著者
小川 美奈恵 森本 康彦 北澤 武 宮寺 庸造
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.265-275, 2017-02-20 (Released:2017-03-23)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本研究の目的は,ICT活用指導力の向上のための学習モデルを開発することである.教育の情報化の進展に伴い,求められているICT活用指導力の向上のために,多様なICT活用について気づきを与えられる「間違い探し」動画教材の作成と閲覧による学習モデルを開発し,その効果を明らかにするために,教員養成課程に在籍する学生と,教職大学院の現職教員に対して実践,評価を行った.評価の結果,「間違い探し」動画教材作成・閲覧前後でICT活用に関するマインドマップの有意な上昇,ICT活用指導力チェックリストの領域Bの全項目で得点の有意な上昇が認められた.また,自由記述から,教員養成課程の学生における「間違い探し」動画教材作成・閲覧だけでなく,現職教員においても「間違い探し」動画教材の閲覧を行うことで,客観的に指導について考察でき,ICT活用に関する知識を身につけさせることが可能であることが示唆された.
著者
田中 優子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.63-70, 2009-07-20 (Released:2016-08-06)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本研究では,批判的思考に影響を及ぼす要因について検討することを目的とし,大学生138名を対象に,複数の論理的に正しいとは言えない論法のタイプを含む文章を3題提示した.参加者は,自由に感想を書いてよいフェーズ,任意で批判を要求されるフェーズ,強制的に批判を要求されるフェーズにおいて文章に対する記述を求められた.その際,参加者の半数には専門家が,残りの半数には匿名の大学生が書いたと説明することによって情報ソースの信憑性を操作した.論理的に正しいとは言えない論法を指摘できているかといった観点から批判的思考得点を算出した結果,論法のタイプが批判的思考の抑制に影響を及ぼすこと,批判の要求が明示的になるに従い批判的思考は促進されることが明らかになった.また,情報ソースの信憑性の高さが批判的思考を抑制する傾向があるものの,その影響は外的要求の程度や論法のタイプによって異なることが示された.
著者
野口 聡 田中 雄也
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.42, no.Suppl., pp.033-036, 2018-12-20 (Released:2018-12-21)
参考文献数
5

本研究では,人に教える活動に取り組む生徒の意識が,学習に対する自己評価に与える影響を明らかにする.そのために,活動に取り組む生徒の意識の構成要因が,理科学習の4観点(興味・関心,知識理解,科学的思考,観察実験)の自己評価に与える影響を分析した.その結果,生徒の意識の構成要因として,「①振り返り・まとめ方」,「②自然現象との関連」,「③書き方の工夫」,「④調べ直し」の因子が抽出された.さらに,興味・関心は①,②が,知識理解は①,③が,科学的思考は②が,実験観察は①が,影響することが示唆された.
著者
河田 承子 高橋 薫 山内 祐平
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.Suppl., pp.125-128, 2013-12-20 (Released:2016-08-10)

1960年代以降,地域コミュニティの減少とマス・メディアの発達により,育児情報が主な情報提供源として大きな役割を果たしている.中でも,未就学児の教育に関する情報は頻繁にメディアでも取り上げられており,それらの内容が多くの母親の行動に影響を与えている.本研究では,未就学児の教育に関する母親の情報行動に着目し,情報収集力の違いによる,母親の情報行動・心理状態・教育観の特徴を質問紙調査を通じて明らかにした.二元配置分散分析を行った結果,能動的情報収集力および人的情報収集力が高群の母親は,育児不安が高いという結果が得られた.この事から,メディア情報だけでなく,パーソナル情報に対しても,母親が批判的に検討をする必要がある可能性が示された.
著者
高橋 純 内海 裕介
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S43040, (Released:2019-10-30)
参考文献数
3

小学校での保護者からの欠席連絡について,従来の電話の利用に加えて,ICT による連絡を行えるようにした.そこで本研究では,ICT を活用した保護者からの欠席連絡の状況を事例から明らかにすることとした.その結果,約20ヶ月間に,システムを経由して3,680件の欠席連絡が行われていた.土日や夏休みも含めて平均を求めると,1日あたり6.0件であった.曜日別,時刻別でみると,朝7時台にピークがみられ,土日や真夜中など,電話であれば連絡が難しいタイミングや,教員の勤務時間外での欠席連絡も数多くみられた.電話に代わり,本システムが活用された割合は32.4%であると試算され,教員にとっても,保護者にとっても,利便性の高い仕組みであることが示唆された.
著者
中山 迅 小牧 啓介 野添 生 安影 亜紀 徳永 悟 新地 辰朗
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S43041, (Released:2019-11-25)
参考文献数
3

