著者
大山 祐輝 山路 雄彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.I-68_1-I-68_1, 2019

<p>【はじめに,目的】側臥位からの起き上がり動作時の下側の上肢位置は,先行研究より肩関節を60°屈曲位に設定することが望ましいとされる.しかし,実際の臨床場面においては,ベッド幅の狭さや,側臥位となる際にベッド柵を用い上肢を引き込み,側臥位での肩関節屈曲位が,60°以下になっていることが多い.また,筋電図学的研究では,腹筋群を着目したものが多い.そこで,本研究では,異なる肩関節屈曲位での側臥位からの起き上がり動作における,肩甲骨周囲筋特性を明らかにすることを目的とした.</p><p>【方法】整形外科的疾患の既往がない,健常成人男性13名を対象とした.対象動作は右側臥位からon elbowまでの起き上がり動作とした.施行条件は,開始肢位より①肩関節屈曲0°(条件①),②肩関節屈曲60°(条件②)とした.条件①は,肘関節は90°屈曲位とした.施行時間は,1secに設定した.各条件を3施行ずつ実施した.筋活動は表面筋電計(日本光電社製:WEB-7000)を用いて測定した.導出筋は,右側の三角筋後部線維,僧帽筋中部線維,僧帽筋下部線維,左側の外腹斜筋の4筋とした.表面筋電図はサンプリング周波数1000HzでA/D変換した.動作時より得られた各対象筋における筋電図波形は,最大随意収縮(maximum voluntary contraction;以下,MVC)発揮時の積分値で除することによって筋活動量(以下,%MVC)を求めた.角度に関して,各条件での動作終了時の右肩関節外転角度を測定した.解析方法に関して,条件間の比較にて①動作開始後0.1sec,②筋収縮ピーク前後0.1sec,③動作終了後1secの各筋の%MVCを対応のあるt検定にて比較した.有意水準は5%とした.</p><p>【結果】動作開始後0.1secに関して,全ての筋の筋活動量に有意差を認めなかった.筋収縮ピーク前後0.1secに関して,僧帽筋下部線維のみ,条件①(43.2%)が条件②(24.4%)と比較して有意に筋活動量が大きかった.動作終了後1secに関して,全ての筋において,条件①は条件②と比較して有意に筋活動量が大きかった.動作終了時の右肩関節外転角度は,条件①(37.9°)は条件②(61.0°)と比較し有意に小さかった.</p><p>【考察】条件①の動作は条件②と比較し,筋収縮ピーク時に肩甲骨は上方回旋へ作用し,それを制御するために僧帽筋下部線維の活動が高まったと考えられる.また条件①は動作終了時の肩関節外転角度が小さく、すなわち支持基底面が条件②と比較し小さくなり,on elbow肢位保持により大きな筋活動を要することが考えられた.</p><p>【結論】上肢を引き込んだ状態での側臥位からの起き上がり動作は,肩甲骨の固定や肢位保持に大きな筋活動を必要とするため,上肢位置の調整や,体幹だけでなく肩甲骨周囲筋の筋力強化が必要であることが示唆された.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究を行うに当たり,医療法人社団日高会日高病院の医療倫理委員会の承認を得た(承認番号:126).全ての対象者には,ヘルシンキ宣言に従い,本研究の目的,方法,利益,リスクなどの口頭および文書で説明し同意を得た.なお,同意は本人のサインをもって研究参加に同意したものと判断した.また,収集したデータは機密情報として扱い,研究者のコンピュータ内のみで解析され,研究者のみが知る登録番号で管理されることに加え,参加するかしないかは完全に本人の自由意志であることも加えた.</p>
著者
増田 幸泰 中野 壮一郎 小玉 陽子 北村 智之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101929, 2013

【はじめに】 松葉杖は臨床において下肢骨折などにより免荷が必要な患者に多く用いられている歩行補助具の一つである.しかし,松葉杖免荷3点歩行(以下,松葉杖歩行)は不安定な歩行形態であり,臨床においても歩行獲得のための指導に苦慮するケースがみられる.松葉杖歩行には上肢筋力が関与しているとされ,動作解析やエネルギー消費など様々な検討が過去にもなされている.しかし,実際の臨床において松葉杖歩行を可能にするために必要な筋力以外の運動機能についての詳細な検討はあまりみられていない.そこで,本研究では松葉杖歩行に関与すると思われる運動機能として筋力に加えて,バランスや柔軟性,敏捷性などを検討することで,臨床における松葉杖歩行指導の一助とすることを目的とした.【方法】 対象は健常成人女性22名(29.0±5.5歳)とし,過去に松葉杖使用の経験がない者とした. 測定項目は松葉杖歩行,身長,体重,10m快適歩行と最大歩行の他に,筋力の指標として握力,等尺性膝伸展筋力,上体起し,柔軟性の指標として長座位体前屈,敏捷性の指標として棒反応テスト,バランスの指標として閉眼片脚立位時間とした.松葉杖3点歩行は利き足を免荷した状態での最大歩行を10m歩行路にて2回測定し,速度を算出した.快適・最大歩行速度についても同様に算出した.握力は握力計にて測定し,左右の平均値を体重にて補正した.等尺性膝伸展筋力はハンドヘルドダイナモメーターにて非利き足のみの測定を2回行い,最大値を体重で除した体重比(以下,下肢筋力)として算出した.上体起しは30秒間にできるだけはやく可能な回数を1回測定した.長座位体前屈は2回測定し,最大値を採用した.棒反応テストは5回の測定を実施し,最大と最小の値を除いた3回の平均値を算出した.閉眼片脚立位時間は非利き足が支持脚となるように立たせ,120秒を最大として2回測定し最大値を分析に用いた.統計学的分析にはピアソンの相関分析を用いて各項目の関連について検討をした.有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 本研究の実施にあたり,事前に対象者に対して書面にて研究の目的,内容を説明し,同意の署名を得てから測定を実施した.【結果】 各項目の平均値は松葉杖歩行 76.4±22.0m/min,身長157.5±5.7cm,体重 49.2±4.5kg,握力0.6±0.1kg,上体起し16.4± 4.3回,下肢筋力 0.54± 0.14kgf/kg,長座位体前屈35.1±8.9cm,閉眼片脚立位時間55.6±43.5sec,快適歩行速度 83.8± 9.6m/min,最大歩行速度118.5±17.9m/min,棒反応テスト22.8±3.7cmであった.相関分析の結果,松葉杖歩行と握力r=0.59,上体起こしr=0.51,下肢筋力r=0.55,閉眼片脚立位時間r=0.52,最大歩行速度r=0.63の間で有意な正の相関を認めた(p<0.01).年齢r=-0.31,身長r=0.17,体重r=-0.36,長座位体前屈r=0.19,棒反応テストr=-0.33の間では相関を認めなかった.また,最大歩行速度との間では下肢筋力r=0.65,握力r=0.57,上体起こしr=0.54に有意な正の相関を認めた(p<0.01)が,その他の項目においては有意な相関を認めなかった.【考察】 本研究の結果,先行研究と同様に松葉杖歩行と上肢筋力の指標とした握力において有意な正の相関を認めた.また,上体起こしと下肢筋力の間においても有意な正の相関を認め,松葉杖歩行においては歩行に影響するとされる下肢筋力のほかに,体幹筋力の影響も考慮する必要があると考えられた.さらに,バランスの指標とした閉眼片脚立位時間においても松葉杖歩行との間で有意な正の相関を認めた.閉眼片脚立位時間は最大歩行速度との間では有意な相関を認めておらず,このことから,松葉杖歩行を安定してより速く行うためには筋力の他にバランス能力の影響を考慮する必要があると考えられた.これらのことから,松葉杖歩行を指導する前に,閉眼片脚立位時間や筋力の測定を行うことが有用ではないかと考えられた.しかし,今回の結果は健常成人女性のみの検討であり,今後は対象者の拡大や実際の患者での影響を検討していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 松葉杖歩行における筋力以外の運動機能の関係を示唆した結果となり,臨床において松葉杖歩行獲得の指標となる可能性を見出した.
