著者
鍋田 智広 楠見 孝
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.13-13, 2008

我々の記憶容量が膨大であることは古くから知られている。例えば,多くの項目が呈示されても被験者は高い割合で正確に再認することができる。しかし,この実験結果は視覚以外のモダリティではまだ明らかにされていない。そこで本研究では触覚における記憶容量をとりあげ,その学習モダリティへの固有性と,記憶容量に関するメタ記憶とについて検討した。実験では,被験者に100項目もしくは500項目の日用品を触覚学習させた後に触覚あるいは視覚で再認テストを行い,その後被験者自身の再認成績を推測させた。その結果,どちらの実験においても高い再認成績が示されたものの,触覚テストの方が視覚テストよりも再認成績が高く,かつ再認成績の推測も正確であった。これらの結果は,触覚の記憶容量とそのメタ記憶とが,触覚に固有の記憶に依存することを示唆している。
著者
斎川 由佳理 仁平 義明
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.47-47, 2015

  記憶を補助する外部手段として「手に直にメモを書く行動」について,なぜ ある人はこの手段を用いて,ある人は用いないか,大学生を対象とした質問紙調査によって,その要因をパーソナリティ要因も含めて総合的な視点から分析を行った。その結果,「手にメモをする行動」をとる群の人ほど,他のいくつかの「し忘れ防止手段」も併用していることが明らかになった.また,ビッグ・ファイブ・パーソナリティの要因については,メモ経験群は,ものごとに現実的に対応する傾向である,「経験への開放性」のスコアが有意に高い傾向があった.すべての結果を総合すると,手にメモをするのは,その人が失敗回避傾向がある気の弱い人だからというよりは,「確実に予定を果たそうとする現実的な行動をとる人」だからというべきだと考えられた.
著者
吉永 綾子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.86-86, 2009

商品について消費者が発信する口コミ情報は、多額の費用を割いて行う企業の広告よりも強い影響力を持つ場合がある。しかし、この口コミ情報がどのような要因によって消費者に強い影響を与えているのかは未だに明確にはされていない。口コミ情報の影響の受信者側の要因として対人影響力があると考えられる。Bearden, Netemeyer, and Teel (1989)の調査において、消費行動における対人影響力に対する鋭敏さについて12項目の質問が有効であるとされた。本論文ではMourali, Laroche, and Pons (2005)の手順に準拠しながら英語の質問項目を正確に日本語訳し、日本人を対象とした調査を行う。その際に、性格特性および口コミ利用を調べるための項目も設け、それらとの相関を調査する。
著者
清河 幸子 手塚 聡
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

本研究では,酢,醤油,砂糖から構成される調味料を材料として,言語的符号化が味の記憶に及ぼす影響を検討した。具体的には,32名の大学生に対して,ターゲットとなる調味料の味を記憶するよう求めた後,一方の群では,その調味料の味について言語的に記述することを求めた。もう一方の群では,味とは無関係なクロスワードパズルを解くよう求めた。その後,強制2肢選択型の再認課題を実施し,判断に対する確信度を7段階で回答するよう求めた。なお,ターゲットとディストラクタの類似度の影響を検討するために,砂糖の量を操作し,両者の類似度が高い条件と低い条件の2条件を設定した。結果として,ターゲットとディストラクタの類似度にかかわらず,正しい判断を行った場合の確信度が言語的符号化を行った群で有意に低くなることが示された。この結果は,味を言語的に捉えることがその記憶を妨害することを示唆するものとして解釈された。
著者
三好 清文 蘆田 宏
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.12-12, 2015

We investigated the effect of processing fluency induced by spatial cueing on recognition memory judgments. Participants memorized pictures of everyday objects, and their spatial attention was manipulated in a Remember/Know recognition memory test. Stimulus location was either predicted (valid condition) or unpredicted (invalid condition) using an arrow cue. The results revealed that familiarity-based false recognition increased in the invalid condition. In the invalid condition, participants may have attributed part of the perceived disfluency to the spatial cue and overestimated the fluency for the stimulus, leading to increased false recognition. In contrast, in the valid condition, participants may have attributed some parts of the perceived fluency to the spatial cue and underestimated the fluency for the stimulus, leading to decreased false recognition. In short, spatial cueing induces reasoning about the source of fluency and biases recognition memory.
著者
本間 元康 小山 慎一 長田 佳久
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.52-52, 2007

