著者
原田 浩徳
出版者
広島大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

RUNXファミリー因子異常による新たな造血器腫瘍発症機序を明らかにするために、エピジェネティック異常に基づく遺伝子発現の違いに注目した。本年度は造血器腫瘍患者のCD34陽性細胞RNAを用いてRUNX1アイソタイプの定量およびRUNX3の定量を大規模に行い、その結果をもとに生物学的解析を行った。RUNX1アイソフォーム発現はエピジェネティック制御機構の異常により変化すると考えられるが、正常造血幹細胞においてはRUNX1bが優位であるにもかかわらず、一部のMDS症例において短躯型アイソタイプRUNX1a発現の亢進が見られた。RUNX1aを正常造血幹細胞に導入したところ増殖能の亢進を認めたことから、下流標的遺伝子を同定して機能解析を行った。その結果、最終的にHOXA9の発現を誘導し、MDS発症・進展の一因となっていることが明らかになった。一方、RUNX3の発現を造血器腫瘍においてさらに検討したところ、一部低発現症例が認められたものの、逆に高発現の症例を多く認めた。特に、MDSから白血病への進展に伴って発現が亢進することが明らかになり、MDSから白血病への進展に関与することが示唆された。RUNX3ノックアウトマウスの表現型が高齢マウスのMPN様細胞増殖であることを考えあわせると、がん抑制遺伝子と考えられていたRUNX3が過剰発現によって白血病進展に関与するという新たな制御機構が明らかとなった。そこで臍帯血よりCD34陽性細胞を分取し、レトロウイルスベクターを用いてRUNX3過剰発現を行い、vitroでの増殖能・分化能を検討した。また、RUNX3が過剰発現しているK562細胞を用いて、RUNX3ノックダウンを行い、影響を検討した。これまでの結果、RUNXファミリーの遺伝子異常に依らない制御異常によるMDS・白血病の発症機構が明らかになった。
著者
片山 佳樹
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

これまでに開発してきた細胞内キナーゼ応答型の遺伝子転写制御剤を用いて転写制御がDNA鎖の運動性に依存することを証明するために、DNAを蛍光修飾して、その蛍光寿命変化から評価を試みたが、DNA鎖の運動と蛍光寿命のタイムスケールに違いがあり、種々の検討でも評価は困難であった。そこで次に、蛍光偏光解消を利用してDNA鎖の運動性の評価を検討した。DNA鎖を蛍光性インターカレーターで標識し、プロテインキナーゼCの基質をグラフとした高分子型遺伝子制御剤と複合体を形成後、遺伝子の転写が抑制されることを確認してから、蛍光偏光解消を評価した。その結果、遊離のDNA鎖に比較して、高効率に遺伝子転写が抑制される当該複合体においてはその運動性が大きく低下していることが明らかとなった。次いで、この複合体中の基質ペプチドをプロテインキナーゼCでリン酸化して転写が回復するが複合体は崩壊しない時点での蛍光変更解消を評価したところ、確かにDNA鎖の運動性が回復していた。本成果は、遺伝子の転写制御を支配する物理化学的因子を明らかにし、新しい遺伝子転写制御メカニズムを提唱するものである。また、この原理を利用し、複合体内のDNA鎖の運動をさらに効率よく抑制できるように主鎖をポリエチレンイミンとし、さらに疎水基を導入したタイプの制御剤を開発したところ、極めて高効率に遺伝子転写を抑制した。さらに、標的キナーゼであるプロテインキナーゼCαは、がん細胞で特異的に亢進しているため、これをがん細胞に適用したところ、本キナーゼが活性化していない場合に比べ、数百倍という大きな遺伝子発現がみられた。本制御剤は、がん細胞特異的な遺伝子制御剤として、正常細胞での副作用を大きく抑制できる新規な治療デバイスとなることが期待される。
著者
小川 正
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

