著者
大武 美保子
出版者
千葉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、個別に開発してきた二種類の会話支援ロボットの要素技術を統合し、場の雰囲気を読み取り、適切な発言を選択可能な会話支援ロボットを開発することである。発話時間や表情など非言語情報の認識技術に基づいて場の雰囲気を読み取り、会話中の人間の発言など言語情報の利活用に基づいて適切な発言を選択可能とし、人と人との会話をより円滑に支援できるよい聞き手となるロボットが実現するかどうかを、実験的に検証する。平均年齢94歳の健康長寿姉妹の会話をヒントに、面白い話をする機能、面白い話で笑う機能等を開発することに成功した。非言語情報の認識に基づいて場の雰囲気を読み取る技術の開発に関連して、以下の成果が得られた。顔画像から笑顔度を計測するソフトウエアを用いて、会話時の笑顔度の変化を計測し、参加者の笑顔度が閾値を超えた時にロボットが笑うアルゴリズムを考案した。このアルゴリズムを実装した、笑うロボットをグループ会話に参加させたところ、参加者の笑いが増え、モデルとなった健康長寿姉妹からも高評価を得た。また、東京工業大学中臺研究室、(株)システムインフロンティアと共同で、パッケージ化、無線化したくらげ型マイクロホンアレイ「くらげ君2号」を開発し、グループ会話において参加者の発話量を計測できることを確かめた。言語情報の利活用に基づいて適切な発言を選択可能とする技術の開発に関連して、以下の成果が得られた。共想法形式のグループ会話の中で、参加者が提供した、笑いが多く取れた話題を、ロボットが再利用する実験を行った。健常高齢者による話題を、ロボットが提供したところ、健常高齢者の参加者を笑わせることができた。即ち、参加者が提供した話題の利活用により、グループ会話を盛り上げることができることを確かめた。
著者
大武 美保子
出版者
千葉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は,これまで数値化が困難であったこころの現在時刻や,こころの時間の流れを計数し,可視化する,新たな計測評価システムを提供し,新学術領域「こころの時間学」の推進に貢献することである.平成27年度は,研究項目1, 2, 3について研究を進めた.1) 平成26年度までに,会話中の発話から,時制と語彙に基づいて,発話者のこころの時間を推定する手法を開発した.平成27年度はさらに,出来事が起こった時刻とその出来事を参照する時刻,発話する時刻を考慮し,こころの時間を推定する手法を開発した.発話内容だけでなく,それらが語られる視点が,過去,現在,未来のいずれかを評価することが可能となった.2) 会話のテーマ設定に基づく話題や,参加者の属性と,過去がこころの時間に占める割合との関係を分析した.街歩きを行った後,共想法を行った際の会話データを分析対象として,以下のことを明らかにした.即ち,古い街並みや築年数が経った建物を話題にすると,話題と共に持ち寄られた写真に写っている対象そのものではなく,その対象から想起される過去の出来事や気持ちが語られる傾向にある.街歩きをした地域の在住者と外来者のこころの時間を比較すると,在住者の方が,話題に占める過去の割合が高い傾向にある.3) 会話のテーマ設定をそろえた上で,健常高齢者,認知症高齢者,介護施設利用者の会話データを対象にこころの時間を推定し,認知機能とこころの時間との相関を調べた.認知機能が低下した高齢者は,健常高齢者と比べ,話題に占める過去の割合が高い傾向が見られ,それを数値化することができた.
著者
大武 美保子
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29 年度は,研究項目1, 2, 3について研究を進めた.1. 共想法支援システムに基づく主体価値発展支援システムの開発:共想法支援システムを発展させ,異なるテーマに対する話題探し,および,同じテーマに対する他者の話題の閲覧を通じ,利用者の主体価値発展を支援するシステムを設計した.2. 認知行動療法の理論と会話データの分析に基づくテーマの設定とプログラムの考案:共想法形式の会話データから主体価値を推定する手法を,思春期を対象に実施した共想法における会話データを分析することを通じて検討した.好きなおやつをテーマに,高校一年生を対象として,共想法形式の会話を体験する演習を実施した際の,話題提供の発言を文字起こししたデータを分析対象とし,主体価値が反映していると考えられる内容の項目を探索した.値段や食欲,体重といった制約条件の中での葛藤を反映し,本人の自由裁量があると考えられるおやつというテーマ設定は,特に思春期における主体価値を推定する上で有効である可能性が示唆された.3. 認知行動療法と会話支援技術における評価指標に基づく主体価値発展評価指標の選定:引きこもりの若者が集うサポートステーションの運営者に,共想法を体験頂いた上でヒアリングを行った.また,精神科デイケアにおいて利用者を対象に,共想法を試行した上で,リハビリプログラムを考案した.主体価値発展評価指標を,総括班との議論を通じて選定し,実験計画を策定した.
著者
片岡 洋祐
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