著者
岡安 健 高橋 高治 野本 彰 葛山 智宏 小川 英臣 高田 将規 木村 倫子 森田 定雄 石倉 祐二 小川 直子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P1371, 2009

【目的】<BR>近年、糖尿病やASOなど末梢循環障害による下腿切断患者は増加傾向にあり、下腿義足に全面支持式ソケット(Total Surface Bearing以下TSB)を処方することが多い.TSBは荷重を切断端全面で支持し、装着時の不快感が少ないという特性はあるものの、切断端の変化が起こりやすい末梢循環障害によるTSB使用患者の適合修正に熟練を要するとされる.実際のTSB内圧分布特性は明らかではなく報告も少ない.そこで、本研究ではTSBの適合修正の指標となるTSB内圧分布を測定し検討することを目的とする.また、切断端の変化が起こりやすい仮義足装着時期に、当院で一時的に行っている孔(以下除圧孔)設置による簡易的な適合修正についても紹介する.<BR>【対象】<BR>対象者は本研究の目的を説明して同意を得た、感覚障害を認めない片側下腿切断者5名の5肢(男性5名).年齢54±8.0才、身長170.2±7.2cm、体重66.4±16.5kg、切断端長15.6±2.0cmであり、測定肢は右側4肢、左側1肢であった.<BR>【方法】<BR>熟練した義肢装具士がTSBを作製.作製義足装着下で、静止立位時の不快感をvisual analogue scale(以下VAS)にて0/10となる至適アライメントを確認.ニッタ社製圧力分布計測システム(以下I-SCAN)のセンサーをシリコンライナー周囲に留置し、荷重計にて90%以上の荷重量を確認した状態で片脚立位及びStep動作時のTSB内圧分布を測定、同時に動作時の不快感をVASにて測定した.その後TSBの脛骨末端部に直径2cm、3cm、4cmの除圧孔を設置し、各直径で同様の方法にてTSB内圧分布測定と動作時の不快感をVASにて測定した.<BR>【結果】<BR>対象者の静止立位時の接触面平均内圧(以下内圧)は3.83±2.4kpaであり、圧力分布は概ね均一の値を示していた.片脚立位時の内圧は7.4±2.7kpa、切断端末梢部の内圧は10.6±4.5kpa、脛骨末端部の内圧は20.1±6.2kpaであった.Step動作時の内圧は7.3±1.9kpa、切断端末梢部の内圧は11.6±3.5kpa、脛骨末端部の内圧は22.9±3.3kpaであった.各動作時のVASは全対象者0/10であった.除圧孔非設置と比較して、直径2cmと3cmの除圧孔設置では各動作で著名は内圧変化を認めず、各動作時のVASは全対象者0/10であった.直径4cmの除圧孔設置では、除圧孔部の圧力低下と除圧孔周囲の内圧上昇を3名の対象者に認めた.全対象者の不快感はVASで3~6/10であった.<BR>【考察】<BR>本研究の結果は、荷重時に切断端末梢部の内圧増加を認めるとともに、切断端全面のみならず脛骨末端部を含めた骨構造で支持し、装着時の不快感が少ないというTSBの特性を示唆している.今後は症例数を増やし、より正確な内圧分布を明らかにすると共に当院で一時的に行っている除圧孔によるTSB適合修正の効果についても検討する.
著者
松本 元成 大重 努 久綱 正勇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】肩こりは医学的な病名ではなく症候名である。「後頭部から肩,肩甲部にかけての筋肉の緊張を中心とする,不快感,違和感,鈍痛などの症状,愁訴」とされるが,明確な定義はいまだない。平成19年の国民生活基礎調査によれば,肩こりは女性の訴える症状の第1位,男性では2位である。このように非常に多い症状であるにもかかわらず,肩こりに関して詳述した文献は決して多くない。我々理学療法士が肩こりを診る場合,姿勢に着目することが多いが肩こり者の姿勢に関する報告も散見される程度で,統一した見解は得られていない。臨床的には肩甲帯周囲のみならず,肋骨,骨盤なども含めた体幹下肢機能についても評価介入を行い,症状の改善が得られる印象を持っている。本研究の目的は,肩こり症状とアライメント,特に肩甲骨,肋骨,骨盤アライメントとの関連性について明らかにすることである。【方法】対象は当院外来患者で,アンケートにおいて肩こり症状が「ある」と答えた女性患者18名である。肩周囲に外傷の既往があるものは除外した。アンケートにおいて肩こり罹患側の左右を聴取した。罹患側の肩こり症状の強さをVisual Analogue Scale(以下VAS)を用いて回答して頂いた。アライメント測定は座位で実施した。座位姿勢は股関節と膝関節屈曲90°となるよう設定した。①体幹正中線と肩甲骨内側縁のなす角②胸骨体と肋骨弓のなす角③ASISとPSISを結んだ線が水平線となす角を,左右ともにゴニオメーターで測定した。①②③の角度を肩こり側と非肩こり側について,対応のあるt検定を用いて比較した。有意水準はそれぞれ5%とした。またPearsonの相関係数を用いて肩こり罹患側におけるVASと①~③のアライメントとの相関関係を検証した。【結果】①の体幹正中線と肩甲骨内側縁のなす角は,非肩こり側で12.50±6.13°,肩こり側で3.11±7.76°と肩こり側において有意に減少していた。②胸骨体と肋骨弓のなす角においては有意差を認めなかった。③ASISとPSISを結んだ線が水平線となす角は,非肩こり側で7.83±7.74°,肩こり側で3.17±8.59°と肩こり側において有意に減少していた。VASと①②③のアライメントについては有意な相関を認めなかった。【考察】本研究の結果より,肩こり側は非肩こり側に比べて肩甲骨の上方回旋が減少し,骨盤の前傾が減少していることがわかった。座位姿勢において土台となる骨盤のアライメントがより上方の身体へと波及し,肩こりに何らかの影響を及ぼしている事が示唆された。身体アライメントと肩こり症状の強さにはいずれも相関を認めず,症状の強さは今回調べた身体アライメントの異常だけでは説明がつかないことがわかった。本研究の限界として肩甲骨の上方回旋,下方回旋,骨盤では前後傾以外のアライメントには着目できていない。またあくまで同一被検者内での肩こり側,非肩こり側の比較である。今後,他のアライメントについてあるいは,肩こり者と非肩こり者間での検討も必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】肩こりの理学療法において,肩甲帯周囲のみならず骨盤帯周囲に対しても評価,介入が必要となる場合があるかもしれない。また肩こり症状の強さについては,身体アライメントのみならず多角的な視点や介入が必要であることが示唆された。
著者
村上 朋彦 田中 繁治 笘野 稔
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G2S2033, 2009

【目的】<BR> 性格や考え方の違いが学業成績に差を生むのか.例えば好奇心旺盛で物事を前向きに捉える活発な人と,いつも退屈そうで不満が多く悲観的な人との間に差はあるのか.もし差を生むのなら性格的傾向に合わせた対策が必要となる.<BR> そこで,Farmerら(1986)が考案したThe Boredom Proneness Scale(退屈傾向スケール,以下BPスケール;28の設問からなる質問票で『1人で楽しむのが得意だ』等の設問に対し『はい,どちらでもない,いいえ』から回答,採点は1・4・7点の3段階,高い点ほど退屈を感じやすい傾向にある)を用い,『退屈』という心理状態に陥り易いか否かという視点で性格的傾向を点数化し,学業成績との関連を調査した.<BR>【方法】<BR> 対象は3年制の某理学療法士(以下PT)・作業療法士(以下OT)養成校の学生170名(男性73名;女性97名,平均年齢22.2±4.5)である.専攻・学年別の内訳は,PT専攻1年(以下PT1)37名・2年(以下PT2)30名・3年(以下PT3)39名,OT専攻1年(以下OT1)23名・2年(以下OT2)22名・3年(以下OT3)19名であった.<BR> BPスケールの点数(以下BP値)の平均点を,学年別に分けた3群間と専攻・学年別に分けた6群間にてKruskal-Wallis検定を用い多群比較した.<BR> 次に,BP値と学業成績の関連をみるため,専攻・学年別にSpearmanの順位相関係数の検定を行った.検定対象の成績は調査時点で履修済みである全科目の平均点である.但し,2・3年生の場合,1年次と2年次の成績を分け,2つの代表値を対象とした.更に,2・3年生は専攻・学年別の4群内で各々BP値の高値群と低値群に二分し,2群間の成績を比較した.最後に,全対象者を原級留置の経験の有無により2群に分け平均BP値を比較した.上記の2群間比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた.<BR> 検定は統計ソフトStatView 5.0を用い,有意水準を5%以下とした.尚,本研究は倫理委員会の承認を受け,対象者の同意を書面にて得た上で実施した.<BR>【結果】<BR>1)対象集団の平均BP値<BR> 全学生の平均は99.2±21.9,中央値100であった.学年別の3群間,専攻・学年別の6群間に有意差は無かった.<BR>2)学業成績との相関<BR> OT1の成績,PT3の2年次成績にのみBP値との間に相関係数-0.49と-0.43の負の相関を認めた(p<0.05).<BR>3)BP高値群と低値群の成績推移<BR> PT3の1年次成績はBP高値群で平均79.8点,BP低値群で平均81.7点,2群間に有意差は無かった.しかし2年次成績はBP高値群の平均75.8点よりBP低値群の平均78.1点が有意に高かった(p<0.05).他3群に同じ傾向はなかった.<BR>4)原級留置の有無の差<BR> 原級留置を経験した群(n=30)の平均BP値は109.0で経験のない群(n=140)の97.2より有意に高値であった(p<0.01).<BR>【考察】<BR> BP値と学業成績に強い相関関係を認めなかったが,BP高値者は低値者に比べ成績不振や原級留置となるリスクを持つのかも知れない.従い,BP値を1つの指標として活用し,高値者への支援をその方法論と伴に考える必要がある.