ヒトや動物は未知の藁境下にあっても、「環境とのコミュニケーション」によって、生存するための「新しい知識」を確立することができる。例えば、初めて遭遇した未知の森で、さまざまな色の木の実を食べたとき、「赤色の実は美味しかったが、他の色の実は不味かった」という試行錯誤的な経験を繰り返せば、「赤い色→美味しい」という新しい知識を獲得して、最初から赤い木の実を探すようになるだろう。このような柔軟な適応的行動の形成は、(1)「環境との試行錯誤的なコミュニケーション(刺激情報-行動選択-結果)を繰り返すことによって、問題解決のための新しい知識を見つける過程(試行錯誤による探索)」から、(2)「明示的に新しい知識を学習したあと、知識にもとづいて問題解決する過程(知識ベースによる探索)」への遷移と見なすことができる。我々は「試行錯誤を伴った視覚探索課題」を開発することによって、試行錯誤による探索をサルに繰返し行わせることに成功した。前頭前野(背外側部)のニューロン活動は、現在遂行している探索方略の状態(試行錯誤探索or知識ベース探索)と、方略変換を行うべきタイミングを表現していた。さらに注目すべきことに、方略変換のタイミングを正しく見つけるために前頭前野ニューロンは,エラーが生じた要因によってエラーを「複数のエラータイプ」に区別し、その後の探索方略を決定していた。先行研究において、このような複数のエラータイプとそれにリンクした方略変換の神経機構は報告されていない。なお、研究成果の一部を英文雑誌で公表した(Fulimto et al. Robotics and Autonomous Systems, 2012)。
著者
金子 正秀
出版者
電気通信大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

顔特徴・顔印象の定量的解析手法を利用した顔認知機能の解明について、以下の研究を行った。1.2つの異なる顔に対する似ているか否かの判断に係る顔認知親子の顔の類似性に対する主成分分析による定量的比較に関して、年齢印象操作による方法と顔部品特徴による方法を検討した。年齢印象操作による方法では、子供の顔に対して大人への年齢印象操作を行った上で親(大人)の顔と比較することにより、親子の顔を直接比較する場合に比べ、類似性評価の精度を向上することができた。顔部品特徴による方法では、子供と大人(親)の2つのグループに分け、各々の固有空間で顔特徴解析を行うことにより、各グループの中で入力顔特徴を定量化した。定量化された顔特徴を言葉による顔特徴記述に置換え、顔部品ごとの類似比較を行い、その結果を統合することにより親子の顔の類似性を柔軟に評価できるようにした。また、車のフロントフェースについて、各部品形状、配置に関する固有空間を求め、人間の顔に対してと同様に、対話的に特徴解析、特徴操作を行うための基礎的システムを構築した。2.顔の3次元形状に対する認知の仕組みの解明ステレオ画像計測により顔部分の3次元形状を取得するシステムの整備を行った。また、正面顔とは異なる典型的な例として横顔を取上げ、主成分分析を用いて横顔特徴の定量的分析を行った。正面顔に対してと同様の横顔特徴解析ツールの構築を進めた。また、どの主成分にどの様な横顔特徴が表れているのかを調べた。3.顔特徴・顔印象の定量的解析及び顔画像生成ツールの機能の拡充Bag of Words手法を顔による個人認識及び表情認識に適用する方法を考案し、従来の認識手法に比べて撮影条件の違いに頑健でかつ認識性能が高いことを実験により確認した。また、GPGPUによる並列演算を利用して顔特徴点の検出処理の高速化を図り、顔特徴点の検出から似顔絵生成までを実時間で行えるようにした。
著者
山口 真美
出版者
中央大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、乳児期の顔認知発達に関する多くの研究成果を産出した。乳児の注視行動を計測する行動実験では、表情や顔向きのような顔の動きが顔認知を促進することを明らかにし、自然場面で見られるような顔の社会的情報の重要性を示した。さらに顔観察時の脳活動計測から、顔の同定や母顔などの既知顔認識が生後7-8ヶ月頃に発達することを示し、顔認知の社会的側面の発達過程の解明に大きく貢献した。
著者
河村 能人 萩原 幸司 相澤 一也 木村 滋 古原 忠 東田 賢二 乾 晴行 奥田 浩司 中谷 彰宏 君塚 肇 中島 英治 大橋 鉄也
出版者
熊本大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

