著者
平出 克樹
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、岐阜県飛騨市にある神岡鉱山の地下1,000メートルに設置した大型の液体キセノンシンチレータ検出器XMASSを用いて、超新星爆発に伴うニュートリノを観測することで、中性カレントニュートリノ-原子核コヒーレント弾性散乱の世界初検出を目指すものである。本年度は、安定したデータ収集を続けながら、これまでに収集したデータの解析を進めてきた。また、当初の研究計画にはなかったが、LIGOによる重力波の直接検出が報告されたことに伴い、XMASS検出器においても重力波事象GW150914と同期した事象が観測されていないか確認を行った。今後も引き続き、超新星ニュートリノにとどまらず様々な天体活動に同期した事象の観測の可能性についての研究が期待される。
著者
松浦 和則
出版者
鳥取大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

我々は、トマトブッシースタントウィルスの内部骨格モチーフであるbeta-Annulus構造を形成する24残基ペプチド が、水中で30-50 nmのナノカプセル(人工ウイルスキャプシド)を形成することを明らかにした本研究課題では、このウイルス由来ペプチドからなるナノカプセルの内部や表面を、タンパク質や無機材料などで「着せ替えた」融合材料を創製することを目指した。まず、金ナノ粒子で着せ替えた人工ウイルスキャプシドを構築するために、29残基のペプチドINHVGGTGGAIMAPVAVTRQLVGSGGGCGを合成し、これに金ナノ粒子(5 nm)結合させ、金ナノ粒子-beta-Annulusペプチドコンジュゲートとした。臨界会合濃度以上の濃度となるように水中に再分散させ、未集合の金ナノ粒子を透析で除くことにより、金ナノ粒子で着せ替えた人工ウイルスキャプシドを構築した。その結果、人工ウイルスキャプシドと同様の約50 nmに金ナノ粒子が30-60個程度集合した構造がTEMで観察された。次に、より毒性の少ないナノカプセルの構築を目指して昨年度構築したヒト血清アルブミン(HSA)で着せ替えた人工ウイルスキャプシドの細胞内導入を検討した。、FITC標識したHSA-beta-Annulusペプチドコンジュゲートを調製し、HT1080細胞への導入を検討したところ、細胞内に十分量のFITCの蛍光が観察され、細胞核近傍のゴルジ体に局在していることが示唆された。またWST-assayにより、このConjugateはHT1080細胞に対して毒性が無いことが示された。
著者
池田 浩
出版者
大阪府立大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

平成21年度は有機ラジカルELの関連実験として,2-(1-ナフチル)-2-フェニル-1-メチレンシクロプロパン(1)を含むメチルシクロヘキサンマトリクスへのγ線照射-昇温(77-130K)実験を行い,トリメチレンメタン型ビラジカル(^32^<・・*>)の三重項-三重項蛍光に基づく青緑色の熱ルミネッセンス(TL)の観測に成功した.しかし,この実験には制約が数多くあり,蛍光量子収率(Φ_F),蛍光寿命(τ_F)などの光物理データの測定は不可能であった.そこで平成22年度および繰越による23年度は,ダブルレーザーフラッシュフォトリシス(DLFP)法を採用して,基質1の光誘起電子移動反応による基底状態の^32^<・・>の発生と,その光励起による^32^<・・*>の発生を達成し,室温・溶液中における^32^<・・*>の発光解析を検討した.ジクロロメタン中,N-メチルキノリニウムテトラフルオロボレート-トルエン共増感系で,第一レーザー(Nd:YAG,λ_<EX>=355nm)を照射し,過渡吸収スペクトルを観測したところ,λ_<AB>=385nmに^32^<・・*>の過渡吸収が観測された.そこで,第一レーザー照射の500ns後に第二レーザー(355nm)を照射すると,λ_<PL>=470nm付近に発光ピークが観測された.この発光波長は,^32^<・・*>のTL発光波長(λ_<TL>=479nm)に近く,DLFP法によっても^32^<・・*>の発光が観測されていると考えられる.TLとDLFPでは発光スペクトル波形に若干の違いが認められた.本研究ではこれを^32^<・・*>の配座異性体の数とその相対的割合が温度によって異なるためであると考え,参考として^32^<・・>の配座異性体の密度汎関数理論計算を行った.DLFP法によるΦ_F,τ_Fの決定実験も行ったが,最終データ得るにはまだ至っていない.なお,当該年度内に基質合成の新しいルートも開拓した.
著者
羽石 秀昭
出版者
千葉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

