著者
竹内 健 山田 哲弘 鈴木 康夫
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.7, pp.1244-1250, 2015-07-05 (Released:2015-07-05)
参考文献数
25

クローン病は慢性炎症性腸疾患であり,病変は肛門病変を含め消化管に非連続性に発生する.若年者に多く発症し,経過も長いことから反復して画像検査を行う必要がある.生物学的製剤などが導入され治療方法が多様化することにより,病態把握のためにより詳細な画像評価が求められているが,被検者の身体的負担もできる限り軽減する必要がある.CT enterographyは腹部~骨盤部を一度に俯瞰できるだけではなく,腸管壁や腸管外病変も評価でき,空間・時間分解能の高い横断的画像検査方法としてクローン病の診断に非常に有用である.一方,X線被曝の低減化のためには,低線量CT導入や厳密な適応判断が求められる.
著者
武藤 泰敏 大森 正英 園田 隆也 石川 淑郎
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.545-556, 1975 (Released:2007-12-26)
参考文献数
41

アルコールの量-反応関係 (dose-response relationship) にもとづいて, アルコール性肝障害の発生を検討した. そのさい総アルコール摂取量 (total alcohol intake: TAI) と血清γ-GTP活性を指標とした. 肝疾患既往のない飲酒者 (social drinkers) ではTAIと血清γ-GTP活性とは正相関4)を示すが, 一方, 慢性アルコール症患者 (chronic alcoholics) においては逆に負相関 (r=-0.4999, P<0.001) が観察された. そこで, TAIと血清 γ-GTP 活性との関係から, 慢性アルコール症患者を"good"と"poor" responder とに類型化し, しかも両型の主な臨床的特微をあげた. そしてアルコール性肝障害の発生をアルコール摂取に対する個体反応の差 (personal sensitivity) から観察することの重要性を強調した.
著者
浜本 哲郎 大谷 正史 松本 栄二 堀 立明 鶴原 一郎 八島 一夫 磯本 一
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.114, no.12, pp.2134-2141, 2017

<p>症例は42歳,男性.禁煙後に血便が出現し潰瘍性大腸炎と診断された.5-ASA,プレドニゾロンの投与で寛解導入したが減量にともなって再燃し,強力静注療法,白血球除去療法,抗TNF-α製剤,タクロリムスなどで加療したが,寛解導入できなかった.ところが,喫煙の再開で血便は消失し,内視鏡的にも粘膜治癒を確認した.禁煙後に発症し,喫煙の再開で寛解に至ったことから,ニコチンや一酸化炭素を介した抗炎症作用が考えられた.</p>
著者
三池 忠 田原 良博 山口 由美 原田 拓 安倍 弘生 楠元 寿典 沼田 政嗣 蓮池 悟 山本 章二朗 児玉 眞由美 永田 賢治 林 克裕 下田 和哉
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.105, no.9, pp.1362-1366, 2008 (Released:2008-09-05)
参考文献数
11
被引用文献数
1

症例は66歳男性.潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis; UC)を合併したC型慢性肝炎(chronic hepatitis(C); CH(C))に対して,インターフェロン(interferon; IFN)βの投与を行った.投与前の内視鏡的重症度は中等度であったが,投与開始後8週間で内視鏡的重症度は軽度となった.しかしIFN投与終了後は再び内視鏡的重症度は中等度となり,増悪を認めたため,IFN投与にて潰瘍性大腸炎が改善したと考えられた.
著者
秋穂 裕唯 中村 和彦
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.111, no.7, pp.1353-1358, 2014-07-05 (Released:2014-07-05)
参考文献数
32

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome;IBS)の薬物療法について概説した.薬物療法は食事と生活習慣を指導した後に,消化管主体の治療を行う.第1選択薬としてプロバイオティクス,高分子重合体,消化管機能調整薬を使用する.症状の改善が不十分な場合は,症例ごとに優勢な症状に対して止痢薬,抗コリン薬,下剤などの薬物を追加する.また5-HT4刺激薬,抗アレルギー薬,漢方薬,抗うつ薬,抗不安薬も治療効果を有する.近年有効性の高い男性下痢型IBSに対する5-HT3拮抗薬,便秘型IBSに対するCIC-2賦活剤が登場した.IBSの病態機序のさらなる解明と治療薬の開発が期待される.
著者
鈴木 康夫
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.109, no.3, pp.378-385, 2012 (Released:2012-03-05)
参考文献数
13