本研究では、ラバーハンドと自身の手の向きが不一致の場合(例えばラバーハンドは甲が上向きで自身の手は平が上向きの場合)、視知覚が触知覚にどのように反映されるかを検討した。参加者の左手を自身から見えないように置き、鏡映された右手のラバーハンドを観察させた。ラバーハンドと自身の手の向きが一致している場合、視覚刺激(赤色光)を提示した部位に触知覚が体験され、視覚刺激のみで触知覚が生じることを確認した。しかし不一致の場合、例えば自身の左手平側を上にした状態でラバーハンドの右手甲側の親指に視覚刺激を与えた場合、参加者は平側の小指に触知覚を感じるという奇妙な現象を体験した。すなわち、鏡の中で刺激されている部位と空間的に対応する部位に触知覚が生じた。これらの結果は視覚情報によって触知覚が引き起こされる際、視覚的な位置情報と実際の手の体性感覚的な位置情報(手の指、平・甲)が統合されていることを示唆する。
著者
須藤 昇
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

漢字2字からなる漢字対を提示し、被験者に熟語であるか否か判断を求めた。ある熟語が2, 4, 8, 16, 32試行を置いて2度提示される場合、エラー率が低下し反応時間が短縮した。この結果は熟語の活性化が長く持続することを意味している。また、語彙データベースを用いて、個々の漢字が熟語の1文字目に出現する割合(初頭率)を算出した。熟語の2文字目の漢字の初頭率が高い場合にエラーが増すが、この傾向はプライミング効果とは独立であることが示された。
著者
中山 友則 兵藤 宗吉
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.127-127, 2011

本研究では出来事の呈示,事後情報の呈示,記憶テストの3段階から成り立つパラダイムである事後情報効果パラダイムを用いた。本研究の目的は事後情報について思い出すことで,その後のソースモニタリングにどのような影響を及ぼすかを検討することであった。実験では事後情報呈示後に,その事後情報についての詳細な自由再生を求めた。その後,記憶テストとしてソースモニタリングテストを実施した。その結果,事後情報の自由再生を行った条件は自由再生の無かった統制条件と比較して,特に事後情報で与えられた誤情報を事後情報で読んだとするソースモニタリングが困難になった。しかしながら,誤情報を出来事で見たとするエラーについては統制条件と有意な差が見られなかった。これは,誤情報を見ていないとする判断が増加したことを意味する。事後情報についての詳細な再生により,誤情報に対しては検索誘導性忘却を引き起こした可能性が考えられる。
著者
山田 恭子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.66-66, 2010

従来,環境的文脈を復元すると,正しい記憶が増えると言われてきた。一方で,環境的文脈の復元が誤った記憶にどのように影響するのかは,まだ不明瞭である。この問題は目撃記憶正確性に関連してくる問題といえる。そこで,本研究では,環境的文脈の復元が目撃者の正再認と虚再認に及ぼす影響について調べた。環境的文脈は模擬犯行場面の映像の呈示の有無で操作した。学習時に模擬犯行場面の映像を提示した10分後,犯人の特徴等に関する再認テストを行った。そのとき,同文脈条件では,学習時の映像から人物やその所持品を除いた静止画を見ながら回答を行った。異文脈条件では画像の呈示はなかった。その結果,正再認率は環境的文脈の復元の効果はなかった。一方,虚再認率は,同文脈条件において異文脈条件よりも高かった。このことから,環境的文脈が復元されると,実際に見なかったものも誤って「見た」と判断してしまう可能性が高くなることがわかった。
著者
漁田 武雄 漁田 俊子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.98-98, 2008