われわれはこれまでに交差プロファイル法と呼ぶ4D-MRIの再構成法を提案してきた.4D-MRIにより胸部の呼吸性移動を3次元空間と時間空間で可視化,定量化することができる.交差プロファイル法では,各データスライス(DS)あたり約20周期の呼吸の取得が必要となり,3次元情報を取得するのに20~30のDSの撮影を行う必要がある.結果として全データの収集に30分間程度要することになり,このことが実用化に向けて課題のひとつとなっていた.本研究では撮像時間の短縮とそれに伴う画質劣化への対策を研究目的とした.全体の収集時間を短くするために,1スライスあたりのエンコード数を減らし,複数スライスを高速に切り替えながらデータ収集を行うスライスインターリーブ撮像を導入することを前提とした.さらに,この際の画質劣化の問題に対して,スパースモデルを用いた高画質再構成を行う.エンコード数不足による劣化を抑制するため,L+S分解と呼ばれる,動画像を低ランク成分とスパース成分に分解するロバスト主成分分析の方法をMR再構成に適用して4次元再構成を行った.1/3の収集時間を想定したシミュレーション実験を実行した.得られた画像に対し,4次元画像でのRMSEや最大値投影法での視覚的評価など多面的な評価を行った.この結果,提案法によって,少ないデータ数からでも劣化の少ない再構成が行われることが確認された.
著者
三浦 郁夫
出版者
広島大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

