著者
谷藤 学 佐藤 多加之 内田 豪 大橋 一徳
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

本研究は、物体像表現の空間構造の解明(課題1)、物体像表現の空間構造と時間構造の統合理解(課題2)、脳における物体像のスパース表現の意味を解明する(課題3)の3課題から成る。そのそれぞれについて以下の進展があった。(課題1)前年の実績報告にある初期視覚野の3次元機能構造の可視化について、さらに、解析に検討を加え、論文として発表した。(課題2)物体像表現の時間構造の理解に関係した課題として、注視課題でトレーニングしたサルから様々な位置に提示した視覚刺激の対する高次視覚野の応答を記録し、視野のどこに提示されるかによって、応答の潜時が異なることを発見した。同様の記録を初期視覚に関連する領域でも行った結果、このような物体像の提示位置による潜時の違いは見られなかった。これらのことから、物体像の提示位置によって、異なる神経回路メカニズムで情報が低次から高次に送られていることが示唆された。この成果は論文として公表された。(課題3)自然画像の断片の中から高次視覚野の物体像応答を説明できる図形特徴を抽出するアルゴリズムについて交差検定など様々な方向から検討を行い、妥当性を明らかにした。研究の過程で大きな問題となったのは神経細胞の応答の試行毎のゆらぎである。一般にゆらぎの影響を除くためには、多くの試行について記録する必要がある。しかし、慣れによって試行を繰り返すと応答が次第に減弱するという問題点がある。我々は試行回数を増やす代わりに、より多くの物体像の応答を計測することで問題の解決をはかることができた。
著者
小山 靖人
出版者
北海道大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

光学活性な有機化合物と無機化合物とを合理的に複合化することで、有用な機能性素子・素材が創出される。不斉有機金属触媒、分離分割材料、円偏光発光性材料などがこれらの代表的な例である。不斉場と無機物の合理的な複合化は、今後の革新的な素子・素材創製において重要なコンセプトであると言える。らせんポリマーは、その繰り返し構造間で生じる「空孔」や「溝」といった光学活性低分子には存在しない特異な不斉場を有する。そのためラセン高分子を機能性材料の土台として活用する研究が近年盛んに研究されている。こうした背景の下、我々は①高次構造が完全に片方巻きで、②様々な無機化合物と容易に複合化でき、③多彩な用途に利用することができ、さらに④ラセンの高次空間を外部刺激によって自在にコントロールできるような、「元素ブロックのラセン集積ツール」の開発を目的に研究を推進している。本研究では(i)元素ブロック材料を簡便に合成する新しい高分子合成法と(ii)汎用性・信頼性の高いラセン集積場の創製に分類して研究を実施しており、本年度は(i)、(ii)についてそれぞれ成果を得、発表した。結果として、(i)高分子ニトリルオキシド反応剤を用いる簡便な無機ガラス表面修飾法を見出し発表した。また2官能性ニトリルオキシドを用いる高分子連結法をこれまでに報告しているが、その分子連結点に蛍光性素子であるボロンエナミノケトネートを導入する方法論を開発し発表した。さらに(ii)については、糖鎖の剛直な片巻きらせん構造の有用性に着目した研究を推進し、天然由来の1,2-beta-グルコピラナンやアミロースの構造に化学的に手を加えることで、元素ブロックの集積に対し有用な土台となることを明らかとした。
著者
鈴木 剛 渡辺 正夫 諏訪部 圭太
出版者
大阪教育大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

植物の受粉機構に関連する「ゲノム・遺伝子相関」を明らかにするために3つのプロジェクトを行った。第一に、形質転換実験によりインセスト回避をレストアできるかを検討し、シロイヌナズナの自家和合性の分子進化を考察した。第二に、アブラナ科植物の同一種内で受粉時の生殖障壁を生み出している新規生殖隔離遺伝子の花粉側・雌しべ側因子セットを同定し、機能解析により証明した。第三に、イネやアブラナの生殖器官特異的な包括的RNA解析により、受粉時の相関遺伝子の解析基盤を整備した。その過程で、イネ葯のmiRNAの網羅的解析から、耐冷性の高いイネ品種におけるmiRNAの遺伝子発現制御の役割を見いだした。
著者
萩野 浩一
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