著者
大久保 雄 金岡 恒治 半谷 美夏 椎名 逸雄 辰村 正紀 泉 重樹 宮川 俊平
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C1461, 2008

【目的】これまで単純X線画像による腰椎の運動学的研究は行われてきたが,連続的に腰椎挙動を評価した研究は少ない.本研究の目的は,X線シネ撮影装置により立位体幹前後屈時の矢状面腰椎挙動を撮影し,各椎間の可動域及び挙動開始の位相差を比較することである.<BR>【方法】側面X線画像にて腰椎に明らかなすべりのない健常男性9名(平均年齢23.2歳,平均身長171.0cm,平均体重65.2kg)を対象とした.立位にて骨盤を固定した状態の下,体幹前後屈を行わせた腰椎挙動をX線シネ撮影装置にて撮影した.前屈及び後屈動作は腰椎の撮影が行える範囲までとし, 撮影速度は15frames/secとした.得られたX線シネ画像をデジタイズ処理によって各椎間(L1/2,L2/3,L3/4,L4/5)及び腰椎全体(L1/5)の矢状面角度を計側し,前屈及び後屈動作においてL1/5可動域に対する各椎間可動域の百分率を椎間別に比較した.さらに,各椎間の動作が開始した時点を求め,各椎間挙動の位相差を検討した.統計処理は一元配置分散分析を用い,有意水準を5%とした.<BR>【結果】全対象者のL1/5可動域は前屈35±10゜(Mean±SD),後屈10±8゜であった.前屈動作における各椎間可動域の百分率はL1/2:23±8%,L2/3:30±9%,L3/4:28±5%,L4/5:19±11%であり,L2/3の可動域がL4/5に比べ大きい傾向を示した(p=0.06).一方,後屈動作ではL1/2:27±31%,L2/3:39±46%,L3/4:20±23%,L4/5:17±59%と,被験者毎にばらつきが大きく一定の傾向を示さなかった.各椎間挙動の開始時点の比較では,前屈動作においてL4/5の挙動が他の椎間(L1/2,L2/3,L3/4)に比べ有意に遅かったが,後屈動作では椎間別に有意な位相差を認めなかった.<BR>【考察】本研究の結果より,前屈動作ではL2/3の可動域が大きく,L4/5の挙動が他の上位椎間に比べて遅れることが示された.腰椎の前屈可動域はL4/5において最大と言われているが,Miyasakaらは腰椎全体の前屈可動域が40゜未満の場合,L2/3が最大可動域を示すことを報告しており,本研究でも同様の傾向を認めた.また,椎間挙動の位相差に関して,Kanayamaらは腰椎の前屈動作においてL3/4,L4/5,L5/S1の順に挙動が開始することを報告しており,本研究においても類似の結果が得られた.<BR>【まとめ】立位体幹前後屈時の矢状面腰椎挙動を連続的に計側した結果,可動域が中程度の前屈動作においてL2/3の可動域が大きく,L4/5の挙動が上位椎間に比べ遅れることが示唆された.一方,後屈動作では可動域,位相差ともに椎間別で特異的な傾向を認めなかった.
著者
梅澤 慎吾 岩下 航大 大野 祐介 興津 太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101921, 2013

【はじめに】両側大腿切断は左右の膝を失う固有の障害像から,実用歩行を困難にする要素が多い。しかし,優れた立脚・遊脚制御を備える膝継手(以下:高機能膝継手)が一般的になりつつある昨今,片側切断者に匹敵するレベルで歩行可能な事例が報告され始めている.その達成には要所を押さえた義肢部品の運用と,訓練全体のマネジメントが必須となる.第一報では二足実用歩行を獲得した一症例を報告した.今回は同様の方法で実用歩行を獲得した新たな症例から,時代に即した情報の一つとして,両大腿切断者の高活動ゴールの方向性を提示することを目的とする.【症例】34歳 男性 交通外傷による両側大腿切断.既往歴や合併障害なし.受傷後,前病院の断端形成術~装着前訓練を経て,義肢装具SC入院《断端長》右11.0cm,左24.0cm《受傷前身長》166cm,《義足装着》シリコーンライナー使用[初期評価:訓練開始時] 《ROM》左股関節伸展10°右股関節屈曲70°伸展-5°《筋力》左右股関節の伸展・外転筋MMT4《受傷~義肢装着の期間》約4ヶ月 [最終評価:18W終了時]《ROM》左股関節伸展15°右股関節屈曲80°伸展5°《筋力》左右股関節周囲筋 MMT5 《膝継手》固定⇒C-Leg⇒C-LegCompact【説明と同意】結果の公表を本人に説明し,個人情報の開示を行う旨を了解済みである。【経過と結果】[開始~10W]膝継手なし,または固定膝で訓練施行.船底型足部を利用したスタビーによる動作習熟が中心.移動範囲は前半が屋内,後半が屋外・屋内応用歩行を中心に行う.坂道下りが二足で可能になることを条件に,4段階で義足長を10cmずつ長くする.《10m歩行》11.5秒 《12分間歩行》500m 《TUG》19.2秒 《PCI》0.8 [10W~18W]C-Leg(Compact)変更後は膝屈曲位での二足坂道下り動作と歩行中の急激なブレーキ動作など,膝継手の立脚期油圧抵抗(イールディング機能)の習熟とその反復に重点を置いて訓練継続.杖なしでの坂道歩行や円滑な方向転換が2W~4Wで自立.最終では装着時身長が166cm、約1.5kmの屋外持続歩行や公共交通機関の利用がT杖携帯で自立となる。《10m歩行》8.5秒 《12分間歩行》660m 《TUG》14.3秒 《PCI》0.57【考察】従来の両大腿切断の訓練は到達目標が頭打ちになることが多いと推測する.両大腿切断者が義足で生活を送るには、多様な路面の攻略が必要になるが,特に坂道下り動作の自立が義足常用化の鍵になる.多くは手摺りを頼りに出来る公共の階段と違い,屋外の坂道に手摺りはなく,従来の膝継手では杖使用でも円滑な動作が困難だからである.この報告で提案する訓練の基軸は「安心感をもたらす膝継手選択による身体機能向上」と「高機能膝継手で引き出せる動作の習熟(坂道下り)」である.いずれも膝継手の理解無くして目的達成は困難といえる.高機能膝継手は,イールディング機能による立脚期制御と円滑な油圧抵抗のキャンセルによる遊脚期制御(良好なクリアランス形成)が独立して調整可能で,運用次第で多様な路面の歩行が可能になる.具体的には1.強力な油圧抵抗で大腿四頭筋の遠心性収縮を代用し,一方の膝が緩やかに屈曲しながら他方の足部接地を行う時間的猶予を与える 2.継手が完全伸展位,かつ設定した閾値以上の前足部荷重をしなければ油圧抵抗がキャンセルされず不意な状況で膝折れが起きない 3.C-Legをエネルギー効率の面で優位とする報告があり,義足歩行の継続が過負荷にならない等の特長がある。今症例では膝継手使用前に,膝折れのない安心できる環境の下で充分な時間を割き,二足歩行で多くの動作習熟を行った.これは股関節周囲筋群の強化と,多くの動作を獲得したという成功体験に繋がっている.この効果として,膝継手使用以降で動作習熟に時間を要する場面でも,かつて出来たことが基準となって,装着者本人に問題意識が芽生え,より動作習熟に尽力できる下地になったと分析する.立脚期を考慮すれば固定膝に利点もあるが,歩行速度や歩行効率等の評価から分かる通り,より高いレベルの目標達成には,遊動膝による良好な遊脚期形成が重要といえる.高機能膝継手はPC制御による製品が存在するが,これも良好なアライメント設定が前提になる. その他の検討事項として,床からの立ち上がりを考慮して重心位置(義足長)を低く保つために,低床型足部や,キャッチピンを用いない装着法も要検討である.(キスシステム,シールインライナー,吸着式)【理学療法学研究としての意義】公費対象でない製品は高額であるため,現制度内での運用は決して一般的でない.しかし,両側大腿切断者のQOL向上に大きく寄与する事実を公にすることで,同様の重度切断障害者が,膝継手の選択次第で屋内外を問わず義足で生活できる可能性を見いだせるきっかけとしたい.期限設定~動作達成度の評価や訓練施設の特定など,今後は条件付きで膝継手支給の仕組みが議論されることも必要である.
