著者
横山 友里 清野 諭 光武 誠吾 西 真理子 村山 洋史 成田 美紀 石崎 達郎 野藤 悠 北村 明彦 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.752-762, 2020-10-15 (Released:2020-12-23)
参考文献数
38
被引用文献数
1

目的 「運動」「栄養」「心理・社会参加」を柱としたフレイル改善のための複合プログラムへの参加がその後の要介護・死亡発生リスクや介護費に及ぼす影響を,傾向スコアマッチングを用いた疑似実験的デザインにより検証した。方法 鳩山コホート研究参加者742人のうち,2011年度(47人)と2013年度(30人)に開催した3か月間のフレイル改善教室のいずれかの年度に参加したフレイルまたはプレフレイルの計77人を介入群とした。不参加群は,鳩山コホート研究参加者の中から,介入不参加者(介入対象外であった者のほか,介入対象であったものの,教室参加を拒否した者を含む)を対象に,傾向スコアを算出し,介入群との比を1:2としてマッチングすることにより,設定した。傾向スコアで完全にマッチングできた対象者は介入群70人,不参加群140人,計210人であった。住民異動情報・介護保険情報を突合し,32か月間(教室終了後24か月)の追跡による要介護(要支援含む)・死亡発生リスクをCoxの比例ハザードモデルを用いて算出した。また,ガンマ回帰モデルを用いて介護費の比較を行った。結果 要介護の発生率(対千人年)は介入群が不参加群に比し,有意ではないものの低い傾向を示し(介入群:1.8 vs.不参加群:3.6),不参加群に対する介入群の要介護認定のハザード比と95%信頼区間(95%CI)は0.51(0.17-1.54)であった。また,介入群と不参加群の間で介護費発生の有無に有意な差はみられなかったものの,介護費については,受給者1人あたりの追跡期間中の累積の費用,1か月あたりの費用の平均値はそれぞれ,介入群で375,308円,11,906円/月,不参加群で1,040,727円,33,460円/月と介入群では約1/3の低額を示し,累積の費用(コスト比=0.36, 95%CI=0.11-1.21, P=0.099),1か月あたりの費用(コスト比=0.36, 95%CI=0.11-1.12, P=0.076)ともに,不参加群に比べて介入群で低い傾向がみられた。結論 本研究では統計的な有意差は認められなかったものの,フレイル改善のための複合プログラムの実施により,その後の要介護発生リスクおよび介護費を抑制できる可能性が示された。今後,より厳密な研究デザインによるさらなる検証が必要である。
著者
大野 佳子 三瓶 舞紀子 長谷川 文香 松隈 誠矢 半谷 まゆみ 森崎 菜穂
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.135-148, 2023-02-15 (Released:2023-03-02)
参考文献数
34

目的 コロナ禍の学校では感染対策に伴い行動が制限されるなか,こどもはどのような意見を持っているのか,そのテキスト(語られた言葉)の構造および保護者の心理・社会経済状況による特徴を明らかにすることを目的とした。方法 2020年9~10月に実施されたWeb調査「コロナ×こどもアンケート第3回調査」の回答者(小・中・高校生相当の男女)2,111人のうち,自由記述による有効回答が得られた1,140人のテキストデータを対象とした。質問内容は「いま気になることや言いたいこと[本音]」および「どのようにすればいいと思いますか?誰がどのようなことをしてくれたらいいと思いますか?[実行案]」であった。保護者の属性には年齢,仕事の有無,心理的苦痛尺度(K6),経済状態等を保護者から情報収集し,分析にはテキストマイニングソフトによる頻度分析,特徴分析,ことばネットワーク(単語関連図)作成を行った。結果 [本音]と[実行案]のテキストは総行数(回答者数)531,1,017であり,平均行長(文字数)21.5,31.5であった。係り受け頻度分析では[実行案]が「話-聞く」等であり,[本音]では「行事-無くなる」「マスク-外す」等が多かった。ことばネットワークでは[実行案]で最もノードの大きい「私」に「動く」「話しかける」等が強く共起のネットワークを形成していた一方,[本音]では「COVID-19」に「終息+?」「無くなる+したい」等が強く共起していた。保護者の属性による特徴的な単語(補完類似度)は,[実行案]では仕事あり群で「話(35.9)」,K6良い群で「話(26.6)」であり,K6不良群で「分かる+ない(23.5)」,経済状況悪群で「分かる+ない(17.3)」であった。一方,[本音]では仕事あり群および精神的健康度の高い群で「COVID-19(28.1,27.5)」であった。結論 こどもの本音ではCOVID-19に対する不快感や怖れを持っている一方で,実行案を問うと「私」が主体となって動き,他者に話しかけると同時に,誰かに話を聞いてもらいたい意思のあることが明らかになった。保護者の心理的苦痛と経済状況が良くないこどもの実行案の特徴として“分からない”が多かった。
著者
片野田 耕太 伊藤 秀美 伊藤 ゆり 片山 佳代子 西野 善一 筒井 杏奈 十川 佳代 田中 宏和 大野 ゆう子 中谷 友樹
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.163-170, 2023-03-15 (Released:2023-03-23)
参考文献数
40