改訂後の小学校学習指導要領で求められているプログラミング体験について,理科の教育目標や内容と整合しない学習活動に陥る危険性に着目し,その解決策について授業実践を通して事例的に検討した.小学校第4学年理科の「電気の働き」単元において,児童が作成・実行したプログラムについて,科学の言葉を用いた説明を行う活動を取り入れたところ,プログラムによって制御されたモーターで動く車の動作について,「電流」という言葉を用いて行う科学的な説明に向上が見られた.このことから,小学校理科の問題解決的な学習にプログラミング体験を日常生活と関連した文脈における「ものづくり」の活動として組み込むことで,プログラミング体験と理科の教育目標にそった問題解決の学習を整合的に実施できることが事例的に確認できた.
著者
中橋 雄 寺嶋 浩介 中川 一史 太田 泉
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.373-382, 2010-02-20 (Released:2016-08-06)
参考文献数
14
被引用文献数
1

本研究は,「電子黒板を活用して学習者が考えを説明する学習活動」で生じる相互作用を調査し,学習者同士の思考と対話を促すために教師が行った指導方略をモデル化して捉えることを目的としたものである.学習場面をビデオで撮影するフィールド調査により,学習者および教師の発話と行動について分析を行った.その結果,教師の指導方略として,「対話のための場を整える」,「説明方法を指導する」,「自らモデルを示す」,学習者の説明に対して「受け答える」,「思考を促す問いかけをする」といった事象のカテゴリーが生成された.そして,それらを構成する要素の中には,<提示画像を準備する><説明を書き込むよう注意する><印の付け方を注意する><色を変えて比較させる><書き込みを保存させる><立つ位置の見本を示す><身振り手振りの見本を示す>といった電子黒板を活用することによる特徴的な所作・動作を伴う事象が確認された.
著者
楠見 孝 村瀬 公胤 武田 明典
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.33-44, 2016-06-20 (Released:2016-06-17)
参考文献数
32
被引用文献数
2

本研究は,児童・生徒用一般的批判的思考態度(CT-G)と学習場面の批判的思考態度(CT-S,各10項目)を用いて,認知的熟慮性-衝動性,認知された学習コンピテンス,教育プログラムとの関係を解明した.小学校5,6年生312人,中学1,2,3年生306人に,4ヶ月間隔をおいた2回の調査を実施した.そのうち,中学1年生125人に対しては,28ヶ月後の3回目調査を実施した.1回目調査において一般的および学習場面の批判的思考態度の2尺度の信頼性を内的整合性によって確認した.さらに,構成概念妥当性を確認的因子分析,基準関連妥当性を関連尺度との相関に基づいて確認した.パス解析の結果,3回の調査いずれにおいても,(i) 熟慮性は,一般的批判的思考態度に影響を及ぼし,(ii) 一般的批判的思考態度は学習場面の批判的思考態度に影響を及ぼした.そして,(iii) 学習場面の批判的思考態度は学習コンピテンスに影響を及ぼした.最後に,教育プログラムの影響について考察した.
著者
藤木 大介 堀井 順平 二宮 由樹 外尾 恵美子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.41, no.Suppl., pp.117-120, 2018-03-01 (Released:2018-03-01)
参考文献数
10

集中力は学習において重要な役割を果たす.これまでも課題遂行中の思考状態がそのパフォーマンスに影響することが示されてきた.一方,自己の注意能力について正確に評価できる場合,不注意,多動,衝動的等注意に問題があっても選択的注意課題に優れることも示されている.このことから,集中力の劣る者でもそれを自覚化させた場合,補償的に思考状態を変化させ,課題成績が高くなる可能性がある.そこで持続的注意に関する検査の結果をフィードバックすることが思考状態や読解成績に影響を及ぼすか検討した結果,課題そのものではないが課題に関連する思考が増え,特に持続的注意の劣る参加者は読解成績が向上することが示された.
著者
胡 啓慧 野中 陽一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.137-147, 2017-09-10 (Released:2017-09-29)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究は,事前学習を前提とした発表聴講及び討論から構成される輪読式学習において,授業外学習及び討論の充実を目指し,深い学習を促すための改善を試みた.対面学習を基本とした輪読式学習に,発表聴講と討論をオンラインで行うオンライン学習と,発表聴講はオンラインで事前に行い,討論は対面で行う反転学習の二つの学習形態を部分的に組み入れ,3つの学習形態が深い学習に及ぼす影響について分析した.3つの学習形態の授業前後の学習アプローチ得点に対する分散分析,対面討論及び電子掲示板での討論に対する記述分析及びインタビュー分析により,輪読式学習をオンライン学習及び反転学習で行うことは深い学習を促す可能性が示唆された.そして,オンライン学習では知識の整理や発言の見直しが行われ,全体論的な理解が深まる可能性があり,反転学習では学習者の主体性や理解度といった個人差に対応できる可能性が示唆された.
著者
植阪 友理 鈴木 雅之 清河 幸子 瀬尾 美紀子 市川 伸一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.397-417, 2014-02-20 (Released:2016-08-10)
被引用文献数
4

