著者
板谷 厚
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.197-203, 2015 (Released:2016-04-15)
参考文献数
29
被引用文献数
2 1

ヒトの姿勢制御にかかわる感覚入力は,主に視覚,前庭感覚および体性感覚の3 つである.これらの感覚入力が中枢神経系で統合され,姿勢制御に利用される.これらの感覚入力は感覚統合において平等ではなく,また,それぞれの感覚入力に対する重みづけには個人差がある.感覚入力の重みづけは環境,疾病や身体活動に応じて変化するとされる.これはsensory reweighting hypothesis(感覚入力の再重みづけ仮説)と呼ばれ,近年,研究が進められている.スポーツ活動の非日常性によって,姿勢制御における感覚入力の再重みづけが促されることが知られている.今後,感覚入力の再重みづけをスポーツトレーニングやリハビリテーションなどの臨床に応用することが期待される.
著者
大藪 泰
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.3-8, 2005 (Released:2007-02-23)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

人間の赤ちゃんは誕生直後から模倣を行う.この模倣行動の発達を,学習論の立場から「道具的学習論」と「連合学習論」に触れ,認知論の立場から「ピアジェの模倣論」を紹介する.「新生児模倣」の発見により,赤ちゃんの模倣行動は生得的な発現メカニズムを基盤にすることが想定されるようになった.人間の模倣行動の発達は,身体形態の模倣が巧緻化するだけではない.それは意図形態の模倣の発現をもたらし,心による同型的な世界の共有関係の高次化を目指している.本稿では,赤ちゃんの模倣行動の発達を「原初模倣」,「自己模倣」,「形態模倣」,「意図模倣」という観点から論じる.
著者
北堂 真子
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.194-198, 2005 (Released:2007-10-23)
参考文献数
21
被引用文献数
7 5

日常生活においてストレスを強く感じていたり興奮状態にある場合には,相対的に寝つきにくくなったり睡眠中に中途覚醒を生じたり,翌朝起きにくくなったりすることを誰しも経験している.また,寒暑感や騒音,明るさなどが原因となって睡眠が妨げられる場合もある.本稿では,ストレス負荷状態や興奮状態にある場合とそうでない場合についての生理反応および入眠経過の違いと,スムーズな入眠のための就寝前の準備について解説するとともに,睡眠環境因子の中でもとりわけ大きな影響を及ぼすと考えられる光・照明をとりあげて,生体への作用の解説と上手な活用方法についての紹介を行う.
著者
田中 彰吾
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.205-210, 2013 (Released:2016-04-15)
参考文献数
30
被引用文献数
1 2

現象学的な観点から運動学習について再考する.現象学的身体論の哲学者メルロ=ポンティは,脳損傷により視覚性失認に陥った患者シュナイダーの症状を分析することで,身体図式の観点から運動障害の本質を明らかにしている.本稿では,この分析を手がかりにして,身体運動の記述に必要な三つの概念(身体図式,身体イメージ,指向弓)を析出する.そして,メルロ=ポンティの考察を順序立てて逆方向にたどることで,運動学習の過程を再考する.学習者は,指向弓を発動させて可能的状況を投射し,身体イメージを通じて運動のシミュレーションを行い,新しく創発する運動を経験し,それを身体図式に定着させてゆく.身体運動のコツをつかむことは,身体図式の再編を経験することなのである.
著者
井上 昌次郎
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.181-184, 2005 (Released:2007-10-23)
参考文献数
3
被引用文献数
2 3

ヒトや高等動物は連続運転に最も弱い臓器である大脳に頼って生きている.その大脳をうまく管理するための自律機能が睡眠である.つまり睡眠の役割とは大脳を守り,修復し,よりよく活動させることである.発育初期には大脳を創り育てる役割もある.それゆえ睡眠は活動を停止した状態ではなく,活動モードを能動的に切り換えた状態である.大脳を点検修理して保全するノンレム睡眠と大脳を活性化し目覚めさせるレム睡眠とが,その役割を相補的に分担している.睡眠調節の部位は脳幹であり,概日リズム機構(約1日周期の眠気リズムを発信する)とホメオスタシス機構(睡眠の過不足から眠りの質と量を決定する)とが協調している.睡眠はさまざまな体内外の要因に依存して多様に修飾され順応性が高い.
著者
朝岡 正雄
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.31-35, 2005 (Released:2007-02-23)
参考文献数
22
被引用文献数
4 2

動きの正確な模倣は人間に固有の能力であり,他の動物には見られない.この能力が発揮される生理学的メカニズムは今日でも十分に解明されているとは言い難い状況にある.確かに,現代の科学技術を用いれば,空間内に展開される人体の運動の軌跡を正確にトレースしてそれを機械で再現することは可能であろう.しかし,スポーツにおける技能伝承の場では,他者の動きを学習者自身の身体で再現することが求められる.本論では,人間に固有の「動きの模倣」の方法を「なぞり」という視点から解説し,この延長線上に動きのイメージトレーニングが成立していることが示される.これによって,スポーツにおける想像力の役割とその重要性が明らかになれば幸いである.
著者
久保田 富夫
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.185-188, 2005-11-01

