著者
尾崎 将俊 田中 健康 佐藤 里佳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】近年,足漕ぎ車椅子Profhand(株式会社TESS)は,肢体不自由者の新移動機器として病院・施設で使用されている。関(2005)は,片麻痺者が足漕ぎ車椅子を使用することによって,歩行速度の改善と麻痺側下肢筋の筋活動量が増大することを示した。足漕ぎ車椅子は単なる移動機器ではなく,下肢機能に対する治療機器として考えることができる。また,江西(1994)は片麻痺患者の歩行自立には安定した体幹機能が必要と述べ,江連(2009)は臨床的体幹機能テスト(Functional Assessment for Control of Trunk:以下,FACT)で評価した体幹機能は片麻痺患者のADLと強い相関関係があったと報告している。足漕ぎ車椅子が,下肢筋力に加え体幹機能の改善に寄与するのであれば,より応用範囲の広い治療機器として用いることができると考えた。本研究では,足漕ぎ車椅子の利用が体幹機能に及ぼす影響について検討した。【方法】[症例]60歳代,男性。脳梗塞後右片麻痺。入院時,Brunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)は,上肢III手指III下肢III。感覚は軽度鈍麻。著明なROM制限なし。筋緊張は麻痺側中枢,末梢ともに低緊張。座位・立位・歩行は一部介助。[実験計画]期間:100病日(入院後71日)から16日間。研究デザイン:反復型実験計画ABAB(A1:第1基礎水準測定期4日間,B1:第1操作導入期4日間,A2:第2基礎水準測定期4日間,B2:第2操作導入期4日間)。介入内容:A1:運動療法60分,B1:運動療法40分に加え足漕ぎ車椅子使用10分,A2:運動療法60分,B2:運動療法40分に加え足漕ぎ車椅子使用10分。[測定]各介入ごとに,FACT(点),座位における前方リーチ距離(cm)を測定。各セッション最終日にはShort form Berg Balance Scale(以下,SF-BBS)を測定。[分析]FACTおよび座位前方リーチ距離について,二項分布の確率を利用し,基礎水準測定期A1・A2のcelebration line(以下,CL)を決定。その上で,操作導入期B1・B2において,CLを上回る値について分析。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当院倫理委員会の了承を得た。研究への参加については,研究者が口頭で説明し同意を得た。【結果】FACTでは,B1・B2においてCLを上回る値は無かった(p=0.1)。座位前方リーチ距離では,B1の全ての値はCLを上回り(p=0.01),B2は4日目を除く値がCLを上回った(p=0.025)。FACTの平均値±標準偏差は,A1:9.3点±1.7,B1:13点±1,A2:13点±1,B2:14点±0であった。前方リーチ距離の平均値±標準偏差は,A1:38.8cm±3.8,B1:46.5cm±1.5,A2:44.8cm±1.2,B2:44.1cm±4.7であった。SF-BBSは,A1:16点,B1:19点,A2:19点,B2:21点であった。【考察】本研究においては,足漕ぎ車椅子使用によるFACTへの影響は認められなかった。FACTは,骨盤と体幹の分節的な動作課題が多い。足漕ぎ車椅子におけるパターン化した下肢交互運動であるペダリング動作のみでは,骨盤と体幹の分節的な運動は改善されず,FACTの得点向上には結びつかなかったものと考える。座位前方リーチ距離は,非介入期であるA1・A2に比べてB1・B2でCLを上回った。前方リーチ距離は,矢状面における座位バランスを反映しているが,運動の制御には下肢機能が関与する。関(2005)は,足漕ぎ車椅子使用によりBRS Iの片麻痺患者でも,麻痺下肢の筋活動誘発効果を有すると述べた。筋出力に関しては,浦川(2007)が,セミリカンベント式自転車エルゴメーターの場合に,バックレスト角度75°が股関節伸展筋出力増加に適していると述べた。足漕ぎ車椅子のバックレスト角度は70°であり,股関節伸展筋出力に適していると考える。このことから,座位前方リーチでは股関節周囲筋を主とした麻痺側下肢筋出力量の増加が,矢状面上の運動である体幹前傾の姿勢制御に影響を及ぼし,座位前方リーチ距離拡大に繋がったと推察する。また,SF-BBSは介入期であるB1,B2で改善傾向にあった。下肢機能改善は,SF-BBSにおいて測定される,立位における姿勢制御に反映されるためと考えた。本研究の結果は,足漕ぎ車椅子は体幹の選択的な活動には影響しないが,下肢の筋活動を促すことで,下肢機能を含めた体幹運動には寄与することを示唆する。【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,片麻痺患者の足漕ぎ車椅子使用に関する特異的な影響を検討した点にする。治療機器として足漕ぎ車椅子を活用する場合の一助となると考える。
著者
八並 光信 上迫 道代 小宮山 一樹 正門 由久 里宇 明元 千野 直一 森 毅彦 近藤 咲子 渡邊 進
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.571, 2003

[目的]骨髄移植患者の持久力低下は,リハビリテーションを施行する上で重要な問題である.本研究は,骨髄移植患者用持久力テストの結果を報告する.本邦では,トレッドミルを用いたプロトコルがあるものの,移植前後の持久力低下に関する報告は見あたらない.そこで,我々も予備研究から,以前の報告と同様のプロトコルを検証し,骨髄移植患者の持久力に関する変化を測定したので報告する.[方法]1.運動負荷テストの検証 対象は,平均年齢25.8±3.4歳の健常成人10名(男性5名・女性5名)である.運動負荷テストは,リカベント式エルゴメーターで,毎分10wのランプ負荷法を用いて最高酸素摂取量を求めた.また,骨髄移植患者用の運動負荷プロトコル(トレッドミル歩行を時速2kmからスタートし,3分毎に時速のみ1kmづつ増加させ時速6kmで終了)も行い両者を比較した.2.骨髄移植患者の持久力低下について 対象は,平均年齢33.9±13.9歳の骨髄移植患者10名(男性7名・女性3名)である.移植前後に骨髄移植患者用の運動負荷プロトコルで,トレッドミル歩行を行った.心拍数は,各ステージ終了前の15秒間をテレメーター心電図で記録すると同時にBorgの自覚的運動強度を計測した.[結果]1.運動負荷テストについて エルゴメーターによるランプ負荷法から,各パラメーターのピーク値の平均値は,HR:176.6bpm・VO<SUB>2</SUB>:35.6ml/kgであった.骨髄移植プロトコルによるトレッドミル負荷テストのピーク値の平均値は,HR:114.2bpm・VO2:19.7ml/kgであった.以上の結果から,骨髄移植患者用トレッドミル負荷テストは,最高運動負荷テストの約60%程度の負荷強度であることがわかった.2.骨髄移植患者の持久力について 移植前では,負荷テストの全ステージを全症例がクリアした.移植後は,全ステージを4名がクリアし,6名が途中棄権した.移植前後の負荷終了直後のダブルプロダクト値に差はなかった.ステージ1から3までのHRとBorg値は,有意に移植後の方が高かった.[考察]骨髄移植患者用運動負荷プロトコルは,低強度で安全に施行できるものと考えられた.移植後の持久力低下は顕著であり,特に安静時よりHRの増加が全症例に認め,酸素運搬能や1回拍出量の低下が考えられた.移植前で全ステージをクリアし,移植後にクリア率が減少したことから,移植後の持久力評価として検出力も高いと考えられた.また,臨床上,具体的に歩行スピードを目安として指導できる利点が確認できた.
著者
福島 秀晃 三浦 雄一郎 布谷 美樹 鈴木 俊明 森原 徹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0600, 2007

【目的】肩関節疾患患者が肩甲骨挙上筋群の過剰収縮と前鋸筋の収縮不全によって、肩関節屈曲初期より肩甲骨の不安定性を呈することを頻繁に経験する。そのため理学療法では前鋸筋の筋力強化や筋再教育、肩甲骨挙上筋群の抑制が必要となる。前鋸筋の筋力強化は諸家の報告により様々な方法が紹介されているが、これらの方法を有疾患患者に適応した場合、肩甲骨挙上筋群の過剰収縮を招きやすく本来の目的を達成しているかは疑問を感じる。本研究目的は、肩関節屈曲運動にて運動肢位を変化させた時の僧帽筋上部・下部線維、前鋸筋下部線維の筋活動を筋電図学的に分析し、肩甲胸郭関節の安定化に対する運動療法を再考することである。<BR>【方法】対象は健常男性5名両側10肢(平均年齢30.2±4.3歳、平均身長177.8±8.7cm、平均体重76.2±8.5kg)。対象者には事前に本研究の目的・方法を説明し、了解を得た。測定筋は僧帽筋上部線維、下部線維、前鋸筋下部線維、三角筋前部線維とし、筋電計myosystem1200(Noraxon社製)を用いて測定した。具体的な運動課題は座位、背臥位の各肢位にてそれぞれ肩関節を0°、30°、60°、90°、120°、150°屈曲位を5秒間保持させ、それを3回施行した。分析方法は座位での肩関節屈曲0°位の筋電図積分値を算出し、これを基準に各肢位、各角度での筋電図積分値相対値(以下、相対値)を算出した。各筋の相対値を各角度にて座位と背臥位間で対応のあるt検定を行った。<BR>【結果】僧帽筋上部線維の相対値は屈曲60°~150°間にて座位と比べ背臥位にて有意に減少した。僧帽筋下部線維および前鋸筋下部線維の相対値は屈曲30°では座位と比べ背臥位にて増加傾向を示したが、90°~150°間では有意に減少した。三角筋前部線維の相対値は屈曲30°では座位と比べ背臥位にて有意に増加し、60°~150°間では有意に減少した。<BR>【考察】背臥位での肩甲帯は胸郭に対し平面位となり、僧帽筋上部線維の活動は重力の影響が軽減される肢位である。肩関節屈曲60°より肩甲骨は上方回旋することから、屈曲60°以上での活動減少は、背臥位という運動肢位が僧帽筋上部線維の活動を発揮させにくい肢位であることが示唆された。三角筋前部線維の相対値は背臥位での屈曲30°にて有意に増加した。これは肩関節屈曲30°で生じる肩関節への力学的な伸展モーメントは背臥位の方が増大することから、これに抗するための筋活動増加であると考える。三角筋前部線維の活動は、肩甲骨と上腕骨の連結を行い、その伝達された力は浮遊骨である肩甲骨に不安定性を生じさせる。背臥位での屈曲30°で僧帽筋下部線維、前鋸筋下部線維の相対値が増加傾向を示したのは、肩甲骨の不安定性に対する制動の役割が座位よりも大きいことが示唆された。
著者
松村 葵 建内 宏重 中村 雅俊 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100407, 2013