著者
梅澤 慎吾 岩下 航大 沖野 敦郎 藤田 悠介 西村 温子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】両大腿切断は左右の膝を失う固有の障害像から,実用歩行を困難にする要素が多い。しかし,優れた立脚・遊脚制御を備える膝継手が一般的になりつつある昨今,片側切断者に匹敵するレベルで歩行可能な事例が散見される。その達成のためには要所を押さえた義肢部品の運用と,全体のマネージメントが必須となる。先の報告では二足実用歩行を獲得した症例を報告した。今回は同様に実用歩行を獲得した新たな症例から,時代に即した情報の一つとして,大腿切断者の高活動ゴールの方向性を提示することを目的とする。【症例】27歳 男性 交通外傷による両大腿切断。既往歴や合併障害なし。前病院の断端形成術後,義肢装具SC入院《断端長》右23.0cm,左22.0cm《受傷前身長》181cm 《義足装着》シリコーンライナー使用[初期評価:リハ開始時(特徴的な要素のみ記載)]《ROM》左股関節伸展0°右股関節伸展0°《徒手筋力評価》左右股関節周囲筋4・体幹筋4《疼痛》左断端末外側に圧痛・荷重時痛 《受傷~義肢装着の期間》約1ヶ月[最終評価:24W終了時]《ROM》左股関節伸展5°右股関節屈曲伸展10°《徒手筋力評価》左右股関節周囲筋5体幹筋5《疼痛》同部位に圧痛残存するも,装着時はソケット修正で自制内[膝継手の変遷]固定膝⇒C-Leg⇒C-LegCompact【経過と結果】[開始~12W]膝継手非使用,または固定膝でリハ施行。スタビー(短義足)による動作習熟が中心。移動範囲は前半が屋内,後半が屋外・屋内応用歩行を中心に行う。坂道下りが二足で可能になることを条件に,4段階で義足長を10cm毎に長くする。《10m歩行》13.8秒 《12分間歩行》420m[12W~24W]C-Leg変更後は膝屈曲位での二足坂道下り動作と歩行中の急激なブレーキ動作など,膝継手の立脚期油圧抵抗(イールディング機能)の習熟と反復に重点を置いて訓練継続。杖なしでの坂道歩行や円滑な方向転換が16Wで自立。最終では装着時身長が178cm,約2~3kmの屋外持続歩行や公共交通機関の利用がT杖携帯で自立となる。《10m歩行》7.0秒 《12分間歩行》840m【考察】両大腿切断のリハは到達目標が頭打ちになることが多い。同障がい者が義足で生活を送るには,多様な路面の攻略が必要だが,特に坂道下り動作の自立が義足常用化の鍵になる。多くは手摺りを利用出来る公共の階段と違い,屋外の坂道に手摺りはなく,従来の膝継手では杖使用でも円滑な動作が困難だからである。この報告で提案するリハの基軸は「安心感をもたらす膝継手選択で可能になる身体機能向上」と「膝継手で引き出せる動作の習熟(坂道下り)」である。いずれも製品の理解が重要でなる。C-Legは,イールディング機能による立脚期制御と円滑な油圧抵抗のキャンセルによる遊脚期制御(クリアランスの形成)が独立して調整可能で,運用次第で多様な路面の歩行が可能になる。具体的には1.強力な油圧抵抗が大腿四頭筋の遠心性収縮を代用し,一方の膝を緩やかに屈曲させながら他方の足部接地を行う時間的猶予を与える 2.継手が完全伸展位で,かつ設定した閾値以上の前足部荷重をしなければ油圧抵抗がキャンセルされず不意に膝折れが起きない 3.エネルギー効率の面で優位とする報告があり,持続歩行が過負荷にならない等の特長がある。今症例では膝継手使用前に,低重心かつ膝折れのない環境で充分な時間を割き,二足歩行で多くの動作習熟を行った。これは股関節周囲筋群の強化と,多くの動作獲得という成功体験に繋がる。効果として,継手使用以降で動作習熟に時間を要する場面でも,かつて出来たことが基準となり,装着者に問題意識が芽生え積極性を生む下地になったと分析する。立脚期を考慮すれば固定膝に利点があるが,歩行速度や距離の結果より,高いレベルの目標達成には遊動膝の良好な遊脚期形成が重要となる。高機能膝継手はPC制御による製品が存在するが,良好なアライメント設定が前提になる。その他の検討事項として,床からの立ち上がりを考慮した低重心の保持を目的に,低床型足部やキャッチピンを使用しない装着法も有効な選択肢である。(キスシステム,シールインライナー,吸着式)【理学療法学研究としての意義】高額製品の制度内支給は決して一般的でない。しかし,両大腿切断者のQOL向上に大きく寄与する事実を公にすることで,重度切断障害者の自立支援に向けた有効な情報提供になると共に,このような実績の蓄積が制度に則った運用の円滑化を生む契機になることを望む。成功体験を得た両大腿切断者にとって,高機能膝継手は「便利」というレベルに止まらず,人生を通じて「必要不可欠」な製品である。
著者
向井 公一 三谷 保弘
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1088, 2011

【目的】Functional Reach Test(以下、FRT)は、動的バランス能力を評価できるとされている。しかし、中村らは、FRTでの最大リーチ距離と足圧中心移動距離には相関が見られないことを報告し、対馬らは、FRTの結果は、関節運動戦略によりリーチ距離や重心の前後移動距離、重心動揺面積が変化することを報告するなど、評価指標としての妥当性について、疑問を投げかける報告が散見されている。今回の研究では、FRTによる重心移動とリーチ距離との関係を明らかにすることを目的とした。<BR><BR>【方法】整形外科的および神経学的疾病を有しない健常男子大学生14名(平均年齢20.6±0.8歳、平均身長171.7±7.2cm、平均体重61.9±5.4kg、平均足長25.2±1.2cm)を対象とした。<BR>被験者は、足位を閉脚とした静止立位にて一側上肢を水平挙上した状態を開始肢位とし、3秒の静止後、合図と共に上肢を出来る限り前方へリーチし3秒間保持する。この際に、1:特に動作に規定を行わず、自由に行わせる(FRT1)、2:開始肢位よりも殿部が後方へ移動しないように制限する(FRT2)という2種類を運動課題とした。両課題共に、動作中は足底全面が設置していることとし、3回計測を施行した。FRT2の施行に際し、殿部後方に棒を設置して動作中に棒に触れた場合は課題の再施行とした。測定器具として、リーチ距離は超音波式距離計測装置(マイゾックス社製P-13)を用いて計測した。また、重心移動距離は重心動揺計(アニマ社製G5500)を用いた。重心移動距離の算出は、安定してほぼ静止している状況では本来の体重心の軌跡とCOPが一致すると仮定し、機器により算出される足圧中心軌跡長(以下、COP)を身体重心の軌跡とした。これに基づき、3秒間の静止立位における前後方向の平均値から、最大リーチ時の前後方向の平均値を差分し、FRT時の重心移動距離とした。尚、リーチ距離および重心移動距離は、身体特性による影響を取り除くため、身長および足長で各々正規化した。統計学的解析は、ピアソンの相関係数、対応のあるt検定を用い、危険率5%とした。<BR><BR>【説明と同意】本研究に際して、実験における意義や目的について十分に説明し、書面にて同意を得た。説明は、本研究の意義、目的、研究参加に伴う不利益や個人情報保護などについて行った。尚、本研究は四條畷学園大学倫理委員会において認証されている。<BR><BR>【結果】各試行の最大リーチ距離は、FRT1は38.1±6.1cm、FRT2が26.2±7.8cm(mean±SD)となり、FRT1が FRT2に比べ有意に長い結果であった(p<0.05)。FRTにおけるCOP移動距離は、FRT1は36.2±7.7%、FRT2が36.6±10.9%(mean±SD)であり、各条件による有意差は認められなかった(p<0.05)。また、リーチ距離とCOP移動距離の関係は、FRT1がr=0.461、FRT2はr=0.354となり、何れも弱い相関関係であった。