- 著者
-
北崎 充晃
- 出版者
- 豊橋技術科学大学
- 雑誌
- 新学術領域研究(研究領域提案型)
- 巻号頁・発行日
- 2010
本研究では,自分に向かって歩いてくる他者の知覚について,その視覚情報処理の機能と仕組みを解明し,人とロボットがお互いに歩き回るようなダイナミックな場面で潜在的で自動的なコミュニケーションを成立させる要因を特定し,人とロボットが自然に共生できるシステムの提案を行う。特に,潜在的コミュニケーションに深く関与する「顔」や「しぐさ」の情報を操作し,歩行者(人やロボットなど)の方向知覚に及ぼす影響を心理物理学的手法によって研究する。本年度も昨年に引き続き,歩行者刺激をコンピュータでリアルタイムに制御して広視野スクリーンあるいはCRTディスプレイに提示し,観察者の行動反応を心理物理学的手法で測定した。昨年度,多数の歩行者のうち自分に歩いている者あるいは外れていく者を検索する課題を被験者に課し,歩行方向の差にとって,向かってくる歩行者が見つけやすい社会的知覚モードと,外れていく歩行者を見つけやすい一般物体知覚モードの2つがある可能性を発見した。これについて種々のロボット刺激および光点刺激(バイオロジカルモーション),そしてそれらの倒立刺激を用いてさらなる検討を行った結果,ヒトの外観に近い刺激やヒト性に関与する特性が強いほど,社会的知覚モードが見られやすいことを報告した。一方,ヒト刺激の表情および音声に情動を含めた刺激では有意な差は得られず,情報付与の方法の再検討を行っている。さらに,自己の移動イメージを脳波からデコーディングする実験を行い,多チャンネル計測を用いれば単一試行脳波からでもある程度の推定が可能なこと,その際スパースコーディングの適用が効果的であることを示した。これらの研究成果から,自然に行き交えるロボットの設計指針として,ある程度ヒトらしい外見(特に四肢があること)をしていること,およびその動作パタンがヒトらしいことが正確な歩行方向知覚に必要であり,顔の向きは効果の強い知覚への伝達情報であることが示唆された。