著者
菊水 健史 茂木 一孝 永澤 美保 永澤 美保
出版者
麻布大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

げっ歯類では、視線と匂いを社会シグナルとして情動が伝染。この時、双方のストレス内分子が機能する必要となった。脳内ではACCからPAGが情動伝染を司ること、また痛み受容チャネルのTRPV1が関与する可能性を見出した。次に、幼少期母子間の阻害で、情動伝染の機能が低下した。母子間において、帯状回オキシトシン神経系が活性化し、この幼少期帯状回オキシトシンを阻害すると、社会認知や親和性が低下することを見出した。最期に、ヒトイヌの視線を用いた交流は両者のオキシトシンを分泌すること、飼育期間が長く、飼い主を長く見る犬は、飼い主からの情動が伝染し、飼い主と再開したイヌはオキシトシンを介した情動的な涙を流た。
著者
山口 哲生
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2021-04-01

植物の根と土からなるシステム(土壌)を,一種の複合材料と捉える.根の分岐ネットワーク構造を系統的に変化させ,土壌の強度を評価するモデル実験を行い,強度を配する諸因子を明らかにすることで,根による土壌の強靭化機構を解明する.また,分岐構造と強度との関係を記述する数理モデルを構築する.さらに,得られた知見をもとにして,簡単に地中に挿入でき土壌を強化できる,分岐をもつアンカー(固定用金具)や,分岐をもつ繊維の配合による樹脂複合材料の開発にも取り組む.本研究により,「根に学ぶ複合材料の強靭化」という新たな分野の創出を目指す.
著者
岸本 忠史 吉田 斉 能町 正治 玉川 洋一 小川 泉 硲 隆太 梅原 さおり 吉田 斉 飯田 崇史 中島 恭平
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-07-10

48Caの0ν二重ベータ崩壊(0nDBD崩壊)で、将来ニュートリノ質量で数meVの領域の探索のため、以下の3点の研究を進めた。①48Ca同位体濃縮技術の実用化:自然存在比0.19%の48Caで2%以上を目指した。高熱伝導率の絶縁物で電気泳動させる新しい濃縮法(MCCCE法)で、16%と目標の約10倍の驚異的な濃縮を達成した。更に改善できる。②高分解能蛍光熱量検出器の開発:極低温でCaF2結晶の熱と蛍光を測定して、高分解能化を粒子弁別と両立させる道を拓いた。③CANDLES装置で48Caの0nDBD崩壊の観測:遮蔽システムを建設し環境バックグランドを2桁減少させて、世界で一番良い感度を達成した。
著者
山口 真美
出版者
中央大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

質感知覚の初期過程を解明する研究を行い、光沢感や金色カテゴリの獲得が乳児期にあること、乳児における影を知覚する能力を解明した。また、光沢感の形成メカニズムを明らかにする研究や、乳児におけるカテゴリカル色知覚の脳内処理、質感にかかわるクロスモダリティの研究について現在も研究を推進している。さらに、複数の企業への玩具作製の技術指導および共同研究も行っている。2014年夏には、東京都現代美術館で開催された「ワンダフルワールド展」での作品協力なども行い、多方面への知識の普及に貢献できたと考える。
著者
櫻井 義秀
出版者
北海道大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