<BR><BR>【考察】Duncanらの報告では、リーチ距離とCOP移動距離には相関を認めている。今回の結果も相関を認めているものの弱いことから、重心移動をFRTが反映しているとはいい難い。また、FRTの運動戦略として重要と考えられる、股関節戦略を制限したFRT2において、制限を加えなかったFRT1とCOP移動距離には差は認められないが、リーチ距離には差を認めている。この理由として、動作による重心移動は、基底面内での最大前方移動は身体の各重心の位置関係によらず決定するため、股関節戦略を制限したとしても有意な差とはならなかったと考えられた。一方リーチ距離は、関節の自由度によって決定されるため、股関節戦略を制限された場合自由度が少なくなることから、結果として有意に減少したと考えられた。従って、特に異なる股関節運動戦略を用いたFRTを行った場合、リーチ距離の差によって重心移動能力を判定することが必ずしも妥当ではないことを示したと考える。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】FRTは、理学療法の対象者に対する動的バランスの評価として広く使用されている。しかしながら、動的バランスの評価とする場合、重心移動と相対的な関係性が認められる必要があると考えられるが、検証が十分でない。今回の研究で評価指標としての妥当性について明示できたことは、よりよい評価指標へ改善する一助となると考えられる。
著者
廣瀬 秀行 浅見 正人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.B-25_2-B-25_2, 2019

<p>【目的】高齢者が使用するハンドル形電動車椅子(以下HEWC)の事故が多発しており、日本福祉用具・生活支援用具協会から身体の能力及び認知機能の検査方法と運転適性との関係確認方法について先行研究を調査する依頼を受けた。HEWCは高齢者の社会性を増加させると同時に、運動機能をいかに低下させないかの課題や診療報酬でのFIMの修正自立での手段としても関与する。ここでは、医学分野の中で用いられる研究文献収集法、インターネットおよび本調査委員による国内の情報、同様に海外調査を実施した。最後に医学分野で使用されるEBMに基づいたガイドライン作成手法に準じて、まとめを作成した。</p><p>【方法】研究文献収集に用いたデータベースは、当初英文が5つ(MEDLINE、CINAHL、OTseeker、The Cochran Library、PEDro)を活用し、和文が1つ(医中誌Web)を活用した。今回、除外条件は①原著論文でないもの、②全文の入手が困難なもの、③小児のみを対象としているもの、④製品の開発に関するものとした。また、インターネットによって、国内および国外の研究論文ではない情報も収集した。</p><p>【結果・考察】これらの条件からレビューを行った結果、最終的に残った文献が英文25本であり、そこに2本の本委員会委員による紹介などの文献を加えた27本を抽出した。加えた2本の文献はいずれも社会学系であり、また工学系からのアプローチ(原著論文ではない)もあり、医学文献での検索では限界があると同時に、ハンドル形電動車椅子の各種問題について議論するときの範囲の広さを示していた。国内の情報としては、消費者庁、経済産業省、そして警察庁から集めることができ、特に警察庁は電動車椅子の事故に関するwwwができていた。国外は米国、オーストラリア以外にカナダ、英国、イスラエル等各国で同様な情報があった。ここではEBMのガイドラインに準じて、臨床的疑問を以下のように作成し、それに対する答えを各論文を批判的吟味をしながら記載、まとめた。代表的臨床的疑問として、〇軽度を含む認知症と電動車椅子の事故発生または操作能力低下と関係するか?軽度を含む認知症が電動車椅子の操作性や事故に影響するとは言えない。〇年齢が電動車椅子の事故発生または操作能力と関係するか?65歳以上の高齢で事故発生が多く起こっている。〇最高速度制限は有効か?トレーニング中は考慮すべきであるかもしれないが、道路・線路横断などは速度が遅いと横断できない可能性を持つ。〇事故は運転開始早期に起こっているか?不慣れなど、運転開始早期や新しい環境で事故が起こっている。〇横断中の自動車との事故が多いいか?非常に多い。〇旗、ヘルメット、シートベルト、夜間の視認のための洋服や反射材、定期的点検は装着や実施すべきか?すべきである。</p><p>【まとめ】理学療法士はこれらを意識し、HEWCを適切に使いこなし、高齢者の社会性と健康を維持できるように対応すべきである。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】倫理的配慮:必要なし。利益相反:なし。</p>
著者
吉田 昌弘 笠原 敏史 田辺 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.129, 2003

【はじめに】スポーツ・リハビリテーションの中で受傷部位の回復を評価するにあたって,機能レベルのテスト項目のほかに,10M走や垂直跳び,反復横跳びなどの能力レベル(いわゆるパフォーマンス)のテスト項目も行われる.中でも,垂直跳びの能力はジャンプ競技(バレーボールやバスケットボールなど)の重要な要素である.これまでのジャンプ研究の報告から,垂直跳び動作は下肢および上肢や体幹の運動を使った全身運動であると言われている.下肢傷害の機能回復を垂直跳びの結果より判断する場合,上肢や体幹運動を考慮して実施する必要がある.しかし,上肢の運動が垂直跳びに影響を及ぼすことは知られているが,どのような上肢運動が垂直跳びの成績や力学的な要素に関与しているのか十分に明らかにされていない.本研究はこの点を解明するために調査を行い,若干の知見を得たので報告する.【対象と方法】対象は健常男子名(平均年齢21±1[SD]歳,身長173±5cm,体重58±5kg,BMI19±1).「垂直跳び」は助走なくその場で出来るだけ高く飛び,壁面に設置した垂直跳び計測用ボードにあらかじめチョークの粉をつけた指先をつけるよう指示し測定した.対象は,肩関節屈曲0度(T1),肩関節屈曲90°(T2),肩関節屈曲180度から伸展運動させ(T3),続いて屈曲運動を行わせた.肩関節屈曲30度(T4),肩関節120度(T5)から屈曲運動のみ行わせた.これらと,肩関節180度で固定(T6)して行ったときとを比較した.各課題5回ずつ行わせ,うち最高と最低値を除く3回のデータを用いた.なお,各運動課題はランダムに行った.さらに,同時に,床反力計を使って垂直方向の力も計測した.【結果】垂直跳びの成績はT1=58±6cm, T2=56±7cm,T3=55±8cm,T4=55±7cm,T5=51±7cm,T6=49±7cmであった.フォースプレートからZ方向の大きさは,各被検者ごとの差を取り除くため,ノーマライズを行い,各被検者の体重を引き,体重で除したものを用いた.その結果,T1=14.4±0.3,T2=13.9±0.4,T3=14.3±0.3,T4=13.4±1.2,T5=12.9±0.3,T6=13.1±0.5であった.【考察】本研究では,垂直跳びにおける上肢の振りの関与について,上肢運動に条件を設定して行った.T1からT3は上肢を振り下ろす運動範囲に条件をつけて行い,上肢を固定した場合に比べ,垂直とびの高さは大きく,z方向の力成分も大きかった.このことから,上肢を振り下ろす運動により,床からの反力を得ている可能性がある.T4とT5は上肢を振り上げる運動範囲に条件をつけ,運動範囲が小さい場合,垂直跳びの高さが減少し,z方向の力成分も減少していた.同様に,上肢を振りあげるも高く飛ぶために必要な床からの反力を得ているものと考える.