中性子星内部で起こる核融合反応に関して、連星中性子星からのX線スーパー・バーストで重要となる 12C+12C 系の核融合反応の研究を行った。クーロン障壁以下のエネルギーにおけるこの系の核融合反応断面積には複数の共鳴ピークが観測されている。また、最近になり、非共鳴エネルギーにおける核融合反応断面積が 12C+13C 系及び 13C+13C 系の断面積に比べて著しく小さくなっていることが見出された。これらの実験的な事実を説明するために、核融合反応で生成される複合核の準位密度の観点から核融合反応断面積のエネルギー依存性を議論した。具体的には、虚部の強さが複合核の準位密度に比例する光学ポテンシャルを用いて結合チャンネル計算を行い、核融合反応断面積を求めた。このアプローチにより、12C+12C 系でできる複合核は12C+13C 系及び 13C+13C 系でできる複合核より比較的低温状態になること、及び12C+12C 系でできる複合核の24Mg は中性子及び陽子ともに偶数である偶偶核のため準位密度がそもそも小さいこと、の2つの要因から12C+12C 系の核融合反応断面積が小さくなることを明らかにした。この課題に加え、12C+12C 系及び 28Si+28Si 系に対する核融合反応断面積の振動現象を解析した。その際、よく核融合反応断面積に対してよく知られている Wong 公式の拡張を提唱した。これは、Wong 公式で用いられるクーロン障壁に関するパラメータを「かすり角運動量」において評価しエネルギー依存性を持たせるように拡張したものである。この拡張した Wong 公式が量子力学的な求められた核融合反応断面積の数値解をよい精度で再現することを明らかにした。この成果を原著論文にまとめ、Physical Review C 誌に発表した。
著者
福士 圭介
出版者
金沢大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に起因して、福島第一原子力発電所が水蒸気爆発を起こし、大量の放射性物質が原発周辺に放出された。放出された放射性物質の中で、総放出量と半減期から、原発周辺の土壌汚染の主な原因は放射性セシウム(Cs)であるといわれている。原発周辺の広範囲で放射性Csが土壌表層の細粒物質に濃集していることが確認されており、土壌に普遍的に含まれている層状粘土鉱物がCsの主な取り込み媒体と指摘されている。 福島県の土壌は阿武隈花崗岩を母岩としており、その風化生成物である層状粘土鉱物のであるスメクタイト、バーミキュライト、イライトの存在が確認されている。層状粘土鉱物は層状の結晶構造を持っており、層間に保持される陽イオンは溶液中の陽イオンと交換可能である。Cs+はこれら粘土鉱物への親和性が特に高いため、原発事故により放出されたCsは層状粘土鉱物の層間に強固に保持されていることが予想されている。しかし溶液中の主要陽イオンが高濃度である場合、強固に保持されたCs+であっても他の陽イオンとの交換によりCs+は溶脱する可能性がある。自然界において粘土粒子が接触する天然水は主要陽イオンを様々な濃度で含んでいる。したがって天然の土壌に吸着した放射性Cs+が天然環境に溶出することが懸念される。環境中における放射性Csの動態の理解には、天然土壌からの主要陽イオンによるCs溶脱挙動の理解が必須である。本研究は福島県第一原発周辺に分布する土壌粘土を用いて、主要陽イオン(Na+, K+, Mg2+, Ca2+, NH4+, Li+)添加によるCs(133Csおよび137Cs)の脱離挙動を系統的に検討した。また標準的なスメクタイトに保持されている微量セシウムを対象に主要陽イオンによる脱離実験も行った。
著者
水谷 泰久 水野 操 石川 春人
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

タンパク質は人工の分子では成し得ない高度な機能を有する。したがって、タンパク質を理解することは生命現象の理解のみならず、高度な機能性分子の創成に重要なヒントを与える。タンパク質の機能発現では、複数の機能単位が相互に連動して構造変化することが必須の役割を果たす。そのため、その機構解明には安定構造をもとにした議論のみでは不十分であり、機能する際に起きる構造変化を明らかにすることで理解が進む。本研究課題では、主に時間分解共鳴ラマン分光法を用いて、機能部位間の連動的な構造変化を可能にするタンパク質の構造変化と、構造変化を駆動する分子内のエネルギーフローを明らかにした。
著者
野村 晋太郎
出版者
筑波大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

