著者
植木 理恵
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.98-108, 2008

本論文は掲載取り消しとなりました。<BR>2013年2月3日 一般社団法人日本教育心理学会
著者
池上 知子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.133-146, 2014
被引用文献数
6

社会から差別をなくそうという長年の取り組みにもかかわらず, 現代においても依然として差別に苦しむ人たちは存在する。本稿では, この問題にかかわる社会心理学の理論や研究パラダイムの変遷を追いながら, なぜ事態が改善しないのかを考察する。その一つの理由として, 差別的行動や偏見に基づく思考は, 人間が環境への適応のために獲得した正常な心理機能に根ざしていること, その機能はわれわれの意識を超えた形で働くため, これを統制することがきわめて困難である点を指摘する。そして, それにもかかわらず, 社会心理学はそれらを意識的に制御することを推奨してきたことが, 問題をさらに複雑にする結果となっていることを議論する。最後に, 最近, われわれに楽観的見通しを与えてくれる新しい観点が登場してきたことに言及する。それらは, 伝統的接触仮説を発展させた研究と潜在認知の変容可能性を検討している研究の成果に基づいている。本稿では, これらの新しい方向性についても考察する。
著者
山森 光陽 岡田 涼 山田 剛史 亘理 陽一 熊井 将太 岡田 謙介 澤田 英輔 石井 英真
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.192-214, 2021-03-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
93

この紙上討論の目的は,メタ分析や,メタ分析で得られた結果を多数収集し,メタ分析と同様の手続きでさらなる統合的見解を導く分析(スーパーシンセシス)といった,研究知見の統計的統合が,学術的な教育研究の持つ現象理解と理論形成,社会的要請への応答という二つの役割に対して果たしうる寄与を議論することである。日本の教育心理学におけるメタ分析の受容の経緯と最近の研究動向の概観を踏まえ,研究知見の統計的統合の普及が,個々の一次研究をサンプルと見なし,これらの積み重ねで結論を導こうとする態度の広まりといった,教育心理学および隣接領域での研究上の意義が示された。また,「エビデンスに基づく教育」を推進する動きとその是非に対する議論の活発化といったことも背景として,効果量のみに注目する単純化された見方がもたらされ,研究知見の拙速な利用が促されるといった社会的・政策的影響が見られることも示された。その上で,これらの意義や問題に対して議論がなされた。研究知見の統計的統合は現象理解と理論形成に一定の貢献をするものの,因果推論を行うためには個票データのメタ分析が必要となり,そのためのオープンサイエンスの推進の必要が指摘された。また,研究知見の統計的統合が,精度が高く確からしい知見をもたらし得るものと見なされ,その結果が平均効果量といった単純な指標で示されることから,教育の実践者が持つ判断の余地の縮小や,教師の仕事の自律性の弱化を招きうるといった危惧が表明された。これらの議論を通じて,研究知見の統計的統合は,現象理解と理論形成に対しては,知見群全体の外的妥当性を高めるための有効な手立てであることが示され,構成概念の再吟味や概念的妥当性の検証にも寄与する可能性があり,教育心理学の理論自体の精度と確からしさを高めることにつながる展開が期待できることが導かれた。社会的要請への応答に対しては「何が効果的か」を知りたい,明解でわかりやすい結論が欲しいという要望には応えていることが示された。一方,この討論で指摘された諸問題は,教育心理学が産出する研究知見そのものが研究分野外に与えるインパクトそのものを問うものであることも示された。最後に,研究知見の統計的統合が,現象理解と理論形成,社会的要請への応答という二つの役割をいっそう果たしていくためには,教育心理学の領域の内外で,合理的な知見を伝達し交わし合うことに対する意識が,これまで以上に求められることを論じた。
著者
大浜 幾久子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.144-155, 1997-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
39