櫻井班の目標は、①カルト被害からの回復にかかる臨床的貢献ということで事例研究を研究会で行うこと、②カルト相談の実務家研修の開催と一般市民対象の啓発的公開講座等の開催、③「カルト被害からの回復」に係る書籍の刊行である。研究代表者の櫻井が、2013年8月から2014年2月まで香港中文大学にてサバティカル研修を行っていたために、約半年間研究会等を実施することができず、研究協力者に任せることになった。そのため、①については1回程度、②についても1回程度の実施回数の不足があった。しかしながら、③については、研究会における講演者に原稿を依頼し、代表者の櫻井の分と合わせて3本の論文、研究協力者によるカルト臨床の専門家インタビューに基づく事例集が数本完成予定であり、2014年中の原稿集約を目指している。なお、研究代表者による単著『カルト問題と公共性-裁判・メディア・宗教研究はどう論じたのか』北海道大学出版会、A4全334頁を2014年2月に刊行した。2年目の総括として、臨床家や実務家による研修・研究会の開催は非常に有意義であり、カルト問題の解決は裁判による司法的解決に加えて、臨床家によるカウンセリング・自助グループによるケアの重要性が再認識された。また、精神科医、学生相談の臨床家の事例研究から、「回復への足がかり(resilience)の多様なあり方を直接的に学べたことは大きな収穫だった。また、これは類型化や定式化を目指す社会科学と個性記述的・問題解決的な臨床的実践との差異をも自覚するものとなり、研究者と実務家の連携の重要性を再認識することになった。
著者
平林 敏行
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本年度は、マカクザルにおいて遺伝学的手法による神経活動操作と脳機能イメージングを組み合わせ、局所的な神経活動操作による大域ネットワークの機能変容を評価した。まず、片側脳半球の第一次体性感覚野(SI)足領域に抑制性DREADDを遺伝子導入したサルにDREADDの特異的アゴニストであるCNOを静脈投与し、機能的MRIを用いて体性感覚刺激による賦活を調べた結果、DREADDを遺伝子導入したSI足領域における局所的な抑制に加えて、SIから解剖学的投射を受ける同側の5野や第二次体性感覚野においても遠隔的な抑制が認められ、さらにこれらの遠隔抑制領域は、いずれもDREADDを遺伝子導入したSI足領域との間に機能的結合を持つ事が示された。また、呈示された視覚図形を短時間記憶する課題を訓練したマカクザルを用いて、PETによる課題中の局所脳血流量計測を行い、非空間的視覚短期記憶を支える前頭葉―側頭葉ネットワークを同定した。その中で、特に眼窩前頭皮質の活動部位に対して両側性に抑制性DREADDを遺伝子導入し、CNOによる機能抑制を行った。その結果、前述の記憶課題において、記憶負荷が高い場合のみ選択的に課題成績が低下する事が明らかになった。また、CNO投与下にて課題中の局所脳血流量計測を行った結果、DREADDを遺伝子導入した眼窩前頭皮質の活動部位における局所的な抑制に加えて、抑制前にこの領域と機能的結合を示していた下側頭皮質の活動部位においても、遠隔的な抑制が認められた。これらの事から、眼窩前頭皮質の局所的な抑制によって、視覚短期記憶に関わる前頭葉―側頭葉ネットワークの大域的な機能変容が生じ、それが記憶課題成績の低下に繋がったと考えられる。以上により、遺伝学的手法を用いた局所的な神経活動操作が大域ネットワークの機能に及ぼす影響を、脳機能イメージングによって評価する系が確立された。
著者
木村 亮介
出版者
琉球大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、琉球列島におけるヒトの移動史を解明するために、大規模な現代人ゲノムデータの集団遺伝学解析を行うとともに、宮古島における無土器時代およびグスク時代の古人骨ゲノム解析を行う。また、琉球列島集団と日本本土を含む周辺集団との関係だけでなく、琉球列島内の各集団の関係についても詳細に明らかにする。さらに、頭蓋顔面形態における集団間の違いを明らかにする。琉球列島集団と本土日本集団の間における頭蓋顔面形態の違いを明らかにするだけでなく、琉球列島内の集団間における差異についても、特に宮古島集団に焦点を当てて詳細に解明する。
著者
渡辺 茂 伊澤 栄一 藤田 和生
出版者
慶應義塾大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

本研究では3つの項目を検討した。1つは、共感性の動物モデルの確立であった。共感性を2個体間の情動とその一致性によって4分類し,マウスを対象にそれらの可否を検討した。2つめは、共感性の機能と生態因の検討であった。鳥類および霊長類の比較検討によって、協同繁殖と一夫一妻が、共感性進化の生態因であることを示唆した。3つめは、共感性の認知基盤の検討であった。高次共感を霊長類および食肉類で比較検討し、サルおよびイヌの第三者に対する情動評価能力を見出した。これら3項目の研究によって、共感性がヒト以外の動物においても協力性と随伴進化し、高次認知はそれとは独立に進化する可能性を示唆した。
著者
竹内 努
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