従来の走査型近接場光学顕微鏡では、通常の光ファイバーを使うことによる円偏光の乱れ、近接場プローブのわずかな引っぱり歪みやねじれによって、円偏光が不規則な向きに乱されていた。そこで、本研究では集束イオンビームを用いて先端部と開口部の形状が軸対称に近い近接場プローブを開発した。さらにベレク補償子を用いて外部から光の偏光状態を補正する独自の手法を開発し、近接場プローブから出射される光の偏光状態を制御した。これらの手法により円偏光を近接場プローブから出射することに成功した。この円偏光走査型近接場光学顕微鏡を希釈冷凍機中に設置し、極低温・強磁場下において、GaAs/AlGaAs高移動度ヘテロ接合構造試料を局所光励起し、試料の電極間に生じるホール電圧を空間マッピングして調べた。その結果、ナノメートルスケールの領域へスピン偏極した電子を光学的に注入にすることが可能であることを実証した。さらに強磁場中でヘテロ接合構造試料中に生じる量子ホールカイラル端状態にスピン分裂した非圧縮性液体領域があることを初めて実空間で観察することに成功した。この空間マッピング測定によって得られた試料の電極間に生じるホール電圧の符号と大きさの位置依存性は局所スピン密度汎関数法に基づく計算によって説明され、最も内側の非圧縮性液体状態のスピン状態が大きな役割を果たしていることが示された。本研究で得られた成果は、例えば、消費電力を極限まで低減させるとされるスピントロニクス素子、トポロジカル素子の開発や、光学活性をもつ生体分子の研究の進展に貢献するものと期待される。
著者
佐藤 健
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

真核細胞内の小胞輸送において、小胞体(ER)からの輸送小胞(COPII小胞)の形成は、小胞体出口部位(ER exit site)と呼ばれる小胞体上の特定のサブコンパートメントで行われると考えられており、このコンパートメントの動態が、小胞体からの小胞輸送を時空間的に制御していると考えられている。このコンパートメントの形成機序、およびこのコンパートメントが受ける高度な時空間的制御のメカニズムについて解析を行った。平成26年度は、小胞体出口部位形成のダイナミクスを解析するために、前年度までに構築したCOPII小胞形成反応を人工脂質平面膜系で可視化する実験系を用いて、人工脂質平面膜上に形成されるクラスターの形成をCOPIIコートのアセンブリーの指標にして解析を行ったところ、Sec12 はクラスターから排除され、またSar1が局在するクラスターの辺縁部にも局在しないことが明らかとなった。また、COPIIコートのサブユニットであるSec13/31は、GTP存在下においてもクラスター上に留まっていることから、この実験条件下では脱コートは起こっていないことが示された。これらの結果から、COPIIコートのアセンブリー過程の新たなモデルを提唱した。また、これまでにER exit siteの形成に関与することが示唆されているSec16について機能ドメインの解析を行ったところ、Sec16のN末端領域は、Sar1のGTPase活性を調節することにより、小胞体膜上におけるCOPIIコートのアセンブリーを促進することを明らかにし、Sec16はCOPII小胞形成の単なる足場としてだけではなく、COPIIコートのアセンブリーにも積極的に関わっている可能性が示唆された。
著者
西秋 良宏 門脇 誠二 加藤 博文 佐野 勝宏 小野 昭 大沼 克彦 松本 直子
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