生殖腺の性差構築の遺伝的仕組みには、動物間で著しい多様性が存在する。本研究は、性決定様式(XY型とZW型)、性染色体の分化、性ホルモンに対する感受性において、地域集団で多様性を示すツチガエルを用いて、生殖腺における性分化関連遺伝子の時間・空間的発現プロフィールを比較解析し、生殖腺の性差構築における多様性と普遍性の分子基盤の解明を目的として行った。昨年度、ZW雌の生殖腺では、Cyp19遺伝子の発現が性ホルモン処理でも変化しないことから、その高発現の維持が性転換に抵抗性を示す仕組みの一つと予想された。そこで、本年度は、Cyp19遺伝子の制御遺伝子候補として、未分化生殖腺でCyp19の雌雄差発現開始より早い時期に雌雄差発現を示す性連鎖遺伝子Sox3遺伝子の機能解析を行った。Sox3コンストラクトを受精卵に導入したF0の2個体からF1を作成して、生殖腺の表現型と遺伝子発現を調べた。その結果、Sox3が導入されたZZ幼生(受精後30日)の生殖腺は精巣構造を維持していたが、本来、卵巣で高い発現を示すFoxl2遺伝子の発現が有意に上昇した。さらに、変態後にはZZ個体においてCyp19の発現の上昇と精母細胞の欠如が観察された。同様の実験について、XY幼生(30日)で調べたところ、Foxl2に加え、Cyp19も有意に上昇し、20個体中1個体では卵巣様の構造も観察された。一方、Sox3遺伝子の翻訳を阻害するMorpholinoを作成し、受精卵に導入したところ、13個体のZW幼生(30日)のうち、5個体では精巣構造が観察された。ただし、生殖腺特異的遺伝子の発現に変化は見られたなかった。以上の結果は、ZW集団では性連鎖遺伝子Sox3がCyp19やFoxl2遺伝子の発現制御を通じて卵巣分化を誘導しており、その構成的発現が性ホルモンに対する生殖腺性分化の感受性に影響していることが示唆された。
著者
Keola Souknilanh
出版者
独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は二つである。一つは、国家に関するマイクロジオデータを用いて、国家の立地を視覚化する。具体的には、国家が統治および公共財を提供するために建設した庁舎、病院、学校、道路など広義の公共施設の内、もっとも重要かつ基本的な道路の整備状況を図式化することにより、国家の立地を視覚化する。二つ目は、世界規模でFAOがGAUL定めたADM2レベルの行政区別に道路の整備状況を表す集積・空間自己相関指数および部門別のGRP(Gross Regional Products)を計算し、そして、これらの指数と経済活動の水準の関係を推計する。2015年度では関連研究として「Shedding Light on the Shadow Economy: A Nighttime Light Approach」というタイトルの論文がJournal of Development Studiesに掲載することが決まった。引き続き数本の論文が投稿中に加え、国家の立地と経済発展に関する本を執筆している。
著者
関 由行
出版者
関西学院大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、マウス始原生殖細胞で起こるゲノム全体のエピゲノム再編成(エピゲノムリプログラミング)を制御する分子基盤の解明とその人為的制御による新規細胞リプログラミング法の開発を行っている。本年度は、生殖系列特異的に発現する転写制御因子PRDM14と始原生殖細胞特異的に発現が抑制されるヒストンH3K9メチル化酵素、G9A/GLPに着目して研究を行った。始原生殖細胞で観察されるPRDM14の発現とG9Aの発現抑制をES細胞で人為的に再現した結果、この2条件を併用した場合にのみ生殖細胞特異的遺伝子群、核移植胚異常遺伝子群、2細胞期胚特異的遺伝子群の顕著な発現上昇が観察された。またPRDM14とG9Aの発現抑制の併用条件においてこれらの遺伝子領域のDNA及びH3K9の脱メチル化が増強されることが明らかとなった。これらの遺伝子群はin vivoの始原生殖細胞の後期(生殖巣到達後)に脱メチル化されることが示されており、またその直前にゲノム全体のH3K9が脱メチル化されることを報告している。そこで、これらの遺伝子領域に存在するH3K9のメチル化が、PRDM14の標的領域への結合を阻害している可能性を検証するために、未処理、PRDM14単独、G9A欠損、PRDM14/G9A欠損の4条件におけるPRDM14の標的領域への結合をChIP-qPCRで比較した。その結果、PRDM14単独では生殖細胞特異的遺伝子群、核移植胚異常遺伝子群、2細胞期胚特異的遺伝子群への結合は弱かったが、G9Aを欠損させることでその結合が劇的に上昇することが明らかとなった。これらの結果より、始原生殖細胞はPRDM14の発現誘導とH3K9の脱メチル化という2つの経路を駆使することで、初期化に抵抗性を示す遺伝子領域の初期化を行っている可能性が考えられる。また、この研究成果はPRDM14とG9Aの機能阻害の併用による新規細胞リプログラミング法の開発に繋がるであろう。
著者
川口 泰雄
出版者
生理学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

前頭皮質における遅延活動や、線条体でのTD誤差計算に使われる情報を送る可能性がある錐体細胞活動解析とその局所回路モデリングを共同研究で進めた。前頭皮質の緩徐振動は睡眠時やある種の麻酔下でも生じることが知られおり、行動中に一過性に変化したシナプス結合の固定化に関与することが提唱されている。この緩徐振動下での、前頭皮質から線条体へ投射する錐体細胞の発火時系列を解析することは、基底核が時期依存的に特異的な情報を受け取る可能性の検証に役立つと考えた。これまでに前頭皮質第5層線条体投射細胞を逆行性応答で同定して、緩徐振動中の発火時期を解析した。さらに、前頭皮質第5層の視床入力が多いサブレイヤー(5a層)と、少ないサブレイヤー(5b層)に分けて解析を進めた。サブレイヤーの同定には、小胞性グルタミン酸トランスポーター2型の蛍光免疫組織化学を用いた。その結果、線条体へ投射するサブタイプ間で発火順位が異なるだけでなく同じサブタイプであっても、5a層と5b層で発火時系列が異なっていることが分かった。皮質線条体投射時間差仮説(CSTD仮説)では、(1) 基底核内の直接路が次の行動価値を、間接路が現在の行動価値を表現することと、(2) 直接路、間接路がそれぞれ、黒質ドーパミン細胞の活動を亢進、抑圧することが、重要な仮定である。実験的に、直接路が報酬学習を、間接路が忌避学習を促進することが明らかにされている。このモデルを使って、報酬逆転学習と罰回避学習の時間経過をシミュレーションできることが分かった。
著者
筒井 健一郎
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