諸外国では,がん登録を始めとする公的統計データの地理情報を用いた研究ががん対策および公衆衛生施策に活用されている。日本でも2016年に全国がん登録が開始され,がんの罹患情報のデータ活用が制度的に可能となった。悉皆調査である全国がん登録は,市区町村,町丁字など小地域単位での活用によりその有用性が高まる。一方,小地域単位のデータ活用では個人情報保護とのバランスをとる必要がある。小地域単位の全国がん登録データの利用可否は,国,各都道府県の審議会等で個別に判断されており,利用に制限がかけられることも多い。本稿では,がん登録データの地理情報の研究利用とデータ提供体制について,米国,カナダ,および英国の事例を紹介し,個人情報保護の下でデータが有効に活用されるための方策を検討する。諸外国では,データ提供機関ががん登録データおよび他のデータとのリンケージデータを利用目的に沿って提供する体制が整備され,医療アクセスとアウトカムとの関連が小地域レベルで検討されている。日本では同様の利活用が十分に実施されておらず,利用申請のハードルが高い。全国がん登録の目的である調査研究の推進とがん対策の一層の充実のために,他のデータとのリンケージ,オンサイト利用など,全国がん登録を有効かつ安全に活用できる体制を構築していく必要がある。
著者
高橋 佑紀 森定 一稔 渡邉 美貴 田中 英夫
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-041, (Released:2023-03-10)
参考文献数
14

目的 大阪府は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大期における感染制御の方策として,政府に対し緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発出・実施要請をした。それらの効果を評価・検討する。方法 大阪府健康医療部が公表する第3波(2020年10月10日~2021年2月28日)および第4波と前後約1週間(2021年2月23日~2021年6月27日)の感染経路不明新規陽性者数を用い,7日間移動平均値を計算した。そして各波での罹患率の経時変化の特徴を,Joinpoint回帰モデルを適用して分析し,統計学的に有意な罹患率の日率変化をその日の前後で起こした日(Joinpoint日)を特定した。SARS-CoV-2に感染してからその罹患事実が公表に至るまでの日数分を各Joinpoint日から遡った日を,府民の感染リスク行動が大きく変化した日とみなした。それらの日と大阪府から発出された声明,宣言との時間的関連性を見た。結果 大阪府のCOVID-19感染経路不明新規陽性者数の増加率が有意に減少に転じたJoinpoint日は,第3波では2020年11月23日,2021年1月7日,および1月18日の3ポイントが見出された。また,第4波では,2021年4月12日と4月30日の2ポイントが見出された。それぞれのJoinpoint日から,対応するタイムラグ(8~9.9日)だけ遡って得られた計5つの感染リスク行動急変日は,2020年11月13日,12月30日,2021年1月9日,4月4日,および4月22日と推定された。上記の5つの推定感染行動急変日のうち,2021年1月9日は2回目の緊急事態宣言発出日,21年4月4日は1回目のまん延防止等重点措置実施日,4月22日は3回目の緊急事態宣言の要請日と発出日の間に位置していた。結論 大阪府内でCOVID-19の第3波,第4波に発出された計3回の緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の発出・実施タイミングは,いずれも感染経路不明新規陽性者数が増加から減少に転じた,もしくは急激な増加傾向が止まったと推定される時点に対応する府民の行動変化を起こしたタイミングにほぼ一致していた。このことから,これらの宣言の発出要請は,府民の感染リスク回避行動を強化し,また感染が起きやすい機会を低減させた要因の一つと推定された。
著者
伊藤 久美子 河合 恒 西田 和正 江尻 愛美 大渕 修一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-083, (Released:2023-02-10)
参考文献数
11

目的 介護保険法改正により基準緩和型サービスが創設され,地域住民が担い手として介護サービスに参加できるようになったが,その具体的な方法は示されていない。我々は通所型サービス事業所(以下,事業所)に教育機能を付加し,地域住民をサブスタッフ(介護予防の一定の知識・技術と守秘義務を持ち,職員の支援のもと自立に向けたケアを有償で提供する補助スタッフ)として養成する「サブスタッフ養成講座(以下,養成講座)」を開発した。本報告では,養成講座を自治体の介護予防事業等で実施するために,実践例の紹介と調査を通して,実現可能性と実施上の留意点を検討した。方法 養成講座は4か月間のプログラムで,介護予防等の知識の教授を目的とした講義(1時間/回,全16回)と,サービス利用者のケアプランの目標や内容を把握し職員の支援のもと介護サービスを提供する実習(半日/回,全13回)で構成した。修了後の目標は事業所での活動や地域での介護予防活動とした。2015~2017年度に東京都A市,B市,千葉県C市の14事業所にて養成講座を実施した。評価は,修了率,養成講座参加前後の活動の自信・介護予防の理解度の変化と修了後の地域活動状況,サービス利用者が受講生から介護サービス提供を受けることによる精神的影響,事業所職員の仕事量軽減の認識について,受講生,サービス利用者へのアンケート,事業所職員へのインタビューにより行った。活動内容 養成講座修了者は104人中96人(修了率92.3%)であった。受講生へのアンケートの結果,参加前後で事業所での活動の自信や介護予防の理解度が有意に向上し,65.3%が修了後に事業所での活動を含む新しい地域活動の実施に至った。サービス利用者へのアンケートの結果,受講生から介護サービス提供を受けた利用者は受けていない利用者と比べ負の精神的な影響が多くなかった。養成講座を実施した事業所の85.7%が地域住民のサービス参加により仕事量が軽減されたと回答した。結論 養成講座は受講生の活動の自信・介護予防の理解度を向上させ,半数以上が新しい地域活動への実施に至っていた。受講生の介護サービスへの参加は利用者への負の影響が少なく,事業所にとっても仕事量軽減につながることが示唆された。これらのことから,養成講座の介護予防事業等での実現可能性は高いと考えられた。
著者
鈴木 隆雄 岩佐 一 吉田 英世 金 憲経 新名 正弥 胡 秀英 新開 省二 熊谷 修 藤原 佳典 吉田 祐子 古名 丈人 杉浦 美穂 西澤 哲 渡辺 修一郎 湯川 晴美
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.39-48, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
25
被引用文献数
4