主として二つの成果があった。一つは、最新の考古学的知見を収集・整理して新人がアフリカを出てユーラシアに拡散した年代や経緯、そしてネアンデルタール人と置き換わっていった過程をできるかぎり詳細に跡づけたことである。もう一つの成果は、脳機能の違いに基づく学習能力差が両者の交替劇につながったのではないかという「学習仮説」を考古学的観点から検証したことである。従来、強調されてきた生得的な能力差だけでなく、歴史的に形成された社会環境の違いが、学習行動ひいては適応能力に大きく作用していた可能性を指摘した。
著者
坂本 良太
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本年度は、ビス(ジピリナト)金属錯体ナノワイヤとナノシートの光捕集系としての利用価値の実証を行った。ナノワイヤに関しては、液液界面合成法による結晶性ナノワイヤ作成に成功した。このナノワイヤは適当な有機溶媒中で超音波することで繊維一本一本に剥離できる。実際に単離されたナノワイヤ繊維はAFMにより観察された。このナノワイヤとカーボンナノチューブと共役させた複合材料は、カーボンナノチューブ単独に比べより優れた熱電変換特性を示した。また、当該ナノワイヤを半導体透明電極に塗布することで、光電変換の活物質層として利用できることを見出した。以上の研究成果をChemical Science誌に論文として発表した。ナノシートに関しては、界面合成法による大面積ナノシートの作成を達成した。液液界面法を用いることで厚さ6-800 nmのナノシート積層体を、センチメートルオーダーのドメインサイズにて合成できる。一方で、気液界面合成法を用いることで、単~数原子層ナノシートが合成でき、やはりこの種のナノシートとしては大きな、マイクロメートルオーダーのドメインサイズが実現できる。本ナノシートの構造決定をTEMの電子線回折により行った。本ナノシートについても光電変換材料への応用を行い、Nature Communications誌に論文を発表した。一連の研究成果は、ビス(ジピリナト)金属錯体からなるナノワイヤ・ナノシートが人工光合成光捕集系として利用できる可能性を示すものである。
著者
長谷川 明洋
出版者
山口大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では肺組織内での細胞の動き・ゆらぎと細胞間相互作用の形成による炎症巣の場の決定メカニズムを解明することを目的として、独自に開発したマウス肺内in vivo live imagingシステムを用いて解析を行い、今年度に以下の結果を得た。1.マウス肺内in vivo live imagingシステムを用いた樹状細胞の抗原分子取り込み過程の動的挙動解析:樹状細胞のみが蛍光を発するトランスジェニックマウスに対して、異なる色で蛍光標識した抗原分子を吸入させて肺組織内で抗原を取り込む課程の時間的定量的解析を行ったところ、抗原提示細胞は抗原吸入20分後には抗原分子の取り込みを開始することが明らかになったことから、抗原を取り込む過程をビデオ撮影して抗原取り込み過程の動的挙動解析を行った。2.抗原提示細胞とTh細胞の細胞間相互作用のダイナミクス解析:抗原を取り込んだ樹状細胞と肺に集積してきた抗原特異的Th2細胞の細胞間相互作用についてタイムコースを追った実験を行い、また細胞集団形成における役割を解析した。3.マウス肺内in vivo live imagingシステムによる喘息肺でのリンパ球の動的挙動解析:Th1やTh2細胞について抗原吸入後の肺組織内での動的挙動解析を行って差異を検討した。また同様の実験を劇症型急性肺炎モデルを用いて行い、種々の免疫細胞分画の動的挙動解析を行った。
著者
西嵜 照和
出版者
九州産業大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

巨大ひずみ加工法は,バルク状の金属材料に巨大ひずみを加えることで結晶粒径を微細化できる方法であり,この方法で作製された金属材料をバルクナノメタルと呼ぶ.本研究では,バルクナノメタルの特異な超伝導物性とその機構を解明することを目的として,磁化や電気抵抗などの巨視的物性測定に加え,走査型SQUID顕微鏡を用いてミクロな磁気分布の測定を行い渦糸構造を観測した.以下に平成26年度の主な研究成果を示す.(1)HPT加工で作製されたNbTi合金の超伝導特性NbとTiの粉末を原材料としてHPT加工で合金化したNbTiの超伝導特性を調べた.強磁場領域における磁化M(T)曲線の測定結果より,N = 1,N = 2の試料ではNbの超伝導特性に加えてわずかにNbTiの信号が観測されたが,Nの増加とともに合金化が進みNbTiの信号が増加することが分かった.HPT加工による合金化の結果,N = 20以上ではX線回折や電子顕微鏡観察に加えて,上部臨界磁場Hc2(T)などの超伝導特性の観点からもほぼ均質なNbTi合金が形成されていることが分かった.(2)SQUID顕微鏡による磁束量子の観測超伝導体の磁場中の物性を支配する磁束状態を走査SQUID顕微鏡を用いて直接観測した.加工前 (N = 0) のNbでは第2種超伝導体で予測される磁束量子が試料全面で観測された.磁束構造は三角格子ではなく,ランダムな分布をしておりピン止め効果が強いことを示唆している.一方,N = 5のNbの磁束量子の空間分布は,空間的に不均一でクラスター状の分布を示た.このようなクラスター状の磁束分布はバルクナノメタル化したNbの特徴であり,結晶粒の微細化が磁束状態に影響を与えていることが分かった.
著者
古谷 寛治
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

