著者
久山 雄甫
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

今年度は、研究対象であるゲーテ思想に含まれる重要概念のうち、特に「ガイストGeist」概念に注目して研究をすすめた。その成果は、以下の三点にまとめられる。まず一点目に、ゲーテのモナドロジーとガイスト概念の関連性について調査した。晩年のゲーテは様々な文脈でしばしば「モナド」あるいは「モナス」という言葉を使っていた。本年度の研究では「モナド」という語がガイスト概念と密接に結びつけられつつ、「有限」と「無限」の中間を指し示すものとして使われていたことを明らかにした。二点目に、ゲーテの『ファウスト』第一部における地霊(Erdgeist)をガイスト概念の歴史中に位置づけつつ考察を行った。この「大地のガイスト」(Geist der Erde)を描写する際に使われている光、炎、霧、靄、風、音などの比喩的表現は、ガイストが人間界から断絶した超越的な彼岸に存在するのではなく、感知可能な世界に現象しながらも不定形で非物体的な存在様態をとっていることを示している。第三に、ゲーテ形態学において「非ガイスト」(Ungeist)と呼ばれるナマケモノに注目して、ゲーテのガイスト観を探った。「非ガイスト」という表現の背景にあるのは、地上における生命現象は「創造的ガイスト」と「創造された世界」との交点に生じるという哲学者トロクスラーの生命論である。「創造的ガイスト」とは、具体的で物質的な形象をもって現れ出てきた生物個体の内部において不断にはらたく「形成衝動」のようなものと考えられる。以上に加え、本年度は、ゲルノート・べーメ氏が2011年11月に京都で行った講演「ゲーテと近代文明」の企画運営と翻訳を行った。一昨年度に執筆した論文"Goethes Gewalt-Begriff"は、『ゲーテ年鑑』(Goethe-Jahrbuch)に受理された。また、特別研究員としての研究期間に先立って行っていた「気のドイツ語訳」研究に関して、2012年8月に北京市で開かれたアジアゲルマニスト会議において研究成果を概観的に紹介する口頭発表を行うとともに、2013年1月には博士論文をドイツ・ダルムシュタット工科大学に提出し、2013年2月14日に受理された。
著者
高橋 健造
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

本研究は、難治性の皮膚角化症であるダリエー病、ヘイリー・ヘイリー病に対する外用治療薬の開発を目標とする。ダリエー病およびヘイリー・ヘイリー病は、各々SERCA2遺伝子、SPCA1遺伝子の変異による比較的頻度の高い優性遺伝性の角化皮膚疾患であり、醜形・悪臭を伴う皮疹が思春期以降の顔や胸部などの脂漏部位、あるいは腋窩などの問擦部に発症するが、現在の所、有効な治療法が存在しない。両遺伝子より転写される小胞体、ゴルジ体のカルシウムポンプであるATP2A2、ATP2C1蛋白の蛋白量が低下し、表皮角化細胞が正常な角化プロセスより逸脱することで発症する。我々は、ハプロ・インサフィシエンシーと呼ばれるこの発症メカニズより、SERCA2あるいばSPCA1遺伝子の転写を亢進し、患者皮膚でのポンプ蛋白の発現量を変異体・正常蛋白ともに増加させることで、皮膚症状を改善しうると考えた。そこで培養ヒト表皮角化細胞を用い、SERCA2・SPCA1遺伝子の発現を増強させる薬剤を、脂溶性薬剤ライブラリーをスクリーニングすることで網羅的に探索した結果、カンナビノイドとバニロイドと呼ばれる作動薬の1群が、ヒト皮膚でのATP2A2蛋白の発現を亢進することを発見し特許を申請した。ln Vitroの解析結果より発見した各作動薬群の薬剤を今後、モデル動物を用いたEx Vivoの実験を通して、より効果的で安全性の高い薬剤を検討することで探索するとともに、近い将来の臨床治験などへ向けたより効果的な薬剤の選定を進めている。さらにヘイリー・ヘイリー病の治療薬となるべき薬剤のスクリーニングも継続している。
著者
片田(孫) 朝日
出版者
京都大学
雑誌
京都社会学年報 : KJS
巻号頁・発行日
vol.11, pp.73-94, 2003-12-25