【はじめに、目的】 一般に棘下筋を含め腱板筋の筋力トレーニングは,三角筋などによる代償を防ぐために低負荷で行うことが推奨されている.しかし低負荷での棘下筋に対するトレーニング介入研究において,わずかに筋力増強が生じたという報告はあるが筋肥大が生じたという報告はなく,棘下筋に十分な運動ストレスを与えられているとは考えにくい. 近年,下肢筋を中心に低負荷であっても低速度で運動を行うことで,筋力増強や筋肥大がおこると報告されている.また運動の筋収縮時間が筋力トレーニング効果と関連するという報告もされている.よって運動速度を遅くすることで筋の収縮時間を長くすれば,より筋に運動ストレスを与えられると考えられる.実際に,我々は低負荷であっても低速度で持続的な運動を行えば,棘下筋は通常負荷・通常速度での運動よりも持続的な筋収縮によって筋活動量積分値が大きくなり,棘下筋に大きな運動ストレスを与えられることを報告している(日本体力医学会 2012年).しかし,低負荷・低速度肩外旋トレーニングが,棘下筋の筋断面積や筋力に与える影響は明確ではない. 本研究の目的は,低負荷・低速度での8週間の肩外旋筋力トレーニングが棘下筋の筋断面積と外旋筋力に及ぼす効果を明らかにすることである.【方法】 対象は健常男性14名とした.介入前に等尺性肩関節体側位(1st位)外旋筋力,棘下筋の筋断面積を測定した.対象者を低負荷・低速度トレーニング群(500gの重錘を負荷し側臥位肩関節1st位で5秒で外旋,5秒で内旋,1秒保持を10回,3セット)と通常負荷・通常速度トレーニング群(2.5kgの重錘を負荷し側臥位肩関節1st位で1秒で外旋,1秒で内旋,1秒安静を10回,3セット)の2群にランダムに群分けした.両群ともに運動は週3回8週間継続した.介入期間の途中に負荷量の増大はせず,介入4週までは研究者が運動を正しく実施できているか確認した.介入4週と8週終了時点で介入前と同様の項目を評価した.チェック表にて運動を実施した日を記録した. 棘下筋の筋断面積は超音波画像診断装置を用いて,肩峰後角と下角を結ぶ線に対して肩甲棘内側縁を通る垂直線上にプローブをあてて画像を撮影した.筋断面積は被験者の介入内容と評価時期がわからないように盲検化して算出した.等尺性外旋筋力は徒手筋力計を用いて3秒間の筋力発揮を2回行い,ピーク値を解析に使用した. 統計解析は棘下筋の筋断面積と外旋筋力に関して,トレーニング群と評価時期を2要因とする反復測定2元配置分散分析を用いて比較した.有意な交互作用が得られた場合には,事後検定としてHolm法補正による対応のあるt‐検定を用いて介入前に対して介入4週,8週を群内比較した.各統計の有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を十分に説明し同意を得た.本研究は本学倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】 介入終了時点で両群とも脱落者はなく,トレーニング実施回数には高いコンプライアンスが得られた. 棘下筋の筋断面積に関して,評価時期に有意な主効果とトレーニング群と評価時期と間に有意な交互作用が得られた.事後検定の結果,低負荷・低速度トレーニング群では介入8週で介入前よりも有意に筋断面積が増加した(7.6%増加).通常負荷・通常速度トレーニング群では有意な差は得られなかった. 外旋筋力に関して,有意な主効果と交互作用は得られなかった.【考察】 本研究の結果,低負荷であっても低速度で持続的な筋収縮によって,棘下筋の筋肥大が生じることが明らかになった.低速度で行うことで筋活動積分値が大きくなり,棘下筋により大きな運動ストレスを与えられる.また低負荷でも低速度で運動を行うことによって,低負荷・通常速度での運動よりも筋タンパク質の合成が高まるとされている.これらの影響によって,低負荷・低速度トレーニング群で筋肥大が生じたと考えられる. 低負荷・低速度トレーニング群では棘下筋の筋肥大は生じたが外旋筋力は増加しなかった.また,より高負荷である通常負荷・通常速度トレーニング群でも,外旋筋力の増加は生じなかった.本研究で用いた負荷量は低負荷・低速度で約4%MVC,通常負荷・通常速度で約20%MVCと神経性要因を高めるには十分な大きさではなかったことが,筋力が増加しなかった原因と考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果,低負荷であっても低速度で運動を行うことで棘下筋を肥大させられることが明らかとなり,低負荷トレーニングにおいて運動速度を考慮する必要があることが示唆された.本研究は,棘下筋の筋萎縮があり,受傷初期や術後などで負荷を大きくできない場合に,低負荷でも低速度でトレーニングを実施することで筋肥大を起こす可能性を示した報告として意義がある.
著者
平田 学 森井 和枝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.380, 2003

【はじめに】ここ数年、急性脳症後遺症により重度障害を受け、リハビリテーション目的で当院に転院してくる小児が増加している。彼らの基礎データを提示するとともに症例に対する理学療法を報告する。【対象および方法】2000年から2002年の約3年間に当院に入院し理学療法を行った小児急性脳症後遺症15症例についてカルテを検索した。症例を歩行獲得群と未獲得群に分け発症原因、発症年齢、意識障害の期間、麻痺の程度、運動機能、高次脳機能障害について調べた。【結果】発症原因は不明10例、インフルエンザ5例であり、ほぼ全例痙攣重積を起こしていた。歩行獲得群は7例であり発症時平均年齢3歳10ヶ月、意識障害平均4.7日間、麻痺の程度が軽く、発症後約3ヶ月以内に歩行獲得、程度の差はあるが全例高次脳機能障害を有していた。歩行未獲得群は8例であり発症時平均年齢1歳11ヶ月、意識障害平均13.9日間、一例を除き全身の低緊張と不全四肢麻痺、現在定頚7例、坐位保持可能な4例、全例重度の高次脳機能障害を有していた。【症例1】3歳5ヶ月時に発症し、3日間意識障害が継続した。1ヵ月後座位、3ヵ月後歩行がそれぞれ可能となった。3ヵ月半後の当院入院時、軽度の筋緊張低下と重度の高次脳機能障害を認めた。常に歩き回り、低い段差で転倒し、目線より少し高いものに頭をぶつけていた。PT場面ではボディイメージを改善する為、またぐ場面やくぐる場面を多く設定した。発症5ヵ月後の退院時段差で転倒することは見られなくなったが、多動は改善しなかった。発症1年6ヶ月後の時点で重度の高次脳機能障害は残存しADL全介助、屋外移動にバギーを使用している。【症例2】1歳時に発症し、3週間意識障害が継続した。発症4ヵ月後当院に入院した。筋緊張低下、不随意運動、顔面の知覚過敏などが見られた。定頚しておらず、経口摂取困難であった。人や物へ関心が薄く、情動の変化も見られなかった。理学療法ではまずバギーでの姿勢保持、臥位動作を中心に行なった。また刺激に対する反応、頭頚部・体幹の安定を促した。発症後5ヶ月で周囲への関心が高まり、7ヶ月で経口摂取、9ヶ月で定頚した。外来でPTを継続し、2年後には座位保持可能となった。【考察】症例はいずれも精神面あるいは身体機能に重度障害を残していた。発症時平均年齢、意識障害の期間と身体機能の重症度の関係は興味深い。身体障害が軽度であっても高次脳機能障害が重度である場合、親にかかる負担は重くハード・ソフト両面での支援が必要である。他のスタッフと連携する中で理学療法士としてどう専門性を発揮するのか考えさせられる。身体障害が重度な症例においては、長期にわたって機能改善を認める場合が多い。在宅療育に向け親の理解を深めることと環境の整備が重要である。また継続的にフォローを続け、機能に合った関わり方を随時伝えていく必要がある。
著者
松田 雅弘 野北 好春 妹尾 淳史 米本 恭三 渡邉 修 来間 弘展 村上 仁之 渡邊 塁 塩田 琴美 高梨 晃 宮島 恵樹 川田 教平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1026, 2011