グループ逆転学習課題を遂行中のサルの前頭連合野の諸領域(背外側部(DLPFC)、背側部(DPFC)、腹外側部(VLPFC))の神経活動を、低頻度反復経頭蓋磁気刺激(低頻度rTMS)によって抑制したときの、課題遂行行動の変化を調べた。グループ逆転課題は、我々が独自に開発した課題であり、モデルベースおよびモデルフリーの行動制御過程を分離することができる。8つの抽象図形によって構成される刺激セットを、4つの刺激からなる2群に分け、それぞれの群は異なる結果(ジュースあるいは食塩水)を予告する条件刺激として、パブロフ型条件づけを行った。数十試行ごとに、刺激と結果の関係をすべて逆転させる「全体逆転」を繰り返すと、サルは常に同じ意味をもつ4つの刺激を「カテゴリ」(刺激の等価性に基づいたグループ)として認識するようになり、1つの刺激について逆転を察知すると、その他の刺激については、あらかじめ結果との関係が逆転することを予測して行動するようになった(モデルベース行動)。一方で、8つの刺激のうち4つしか刺激と結果の関係を逆転させない「部分逆転」においては、このカテゴリの情報が使えず、個別の刺激について新たに刺激と結果の関係を、時間をかけて学習するストラテジーをとった(モデルフリー行動)。DLPFC、VLPFC に低頻度rTMSを与えた時には、全体逆転における課題成績が低下したが、部分逆転の課題成績には影響がなかった。一方、DPFC に低頻度rTMSを与えた時に、全体逆転、部分逆転ともに、課題成績への影響は認められなかった。この結果により、DLPFC および VLPFC は、モデルベース行動の制御に重要な役割を持っていることが明らかになった。一方、モデルフリー行動の制御には、前頭連合野を必要としないことが示唆された。
著者
石井 俊輔
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

熱ショックストレスなどによるエピゲノム変化がATF-2ファミリー転写因子を介して誘導されるメカニズムが明らかにされ、それが次世代に遺伝することが示された。そしてATF-2ファミリー転写因子が、自然免疫系の免疫記憶、精神ストレスによるテロメア短縮にも関与することが示された。さらに、栄養条件や精神ストレスによっても、ATF-2ファミリー転写因子を介してエピゲノム変化が誘導され、それが次世代に遺伝することを私達は観察している。このように、ATF-2ファミリー転写因子が「多様な環境要因によるエピゲノム変化とその記憶」に大きく関わっていることが示された。
著者
岡田 麻衣子
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本年度は、リガンド依存的なユビキチン制御システムの新たなモデル基質の候補として、プロテアソーム構成因子に焦点を当てて解析を行った。ER陽性乳癌細胞株MCF7において、プロテアソーム阻害剤下においてUBE3Cがプロテアソーム構成因子をユビキチン化することが確認された。しかし、そのユビキチン化の程度は微弱である一方で、女性ホルモンによりERを活性化することで、プロテアソーム構成因子のユビキチン化が顕著に亢進することが示された。UBE3Cによるプロテアソーム構成因子のユビキチン化修飾はプロテアソームの機能に抑制的に働くことを踏まえると、女性ホルモンがER/UBE3Cを介してプロテアソーム阻害剤効果を増強させることが示唆された。そこで、各種乳癌細胞株において女性ホルモンの有無に応じた乳癌細胞株のプロテアソーム阻害剤の感受性を検討した。その結果、ER陽性乳癌細胞株の阻害剤の感受性は、ER陰性乳癌細胞と比較して低い傾向にあったものの、女性ホルモンの添加により顕著に亢進することが示された。上記の系において既存の多様なER合成リガンドの評価を行った。SERMをはじめとする既存のリガンドはERの転写機能に部分的に作用することが知られているが、UBE3Cを介したERのユビキチン制御能に対する作用は未知である。その結果、ER陽性乳癌細胞株において、ERの転写機能に対するアンタゴニストとであるタモキシフェンとラロキシフェンは、プロテアソームに対するER/UBE3Cの機能に対してはアゴニストとして作用する可能性が示唆された。このことから、本モデル系はERの"機能”に選択的なリガンドの特定に有用であると考えられる。さらに、このような機能選択的なリガンドの評価を個体で確認することを想定し、UBE3Cノックアウトマウス及びノックインマウスを作出した。また、新たにこれらの生体内での意義として、DNA損傷応答に寄与する可能性を見出した。
著者
神取 秀樹 須藤 雄気 井上 圭一 岩田 達也 片山 耕大 山田 大智
出版者
名古屋工業大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