BGMの熟知性(既知,未知)×文脈(同文脈,異文脈)の4群に,大学生96名をランダムに割り当てた。各大学生は個別に実験参加した。教示につづいて,24個の漢字2文字熟語を,4個ずつ6回に分けて,各々30秒間コンピュータ画面に提示した。大学生は4つの熟語を用いた文を作成し,口頭報告した。作文の際に,各条件に対応するBGMを流した。作文が終わるとBGMを止め,コンピュータ画面に背を向けさせた。そして連続加算課題を5分間行わせた。つづいて,作文で使用した熟語の自由再生を行わせた。その際,SC条件では作文時と同じBGM,DC条件では作文とは,同じ熟知性で異なるBGMを流した。総再生数および,各熟語群からの第1反応数のいずれにおいても,文脈の主効果のみが有意で,熟知性の主効果と交互作用は有意でなかった。以上,これまで未知楽曲でのみ報告されていたBGM文脈依存効果が,既知楽曲でも生じることを見いだした。
著者
後藤 靖宏
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.142-142, 2009

ある楽器の演奏者が音楽を聴取する際,自身が演奏や訓練において長期間たずさわってきた楽器の音色を自発的に選択的聴取しているのかを実験的に検証した.ホルン奏者,ホルン以外の楽器奏者および楽器非経験者に対し,トランペット,ホルンおよびテューバで構成される金管楽器3重奏の旋律と,その旋律を音色ごとに変化させた旋律とを用いて再認課題を課し,3者の成績を比較した.その結果,ホルン奏者のみがホルンの旋律を変化させた課題の正答率が最も高かった.旋律聴取に際して特定の音色への注意喚起などをしなかったことを考えると,今回の結果は,楽器の演奏者が,自身が演奏している楽器の音に対して自発的に選択的聴取をしている可能性を示していると考えられる.
著者
菊地 史倫 佐藤 拓
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.135-135, 2010

日常的な葛藤場面において、嘘の内容(生起確率低の嘘・生起確率高の嘘)と嘘の露見(露見前・露見後)が弁解の効能の認知に与える影響を検討した。150人の大学生は、自分の遅刻理由を偽った弁解をするが最終的にその嘘が露見してしまう状況のシナリオを読んだ。そして、参加者は嘘露見前後に弁解を聞いたときの相手の怒り、弁解の効能(ゆるし・制裁行動)と信憑性について評定した。その結果、嘘露見前は嘘の内容に関わらず相手の怒りを低く、遅刻に対するゆるしを高く、制裁行動を低く評価した。その一方で、嘘露見後は嘘の内容に関わらず相手の怒りを高く、遅刻に対するゆるしを低く、制裁行動を高く評価した。また、嘘露見前は生起確率低の嘘よりも生起確率高の嘘の信憑性が高く評価されたが、嘘露見後は内容に関わらず信憑性が低く評価された。これらの結果から、嘘が弁解として機能するためには嘘が露見しないという前提が必要なことが示された。
著者
田中 孝治 加藤 隆
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.138-138, 2010

津波や土砂崩れのような予測が可能な自然災害の場合には,避難情報などによる避難誘導が重要な役割を果たす。しかし実際には,避難情報に従う住民が極めて少ないという事例が報告されている。このことから,住民に適切な意思決定と行動を促すことができる避難情報が必要であると考える。そこで本研究では,避難情報が避難準備情報,避難勧告,避難指示へと段階的に発令されることに着目し,避難情報の段階が一段引き上げられたことを明示することが,避難行動をとるべきか否かの判断にどの程度影響を及ぼすかについて検証を加えた。その結果,避難準備情報から避難勧告へ引き上げられたことが明示される方が,避難すると思われる住民の割合が多いことが示された。したがって,避難勧告などの避難情報を段階的に発令する場合には,避難情報の段階が引き上げられたことを明示し,避難行動をとるという意思決定を促すべきだと考える。
著者
森 数馬 中村 敏枝 安田 晶子 正田 悠
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.99-99, 2008