現代宇宙論はビッグバン宇宙論の骨子をほぼ確立し, ビッグバンに先行する急激な膨張期であるインフレーションの検証へと向かっている. インフレーション理論は第一原理から完全に決定することは難しく, 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の偏光のBモード成分を精密に解析することによって初めてシナリオを絞り込むことができる. しかし, 現実的には銀河系や系外銀河などのCMBの前景放射が重なるため, CMBゆらぎの抽出は極めて困難である. CMBゆらぎの観測は飛躍的進歩を遂げたが, 観測精度の向上, 特に偏光ゆらぎの精密化に伴って, CMBと前景成分を分離するための本質的に新しい統計的解析方法が必要になってきている. これが領域A04のメインテーマである。本研究では、これまで天文学分野ではほとんど用いられていなかった自己組織化状態空間モデルという統計的方法を発展させ、Planck衛星のデータをCMBのゆらぎ、銀河系外前景放射、銀河系前景放射、ノイズの4成分に分解し、CMBゆらぎを精密に解析することで初期宇宙の情報を抽出する方法を構築する。前年度はまずこの状態空間モデルで用いる前景放射の各成分の統計的性質を明らかにするため、独立成分分析(ICA)を用いた成分分離法を確立し、分子輝線成分、連続波成分のパワースペクトルを求めた。この成果は学術論文として公表済みである。この統計的性質を仮定することで、状態空間の決定ができる。前年度末にPlanckのデータが公表され、本年度にかけて関連論文も出版されているが、現時点では前景放射の様々な不確定要素が決定していない状態である。このため、H25年度は不定性を含んだ状態で統計的推定を行う自由度を残した解析コードを準備した。新しい観測的制限がつき次第完成できる。当初の目的は達成したと考えているが、新しい銀河系星間物質観測をインプットとし、Planck, BICEP2など次世代データへの応用を引き続き試みていく。
著者
柴田 大輔 河合 望 中町 信孝 津本 英利 長谷川 修一 青木 健 有松 唯 上野 雅由樹 久米 正吾 嶋田 英晴 下釜 和也 鈴木 恵美 高井 啓介 伊達 聖伸 辻 明日香 亀谷 学 渡井 葉子
出版者
筑波大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-06-28

現在の西アジア諸国において戦争・政争を引き起こす重要なファクターとしてイスラームの政教問題が挙げられる。西アジア政教問題の重要性は万人が認めるところだが、一方でこの問題は単なる現代情勢の一端として表層的に扱われ、しかも紋切り型の説明で片付けられることも多い。本研究は、文明が発祥した古代からイスラーム政権が欧米列強と対峙する近現代にいたる長い歴史を射程に入れ、政教問題がたどった錯綜した系譜の解明を目指した。ユダヤ・キリスト教社会、紋切り型の説明を作ってきた近現代西欧のオリエント学者たちが西アジアに向けた「眼差し」も批判的に検討したうえで、西アジア政教問題に関する新しい見取り図の提示を目指した。
著者
三浦 佳二
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究においては、グラフ版のHodge-小平分解の神経科学への応用を目指した。Hodge-小平分解は、向き付けられたネットワークを流れに見立てて勾配流、大域循環流、局所渦の3成分へと分解して、ネットワークの構造解析を可能とする。例えば、大域循環流(harmonic flow)の自由度はネットワーク中のループの数に対応し、勾配流の自由度は連結成分数を反映する。本年度は、このHodge-小平分解を青木・青柳らによる時間変化するネットワークモデルの構造解析に応用した。その結果、ネットワークの結合の時間変化を支配する学習則がSTDP則(β~0)である時に、ループが多くでき、Hebb則(β<-0.5)である時にはループができにくいことを解明した。また、ネットワークの不変量であるループの数が、従来知られていたこのモデルの分岐図(Aoki & Aoyagi 2009, 2011)を反映するだけでなく、これまでカオス領域としてひとくくりにされていたパラメタ領域(Anti-Hebb則,β>0.3)をさらに細かく特徴づけることを可能とすることを発見した。また、Hodge-小平分解のデータ解析への応用だけでなく、脳のモデルとして、脳の触覚系がHodge-小平分解のアルゴリズムを利用して、不変量を取り出しているという仮説を提案した。数学のトポロジーの分野において導かれた(連続変形において保存する)不変量を活用することで、2次元タッチパネル上の指の形や位置に全く影響を受けず、タッチ回数を正しく数える並列アルゴリズムを提案した。
著者
神庭 重信 加藤 隆弘
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