ピアジェ (1896-1980) の生産性は, 60年にわたって常に際だったものであった。また, 死後出版も10年間に及び続いた。ピアジェの全著作を貫いているひとつの概念がもしあるとすれば, それは均衡である。ピアジェの野心は科学的認識論をつくりあげることであった。ピアジェが発生的認識論とよんでいる認識論は, 基本的に構築説にたつものであり, その主目的は, 初期の単純な認識からより複雑で強力な構築物への移行を研究することである。ある方向へ向かう発達のダイナミクスを説明するのに, ピアジェは調整のメカニズムを伴う均衡化のモデルを精緻化した。この考えの起源は, ピアジェが若き日に著した「探求」と題する小説にまで遡る。生涯を通して, ピアジェはこのモデルを洗練し続けたのである。生涯最後の10年, ピアジェは, 研究を構造の側面から過程の側面へと転換し, 心的操作を機能のより広い形態に従属させ, また新しい可能なことと必然なことへの開放という観点から, 認識, 矛盾, 弁証法を分析することによって, ピアジェ理論のもつ機能主義的な特質を新たなものにした。
著者
水野 君平
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.115-132, 2022-03-30 (Released:2022-11-11)
参考文献数
109
被引用文献数
1

本稿の目的は2020年7月から2021年6月末までの1年間の教育心理学における学校心理学分野の研究動向をレビューし,その課題を論じることであった。まず,日本教育心理学会第63回総会の「学校心理学(PG)」部門で行われた65件の発表について研究の動向を論じた。後半は,学校心理学にかかわる国内和文雑誌3誌から27編の論文を抜き出して研究動向を整理した。最後にレビューした論文の研究手法についての動向の整理と今後の課題を述べた。
著者
⻆谷 詩織
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.184-205, 2023-03-30 (Released:2023-11-11)
参考文献数
188

2021年から文部科学省「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」が開催されるなど,ギフティッド児の理解とその支援の必要性が広く認識され始めている。本稿は,ギフティッドの的確な理解と,それに基づく今後の教育心理学分野における研究や実践の発展を目的とする。まず,世界的に共通理解のなされているギフティッドの定義と特性を押さえる。次に,日本における関連研究を概観する。その上で,ギフティッド研究や実践に取り入れると有効と思われる観点を4つあげる。まず,(1)ギフティッド児であれば誰もが特別な支援を要するわけではないという点を確認した上で,誰が支援を要するのかを明確にする。また,(2)ギフティッドの判定や診断の問題と,当該ギフティッド児が身を置く教育環境において特別な支援やプログラムを要するか否かとを分けて考える必要性を論じる。関連して,(3)ギフティッド判定において,その子に潜在的な才能があるかどうかとそれを発揮できるかどうかは分けて検討することの重要性を論じる。最後に,(4)現行の教育制度や実践に存在するギフティッド教育の要素を活かす可能性について論じる。
著者
遠藤 利彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.150-161, 2010-03-30 (Released:2012-03-27)
参考文献数
85
被引用文献数
6 2

ボウルビーの主要な関心は, 元来, 人間におけるアタッチメントの生涯にわたる発達(すなわち連続性と変化)と, 情緒的に剥奪された子どもとその養育者に対する臨床的な介入にあった。近年, 幼少期における子どもと養育者のアタッチメント関係が, 子どもの, アタッチメントの質それ自体を含めた, その後の社会情緒的発達にいかなる影響を及ぼすかということについて, 実証的な知見が蓄積されてきている。本稿では, まず, 児童期以降におけるアタッチメントとその影響に関する実証研究と, 乳児期から成人期にかけてのアタッチメントの個人差の安定性と変化に関するいくつかの縦断研究の結果について, 概観を行う。次に, アタッチメント理論の臨床的含意について, 特に, 無秩序・無方向型アタッチメントとアタッチメント障害, そして, そうした難しい問題を抱えた事例に対するアタッチメントに基づく介入に焦点を当てながら, レビューし, また議論を行う。最後に, 日本の子どもと養育者のアタッチメント関係の特異性をめぐる論争とそれが現代アタッチメント理論に対して持つ理論的含意について批判的に考察し, さらに日本におけるアタッチメント研究の現況が抱えるいくつかの課題を指摘する。
著者
KENTARO KATO
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.148-164, 2016 (Released:2016-08-12)
参考文献数
86
被引用文献数
1

