- 著者
-
須藤 斎
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2008
これまでEocene/Oligocene(E/O)Boundary以後において海生珪藻類が急増した結果,ヒゲクジラなどの大型海生哺乳類の進化が促されたという事実のみが知られていたが,どのような原因でこれが起きたかは未解明であった.また,どのような珪藻が主に急増したのかを示すような研究は行われてこなかった.そこで,本研究では,海洋一次生産の25%を担い,沿岸湧昇流域に多産するがこれまでほとんど研究がなされてこなかった海生珪藻Chaetoceros属の休眠胞子化石を,過去4000万年間の北部・赤道太平洋,赤道大西洋域,北極域の堆積物サンプルを用いて分析した結果,以下のような湧昇流変遷史と陸上環境変遷にも関連した海洋生物進化の原因を明らかにした.1)E/OBoundaryにおいて極域の寒冷化が進み,当時の沿岸湧昇の季節性が崩れた結果,Chaetoceros属が多様化・急増化した.さらに,現在のヒゲクジラ類の餌となるカイアシ類の一部は本属をはじめとする珪藻類を捕食・増殖することから,本属の急増により動物プランクトンが増加し,その結果ヒゲクジラ類をはじめとする大型海生哺乳類の多様化が進んだ.2)約850万年前に,北太平洋広域において,本属の休眠胞子化石が同時に急増した.これらは,海洋水循環の変動により太平洋域の沿岸湧昇が発達し,富栄養化したことを示唆している.この時代には,アジア域の乾燥化やヒマラヤ山脈の上昇などによる鉄・シリカなどの栄養素が大量に運搬された事実と呼応しており,それに合わせるように,昆布・ウニ・魚類・ハクジラ類などが増加・多様化した.これらの結果から,約4000万年以降に,沿岸湧昇域の性質が大きく変化し,それに伴ってChaetoceros属や他の珪藻類,藻類が急増・多様化し,これらを餌とする小型・大型捕食者の進化が促された可能性が大きいことが明らかとなった.