すなど,特徴的な翻訳誤りも観察される.本稿では,この湧き出し誤りへの対処として,後編集により自動修正するアプローチを提案する.提案手法は,単語翻訳モデルを利用して誤り語候補を検出し,修正処理を起動する.誤り語候補は,対訳コーパスから得られた用例を利用した制約の検証を経て,訳文から削除される.日英および中英翻訳を対象とした複数のシステムを使った実験で,誤り語自動削除による翻訳精度向上効果が確認された.
著者
Xuping Huang Shunsuke Mochizuki Akira Fujita Katsunari Yoshioka
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, 2023-03-15

In recent years, malware-infected devices, such as Mirai, have been used to conduct impactful attacks like massive DDoS attacks. Internet Service Providers (ISPs) respond by sending security notifications to infected users, instructing them to remove the malware; however, there are no approaches to quantify or simulate the performance and effectiveness of the notification activities. In this paper, we propose a model of security notification by ISPs. In the proposed model, we simulate the security notification with composite parameters, indicating the nature of malware attacks such as persistence of malware, user response ratio, and notification efforts by ISPs, and then discuss their effectiveness. Moreover, we conduct a simulation based on the actual attack.------------------------------This is a preprint of an article intended for publication Journal ofInformation Processing(JIP). This preprint should not be cited. Thisarticle should be cited as: Journal of Information Processing Vol.31(2023) (online)DOI http://dx.doi.org/10.2197/ipsjjip.31.165------------------------------
著者
大野 直紀 土屋 駿貴 中村 聡史 山本 岳洋
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.929-940, 2018-03-15

音楽動画の印象に基づく検索や推薦,音楽動画の類似判定のためには,音楽動画の印象推定に関する技術が必須となる.しかし,音楽に対する印象評価や映像に対する印象評価に関する研究は多数なされている一方で,音楽と映像が組み合わされた音楽動画に対する印象評価の研究は十分になされていない.我々は,音楽と映像の印象がどのように音楽動画の印象に影響するのかを調べるため,「音楽のみ」「映像のみ」「音楽動画」の3つの関係性に着目し,これらに対する8印象軸の印象評価データセットを構築した.また,それらを分析することで,音楽と映像の印象評価の組合せによる音楽動画の印象推定の可能性について検討を行った.またデータセット内の音楽動画の音楽と映像を任意に合成した音楽動画を生成し,印象評価を行ってもらうことで,音楽印象と映像印象の組合せが音楽動画の印象とどのように関係しているのかの分析を行った.その結果,音楽と映像の印象を組み合わせることによる印象推定の可能性があること,また各印象によって印象の組合せ方が異なることを明らかにした.