目的 70歳以上の地域在宅高齢者を対象として,容易に要介護状態をもたらすとされる老年症候群,特に転倒(骨折),失禁,低栄養,生活機能低下,ウツ状態,認知機能低下(痴呆)を予防し,要介護予防のための包括的健診(「お達者健診」)を実施した。本研究では,その受診者と非受診者の特性(特に健康度自己評価,生活機能,ウツ傾向,主観的幸福感,転倒経験,慢性疾患有病率および身体機能としての握力における差異)を明らかにすることを目的とした。方法 調査対象者は東京都板橋区内在宅の70歳以上の高齢者863人である。「お達者健診」には,このうち438人(50.8%)が受診した。健診内容は老年症候群のさまざまな項目についてハイリスク者のスクリーニングが主体となっている。本研究では前年に実施された事前調査データを基に,「お達者健診」の受診者と非受診者の性および年齢分布の他,健康度自己評価,老研式活動能力指標による生活機能,GHQ ウツ尺度,PGC モーラルスケールによる主観的幸福感,転倒の既往,慢性疾患有病率,および身体能力としての握力などについて比較した。成績 1) 健診受診者における性別の受診者割合は男性49.0%,女性51.0%で有意差はなかった。受診者と非受診者の平均年齢は各々75.3歳と76.4歳であり有意差が認められ,年齢分布からみても非受診者に高齢化が認められた。 2) 健康度自己評価について受診群と非受診群に有意な差が認められ,非受診群で自己健康度の悪化している者の割合が高かった。 3) 身体機能(握力)についてみると非受診者と受診者で有意差はなかった。 4) 生活機能,ウツ傾向,主観的幸福感についての各々の得点で両群の比較を行ったが,いずれの項目についても非受診者では有意に生活機能の低下,ウツ傾向の増加そして主観的幸福感の低下が認められた。 5) 過去 1 年間での転倒経験者の割合には有意差は認められなかった。 6) 有病率の比較的高い 2 種類の慢性疾患(高血圧症および糖尿病)についてはいずれも受診者と非受診者の間に有病率の差は認められなかった。結論 今後進行する高齢社会において,地域で自立した生活を営む高齢者に対する要介護予防のための包括的健診はきわめて重要と考えられるが,その受診者の健康度は比較的高い。一方非受診者はより高齢であり,すでに要介護状態へのハイリスクグループである可能性が高く,いわば self-selection bias が存在すると推定された。しかし,非受診の大きな要因は実際の身体機能の老化や,老年症候群(転倒)の経験,あるいは慢性疾患の存在などではなく,むしろ健康度自己評価や主観的幸福感などの主観的なそして精神的な虚弱化の影響が大きいと推測された。受診者については今後も包括的な健診を中心とした要介護予防の対策が当然必要であるが,非受診者に対しては訪問看護などによる精神的な支援も含め要介護予防に対するよりきめ細かい対応が必要と考えられた。
著者
島貫 秀樹 本田 春彦 伊藤 常久 河西 敏幸 高戸 仁郎 坂本 譲 犬塚 剛 伊藤 弓月 荒山 直子 植木 章三 芳賀 博
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.749-759, 2007 (Released:2014-07-03)
参考文献数
35
被引用文献数
11

