- 著者
-
森 悦朗
- 出版者
- 東北大学
- 雑誌
- 新学術領域研究(研究領域提案型)
- 巻号頁・発行日
- 2011-04-01
幻視はレビー小体型認知症(DLB),パーキンソン病(PD)においてよく認められる症候であるが,種々の幻視の中で顔の幻視が高頻度に生じる.顔の錯視は「心霊写真」のように時に健常者でもみられる現象だが,DLBでは高頻度に生じ,PDでもよく見られ,顔の幻視との関係が推測できる.顔の誤認はCapgras妄想が代表的で,DLBやADで時に見られる症候である.日常生活場面における幻視,錯視を臨床場面で再現する目的で錯視誘発課題(パレイドリア課題)を作成し,DLB,アルツハイマー病,健常高齢者を対象に12個の刺激を用いて,誘発された錯視の総数,および錯視を誘発した刺激数を指標として顔の錯視の出現と,その神経心理学的背景を検討した.健常高齢者では全く錯視は誘発されなかったが,12個の刺激に対して誘発錯視数および錯視誘発刺激率(平均±SD)は,DLB(9.4±3.7個,54.4±18.5%),PD(3.1±2.6個,18.7±15.2%), AD(1.1±1.0個,14.4±9.2%)であった.いずれの疾患 でも錯視内容は,動物 ,人物,物体の順であり(図2),動物,人物の錯視では約半数が「動物の顔」,「人物の顔」と顔に特定されていた.本課題における錯視の内容,およびDLBで錯視が誘発されやすい点から日常生活場面での錯視,幻視の類似性が示唆される.次いでPDにおける錯視の出現についても検討し,DLBほどではないが,ADと比較すると高頻度に出現することを確かめ,その神経基盤をFDG-PETを用いて検討し,視覚連合野のブドウ糖代謝低下と関連していることを見いだし,現在論文を準備している.顔の錯視が高頻度であることから錯視における顔の重要性,あるいは一般的に顔認知の特殊性が示唆され,顔領域以外の視覚連合野の機能低下が関与していることが示唆された.