【目的】<BR> 脳卒中において利き手側の片麻痺を呈した場合、麻痺の程度が重度であれば非利き手側でADL動作を遂行することとなるため、リハビリテーションの一環として利き手交換練習が実施されている。利き手側で同様の運動を獲得していたとしても、非利き手での運動を学習する一連の経過は新規動作の獲得と同様に時間を要する。しかし、その動作習得過程で、どのようなリハビリテーションの手法を用いることの有効性に関するニューロイメージングの視点からの知見は少ない.そこで今回,健常者における非利き手での箸操作の運動時、イメージ時、模倣時の脳神経活動を検出した。<BR>【方法】<BR> 対象は、神経学的な疾患の既往のない右利き健常成人5名(平均年齢20.7歳)である。<BR> 課題は3種類設定し、第1課題は開眼にて左手にて箸を把持して箸先端を合わせる運動の課題(運動課題)、第2課題は左手で箸を持っている映像をみせて実際に箸操作運動を行わずに、箸操作を行っているときをイメージさせる課題(運動イメージ課題)、第3課題は左手で箸操作を行っている映像をみながら運動課題と同様の箸操作運動を行う課題(模倣課題)とした。スキャン時間はこれらの課題および安静を各々30秒間とし,3種類の課題はランダムに配置し,各課題間は安静を挟む(ブロックデザイン)ようにして撮像した。測定装置はPhilips社製3.0T臨床用MR装置を使用した。測定データはMatlab上の統計処理ソフトウェアSPM2を用いて集団解析にて被験者全員の脳画像をタライラッハ標準脳の上に重ね合わせて,MR信号強度がuncorrectedで有意水準(p<0.001)をこえる部位を抽出した。<BR>【説明と同意】<BR> 全対象者に対して、事前に本研究の目的と方法を説明し、研究協力の同意を得た。研究は共同研究者の医師と放射線技師の協力を得て安全面に配慮して行った。<BR>【結果】<BR> 運動課題では両側感覚運動野、補足運動野、下頭頂小葉、大脳基底核、小脳、前頭前野、右Brodmann area(BA)44の賦活が認められた。運動イメージ課題では、右感覚運動野、両側補足運動野、上頭頂小葉、下頭頂小葉、BA44、大脳基底核の賦活がみられ、運動課題でみられた左感覚運動野と両側小脳の活動が消失した。模倣課題では、両側感覚運動野、補足運動野、上頭頂小葉、下頭頂小葉、BA 44、左前頭前野の賦活が認められた。<BR> 最も広範囲に賦活が認められたのは運動課題で、次に模倣課題であり、両課題とも両側運動関連領野の活動がみられた。運動イメージ課題が最も活動範囲は狭かったが、運動の実行がなくても運動関連領域の活動が認められた。さらに模倣課題時、運動イメージ課題時とも下頭頂小葉、BA 44の活動が両側広範囲にみられた。<BR>【考察】<BR> 運動イメージ課題時、模倣課題時にはミラーニューロンに関連する領域の広い活動が確認された。補足運動野、前頭葉の活動など、感覚運動野に入力する前運動野の活動が広く確認され、運動学習を遂行する上で必要な部位の活動が確認された。模倣課題時は広範囲に活動が認められ、見本を教示しながら動作を指導する方が、活動範囲が広範囲でありリハビリテーションに有用であることが示唆された。イメージ動作でも同様に狭小ではあるが運動関連領野の活動が認められ、運動開始以前に運動イメージを行わせることが重要であることが示唆された。運動イメージで運動を開始する準備を行い、模倣動作を促すことで広く運動関連領野の活動性を向上させることから、リハビリテーション医療の治療では、運動の実行のみではなく画像を提示したり、イメージを繰り合わせた方法が有用であることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 機能的MRIなどによって非侵襲的に脳活動を捉えられるようになったが、その研究手法は実際のADL動作と直結しているものではなく、閉鎖的な実験環境上の問題でタッピングなどの動作を主体としているため、ADL動作時の脳内活動の検討は不十分であった。今回実際にADL動作を行い,リハビリテーション治療で行われている手法に関してニューロイメージングの視点から知見を報告した。リハビリテーション医療の治療の中で、運動の実行のみではなく画像を提示したり、イメージを繰り合わせた方法の有用性が本研究より示唆された。
著者
木本 龍 遠藤 洋毅 大隅 雄一郎 柴田 大輔 鈴木 洋平 菅谷 睦 宮原 小百合 河野 めぐみ 篠原 竜也 渡邉 昌 宗村 浩美 常泉 美佐子 菅原 成元 輪座 聡
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101538, 2013

【はじめに、目的】 反重力トレッドミル『Alter G』とは ,NASAで宇宙飛行士の訓練用として開発されたトレッドミルであり,空気圧により利用者を持ち上げて免荷量を調整でき,部分体重免荷トレッドミルトレーニングが可能となるリハビリテーション機器である.現在,プロサッカーチームの『マンチェスターユナイテッド』や『ACミラン』,NBAの『レイカーズ』などに導入され,主に整形外科やスポーツリハビリテーションの分野で使用されている. 当院では2011年10月より導入し,多くの患者のリハビリテーションに使用してきた.しかし,『Alter G』は新しいリハビリ機器のため,その適応や設定方法,効果については十分確立されていない.今回,ACL再建術後の患者において,『Alter G』の使用の有無による在院日数や退院時の移動能力,筋力推移を比較・検討し,『Alter G』の効果や今後の使用方法について検討したので報告する.【対象、方法】 使用群は『Alter G』が導入された2011年10月以降にACL再建術を受けられた12名(平均年齢:30.3歳,男性6名,女性6名). 未使用群は『Alter G』が導入される以前に手術を受けられた12名(平均年齢:29.5歳,男性7名,女性:5名). 両群ともに手術は内視鏡下にて内側ハムストリングス自家腱を使用した4重束のシングルルートであり,後療法は術後2週間までは1/2PWB,2週後よりFWBとし,FWB開始後に問題がなければ退院という当院のクリニカルパスに沿ってリハビリを実施した.『Alter G』を使用しての歩行練習を追加した以外には両群に差はなかった. 診療録より基礎情報(年齢・性別),在院日数,退院時の移動能力(手放し歩行or松葉杖歩行),筋力推移について調査し,2群で比較検討を行った.筋力測定はミナト医科学株式会社製の『COMBIT CB-2』を使用し,術前・術後1ヶ月・3か月・6か月の時点で膝伸展および屈曲筋力を測定した.なお,各速度は60deg/secと180deg/secの2条件とし,最大筋力の患健比で評価をした.統計処理は,在院日数の比較はマンホイットニーU検定を,退院時移動能力の比較はχ二乗検定を,筋力推移の比較は分散分析(Post-hoc test: Bonferroni)を用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき,当センター内で倫理検討を行い,本研究の内容を患者に十分説明した後,同意を得た.【結果】 在院日数の比較では,使用群は17.0日,未使用群は19.4日と有意に使用群の方が短かった. 退院時の移動能力の比較では,使用群は手放し歩行9人,松葉杖歩行が3人に対し,未使用群は手放し歩行5人,松葉杖歩行が7人であり,使用群の方が手放し歩行で退院できた人数が多く,統計上有意差を認めた. 筋力推移に関しては,術後1ヶ月時点のみ,使用群の方が膝屈曲筋力は有意に高かったが,膝伸展筋力や術後3か月・6か月時点の膝屈曲筋力では2群間で差は認められなかった.【考察】 使用群は在院日数が短いにもかかわらず,退院時には手放し歩行獲得者が多かった.これは『Alter G』を使用することによって,空気圧で下肢にかかる体重を調整でき,術後早期から手放し歩行での練習が可能なことが影響していると思われる.両群共に術後2週までは1/2PWBであり,松葉杖歩行での生活となるが,使用群は術後早期から手放しでの部分体重免荷歩行練習が可能となり,FWB開始となった術後2週直後に手放し歩行が獲得できる症例が多かった. また,筋力推移に関しては,術後1ヶ月時点の膝屈曲筋力のみ有意に高かった.これは,当院では内側ハムストリングス自家腱を使用する手術であるため,術後早期の膝屈曲筋力の低下が著明であるが,『Alter G』を使用し部分免荷することによって,体重支持や下肢の振り出しに関わるハムストリングの筋活動量が減少し,術後早期からハムストリングスに対して愛護的な歩行練習ができるためと考えられる.しかし,術後3か月・6か月時の筋力は2群で有意差が認められなかった.これは,部分体重免荷の先行研究によると,部分免荷歩行は通常歩行時よりもハムストリングスや大腿直筋の筋活動量が低下することが報告されており,FWBが痛みなく可能になった後は『Alter G』を使用せず,積極的に荷重させた方が筋力の回復は良好なのではないかと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 ACL再建術後の患者において,『Alter G』での部分免荷歩行練習は,術後の早期退院・早期手放し歩行の獲得が可能となり,急性期の筋力回復にも適していると考えられる.しかし,免荷することで下肢の筋活動量が減少することを考慮すると,FWBが可能になってからは積極的に荷重させた方が良い可能性が示唆される.
著者
北岡 さなえ 小林 寛和 金村 朋直 岡戸 敦男 横江 清司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C3O3046, 2010

