著者
石倉 智樹
出版者
国土技術政策総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

航空輸送サービス産業の生産活動において,空港という社会資本が不可欠である以上,空港容量が逼迫しボトルネック化することによって,生産効率性が低下することは不可避である.特にネットワークの中核をなす空港における容量制約は,効率的に生産量拡大が可能な地点における物理的な生産量制約となり,航空輸送サービス産業の成長を阻害する主要因となる.したがって,そのような空港における容量に余裕を持つこと自体が,経済学的な意味での生産効率性の向上をもたらすと言える.また,航空輸送サービスは,様々な産業の生産活動において派生需要として中間投入的に利用されるため,この生産性の向上の効果は航空輸送サービス産業のみならず,あらゆる産業の経済活動に波及すると考えられる.その結果,国民経済レベルでの大きな効果が生じると期待される.一般に用いられる(部分均衡的な)費用便益分析の手法や産業連関分析による経済効果手法では,事前にwith/withoutそれぞれのケースについて航空需要予測値を推定することが必要となる.このため,需要予測値が得られていなければ,経済効果計測を行うことができないという問題点を抱えている.したがって,航空需要予測値の有無に依存せず,空港整備による経済効果を直接推定する手法が望まれる.本研究は,空港の容量拡大による航空輸送サービスの生産性向上,およびその経済波及効果・便益を,需要予測値の有無に依存せず,評価する手法を構築した.その適用事例として,我が国の国内航空輸送ネットワークの中心的空港である羽田空港の容量拡大による,航空輸送サービス産業の生産性向上と経済効果を推定するモデルを同定した.さらに本研究は,羽田空港の整備が我が国経済に及ぼしてきた効果,再拡張事業等による将来の容量拡大がもたらす効果の定量的推定を行った.
著者
朴 びよん渡
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

富士写真フィルム社製の通称「OPERAフィルム」、原子核乳剤を48ミクロンの厚さで厚さ200ミクロンのTACフィルムの両面に塗布した構造の原子核乾板を使って、高度1万メートルの上空での宇宙線飛跡の強度の測定を行った。原子核乳剤の表面は厚さ1ミクロンのゼラチン膜で保護されている。手荷物検査のX線をシールドする厚さ1mmの鉛板とOPERAフィルム(面積10cm*12cm)2枚を密着して、黒色の多層ラミネートフィルムで真空パックして、手荷物の状態で、国際線の旅客機で米国のシカゴに飛び、シカゴでフィルムの向きを変えて再度真空パックして日本に持ち帰った。それを現像し、飛跡読み取り装置S-UTSによって、乾板面に対する角度45度までの直線状飛跡で、最少電離粒子を含む全ての飛跡を読み出した。読み出した面積は100cm^2である。往路の飛跡、復路の飛跡、パックする以前からの飛跡の3つのタイプに分類する解析を行っている。OPERAフィルムに記録される直線状の飛跡は、1MeV程度の自然放射能由来の飛跡とは明快に識別できることが確認できた。2006年秋の日本物理学会で結果の一部を発表した。
著者
小杉 賢一朗
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