精神疾患患者を含む患者でのミクログリア異常を解明するための橋渡し研究ツールとして、末梢血単球に2種類のサイトカインを添加することでわずか2週間で作製可能な直接誘導ミクログリア様細胞(iMG細胞)を独自開発し、一次性ミクログリア病の那須ハコラ病患者、双極性障害患者、線維筋痛症患者で、iMG細胞の活性レベルが重症度と相関するなど疾患特異的な興味深い反応の抽出に成功した。さらに、ヒト線維芽細胞由来直接誘導ニューロン(iN細胞)の作製技術を自身のラボで改良し、わずか1週間で誘導可能な早期iN細胞の作製に独自で成功し、NF1患者由来の早期iN細胞において興味深い遺伝子発現パターンを見出すことに成功した。
著者
池田 昭夫 松本 理器 長峯 隆 菊池 隆幸 小林 勝弘 國枝 武治 宇佐美 清英
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-06-29

難治てんかん患者の脳内脳波記録への数理モデルの適用や、手術病理標本の解析、動物実験などを通じ、てんかん焦点の脳波バイオマーカーとしてのActive ictal DC shiftsの存在を確立し、てんかん発作における、 神経細胞, 能動的グリア, 受動的グリアの3成分、特に前2者の重要性を明らかにした。また、てんかん発作前状態ではred slow(低周波数帯域活動と高周波律動の共起)がactive DC電位の領域に一致することを明らかにした。一方で、頭皮上脳波での記録の実証により、Active ictal DC shifts、Red slowのバイオマーカーとしての汎用性を明らかにした。
著者
池上 高志
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-04-01

自己シミュレーションを実装したロボット実験を行いながら、ホメオスタティックな自己維持と運動生成の研究を行う。具体的には、ロボットに実装したカメラを使って人間のポーズを学習し、そのポーズの模倣を生成するシステムを構築する。模倣に関してはミラーニューロン以来色々と脳科学で研究が進んでいる。ここでは脳の持つ、自己シミュレーション機能を新しく構築し、模倣を通してみた脳のホメオスタティックな新しいモデルを構築する。
著者
山中 章弘
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-04-01

遺伝子操作によって記憶力が悪くなる動物はたくさん存在するが、記憶力が良くなる例は数少ない。メラニン凝集ホルモン産生神経(MCH神経)は、視床下部だけに少数の細胞体が存在し、睡眠中に活性化される。MCH神経の生理的役割解明のために、MCH神経を時期特異的に脱落させたマウスを作成したところ、記憶が有意に良くなることを見いだした。このことは、レム睡眠中のMCH神経活動が、記憶抑制・消去に関わっていることを示している。本研究では、MCH神経脱落により、神経回路の機能シフトが生じ、記憶が向上するメカニズムに迫り、睡眠と記憶消去との関係も明らかにすることを目的としている。MCH神経の活動を光遺伝学、化学遺伝学にて操作可能なマウスを作出し、神経活動操作を行った。その結果、MCH神経活動を活性化させると、海馬依存的な記憶が阻害・消去されること、逆に抑制すると記憶が向上することを見いだした。これらの結果から、MCH神経活動が海馬において記憶制御に関わっていることを示している。さらに、MCH神経活動をカルシウムインジケータであるGCaMP6を用いてインビボ記録するファイバーフォトメトリーを適用し、脳波筋電図記録による睡眠解析と同時に行ったところ、MCH神経活動がレム睡眠中、覚醒中に高くなることを見いだした。そこで、MCH神経活動をレム睡眠中、覚醒時それぞれにおいて光遺伝学で抑制を行った。その結果、レム睡眠中のMCH神経活動を抑制すると海馬依存的な記憶に影響があることを見いだした。
著者
金子 邦彦 藤本 仰一
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-06-30