全国学力調査の結果などを受け,教育現場では日本の子どもの学力について,「基礎基本はおおむね良好,活用に課題」と論じられることが多い.しかし,認知心理学を生かした教育実践では,基礎基本が必ずしも十分ではない可能性が指摘されている.そこで本研究では,これらの実践的な知見や認知心理学を参考に開発された,構成要素型テストCOMPASS(市川ら2009)を中学2年生682名に実施し,もし一般的な社会の認識とは異なり,基礎基本が十分なのではないとするならば,特にどのような学力要素が不十分であるのかという実態について検討した.また,調査対象となった生徒の数学担当教師15名に,中学2年生にとって「十分満足」「やや不十分」「極めて不十分」と考えられる基準を評定するよう求めた.教師が評定した基準と,COMPASSの実施結果を比較した結果,数学的概念の不十分さ,基本的な文章題において演算を迅速に決定する力の弱さ,問題解決方略を自発的に利用する力の不十分さなどに課題があることが明らかとなった.これらの結果は,日本の子どもの学力に対する従来の捉え方に再考を促すものである.
著者
平山 るみ 楠見 孝
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.41, no.Suppl., pp.205-208, 2018-03-01 (Released:2018-03-01)
参考文献数
8

批判的思考を発揮するために必要とされる能力や態度が,対立した情報から結論を導き出す際の情報参照行動にどのように影響するか検討した.大学生44名に,まず批判的思考能力尺度,批判的思考態度尺度を実施し,その後,トピックへの事前信念尺度評定,情報参照課題を実施した.情報参照課題では,参加者は対立する情報を自由に参照でき,それらの情報に基づいて結論を導出した.そして,このとき,情報を参照した回数や時間を記録した。その結果,批判的思考能力が高い者は,対立する情報のうち事前信念と不一致な情報をより長く参照していた.最後に,批判的思考能力が高い者は,信念と不一致な情報をより詳細に吟味したことについて考察した.
著者
椿本 弥生 高橋 薫 北村 智 大辻 雄介 鈴木 久 山内 祐平
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.255-267, 2013

日本語母語話者の高校生を対象に,日本語で産出した小論文をグループで協同推敲できるシステム「Re:(アール・イー)」を開発した.推敲の観点として内容・構成・言語使用の3つを設定した.グループの構成員が得意とする観点がそれぞれ異なる実験群と,得意とする観点が統一された統制群とで,システム使用前後の小論文の得点を比較した.その結果,全体的評定値については,実験群のシステム使用後で有意に得点が高かった.さらに分析的評定値では,論拠の質などの小論文の質に深く関わる評価項目について実験群のほうが統制群よりも有意に得点が高かった.プレとポストの得点差において,統制群よりも実験群のほうが,各グループで一定に近かった.このことから,提案するグループ編成方法がより多くの学習者に一定の学習効果を保証できる可能性が示唆された.
著者
木幡 敬史 図子 泰三 森 薫 玉村 雅敏 金子 郁容
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, no.Suppl., pp.169-172, 2008-02-10 (Released:2016-08-04)
参考文献数
5

本研究チームは,都道府県レベルで実施する学力テストを対象に,各校にて行ったテスト結果を効率的に集計・収集する手法と,各校や教育委員会(県・市町村)において,役割に応じた分析が可能となる手法について研究し,「学力テスト分析システム」の条件定義と実装をした.その上で,実際の教育現場における改善に活用できるよう,岩手県教育委員会と共同で運用をした.本論文では,システムの条件定義,実装概要,運用状況について述べる.
著者
三島 知剛
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.107-114, 2007-05-20 (Released:2016-08-04)
参考文献数
16
被引用文献数
6

本研究は,教育実習の効果を検討する上で重要だと考えられる授業イメージ・教師イメージ・子どもイメージが教育実習前後でどのように変容するのかを調べることを主な目的とし,教育実習生114名を対象に実習前後で質問紙調査を実施した.その結果,(1)授業イメージは4因子が抽出され,「マンネリズム」「組み立て」が変容し,授業を肯定的,主体的に捉えるようになったことが示された.(2)教師イメージも4因子が抽出され,「リーダー」が変容し,教師の役割理解が深まることが示された.(3)子どもイメージは6因子が抽出され,「創造性・積極性」「悲観的・不信」「現実的態度」が変容し,ステレオタイプではなくポジティブ・ネガティブ両面から子どものありのままの姿を多面的に捉えるようになることが示唆された.
著者
備瀬 美香 伊藤 智子 鈴木 雅之
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.129-139, 2018-10-30 (Released:2018-10-30)
参考文献数
52