【目的】膝前十字靱帯(ACL)損傷の受傷機転に関する報告は、1980年代より数多くなされており、ACL損傷の予防に役立つ知見が得られている。有効な外傷予防策を実践するためには、動作の特徴を含めた、スポーツ活動時の代表的な受傷状況を明らかにし、関係する要因を整理していくことが重要となる。我々は、過去20年間、ACL損傷の予防策につなげるための基礎的知見を得るために、受診者に対して、受傷状況の詳細な聞き取り及び再現調査を行ってきた。今回は、過去の報告にはない多数の女子バスケットボール選手を対象とした、ACL損傷の受傷状況に関する調査について報告する。<BR>【方法】1988年6月より2008年6月の20年間に、財団法人スポーツ医・科学研究所を受診し、ACL損傷と診断され、理学療法を施行した女子バスケットボール選手320名を対象とした。対象の年齢は16.4±7.9歳、身長は164.1±7.9cm、体重は58.0±8.7kg(平均±標準偏差)であった。理学療法の診療記録より、ACL損傷の受傷状況に関する2つの項目について抽出して分類、集計をした。<BR>調査1:受傷時のプレイ 受傷時のプレイ及び局面について分類した。プレイ及び局面は、「オフェンス」、「ディフェンス」、「その他」、「不明」に区分した。「その他」は、「オフェンス」、「ディフェンス」に分けることができないルーズボールやリバウンド中のプレイとし、「不明」は明示することができなかった場合とした。<BR>調査2:受傷時の動作 「オフェンス」、「ディフェンス」における受傷時の詳細な動作について分類した。動作は、「ジャンプ着地」、「ジャンプ踏切」、「ストップ」、「ターン」、「側方移動」、「コンタクト」、「その他」、「不明」に区分した。<BR>【説明と同意】本研究は、財団法人スポーツ医・科学研究所倫理審査委員会の承認のもとに実施した。対象の個人情報の取り扱い等については十分に配慮した。<BR>【結果】調査1:受傷時のプレイ 受傷に関係したプレイ及び局面は、「オフェンス」170名(53.1%)、「ディフェンス」52名(16.3%)、「その他」27名(8.4%)、「不明」71名(22.2%)であった。<BR>調査2:受傷時の動作 「オフェンス」では「ジャンプ着地」が最も多く、50名(29.4%)であった。以下「ストップ」34名(20.0%)、「側方移動」28名(16.5%)、「ジャンプ踏切」19名(11.2%)、「ターン」17名(10.0%)、「コンタクト」13名(7.6%)と続いた。「ディフェンス」では「ストップ」が最も多く、13名(25.0%)であった。以下「ターン」11名(21.2%)、「コンタクト」8名(15.4%)、「ジャンプ着地」7名(13.5%)、「側方移動」7名(13.5%)、「ジャンプ踏切」1名(1.9%)であった。<BR>【考察】受傷に関係したプレイは、「オフェンス」が半数以上を占めていた。スポーツ外傷は、個人が有する内的要因や床面などの外的要因に、ボールや他者の動きなどの様々な状況変化が加わることにより、身体への負荷が強まって発生に至るとされる。したがって、瞬時に相手の動きに反応して動作を遂行する「ディフェンス」時の受傷が多いことを予測した。しかし、実際は「オフェンス」時の受傷が多くなっていた。受傷時の動作は、減速性の動作が上位を占めたが、「オフェンス」と「ディフェンス」ではその傾向が異なっていた。「ディフェンス」で最も多かった受傷時の動作は「ストップ」であった。「ディフェンス」では、ボールを持った選手の動きに反応し、急激な減速、ストップをせざるを得ない状況が強いられ、これに対応できない際に受傷すると考えられる。一方、「オフェンス」では「ジャンプ着地」での受傷が多かった。「ジャンプ着地」はACL損傷の受傷が多い動作として知られ、受傷時の動作の特徴について検討が重ねられている。「オフェンス」におけるジャンプを伴うプレイとしてシュートやパスキャッチがあげられるが、これらのプレイでは、ボールやゴールとの位置関係、他者の存在、次のプレイへの準備、空中でのコンタクトなどがジャンプ着地時の動作に影響し、受傷に至ることが推察される。今後、さらに受傷時の状況を細分化し、加わった外力、外傷発生時のアライメント等との関連についても詳細に検討を行い、動作に影響を与える要因を明確にしていきたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究では、300名を超える女子バスケットボール選手を対象として、ACL損傷の受傷状況について調査し、受傷時のプレイや動作に関する傾向を見出した。この結果は、理学療法士が女子バスケットボール選手に対して有効なACL損傷予防策を企画、実践していく上での、基礎資料になるものと考える。
著者
田巻 加津哉 多田 知史 田村 將悟 有末 伊織 米田 弘幸 米田 俊一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.E-212_2-E-212_2, 2019

<p>【はじめに・目的】</p><p>渡邊は、前頭葉症状ともいわれる社会への不適応行動は社会復帰を阻害する大きな問題となると述べている。今回、自己抑制が不十分であった急性期の脳卒中患者2名に対して行動変容療法を実施し、前頭葉機能検査や高次脳機能検査などの客観的な評価を示すことにより、早期からの介入方法の一助とすることを目的とする。</p><p>【症例紹介】</p><p>症例A:50歳代前半、男性、仕事は輸入商社事務。X日に右被殻出血、血腫脳室穿破にて救急搬送、入院となる。入院時(X日)はJCS100、左上下肢BRSⅠ。同日内視鏡下血腫除去術施行し、X+5日にドレナージ抜去となる。合併症として急性水頭症、症候性てんかん、不安神経症等がみられた。</p><p>症例Bは40歳代前半、男性、仕事は税理士。Y日に飲酒後階段から転落され、頭蓋骨骨折、外傷性クモ膜下出血にて入院となる。入院時(Y日)はJCS100、左上下肢BRSⅣであった。Y+4日に右前頭側頭開頭術・脳内血種除去術施行。合併症としては脳浮腫がみられた。</p><p>【経過】</p><p>症例A:X+2日に理学療法開始し、JCS2~3、BRS左上下肢Ⅴ、バレー徴候陽性、感覚障害なしであった。X+14日頃より、出勤を希望する旨の訴え頻回にあり。これに対し、病状の説明と短期目標の明示の反復や、アンガーマネジメントを参考にした指導を行うことによって、適応行動が増えるように試みた。X+21日にHDS-R27点、FAB16点、浜松式高次脳機能検査(以下、浜松式)は全領域で軽度低下、T字杖歩行軽介助であった。X+28日に浜松式で即時記憶・注意障害等で改善傾向であったが、夜間無断外出の未遂や不穏行動がみられた。その後徐々に減少し、X+32日より病棟内独歩が可能となった。X+51日に他院の回復期へ転院し、X+70日頃より徐々に職場復帰した。</p><p>症例B:Y+1日に理学療法開始し、JCS20、左上下肢BRSⅣ、遂行機能障害・注意障害等がみられた。Y+7日に独歩は困難で、「海外に友達がいるので大丈夫」など、状況にそぐわない言動が多く見られる。Y+14日にHDS-R20点、FAB11点、浜松式はdual taskや概念化等が低下し、歩行軽介助であった。この頃より、病状の説明と短期目標の明示の反復や、オセロ他の決められたルールに則る作業を通して、適応行動が増えるように試みた。Y+20日に、HDS-R24点、FAB15点、浜松式は語想起等が改善した。Y+38日では不適応行動の減少みられ、語想起改善の著明となる。Y+46日に自宅退院し、徐々に職場復帰を開始し、Y+100日頃からフルタイム勤務となった。</p><p>【考察】</p><p>今回、行動変容療法として急性期から可能な範囲で自己抑制課題を提供し、それに対して適切なfeedbackにより正の強化因子を提供した。行動変容療法を行ったことに加え、本症例2名は年齢が若く、FABがカットオフ値の11点(長船ら、2014)よりも高い値であった。そのため、病棟内の不適応行動の減少がみられ、最終的に高度な処理や管理を必要とする職場復ヘ帰を果たすことができたと考えた。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は脳神経外科 日本橋病院の倫理審査の承認を得ている.カルテや画像所見等から知り得た個人情報は、個人が特定できないように配慮した。 また個人情報に関するデータを院外に持ちだす際には、パスワードを掛けるなどの配慮を行った。本研究は後ろ向き研究であり、退院した2名の対象者には研究の趣旨や内容を電話と書面にて説明し,今回発表することの同意を書面にて得た。</p>
著者
新谷 大輔 平田 康洋 磯田 幸一郎 谷口 直也 小嶋 瑞穂
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100437, 2013

【はじめに、目的】わが国では、2007年に高齢化率21.5%となり超高齢社会に突入した。当院周辺の高齢化率は34.3%と高く、2025年の予測高齢化率と等しい状況である。回復期リハビリテーション病棟(以下回復期)入棟患者の現状を後方視的に調査・分析した。【方法】当院で平成23年1月から12月までに回復期退棟患者189名をA群、平成24年1月から10月までに回復期退棟患者164名をB群とした。このうち、死亡、PEGなどの処置による転棟の患者、再入棟患者(A群21名、B群11名)は対象から除外した。カルテデータより(1)年齢(2)性別(3)疾患名(4)脳卒中比率(5)在院日数(6)入棟日数(7)入棟まで日数(8)重症者数(9)重症者改善率(10)入棟時FIM(11)退棟時FIM(12)FIM利得(13)自宅復帰率(14)在宅復帰率について後方視的に調査した。【倫理的配慮、説明と同意】電子カルテよりデータを抽出したが、個人が特定できる形では公表しないことを遵守した。データの解析は外部との通信が行えない電子カルテ端末で処理し、研究者以外がアクセスできないようにセキュリティーをかけアクセス権を制限した。【結果】各項目の平均(A群、B群)を示す。年齢(79.3、77.5)性別(男68女100、男68女85)疾患名(脳卒中95整形72廃用1、脳卒中88整形61廃用5)脳卒中比率(0.57、0.57)在院日数(85.5、74.7)入棟日数(72.8、62.4)入棟まで日数(12.8、12.3)重症者数(50、50)重症者改善率(30、33)入棟時FIM(58.8、62.1)退棟時FIM(87.3、95.3)FIM利得(28.6、32.8)自宅復帰率(0.82、0.82)在宅復帰率(0.87、0.87)であった。このうち対応のないt検定で有意差を認めた項目は(P値)、在院日数(0.009425)入棟日数(0.008201)退棟時FIM(0.024735)FIM利得(0.045278)であり、年齢(0.110849)入棟まで日数(0.333104)入棟時FIM(0.152942)は有意差を認めなかった。【考察】年齢は全国平均75.1歳に比べると高く、最高年齢は102歳であった。入棟日数はB群では62日台と大幅に短縮され全国平均72.8日より早期の退院が行えている。FIMは全国平均72.6(入棟時)88.4(退棟時)15.8(利得)となっているが、当院では入棟時FIMが低く、退院時FIMが平均に追いつく傾向にあり、そのためFIM利得が高い。これは当院には急性期病棟を有し、回復期入棟まで日数が12日台となっており、急性期治療が終了した患者をリハビリテーションへ速やかに繋げることができていると考えられる。その他、当院では週1回、病床管理会議を全病棟・多職種で開催し、対象患者の確認と入棟時期の決定を行っている。この際に病棟の脳卒中比率(60%以内)、重症者比率(35%以内)を管理しており、入院が長期にわたる可能性の高い脳卒中患者の割合が高くなりすぎていないか管理している。回復期でも週1回入棟患者の現況を確認し、調整の漏れの確認や目標・方針の決定を病棟管理者でおこないスタッフに周知している。また、患者・患者家族・ケアマネージャーを積極的にできるだけ早期にカンファレンスに招く試みを行っている。また、リハビリテーション部として平成23年7月より365日リハ体制導入、平成24年4月より回復期病棟スタッフ増員(7人)により、リハビリテーション提供体制も充実してきている。これらにより、入棟日数と在院日数が短縮し、退院時FIMとFIM利得が改善したと分析した。そして、当地域のような現在高齢過疎地域が直面している問題として、家族の断絶(核家族化)、コミュニティーの崩壊(一人暮らし高齢者)が急速に進んできている。病院とコミュニティーを繋いでくれるケアマネージャーとの連携により高い自宅・在宅復帰率を保つに至っているが、低所得高齢者や自己決定ができない患者が年々増えてきており、地域社会の崩壊が現実問題として迫ってきている。行政との調整により生活保護・居住地保証等の社会資源が求められてきている。病院と地域と行政が一体となり患者を見る時代がそこまで来ている。今後も年間データの変遷と問題点を分析していきたい。【理学療法学研究としての意義】この調査により、高齢化率30%を超えることが避けられない日本の回復期の必要性やあり方を過疎地域の現状を見ることで参考にすることができる。また、今後の医療情勢の議論に役立つことを期待する。
著者
長谷川 正哉 金井 秀作 尾前 千寿 大塚 彰 沖 貞明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.A1031, 2005

