著者
高橋 優宏 岩崎 聡 古舘 佐起子 岡 晋一郎 西尾 信哉 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.137-141, 2021 (Released:2021-11-25)
参考文献数
11

特発性両側性感音難聴のうち,加齢性難聴とは明らかに異なる40歳未満の遅発性難聴を発症する7つの原因遺伝子が同定され,若年発症型両側性感音難聴と定義された.診断基準は①遅発性,若年発症,②両側性,③原因遺伝子が同定されており,既知の外的要因が除かれているものである.現在,ACTG1,CDH23,COCH,KCNQ4,TECTA,TEMPRSS3,WFS1遺伝子が原因遺伝子として診断基準に示されており,70 dB以上の高度難聴であれば指定難病の申請ができる.ACTG1症例,TEMPRSS3症例のように,次世代シークエンサーによる遺伝学的検査および遺伝カウンセリングにより補聴器から人工聴覚器手術への自律的選択が可能となり,大きな福音となっている.
著者
中野 光花 篠原 宏 清水 啓成 松田 帆 池園 哲郎
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.465-471, 2021 (Released:2022-06-25)
参考文献数
13

外リンパ瘻はあぶみ骨直達外傷や鼻かみ等により外リンパ腔と中耳や頭蓋内の間に瘻孔が生じ,めまいや難聴をきたす疾患である.我々は当院を受診した急性感音難聴症例,くり返す難聴・めまい症例全例,計121例125耳にcochlin-tomoprotein(CTP)検査を行い,CTP陽性例がどの程度存在するか検討した.全症例に詳細な問診を行って,診断基準に従い外リンパ瘻を起こす誘因のある症例を外リンパ瘻疑い,誘因の無い症例は特発性症例とした.CTP陽性症例は全125耳中,外リンパ瘻疑い27耳中の4耳のみで,外傷によるカテゴリー1の3耳と内因性圧外傷によるカテゴリー3の1耳であった.特発性症例98耳は全て陰性であった.高齢者は蝸牛窓膜などの内耳構造が脆弱であるとの報告もあるが,60歳以上の高齢者の特発性例51耳は中間値の1耳を除き,全て陰性であった.以上より,急性感音難聴やめまい症例の中で外リンパ瘻を疑う明らかな誘因のない特発性症例では外リンパ瘻の可能性は低いと考えられた.
著者
高橋 優宏 岩崎 聡 吉村 豪兼 古舘 佐起子 岡 晋一郎 西尾 信哉 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.129-135, 2022 (Released:2022-08-25)
参考文献数
13

一側伝音・混合性難聴症例に対し臨床研究「一側性伝音・混合性難聴に対する埋め込み型人工中耳の有効性に関する探索的臨床試験」において人工中耳(Vibrant Soundbridge®: VSB)埋込み術を4例施行した.本邦における人工中耳臨床試験(両側難聴)と同様に裸耳骨導閾値はいずれの周波数においても維持され変化がみられず,装用後6ヶ月での安全性が確認できた.さらに4例とも人工中耳臨床試験(両側難聴)と同様に良好な自由音場装用閾値を示し有効性が確認された.また,本研究における騒音下での語音弁別,方向定位検査も良好な結果であり,一側性伝音・混合性難聴症例において人工中耳VSBの有効性が示唆された.今後,本邦での適応拡大が期待される.
著者
高野 賢一
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.53-58, 2022 (Released:2022-08-25)
参考文献数
13

人工内耳装用者にとって,最適なマップを得るために人工内耳フィッティング(マッピング)が重要であるが,専門職種や専門医療機関は限られており,遠方から受診することが装用者やその家族にとって負担となっていた.さらに新型コロナウイルス感染症拡大により,移動や受診に伴う感染リスクおよび対面診療による医療従事者の感染リスク軽減の観点から,遠隔医療の導入が加速している.われわれは広大な面積をもつ北海道において,2018年から遠隔マッピングに取り組んでいる.対象遠隔地に在住の装用者は地元の病院を受診し,ビデオチャット用とマッピング用のそれぞれの端末を,大学病院サイトと遠隔サイトでインターネットを介して結び,対面式と遜色ない遠隔マッピングを実施できている.マッピング用ソフトウェアのアップデートにより,概ね常時装用ができている装用者であれば,未就学児も含めて遠隔マッピングの適応が拡がりつつある.
著者
山内 大輔 川村 善宣 本藏 陽平 小林 俊光 池田 怜吉 宮崎 浩充 川瀬 哲明 香取 幸夫
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.159-166, 2020 (Released:2021-04-05)
参考文献数
25