本研究では,英語学習方略の中でも英文読解方略に焦点を当て,英文読解方略について指導された経験(被指導経験)と方略使用の関連について,個人内相関に着目して検討した.また,被指導経験と方略使用の関連の個人差を説明する要因として,読解意欲と自己効力感に着目した.中学3年生127名を対象に質問紙調査を行い,マルチレベル分析を行った結果,指導された経験の多い方略ほど,生徒はよく使用する傾向にあることが示された.また,これらの関連には個人差があり,読解意欲の高い生徒ほど,指導された方略を使用する傾向が強いことが示された.ただし,被指導経験の効果は非常に大きいのに対し,読解意欲の効果は小さいものであった.したがって,教育実践においては方略指導を行うことが重要であり,読解意欲を向上させるための取り組みも同時に行うことで,より一層の効果がみられる可能性が示唆された.
著者
平山 るみ 田中 優子 河崎 美保 楠見 孝
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.441-448, 2010-02-20 (Released:2016-08-06)
参考文献数
27
被引用文献数
7

本研究では,批判的思考を支える能力を測定するための尺度としてコーネル批判的思考テスト・レベルZ(ENNIS et al.1985)を用いて,日本語版批判的思考能力尺度を構成した.まず,コーネル批判的思考テスト(ENNIS et al.1985)を日本語に翻訳し,その内的整合性および難易度を検討した.さらに,批判的思考態度尺度,および認知能力としての知能を測定する京大SXとの関係性を検討した.大学生43名に対し,批判的思考能力尺度,批判的思考態度尺度,認知能力尺度を実施した.そして,批判的思考能力尺度について検討した結果,尺度の内的整合性が得られ,課題の難易度は適切であることが確認された.また,批判的思考能力尺度得点と言語性の認知能力尺度得点との間には正の相関がみられ,この尺度には言語能力が関わることが示された.そして,批判的思考能力尺度と情意的側面を測定する批判的思考態度尺度とは,関係性がみられず,それぞれ独立した尺度であることが示された.
著者
辻 義人 杉山 成
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.Suppl., pp.45-48, 2017-01-15 (Released:2017-03-06)
参考文献数
7
被引用文献数
1

大学教育の質保証の手段として,アクティブラーニング(以下,AL)への注目が高まっている.AL形式の授業では,多方向的かつ学生の自主的な学びが重視された活動が行われている.本研究では,同一科目について,従来の座学形式と,AL形式で開講したとき,どのように履修者の自主学習への態度や行動,授業内容の理解度に違いが見られるのかに注目し,比較を行った.その結果,以下の2点が明らかになった.①AL形式において学習者の自学自習の意欲が高く,実際に自学自習が行われている.②両形式間において,最終的な理解度に差は見られない.しかし,AL形式の授業では,自学自習への動機づけが維持される効果が期待される.
著者
植野 真臣 宇都 雅輝
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.169-182, 2011-12-20 (Released:2016-08-08)
参考文献数
29
被引用文献数
7

本研究は,他者からの学びを誘発するeポートフォリオ・システムの開発を目的とする.本システムの特徴は,(1)個人のeポートフォリオを構造化し,ハイパーリンクでつなぐことにより,多様なパスで有用な他者情報の発見を支援する,(2)高度な検索機能により,キーワード検索,過去の優秀なレポートやテスト成績の良い学習者,相互評価の高い学習者などを容易に検索できる,(3)すべての階層でのアセスメント機能として,テスト,ピア・アセスメント,セルフ・アセスメント,教師推薦によるベストプラクティス,他者からのコメント入力やリンク付けなど多様な手法が用意されており,自己のリフレクションを誘発するだけでなく,優秀な他の学習者の発見に利用できる,などが挙げられる.実データより,本システムが他者からの学びを誘発し,持続学習への動機向上と深い知識の獲得を支援できることを示す.
著者
須田 昂宏
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.40083, (Released:2017-02-03)
参考文献数
27
被引用文献数
2

本論文では,大学授業の実態把握のためのツールとして,リアクションペーパーの記述内容に基づく学生の学びの可視化手法を開発した.「学びの具体性の保持」と「分析手続きの定式化」を重視し,中道らの「中間項」を参考とした.「中間項」は元のテキストデータを原文の具体性を保ちつつ構造化されたデータに変換するというものであり,学習を「直接的な学習対象」と「間接的な学習対象」からなるものとして捉えるマルトンの学習論に依拠する形でリアクションペーパーの記述内容を構造化されたデータに変換し,クロス集計表に整理し,コレスポンデンス分析とバブルチャートを適用することによって,「学生」と「学びの類型」の関連構造や「授業トピック」と「学びの類型」の関連構造を可視化することを可能にした.さらにはこれを多様な授業に試験的に適用することで,各授業固有の学びの特徴が明らかになると同時に,本可視化手法の有効性が示された.