土壌水を採取するための吸引圧制御型ライシメータを桐生森林水文試験地内のマツ沢流域に設置した。土壌水の採取深度は,50cmおよび100cmとした.おそよ2週間に1度の頻度で現地を訪れ,自動採水された土壌水サンプルの回収を行った。2002年5月から2003年12月の浸透水量は深度50cm,100cmで降水量の各々60%,51%であった.桐生試験地の年平均降水量,流出量は1630.0mm,872.9mm(流出率53.6%)であるが2002年は渇水年であり,各々1179.3mm,405.3mm(流出率34.4%)であったことと比較して,ほぼ妥当な量の採水が行われたと考えられた。採取された水のSiO2濃度は,地温の季節変動と高い相関を示していた。2002年5月から2003年10月までの平均濃度,積算移動量は深度50cmが12.6mg/l,555.7mg,深度100cmが16.9mg/l,711.3mgであった.自然濃縮だけでなく50cm以深からも供給されている結果は,不飽和水帯においては深く浸透するほど多く溶け出すという既存の知見に一致した。深さ50cmで採水された浸透水の硝酸態窒素濃度が,2002年10月以降急激に上昇して12月始めにピークとなり,その後減少することがわかった。カルシウム,マグネシウム等のカチオンの濃度は硝酸態窒素濃度と非常に高い相関を持ち,硝酸濃度の増加に追随して,土壌溶液の電気的中性を維持するように土壌コロイドから引き出されたものと推察された。深さ100cmで採水された浸透水の硝酸態窒素やカチオンの濃度は,深さ50cmの浸透水と比べてほぼ一ヶ月後にピークを持つ変化を示し,溶質が下層土壌に徐々に移動していく様子が明らかとなった。ただし2003年の観測では,両深度とも硝酸態窒素濃度の増加が観測されず,採水機設置時の土壌や植生の撹乱が初年度の硝酸態窒素濃度の上昇に関係している可能性が指摘された。
著者
片山 幹生
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