プラズマは光・荷電粒子・ラジカル等からなり、その医療応用においてはさまざまな可能性が示唆されているものの、確立された理論に基づく医療技術あるいは装置は未だ確立されていない。特に、中枢神経組織へのプラズマの作用についてはほとんど研究が進められておらず、その作用や医療応用の可能性すら議論できる状況にない。そこで、ラット大脳皮質を対象に大気圧プラズマ照射がどのような作用を有するかについて、光組織酸化反応との相違点から明らかにしてきた。具体的には、光組織酸化の場合、一過性のシナプス伝達抑制が引き起こされるが、プラズマ照射ではそういった神経伝達への影響は小さかった。また、強い光組織酸化反応では周辺細胞の脱分極現象が引き金となって片側大脳皮質にSpreading depressionが発生し、グリア前駆細胞やミクログリアが一斉に増殖を開始する一方、プラズマ照射ではSpreading depressionを発生させることなく多数の増殖細胞を出現させることを発見した。こうしたプラズマによる細胞増殖の誘導と組織再生との関係について分子メカニズムを解明し、さらに、再生誘導に最適なプラズマ照射条件を見出した。
著者
北田 亮
出版者
生理学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

他者に理解しやす顔表情の表出は円滑なコミュニケーションに重要な役割を果たす。しかし視覚障害者が表出した顔表情は、晴眼者の表情に比べて認識することが難しいとされている。晴眼者は顔を触るだけで個人や表情を識別できるので、触覚を用いた顔表情の学習によって、より認識しやすい顔表情の表出ができる可能性がある。しかし触覚による顔の認識を支える神経基盤についてはよく分かっていない。例えば視覚による顔の認識には、後頭葉・側頭葉の特異的なシステムの役割が重要であるが、このシステムが多感覚的な顔認識に関わるかどうかはよく分かっていない。さらに視覚障害者で顔認識に関わるこのシステムが発達し、維持されているかどうかも不明である。本研究は顔認知に関わる神経基盤の多感覚性と可塑性について明らかにしようとするものである。平成21年度は顔認知に関する神経基盤の多感覚性を明らかにした(Kitada, et al., 2010 NeuroImage)。そこで平成22年度は顔認知に関わる神経基盤の可塑性について検討した。視覚障害者を対象に心理物理学実験を行い、視覚障害者でも識別できることを明らかにした。さらに機能的磁場共鳴法(fMRI)を用いて、顔表情の識別に関わる脳活動を先天的な視覚障害者(先天盲)と晴眼者で比較した。その結果、晴眼者の視覚と触覚による顔表情の識別に関わる大脳皮質領域(紡錘状回・中側頭回・下側前頭前野)は、先天盲による顔表情の識別でも活動することを明らかにした。この結果は視覚経験に依存せず、顔表情の認識に関わる神経基盤が発達および維持されることを示している。
著者
小鹿 一
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