目的 本研究は,高齢者の介護予防推進ボランティアへの参加による社会・身体的健康および QOL への影響について,1 年間の縦断データをもとに一般の高齢者との比較によって明らかにすることを目的とした。方法 初回調査は,2003年に宮城県の農村部に在住する高齢者(70~84歳)を対象として行われた。初回調査に参加した1,503人の中から介護予防推進ボランティアの募集を行った。その結果,77人がボランティアリーダーに登録した。一年後,ボランティア活動による影響を明らかにするために,追跡調査をした。最終的に,介護予防推進ボランティア参加者69人と一般高齢者1,207人を分析対象者とした。ボランティア活動の社会・身体的健康指標および QOL 指標への影響については,ボランティア活動状況を説明変数,社会・身体的健康指標および QOL 指標を目的変数とするロジスティック回帰分析を用いて分析した。結果 ボランティア参加者に比べ一般高齢者は,知的能動性(OR:4.51,95%CI:1.60-12.74),社会的役割(OR:2.85,95%CI:1.11-7.27),日常生活動作に対する自己効力感(OR:4.58,95%CI:1.11-18.88),経済的ゆとり満足度(OR:2.83,95%CI:1.11-7.21),近所との交流頻度(OR:3.62,95%CI:1.29-10.16)の項目において有意に低下することが示された。結論 高齢者の介護予防推進ボランティア活動への参加は,一般高齢者に比べ高次の生活機能やソーシャルネットワークの低下を抑制することが示唆された。
著者
大野 佳子 三瓶 舞紀子 長谷川 文香 松隈 誠矢 半谷 まゆみ 森崎 菜穂
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.21-144, (Released:2022-11-08)
参考文献数
34

目的 コロナ禍の学校では感染対策に伴い行動が制限されるなか,こどもはどのような意見を持っているのか,そのテキスト(語られた言葉)の構造および保護者の心理・社会経済状況による特徴を明らかにすることを目的とした。方法 2020年9~10月に実施されたWeb調査「コロナ×こどもアンケート第3回調査」の回答者(小・中・高校生相当の男女)2,111人のうち,自由記述による有効回答が得られた1,140人のテキストデータを対象とした。質問内容は「いま気になることや言いたいこと[本音]」および「どのようにすればいいと思いますか?誰がどのようなことをしてくれたらいいと思いますか?[実行案]」であった。保護者の属性には年齢,仕事の有無,心理的苦痛尺度(K6),経済状態等を保護者から情報収集し,分析にはテキストマイニングソフトによる頻度分析,特徴分析,ことばネットワーク(単語関連図)作成を行った。結果 [本音]と[実行案]のテキストは総行数(回答者数)531,1,017であり,平均行長(文字数)21.5,31.5であった。係り受け頻度分析では[実行案]が「話-聞く」等であり,[本音]では「行事-無くなる」「マスク-外す」等が多かった。ことばネットワークでは[実行案]で最もノードの大きい「私」に「動く」「話しかける」等が強く共起のネットワークを形成していた一方,[本音]では「COVID-19」に「終息+?」「無くなる+したい」等が強く共起していた。保護者の属性による特徴的な単語(補完類似度)は,[実行案]では仕事あり群で「話(35.9)」,K6良い群で「話(26.6)」であり,K6不良群で「分かる+ない(23.5)」,経済状況悪群で「分かる+ない(17.3)」であった。一方,[本音]では仕事あり群および精神的健康度の高い群で「COVID-19(28.1,27.5)」であった。結論 こどもの本音ではCOVID-19に対する不快感や怖れを持っている一方で,実行案を問うと「私」が主体となって動き,他者に話しかけると同時に,誰かに話を聞いてもらいたい意思のあることが明らかになった。保護者の心理的苦痛と経済状況が良くないこどもの実行案の特徴として“分からない”が多かった。
著者
田中 宏和 田淵 貴大 片野田 耕太
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-061, (Released:2022-11-28)
参考文献数
36

目的 新型コロナウイルスワクチン接種状況と,旅行や飲食店利用など経済活動の活性化に向けた接種証明書(ワクチンパスポート)の活用に関して人々の意識を明らかにすることを目的とした。方法 2021年9-10月に実施された「日本におけるCOVID-19問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS研究)」のデータから,最終学歴および職業ごとのワクチン接種率と接種率比を算出した。また,「ワクチン接種済み(2回)」群と「ワクチンの接種を希望しない」群に分けて「ワクチンを接種した(しない)理由」をそれぞれ分析した。さらに,ワクチンパスポートを「経済回復のために活用すべきだ」と考える割合と性・年齢階級・職業・最終学歴や政府のワクチン情報の信頼などとの関連を分析した。結果 27,423人の調査参加者(20-79歳;女性13,884人,男性13,539人)のうち,「ワクチン接種済み(2回)」が20,515人(74.8%),「接種したくない(接種希望なし)」が1,742人(6.3%)であった。ワクチン接種率は性で差がなく,『大学・大学院卒業者』は『高校卒業者』に比べて有意に接種率が高かった(調整済み接種率比,1.09;95%信頼区間:1.07-1.12)。職業別では『事務職』に対する『専門・技術職』の調整済み接種率比は1.05(95%信頼区間:1.01-1.09)であった。「ワクチン接種済み(2回)」群のうち,接種した理由で最も多かったのは「家族や周りの人に感染させたくないから」の53.0%だった。一方で,接種したくない理由で最も多かったのは「副反応が心配だから」の44.5%だった。ワクチンパスポートについて「経済回復のために活用すべき」と答えたのは「ワクチン接種済み(2回)」群で41.8%であり,「接種したくない」群で12.2%であった。職業別では『営業販売職』(40.4%)で最も高かった。この割合は,「政府のワクチン情報を信頼している」群(49.5%)では「どちらでもない」群(27.5%)に比べて有意に高かった(P<0.01)。結論 学歴や職業でワクチン接種率に差があること,政府のワクチン情報を信頼する人ほどワクチンパスポート活用に肯定的であることが明らかになった。しかし,経済活動の活性化のためのワクチンパスポート活用に関して,人々の期待や関心は社会全体では高くないことが示唆された。
著者
早坂 信哉 中村 好一 梶井 英治
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.1070-1075, 2002 (Released:2015-12-07)
参考文献数
31
被引用文献数
2