Granulocyte and Monocyte Adsorption(GMA)は,本邦で開発・臨床応用された薬剤投与によらず抗炎症効果を発揮し高い安全性を有するユニークな療法で,潰瘍性大腸炎(UC)同様クローン病(CD)においても寛解導入療法の1つとして実施可能となった.しかし,汎用されているUC症例に比べ,CD症例におけるGMAの意義や最適な適応症例と実施時期に関しての検討はいまだ十分とはいえず,今後解決すべき課題と考えられる.われわれの多施設共同研究による検討では,発症早期の比較的軽症例に対しGMAを実施することで寛解導入率の向上に寄与する可能性が推測された.また,CD治療の中心的薬剤である抗TNF-α抗体製剤にGMAを組み合わせる治療法の有用性に関しても今後検討すべき課題の1つと考えられた.
著者
坪内 博仁
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.110, no.12, pp.2033-2041, 2013 (Released:2013-12-05)
参考文献数
30

私たちは,劇症肝炎患者血漿より肝再生因子である肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor;HGF)を初めて単離精製し,そのcDNAのクローニングにも成功した.HGFは728アミノ酸残基からなる一本鎖のポリペプチドとして産生され,シグナルペプチドが外れて細胞外に分泌され,HGF activatorなどのプロテアーゼによりプロセシングを受けて活性型になる.HGFは細胞増殖促進作用だけでなく,細胞分散促進作用,腫瘍細胞障害作用,抗アポトーシス作用,抗線維化作用など多機能な生理活性を有する.HGFの特異的受容体は癌原遺伝子産物c-Metであり,細胞内にチロシンキナーゼドメインを持つ,いわゆるチロシンキナーゼ型受容体である.HGFの多機能な生理活性は,すべてこのc-Met受容体を介して発現する.HGFはD-ガラクトサミン肝炎を抑制し,Jo2誘導急性肝不全モデル動物の生存率を高める.私たちは多くの非臨床試験を実施し,HGFの薬効や安全性を確認したのち,京都大学探索医療センターにおいて劇症肝炎および遅発性肝不全患者を対象として,わが国で初めての未承認薬を用いた医師主導治験を実施した.4例の劇症肝炎および遅発性肝不全患者に組換え型ヒトHGFが投与され,限定的ではあるもののその安全性が確認された.その成果を踏まえ,現在,日本科学技術振興機構の支援を受け,急性肝不全薬としての開発が進められている.
著者
中島 淳 本多 靖 結束 貴臣 小川 祐二 今城 健人
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.11, pp.1966-1972, 2015-11-05 (Released:2015-11-05)
参考文献数
6

腸内細菌はNASH病態の1st-hitである単純性脂肪肝において,リポ蛋白リパーゼの活性化などを介して肝臓や脂肪組織に脂肪蓄積を増加させ,脂肪肝の形成に重要な役割を果たす.また,NASH病態の2nd-hitである肝炎の病態形成では腸内細菌は,1)腸内細菌の質的量的異常,2)腸管透過性亢進,3)肝臓におけるエンドトキシン応答性亢進,の3つの機序で重要な役割を果たすと考えられている.治療においては種々のプロバイオティクス,プレバイオティクスの投与が有効であることが臨床試験で示されている.今後はNASH病態に強く関与する腸内細菌の同定と治療への応用が求められている.
著者
中村 太一 斎藤 聡 池田 健次 小林 正宏 鈴木 義之 坪田 昭人 鯉田 勲 荒瀬 康司 茶山 一彰 村島 直哉 熊田 博光
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.94, no.3, pp.157-162, 1997-03-05 (Released:2011-06-17)
参考文献数
12