This study explores the characteristic of girls' language uses in their play activities and illuminates the variety of the styles in contexts. Previous studies in Japan have found that girls and boys learn and use gender-appropriate behaviors and linguistic forms. According to these studies, girls and their groups use more polite and collaborative linguistic styles, including more mitigated verb forms, than boys. Among girls "the rule of considerateness" to others (Goffman) earns more attention than among boys. These studies, however, tend to depict children as beings who are one-sidedly socialized to be simply bound by the gender norms. This study tries to show that girls, depending on the contexts, carefully choose various linguistic styles including masculine ones, and make tactical use of the rules of considerateness and of the norms of girls' styles in their play interactions. This study are based on the data obtained through naturalistic observation and videotaped play interaction of girls and boys (of age six to nine) in a child care center in Kyoto City. In this study, the girls who like to play house, drawing and card games, were found to form more exclusive and stable play groups than those of the boys. When the girls want to get other girls to do something, they usually designed directives - speech acts in more mitigated forms. The girls in one of the two groups were willing to show their consideration for younger girls. These girls, on the other hand, reproached other girls' for their behaviors which according to them lacked consideration, using such a term as "Ijiwaru" (mean). They not only conform to the rule of considerateness, but also actively use it for themselves. In addition, the girls change their style in contexts. When boys invaded their plays, they baldly accused the boys and order to go away in imperative forms. The girls in the higher status group, also often teased and denounced a peripheral member in the group. They design directives aimed at her in aggravated forms. But the denounced girl herself challenged the denouncers insisting that an aggressive behavior is not appropriate for girls.
著者
熊谷 元 林 義明 廣岡 博之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

タイでは、キャッサバパルプと液状ビール酵母を組み合わせた発酵混合飼料と、核酸系およびアミノ酸系調味料副生液を用いた新規飼料のin vitro第一胃発酵は良好で、ウシに対する嗜好性は高く、核酸系発酵副生液(脱塩母液)の給与が繊維成分の消化率を向上させた。フィリピンとネパールで地場産の牧草と野草を網羅して化学成分とin vitro第一胃消化率を測定した結果、粗タンパク質含量や乾物消化の季節変化が少ない上に高値を示す草種があり、それらのウシ、スイギュウ、ヤギに対する有効性が示された。ネパールではヤクのエネルギー不足とリン、カルシウムおよび銅栄養状態の低下が冬季に認められ、補助飼料の給与が推奨された。
著者
藤井 慶輔
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究の大きな目的「球技の1対1における防御のメカニズムを解明すること」に沿って、当該年度は前年度以前に実験を行った、以下3つの研究成果をまとめた。(1)攻撃者と防御者が実際に、リアルタイムで対峙したバスケットボールの1対1の状況を設定し二者の動作分析を行った。1対1の結果・過程を定義・分類し、防御者が攻撃者を阻止した試行は、「早い動き出し」「速い動作」「攻撃者の停止」という3つに分類できることが明らかになった。このことから、実際の球技の1対1において防御者が攻撃者の動作に与える影響を考慮に入れる必要性が明らかになった。(2)防御者の運動制御過程に着目し、準備状態が防御者の動き出しを早めることを床反力分析によって明らかにした。実験室的課題により動作を制約した準備動作(地面反力を体重よりも軽くする「抜重状態」を引き起こす自発的な垂直連続振動)を用い、大学バスケットボール選手にLED刺激に対するサイドステップ反応課題を行わせた。その結果、LED点灯時刻付近での抜重状態が動き出し時刻を早め、動き出し時刻付近での加重状態がターゲット到達時刻を短縮させたことが明らかになった。(3)実際の1対1の状況において床反力を測定することで、(2)で示された準備状態が防御者の動き出しを早め、攻撃者の防御を可能にするかどうかを検討した。その結果、実際の攻撃者との相互作用が起こる課題においても、防御者の大きくない(体重の1.2倍を超えない)動き出す前の地面反力が、攻撃者に対する防御者の動き出しの時刻を早め、防御が成功する確率を高めることが明らかになった。
著者
檀浦 正子 小南 裕志 高橋 けんし 植松 千代美 高梨 聡
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

環境変動予測のためには、陸域炭素循環において大きな役割をもつ森林の炭素循環解析およびモデルの確立が必要である。そこで、炭素同位体パルスラベリングをアカマツ、コナラ、ミズナラ、マテバシイに適用し樹木内の炭素移動速度および樹木内滞留時間の樹種間比較を行った。アカマツにおける移動速度は広葉樹と比較して遅く、樹木内滞留時間には季節変動がみられ特に冬季は顕著に遅くなった。ミズナラ・マテバシイについては大きな違いは見られなかった。コナラの葉に固定された炭素は4日程度でそのほとんどが幹へと移動した。しかしラベリングから長期間経過後も13Cが残存し、同化産物によって滞留時間が異なることが示唆された。
著者
山極 壽一 村山 美穂 湯本 貴和 井上 英治 藤田 志歩
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