今年度はアダン・ド・ラ・アル作『葉蔭の劇』の写本に記載された二つの「タイトル」の解釈を通して、当時の作品受容のありかたを考察し、この研究成果を『フランス文学語学研究』(2002年、第21号)に発表した。『葉蔭の劇』は,1276年にアラスで上演されたと考えられている。通例,中世の作品の場合,作品の末尾に記された.explicitの記述,作品の冒頭の語句であるincipit,テクスト本文の前に付けられた見出しrubriqueのいずれかを,作品を同定するタイトルとして流用する場合が多い.『葉蔭の劇』Jeu de la Feuilleeというタイトルは,作品全編を記載している唯一の写本であるBnF fr. 25566写本のexplicitの記述、《Explicit li ieus de le fuellie》から取られたものだ.現在、この作品の呼称として,explicitの記述から取られたJeu de la Feuilleeが定着しているが,この写本には本文テクストの前に,Li jus Adan「アダンの劇」という見出しも記載されている.つまりこの写本の写字生は,explicitと見出しに二つの異なる「タイトル」を記述していることになる。この二つの「タイトル」の記述に対し、作者が関与している可能性は低いが,少なくともこの二つの表題は,作品を書写した写字生および同時代の人間の作品受容のあり方を示す手がかりであることは確かである.この二つの「タイトル」には、いくつかの解釈が可能である.まず作品の見出しにある《Li jus Adan》という名称は,劇の作者であるアダン・ド・ラ・アルを示すのと同時に,劇の中の登場人物であるアダンの姿を想起させる.一方explicitにある《li jeu de le fuellie》という名称は、劇の中で、舞台装置として置かれた妖精を迎える緑の東屋をまず指すと同時に,後半の舞台となった居酒屋,アラスのノートルダム教会の聖遺物厘の収容場所,アダンとその妻マロワの若き日の恋愛の思い出など,作品中に現われる様々な要素を示唆する.また《fuellie》は,《folie》の異形と読み替えられることで,作品中に遍在する狂気のモチーフを浮かび上がらせる.この様々な解釈を呼び起こす二つの「タイトル」には,複雑な構造を持ち多義的な『葉蔭の劇』の書写を託された当時の写字生の作品受容のあり方が象徴的に示されているのだ。
著者
茂木 瑞穂 高木 裕三 泉福 英信 米澤 英雄
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ミュータンス菌は、う蝕(虫歯)の主な原因菌であり、歯の表面にバイオフィルム(細菌の集合体、歯垢)を形成する。このミュータンス菌の数ある遺伝子の中でも、SMU832,833遺伝子については、子が母親などの養育者からミュータンス菌を獲得する際に関与している可能性が示唆された。また、バイオフィルム形成にも関係していることが示唆された。
著者
畠山 英之
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ミトコンドリア病の一次的病因となりうるミトコンドリア機能傷害を患者組織由来の培養細胞レベルで検出しうる新規な生化学診断技術の創出を目指した。本研究にて確立された網羅的かつ体系的な機能診断技術は、多様なミトコンドリア機能(エネルギー代謝系、酸化ストレス、各種シグナル伝達、アポトーシスの制御)の全体像を分子・タンパク・オルガネラ・細胞レベルで解析可能とし、未知の変異に対する病原性の同定やミトコンドリア病の病態発生機構の解明などにおいて極めて有用であることが示唆された。
著者
古賀 徹
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度は、デザインに関する前年度の調査・研究を引き継ぐ形で、これを補充すると共に、主に理論的な面からの考察を発展させることに重点を置いた。倫理に関する基礎理論の研究としてはレヴィナスの他者論に立脚する論文「死と残余」を日本現象学会の学術誌『現象学年報』に発表したほか、アドルノのデザイン論である「今日の機能主義」にかんして、これを翻訳・解説した文章を本学の紀要『芸術工学研究』に発表し、それにもとづいて、西日本哲学会にて「象徴と機能-アドルノの啓蒙批判を通じて」という題目にて研究発表を行った。また、九州大学哲学会にて、「プログラムとしての僕らの生き方-映画『マトリックス』の超越論的考察」という題目にて、メディア論の観点からの講演も行った。11月には、「日本におけるドイツ年」の一環として、ヘッセン州のデザイン系の大学より、教員と学生が来日し、デザインに関する研究成果の発表を行った。この発表会を古賀が組織し、その内容を記録した。これと並んで、福岡市内の知的・情緒障害者の無認可作業所である「工房まる」におけるデザインを中心としたあらたな試みについてのインタビューを行った。また、デザインやアートを中心とした都市構築の試み、共同体再生の試みなどについても主に福岡を中心として幅広く研究した。これと並んで、公立美術館の役割の変化など、アートとデザインの役割の変化についても研究した。これらの現実の活動を哲学・倫理学的観点から深く掘り下げて検討し、その研究成果は、九州大学出版会より、『アート・デザイン・クロッシングVol2-散乱する展示たち』というかたちで、古賀の編著として出版された。以上が本年度の研究実績の概要である。
著者
小野寺 康之
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ホウレンソウには雄花のみを着生させる雄株および雌花のみを着生させる雌株に加え、雌花と雄花あるいは両性花が様々な比率で混成する多様な間性が見出される。これまでの研究で、我々は花器形態に基づいて5種類の間性自殖系統を雌雄異花同株および雌花両性花同株の二つのタイプに分類できることを明らかにした。さらに、雌花形成割合(雌性率)および各間性形質の遺伝様式に基づいて、これらの間性系統の性型を4型(I型〜IV型)に分類した。本研究では、これまで解析に用いてきた間性系統の中で最も雌性率が低く、雌雄異花同株タイプに属する系統(03-336)が示す1型間性の発現を支配する遺伝子の同定を試みた。03-009♀x03-336によって得られたF1個体を雄株(系統03-009:XY)と交配してBC1世代を作出し、2007年4月から6月にかけてこのBC1集団を北海道大学構内のビニールハウス内で育成した。当該F1集団および前述のBC1集団のおよそ半数からY遺伝子マーカーが検出されたことに加えて、それらの全ての個体が雌性率0%(雄株)を示したことからY遺伝子はI型間性の発現を支配する遺伝子に対して優性もしくは上位性を示すと結論づけた.さらに、このBC1世代(169個体)において,雄株:間性株:雌株=2:1:1の比に適合する分離が生じていることも判明した(x^2検定,ρ=0.372).雌雄決定遺伝子XおよびYに加えてI型間性遺伝子としてM遺伝子を想定することによって,雄株:間性株:雌株=2:1:1(XY;Mm:XY;mm:XX;Mm:XX;mm=1:1:1:1)の分離が当該BC1世代で生じることが説明できる.
著者
水野 寿朗
出版者
大阪市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