上半規管裂隙症候群は,1998年マイナーによって最初に報告され,これまでいくつかの手術法について報告されてきた.正円窓閉鎖術はいわゆる“third window theory”に基づいた術式であるが,その効果は限定的であることが報告されている.一方,中頭蓋窩法によるpluggingまたはresurfacingの場合は,ほとんどの症例で裂隙部を直接確認できる.しかし,裂隙部が上錐体静脈洞に位置している場合は困難となる.さらに頭蓋内合併症のリスクのため,安易には手術を勧められないジレンマがある.そのため,耳鼻咽喉科医にとって中頭蓋窩法よりも経乳突洞法によるpluggingの方が容易な術式であるが,下方からでは裂隙部を確認しづらく,また感音難聴の合併症のリスクが潜んでいる.著者らは経乳突洞法によるpluggingに水中内視鏡を用いることで安全性を高める方法に改良した.乳突削開術後,浸水下に内視鏡を用いることで,膜迷路と裂隙部を明瞭に観察することが可能であった.たとえ裂隙部が上錐体静脈洞に位置していても,内側からアプローチできるので有用であった.本術式の方法や適応,術後成績について報告する.

1 0 0 0 OA 先天性難聴

著者
荒井 康裕 西尾 信哉 折舘 伸彦 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.131-136, 2021 (Released:2021-11-25)
参考文献数
5

先天性難聴の遺伝学的検査は2012年に保険収載されて以来,難聴の原因を明らかにし最適な医療を提供するために必要なツールとして全国の施設で実施されている.難聴遺伝学的検査のメリットには,1)難聴の正確な診断ができる,2)難聴の重症度や予後の予測ができ,めまいや糖尿病などの随伴症状の予想ができる,3)人工内耳を行うかどうか等の治療法選択の参考になる,などが挙げられる.2012年10月から2020年5月までの期間に当院において遺伝学的検査を施行した先天性難聴患者は119家系132名であり遺伝子変異検出率は41.7%(47家系56例)であった.難聴遺伝学的検査は,より早期の両側同時人工内耳手術の決定の際に非常に有用なツールと考えられた.また,進行性難聴における人工内耳植込の時期決定にも,難聴遺伝学的検査が有用であった.遺伝子診断後に注意すべき点として,遺伝子変異による難聴と診断した後も,慎重に難聴の経過を追うことが大切である症例が認められた.
著者
西尾 信哉 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.116-124, 2021 (Released:2021-11-25)
参考文献数
18

次世代シークエンサーの臨床応用により既知難聴原因遺伝子の網羅的解析が可能となってきた.その一方,非常に多くのバリアントが同定されるため,見出されたバリアントの病原性の判断が新たな課題となっている.本稿では,難聴の次世代シークエンス解析の実際の流れと,見出されたバリアントのフィルタリング,病原性判断手法に関して概説する.信州大学では遺伝性難聴患者の臨床情報と遺伝情報の統合データベースの開発を進めており,すでに12,000例を越える症例の詳細な臨床情報と遺伝子解析データが集積されている.All Japan の体制で収集されたビックデータを用いることで,病原性を効率的に判断することが可能となっている.また,信州大学で開発した保険診療で用いられている次世代シークエンサーと同一プラットフォームのデータを用いたCopy Number Variation解析法に関しても紹介する.
著者
大上 麻由里 大上 研二 西尾 信哉 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.148-154, 2021 (Released:2021-11-25)
参考文献数
14

次世代シーケンサー時代になり,稀な症候群性難聴の正確な診断ができるようになった.今回我々は,信州大学との共同研究にて行われた難聴の遺伝子解析研究により,症候群性難聴の原因遺伝子変異が同定された症例から,特に症候群性難聴の早期診断意義について考察した.遺伝学的検査により症候群性難聴を早期に診断することは,随伴症候の早期治療開始を可能にするだけではなく,手術など難聴治療にも必要な情報を提供することが可能になるなど早期介入に有用であった.また,随伴症状による問題を発症前に理解することで,サポート体制や療育の見直しにつながる場合もあった.次世代シーケンサーを用いた網羅的解析により症候群性難聴が随伴症候発現前など,より早期に遺伝学的に診断可能となってきたが,予測される随伴症状への早期からの対応も可能となり,部分的にしか症候を有さない非典型例の確定診断,随伴症状への早期からの対応や,将来を見据えた治療法の選択など様々なメリットがあることが明らかとなった.
著者
上田 祥久 栗田 知幸 松田 洋一 伊藤 信輔
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.185-190, 2009 (Released:2010-09-30)
参考文献数
18
被引用文献数
2