【はじめに】<BR>足底圧(以下COP)や足底圧軌跡(以下COP軌跡)に関する研究は計測機器の発展により容易に可能になった.中村らによると裸足歩行では立脚期におけるCOPは踵部中央から出発して足底のやや外側に片寄って小趾球に達し,ここから内側に向かって母趾球を通り母趾に抜けるとされている.さらにCOPやCOP軌跡は杖の使用や,靴の着用により変化する事が多く報告されている.しかし,健常人の裸足歩行におけるCOPの研究においても,正常パターンから逸脱したものを散見する.そこで本研究では,健常人のCOPに影響を及ぼす因子を検討する.第一報として足趾機能および歩行速度がCOP,特に母趾荷重量に及ぼす影響を報告する.<BR>【方法】<BR>対象は足趾や足部に既往の無い健常成人12名とした.足趾機能の評価には足趾によるジャンケン(グー=全趾屈曲・チョキ=母趾と他趾の独立した運動・パー=外転)を指標として用い,全て可能なものをN群,一つでも不可能なものをP群とした.10mの歩行路を通常速・高速にて歩行させ,Nitta社製F-scanを使用しCOPの計測を行った.母趾部分のCOPピーク値を計測し,歩行速度およびN群P群における比較を行った.また歩行中の重複歩距離,歩行速度,歩数をデジタルビデオカメラにより計測し,各群間における比較を行った。<BR>【結果】<BR>N群における母趾荷重量は通常速時9.69±4.78kgf,高速時15.4±7.64kgfとなり,P群における母趾荷重量は通常速時10.07±3.67kgf,高速時11.53±4.71kgfとなった.歩行速度の上昇に伴いN群における母趾荷重量に有意な増加を認めた.P群における有意差は認められなかった.N群およびP群における比較では有意差は見られなかったが,高速時における母趾荷重量に増加傾向を認めた.重複歩距離は通常速時に比べN群では平均130%,P群では平均107%増加した.歩数および歩行速度における有意差は認められなかった.<BR>【考察・まとめ】<BR>P群では歩行速度が増加しても母趾荷重量はわずかな増加しか認められなかったが,N群では顕著な増加が認められた.母趾荷重量のピーク値はいずれも踵離地以降に計測されており,母趾荷重が蹴り出しに影響を及ぼす可能性が示唆された.加えて,母趾荷重量の増減が重複歩距離に影響を及ぼす可能性が考えられた.牧川らは蹴り出し時の母趾の重要性を指摘しており,今回の実験においても同様の結果が得られたと考えられる.N群では母趾荷重量に増加傾向を認めており,その結果大幅な重複歩距離の延長につながったと考えられる.一方,P群では蹴り出し期の母趾荷重が不十分な為に,強い蹴り出しが行えずN群より重複歩距離の伸び率が少ないと考えられた.足趾機能が踏み返し期の母趾荷重量を通して重複歩距離に影響を与えるというメカニズムが考えられた.
著者
地神 裕史 椿 淳裕 佐藤 成登志 遠藤 直人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P2231, 2010

【目的】<BR> 近年、モータリゼーションの発展やライフスタイルの変化により歩行の機会が減少し、そのことが様々な骨関節系のトラブルを引き起こしている。外反母趾もその一つで、歩行機会の減少やファッションの欧米化に伴う履物の変化から、足趾や足底筋膜の機能不全、縦・横アーチの低下を引き起こし、二次的に生じるといわれている。医療保険の適応となる病的な外反母趾の診断基準には合致しない、いわゆる外反母趾予備軍は本邦において老若男女問わず増加傾向にあるといわれており、様々な分野でクローズアップされている。<BR> 正常歩行における推進力は足関節や前足部が地面を蹴り出すことによって得られるが、外反母趾患者やその予備軍の蹴り出しは、母趾の先端まで使えず母指球に多大なストレスを与えている場合が多く、そのことが更なる痛みを助長していると推察される。<BR> よって今回、歩行時に痛みを有さない健常者の足圧分布を測定し、母趾や母趾球に加わる圧変化と足部の形態学的異常との関係を明らかにすることを目的に本研究を行った。<BR>【方法】<BR>対象は歩行時に下肢に痛みを有さない健常者12名(25~64歳、平均年齢44.8±16.4歳)とした。方法は、足部の形態学的評価として(1)足長、(2)足囲、(3)アーチ高、(4)アーチ長、(5)アーチ高率(アーチ高/足長×100)、(6)外反母趾角度(Hallux Valgus Angle:HVA)、(7)第1中足骨の縦軸線と第2中足骨の縦軸線の角度(M1M2角)、を測定した。歩行能力の評価としてTimed up and go testを実施した。また、歩行時の足圧分布を足圧分布測定機器(ニッタ株式会社製)にて測定した。歩行時の立脚後期の蹴り出しの際に前足部に加わる足圧分布を母趾球エリア、母趾エリア、第2~5趾エリア、それ以外、の4分割にし、各々のエリアに加わる圧変化と形態学異常との関係を検討した。測定はすべて右側で統一し、歩行条件は最大速歩とした。<BR>【説明と同意】<BR>対象者への説明と同意は、書面と口頭にて研究概要と目的を説明し、同意書に署名をいただいた。なお、本研究は新潟医療福祉大学の倫理審査委員会の承認を経て行った。<BR>【結果】<BR> アーチ高は平均3.4±0.5cm、外反母趾の程度を判断するHVAは平均17.1±4.6°、M1M2角は平均13.8±1.8°であった。立脚後期の蹴り出し時に前足部にかかる圧の総和を100%としたときの、各エリアにおける圧分布は、母趾球エリアで34.2±14.2%、母趾エリアで16.2±5.3%、第2~5趾エリアで9.6±6.2%、それ以外のエリアで40.0±13.7%であった。蹴り出しの際の母趾球と母趾に加わる圧の比率を母趾球の圧/母趾の圧(母趾球/母趾比)で表すと平均で2.2±1.0であった。形態学的にはHVAが15°以下、M1M2角が10°以下であれば正常範囲と言われているが、今回HVA15°以上は58.3%、M1M2角が10°以上が91.7%であった。HVA15°以上の7名を外反母趾群、15°未満の5名を正常群と分けた場合、外反母趾群の母趾球/母趾比は2.8±0.7あり、正常群の1.3±0.7と比較し有意に増大していた(p<0.05)。<BR>【考察】<BR> 歩行時に下肢に痛みを有さない健常者を対象に計測を行ったが、半数以上の対象者がHVA15°以上で形態学的な異常が認められた。様々な先行研究で近年無痛性の外反母趾が増加していることを報告しているが、本結果はこれらの先行研究を支持する結果となった。<BR> 今回、蹴り出しの際の母趾球と母趾の使用割合を明らかにする為に母趾球/母趾比を算出したが、この値は外反母趾群が有意に増大していた。この結果は歩行時の推進力を得るために必要不可欠な蹴り出しが、外反母趾群では母趾の先端ではなく、母趾球で生み出されていることを意味している。そもそも外反母趾は第1中足趾節関節で母趾が外反変形した状態と定義されるが、この状態は第1中足骨の内反を伴うことが多いとされる。このような形態学的な変化は長・短母趾屈筋の収縮時の作用方向を変化させてしまうため、蹴り出しの際に母趾の先端で蹴り出すことが難しくなると考える。<BR>【理学療法研究としての意義】<BR>今回用いた母趾球/母趾比は、歩行時の蹴り出しをどの部位で行っているか評価し、特定の部位に過剰なストレスが加わっていないか評価する上で有用な指標であると考える。また、このような指標を用いて歩行解析を行うことで二次的な外反母趾変形による痛みの出現や、変形の進行を防止する上で非常に重要であると考える。
著者
山田 結香子 地神 裕史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.H4P1229, 2010