目的 市区町村社会福祉協議会が提供する高齢者入浴サービスである訪問入浴,施設内入浴について関連する事故の発生頻度をそれぞれ明らかにする。方法 対象:高齢者入浴サービスを実施している全国の市区町村社会福祉協議会(以下社協)444か所が対象であり,そのうち入浴に関連する事故の経験がある社協102か所を調査した。 調査,解析方法:2001年10月に郵送自記式調査を実施した。訪問入浴サービス,施設内入浴サービスの各々について,入浴サービス開始年月,2000年度の入浴延べ件数,および過去 5 年間のうちの入浴サービス実施期間の入浴に関連する事故件数を調査した。これらの項目につき過去 5 年間の入浴延べ件数を推定し,事故経験のある社協における入浴 1 万件あたりの事故件数を計算した。加えて入浴サービスを実施している社協全体における入浴 1 万件あたりの事故件数を計算し,日本全体における年間事故件数を推定した。結果 調査票の回収率は93%(回答数95)だった。5 年間の 1 社協あたりの延べ入浴件数(平均±標準偏差)は訪問入浴が4,245.0±4,637.7件,施設内入浴が22,235.3±37,259.4件で施設内入浴が多かった。事故経験のある社協における 5 年間の事故件数は訪問入浴が0.57±2.95件,施設内入浴が0.63±1.73件でほぼ同じだった。しかし入浴 1 万件あたりの事故件数は,訪問入浴が1.33件,施設内入浴が0.28件で訪問入浴が多かった。入浴サービスを実施している社協全体における入浴 1 万件あたりの事故件数は,訪問入浴が0.204件,施設内入浴が0.067件で訪問入浴が多かった。日本全体における年間事故件数を推定すると訪問入浴が63.1件,施設内入浴が149.1件であった。結論 入浴 1 万件あたりの事故発生率は,訪問入浴が施設内入浴より高く,福祉担当者や家族は注意を喚起する必要がある。
著者
瀬戸 順次 鈴木 恵美子 山田 敬子 石川 仁 加藤 裕一 加藤 丈夫 山下 英俊 阿彦 忠之 水田 克巳 中谷 友樹
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-072, (Released:2022-11-08)
参考文献数
15

目的 感染症の流行状況を的確に示すためには,時・場所・人の3つの情報の要約が求められる。本報告では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が山形県において「いつ・どこで・どのように」広がっているのかを可視化したCOVID-19時空間三次元マップ(時空間マップ)を用いて実施した公衆衛生活動の概要を紹介することを目的とした。方法 山形県および山形市(中核市)のプレスリリース情報を基に感染者の疫学情報をリスト化し,無料統計ソフトを用いて時空間マップ(自由に回転,拡大・縮小が可能な3次元グラフィクスを含むhtmlファイル)を作成した。時空間マップの底面には,山形県地図を配置した。各感染者は,XY平面の居住地市町村(代表点から規定範囲でランダムに配置)とZ軸の発病日(推定を含む)の交点にプロットした。また,色分けにより,感染者の年齢群,感染経路を示した。さらに,県外との疫学的関連性を有する感染者には,都道府県名等を挿入した。完成した時空間マップは,山形県衛生研究所ホームページ上で公開し,随時更新した。活動内容 2020年8月に時空間マップの公開を開始し,以降,山形県で経験した第六波までの流行状況を公開した。その中で確認された,第一波(2020年3~5月)から第五波(2021年7~9月)までに共通していた流行の特徴をまとめ,ホームページ上に掲載した。あわせて,その特徴を踏まえた感染対策(山形県外での流行と人の流れの増加の把握,飲食店クラスターの発生抑止,および家庭内感染の予防)を地域住民に提言した。2022年1月以降の第六波では,10歳未満,10代,そして子育て世代の30代の感染者が増加し,保育施設・小学校におけるクラスターも増えていたことから,これら施設においてクラスターが発生した際の家庭内感染の予防徹底を呼びかけた。結論 時・場所・人の情報を含むCOVID-19流行状況をまとめた図を作成・公開する中で得られた気づきを基に,地域住民に対して具体的な感染対策を提言することができた。本報告は,自治体が公表している感染者情報を用いた新たな公衆衛生活動の方策を示した一例と考えられる。
著者
野村 恭子 松島 みどり 佐々木 那津 川上 憲人 前田 正治 伊藤 弘人 大平 哲也 堤 明純
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.647-654, 2022-09-15 (Released:2022-09-10)
参考文献数
26