外傷性耳小骨連鎖離断は頻回に経験する疾患ではないが連鎖離断状況は症例によって多様であり、臨床像を把握しておくことは重要である。また手術による聴力改善は良好であるため連鎖再建術の良い適応である。1995年から2007 年までに当科で手術加療を施行した外傷性耳小骨連鎖離断症例13例13耳を対象とし、その臨床像ならびに治療成績の検討を行った。伝音再建した全例で聴力改善を得ることができた。外傷後伝音難聴が持続する症例に対し積極的な試験的鼓室開放術を施行することが望ましいと考えた。
著者
伊藤 まり 相馬 啓子 小関 芳宏 池上 奈歩
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.186-189, 2010 (Released:2011-11-30)
参考文献数
14

他覚的耳鳴は身体内部に耳鳴となる明らかな音源がある場合で、他覚的耳鳴は筋性耳鳴、血管性(拍動性)耳鳴、その他に分けられる。血管性(拍動性)耳鳴は脈拍と一致しており、原因疾患として局所疾患と全身疾患に分けられ、全身疾患による拍動性耳鳴は循環動態の変化と関係があり、貧血や甲状腺機能亢進、beri-beri(ビタミンB1欠乏症)、褐色細胞腫、妊娠が挙げられる。全身疾患による拍動性耳鳴が他覚的に聴取されることは極めて稀である。今回、我々は子宮筋腫に伴う不正出血、貧血により、左他覚的拍動性耳鳴を引き起こし、子宮筋腫摘出術後、貧血の改善に伴い耳鳴が改善した症例を経験し、その耳鳴音を記録、解析し得たので報告する。
著者
河野 道宏
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.142-148, 2019 (Released:2019-11-25)
参考文献数
26

近年,聴神経腫瘍に対して手術・放射線治療・経過観察が適切に行われるようになり,治療成績は以前に比して明らかに向上している.しかし,依然として,突発性難聴等と診断されて発見が遅れるケースが多く,初発症状から腫瘍の発見まで平均2年半以上かかっているのが現状である(筆者データ).これは,聴神経腫瘍の半数以上が突発型の聴覚症状を呈すること(筆者データ)が広く知られていないことと,除外診断であるはずの「突発性難聴」の診断が検査なしに安易につけられていることに起因するものと考えられる.治療の対象となりやすい若年者には,突発型の聴覚症状には内耳道中心のthin sliceのMRIのスクリーニングを行うべきと考えられる.
著者
太田 有美 長谷川 太郎 川島 貴之 宇野 敦彦 今井 貴夫 諏訪 圭子 西村 洋 大崎 康宏 増村 千佐子 北村 貴裕 土井 勝美 猪原 秀典
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.244-250, 2012 (Released:2013-07-12)
参考文献数
19
被引用文献数
7

人工内耳手術においては手術手技に関係した合併症もあるが、電極のスリップアウトや機器の故障など特有の問題で再手術を要することがある。再手術は患者にとって負担となるものであり、避けうるものは避けなければならない。また術前に起こりうる合併症について患者に情報提供する必要もある。そこで、これまで当科で行った人工内耳手術症例について術後の合併症、特に再手術に至った症例の手術内容、原因を検討することとした。対象は1991年1月から2011年3月までの20年間に大阪大学医学部附属病院耳鼻咽喉科で人工内耳手術を施行された症例494例(成人319例、小児175例)である。何らかの理由で再手術を行ったのは、成人27例(8.5%)、小児20例(11.4%)であった。再手術の原因は、機器の故障8例、音反応不良11例、電極スリップアウト・露出6例、皮弁壊死5例、真珠腫4例などが挙げられる。小児では外傷(2例)や内耳奇形に起因するgusher(1例)や顔面痙攣(1例)がみられた。手術内容としては電極入れ替えが最多であったが、本体移動や真珠腫摘出、人工内耳抜去もあった。複数回手術を要している例もあり、特に小児において成人に比べると有意に多い。小児では皮弁の感染・壊死や真珠腫形成などで手術を要する状態になると複数回手術を要していることが多かった。このことから小児では皮弁の感染、壊死に特に注意が必要であると考える。電極スリップアウト・露出した例13例中8例(61.3%)という高い割合で中耳疾患の既往がみられており、中耳疾患の既往がある場合は、電極が露出しないような工夫を行う必要がある。人工内耳手術は重篤な合併症の割合は低く、安全な手術といえるが、皮弁壊死や真珠腫形成で複数回の再手術を要することがあり、患者指導や専門医による定期的な経過観察、長期の経過観察が必要と考える。
著者
山本 季来 金丸 眞一 辻 拓也 窪島 史子 金井 理絵 西田 明子
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.28-33, 2014 (Released:2015-07-01)
参考文献数
11