総括班の役割は、各計画研究と公募研究が緊密に連携して十分な研究成果が出せるように、本領域の組織的かつ効果的な運営と研究支援活動ならびに若手人材育成を図り、本領域の目的達成と次への展開に資することである。運営面での特徴は,①6つの部会と4つの事務局による効率的な運営、②量子線共同利用施設や共通試料提供等による研究支援、③若手人材育成への注力、④国際交流,異分野交流,産学官交流の推進である。総括班としての主な成果は、各種領域内会議による効果的な運営、研究支援による効率的な研究推進、領域内交流による連携推進、国内外シンポジウム等の開催による本領域のプレゼンス向上、若手研究者の活躍等である。
著者
天野 敦雄
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

細胞内ロジスティクス機構と歯周病菌と細胞侵入の関連について検討を加えた。歯周病菌Porphyromonas gingivalis(Pg)は歯周細胞に侵入する.歯肉上皮細胞内に侵入したPgはまず初期エンドソームのマーカーであるFYVEと共局在を示し,その局在は経時的に減少した.その後,細胞内のPgの約半数がLAMP1(ライソソームマーカー)と共局在を示した.また,同じく感染1時間後,細胞内のPgの約70%はトランスフェリンレセプターと共局在を示し,その局在は経時的に減少した.このことから,歯肉上皮細胞内に侵入したPgはまず初期エンドソームに存在し,ライソソームで分解を受ける菌がいる一方,エンドサイトーシス経路へとソーティングされる菌がいる可能性が示された.また,エンドソームから細胞膜へのリサイクリングを制御するRabファミリーGTPaseであるRab11,およびアクチン細胞骨格系の再構成を制御するGTPaseであるRalAとPgとの共局在が観察された.RabllとRalAのドミナントネガティブ型(Rabll^<25N>,RalA^<27N>)とPgとの共局在を検討したところ,野生型と比較し,その共局率は減少した.さらに,RabllとRalA遺伝子のRNAiノックダウンにより,細菌の細胞培養液中への脱出の減少と細胞内の生菌数の増加がみられた.さらに,リサイクリング小胞の細胞膜への繋留因子であるエキソシスト複合体の1つであるSec5,Sec6およびExo84遺伝子のRNAiノックダウンを行ったところ,細胞培養液中の生菌数の減少,並びに細胞内の生菌数の増加がみられた.これらの結果より,歯肉上皮細胞に侵入したPgの一部はRabllとRalAが制御するリサイクリング経路ならびにエキソシスト複合体利用して細胞外へ脱出し,さらに近接細胞へ再侵入し,歯周組織の感染拡大を果たしていることが示唆された.
著者
山口 徹 棚橋 訓 吉田 俊爾 朽木 量 深山 直子 佐藤 孝雄 王 在〓 下田 健太郎 小林 竜太
出版者
慶應義塾大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

今みる景観を自然の営力と人間の営為の絡み合いの歴史的産物と位置づけ、オセアニア環礁(低い島)と八重山諸島石垣島(高い島)のホーリスティックな景観史を、ジオ考古学、形質人類学、歴史人類学、文化人類学の諸学の協働によって明らかにし、その中で人とサンゴ(礁)のかかわり合いを遠い過去から現在まで見とおした。立場や系譜が必ずしも同じではない人々のあいだに、サンゴ(礁)とのこれからの「共存」のあり方への共通関心を喚起する目的で、研究成果を活用したアウトリーチに積極的に取り組んだ。
著者
櫻井 鉄也
出版者
筑波大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本課題において、以下の研究を実施した。(1) 複数の右辺ベクトルを持つ連立一次方程式に対して開発したBlock Krylov subspace methodに対して、残差行列の直交化による安定性の改善を行い、さらにシフト行列に拡張した。開発した手法を密度汎関数法で現れるバンド図計算に適用し、従来その計算量の多さから実現できていなかった規模の原子数で結果を得ることができた。また、固有ベクトルの相関を利用することで、少ないステップでバンド曲線を描くことが可能になった。(2) 行列トレースのstochasticな推定法を利用した固有値分布の大域的推定により、指定した領域の固有値密度を推定することで、固有値計算で用いる解法の適切なパラメータ自動推定法を開発した。これにより、パラメータの最適化をユーザが行う必要がなくなり、解法の利用性が向上した。(3) 超新星爆発のシミュレーションで現れる大規模な線形方程式を対象として、そこで現れる行列の性質を解析し、前処理のための適切なスケーリング法、およびパラメータの選択をする方法を開発した。また、前処理行列に対して影響の少ない行列要素のカットオフを行い、計算時間の短縮を行った。開発した手法を実装し、超新星爆発シミュレーションで現れる問題に適用して、従来法に対して計算時間が短縮されることを確認した。実問題に対応した規模で計算を行うために、開発した手法の並列化を進めた。
著者
三宅 なほみ 大島 純 白水 始 中原 淳
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009-04-01