(i)表現型進化の方向性と拘束の理論:触媒反応ネットワークモデルを用いて、大自由度の表現型が進化により低次元に拘束されることを固有値スペクトル解析で明らかにした。さらにそれにより進化の方向が拘束されるがその一方で新たな環境への進化が加速されることを示した。また遺伝子制御ネットワークそして統計力学のスピングラスモデル、またタンパクのデータを用いて、この進化的次元縮減が普遍的であることを示した。(ii)階層進化理論:原始細胞においてその分子数がある程度以上になると遺伝と機能を担う分子の役割が対称性の破れで生じる、つまり分子生物学のセントラルドグマが出現することを発表した。次に細胞と細胞集団の階層では細胞が有用成分をもらすことで多種共生が生じること、最後に個体ー社会の階層に対してはゲーム理論による搾取構造の形成を示し、さらに未開人類社会での婚姻構造の形成を明らかにした。(iii)進化発生対応の理論:発生過程と進化過程の対応関係において、遅く変化する遺伝子発現の意義を調べた。特にエピジェネティック過程を考慮して、発生過程の安定性(homeorhesis)の現れる仕組みを明らかにした。また倉谷班との共同で発生砂時計仮設をサポートするシミュレーション結果を得た。[藤本G]完全変態昆虫のサイズ進化の法則(各種の最終体重は臨界体重に比例)を発見した。ボディプラン(器官の数と空間配置)の進化発生対応では、被子植物の左右対称な花の多様性を包括する発生特性を数理モデルから予測した。加えて、動植物のボディプランに揺らぎを見出した。基部双子葉植物の花器官配置では、らせん状と同心円状の2型のみが同種内で共存し、この拘束された種内多型は発生過程に起因することをモデルから示した。刺胞動物のイソギンチャクでは、器官配置の左右対称性と放射対称性の種内多型を、配置過程の計測を通じて見出した。
著者
細川 敬祐
出版者
電気通信大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2018-04-01

アンテナ,フィルター,プリアンプ,ソフトウェア受信機からなる観測システムを 1 式製作し,沖縄県恩納村に設置した.受信信号を比較的安価なソフトウェア受信機で処理し,周波数チャネルごとに信号を分割して受信・記録することで,Es の出現を検出することが可能になっている.昨年度までに設置が完了していた 5 箇所と合わせて計 6 地点で得られたデータを電気通信大学に準リアルタイム(1 時間遅れ)で転送し,ウェブ上に表示するシステムを構築した(http://gwave.cei.uec.ac.jp/cgi-bin/vor/vhf.cgi).これにより,スポラディック E に伴う異常伝搬をリアルタイムに可視化することが可能になっている.複数の送信局に同一の周波数が割り当てられることがあるため,中間反射点における Es 発生の有無を地図上にマップするためには,各チャネルの受信信号に対応する送信局を特定する必要がある.我々は,各チャネルに対応する送信局のリストを作成し,アンテナの指向性や各送信局の運用形態,送信パワーなどの情報を用いることによって,受信信号から送信局を自動的に識別する手法を確立した.この手法を用いて,国内 6 地点(調布,呉,菅平,大洗,サロベツ,沖縄)の観測から異常伝搬事例を抽出し,送信元の局を特定することによって Es 発生領域を地図上にマッピングすることに成功している.この成果を地球電磁気・地球惑星圏において公表し,現在論文にまとめているところである.上記以外にも 3 件の論文を査読付き学術雑誌に投稿し,1 件が公表済,2 件が現在査読中となっている.今後は,複数地点のデータを組み合わせて Es 空間分布の時間発展を準リアルタイムで可視化するシステムを構築し,航空局やエアライン,ICAO など,想定されるユーザへのリアルタイムの情報提供に繋げていく.
著者
渡邉 恭子
出版者
防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群)
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-04-01

太陽フレアから放射されるX線や紫外線は地球電離圏に影響を与え、デリンジャー現象という通信障害を引き起こす。現在、デリンジャー現象の予報では軟X線強度(フレアクラス)が指標として用いられているが、実際は軟X線強度と比例していないデリンジャー現象が数多く見られる。どのような特徴を持つ太陽フレア放射がデリンジャー現象を発生するのか、その特徴を見積もるために、本研究ではまず、太陽フレアの多波長スペクトル(特にデリンジャー現象に影響すると考えられている紫外線放射)を観測データから統計的に見積もった。その結果、多くの紫外線放射は軟X線放射強度変化とほぼ同様の変動を見せたが、その紫外線放射を生成しているプラズマの温度によって変動に時間差が見られた。また、軟X線放射とは全く異なる硬X線放射と似た時間変動をする紫外線放射も多くあることが分かった。太陽フレアやそれを発生した黒点の幾何学的な様相が太陽フレアスペクトル変動に与える影響についても統計的に解析した。まず、フレア発生時の黒点の面積とその種類と、太陽フレアの規模や発生率との関係を調べたが、これらの間に明確な関係性は見られなかった。次に、フレアリボンの長さとリボン間距離について調べたところ、どちらも太陽フレア放射の継続時間に影響していることが分かった。以上の観測結果をもとに、太陽フレア放射を再現する数値計算モデルを構築した。フレアループが長い場合(ループ半長:52,000km)、短い場合(ループ半長:5,200km)、一般的な長さの場合(ループ半長:26,000km)について計算したところ、フレアループが長いフレアについてのみ、観測された紫外線放射の強度と時間発展をおおむね再現することに成功した。今後は、この数値計算モデルより、個々のフレアの放射スペクトルを再現可能なパラメータを導出し、得られた放射の地球電離圏への影響を検証していく。
著者
清尾 康志
出版者
東京工業大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-04-01