動物の初期発生において胚形態やサイズが各種の発生様式の決定に与える影響を明らかにするため、下等脊椎動物の典型的な発生様式に対応するモデルを提案し、関連する実験系を開発して提示した。胞胚期の中胚葉形成に与える細胞密度が関連すること、原腸胚期以後の正常な胴尾部形成には一定の卵黄サイズが必要であること、さらに器官形成期の体節数決定に胚サイズが影響することが示唆され、巨視的な胚空間の役割が生物学的に意義付けられた。
著者
小林 英樹
出版者
群馬大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度は、以下のことに取り組んだ。1.「映画化(する)」の「化」など、漢語を構成する言語単位の造語機能について分析を行った。その成果を、小林英樹(2006)「漢字の造語機能」(『朝倉漢字講座2 漢字のはたらき』)として、まとめることができた。2.「助けることを表す漢語サ変動詞」の分析に取り掛かった。その結果、以下のようなことが明らかになった。(1)通常は、危険なところから安全なところに移せば(救出すれば)、助けたことになるが、救出しても、助けたことにならない場合(手遅れのケース)もある。(大島署や地元消防団員らに5日午前9時50分に救出され、病院に運ばれたが、すでに死亡していた。(朝日新聞1993年7月5日))(2)助けることから許すことに移行しつつある「救済(する)」がある。(恩赦は平成に入ってから「大喪恩赦」(89年)と「即位の礼恩赦」(90年)の2回あり、いずれも政令恩赦として行われ、選挙違反者が大量に救済された。(朝日新聞1993年5月6日))以上のようなことを、小林英樹(2006)「漢語サ変動詞の意味・用法の記述的研究-「救助(する)」、「救出(する)」などをめぐって-」(『日本語文法の新地平1形態・叙述内容編』)として、まとめることができた。3.「建てることを表す漢語サ変動詞」の分析に取り掛かった。その結果、以下のようなことが明らかになった。(1)「建築(する)」は、モノ名詞として使うことができるが、「建設(する)」、「建造(する)」、「建立(する)」は、モノ名詞として使うことができない。(古い{建築/*建設/*建造/*建立}の保存に熱心だ。)(2)内項になるものの範囲は、「建設(する)」の方が「建築(する)」よりも広い。(新庁舎を{建設/建築}する。ヨルダンとの連合国家を{建設/*建築}する。)以上のようなことを、小林英樹(2007)「漢語サ変動詞の意味・用法の記述的研究-「建築(する)」、「建設(する)」などをめぐって-」(『語学と文学』43)として、まとめることができた。
著者
小林 茂雄
出版者
武蔵工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

平成19年度は、前年度に実施した岐阜県白川村の平瀬地区における照明実験の結果を分析すると共に、平瀬地区における屋外照明の実施計画をまとめた。すなわち、既存のポール灯による街路照明ではなく、街路に隣接する空地や建物壁面などの照明を配置した低輝度分散型の照明計画である。防犯性と周辺への見通しを高めると共に、消費エネルギー量を現状よりも小さくするという提案であり、研究成果を基にした光環境整備まで結び付けることができた。さらに横浜市中区の山手西洋館において、場所の認知を促すと共に、歩行者の安心感を高め、消費エネルギーが高くならないようなライトアップの手法を検討し、2007年12月に実施した。照明方法としては、地域の象徴となる建物ファサードの中で、場所の認知につながる部位を抽出し、そこに光を集中させることと、人の気配を醸し出すような光をファサードにつくるということである。一部の街路灯を消灯し、筆者らが提案する低輝度分散型の街路照明も実験的に提示した。地域住民へのアンケート調査を基に照明を計画し、実施後にそれらの効果を検証した。以上の様に本研究では、異なる二つの地域を対象とし、各々の街の特性に合せた照明計画を実験的に提示し、その防犯効果、歩行者への安心感に与える効果、見通し、場所の認知への貢献度、などを検証した。そして何れの提案に対しても、現状の街路照明よりも、光束量が約1/4となり、消費エネルギーを削減できることを示した。
著者
杉村 使乃
出版者
敬和学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