人とロボットが,それぞれの立場で相手の存在を認識し,互いに学び合い,育っていくような人ロボット共生による新たな協創社会の実現に向けて,「A03班:知恵の協創班」では人の持つ潜在的な学習能力を洗い出し,それを活かした新しい学びを実践的に創造する実践学的学習科学を発展させた.斬新な方法論として,遠隔操作によるロボットを「よい聞き手」「共に学び合う仲間」として協調学習場面に参画させ,人と人との相互作用を制御・支援することによって,学習科学の経験則を再現性のある理論研究へと発展させる基盤を形成した.
著者
磯辺 篤彦 郭 新宇 中村 啓彦 広瀬 直毅 石坂 丞二 木田 新一郎 加古 真一郎 中村 知裕 万田 敦昌
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

日本南岸における黒潮流路変動が、南岸低気圧の経路に揺らぎを与えることを発見した。冬季東シナ海における浅海部の海面冷却は、これに連動した海面気圧と風系の変化を通して、負のフィードバック機構を持つことを示した。瀬戸内海での海面水温分布によって海陸風が変調すること、大潮・小潮周期の海面水温変化に応じて、海上風も変動することを発見した。以上、縁辺海や沿岸規模の海洋過程は大気過程に影響を与え、場合によって相互作用が成立することを示した。また、植物プランクトンの春季ブルームが海面水温を変化させ、これが低気圧の発達に影響を及ぼすといった、大気ー海洋ー生態系の結合過程を提案した。
著者
福住 俊一 小島 隆彦
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

広いπ共役系を持つカップ積層型ナノカーボン、フラーレン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体の電子移動特性や化学反応特性を明らかにした。さらにそれらを複合化させることにより、高次π空間構造を構築し、有機太陽電池へと応用し、光電流発生におけるIPCE 値が77%の高い値を示す系を構築した。さらには、長寿命電荷分離系を構築し、光スイッチングデバイスの作成にも成功した。
著者
榊原 均 木羽 隆敏 信定 知江 小嶋 美紀子
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009-07-23

高CO2により引き起こされる植物の成長促進において、トランスゼアチン型サイトカイニンの生合成亢進が要因の1つであることを明らかにするとともに、その原因となる遺伝子と制御機構を明らかにした。サイトカイニン作用の調節には、量的なものに加え、側鎖修飾による質的な調節機構があることを明らかにした。窒素栄養に応答したサイトカイニン生合成調節は、外環境(硝酸イオン)と内環境(グルタミン代謝)の複数の因子によって制御されていることを明らかにした。
著者
高須 清誠
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

同一の反応空間においてひとつの触媒が反応機構の異なる複数の反応を活性化して反応基質を連続的に化学変換することができれば(タンデム触媒系)、複雑な分子構造を単純な原料から一挙に構築することが可能となる。しかし、複数の分子の混合状態において、同一の触媒で選択的に基質を活性化して異なる反応を秩序よく進行させることは極めて困難である。23年度は、マイクロリアクターを用いた空間集積合成への適用を含め、時空間集積および時間集積とあわせて複雑分子の構築法の開発を検討した。また、その反応を利用していくつかの生理活性天然物なちびに低pH応答型の人工DNA切断分子の創製を目指した。検討の結果、以下にまとめた成果を明らかにした。1.マイクロリアクターを用いた室温での触媒的(2+2)環化付加の実現(空間集積)2.タンデム触媒系を利用した連続的異性化-(2+2)環化付加の開発(時間集積)3.低pHに応答してDNAを選択的に切断するシクロブタン化合物の創製(上記の集積反応を活用)4.タンデム触媒系でのイナミドを基質とする反応の開発:不飽和イナミドおよび多置換キノリンの合成(時空間集積)5.不斉共役付加を基点とするワンポット反応でのキラルβアミノ酸誘導体の合成(時間集積)と、統合失調症治療薬ネモナプリドの短行程不斉合成即ち、Tf2NHの多彩な触媒活性を利用した反応集積化を行い(2+2)環化付加を含む連続反応を開発するとともに、生理活性天然物の母核構造の短行程合成に成功した。また、低pH応答型DNA切断分子を設計し、実際に目的の機能を示すことを明らかにした。
著者
及川 英秋 南 篤志 南 篤志 大栗 博毅
出版者
北海道大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