一般的に髄液耳漏は頭部外傷・腫瘍性疾患・炎症性疾患・手術後の合併症などが主な原因と考えられているが、これらの既往がなく、内耳正常の成人型特発性髄液耳漏は極めて稀である。今回我々は難聴・頭痛・めまい・鼻漏を主訴に当科を受診した特発性髄液耳漏に対して乳突開放術を行い、確定診断かつ治癒に至った症例を経験した。術前のCT、3D-CT、造影MRI、脳槽シンチグラフィーなどの複数の検査結果に基づく疾患部位の予測が、術前診断かつ治療方針決定に非常に有用であった。また本症例は術中診断で脳ヘルニアの状態にあったが、経乳突法のみで頭蓋底再建が可能であった。術後は聴力・頭痛・めまいの改善を認め、約1年4カ月経過したが明らかな再発を認めていない。
著者
曾根 三千彦
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.57-59, 2017 (Released:2019-02-13)
参考文献数
14

メニエール病の病態は内リンパ水腫である。造影剤を用いたMRI評価により、内リンパ水腫の存在を可視化できるようになった。MRI評価は、メニエール病のみならずその周辺疾患における内リンパ水腫の存在意義と病態を解明する有用な手段である。
著者
今泉 光雅 松井 隆道 大槻 好史 菊地 大介 佐久間 潤 室野 重之
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.245-251, 2019

<p>聴性脳幹インプラント(auditory brainstem implant: ABI)は,蝸牛神経に障害を受けた際に,中枢側である脳幹の蝸牛神経核に電気刺激を加え,聴覚を獲得させることを目的とする人工聴覚器である.今回我々は,両側の聴神経腫瘍術後,高度難聴に至りABI埋め込み術を施行した症例を経験し,術後1年間の経過観察する機会を得たので報告する.症例は44歳,女性.両側の聴神経腫瘍術後,高度難聴に至ったためABI手術を脳神経外科と共同で行った.ABI術後1年を経過し語音明瞭度検査は,術前が単語0%,文章0%,読唇併用の際は単語32%,文章46%であったものが,単語4%,文章0%,読唇併用の際は,単語68%,文章43%と改善を認めた.ABI単独での会話は困難な状態であるものの環境音の聴取は可能となった.両側聴神経腫瘍術後症例に対するABI埋め込み術は,聴覚獲得の一手段になり得ると考えられた.</p>
著者
岩崎 聡 宇佐美 真一 髙橋 晴雄 東野 哲也 土井 勝美 佐藤 宏昭 熊川 孝三 内藤 泰 羽藤 直人 南 修司郎
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.149-155, 2017 (Released:2019-02-13)
参考文献数
8
被引用文献数
1

平成28年2月下旬に日本耳鼻咽喉科学会に登録している人工内耳実施施設109施設を対象に日本耳科学会人工聴覚器ワーキングループによるアンケート調査を実施した結果を報告する。85%の施設で平均聴力90dB未満の患者が人工内耳手術を希望されていた。48%の施設で一側の平均聴力90dB未満の患者に人工内耳手術を行っていた。82%の施設が1998年の適応基準の改訂が必要と考えていた。人工内耳手術を行った最も軽い術側の平均聴力レベルは91dB以上が20. 7%、81〜90dBが51. 7%、71〜 80dBが14. 9%であった。93%の施設で適応決定に語音明瞭度も重要と考えていた。67%の施設が両側人工内耳を実施したことがあった。本アンケート調査結果を踏まえて、成人人工内耳適応基準改訂が必要と考えられた。
著者
金丸 眞一 金井 理絵
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.131-134, 2017 (Released:2019-02-13)
参考文献数
6