オニヒトデから発見したステロイド配糖体acanthasteroside B3は、PC12細胞の神経様突起伸長作用およびマウス記憶改善効果を示す。したがって神経変性疾患の治療薬への応用が期待できるため、未解決であった(1)分子標的や作用機構、(2)安定供給、という2つの重要な課題に取り組んだ。1.作用機構の解析: acanthasteroside B3は、神経成長因子(NGF)によるMAPキナーゼ(ERK, p38)の活性化を増強するが、NGF受容体の活性化は増強せず、標的が不明であった。そこで、MAPキナーゼ上流の既知の分子(Ras, NGF受容体TrkAなど)の活性化の有無をウェスタンブロット法により調べた。その結果、極微量のNGF共存下で、acanthasteroside B3はNGFによるTrkAの微弱な活性化(リン酸化)を増強していることがわかった。そこで、NGFを事前に培地中でインキュベートした後にPC12細胞に投与したところ、インキュベート時間に応じてNGFの突起伸長効果が低下し、acanthasteroside B3により回復した。したがって、acanthasteroside B3のNGF増強作用は、NGFの安定化が一要因と考えられた。2.活性類縁体の合成と記憶改善効果の確認: オニヒトデからのステロイド配糖体の供給は、材料入手の不安定性、危険性、煩雑な精製作業など困難が伴う。そこで応用化を視野に、構造活性相関に則した単純化類縁体の合成を行った。従来合成した類縁体はNGF増強活性を示したが難水溶性のため動物実験を断念していた。そこで、PC12細胞に対する突起伸長活性と高い水溶性を兼ね備えた数種の類縁体を安価なエルゴステロールから合成した。合成類縁体は天然acanthasteroside B3の活性の約50%の活性を示したが、残念ながら水溶性は低かった。今後はステロイド核の水酸基の数をさらに増加させた類縁体の合成を目指す。
著者
谷村 禎一
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

生物の行動は、プログラムされた本能的側面と、経験や環境により適応的に変化できる可塑的な側面から成り立っている。これまでの昆虫の行動の研究は、固定化された反射、本能行動が中心であり、行動の可塑性はあまり注目されてこなかった。生物は自己の維持、成長、増殖のために外界から栄養を取り込む必要がある。生物が栄養となる食物を識別する上で味覚感覚は重要であるが、生物は食物の栄養価をどのように感知しているのであろうか。ショウジョウバエの成虫の雌は生涯に個体当たり3000個もの卵を生むが、そのために多量のアミノ酸の摂取が必要とされる。産卵時に糖だけを含む培地では雌の産卵数が低下することがわかった。ショウジョウバエがアミノ酸をどのように感知しているかを調べるために、食用色素を利用したtwo-choice preference test、CAFE assay、吻伸展反射、唇弁感覚子からの電気生理学的記録によって、ショウジョウバエはアミノ酸溶液を識別して摂食し、さらにアミノ酸欠乏状態に置かれた交尾後の雌は、アミノ酸の摂食量が増加することがわかった。交尾後に雄から雌に渡されるsex peptideの受容体の機能がアミノ酸に対する嗜好度の上昇にかかわっているのか調べた。またアミノ酸受容体遺伝子の検索を行った。
著者
平野 博之 佐藤 豊
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

イネの花序は,穂軸,ブランチ,小穂から構成され,小穂は小花(花)と外穎や内穎などいくつかの側生器官から成る.本研究は,この高い階層性を持つイネの花序の構築および花の発生ロジックを解明することを目的としている.fon2変異を昂進する変異体 (fon2 enhancer 2B-424),一次ブランチが偽輪生の表現型を示すpvp1, 小穂の形態異常を示すtol変異体 (wadより改名)やfsp1変異体などを用いて,発生遺伝学的研究を行った.FON2は花メリステムの幹細胞維持の負の制御因子であり,fon2変異体では花メリステムが肥大する結果,花器官数が増加する.2B-424系統はfon2変異を昂進する変異体の一つである.昂進変異の原因遺伝子を同定した結果,クラスC遺伝子のOsMADS3に機能喪失型の変異が起きていることが判明した.この研究により,FON2とOsMADS3が共同して花メリステムの有限性を制御していること,OsMADS3が花メリステムの維持制御にも関わっていることが明らかとなった (Yasui et al. 2017).tol変異体の表現型を詳細に解析し,この変異体では小穂の左右相称性がそこなわれ,対称軸が2つ形成されるようになること,その原因はメリステム増大や部分的な活性低下であることを明らかにした (Sugiyama et al. 2016).fsp1変異体の原因遺伝子の単離を試みたところ,メリステム維持に関わるFON1遺伝子に変異が起きていることが示された.fsp1の小穂には,fon1小穂に見られる異常に加えて他の表現型が現れることから,未知の第2の遺伝子に変異が生じている可能性が示唆された.PVP1に関しては,この遺伝子の近縁パラログであるPVP2と併せて解析を行い,これら2つの遺伝子が穂の構築に冗長的に作用していることを明らかにし,メリステム機能との関連を解析中である.
著者
松尾 豊 PRENDINGER HELMU 中山 浩太郎
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-06-30