DNAチェックポイント機構はDNA損傷の検出にともない細胞周期進行を遅らせるだけの機構ではない。ゲノムDNA複製時に遭遇するDNA損傷に対し、適切な修復経路を誘導する。なかでもチェックポイント因子Rad9タンパク質は、他のチェックポイントタンパク質をDNA損傷部位へと繋ぎ留める事で、チェックポイント機構の発動に寄与する。一方、Rad9を損傷部位から解離させるのも重要である。わたくしたちは酵母を用いた解析から、Rad9の損傷部位からの解離が、Rad9上で起こるリン酸化フィードバックによって引き起こされる事、また、このリン酸化依存的なRad9の結合・解離制御こそがDNA複製時と修復経路の連携を制御することを見出してきた。本研究ではヒト細胞を用いた蛍光標識Rad9の動態解析から損傷部位への集積の速さを計測した。非常にゆっくりとした反応であり、DNA損傷部位に他のタンパク質が作用したのちに集積することが示唆された。また、酵母で見出した損傷部位からの解離に必要なリン酸化部位と相同の部位がヒトRad9にも存在していたためその変異タンパク質における動態解析を試みたところ、野生型に対して速く集積することが明らかとなった。今後はリン酸化フィードバックがDNA損傷への結合を遅らせるのか、解離を促進するのか検討を進める。並行して、解離に必要なリン酸化部位の分子機能を明らかにするためスクリーニングをおこない、Plk1遺伝子をツーハイブリッドにて取得した。また、質量分析の結果Plk1がヒトRad9タンパク質を二箇所リン酸化することを見出し、一方のリン酸化部位がタンパク質分解のためのユビキチン付加酵素を結合するために必要である事を見出した。今後はタンパク質分解による量的制御とダイナミクス変動の相関を見出すべく研究を進めていく。
著者
関 光
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、1)植物トリテルペン配糖体の生合成/構造多様化の過程において重要な役割を果たしている糖転移酵素(UGT)を単離し、機能を解析するとともに、各種トリテルペノイドアグリコンをインビボ生産する組換え酵母においてUGTを共発現することにより、「組換え酵母における多様なトリテルペン配糖体のインビボ生産」の実行可能性を検証することを目的とした。平成25年度内に、酵母内在の2,3-オキシドスクアレンから4-エピ-ヘデラゲニンを生産するように改変した組換え酵母に、さらにタルウマゴヤシUGT73F3遺伝子を導入することで、酵母内在の糖供与体(UDP-グルコース)を利用して4-エピ-ヘデラゲニンの28位配糖体をインビボ生産する酵母の作出に成功した。平成26年度は、同システムを利用して様々なトリテルペン配糖体を生産することを目指して、新規のトリテルペン配糖体生合成関連UGTの単離を進めた。その結果、マメ科カンゾウからグリチルレチン酸の3位および30位それぞれにグルコースを転移することが強く示唆される新規UGTを同定した。同時に、酵母が生産する糖供与体のバリエーションを増やすことを目的として、UDP-グルコースをUDP-グルクロン酸に変換するUDP-グルコースデヒドロゲナーゼの候補遺伝子をカンゾウから6種単離し機能解析を行ったところ、4種について酵母内在のUDP-グルコースを基質としてUDP-グルクロン酸を生成する活性を認めた。今後、研究代表者らがこれまでに既に作出している各種トリテルペノイド生産酵母に平成26年度内に単離した新規UGTおよびUDP-グルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入することで、組換え酵母での各種トリテルペン配糖体の生成が可能であると考えられる。
著者
梅野 太輔
出版者
千葉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では,ランダム変異によって多様化したテルペン酵素の変異体プールの中から,独自技術を用いたハイスループットスクリーニングによって活性を保持した変異体を濃縮・回収する実験を多世代にわたって実施することを目標としている。世代を経るにつれ,テルペン酵素の反応特異性が変化し,その変異体の機能・配列相関をみることによって,このクラスの酵素の進化能を試すとともに,その反応特異性にかかわる部位の網羅的な洗い出しを目指した。最初のアイデアは,カロテノイド合成経路との基質競合によってテルペン酵素の機能保持をコロニー色によって可視化するというシステムであった。これは手法として確立することができ,それをもとに複数の酵素の活性進化工学が可能となった。この手法をもって反応ポケットに集中的に変異を導入し,活性を保持しつつも配列の異なる種々のテルペン酵素変異体を得ることができた。一方,更なるスループットの向上を目指し,蛍光タンパク質と薬剤耐性遺伝子の癒合タンパク質を,更にテルペン酵素に融合する実験を行った。この手法を用いることで,基質消費ではなくフォールディング(タンパク質構造)の保持に対して超高速に淘汰を与えることができるようになった。この技術により,テルペン酵素の配列発散速度を飛躍的に高めることができると期待される。
著者
津村 耕司
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究課題にて、当該年度中にすばる望遠鏡・ハッブル宇宙望遠鏡・Spitzer宇宙望遠鏡での観測をほぼ完了した。前年度までに確立した、本研究目的に特化した観測手法にて観測を実施し、データ解析を行った所、エウロパ・ガニメデ・カリストが近赤外線での波長域において木星の影中においてもわずかに明るいという新たな事実を発見した。この現象の解明は、本研究目的においても必須である為、新たに惑星科学の専門家達と相談し議論・検討をすs目多結果、木星上層大気による差太陽光の散乱が最もありえる説であるとの結論を現時点で得ている。この新発見は、今までほとんどデータが得られていなかった圧力帯(10mbar付近)での木星大気構造について、地上観測から制限を付けられる可能性を秘めており、今後の発展が期待される。そこで、これらの観測結果をまとめた論文を用意し、投稿した(現時点で査読中)。また、ガリレオ衛星食観測で目指す観測目的である赤外線背景放射について、赤外線天文衛星「あかり」やロケット観測実験CIBERによるデータ解析・成果発表等も並行して実施した。
著者
和田 章義
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