著者
高橋 佳恵 高倉 保幸 大住 崇之 大隈 統 川口 弘子 草野 修輔 山本 満 大井 直往 陶山 哲夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.B0055, 2005

【目的】我々は日本昏睡尺度(Japan Coma Scale:JCS)と平均反応時間の関係を調べ、意識障害の程度により平均反応時間に有意な差があり、平均反応時間が意識障害を客観的に表す指標として有用であることを報告してきた。一方、意識障害が強い場合には、外界に対する反応性の低下とともに反応性の変動が大きいことも知られている。そこで、今回は変動を比較する指標として変動係数に着目し、意識障害と反応時間の平均値および変動係数の関係について検討を行った。<BR><BR>【対象と方法】対象は当院を受診し、理学療法を行った脳損傷60例とした。年齢は64.7±12.8歳(平均±標準偏差)、性別は男性35例、女性25例であった。病型は脳出血23例、くも膜下出血8例、脳動静脈奇形を伴う脳出血3例、脳梗塞22例、頭部外傷4例、測定時期は発症後32.6±30.1日であった。被験者には、静かな個室でヘッドホンを装着、非麻痺側の上肢でスイッチを押しながら待機、ヘッドホンを通じて音が聞こえたら出来るだけ素早くスイッチを離すよう指示した。音刺激からスイッチを離すまでの時間を反応時間とし10回の測定を行った。意識障害の判定はJCSを用いて行ったが、今回の対象者は全例がJCS I桁であった。対象者をJCSにより清明群(n=19)、I-1群(n=15)、I-2・3群(n=16)の3つの群に分け、各群の平均反応時間と変動係数の差を比較した。統計学的解析にはSPSS for Windows 12.0Jのボーンフェローニの多重比較検定を用い、危険率は5%とした。<BR><BR>【結果】意識と反応時間についてみると、各群の平均反応時間は、清明群165.0±57.3msec、I-1群296.0±112.7msec、I-2・3群634.0±535.0msecとなり、意識障害が強くなるほど平均反応時間は遅延した。また、各群の症例数にばらつきはあるものの、ボーンフェローニ検定を用いた多重比較では、清明群とI-2・3群間、I-1群とI-2・3群間にそれぞれ有意差がみられた。変動係数においては、清明群33.3±10.6%、I-1群29.3±9.5%、I-2・3群40.2±17.5%となり、各群間に有意差はみられなかった。<BR><BR>【考察とまとめ】意識障害が強い場合には、外界に対する反応性の低下とともに反応性の変動が大きいことが知られているが、反応時間の測定からは実証することができなかった。反応性の変動は注意の覚度の変動が影響していると考えられるが、反応時間を測定するときには意識障害が強い例でも一時的に覚度が向上し、反応性が安定する可能性がある。今回の結果から反応時間の臨床的応用には平均値を用いて検討することが妥当であると考えられた。
著者
馬場 孝浩 栗木 淳子 木戸 里香 黒田 和子 長谷川 純一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.E0832, 2005

【はじめに】近年離床の重要性は認識されつつあるが,車椅子座位の弊害は見落とされがちである。また車椅子座位時間の管理やクッション使用などの車椅子設定への配慮は,各ケースに応じて充分されていないのが現状ではないか。今回の研究目的は,車椅子座位が褥瘡や浮腫の発生に与える影響を調べることである。<BR>【対象と方法】介護療養型医療施設に入院中の患者で,普通型車椅子を使用している42名,83足(男性20名,女性22名,平均年齢75.0±10.8歳,主疾患はCVA40名,他2名)を対象とした。調査項目は殿部褥瘡の有無(IAET分類のstage1以上を有り),座位姿勢の崩れの有無と姿勢修正の可否(廣瀬らの簡易座位能力分類),車椅子用クッション(ウレタン,空気室構造など)の有無,浮腫の有無(夕方足背部に圧痕が残るか否か),麻痺の有無,最長車椅子座位時間(以下LS),総車椅子座位時間(以下TS)とした。LSとTSは,平日と休日のそれぞれ1日ずつ6時から21時まで30分ごと車椅子座位かどうかを確認して算出し,週間生活を考慮して平日の5倍と休日の2倍の和を7で除した値を用いた。統計解析は,まず褥瘡の有り群と無し群のLS,TSをそれぞれMann-WhitneyのU検定を用いて比較した。次に褥瘡の有無を目的変数,年齢,座位姿勢,姿勢修正,クッションの有無,LS,TSを説明変数としてロジスティック回帰分析を行った。座位姿勢と姿勢修正,LSとTSには強い相関があったため,多重共線性に配慮して座位姿勢とTSは説明変数から除いて分析した。さらに浮腫の有無を目的変数,年齢,麻痺の有無,TSを説明変数としてロジスティック回帰分析を行った。統計ソフトはSPSS for windows Ver12.0Jを用い,有意水準は5%未満とした。<BR>【結果】LS,TSは褥瘡有り群(10名)で9.4±3.5時間,11.1±2.5時間,無し群(32名)で7.4±4.3時間,9.7±3.2時間であり,ともに有り群で有意に長かった(p<0.05)。ロジスティック解析の結果,褥瘡の有無に従属する有意な変数として,クッション(オッズ比OR=6.04,p<0.05),座位姿勢(OR=5.76,p<0.05),TS(OR=1.31,p<0.05),LS(OR=1.23,p<0.05)が認められた。浮腫の有無に従属する有意な変数として,麻痺(OR=3.76,p<0.05),TS(OR=1.30,p<0.01),年齢(OR=1.07,p<0.05)が認められた。<BR>【考察】結果より,褥瘡と浮腫双方の発生に影響するのは座位時間であった。よって,褥瘡や浮腫の予防には適宜臥床を取り入れる必要性が示唆された。褥瘡発生には座位時間に加え,クッションの有無と座位姿勢の崩れが影響していることがわかった。PTは褥瘡予防のためにクッションや体幹・骨盤サポートなどの使用を,早期から検討すべきと考えられた。本研究では褥瘡の原因を車椅子座位の影響に限局し検討したが,臥床時の影響も含めて検討することは今後の課題である。
著者
田村 正樹 中 優希 久保 有紀 渕上 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】複視とは,脳血管障害などが原因で物体が二重に見える症状である。物体の見えにくさから日常生活動作(以下,ADL)に支障をきたすが,具体的なリハビリテーション介入に関する知見は少ない。今回,複視を呈した症例に対して,自動車運転の獲得を目標にレーザーポインターやミラーを用いた眼球運動課題を考案し介入したことで退院後に目標達成に至ったため,報告する。【方法】症例は59歳,男性。診断名はクモ膜下出血と右視床梗塞。発症2週後の眼科受診で右外転神経麻痺と診断された。発症4週目に当院入院となり,入院当初から運動麻痺や感覚障害は認められず,ADLは歩行で自立していた。その他の所見として,Berg Balance Scaleは56/56点,Mini Mental State Examinationは30/30点,Trail Making TestはPart-A36秒,Part-B81秒であった。職業は内装業であり,復職と自動車運転の獲得を希望されていた。発症9週目で内装業に必要な動作が獲得できたため,眼球運動課題を開始した。このときの眼球運動所見は,peripersonal spaceの物体を正中から右側に20cm以上,左側に30cm以上追視した際に複視が出現し,10分程度で眼精疲労が確認された。さらに,personal spaceからextrapersonal spaceへの切り替えを多方向に行うと,複視により3分程度で気分不良が確認された。複視は右側のextrapersonal spaceへの追視の際に著明であった。眼球運動課題はレーザーポインターを用いたポインティング課題,ミラーを用いた識別課題を方向や距離,速度,実施時間を考慮して行った。レーザーポインターを用いたポインティング課題では前方と側方の安全確認と信号の認識を想定し,頭頸部回旋運動を取り入れてレーザーの照射部位を追視するように教示して実施した。ミラーを用いた識別課題ではバックミラーとサイドミラーに映った自動車の認識を想定し,各3方向のミラーに映った対象の詳細や距離について正答を尋ねた。【結果】発症11週後には,peripersonal spaceにある物体の追視では正中から左右ともに35cmまで複視が出現せず可能となった。peripersonal spaceでの眼球運動は40分程度,personal spaceからextrapersonal spaceへの切り替えを多方向に行う眼球運動では30分程度問題なく行えるようになった。発症12週目に自宅退院となり,最終的には自動車運転の獲得に至った。【結論】本症例は右外転神経麻痺による両眼球の共同運動障害により複視が生じていた。personal spaceからextrapersonal spaceへの切り替えを多方向に行うレーザーポインターやミラーを用いた眼球運動課題を組み合わせることにより,複視の改善に至ったと考える。