従来より肝性脳症合併肝硬変症例では頭部MRIT1強調画像にて淡蒼球に高信号域を認めるとされる. 今回各種慢性肝疾患で頭部MRIを施行し若干の知見を得た. T1強調画像の淡蒼球の高信号は慢性肝炎では21例中1例 (4.8%), 肝硬変では41例中32例 (78%) に出現し, Child分類別ではA59%, B78%, C100%であり, 出現率は肝機能と相関がみられた.この所見は経過観察により不可逆性であった.さらに脂肪抑制画像では高信号域はより明瞭となり, その原因が脂肪沈着でないことが示唆された. MRIの所見は慢性肝炎ではほとんどみられず, 肝硬変では脳症を発症する以前より病変を認め, 慢性肝疾患の重症度の予測に役立つと考えられた.
著者
太幡 敬洋 峯 信一郎 飯田 武 岸川 博文 田中 良哉
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.103, no.1, pp.23-29, 2006 (Released:2006-01-12)
参考文献数
21
被引用文献数
3

症例は多飲歴を有する47歳の男性.腰痛,全身倦怠感を主訴に当院受診.肝機能障害および炎症反応を認め,経過中DICを併発した.MRIにて第2, 3腰椎に化膿巣と両側腸腰筋に波及した膿瘍形成が認められ,血液培養で黄色ブドウ球菌を検出した.化膿性脊椎炎と腸腰筋膿瘍と診断.抗生剤投与による保存的治療法で軽快した.肝硬変では,まれに化膿性脊椎炎,腸腰筋膿瘍の合併例を認めることがあり貴重な症例と考えられた.
著者
重福 隆太 松永 光太郎 田村 知大 小澤 俊一郎 松尾 康正 高橋 秀明 松本 伸行 奥瀬 千晃 鈴木 通博 伊東 文生
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.113, no.2, pp.263-272, 2016-02-05 (Released:2016-02-05)
参考文献数
30
被引用文献数
1

今回,口腔内常在菌であるStreptococcus intermediusによる化膿性肝膿瘍を経験し,その感染経路の検索で早期胃癌を診断した.胃低酸状態ではStreptococcusを中心とした胃細菌叢が形成され,さらに糖尿病,高齢など粘膜免疫低下を呈する病態が存在する場合,上部消化管疾患が細菌の侵入経路となる可能性があり十分に留意すべきである.
著者
太田 昌徳 石黒 昌生 岩根 覚 中路 重之 佐野 正明 土田 成紀 相沢 中 吉田 豊
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.51-57, 1985 (Released:2007-12-26)
参考文献数
13
被引用文献数
2

大腸疾患 (大腸ポリープ, 大腸憩室) 発生に対する食物繊維の抑制効果をみるため, 弘前市およびその近郊の市町村にて, 大腸ポリープ50症例, 大腸憩室33症例の食事調査を国民栄養調査方式にのつとり施行した. 対照は国民栄養調査実施家庭とし, 3群の食物繊維摂取量の比較検討を行なつた. その結果3群の1日当りの食物繊維摂取量は大腸ポリープ群18.2±5.44g, 大腸憩室群17.4±5.07g, 対照群21.1±6.57gで疾患群が対照群より有意に少なかつた. また大腸ポリープ群, 大腸憩室群の間に差はみられなかつた. 成分別では疾患群, 対照群の間でヘミセルロース, セルロース量に有意差が認められたが, リグニン量には差がなかつた. 以上の結果より食物繊維摂取量の増加が大腸ポリープ, 大腸憩室の発現を抑制する効果があると示唆された.
著者
武田 宏司
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.111, no.6, pp.1058-1070, 2014-06-05 (Released:2014-06-05)
参考文献数
85

機能性ディスペプシア(FD)は,慢性的に上腹部愁訴を呈するものの器質的疾患を認めない疾患群である.FDの病態として,胃排出遅延,知覚過敏,胃適応性弛緩障害などの関与が指摘されてきたが,最近では脳腸相関の関与が注目を集めている.脳機能画像を用いた研究により,FDでは脳内の侵害情報の処理機構に構造的・機能的異常が生じていることが明らかになっており,その原因として幼少時期の強いストレスの関与が示唆されている.一方,胃十二指腸領域に限定して不快な自覚症状が発生する原因として,消化管感染症を基盤とした十二指腸の慢性炎症によって脂肪や酸に対する知覚過敏が引きおこされるというプロセスが明らかになりつつある.
著者
岩田 啓子 杉本 優弥 東 勇気 月岡 雄治 桐山 正人
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.114, no.8, pp.1454-1459, 2017-08-05 (Released:2017-08-05)
参考文献数
17