多くの生体分子は共通の構造をもとに多彩な機能を演出している。本課題で我々は、ロドプシンやフラビンタンパク質などを対象として機能の発見・転換・創成をテーマに柔らかさと機能との関わりを研究した。その結果、内向きプロトンポンプや新規チャネルロドプシン、環状ヌクレオチドを光で分解する酵素ロドプシンなどの発見を報告した。一方、機能転換については、ロドプシンやDNA光回復酵素に対して限られた変異導入により機能転換に成功したが逆方向は成功せず、非対称な機能転換が明らかになった。機能の創成に関しては、光駆動ナトリウムポンプの構造基盤に基づき、カリウムやセシウムをポンプするタンパク質を創成することができた。
著者
田中 寛
出版者
東京工業大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本年度の研究では、主にシゾンにおけるアブシジン酸(ABA)の作用について解析を行なった。これまでの研究で、シゾン細胞から内生ABAが検出されること。暗所で増殖停止したシゾン培養にABAを添加することでオルガネラDNA合成(ODR)が阻害されることを見いだしていた。しかし、ABAによる抑制効果は長期には持続しないことから実験的な問題が残されていた。今回、ABAを数時間ごとに再添加したところ継続的な抑制効果が見られたことから、ABAがシゾンの酸性培地中で急速に失活することが効果低下の原因であると考えられた。また、ABAの光学異性体((+)型、(-)型)を用いた実験より、+型のみが抑制活性を示したことから、植物ホルモンとしての機能と同様に、特異的レセプターを介した生理活性であることが強く示唆された。ABAの作用機作を明らかにする目的で、その添加によりODR促進効果がみられるHemeとの、培地への共添加実験を行なった。その結果、Hemeの添加によりABAのODR抑制効果が解消することを見いだした。従って、ABAはHemeシグナルを抑制することによりODRを抑制していることが示唆される。ABAとHemeの関係性については、シロイヌナズナにおいて、Heme結合性をもつTSPOタンパク質がABAにより誘導されることで、フリーのHemeによる細胞障害を抑制する機構が提唱されている。そこでシゾンゲノムを検索したところ、シゾンにもTSPOタンパク質が存在することが判った。さらに、この遺伝子がABAで発現誘導されることが判明したことから、TSPOによるHemeシグナルの吸着が、ABAによるODR抑制効果の分子機構であることが考えられた。ABAによるTSPO遺伝子の発現誘導機構について、現在解析中である。
著者
老木 成稔
出版者
福井大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