著者
森山 信彰 浦辺 幸夫 前田 慶明 寺花 史朗 石井 良昌 芥川 孝志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】筆者らは理学療法士を中心としたグループで,中四国学生アメリカンフットボール連盟秋季リーグ戦の全試合に帯同し,メディカルサポートを行ってきた。本研究では,外傷発生状況の分析を行い,今後の安全対策の充実に向けた提言につなげたい。【方法】2012年度から2015年度の試合中に生じた全外傷を集計した。外傷発生状況は,日本アメリカンフットボール協会の外傷報告書の形式を用いて記録した。分析項目は外傷の発生時の状況,部位,種類,発生時間帯とした。【結果】本研究の調査期間にリーグ戦に参加したのは7校であり,登録選手数は延べ686名(2012年161名,2013年152名,2014年185名,2015年188名)であった。リーグ戦の開催時期は毎回8月下旬~11月上旬であった。調査対象試合数は57試合であった。調査期間中の外傷の総発生件数は249件(2012年72件,2013年60件,2014年52件,2015年65件)であり,1試合平均の外傷発生件数は4.4件(2012年4.8件,2013年4.3件,2014年3.5件,2015年5.0件)であった。4年間で外傷発生件数には大きな変化がなく推移した。外傷発生時の状況は「タックルされた時」が67件(27%)で最も多く,次いで「タックルした時」が59件(24%),「ブロックされた時」が39件(16%)の順であった。部位は,下腿が70件(28%)で最も多く,以下膝関節が27件(11%),腹部が20件(8%)の順であった。種類は打撲が87件(35%)で最も多く,以下筋痙攣が74件(30%),靭帯損傷が35件(14%)の順であった。時期は,第4クォーターが97件(39%)と最も多かった。【結論】関東地区の大学リーグ戦中に発生した1試合平均外傷発生件数は1.3件で,外傷の38%が靭帯損傷であり,次いで打撲が17%という報告がある(藤谷ら 2012)。本リーグ戦では,1試合平均外傷発生件数が4.4件と,先行研究の3.4倍となり明らかに多くなっている。また,外傷の種類別では,靭帯損傷の発生件数が少ないが,それに代わって打撲の発生が多いことが特徴であろう。打撲については,相手の下半身を狙うような低い姿勢のタックル動作を受ける際に主に大腿部や腹部に強いコンタクトを受けたケースで多く発生していた。近年,米国では「Heads up football」と称した,タックル動作に関する組織的な啓発活動が行われており,理想的なタックル動作として相手の上半身へコンタクトすることを推奨している。わが国においても最近の安全対策への見解を取り入れ,タックル動作を安全に行うための指導を継続して行っていくことが今後重要であると考える。一方で,本研究の解析期間中には,頸髄損傷などで後遺障がいを認めるような重大外傷は発生しなかった。これは,筆者らがリーグ戦への帯同に加えて,オフシーズンに講習会を実施し,安全な動作指導を行っていることが奏功したと考えられる。重大外傷の予防のために,この事業の継続が必要と考えている。
著者
松高 津加紗 竹渕 謙悟 高橋 静恵 山本 晋史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E1158, 2006

【目的】患者様の病棟で過ごす余暇時間もADL能力向上には大切であるのではないかと考え、当院で行われている余暇時間に対する取り組みに注目し、その結果を検証することを目的とした。<BR>【方法】対象は当院に入院していた脳卒中患者46名とし、そのうち余暇時間への取り組みが行われていた時期に入院していた患者24名を参加群、取り組みが行われていなかった時期に入院していた患者22名を非参加群とした。そして、それぞれ入院記録より、下肢ステージ・HDS-R・コース立方体テスト・日常生活自立度・日常生活動作能力(当院規定による)・BI・FIMを抽出し、両群に於いて初期評価時と最終評価時に差が出るかを検討した。<BR>【結果】それぞれの項目について、初期と最終評価の間に有意差が見られたのは参加群においてはコース立方体テスト、HDS-R、日常生活自立度、日常生活動作能力、BI、FIMの6項目。非参加群ではコース立方体テスト、HDS-Rに差が見られなかった以外は参加群と同じ結果であった。下肢ステージは両群おいて有意差はなし。また、両群の最終評価時の比較では有意差を認めるものはなかった。<BR>【考察】普段の生活の場である病棟では、各個人のリハビリテーション時間以外の余暇活動に対する病院スタッフの関わりは少ないのが現状である。また余暇活動の必要性について、入院患者様における日中の病棟での過ごし方と、能力的な改善に関する報告はあまり見られていない。<BR> そこで今回当院で行われている余暇活動に対するアプローチをもとに、日中の病棟での過ごし方と、能力改善の関連性について検討した。その結果、参加群と非参加群の間に有意差は見られず、単純に余暇時間の充実のためにゲームやビデオ鑑賞等の活動を行っても有効な能力改善には繋がらないことがわかった。このような結果になった原因として、活動場所がナースステーションから離れていたところにあり監視が困難であったこと、その為に病棟スタッフの時間的余裕のあるときに限られ不定期だったこと。また、活動内容が患者様個人の趣味趣向に合致していたか十分な調査がなされていなかったことが挙げられる。<BR> 今後は活動内容の吟味や、先行研究をもとにした再考が必要である。そして引き続き余暇時間の充実を図ることで、自宅復帰へ向けた包括的なアプローチとなり、より家庭へのソフトランディングが円滑に進められるのではないかと考える。<BR>【まとめ】1.日中の病棟での過ごし方と、能力改善の関連性について検討した。<BR>2.参加群と非参加群の間に有意差はなかった。<BR>3.今後は活動内容の吟味や、先行研究をもとにした再考が必要だと考えた。
著者
積山 和加子 沖 貞明 髙宮 尚美 梅井 凡子 小野 武也 大塚 彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】遠心性収縮は筋力増強や筋肥大効果が高く,かつ運動中の心拍数や血圧が低く保てるとの報告がある。そのため遠心性収縮を用いれば従来よりも運動強度を低く設定しても筋肥大が図れる可能性があり,我々はラットに対して乳酸性作業閾値50%以下の強度の遠心性収縮運動を長時間負荷することにより筋肥大を起こすことができることを確認した。しかし我々が用いた運動方法は低負荷ではあったが長時間の連続運動を行う必要があるという問題点を有しており臨床応用に向けての課題が残った。臨床において連続した運動を行うことが難しい場合に対して運動の合間に休息を挟むインターバル運動を行うことがある。そこで,本研究では遠心性収縮を用いた有酸素運動において,運動の合間に休息を挟むインターバル形式の運動であっても,連続運動と同程度の筋肥大効果があるのか,さらに筋力増強効果も認めるのかについて検討を行った。【方法】10週齢のWistar系雌性ラット21匹を対象とし,7匹ずつ3群に振り分けた。各群は,運動負荷を行わず60日間通常飼育するコントロール群,トレッドミル走行を90分間連続で行う連続運動群,総走行時間は90分として走行の合間に休息を挟むインターバル形式で行うインターバル運動群とした。連続運動群とインターバル運動群のトレッドミル傾斜角度は-16度,走行速度は16m/minにて3日に1回,計20回(60日間)の運動を行った。