This article provides an overview of recent international trends in large-scale educational assessment and relevant issues in educational measurement.  The literature indicates that the design, administration, and functions of large-scale assessment are changing dramatically, due to the changes in measurement content and method that reflect evolving societal needs.  This in turn raises various measurement issues such as concerns with validity and efficient processing and psychometric modeling of complex data.  While the successful implementation of large-scale assessment in its most advanced form is still largely ideal with many issues to be addressed, research and practice in line with the overall trends are emerging.  Implications for assessment practice in Japan are also discussed.
著者
植木 理恵
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.98-108, 2008-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
48

本論文は掲載取り消しとなりました。 2013年2月3日 一般社団法人日本教育心理学会
著者
Satoru SAITO
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.120-132, 2014 (Released:2014-12-24)
参考文献数
83

Working memory underpins the transient retention of information in the service of cognitive processes within a variety of tasks. As this memory function restricts our ability to regulate mental processes, it potentially characterizes our learning and educational activities. This article reviews three lines of working memory research in cognitive psychology : Short-term retention of verbal information, the relationship between storage and processing in working memory, and the role of working memory in learning activities. These three research areas constitute promising directions in working memory research. Although the present paper limited its scope to relatively basic studies, the findings reported here could lay the foundation for applied working memory research in educational settings.
著者
白水 始 飯窪 真也 齊藤 萌木
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.137-154, 2021-03-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
82

本稿では,学習科学の成立と展開を振り返り,次の課題を同定することで,実践を支える学びの科学になり得る可能性を検討した。1990年代初頭の成立から30年が経ち,学習科学は学習者の学びの複雑さや多様性を可視化し,それを支える教師や教育行政関係者,研究者が実践の中で学びについて学び合うことの重要性を明らかにしつつある。それは研究方法論が,特定の学習理論を具現化した教材などのパッケージを提供するデザイン研究から,ビジョンを提示し,その実装を現場主体で行えるようシステム面で支援するデザイン研究や,教育行政関係者も巻き込んだ連携基盤の上で学校や教師集団の自走を狙うデザイン社会実装研究に変化しつつあることとも呼応する。今後は,児童生徒が授業の中でいかに学ぶかの仮説を教育現場が自ら立てて,そのデザイン仮説を実践結果で検証し,学習プロセスの複雑さや多様性についての理解を深めることを支えられる実践学の創成が求められている。
著者
高橋 雄介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.38-56, 2016 (Released:2016-08-12)
参考文献数
103
被引用文献数
6

本稿の目的は, 2014年7月から2015年6月までの間に発表・報告された人格(パーソナリティ)特性をはじめとする個人差変数が取り扱われた研究について概観し, その動向と課題についてまとめたうえで, 今後の展望や展開を論じることである。ジェームズ・ヘックマンの研究以来, パーソナリティ特性(非認知能力)の発達及び教育的介入の可能性に関する研究に焦点が当たっている。本稿では, まずBig Fiveとそれに並ぶ個人差変数(知能や自尊感情など), そして自己制御とそれに類する心理学的構成概念(衝動性や満足の遅延など)に関する研究について, 次に, パーソナリティ特性や個人差変数と身体的・精神的・社会的健康との関連に関する研究について概観して, それらの成果をまとめた。最後に, 「あ・い・う・え・お」に準える形で(あ : Anchoring vignettes, い : Interactions, う : Unique relationships, え : Environmental Effects, お : Other reports), 5つの観点から今後のパーソナリティ特性研究の展望と展開を考察し, 3つの視座から課題と期待を論じた。
著者
佐々木 保行
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.137-146, 1996-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
88
被引用文献数
2

本論文は, 父親の育児関与とそれが父親におよぼす影響についての概観を試みたものである. これまでわが国の発達研究者の多くは, 父親の子どもへの影響についてほとんど考慮してこなかった. 親子関係に関する大部分の研究は, 主として母子関係の研究に集約されている. そのため父性や父子関係の研究は, 大変少ないのが現状である. 他方, 欧米の研究者では, 家族を社会システムとしてとらえる見方が次第に濃厚になっている. その理由は, 母親, 父親, 子ども, の家族メンバーが, お互いに直接あるいは間接に影響しあう存在だからである. 近年, 父親の文化的イメージは, 養育する父親として, また子どもと同様, 発達する父親としてとらえられている.