音楽の印象における歌詞の影響を定量的に検討した研究は数少なく、これまでの研究では、歌詞における意味内容と声質や歌い方を混同して歌詞の影響を測っている。本研究は、歌詞の言語の意味内容が認知できない演奏音と文字で書かれたその歌詞の邦訳を用いることで歌詞における意味内容と声質や歌い方を区別し、歌詞の意味内容が演奏音の印象に影響を与えるかを定量的に検討することを目的として実験を行った。演奏音と歌詞の意味内容の印象がかけ離れた作品2つを刺激とし、同一の参加者が3条件(演奏音のみ呈示、歌詞のみ呈示、演奏音+歌詞呈示)で実験を行い印象を測定した。実験の結果、両作品において演奏音+歌詞の印象は、歌詞よりも演奏音に近い印象を示すという傾向があった。したがって、本研究で用いたような作品の印象において、歌詞の意味内容という論理情報が及ぼす影響は弱く、演奏音という感性情報が及ぼす影響が強いということが示唆された。
著者
望月 登志子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.126-126, 2010

Ebbinghausの円対比錯視現象(一般に,中央の円:主円の大きさは,外側にそれより小さい円群:条件円が配置されると過大視され,条件円が大きいときには過小視が生じる)を通じて,視覚による大きさ判断に及ぼす触覚情報の影響を調べた.つまり,主円の大きさ判断に生じる錯視量は,見ながら同時に触る円の大きさによって,一定の偏向性を示すか否かが検討された.実験の結果,条件円の大きさ変化に伴い,主円の大きさ錯視現象は過大視から過小視へと移行し,その点では視覚のみによるときと変わらない.しかし,触覚情報が付加されると,錯視量は量的に補正されることが示された.
著者
望月 登志子
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.99-99, 2011

「かわいい」という印象を与える平面図形の知覚特性を,現代の20歳前半の女性対象にして,その大きさと色彩の側面から検討した.実験の結果,大きさについては実用性に適したサイズより約30%小さいものが,色彩についてはピンクが最も高い評価を得る.
著者
野村 理朗 近藤 洋史 柏野 牧夫
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.40-40, 2007

衝動性の特徴は、即時的な報酬をもとめ中長期的なリスクを犯してしまうことと、行動の制御が不十分であることの二つに大別される。本研究では、後者のメカニズムに焦点をあて、Go/Nogo課題において衝動性の指標となる反応遂行エラー(commission error)、課題遂行時の脳活動、さらにはセロトニン2A受容体遺伝子多型性を指標とし、行動の制御プロセスにかかわる機能的連関について検証した。実験の結果、同遺伝子多型のサブタイプであるAA接合型をもつ被験者の誤答数が他タイプのものと比較して多いこと、さらにはfMRIにより、同タイプにおける前頭前野腹外側部の過活性化が確認された。その一方で、脳内報酬系の回路に存在する視床下部、線条体などの諸領域におけるタイプ間の差異は見出されず、以上のことから衝動的行動は、報酬への感受性、すなわち脳内報酬系の機能不全に起因するものではなく、抑制系統の問題によって生じうるという可能性が示唆された。
著者
田中 未央 厳島 行雄 高島 翠
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.177-177, 2007

過去の出来事を想起する際に嘘をつくと,オリジナルの出来事に関する記憶が抑制されることが示されている(Christianson & Bylin, 1999)。先行研究では,語り手は嘘をつく際に2つの方略を併用していることが示されており,田中(2005)では,語り手が使用する嘘の方略を統制した実験を行い,嘘をつく際に「知らないふり」をすることによってオリジナル記憶のリハーサルが妨害されると,後の記憶が抑制される可能性を示した。目撃証言に関する先行研究では,想起の対象によって記憶の正確さが異なることを示している(Yuille & Cutshal, 1986)ことから,嘘の対象が異なる場合にも後の記憶の正確さに違いがみられると考えられる。よって,本研究では嘘の対象を統制した実験を行い,嘘の対象が異なる場合の記憶を比較する。