第一次世界大戦終結から第二次世界大戦下のイギリスにおける文学史を考える上で、この間に出版された文学作品に表れる女性の表象、およびその文化背景について考察した。表象の分析おけるポイントは、女性の「労働」が社会でどのように迎えられたか、「ホームフロント」、そして女性の「市民意識」はどのように描かれているか、である。研究期間のほとんどは、第一次世界大戦終結〜第二次世界大戦下の文学を考える上で必要な作品・資料の収集・精読に費やされた。この研究計画のキーワードである女性の「労働」、「市民意識」について考えるために、1860年以降の女性運動、二つの世界大戦における女性の役割についてレイ・ストレイチー、ヴァージニア・ウルフの著作を中心に精読、分析した。本年度の研究では、特に若い女性の表象において社会が大いに関心を持ち、その「労働」と「市民意識」の変化について確認された。研究計画当初は、すでに文学史上取り上げられてきた作品はもちろん、第一次世界大戦〜第二次世界大戦下のイギリスで出版された若い女性向け雑誌で連載された大衆文学の収集と精読を通し、そこに表れる女性の表象について考察することを研究計画に入れていた。しかし、実際には女性が「市民意識」と「市民」としての権利を持つにいたるまでの歴史、そして女性の労働の実態について、ひとつひとつ確認しながら進む必要があることに気づき、これに大きな時間が費やされた。今後はこれまでの研究をもとに、すでに18年度に試みた女性雑誌の連載小説の分析のように、大衆文学における女性表象の考察に今後、力を入れていきたいと考えている。
著者
大平 茂輝
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、映像記録の事後処理としてではなく、映像中の事象が発生している瞬間に現場にいる人間の自然な行動から、映像アノテーションの一部となるメタデータを抽出することを目指している。具体的には、試合会場(スタジアム等)における観戦者の視線方向や身体動作に関する情報を、スポーツ観戦メタデータとして携帯情報端末等を用いて抽出し、観戦中に撮影した画像と関連付けることで観戦コンテンツを作成した。方位センサ情報から観戦者のフィールド上の視点を検出する手法について検討し、視線方向や身体動作を含む観戦コンテンツを活用したスポーツ中継映像の視聴システムを試作した。
著者
須藤 斎
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

これまでEocene/Oligocene(E/O)Boundary以後において海生珪藻類が急増した結果,ヒゲクジラなどの大型海生哺乳類の進化が促されたという事実のみが知られていたが,どのような原因でこれが起きたかは未解明であった.また,どのような珪藻が主に急増したのかを示すような研究は行われてこなかった.そこで,本研究では,海洋一次生産の25%を担い,沿岸湧昇流域に多産するがこれまでほとんど研究がなされてこなかった海生珪藻Chaetoceros属の休眠胞子化石を,過去4000万年間の北部・赤道太平洋,赤道大西洋域,北極域の堆積物サンプルを用いて分析した結果,以下のような湧昇流変遷史と陸上環境変遷にも関連した海洋生物進化の原因を明らかにした.1)E/OBoundaryにおいて極域の寒冷化が進み,当時の沿岸湧昇の季節性が崩れた結果,Chaetoceros属が多様化・急増化した.さらに,現在のヒゲクジラ類の餌となるカイアシ類の一部は本属をはじめとする珪藻類を捕食・増殖することから,本属の急増により動物プランクトンが増加し,その結果ヒゲクジラ類をはじめとする大型海生哺乳類の多様化が進んだ.2)約850万年前に,北太平洋広域において,本属の休眠胞子化石が同時に急増した.これらは,海洋水循環の変動により太平洋域の沿岸湧昇が発達し,富栄養化したことを示唆している.この時代には,アジア域の乾燥化やヒマラヤ山脈の上昇などによる鉄・シリカなどの栄養素が大量に運搬された事実と呼応しており,それに合わせるように,昆布・ウニ・魚類・ハクジラ類などが増加・多様化した.これらの結果から,約4000万年以降に,沿岸湧昇域の性質が大きく変化し,それに伴ってChaetoceros属や他の珪藻類,藻類が急増・多様化し,これらを餌とする小型・大型捕食者の進化が促された可能性が大きいことが明らかとなった.
著者
木村 拓也
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