(i)記号処理を組み込んだDeep Q Networkの構成に関しては、低次元の状態表現を獲得する手法に関する研究を進めた。具体的には、部分的な観測を扱うニューラルネットワークのモデルとして,人間の視覚的注意を模倣した注意機構(attention mechanism)を持つモデルが提案されている。しかし,これらのモデルでは,注意機構の学習がタスクから定義される外的な報酬信号を用いた強化学習によって行われており,外部からの報酬信号が得られない問題設定下では注意機構の学習を行うことができない。そこで、特定のタスクに依存しない方法で注意機構を学習させ,状態の予測を行う手法を構築した。また、よりロバストな状態表現の学習を行うため、深層敵対的強化学習(DARL)を複数のドメインに対して適用する研究も行った。その結果を、深層学習に関する国際会議のワークショップで発表した。次に (ii) 文章からの画像の生成モデルを用いた、画像空間での演算処理 に関して、文章(ソース文)から画像を生成し、それを別の言語での文章(ターゲット文)に変換する方式のニューラル機械翻訳(NMT)を実現した。単純に行うと精度の問題があるため、ソース文からターゲット文の変換を行うseq2seqのモデルに、画像の情報を加えるというアプローチをとった。すなわち、テキストと画像が持つ意味情報を,潜在変数として陽に含むニューラル翻訳モデルを提案した。実験では,Multi30kという,画像とそれに対応する英独の対訳コーパスを用い,提案モデルとの比較を行った.標準的な翻訳精度評価指標である METEORスコアにおいて全てのベースラインを上回った.また、この研究の過程において、seq2seqの学習時により密な報酬を与えることで精度がよくなることを発見し、 その結果を、深層学習に関する国際会議のワークショップで発表した。
著者
中村 亮一
出版者
千葉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

今年度は計算解剖学モデルと術具ナビゲーションログ情報を用いた手術工程・技能分析アルゴリズムの検討として,①手術技能を定量的に評価する術者スキルレベルの推定と,②手術工程評価のための手術プロセスモデルの構築と評価について研究を実施した.今年度も内視鏡下手術で最も一般的である胆嚢摘出術を基本対象とし,ファントムと内視鏡トレーニングボックスを用いた模擬的腹腔鏡下胆嚢摘出術25例のデータを用いて研究を実施した.昨年度までに開発した術具位置ログと工程分析用臓器モデルとの干渉解析により手術作業のステージを同定し,各ステージでの鉗子作業の定量解析指標(各工程の作業時間,作業進捗度,術具先端移動速度,ログ分布近似楕円面積,ログ分布近似楕円重畳率,ログデータの分布密度)を自動抽出するアルゴリズムをベースに,以下の開発評価を行った.①技能評価:上記の定量解析指標を用い,重回帰分析を利用して各作業工程の作業特性に応じて各解析指標が技能レベルに与える影響度を算出した.その結果を用いて各解析指標からその影響度を加味して最終的な定量的技能レベル値を算出する回帰モデルを開発した.②工程評価:手術ワークフロー解析の基礎として手術プロセスモデルを構築・比較する手法を構築した.手術ナビゲーション情報から取得した術具先端の通過領域 a,作業進捗度 p,術具先端速度 v,術具種類 i のパラメータを用いて手術中の一連のアクティビティの配列となる手術プロセスモデルを定義し,配列アラインメントを応用して手術プロセスモデルを整列・比較した.その結果.手術プロセスモデルは作業工程中の作業動向を忠実に表していることが示唆された.
著者
恩田 裕一 山本 政儀 山田 正俊 北 和之 竹中 千里 浅沼 順 中島 映至 篠原 厚 神田 穣太 五十嵐 康人
出版者
筑波大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-06-28