症例は21歳男性.新生児期に食道閉鎖症と診断され,開腹手術下に胃瘻を造設された.経口による栄養摂取が可能となった生後7カ月に胃瘻カテーテルを抜去され自然閉鎖したが,21歳時に瘻孔閉鎖部位が再開通し唇状瘻を形成した.唇状瘻からの胃内容物の流出が多く,受診時には瘻孔周囲に皮膚びらんを形成していた.確実で再燃のない治療方法として開腹手術による瘻孔切除術を選択し施行した.術後は問題なく学生生活を送っている.
著者
菅野 健太郎
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.106, no.3, pp.321-326, 2009 (Released:2009-03-05)
参考文献数
20
被引用文献数
1

非ステロイド消炎薬(NSAID)ならびに低用量アスピリン(LDA)による消化管障害が,全国的に重篤な合併症を引きおこしていることが,日本消化器病学会における発表や各地域の論文で報告され,とくにNSAIDやLDAが消化管出血のリスクを高めることはわが国でも確認されている.これらの薬剤による重篤な消化管合併症をきたす患者の多くは高齢者であり,その予防対策が喫緊の課題となっている.この問題の重要性に鑑み,現在NSAIDやLDAの消化性潰瘍発症に対する予防試験が進行中である.本総説では,NSAIDならびにLDAによる消化管障害と予防に関するわが国の現状を述べ現段階で可能な対策について考察する.
著者
佐藤 慎一郎 稲葉 宏次 小穴 修平 三浦 雅憲 近藤 公亮 滝川 康裕 鈴木 一幸 上杉 憲幸 増田 友之 久喜 寛之
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.102, no.5, pp.595-599, 2005 (Released:2005-06-14)
参考文献数
15

症例は68歳男性.1996年より無症候性原発性胆汁性肝硬変の診断で通院中であった.2002年10月麻痺性腸閉塞の診断で入院,内科的治療で改善したが同時に四肢,体幹の筋萎縮と四肢の筋力低下を認めたため精査を行った.筋生検でragged-red fiberを認め,ミトコンドリア脳筋症の診断となった.原発性胆汁性肝硬変とミトコンドリア脳筋症の合併は過去に報告はなく極めてまれである.両者の合併に関連性があるかは不明であるが,抗ミトコンドリア抗体(anti-mitochondrial antibody;AMA)がミトコンドリア脳筋症の発症やその後の経過に影響を与えた可能性は否定できず,AMAの病因論的意義を考える上で興味深い症例と思われた.
著者
海野 倫明
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.112, no.12, pp.2113-2118, 2015-12-05 (Released:2015-12-05)
参考文献数
12

膵癌は最も治療成績の不良な癌であるが,近年の癌化学療法の発達により,少しずつ治療成績が向上してきた癌でもある.外科治療においては,5つのランダム化比較試験によって拡大手術はほぼ否定され,現在,標準郭清が推奨されている.術後S-1による補助化学療法も標準療法としてほぼ確立されたといえよう.現在,さらなる治療成績の向上を目指し術前治療が注目され多くの施設で行われているが,いまだエビデンスとして確立されたものはないため,術前治療は臨床研究として行われるべきである.現在,切除可能膵癌に対する術前治療の有効性・安全性の第III相臨床研究が行われている.その結果を緒としてさらなる臨床研究により,膵癌の外科治療成績向上がもたらされるものと考える.
著者
岡本 宏明
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.106, no.2, pp.177-187, 2009 (Released:2009-02-05)
参考文献数
54
被引用文献数
2

E型肝炎はアジア·アフリカの流行地域に限らず,先進国を含め広く世界各地で発生している.わが国でも3型や4型の土着HEV株による散発性E型肝炎は古くからあったが,今世紀に入ってその存在が認識された.国内の飼育ブタでHEV感染が蔓延している事実が明らかになるとともに,ブタや野生動物の肉·内臓摂食後の発症事例や劇症肝炎による死亡例の存在もあって,E型肝炎がにわかに注目を集め,診断や疫学に関する研究が急速に進んだ.その結果,本症における動物由来感染(zoonosis)の重要性が,わが国において,世界に先駆けて認知された.加えて,効率的な感染培養系も確立され,HEVのウイルス学も急速に進展しつつある.