生体分子の多くはリンを含み、何故リンが生命の必須元素になったのかを理解することは生命起源を知る上で重要である。冥王代の地球ではリンはシュライバーサイト[Fe3P]として存在していた。Fe3Pは水と反応し様々な還元的リン化学種を生成する。また、リボヌクレオチドと反応し、2', 3'-AMPも生成する。本研究では、冥王代のFe3Pの役割をさらに解明するためにFe3PやFe3P由来リン化学種と様々な生体分子との反応を調べた。特に、アミノ酸、糖、グリセルアルデヒド等との反応生成物を解析し、これら生成物から複雑な生命分子や代謝反応が誕生した可能性を明らかにするための実験を行った。その結果、シュライバーサイトから生成するピロ亜リン酸(H4PO5)はpH9程度の弱アルカリ性の条件下、セリン、チロシン、トレオニンなどのアミノ酸の側鎖に存在する水酸基、リボース、グリセルアルデヒドなどの炭水化物の水酸基と反応し、対応する亜リン酸モノエステルを与えることを31P-NMRにより明らかにした。また、生成した亜リン酸エステルが酸化されてリン酸エステルに変換される可能性を検証するために、種々の酸化反応を検討したところ、ペルオキソ二硫酸カリウムなどの酸化剤やパラジウムなどの金属触媒の存在下、亜リン酸モノエステルからリン酸エステルが生成することを明らかにした。以上の結果より、冥王代において比較的穏和な条件下、シュライバーサイト由来リン化学により、様々な生体分子の亜リン酸モノエステルやリン酸エステルが生成する可能性が示された。
著者
宮武 健治 福井 賢一 小柳津 研一
出版者
山梨大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2018-06-29

スルホン酸化ポリフェニレン高分子を、ジクロロビフェニルとジクロロベンゼンスルホン酸から一段階で簡便に合成する方法を見出した。スルホン酸化ポリフェニレンは溶液キャスト法により柔軟な薄膜を形成し、5つのフェニレン環が連結したジクロロキンケフェニレンモノマーを用いて得られた薄膜と同程度以上の高いプロトン導電率、気体バリア性、化学安定性を示した。さらに側鎖に高密度でスルホン酸基を導入したポリフェニレン系の合成にも成功し、低含水率条件におけるプロトン導電率の向上を達成した。これらのプロトン導電性高分子薄膜を用いた燃料電池が、高性能と高耐久性を実現した。可逆的な水素吸蔵・放出を担う物質として、フルオレノン/フルオレノールを繰返し単位あたりに置換したビニルポリマー、および、チロロンと1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼンから得られる親水性架橋ポリマーを合成した。白金担持カーボン触媒を介して、フルオレノールで置換されたポリマーの電解酸化が酸素還元電位より卑な電位で生起することを明らかにし、リチャージャブル燃料電池への適用が原理的に可能であることを明確にした。また、ポリビニルキノキサリンを新たに設計・合成し,従来より高い質量水素密度を達成した。水素の吸蔵―放出を行うポリマーに対して深紫外(FUV)分光を用いることで、水素を吸蔵したアルコールと放出したケトンが明確に異なる電子遷移吸収ピークを与えること、さらにそのピークが両者の化学状態の違いに由来することを時間依存密度汎関数(TD-DFT)法による解析によって明らかにした。全反射型のFUV分光において光の入射角度を変えることで深さ分解したスペクトルの測定が可能であるため,同ポリマーにおける水素の吸蔵―放出過程のその場解析に道を拓く重要な成果である。