本稿では第80回日本公衆衛生学会総会において,「ウィズコロナ社会のメンタルヘルスの課題と対策」をテーマとしたシンポジウムに登壇した,大学生,妊産婦,一般労働者,医療従事者を対象にコロナ禍のメンタルヘルス対策の実践および研究を行っている公衆衛生専門家により,それぞれの分野における知見・課題・対策を報告する。コロナ禍におけるメンタルヘルスへの影響を各世代,各フィールドへの広がりを概観するとともに,ウィズコロナ時代でどのような対策が求められているのか,問題点を抽出,整理し,公衆衛生学的な対策につなげていくための基礎資料としたい。
著者
横山 友里 吉﨑 貴大 小手森 綾香 野藤 悠 清野 諭 西 真理子 天野 秀紀 成田 美紀 阿部 巧 新開 省二 北村 明彦 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.665-675, 2022-09-15 (Released:2022-09-10)
参考文献数
36

目的 食品摂取の多様性得点(DVS)は,日本人高齢者の食品摂取の多様性を評価する指標として,疫学研究や公衆衛生の現場において幅広く活用されている。一方,本指標は1990年代の開発以降,見直しが行われておらず,現在の日本人高齢者の食生活の実態を必ずしも十分に反映できていない可能性がある。本研究では,構成食品群の改訂による改訂版DVS(MDVS)の試作および妥当性の評価を行うことを目的とした。方法 鳩山コホート研究の2016年調査に参加した357人(年齢:76.2±4.6歳,男性:61.1%)を対象とした。DVSおよびMDVSは,各食品群の1週間の食品摂取頻度をもとに,ほぼ毎日食べる食品群の数を評価した。DVSの構成食品群は肉類,魚介類,卵類,牛乳,大豆製品,緑黄色野菜類,果物,海藻類,いも類,油脂類とし,MDVSの構成食品群は平成29年国民健康・栄養調査における65歳以上の食品群別摂取量のデータをもとに,主菜・副菜・汁物を構成する食品群の摂取重量および各栄養素の摂取量に対する各食品群の寄与率をもとに,その他の野菜,乳製品を追加することとした。栄養素等摂取量は,簡易型自記式食事歴法質問票を用いて調べた。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」で推定平均必要量が定められている14の栄養素について,必要量を満たす確率およびそれらの平均を算出した。DVS,MDVSと各指標との相関分析および相関係数の差の検定を行った。結果 MDVSとたんぱく質エネルギー比率,脂質エネルギー比率,食物繊維,カリウム摂取量,改良版食事バランスガイド遵守得点との有意な正の関連がみられ(偏相関係数の範囲(r)=0.21-0.45),炭水化物エネルギー比率との有意な負の関連がみられた(r=−0.32)。また,MDVSと14の栄養素の必要量を満たす確率の平均との有意な正の関連がみられた(r=0.41)。これらの関連の程度はDVSとMDVSで同程度であり,相関係数の差は有意ではなかった。結論 栄養素摂取量や食事の質との関連からみた妥当性はDVSとMDVSで同程度であった。DVSの改訂にあたっては全国の大規模集団を対象に精度の高い食事調査を用いたさらなる研究が必要である。
著者
新井 清美 榊原 久孝
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.379-389, 2015 (Released:2015-10-27)
参考文献数
44
被引用文献数
4

目的 都市公営住宅における高齢者の低栄養と社会的孤立状態との関連を明らかにすることを目的とした。方法 名古屋市営 A 住宅の65歳以上の高齢者442人を対象に,無記名自記式質問紙を使用し調査を行った。調査内容は,基本属性,社会的孤立状態や栄養状態などについて質問した。低栄養の指標については,Mini Nutritional Assessment®-Short Form (MNA®) を使用して評価した。「栄養状態良好」,「低栄養のおそれあり」,「低栄養」の 3 区分のうち「低栄養のおそれあり」と「低栄養」を,「低栄養のおそれ群」の一群として,「栄養状態良好群」との 2 群で比較した。社会的孤立については,社会的孤立を関係的孤立としてとらえ,日本語版 Lubben Social Network Scale の短縮版(LSNS–6)を使用して評価し,非社会的孤立(12点以上),社会的孤立(12点未満)の 2 群とした。分析では,従属変数を栄養状態とし,年齢,性別,同居の有無,主観的経済状況,社会的孤立,外出頻度,孤独感,要介護認定の有無,老研式活動能力指標を,独立変数(説明変数)としてロジスティック解析を行った。結果 調査は343人から回答を得て(回収率77.6%),有効回答数は288(有効回答率65.2%)であった。分析対象者288人は,65歳から98歳(平均年齢±標準偏差:74.7±6.1歳)で,男性121人,女性167人であった。孤立を示す12点未満は44.1%であった。MNA® については,「栄養状態良好」171人(59.4%),「低栄養のおそれあり」108人(37.5%),「低栄養」9 人(3.1%)であり,「低栄養のおそれ群」は40.6%に認められた。「低栄養のおそれ群」と関連する要因は,多重ロジスティック解析で,社会的孤立状態(オッズ比(OR)=2.52,95%信頼区間(CI)1.44–4.41)および経済状況(OR=1.98,95%CI 1.15–3.41)であった。交互作用の分析結果から75歳以上の一人暮らしも低栄養のおそれと関連することが明らかになった。結論 「低栄養のおそれ群」には,社会的孤立状態および経済状況が関連要因として示され,75歳以上の一人暮らしも要注意であることが明らかになった。今回調査したような公営住宅では高齢者の低栄養や社会的孤立が潜在化している可能性があり,高齢者の介護予防や健康増進への対策には,高齢者への栄養支援とともに社会的孤立への取組の必要性が示唆された。
著者
岡本 秀明 岡田 進一 白澤 政和
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.504-515, 2006 (Released:2014-07-08)
参考文献数
33
被引用文献数
28