1.領域内の相互啓発と情報共有:全計画研究班の研究が円滑に進むよう統括を行った。WEB中継会議システムを活用して全構成員間のより緊密な連携を図った。 2.研究支援活動:「データベースワーキンググループ」を統括し、事故発生以降の環境データ、モデリングデータ、分析データを使いやすい形で整理し、関係研究者に提供した。また「分析チーム」を統括し、分析がIAEAスタンダードになるようproficiency testの結果を反映させた。3.公募:各計画研究の補完・推進を目的として採択した第ニ期公募案件について研究支援を行った。
著者
野村 真樹
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、多くの計測時間で得られた単一細胞遺伝子発現データを用いて、細胞の状態遷移と力学構造の関係を調べる事である。本研究ではアルゴリズムの開発とそれを用いた単一細胞RNAseqデータの解析を行った。・アルゴリズムの開発本研究で取り扱う単一細胞遺伝子発現データは細胞を破壊して計測するため、同一細胞の時系列変化を追うことが出来ない。その為、データ点の近さ関係を定義してデータ点をつなぐことで擬似的な時間変化を可視化するプログラムの開発を行った。擬似的な時間に並べたサンプルを用いて遺伝子発現量の相関関係の変化を追うプログラムの開発を行った。本研究遂行中に単一細胞RNAseqで計測した遺伝子発現量は細胞周期の影響を強く受けている可能性が示唆された。そこで、遺伝子間の発現量の関係性を調べるために計算トポロジーを用いた非線形解析手法を提案しプログラムの開発を行った。・単一細胞RNAseqデータへの適用iPS細胞から心筋細胞へ分化させた細胞サンプルから、単一細胞RNAseqを用いて遺伝子の発現量を計測した。データの解析には本研究で開発したプログラムを用いた。解析の結果、同一の分化誘導日でも分化誘導効率に起因すると考えられる細胞の不均一性が認められた。また、全サンプルを少数サンプルに分割した後、おのおのに対してWGCNAと呼ばれている階層的クラスタリングを適用して強く相関している遺伝子モジュールを同定した。Jaccard Indexを用いて遺伝子モジュールの近さを判定し、遺伝子モジュールネットワークを構築した。その結果、細胞の分化に伴う遺伝子発現モジュールの動的な変化が観察された。
著者
下平 英寿
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

大規模なネットワークデータが近年容易に入手できるようになり,ネットワークに潜む構造を理解することが応用上も重要になっている.ネットワークは多くの場合スパース性をもち,ノードとリンクからなるグラフと考えると各ノードが他のノードに接続するリンク数(次数)はノード数に比べてとても小さい.このような複雑ネットワークの研究が注目されているが,ネットワークデータを統計解析するツールの研究は不十分で,今後さらに重要になると考える.そこで本研究では,ネットワークデータの統計解析を通して創造的に多様なスパースモデリングを探求する.とくに,ネットワーク成長モデルの優先的選択関数やスパース正則化の正則化関数の関数形に着目したモデリングを探求する.(1)既知のネットワークの生成メカニズムに興味がある場合,成長ネットワークモデルをネットワークデータに適用して,生成モデルを推定する.ノード接続の優先的選択関数のノンパラメトリック推定法を考案して分析ツールのソフトウエアPAFitとしてCRANに公開していたが,さらにノード適応度も同時にベイズ推定する手法を提案してソフトウエアを公開した.youtubeやfacebook等のソーシャルネットワークの実データに適応してその有効性を検証した.(2)未知のネットワーク構造をグラフィカルモデルによって推定する場合,正則化項を加えたスパース推定を行う.この正則化項のモデリングを工夫して,ランダムグラフとスケールフリーネットワークの両者を含む一般的な正則化項を提案し検証を行った.