鼓膜再生療法は、皮膚外切開や自己組織の採取を伴わない組織工学的手法による再生医療として非常に有効な治療であるが、その適用にはいくつかの必須項目を満たす必要がある。鼓膜再生の処置に鼓膜穿孔縁の新鮮創化があるが、これには鼓膜穿孔縁が顕微鏡下で直視できなければ行えない。また、鼓膜穿孔の原因の大半は慢性中耳炎で、多くの場合、鼓室や鼓膜に軽度湿潤し、完全な乾燥状態でないため鼓膜再生の適応ではない。これらの症例に対して、前者では外耳道の拡大や内視鏡の使用。また、後者では、経鼓膜的に鼓室内の洗浄・清掃を行うことで適用症例の拡大を図ってきた。これまで、鼓室形成術や鼓膜形成術を施行せざるを得なかった症例に対しても、その一部は鼓膜再生を併用した低侵襲の本治療法が有効であると思われる。
著者
藤岡 正人
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.223-229, 2017 (Released:2019-02-13)
参考文献数
19

再生医療とは、自己修復能が限られている部位での失われた組織・臓器の人為的再構築による治療を指し、イモリなどの生物と異なり元来内在性再生能に乏しい人類にとっては大きなチャレンジである。我が国のように治療目的でのヒトの臓器や細胞の確保が困難な医療状況下においては、再生医療の実用化に対する社会的要請がとくに大きく、再生医療新法の成立や再生医療製品の早期承認制度など、技術革新を産業化に結びつける試みが国家レベルで急速に推し進められている。かつては再生能がないと考えられていた内耳においても、科学の急速な進歩により、蝸牛幹細胞の採取1)やES/iPS細胞を用いた内耳細胞の作成が可能となり2)〜4)、現在、企業も含めた「内耳再生医療」の開発競争が国内外で始まりつつある。本稿では産・学・官をまたいだ本邦における再生医療全体の概要を整理し、実用化に向けて我々が求められるステップやハードルについて概観したのちに、基礎研究レベルでの内耳再生に関する国内外の知見を整理したい。
著者
高橋 正紘
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.727-734, 2010 (Released:2012-08-31)
参考文献数
20
被引用文献数
7

めまい専門施設の4年間のメニエール病患者411名(男性162名、女性249名)に対し、ライフスタイル正常化と有酸素運動を実践し(1回1時間以上を週3回以上)、原則無投薬、月一回の受診の治療を実施した。6ヶ月以上観察した83名で、めまい消失55.4%、ほとんどない27.7%、時々ある10.8%、しばしばある6.0%であった。6ヶ月以上観察した102名129耳で、初診時の低音障害からの改善47.7%、高音障害からの改善33.3%、全音域障害からの改善26.6%であった。固定した高音障害、全音域障害の改善には、非日常的な頻度・量の有酸素運動が必要であった。有酸素運動が内耳局所の循環を改善させ、水腫を改善させると推測された。発症誘因の調査結果を考慮すると、メ病は心身の奉仕や頑張りに対する報酬不足が、情動中枢を介し内耳循環不全を招き、内リンパ水腫を生む可能性が示唆された。
著者
肥塚 泉
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.45-51, 2010 (Released:2011-06-09)
参考文献数
25
被引用文献数
2

メニエール病は、めまい発作を繰り返し、難聴や耳鳴などの聴覚症状(蝸牛症状)を反復・消長する疾患である。近年、メニエール病の診断基準が改定された。メニエール病の病態を内リンパ水腫と位置付け、メニエール病確実例の定義を簡潔に記載し、さらに前基準で疑い例と記載されていた分類をメニエール病非定型例蝸牛型、同前庭型と定義しその基準を明確にした。メニエール病の本態と考えられる内リンパ水腫の診断法についても、耳石器を対象とした脱水検査、高分解能MRI など新しい手法が適用されるようになった。メニエール病の発症ならびに再発に、ストレスが深くかかわっている可能性が指摘されてきた。最近ストレスホルモンの一種で、腎臓や内耳における水代謝に強く関連しているAVPが内リンパ水腫の形成に強く関連している可能性が示唆されるようになり、メニエール病におけるストレス管理の重要性が再認識されるようになった。