なお,トレッドミル下り坂走行は,ヒラメ筋に遠心性収縮を負荷できる方法として,動物実験で用いられている運動様式である。今回連続運動群に用いた運動負荷の条件は,筋肥大が確認できた我々の先行研究と同じ条件を用いた。実験最終日に麻酔下にて体重を測定し,両側のヒラメ筋を摘出した。右ヒラメ筋を,リンゲル液を満たしたマグヌス管内で荷重・変位変換機に固定し,筋を長軸方向へ伸張し至適筋長を決定した。その後電気刺激装置を用いて1msecの矩形波で刺激し,最大単収縮張力を測定した。強縮張力は最大単収縮張力の時の電圧の130%で,100Hzの刺激を1秒間行って測定した。次に左ヒラメ筋を,重量測定後に急速凍結した。凍結横断切片に対しHE染色を行い,病理組織学的検索を行うとともに筋線維径を測定した。体重,筋湿重量,筋線維径については1元配置分散分析を行い,有意差を認めた場合にTukey法を用いた。強縮張力についてはKruskal-Wallis検定を行い,有意差を認めた場合にScheffe法を用いた。有意水準は5%とした。【結果】筋湿重量,筋線維径および強縮張力において連続運動群とインターバル運動群はコントロール群に対して有意に大きく,連続運動群とインターバル運動群では有意差を認めなかった。組織学的検討では,各群において異常所見は認めなかった。【考察】連続運動群では筋湿重量と筋線維径はコントロール群に比べ有意に増加した。これは我々の先行研究の結果と同様であり,遠心性収縮を用いた有酸素運動によって筋肥大効果を認めることが改めて示された。さらに強縮張力においてもコントロール群に比べ連続運動群では有意差を認めた。この結果から遠心性収縮を用いた有酸素運動は,ヒラメ筋の筋肥大に加え筋力増強効果もあることが分かった。次にインターバル運動群においても,筋湿重量,筋線維径および強縮張力はコントロール群に比べ有意に増加し,さらにインターバル運動群とは有意差を認めなかった。これらの結果から,遠心性収縮を用いた有酸素運動において,運動の合間に休息を挟むインターバル形式の運動であっても,連続運動と同程度の筋肥大および筋力増強効果があることが分かった。遠心性収縮は収縮に伴い筋長が延長する収縮様式のため,求心性収縮に比べ筋線維への機械的刺激が大きい。また,骨格筋は筋線維損傷後の修復過程において損傷前の刺激にも適応できるように再生し,遠心性収縮運動は繰り返して行うと筋節の増加によって徐々に筋長が延長した状態でも力を発揮できるようになるという報告もある。本研究において20回の遠心性収縮運動を繰り返すことによって適応が生じ,筋肥大や筋力増強が図れた可能性がある。今後は運動時間や頻度等についてさらに検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】これまで筋力増強や筋肥大が起きないとされてきた低負荷の有酸素運動でも,長時間の遠心性収縮運動により筋力増強と筋肥大が可能であり,さらにはインターバル形式で運動を行っても同様の効果があることを明らかにした。
著者
村西 壽祥 間中 智哉 伊藤 陽一 中野 禎 桑野 正樹 新枦 剛也 高木 美紀 鳥越 智士 福田 佳生 小藤 定 小倉 亜矢子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】リバース型人工肩関節全置換術(Reverse shoulder arthroplasty:以下,RSA)が本邦で施行されて1年以上が経過するが,現時点では術後症例数も少ないため,RSAの良好な術後機能を獲得するための理学療法を継続的に検討していくことが重要である。本研究の目的は,RSAにおける自動挙上可動域と異なる肢位での肩関節外転筋力との関係を調査し,RSAにおける筋力評価および筋力増強運動について検討することである。【方法】対象はRSAを施行した22例22関節(男性8例,女性14例)で,平均年齢77.5±5.6歳であった。なお,全例とも広範囲腱板断裂であり,修復不能または腱板断裂性関節症のためRSAが施行された。測定項目は肩関節の自動可動域(屈曲・外転),他動可動域(屈曲・外転),坐位での外転筋力(下垂位・90°位)とし,測定時期は術前および術後6ヶ月とした。自動可動域は坐位にて,他動可動域は背臥位でゴニオメータを用いて計測した。外転筋力の測定は,ハンドヘルドダイナモメータを上腕長の近位から80%の位置に当て,最大等尺性運動を行ったうち,安定した3回の平均値を体重で除した体重比筋力値を求めた。統計学的分析は,各測定項目における術前と術後6ヶ月の比較について対応のあるt検定を用い,自動可動域と各肢位での外転筋力値との関係についてピアソンの積率相関係数を算出した。【結果】術前の各測定項目において,自動可動域は屈曲52.7±29.8°,外転53.4±27.1°,他動可動域は屈曲137.4±25.0°,外転127.6±33.1°,外転筋力は下垂位0.08±0.08Nm/kg,90°位は測定困難であった。術後6ヶ月において,自動可動域は屈曲111.6±17.9°,外転101.1±20.3°,他動可動域は屈曲130.5±19.3°,外転131.4±21.5°,外転筋力は下垂位0.19±0.08Nm/kg,90°位0.06±0.06Nm/kgと他動可動域以外の各測定項目は術前より有意に改善した(p<0.05)。自動可動域と各外転筋力値との相関係数において,自動屈曲と90°位外転筋力は0.51,自動外転と90°位外転筋力は0.64と相関関係が認められたが,自動屈曲および外転と下垂位筋力との間に有意な相関関係は認められなかった。【結論】RSAは上腕骨頭と肩甲骨関節窩の凹凸面が逆転する構造となり,肩甲上腕関節の回転中心が内下方に移動することで,三角筋の張力とモーメントアームが増大して上肢の挙上運動が可能となる。本研究において,自動可動域と外転筋力は90°位で相関関係が認められ,RSAの自動可動域を獲得するためには,下垂位よりも上肢挙上位で筋力が発揮されることが重要であると考えられた。このことから,RSAの機能評価や筋力増強運動においては,上肢90°挙上位で実施することの必要性が示唆された。
著者
馬上 修一 加藤 光恵 坪井 永保 加藤 悠介 八木田 裕治 佐々木 貴義 遠藤 正範 安齋 明子 須藤 美和 本内 陽子 アロマクラブ 部員
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】卵巣癌でホスピス病棟に転棟された患者の機能面だけでなく,生きがいの「アロマ教室開催」を病院全体でサポートし,当院職員構成のアロマクラブに講師として招きQOL向上に繋げたため報告する。</p><p></p><p>【方法】<b><u>症例</u></b> 55歳女性,卵巣癌,心拍数94回/min,ROM制限無し,MMT4-,BI 15点(介護依存あり)。2011年11月当院で卵巣癌の手術施行。短期入院を繰り返していたが状態悪化し当院一般病棟を経てホスピス病棟へ転棟。後にリハビリテーション(以下リハ)依頼。介入当初の希望は「車椅子に乗ってどこか行きたい。なるべく出来ることは自分でやりたい」である。<u><b>経過</b></u> ADL向上目指し下肢筋力増強運動を中心にリハ継続していたが,介入8日目に「もっとアロマを教えたい」と熱望あり。患者はアロマトレーナー有資格者で,入院前はアロマ教室を開催していたため,リハ目標を「アロマ教室開催」,リハ内容をリラクゼーション中心に行い身体調整を行った。同時にアロマクラブに依頼し承諾を得た。患者には低負担で行える様に環境調整を行い,介入12日目に1回目開催。翌日状態悪化が見られたが,「またやりたい」と熱望があり,症状改善したため介入19日目に2回目開催。その3日後に逝去される。</p><p></p><p>【結果】開催日の患者は身支度し,活気に溢れていた。生きがいを達成し,患者や参加者から好評を得た。途中リハ内容を変更し,身体的ストレス軽減を図りアロマ教室を2回開催した。そのため患者は生きがいを達成し満足感を得たためQOLが向上したと考えられる。</p><p></p><p>【結論】終末期患者のQOL向上のため,優先順位の選択の難しさを実感した。また患者の要望を叶えるにはスタッフ間の連携及び迅速な対応が必要なため,チーム医療の重要性を実感した。今後もチームとしての連携を図り,要望に対し身体や環境調整を行い,QOLの向上及び患者満足度に対し客観的評価も検討していきたいと考える。</p>