目的 大都市に居住する高齢者の社会活動に関連する要因を,身体,心理,社会・環境的な状況から総合的に検討することを目的とした。方法 大阪市に居住する65~84歳の高齢者1,500人を,選挙人名簿を用いて無作為に抽出した。調査は,自記式調査票を用いた郵送調査を実施した。有効回答数771人(51.4%)のうち,代理回答および IADL 得点が 0 点の者を除外したため,分析対象者は654人となった。社会活動は,個人活動,社会参加・奉仕活動,学習活動,仕事という 4 側面を捉える社会活動指標を用いて測定した。分析は,社会活動の 4 側面それぞれを従属変数,基本属性,身体,心理,社会・環境的な変数を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。結果 ロジスティック回帰分析を行った結果,個人活動が活発な者の特性は,外出時のからだのつらさがない,親しい友人や仲間の数が多い,活動情報をよく知っている,活動情報を教えてくれる人がいる者であった。社会参加・奉仕活動では,地域社会への態度の得点が高い,平穏でのんびり志向の得点が高い,親しい友人や仲間の数が多い,外出や活動参加への誘いがある,技術・知識・資格がある,中年期に地域とのかかわりがあった者であった。学習活動では,地域社会への態度の得点が高い,外出や活動参加への誘いがある,活動情報をよく知っている者であった。仕事では,変化や新しさを伴う活動的志向の得点が高い,技術・知識・資格がある,中年期に地域とのかかわりがあった者であった。結論 高齢者の社会活動には,身体,心理,社会・環境的な要因が幅広く関連していた。高齢者が社会活動に参加しやすい社会を構築していくためには,地域における仲間づくりや共通の関心を持つ者同士が出会ったり共に活動したりしやすいような支援や,地域の委員等が活動参加を適度に促すことなどが求められる。また,個人の側も高齢期以前から地域の活動に関心を持つなどの努力が必要であろう。
著者
岩佐 一 吉田 祐子 石岡 良子 鈴鴨 よしみ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.617-628, 2019-10-15 (Released:2019-11-09)
参考文献数
46
被引用文献数
2

目的 高齢者において,余暇活動の充実は,主観的幸福感の維持,介護予防の推進にとり重要である。本研究は,地域高齢者における余暇活動の実態を報告したIwasaら(2018)をふまえ,「現代高齢者版余暇活動尺度」を開発し,その計量心理学的特性を検討した。余暇活動に積極的に取り組む者は,認知機能が低下しにくいとされることから,余暇活動の測定尺度を開発するにあたり,認知機能との関連について検討する必要があると考えられる。本研究では,当該尺度の,因子構造の検討,信頼性の検証,基本統計量の算出,性差・年齢差の検討,認知機能との関連の検討を行った。方法 都市部に在住する地域高齢者(70-84歳)594人を無作為抽出して訪問調査を行い,316人から回答を得た。このうち,「現代高齢者版余暇活動尺度」,認知機能検査に欠損のない者306人(男性151人,女性155人)を分析の対象とした。「現代高齢者版余暇活動尺度」(4件法,11項目),外部基準変数として認知機能検査(Mini-Mental State Examination(MMSE),Memory Impairment Screen(MIS),語想起検査),基本属性(年齢,性別,教育歴,有償労働,経済状態自己評価,生活習慣病,手段的自立,居住形態)を測定し分析に用いた。当該尺度の再検査信頼性を検証するため,インターネット調査を2週間間隔で2回行い,192人(70-79歳)のデータを取得した(男性101人,女性91人)。結果 確証的因子分析の結果,「現代高齢者版余暇活動尺度」の一因子性が確認された。当該尺度におけるクロンバックのα係数は0.81,再検査信頼性係数は0.81であった。当該尺度得点の平均値は14.44,標準偏差は7.13,中央値は15,歪度は−0.12,尖度は−0.73であった。分散分析の結果,当該尺度得点における有意な年齢差が認められたが(70-74歳群>80-84歳群),性差は認められなかった。重回帰分析を行った結果,当該尺度得点は,MMSE(β=0.31),MIS(β=0.24),語想起検査(β=0.25)といずれも有意な関連を示した。結論 地域高齢者を対象として,「現代高齢者版余暇活動尺度」の計量心理学的特性(因子構造,信頼性,基本統計量,性差・年齢差,認知機能との関連)が確認された。今後は縦断調査デザインを用い,余暇活動尺度と認知機能低下や認知機能障害の発症の関連について検討していく必要がある。
著者
松岡 昌子 田中 美加
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.595-605, 2022-08-15 (Released:2022-08-04)
参考文献数
51