【目的】本研究の目的は,立位及び歩行時における足圧分布を測定し,外反母趾変形による足部及び足趾へかかる圧を明らかにすることで,変形の増悪や有痛性外反母趾を引き起こす要因となりうるか検討することである.<BR>【方法】対象は日常生活における歩行に影響を及ぼす疾患のない健常成人女性18名とした.年齢21.6±0.6歳,身長160.1±3.5cm,体重52.9±6.2kg(平均値±標準偏差)であった.足部の形態学的評価として足長,第1趾側角度,アーチ高,アーチ高率,Leg-heel angle(以下LHA)を測定した.今回,X線計測に最も近い外反母趾角測定法とされている第1趾側角度において15°の基準を設け,15°以上を外反母趾群,15°未満を正常群として2群に分配した.足圧分布測定機器(BIG-MAT1/4,Nitta株式会社製)を使用し,静止立位を10秒間測定後,10m歩行路上にセンサーシートを固定し,歩行時に踏むように指示した.数回練習を行い,自然歩行にて3回測定した.前足部に加わる足圧分布を母趾球エリア,母趾エリア,第2~5趾エリア,その他のエリア,に4分割した.更に足趾を除いた部分を均等に3分割し,中間にあたる部分を土踏まずエリアとして,計5エリアに分割した.解析項目は,母趾に対する母趾球の圧を調べるために,それぞれに加わる圧の比率を母趾球/母趾比として算出した.歩行時における解析区画は,蹴り出し時に相当するheel off~toe off(以下HO~TO)とした.なお,各エリアにかかる荷重値を被験者の体重で除して正規化し,各エリアで得られたデータはそれぞれ加算平均した.<BR>【説明と同意】全被験者に対し,本研究の目的及び内容について事前に説明し,同意を得た.<BR>【結果】形態学的評価の結果,足長を除く,第1趾側角度,アーチ高,アーチ高率,LHAの項目で群間において有意差がみられた(p<0.01).母趾球と母趾に加わる圧の比率を母趾球の圧/母趾の圧(母趾球/母趾比)で算出した.静止立位及び歩行共に群間に有意差は得られなかった.しかし,各群でそれぞれ母趾圧に対する母趾球圧の大きさを検討したところ,静止立位では両群において,歩行時では外反母趾群において,母趾に対する母趾球の圧が有意に大きな値であった(p<0.01). <BR>【考察】静止立位及び,歩行における蹴り出し(HO~TO)の際の母趾と母趾球の使用割合を母趾球/母趾比として算出し,群間での比較と母趾圧に対する母趾球圧の割合を検討した.静止立位における体重の全体量は,まず距腿関節で距骨にかかり,そこからアーチの支持点方向へと3箇所に分散されていく.静止立位では足趾への荷重量は小さく,相対的に母趾球の荷重量が大きくなったことが考えられる.変形の増悪や有痛性外反母趾を引き起こす要因となり得る程の圧が加わっているとは考えにくく,外反母趾変形が静止立位時に足趾や足部に及ぼす影響は極めて小さいことが推察された.歩行における蹴り出し時,外反母趾群では母趾球にかかる圧が母趾にかかる圧に対し有意に大きい結果となった.これは外反母趾変形を有する足部では,歩行における蹴り出しの際に母趾球により多くの圧が加わることを示唆している.外反母趾変形では,形態学的変化に伴う母趾作動筋の位置変化により,母趾の機能不全が生じるといわれており,加えて,外反母趾変形を有する者の歩行では,母趾での蹴り出しが消失するとの報告もある.以上のことから,外反母趾変形を有する者は母趾球で踏み切っていると考えられる.この母趾球部での離床が歩行時推進期の度に生じるということは,母趾球部へ日常的に反復的なストレスが加わることになる.外反母趾の疼痛発生のメカニズムは,形態的異常の生じた部分と靴等との外部環境の間に過剰な負荷や異常な圧上昇が生じることによる.このことから,今回本研究で得られた,外反母趾変形を有する者の蹴り出しの際にみられる母趾球圧上昇は,更なる変形の増悪やそれに伴う有痛性外反母趾を引き起こす要因に成り得ることを示唆していると考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究において,第1趾側角度が15°以上の者は,18人中7人みられたが,外反母趾を自覚し何らかの対策を講じている者は1人もみられなかった.このように,外反母趾は身近な問題でありながら,軽度で無痛性の場合,放置されがちである.有痛性外反母趾成因の一つとして,外反母趾変形を有する足部での歩行を検討していくことは,二次的な疼痛の出現や,更なる変形の進行を防ぐ上で非常に重要であると考える.<BR>
著者
大見 頼一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.47, pp.H-22-H-22, 2020

<p> 「ACL再建術後のスポーツ復帰は良好だけど,怪我をする前に何かできることはないのでしょうか?」我々のACL損傷予防の取り組みは,あるトレーナーさんからのこの一言によって始まった。調査すると欧米ではACL損傷を予防するために様々な予防プログラムが考案されていることを知り,「是非日本でもこれをやってみたい」と考えた。そこで「スポーツ現場での予防プログラムの普及と研究の実践」をコンセプトに有志PTで「スポーツ傷害予防チーム」を作り,予防活動を始めた。開始当初は,欧米のプログラムを真似して行ってみたが様々な問題があり,独自のプログラムを考案することが必要であった。膝関節は特に体幹・股関節の肢位から影響を受けるため,股関節に着目した予防プログラムであるHip-focused Injury Prevention program(HIP program)を考案した。HIP programはジャンプ着地,股関節・体幹筋力強化,バランスの3要素から構成され,この介入によって,高リスク種目である女性バスケットボール選手の非接触型損傷発生率は有意に減少した(Omi AJSM2018)。</p><p> 近年,初発のACL損傷以外に問題となっているのが,ACL再建術後の再損傷である。再損傷は再建靭帯が損傷する再断裂と対側損傷に分けられ,若年スポーツ選手の発生率は再断裂11%,対側損傷12%と報告されている。再断裂は術後1年以内に発生することが多く,理学療法によって減少できる可能性がある。我々は,2011年からこのHIP programをACL再建術後のリハビリプロトコルに組み込み,再断裂予防リハプロトコルを作成した。再断裂予防リハ導入後では,その発生率は約半減した。このような予防活動の実践と効果検証を行ってきたが,すべては予防チームの理学療法士と当院理学療法士のチーム力によるものである。この度はスポーツ現場と臨床での実際と効果検証について紹介する。</p>
著者
大川 裕行 坂野 裕洋 梶原 史恵 江西 一成 田島 文博 金森 雅夫 緒方 甫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.E0782, 2005