健康なわたしたちも,昼間に耐えがたい眠気を体験することはよくある.ヒトの昼間の覚醒レベルの変動については様々な研究が行われているが,60分から3〜4時間周期で眠気が出現するウルトラディアンリズムの報告があり,いくつかの要素が関連していると考えられている.さらに,約半日リズムとして,昼食後の午後1時から4時頃に眠気を感じることが多い.昼間の眠気には,生体リズムが関係していることは広く知られている.また,外的環境への適応機能として,サーカディアンリズムの補助機能としての役割などがあげられる.今回,以前われわれが大学生におこなったアンケート調査から昼間の眠気の原因と,その対応についても考えてみた.

8 0 0 0 OA 音楽と感情

著者
大串 健吾
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.3-7, 2006 (Released:2007-10-26)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

音楽は古くから感情と深く関連していることが知られている.音楽と感情について議論する場合,これまでしばしば混同されていた,音楽に内在する感情を認知する場合と音楽の演奏によって惹き起こされる感情に着目する場合とは区別されなければならない.音楽と感情の研究に関する科学的研究の歴史は古いが,1980年代以降,この分野で非常に多くの研究が発表されるようになってきた.この解説では,音楽の中に内在する感情を調べた心理学的研究,音楽によって生じる情動を言語反応と生理学的反応を使って調べた研究,演奏者の感情意図が聴取者にどのように伝わるかについての研究の中からいくつかの研究を選び,これらを紹介することによってこの分野の研究動向を解説することにする.
著者
庄司 道彦 王 志東 高橋 隆行 中野 栄二
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.36-42, 2001
被引用文献数
1 6

不整地環境で二脚ロボットに継続的な作業を行わせるためには佇立能力の向上が不可欠である.奉研究では,非平坦面でも静定接地できる足底3点支持構造と,開脚時に支持多角形面積を大きく保つ効果のある,足関節の斜行ロール軸を提案する.
著者
高井 智代
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.190-194, 2008 (Released:2011-05-31)
参考文献数
17

排泄時の立ち座り動作に苦痛を感じるリウマチ疾患女性を想定した女性用立位小便器を開発した.和風便器と洋風便器を比較すると,後者が圧倒的に楽であるものの,「立ったまま排泄できたら楽だと思う」人は多く,立位による排泄への潜在的なニーズは大きい.立位で排尿した際の尿落下点をふまえた試作便器を作製し,リウマチ女性を被験者とする使用感評価実験を実施した.被験者 13名のうち 1名に若干の尿の飛散があったが,これは使用時に身体が傾いた結果で,直立で排尿すれば尿の飛散の可能性は低い.女性用立位小便器は,従来の和風や洋風の便器に比べ,排尿時の負担を大幅に軽減できる.
著者
常石 秀市
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.69-73, 2008 (Released:2010-12-06)
参考文献数
10

ヒトにおいて視覚は最大の情報量を得る感覚器であり,その発達は胎児期から始まり幼児期にかけてめざましく進む.その過程には遺伝的要因のみならず,環境要因も大きな影響をもつ.視機能は視力だけでなく,両眼視(立体視),視野,視覚認知も含めたバランスのとれた発達が重要である.聴覚は出生時にはかなり完成しており,言語発達に不可欠なものである.視覚・聴覚中枢の発達にはそれぞれ臨界期があり,発達障害を早期発見しないと修正治療が不可能である.触覚も出生時にほぼ完成しているが,その有効な情報処理には視覚をはじめとした他の感覚との協調と経験が不可欠である.これら感覚器から得られた情報は,姿勢・運動の巧緻性のために不可欠なものである.
著者
青村 茂
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.212-218, 2012 (Released:2016-04-15)
参考文献数
12

人間が頭部に衝撃を受けると局在性脳損傷,或は脳震盪やびまん性軸索損傷(DAI)等を発症する.局在性脳損傷は脳表面の局部的なひずみや急激な圧力変動により引き起こされ,DAI 等は脳内の広範囲に発生するせん断応力やひずみが原因である.これらは脳の活動に重大な影響を及ぼし,時には死に至ることもある.衝撃と一口に言っても転倒や転落,凶器や拳での殴打から交通事故やスポーツ中の事故など様々で,衝撃時の微妙な状況の違いで実に様々な症状を呈するが,その因果関係は力学的に説明されるべきことである.本解説では,人間の最も重要な部位である頭部が衝撃を受けた際に頭蓋内で何が起こり,その結果どのような症状が発症するのかそのメカニズムを,数値計算や細胞実験をもとに実際の事故の症例の検証もまじえながら力学的観点から解説する.それらを元に,さらに,現在の最先端の研究を紹介し今後の発展についても言及する.
著者
赤松 友成
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.134-137, 2007 (Released:2008-08-31)
参考文献数
12
被引用文献数
1