近年、高等教育の質的保証が求められてくる中、今後、継続的な大学生調査が学内外で行われることを前提とし、学内外での調査同士の結果を比較可能なように等化したり、異なる年度に行われた調査を等化したりして、学習成果の経年変化を統計的に妥当な方法で検証できるようなアセスメント・モデルを構築した。試みに、大学満足度を例に、その経年変化及び学年毎の変化する満足度の状況を明らかにした。その結果、全国的な傾向として、満足度が1年次から2年次に向けて落ち込むことが分かった。ただし、1年次には、大学満足度が低くとも、学年進行が進むにつれて上がっていく大学も見られた。
著者
柴田 久
出版者
福岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

平成18年度における研究実績は以下の2点にまとめられる.1.道路整備事業における環境アセスメントの現状と課題に関する研究本研究では先進国の環境アセスメントの現状把握と福岡高速5号線を事例とした実態調査から,道路整備事業に対する環境アセスメント手続の課題について検討を行った.本研究で得られた知見を以下にまとめる.(1)整備区間の長い道路事業においては,計画路線全区間における連続的な環境影響評価が不可欠であり,道路がもつ広範な影響を考慮しても重視すべきと考えられる.また,住民のアセス書に対するアクセス性の向上や事業者の持つ情報の分かりやすさと透明化を吟味する必要性が改めて重要と考えられる.(2)事例調査より面的に区間内の基準値を重視する現行の環境アセスメント方法において,断面的観点からの分析が不十分であり,高さごとの影響予測に関しては限界が指摘される.事業推進と共に,都市計画決定手続の際に行われた環境アセスメントの結果を周辺土地利用や高さ規制などの施策に反映させることが重要と考えられる.さらにアセス情報を地域住民に早い段階から前もって周知しておくことで,事業を巡る周辺環境の変化から起こる予測誤差を防ぐなど,住民とのコンフリクト予防に寄与することが考察された.また都市計画に対してアセス知見を効果的に反映させるためには,事業内容の決定前にアセスを行うことが肝要であり,簡易アセスとティアリング(ただし環境アセスメント結果の有効期限の設定が必要)による環境アセス一連の流れが不可欠と考えられる.2.成果のまとめと発表06年度土木計画学研究発表会(春大会)において「合意形成プロセスと完成した空間デザインの質的事後評価にみる参加型整備事業の課題に関する考察」を発表,さらに土木学会論文集に「都市基盤整備におけるコンフリクト予防のための計画プロセスの手続的信頼性に関する考察」が掲載された.
著者
永田 肇
出版者
東京理科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、セラミックレゾネータ応用に求められる性能を十分に満足する材料を、環境にやさしい非鉛系ビスマス層状構造強誘電体(BLSF)セラミックスを用いて開発しようとするものである。BLSFセラミックスの結晶方位を制御することより、セラミックレゾネータの温度安定性を向上させることが出来た。その結果、レゾネータ応用に求められる基本的な性能を満足する非鉛BLSFセラミックスを得た。
著者
中尾田 宏
出版者
京都文教大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

「ターム・プレミアム」に関するパズルを解くことを目的に研究を進めた。日本経済の構造変化を考慮した上で、構造VARを用いて日本経済のマクロショックを識別した。次に、長短金利差と将来の経済成長率との関係が、金融政策に起因する情報と他の要因に起因する情報に関連するか調べた。さらに構造VARを用いて識別したマクロショックがターム・プレミアムを説明出来るかどうか検証した。結果、日本経済の構造変化によってターム・プレミアムへのマクロショックの説明力が変化していた可能性が示唆された。
著者
佐藤 周友
出版者
中央大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

算術的スキーム、特にp進整数環上の正則半安定族上の1サイクルのChow群の有限性と数論的な性質をコホモロジー的な手法で研究する。この手法ではエタールコホモロジーへのサイクル写像を主に用い、サイクル写像の単射性あるいは全射性を示すことによりサイクルの性質を引き出す。これにより、1サイクルのChow群のl進的な性質がかなり一般的な場合に明らかとなり、p進体上の特殊な有理曲面の場合には0サイクルのChow群を具体的に計算することも可能になった。