北西太平洋海域に展開された3基のフロートによる日々の観測により、2011-2012年の台風シーズンにおいて8つの台風の海洋応答をとらえた。この海洋応答について、台風中心に対するフロートの3つの相対位置を①100km以内の台風近傍域、②台風経路から100km外でかつ右側に離れた海域、③台風経路から100km外でかつ左側に離れた海域に分け、それぞれについてその応答特性を調査した。①の台風近傍域では、風の低気圧性回転成分により海洋内部で湧昇が生じた結果として、表層水温の低下が顕著となった。また②の進行方向右側の海域では、強風による乱流混合の増大に起因した海洋混合層の深まりが顕著であった。さらに海洋表層における塩分変動は、台風中心とフロートの相対位置関係に加え、降水の影響を強く受けることがわかった。次にこの8つの台風のうち4事例について非静力学大気波浪海洋結合モデルによる数値シミュレーションを実施した。シミュレーション結果から①台風による海水温低下により台風中心気圧が高くなること、②環境場の風が弱い事例(2011年台風第9号)で、海水温低下が台風経路シミュレーションに影響を与えること、③台風中心から半径200kmまで、台風直下に形成される海水温低下は24~47%の潜熱の減少をもたらすことがあきらかとなった。また2013年台風第18号について、非静力学大気波浪海洋結合モデルにより数値シミュレーションを実施した結果、黒潮流域での高海面水温場による台風渦の順圧対流不安定により生成されたメソ渦が対流バーストを引き起こすことにより、北緯30度以北でこの台風が急発達したことが明らかとなった。この結果はまた、大気海洋間の高エンタルビーフラックスが台風の急速な強化に必ずしも必要でないことを示唆する。
著者
佐藤 裕之
出版者
弘前大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

(1)バルクナノメタルのマクロな残留応力の評価:残留応力と残留ひずみの評価方法について検討した。バルクナノメタルのように小型の試験材を対象として残留応力を測定する方法を検討するため,X線を用いた残留応力の測定方法について,東北大学の協力を得つつ,2D-XRD法の適用可能性について検討し,測定した。また,穿孔法によるひずみ-残留応力測定法についても実験した。提供を受けたバルクナノメタルの残留応力テンソルの測定を試み,残留応力の主応力と主軸の評価を行い次の結果を得た。ARB法により作成したバルクナノメタルの残留応力の主軸は,圧延方向と一致しており,熱処理によって主応力の大きさは変化するものの主軸の方向は変化しない。残留応力から見積もられるひずみは,バルクナノメタルの作成方法にも依存する。(2)マクロな変調組織を持つ合金の強化法の検討結晶粒径や硬度に分布や変調構造を作り込む方法として複合負荷による方法を実験的に検討し,室温強度と高温強度とマクロ組織の様相との関係を検討した。アルミニウム合金では,室温強度と高温強度(クリープ強度)を同時に改善できる場合のあることを見いだした。ホールペッチの関係やいわゆるDornの式からは,結晶粒の微細化による強度変化は,室温と高温では相反する依存性を持ち,広い温度範囲で強度を改善することは困難と予想されるが,組織の不均一さを積極的に生かすことによる室温強度と高温強度の同時改善の可能性を示した。高温強度の評価法として,代表者が提唱している「ひずみ加速指数」を用いる方法を改善して用いた。
著者
草間 博之
出版者
東京工業大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