膜蛋白質は膜平面上で制限された拡散運動を行い、同種蛋白質間で集合・離散を行うものがある。しかし膜蛋白質の中でもイオンチャネルは、細胞膜上でごく少数のチャネルで細胞機能を担うものもあり、自己組織化によってチャネル機能の発現にどのような関連があるのか十分に検討されてこなかった。私達は原子間力顕微鏡(AFM)によってチャネル蛋白質の新しい動的秩序構造を発見した。チャネルはゲート開閉構造変化に連動して膜状で可逆的な自己組織化を行うのである。一方、チャネルと膜脂質の相互作用がチャネル蛋白質の新しい構造モチーフ(センサーへリックス)を介して行われており、しかもセンサーへリックスがゲート構造変化を制御することも発見した。この2つの発見から導かれることは、チャネル機能発現においてチャネル蛋白質の構造変化が膜脂質との相互作用を変化させ、チャネルの膜内での孤立状態と自己組織化状態の遷移を引き起こしている、というシナリオである。生体膜と異なり、脂質2重膜に精製したチャネルを再構成するにはチャネルの向きを揃えることが不可欠であるが、これまでに方法が確立していなかった。この方法の確立のために多くの実験を行った。またチャネル集合離散状態によってチャネル機能の差を捉えるためには原子間力顕微鏡で捉えられる事象でなければならず、様々な方法を試みてきた。その中で隣り合うチャネル機能に差があるという結果を得つつある。チャネルが膜とどう相互作用するかという点を明らかにする上で膜リン脂質の組成はきわめて重要である。私達は様々なリン脂質を使ってリポソームを形成し、膜上での集合離散状態を蛍光色素で測定した。その結果、リン脂質の組成だけではなく、膜の相分離・厚さなど膜の物理的特性によって集合離散状態が大きく変化することを明らかにした。これらの実験と並行して、複数の共同研究を開始し、新しい結果を得た。
著者
羽渕 由子
出版者
徳山大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は,外国人留学生が日本語でおこなう供述の特徴および正確で詳細な情報を引き出す方法を明らかにし,これらの結果を踏まえて日本語が母語でない者に対する面接のガイドラインを開発することであった。この目的を達成するために三つの研究をおこなった。第一の研究では,日本語初級と中級の留学生および日本語母語話者を対象として事故映像を見た直後と1週間後に日本語で面接をおこない,報告内容を分析した。分析の結果,初級は記憶成績が他群よりも低く,日本語でおこなう面接自体の負荷が影響している可能性が示された。また,初・中級は語彙や文法のエラーが多く,意味を確認するために面接者の介入が必要なことが示された。第二の研究では,母語による記述報告と日本語による口述報告を,事故を目撃した直後と1週間後におこない,報告内容について対応分析をおこなった。分析の結果,初・中級は,母語話者と比べて報告の形式や時期によって叙述が変化しており,複数手段で情報を確認しながら補完する必要性が示された。第三の研究では,本研究の実験的検討(第一,第二の研究成果)および先行研究(外国人留学生を含む第二言語学習者の日本語会話能力の判定基準,子どもに対する司法面接のガイドラインなど)を踏まえて,外国人留学生に対する面接のガイドラインを作成し,提案した。
著者
永井 宏樹 山口 博之 丸山 史人 Xuan Thanh Bui
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ヒトをはじめとする動物や植物などに代表される真核生物の誕生には、細菌が別の細胞内へはいりこんでミトコンドリアや葉緑体になるという、一次共生の成立が鍵となっています。しかしながら、細菌が真核細胞へ侵入するという現象自体は、細菌感染の現場で今日でも日常的に起こっています。本研究では、ヒト病原菌レジオネラ、アメーバ共生菌や病原性細胞内寄生菌とそれらの宿主である真核生物細胞との関わり方を解析することにより、生物が入れ子になって進化を駆動するというマトリョーシカ型進化の第一段階における進化原理の一端を明らかにすることができました。
著者
波多野 学
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