【はじめに】車いすマラソンは障害者スポーツの中でも過酷な競技の一つである.選手のコンディションを把握できれば安全な競技運営に加え,高いパフォーマンスの発揮を可能にすることが考えられる.そこで,マラソン競技の前後で選手の疲労度とストレス,免疫機能を調査し若干の知見を得たので報告する.<BR>【方法】第23回大分国際車いすマラソン大会出場選手中,協力の得られた選手59名を対象とした.その中でデータの揃っている者46名(平均年齢37.3±10.4歳,フルマラソン出場選手22名,ハーフマラソン出場選手24名,男性44名,女性2名,クラス2;7名,クラス3;39名)の結果を検討した.調査項目は,心拍数,血圧,主観的疲労度,コルチゾール,免疫グロブリンA(IgA),競技順位とした.心拍数と血圧は競技前日に測定した.競技前日,競技開始直前,競技終了直後,競技翌日に主観的疲労度をvisual analog scaleで測定し,同時に採取した唾液からコルチゾール,IgAを測定した.調査実施に際しては十分な説明を行い,文書による同意を得て行った.<BR>【結果】測定期間中にコルチゾール,IgAともに正常範囲から逸脱した選手はいなかった.選手の競技前日の心拍数と競技順位,コルチゾールには有意な相関関係が認められた(p<0.05).競技前日を基準として競技直前,競技直後,競技翌日の変化率を求めたところ,主観的疲労度は45.6%,214.1%,58.7%,コルチゾールは73.5%,91.0%,30.0%,IgAは2.0%,5.0%,10.0%に変化していた.競技前日の主観的疲労度,血圧,IgAと競技順位には関係を認めなかった. <BR>【考察】選手の主観的疲労度は競技終了直後にピークを示し,競技翌日にも競技前日の値に戻っていなかった.選手は競技翌日にも中等度の疲労を感じていた.一方,ストレスホルモンであるコルチゾールは競技翌日に競技前日の値に戻っていた.選手の主観的疲労度と客観的なストレス指標には乖離があることが分かった.競技前日のコルチゾールが競技前日の心拍数と有意に相関し,競技順位と有意に相関したことは,トレーニングにより一回拍出量が増加し安静時心拍数が低下している選手,競技開始前に落ち着きを保っている選手は競技成績が優れているという結果を示すものである.IgAの値は競技翌日にピークを示した.選手の主観的疲労度とは異なり車いすマラソンにより高まった選手の免疫機能は運動後にさらに向上していた.選手にとって車いすマラソンは免疫機能を高める適度な運動強度である事が示唆された.さらに詳細な調査を続けることで選手の安全管理と競技力向上へ有益な情報が提供できる可能性がある.
著者
長島 正明 江西 一成 近藤 亮 松家 直子 片山 直紀 永房 鉄之 美津島 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【目的】皮膚筋炎・多発性筋炎は骨格筋を病変の主座として,亜急性に進行する近位筋優位の筋力低下や筋痛を認める全身性炎症性疾患で,発症は40歳代から60歳代の女性に多いとされている。早期診断・適切な治療により日常生活が自立する例も多いものの,好発年齢の関係から,自宅退院後の生活や仕事,余暇活動において高い身体機能が望まれる。今回我々は,急性期病院退院時にADLが自立していた皮膚筋炎・多発性筋炎患者を対象に体力測定を行い,同年健常者と比較することで筋炎患者の身体能力の実態を調査した。【方法】対象は当院入院し今回初めて皮膚筋炎もしくは多発性筋炎と診断され,退院時にADLが自立していた8名であった。測定は退院前1週間前後に実施した。比較対象群として,運動習慣のない同年健常者ボランティア9名を設定した。呼気ガス分析装置および自転車エルゴメータを用い,5もしくは10wattランプ負荷とし,嫌気性作業閾値および最高酸素摂取量を測定した。嫌気性作業閾値はV-slope法にて決定した。最高酸素摂取量はペダル50回転を維持困難,最大心拍数の90%,ボルグスケール19,危険な不整脈や胸痛の出現,被験者からの中止要請のいずれかに該当した時の酸素摂取量とした。6MWTは30mの折り返し歩行とし,最大歩行距離を測定した。筋力は筋機能評価運動装置BIODEXを用い,利き足の等尺性膝伸展最大筋力を膝屈曲90°位で測定した。統計学的解析はSPSSを用いてMann-Whitney U検定にて群間比較を行った。有意水準は危険率5%未満とした。【説明と同意】対象者には本研究の趣旨,情報管理および結果の公表に関して,口頭で説明し文書にて同意を得た。本研究は浜松医科大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】対象は全例女性であった。年齢(歳)は筋炎群46±9,健常者群44±8であった。身長(cm)は筋炎群156±5,健常者群157±4,体重(kg)は筋炎群44±7,健常者群50±5,BMI(kg/m<sup>2</sup>)は筋炎群18.1±2.9,健常者群20.1±1.7であった。いずれも群間に有意差はなかった。筋炎群の退院時血清クレアチンキナーゼは196±230(15-655)IU/Lであった。退院時の内科的治療は1例がステロイド内服25mg/日,5例がステロイド内服30mg/日,1例がステロイド内服30mg/日+ネオーラル100mg/日,1例がステロイド内服30mg/日+メソトレキサート12mg/週であった。在院日数は65±19日であった。ADLはBarthel Indexで全例100点であった。全例筋痛は認めなかった。嫌気性作業閾値(ml/kg/min)は筋炎群10.3±3.1,健常者群14.7±4.9であった。最高酸素摂取量(ml/kg/min)は筋炎群18.6±6.6,健常者群27.2±7.3であった。6MWT(m)は筋炎群511±110,健常者群641±49であった。Peak load(watt)は筋炎群68±27,健常者群115±30であった。いずれも筋炎群で有意に低値であった。安静時心拍数(beats/min)は筋炎群75±11,健常者群64±9であり,筋炎群は有意に高値であった。最大心拍数(beats/min)は筋炎群151±21,健常者群157±9で群間に有意差はなかった。筋力(Nm/体重)は筋炎群1.35±0.40,健常者群2.52±0.28であり,筋炎群は有意に低値であった。【考察】皮膚筋炎・多発性筋炎患者はI線維の割合が有意に少ない(Dastmalchi 2007)ことが報告されている。一方,副腎皮質ステロイドの大量投与もしくは長期投与はIIb線維の特異的な萎縮を来す(Pereira RM 2011)ことが知られており,筋炎患者は病態上も治療上も特異的な筋病態を呈していることが推察される。また,下肢最大筋力が大きいほど歩行速度は速い(淵本1999)など一般的に筋力は運動パフォーマンスと関係すると言われている。身体能力の低下は骨格筋量の減少を背景として,6MWTではIIb線維の萎縮に伴う最大筋出力低下が起因し,有酸素能力ではI線維割合の低下に伴う末梢での酸素利用能低下が起因するものと考えられる。安静時心拍数は筋炎患者において有意に高かった。疾患それ自体が自律神経系に与える影響が大きいこと,また入院による運動不足に伴う交感神経活動の亢進が要因かもしれない。本研究により筋炎患者の有酸素能力,筋力,歩行能力が低下していることが明らかとなったが,自宅退院後および社会復帰後に,どの程度の制限を受けるかは定かではない。今後は生活に応じた実態調査が必要である。【理学療法学研究としての意義】皮膚筋炎・多発性筋炎患者において,ADLが自立していても有酸素能力,筋力,歩行能力は低下していることが判明した。筋疾患の場合,運動自体が筋線維を壊してしまう場合があるが,血清クレアチンキナーゼ,筋痛や筋力低下などの症状に配慮しながら運動療法を実施する必要性が示唆された。
著者
堀野 洋 森 信彦 松木 明好 鎌田 理之 平岡 浩一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101509, 2013