イルカは哺乳類としての制約条件のもと,超音波の送受信で周辺を認知できるソナー能力を進化させてきた.イルカの有するソナーは高い空間分解能と高度な対象判別能力を持っている.これまでの魚群探知機がモノクロテレビであったとしたら,イルカ型ソナーはハイビジョンテレビと言えるだろう.イルカのような広帯域ソナーを漁業資源探査に応用すべく,私たちの研究チームではイルカソナーシミュレータを構築し,実証機開発に向けた準備が進んでいる.
著者
小幡 哲史 木下 博
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.37-47, 2014 (Released:2017-02-15)
参考文献数
9

3軸小型力覚センサーを指板に埋め込んだ実験用バイオリンを用いて, 熟練奏者と初心者を対象にビブラート音なしでの単音演奏とビブラート音演奏での指板力を計測した. また, 一部の熟練奏者ではそれに関わる左手の筋活動も同時に計測した. 熟練奏者の単音演奏では, 弦を押さえる瞬間に, 指板力の鋭い立ち上がりが見られ, 遅いテンポではその後力が減少した状態で保たれるが, 速いテンポではパルス波形のみが見られた. ピークの力は1, 2 [Hz] では4.5 [N] を超える程であったが, それより速いテンポでは力が減少した. 一方で, 手内および前腕の筋活動はテンポが速くなるにつれて増大した. 初心者は熟練者に比べ, テンポや指の違いに関わらず, 力発揮が弱かった. ビブラート音演奏では, 熟練者は弦を固定するために一定の垂直方向への力を加えた上で, 弦長を変化させるための長軸方向への力を加えていた. 本研究は, 実際の演奏における指板力の測定を実現し, 得られた指板力情報とテンポや指, ビブラート音や経験の差について, また関連する筋活動について議論した.
著者
那須 大毅 松尾 知之
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.69-78, 2014 (Released:2017-02-15)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究では, ダーツ投げ動作の鉛直面におけるリリース変数 (リリース時のダーツ位置, 投射速度, 投射角) に着目し, 1) 各リリース変数のばらつきの大きさ, 2) リリース変数間の相互補完構造の度合いに関して, 熟練者 (8名) と初心者 (8名) の違いについて検討した. 各被験者は60投のダーツ投げ動作を実施し, ダーツおよび人差し指の動作を7台の赤外線カメラ (480Hz) で撮影, 座標データを取得した. 分析の結果, パフォーマンス結果のばらつきが小さかった熟練者は初心者と比べて, 1) 全てのリリース変数のばらつきが小さく, 2) リリース変数間の相補構造の度合いも大きかった. ただし一部の熟練者は, 影響が最も強い投射角のばらつきを非常に小さくすることで, パフォーマンス結果のばらつきを小さくしていた.
著者
関 和彦
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.81-86, 2015 (Released:2016-04-15)
参考文献数
9

本稿では中枢神経系による手の感覚受容や運動制御のメカニズムについて,著者らの研究成果を紹介しながら解説する.実験はヒトと手の筋骨格構造が近似しているマカクサルを用い,サルに把握や手首運動を訓練した後,神経生理学的な手法で大脳皮質や脊髄の神経細胞の活動を直接記録する方法を用いて行った.その結果,脊髄にある介在神経が把握運動時に使われる指の組み合わせで用いられる筋をまとめて興奮させている事が分かった.また,運動時の末梢感覚は単に受動的な信号でなく,大脳皮質などからの運動指令によって積極的に調節されており,それが感覚情報処理の初期段階でシナプス前抑制を用いて行われている事が分かった.
著者
松尾 崇
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.125-131, 1995-05-01 (Released:2016-10-31)
参考文献数
23
著者
渋谷 恒司 深津 紘志 小松 重紀
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.146-154, 2004 (Released:2006-10-06)
参考文献数
10
被引用文献数
4

本研究では,感性情報である音色が,人間の身体運動に直接与える影響を明らかにすることを目的としている.このため,2名の職業演奏家に,28種類の音色を指定し,それぞれのイメージで演奏してもらった.そして,その際の右腕動作,弓圧等を計測し,分析を行った.同程度の弓圧,弓速となる音色表現語の演奏動作と,音色に対するイメージを分析し,音色のイメージと演奏動作について,「イメージが同じで演奏動作も同じ」「イメージが異なり演奏動作は同じ」「イメージが異なり演奏動作も異なる」の3種類に分類した.しかしながら,考察の結果,音色表現語の右腕動作への影響は限定的なものであり,感性は弓圧や弓速などの演奏パラメータ決定に影響を与えるものと結論づけた.