東北大五味教授との共同研究として5種のベクターが使用可能な栄養要求性麹菌変異株を用いた異種遺伝子発現系を活用した糸状菌由来の生物活性物質の全生合成を検討した。その過程で、遺伝子導入を短縮し、かつ限られたベクター数の効率の良い使用が問題となったが、一挙に4個の遺伝子を導入する(Tandem法)を考案し、化合物種に関係なく遺伝子数4-17個を使って、構造の複雑な天然物が自在に合成できるシステムを開発した。このほか抗腫瘍性物質や抗生物質を含む放線菌由来の骨格構築酵素の機能解析や構造多様化に向けたハイブリッド酵素系の開発を検討した。その結果、生合成酵素の複合体の精妙な制御系を見出した。
著者
黒岩 厚
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

1.予定肢芽領域におけるFgf10発現開始過程でのHox遺伝子の関与を、ニワトリ胚への電気穿孔法による遺伝子導入を用いて解析した。R212abエンハンサーに対してHoxb-6はWnt依存性の転写促進活性を示し、Hoxa-9は逆に抑制作用を示した。Hox6発現領域においてR2依存性Fgf10発現惹起され、後方にあるHoxa-9発現領域で抑制されるため、予定肢芽領域のみでFgf10発現が拘束され肢芽が形成されることが明らかとなった。肢芽の位置指定過程でHoxがFgf10発現制御を介して重要な役割を果たすことが初めて示された。2.軟骨魚類、肉鰭魚類のシーラカンスや羊膜類にはFgf10遺伝子中にR3が存在するが、鰭にわずかの骨要素しか持たない真骨条鰭魚類のFgf10には存在しない。条鰭魚類の中でも鰭に比較的大きな骨要素を持つ分岐鰭亜綱のポリプテルスのゲノム中にR3配列があり、これがFgf10遺伝子中に軟骨魚類や羊膜類同様の位置に存在した。これらから肢芽間充織エンハンサーR3の存在が鰭原基間充織の成長期間と大きく関連することが示唆され、この仮説の実験的検証の必要性が示された。3.染色体上のエンハンサーの機能を探るために、R2の387bp(ΔR212L2)、R3の531bp(ΔR31C2)を欠失したマウスを作成した。これらについてFgf10KOとのトランスへテロ胚におけるFgf10発現に与える影響を解析した。Fgf10KO/Δ212L2胚では耳胞発現は変化しないが、肢芽前方間充織の発現が特異的に低下し、肢芽が一過的に低形成となった。これからR212L2は肢芽初期エンハンサーとして機能することが示された。Fgf10KO/Δ31C2胚では肢芽間充織発現が特異的に低下していたことから、R31C2は肢芽間充織エンハンサーとして機能し、他にも類似の機能を担う配列が存在することが明らかになった。
著者
森 悦朗
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

幻視はレビー小体型認知症(DLB),パーキンソン病(PD)においてよく認められる症候であるが,種々の幻視の中で顔の幻視が高頻度に生じる.顔の錯視は「心霊写真」のように時に健常者でもみられる現象だが,DLBでは高頻度に生じ,PDでもよく見られ,顔の幻視との関係が推測できる.顔の誤認はCapgras妄想が代表的で,DLBやADで時に見られる症候である.日常生活場面における幻視,錯視を臨床場面で再現する目的で錯視誘発課題(パレイドリア課題)を作成し,DLB,アルツハイマー病,健常高齢者を対象に12個の刺激を用いて,誘発された錯視の総数,および錯視を誘発した刺激数を指標として顔の錯視の出現と,その神経心理学的背景を検討した.健常高齢者では全く錯視は誘発されなかったが,12個の刺激に対して誘発錯視数および錯視誘発刺激率(平均±SD)は,DLB(9.4±3.7個,54.4±18.5%),PD(3.1±2.6個,18.7±15.2%), AD(1.1±1.0個,14.4±9.2%)であった.いずれの疾患 でも錯視内容は,動物 ,人物,物体の順であり(図2),動物,人物の錯視では約半数が「動物の顔」,「人物の顔」と顔に特定されていた.本課題における錯視の内容,およびDLBで錯視が誘発されやすい点から日常生活場面での錯視,幻視の類似性が示唆される.次いでPDにおける錯視の出現についても検討し,DLBほどではないが,ADと比較すると高頻度に出現することを確かめ,その神経基盤をFDG-PETを用いて検討し,視覚連合野のブドウ糖代謝低下と関連していることを見いだし,現在論文を準備している.顔の錯視が高頻度であることから錯視における顔の重要性,あるいは一般的に顔認知の特殊性が示唆され,顔領域以外の視覚連合野の機能低下が関与していることが示唆された.
著者
冨田 太一郎
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