C2対称性をもつシンプルで安価なキラルビナフチル化合物は、配位子や有機分子触媒として多くの不斉触媒反応で用いられてきた汎用性のある不斉源である。特に、有機分子触媒におけるブレンステッド酸性の強さは触媒活性を特徴づける大きな要因であることから、研究代表者はキラルビナフチルジスルホン酸(BINSA)に着目している。これまでに、初めてのキラルBINSAの不斉合成とそれらを用いる不斉触媒反応の開発を重ねてきた。本研究では、これまでの研究開発を基盤として、合成が困難であったキラル3,3’-ジアリールビナフチルジスルホン酸を創製し、それらを高活性不斉触媒とする新たな触媒反応開発が研究目的である。特に、3,3’位へのアリール基導入により、立体及び電子的効果で従来よりも多様性のある精密触媒設計が可能となる。具体的には(1)3,3’-Ar2-BINSAによるシンプルな精密触媒設計、(2)キラル3,3’-Ar2-BINSAアンモニウム塩触媒の精密設計、(3)自己組織型キラル3,3’-Ar2-BINSAの精密触媒設計を行い、独創的な不斉有機触媒反応へと展開した。
著者
水島 昇 斉木 臣二 野田 展生 吉森 保 小松 雅明 中戸川 仁 岩井 一宏 内山 安男 大隅 良典 大野 博司 木南 英紀 田中 啓二 佐藤 栄人 菅原 秀明
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

本新学術領域研究は、オートファジーの研究を推進するために、無細胞系構成生物学、構造生物学、細胞生物学、マウス等モデル生物学、ヒト遺伝学、疾患研究を有機的に連携させた集学的研究体制を構築することを目的として設置された。本総括班では、領域における計画研究および公募研究の推進(企画調整)と支援を行うとともに、班会議・シンポジウムの開催、領域活動の成果の発信、「Autophagy Forum」の開設と運営、プロトコール集公開などを行った。
著者
細谷 紀子
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

生殖細胞と癌細胞において特異的に発現する「癌精巣抗原」が体細胞における染色体不安定性の誘導に果たす役割を解明するため、癌精巣抗原であるシナプトネマ複合体形成分子SYCP3とSYCE2について、体細胞を用いた機能解析を行った。我々は既に、シナプトネマ複合体形成分子SYCP3が体細胞において遺伝性癌抑制遺伝子産物BRCA2と複合体を形成して相同組換え修復によるDNA二本鎖切断修復を阻害して染色体不安定性を誘導することを報告している。前年度までに、SYCP3とBRCA2の複合体形成によって相同組換え修復が抑制されるメカニズムを明らかにするために、BRCA2におけるSYCP3との相互作用部位の解析を進め、BRCA2のN末側とC末側の2箇所に、SYCP3との相互作用領域があることを同定した。今年度は、引き続き、SYCP3およびBRCA2の組換え蛋白の作製を行い、in vitro binding assayにより、SYCP3とBRCA2のN末端が直接結合することを明らかにした。シナプトネマ複合体形成分子SYCE2については、前年度までに、体細胞においてDNA損傷応答の活性化とDNA二本鎖切断修復の亢進をもたらすことが示唆されていた。今年度、DR-GFPアッセイやDNA二本鎖切断末端結合解析を行い、SYCE2が相同組換え修復と非相同末端結合の両経路の修復効率を上昇させることを明らかにした。また、DNA損傷応答が活性化する背景を調べるために、SYCE2発現細胞におけるヒストンの翻訳後修飾やクロマチン構造の変化の有無について解析を進めた。
著者
米田 忠弘 道祖尾 恭之 高岡 毅
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

分子の組織化とそれによる機能創製の土台となる表面の設計と計測・物性制御が目標とし、特に分子スピンと分子電流の相互作用の学理探求と、その応用展開を目指し研究を行った。成果として、磁性分子における単一スピン物性評価手法として、近藤共鳴を用いた検出手法を開発、脱水素化による2層ポルフィリン・テルビウム錯体を用いた単一分子磁石特性のON/OFFに成功し、また銅コロール分子のスピンの空間分布を可視化した。原子レベルで磁気特性を測定可能なスピン偏極走査トンネル顕微鏡(SP-STM)の手法を開発、ナノ磁性材料に関する最も重要な特性である磁気異方性エネルギー(MAE)をナノ構造と同時に可視化・測定に成功した。