遷移金属触媒によるアルキンの求電子的活性化を基盤とする同一時空間集積化反応に関するこれまでの検討により、o-アルキニルアニリンから調製したイミンに対してビニルエーテル類の存在下で塩化白金触媒を作用させると、金属含有アゾメチンイリドの生成を経てピロロ[1,2-a]インドール骨格を一挙に構築できることを明らかとしている。この反応は様々に官能基化された基質に適用可能な優れた手法である。本年度は、この反応を利用してインドールアルカロイドの一種であるyuremamineの全合成研究を行った。上述の金属含有アゾメチンイリドの付加環化反応によりyuremamineの基本骨格を構築した後、水酸基ならびにレゾルシノール基の立体選択的導入を経て効率良くyuremamineの提案構造を構築することに成功した。上記の反応とは異なり、アルキン部位をプロパルギルエーテル誘導体とし、求核部位をアミンとした基質を用いると、これまで報告例のほとんどない触媒的なα,β-不飽和カルベン錯体中間体の発生が可能であることを見いだした。すなわち、プロパルギルメチルエーテルに対し、電子豊富ジエンの存在下で適切な白金触媒を作用させると、アルキン部位へのアミンの付加とメタノールの脱離によりα,β-不飽和カルベン錯体中間体が生成し、これが電子豊富ジエンと[3+4]型の付加環化を起こすことで7員環の縮環した三環性インドールを一挙に与える。この反応はこれまでに合成例のないambiguine類の合成に有効と期待し、モデル化合物を用いたambiguine骨格の構築を試みた。その結果、シクロヘキセン部位をもつシロキシジエンを基質とすることで、四環性インドールを一挙に構築することに成功した。本研究で開発した同一時空間集積化による多環性インドール骨格構築法は、より多様な生物活性物質の高効率合成に適用可能と考えられる。
著者
茅根 創 山野 博哉 酒井 一彦 山口 徹 日高 道雄 鈴木 款 灘岡 和夫 西平 守孝 小池 勲夫
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008-11-13

サンゴ礁学の目的は,生物,化学,地学,工学,人文の諸分野を,複合ストレスに対するサンゴ礁の応答という問題設定のもとに融合し,サンゴ礁と人との新たな共存・共生を構築するための科学的基礎を築くことである.本領域では,ストレス要因の時空変化を評価して,遺伝子スケールから生態系スケールまで整合的なストレス応答モデルを構築し,サンゴ礁と共生する地域のあり方を提案した.本課題は,こうして産まれた新しい学問領域を確立し,他分野へ展開するとともに,地域社会への適用と人材育成を継続的に行うために,以下の活動を行った.新しい学問領域の確立:平成25年9月29日―10月2日に,海外から研究者を招へいして,「サンゴ礁と酸性化」に関する国際ワークショップ(東京大学伊藤国際学術センター)を開催し,今後の展開について議論した.12月14日日本サンゴ礁学会第16回大会(沖縄科学技術大学院大学)では,「サンゴ礁学の成果と展望」というタイトルで,総括と次のフェイズへ向けての戦略を示した.また,”Coral Reef Science” の原稿を,各班ごとに作成して,現在編集作業を進めている.他分野への展開:12月15日,日本サンゴ礁学会第16回大会において,公開シンポジウム「熱帯・亜熱帯沿岸域生物の多様性へのアプローチと課題」を,日本サンゴ礁学会主催,日本ベントス学会,日本熱帯生態学会共催によって開催して,サンゴ礁学の成果を,関係する生態系へ展開する道を議論した.地域社会への適用:これまでに19回石垣市で開催した地元説明会・成果報告会のまとめの会を,2013年8月に実施して,プロジェクト終了後の地元と研究者の連携のあり方,研究成果の還元の継続を話し合った.人材育成:サンゴ礁学の取り組みのひとつとして,これまで4回実施したサンゴ礁学サマースクールを,東京大学と琉球大学共同の,正規の実習科目として定着させることに成功した.