目的 患者ケアの質の向上や看護師の心身の健康,離職意思の低下などとの関連が示されているワーク・エンゲイジメントは,組織公平性との関連が示唆されている。そこで本研究においては看護師における主観的な組織公平性とワーク・エンゲイジメントとの関連を明らかにすることを目的とする。方法 首都圏内にある中規模病院に勤務する日本人看護師を対象とし,無記名の自記式質問票を使用したアンケート調査を行った。解析では日本語版ユトレヒト・ワークエンゲイジメント尺度得点(UWES-J)を従属変数,組織公平性尺度得点(OJS-J),年齢,性別,役職,雇用形態,勤務形態,自己効力感,ソーシャルサポート,仕事のコントロール,仕事の量的負荷を独立変数として,段階的に重回帰分析を行った。さらにOJS-Jの各下位尺度得点についても同様に段階的に重回帰分析を行った。結果 270人に調査票を配布しそのうち有効回答のあった219人(回収率83.0%)を解析対象とした。UWES-Jを従属変数とし,年齢,性別のみ調整したモデル1,加えて役職,雇用形態,勤務形態,自己効力感得点を調整したモデル2,さらにソーシャルサポート得点,仕事のコントロール得点,仕事の量的負荷得点を調整したモデル3のすべてのモデルにおいてUWES-JとOJS-Jとの間に有意な正の関連が認められた(モデル3:β=0.202, P<0.01, R2=0.363)。さらに,OJS-Jの各下位尺度得点について同様の分析を行ったところ,手続き公平性得点とUWES-Jとの間に有意な正の関連が認められた(モデル3:β=0.165, P<0.05, R2=0.383)。いずれのモデルにおいても,分配公平性得点と情報公平性得点には有意差を認めなかった。結論 病院に勤務する看護師のワーク・エンゲイジメントと組織公平性との関連を調べた結果,ワーク・エンゲイジメントと組織公平性,とくに手続き公平性との正の関連が認められた。これらより,看護師のワーク・エンゲイジメントを向上させるためには組織公平性の保持と向上が重要であることが示唆された。
著者
細谷 紀子 佐藤 紀子 杉本 健太郎 雨宮 有子 泰羅 万純
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.606-616, 2022-08-15 (Released:2022-08-04)
参考文献数
27

目的 本研究は,全国市区町村における災害時の共助を意図した平常時の保健師活動の実態とその実施に関連する要因を明らかにし,災害時の共助,すなわち住民相互の助け合いを推進するための平常時における保健師活動に示唆を得ることを目的とする。方法 2019年1月1日現在,全国市区町村(特別区含む,政令指定都市は本庁を除き各区を対象)のうち,2019年中に災害救助法の適用があった市区町村を除く,1,463市区町村を対象に郵送式による無記名自記式質問紙調査を行った。回答は統括的な役割を担う保健師に依頼した。調査項目は市区町村概要,保健師の活動体制,防災に関する活動基盤,災害時の共助を意図した活動の実施状況である。得られたデータを用いて,災害時の共助を意図した平常時の保健師活動の実施を従属変数とする多重ロジスティック回帰分析を行い,関連する要因を検討した。結果 541件の回答があり(回収率37.0%),主要な項目に欠損値があった6件を除く535件の回答を分析した(有効回答率36.6%)。保健師の活動体制は地区担当制と業務担当制の併用が81.7%,地域防災計画策定への保健師の関与有は31.6%であった。「災害時の共助を意図した平常時の保健師活動」のうち,避難行動要支援者等への「個別支援」実施有は223(41.7%),自主防災組織等の「住民組織への支援協働」実施有は186(34.8%),その他の「共助を意図した活動」実施有は160(29.9%)であった。未実施の理由は,防災対策が「事務分掌外」であること,「住民組織との接点がない」などが上位に挙がった。ロジスティック回帰分析の結果,災害時の共助を意図した平常時の保健師活動の実施には「保健師の活動体制が地区担当制であること」「地域防災計画策定への保健師の関与があること」「災害対策に関する保健師活動マニュアルの作成があること」などが有意に関連していた。結論 災害時の共助を意図した平常時の保健師活動として個別支援は4割,それ以外は3割の実施であり,十分に行われていない実態が示された。担当地区をベースにした地区活動のあり方を見直すこと,地域防災計画策定への保健師の関与と災害対策に関する保健師活動マニュアルの作成に向けた統括保健師の役割発揮および外部支援の必要性が示唆された。