【はじめに、目的】眼球運動時に安静にある第一背側骨間筋、小指外転筋、橈側主根伸筋の運動誘発電位(MEP)振幅が減少することが報告されている(Maioli et al. 2007)が、目と手の協調を必要とする眼球・腕運動同時実施時に眼球運動が上肢筋支配の皮質脊髄下降路に及ぼす影響は明らかでない。本研究では目と手の協調を必要とする眼球・腕同時の標的運動時に眼球運動が上腕二頭筋・三頭筋支配皮質脊髄下降路興奮性に及ぼす影響を検証した。【方法】健常成人11 名(23-35 歳)に椅子座位をとらせ、右肘関節を屈伸できるペンデュラムに右上肢を乗せた。ペンデュラム前腕部に前腕運動を壁面に投影するレーザーポインターを設置し、頭部固定装置で頭部を固定した。右上腕二頭筋と右上腕三頭筋に記録用表面電極(EMG)を取り付けた。角膜反射光法による眼球運動計測装置を取り付けた。被験者の1m前方の壁の正中線上に開始位置マークと、その20°左側に終了位置マークを設置した。開始位置マークにレーザービームを合わせて右肘関節屈曲35°の開始肢位を取らせ、警告音の1000ms後の開始音を合図に右肘関節屈曲55°の位置にある終了位置マークにレーザービームを一致させる課題を行わせた。眼球運動は、開始音(500Hz)を合図にレーザービームを眼球で追従させる条件(円滑追従眼球運動;SP)、開始音(143Hz)を合図に開始位置マークを凝視させる条件(眼球静止;EM)、開始音(84Hz)を合図に視線を終了位置マークに急速に移動させる条件(衝動性眼球運動;S)の3 条件とした。double cone coilを使用し、運動閾値の1 倍で上腕二頭筋hotspotに経頭蓋磁気刺激(TMS)を行った。TMSのタイミングは、右肘関節屈曲運動前の開始音時、開始音後200 ms、腕運動初期相・中間相・最終相)で実施した。【倫理的配慮、説明と同意】実験は大阪府立大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。被験者には実験の目的・方法及び予想される不利益を説明し同意を得た。【結果】眼球運動のreaction time(RT)は各条件において有意差を認めなかった。上腕二頭筋EMGのRTはS条件において他の条件に対して有意に延長した。SP・S条件において眼球運動RTと上腕二頭筋EMGのRTの間で有意な相関を認めた。肘関節運動時間はSP条件において他の条件に対して有意に延長した。上腕二頭筋のbackground EMG振幅は初期相においてSP条件で他の条件と比較して有意に低下したが、それ以外の相では3 条件間で有意差を認めなかった。上腕二頭筋・上腕三頭筋のMEP振幅は3 条件間で有意差を認めなかった。開始音後200msの上腕二頭筋・上腕三頭筋の上腕二頭筋・上腕三頭筋のbackground EMG振幅は3 条件間で有意差を認めなかった。開始音後200msの上腕二頭筋・上腕三頭筋のMEP振幅は3 条件間で有意差を認めなかった。【考察】円滑追従眼球運動・衝動性眼球運動における上腕二頭筋EMGのRTに対する有意な相関は、眼球運動と腕運動が同一運動制御中枢のトリガーにより開始されることを示唆した。円滑追従眼球運動条件における腕運動時間延長と上腕二頭筋BEMG振幅低下は、眼球で追える程度の腕運動速度に低下させるためにEMG活動が減少したためであると考えられた。一方、皮質脊髄下降路興奮性は運動開始前・運動開始中とも眼球運動条件間で有意差がなかった。特に運動開始前には固有感覚や視覚フィードバックが生じないので、この相におけるMEPは腕運動および眼球運動命令の影響を純粋に反映するものと考えられる。したがって、本研究の知見は、目と手の協調を必要とする標的運動時であっても、眼球運動命令は腕筋支配皮質脊髄下降路興奮性に影響を及ぼさないものと考えられた。安静状態にある前腕・手指筋のMEP振幅は円滑追従眼球運動時に減少するが、これは眼球運動によって一部共有する眼球運動中枢からの腕・指運動命令中枢が眼球運動時に運動命令を生じて安静にもかかわらず腕・指運動が生じることを予防するために生じていると考えられている(Maioli et al. 2007)。本研究でこのようなMEP振幅減少が確認されなかった理由は、腕運動を同時に遂行したため、運動発現予防のための上腕筋支配皮質脊髄下降路興奮性抑制の必要がなかったためと考えられた。【理学療法学研究としての意義】目と手を同時に標的へ動かした時の運動制御機能について明らかにすることにより、様々な日常生活動作に関する上肢のリーチング動作やポインティング動作への理学療法アプローチに資する知見である。
著者
土田 将之 柴田 昌和
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】人体に多数存在する骨格筋の各々には複数の線維束があり,それらは異なる機能的特徴を持ち,中枢神経制御から独立した働きをすると考えられている。中殿筋の線維束については前部線維,中部線維,後部線維の3つの線維束を持つという報告と,前部線維,後部線維の2つの線維束を持つという報告がある。しかしそれぞれの線維束の境界についての具体的な場所の記述はない。中殿筋は理学療法の治療対象となる機会が多い筋であり,その研究も多くなされている。その研究手法は表面筋電図を用いたものが主流であるが,筋線維束の境界が不明確なため,電極の貼付位置が統一されていない。そこで本研究の目的は ①複数あるといわれる中殿筋の筋線維束の境界を形態的に明らかにすること ②確認した複数の線維束上に,表面筋電電極を貼付するための適切な位置を検討すること ③中殿筋の働きについて,線維束の違いによる機能的特徴という観点から再考することとした。【方法】大学病院において,献体を用い以下の3つの実験を実施した。①中殿筋線維束の境界を観察するために,7体(男3,女4)13肢の中殿筋を剖出し,肉眼にて線維走行の異なる箇所(境界)の有無を観察し,境界に沿って中殿筋を分け,内部構造を観察した。②7体(男4,女3)14肢の中殿筋を取り出し,前部線維と後部線維に分割し,その湿重量を測定し,前後の重量比を算出した。③7体13肢の右下肢の腸脛靭帯と中殿筋,中殿筋と大殿筋の境界位置を腸骨稜上で計測し,腸骨稜長(ASISから腸骨稜を辿りPSISへ至るまでの長さ)の何%の位置にあるかを記録した。その後腸脛靭帯と大殿筋を剥離し,先行文献が示す3つの電極の貼付箇所(A:ASISと大転子を結んだ線上の50%の位置,B:腸骨稜と大転子を結んだ線上の50%の位置,C:腸骨後部と大転子を結んだ線上の33%の位置)にピンを挿し,位置の妥当性を検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は神奈川県立保健福祉大学ならびに神奈川歯科大学倫理委員会の承認を得たうえで行った。【結果】①腸骨稜長の約60%の位置と大転子を結んだ線を境にして,中殿筋は明確な筋線維走行の違いを見せており,この線を境にして中殿筋が前部線維と後部線維に分かれる様子が確認できた。その他の明瞭な境界線は確認されなかった。次に,確認された境界より中殿筋を分け,内部構造を観察したところ,後部線維の停止部が腱組織に移行しており,中殿筋はこの内部腱を境界として構造的に前部線維と後部線維に分かれていることを確認した。②平均重量は前部線維130.1±25.9g,後部線維は100.8±22.0gで,散布図の近似曲線の傾きより前部線維と後部線維の重量比は約10:8であった。③A,Bはともに中殿筋の前部線維上に,Cは後部線維上に位置することが確認できたが,翻転していた大殿筋を起始部に戻すと,Cの位置は大殿筋の線維に覆われてしまうことが確認された。【考察】後部線維の重量比の大きさから,骨盤・下肢の安定性に対する後部線維の役割は,従来考えられているものより大きいと考えた。特に,後部線維の働きが股関節の進展・外転・外旋であることを考えると,ジャンプ後の片脚着地動作などの場面で股関節の屈曲・内転・内旋を制動し,前十字靭帯損傷の危険性を軽減させる要因となっている可能性が考えられた。また電極の貼付位置については,先行文献が示す位置では,Aは腸脛靭帯の上から中殿筋の前部線維の前方筋腹上に位置し,Bは前部線維の後方筋腹上に位置していたが,Cの箇所には大殿筋の筋線維が走行していた。ASISから計測した腸骨稜長の約60%~83%の位置において,大殿筋に覆われていない中殿筋後部線維の走行が確認されたことから,後部線維の筋活動を計測するための,より適切な貼付位置の存在が示唆された。【理学療法学研究としての意義】明確にされていなかった中殿筋線維束の境界を明らかにすることで,表面筋電計を用いた理学療法研究における,研究手法確立の一助となり得ること。
著者
宮澤 大志 白井 英彬 五味 恭佑 江戸 優裕
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】ウィンドラス機構は足部の剛性と柔軟性を制御する上で重要であるが,臨床での定量評価は難しく,簡便な方法が示されてはいない。そこで,本研究ではウィンドラス機構の働きを,臨床で評価可能な中足趾節関節(以下,MP関節)の伸展に対する内側縦アーチの挙上率で定義した。その上で,他の理学所見や歩幅との関係からウィンドラス機構が破綻した症例に対する介入の糸口を見出すことを目的とした。【方法】対象は,健常成人25名(男性12名・女性13名:年齢24.5±2.1歳・身長164.0±9.1cm・体重55.0±10.0kg)とし,ウィンドラス機構の定量評価と,歩幅・下肢の関節可動域(以下,ROM)および筋力の計測を行った。ウィンドラス機構の評価は,全足趾のMP関節の伸展0度に対する他動的な伸展20度条件における舟状骨高の変化率と定義した(以下,ウィンドラス比率)。計測肢位は端座位とし,大腿遠位部に体重の10%の荷重をかけた。歩幅の計測は目盛をつけた歩行路上の歩行をビデオカメラにて矢状面から撮影して判定した。ROMおよび筋力は,股関節屈曲・伸展・外転・内転・外旋・内旋,膝関節屈曲・伸展,足関節背屈・底屈をランダムな順に計測した。筋力は徒手筋力計ミュータスF-1(アニマ社製)を使用し,アニマ社が規定する方法に準拠して計測した。また,筋力は3回計測,歩幅は4回計測した平均値を採用し,各々体重比(%BW)と身長比(%BH)を算出した。統計学的分析は,各項目間の関係をPearsonの相関係数を用いて,危険率5%(p<0.05)で検討した。【結果】ウィンドラス比率の平均は,108.9±4.9であった。ウィンドラス比率とその他の項目の関係は,反対側の歩幅(r=0.44)・足関節背屈ROM(r=0.46)・足関節底屈筋力(r=0.44)に有意な相関を認めた。足関節背屈ROMと足関節底屈筋力(r=0.45)および反対側の歩幅(r=0.38),足関節底屈筋力と反対側の歩幅(r=0.45)にも有意な相関を認めた。【結論】本研究で定義したウィンドラス比率は,MP関節の伸展によるアーチ拳上の大きさを表す。したがって,ウィンドラス比率が高ければ足部の剛性を効率的に高めることができるため,足関節底屈筋による足関節底屈トルクを効率的に前足部へ伝達できると考える。歩行中,このような強力なテコとしての役割が足部に求められるのはTerminal Stance(以下,TSt)である。TStは下腿前傾に伴って足関節背屈を強めるとともに前足部に荷重が移行し,反対側の下肢を振り出す時期である。このようなTStの要求に合わせて,ウィンドラス比率と足関節背屈ROMおよび底屈筋力,反対側の歩幅に相関を認めたと考える。臨床上,MP関節を伸展してもアーチが挙上しないウィンドラス機構が破綻した症例に遭遇する。足部内在筋強化や足底板などによりウィンドラス機構の改善を図るとともに,足関節底屈筋や背屈ROMの拡大により,安定したTStの構築に繋がると考える。
著者
杉田 翔 藤本 修平 今 法子 小向 佳奈子 小林 資英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>脳卒中者を介護する家族(家族介護者)の介護負担感に関連する主な要因は,主に介護の協力・相談相手の乏しさ,将来への不安といった身体的・精神的要因である(杉田ら,理学療法科学,2016)。しかし,理学療法士(PT)・作業療法士(OT)の介護負担感に対する認識や介入の意思決定がそのような先行研究の証拠を元にしているか不明である。そこで本研究では,脳卒中者の家族介護者について介護負担感の要因に対するPT・OTの認識と,その要因に対する対応策について調査することとした。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は,回復期リハビリテーション病棟に所属するPT・OT 16名(PT・OT各8名,平均経験年数5.8年,範囲2-11年)とし,事前に作成したインタビューガイドに沿って半構造化面接を行った。面接の内容は,1)家族介護者の介護負担感が強くなると感じた脳卒中患者の特徴,2)退院後に家族介護者が介護負担を感じる状況,3)介護負担感を軽減させるために行っている対応策の3点とし,目的とする内容把握の聴取に努めた。なお,面接は個室で個別に行い,聴取した内容は,ICレコーダー(ICD-PX440;SONY製)にて録音した。</p><p></p><p>得られたデータについて,帰納的テーマ分析を行った。まず,録音した音声から逐語録を作成した。逐語録から介護負担感の要因と,介護負担感への対応策に関する語句を抽出し,コードを割り当てた。次に,類似したコードをまとめ一次カテゴリを作成した。さらに一次カテゴリのうち類似したものをまとめ,二次カテゴリを作成した。分析は,2名の医療者が独立して行い,妥当性の担保に努めた。2名の意見が一致しなかった場合は,第三者を含む医療者4名のディスカッションを踏まえ,カテゴリを決定した。なお,分析はインタビュー実施毎に行い,カテゴリが理論的飽和に達するまで行った。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>データを分析した結果,PT・OTが挙げた介護負担感の要因は,「身体的な介助量」「入院中と在宅生活での能力の差」「介護者に合わせた家族指導」などの身体的要因と「介護者への必要以上の依存」が抽出された。身体的要因の対応策として,「福祉用具の提案」,「在宅を想定したリハビリテーション」,「レスパイトケアの情報提供」が挙げられたが,「介護者への必要以上の依存」への対応策は抽出されなかった。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>PT・OTは,介護負担感に関して身体的な介助量に着目し,介助方法や福祉サービスの情報提供を行っていた。先行研究では介護負担感と日常生活能力の関連については一定の見解がなく,家族介護者に相談相手がいないこと,不安といった精神状態と強く関連していることが示されている(杉田ら,理学療法科学,2016)。つまり,PT・OTと脳卒中者の家族介護者には,介護負担感に関する認識と対応策に乖離がある可能性が示唆された。ただし,本研究デザインは質的研究を用いており量的な側面の把握に限界があるため,今後の課題としたい。</p>