環境変化の情報が実際に生きた動物体内でどのような形で伝達されて、さらにどのような情報処理が行われるのかはほとんど理解が進んでいない。生体内で生じる微弱な反応を単に眺めるだけでは、生きた動物体内で生じている情報処理のメカニズムを理解することは難しい。そこで線虫の塩応答の感覚神経ASERをモデルに、システム工学の手法とin vivoイメージングの手法とを組み合わせたアプローチによって、代表的な環境応答シグナル分子のMAPキナーゼ(MAPK)の制御機構の解明を目指した。具体的には、動物個体にパルス状の塩濃度変化を一定の周波数で与えながら、ASER神経のMAPキナーゼ活性をFRET法でリアルタイムにモニターし、環境変化からMAPKに至る過程でどのような情報処理が行われるのかを解析した。その結果、効率よくMAPK活性化を生じさせるためには、環境からの刺激が多すぎても少なすぎてもだめで、環境変化が一定の頻度で、かつ一定の持続時間で繰り返し生じる場合に限られることが明らかになった。さらに、イメージング実験と変異体解析の結果から、細胞内カルシウムがMAPK活性化に至る情報のフィルターとして機能するメカニズムを見いだした。そこで数理モデルを用いて、細胞内でどのような情報処理をうけると実際に観察されたMAPKの挙動に至るかを計算機上でシミュレーション解析を行った。その結果、比較的単純な積分器によってカルシウムシグナルの刺激応答特性が複雑なMAPKの刺激応答特性に変換されていることを見いだした。がんや異常免疫などの病態解明や記憶学習の鍵としてMAPK制御の理解は重要であるが、従来の遺伝学や生化学に加えて、新規の光学的なアプローチから生きた動物の単一細胞の中で生じている複雑な情報処理システムを解き明かすことに成功した点に意義がある。今後例えば疾患モデル動物にも適用ができれば非常に有効と思われる。
著者
泊 幸秀 塩見 美喜子
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009-07-23

Argonauteファミリータンパク質はすべての小分子RNA作用マシナリーの核心を成す因子であり、恒常的に発現するAGOサブファミリーと生殖細胞特異的なPIWIサブファミリーに分類される。AGOサブファミリータンパク質については、これまで機能未知であった「Nドメイン」が小分子RNA二本鎖の一本鎖化に極めて重要な役割を果たしていることを見いだすなど、作用マシナリーの形成と機能に関する多数の重要な知見を得た。またPIWIサブファミリーについては、piRNAの生合成過程の一部を再現出来るin vitroの実験系の構築に成功しその素過程を初めて生化学的に明らかにするなど、顕著な成果を上げた。
著者
石塚 伸一 赤池 一将 浜井 浩一
出版者
龍谷大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

日本における犯罪者・非行少年処遇は、未だ科学化が進んでおらず、法律家の先入見に支配されている。中央政府主導の犯罪対策には限界があるを自覚した政府は、地方政府や地域社会、NPOとの連携を模索している。他方で、市民は、人間科学にもとづく犯罪問題の解決に期待をしているが、十分な情報をもたないために、扇情的な犯罪報道に聳動して、刑罰ポピュリズムに惑わされる傾向がある。犯罪者・非行少年の処遇において、法と人間科学への期待は大きい。個別分野での科学的実践を通じて、実践的科学としての犯罪学の領域に フィードバックされる諸課題を受け止めながら、法と人間科学の中に新たな犯罪学を構築していく必要がある。