アフリカの熱帯雨林に共存するゴリラとチンパンジーのコミュニティ構造を低地と高地で調査して比較分析した結果、標高の違いにより、ゴリラは集団サイズや構成、集団同士の関係、個体の集団への出入り、コミュニケーション、個体の成長速度に、チンパンジーは集団のサイズ、遊動域の大きさ、個体の分散に違いがあることが判明した。また、同所的に生息するゴリラとチンパンジーの間には、個体の分散の仕方、個体の集団への出入り、コミュニケーション、攻撃性、ストレス、繁殖戦略、生活史に大きな違いがみられ、それらの違いが食性の大きく重複する両種が互いに出会いを避け、競合や敵対的交渉を抑えるように働いていることが示唆された。
著者
稲葉 穣
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

古代アフガニスタン由来の貨幣資料について、欧米所蔵の資料調査および最新の研究状況の把握につとめ、イスラム化前夜から初期イスラム時代の同地域の歴史を、貨幣と文献資料に基づいて再構成することに一定程度成功した。その成果は、邦文で執筆された二本の論文に示した。また国外の学会に積極的に参加し、多くの研究報告を行った。また、2013年にはアフガニスタン、オーストリア、イタリアから8名の研究者を招聘し、国際共同研究イベント Kyoto Afghan Week 2013を開催し、公開講演会、共同ワークショップ、博物館実習などを通じて国際共同研究の新しい道を開いた。
著者
牧野 俊郎 若林 英信
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

日本の夏の蒸し暑さや冬の温められた居住室内の乾きを抑えるには,湿気を呼吸する後づけ型の室内付設壁板を設けることが考えられてよい.そのような壁板に,人体や衣服と室内壁板の間のふく射伝熱を改善する機能を付与することができればさらによい.本研究では,そのような壁板の候補の1つとして,ハニカム的な構造をもつ多孔性の金属の板に大鋸屑を詰めた壁板を試作し,その平衡質量含水率を測定して吸放湿量の温湿度特性を推定し,湿気伝導率と熱伝導率,全半球放射率を測定する.その結果,この壁板は高い吸放湿性と高い熱伝導性をもつことが示される.
著者
西川 完途
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

中国大陸のサンショウウオ科およびイモリ科の種多様性の評価と系統進化を探るため、中華人民共和国の四川省、浙江省、河南省、福建省、広西チワン族自治区において野外調査を行い、得られた標本や組織サンプルから形態と分子に基づく系統分類学的な解析を行った。その結果、中国における両科の分類には多くの問題があり、複数の同物異名と新種が発見された。また、多くの生物地理学的な知見が新たに得られた。
著者
鉾井 修一 小掠 大輔
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

インドネシア・スラバヤとマレーシア・クアラルンプールの住宅を対象として、日常の生活状況やエアコン使用に関する意識調査と住宅の温湿度測定を行い、これらの地域の人々が現在どのような温湿度条件下で生活し、どのような温湿度を快適と感じているのかその実態を調べた。睡眠時に寒いと感じる低い設定温度を選択していること、またそのようなエアコンの運転に伴い様々な健康問題も生じていることを明らかにした。
著者
中川 久定
出版者
京都大学
雑誌
京都大學文學部研究紀要 (ISSN:04529774)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.119-355, 1975-03-31

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。
著者
中川 久定
出版者
京都大学
雑誌
京都大學文學部研究紀要 (ISSN:04529774)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.185_a-45_a, 1973-03-31

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。
著者
冨田 恭彦
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本年度は以下の手順で研究を進めた。1.デイヴィドソンの言語哲学の基本的枠組を、クワインのそれとの比較において捉え直した上で、デイヴィドソン・ロ-ティ的反表象主義の要点を明確にした。この作業において、デイヴィドソンの師であるクワインから、私見に関する様々なコメントや資料の提供を受けた。また、その反表象主義が17・18世紀の観念説・表象説に一様にあてはまるわけではないという私見をめぐって、ロ-ティ自身とも意見を交換した。2.拙書『ロック哲学の隠された論理』およびその英語版“Ides and Thing"で指摘したロックの観念説の本質について、再度検討を行った。この過程で、前オックスフォード大学出版局ロック著作集編集主幹のヨルトン教授から、私見の細部に関する質問が数度にわたって寄せられ、その書評において私見を基本的に評価する旨が表明された。また、ロックを徹底した心像論者とするマイケル・エア-ズに対する批判についても、基本的に支持する旨の見解が寄せられた。3.以上の結果を踏まえて、ロック以降の観念説の検討に入った。ここではリ-ドの反観念説の論理が特に問題となった。つまり、リ-ドはわれわれの知覚の対象は「観念」ではなくて、「物」やその「性質」・「関係」であるとしたわけではあるが、これは、心の志向的性格を考えたとき、当然の結論ではある。しかし、この志向性を支える「内容」とか「質料」とか言われるものが、17・18世紀には「観念」や「表象」と呼ばれていたという可能性を考えるなら、このリ-ドの批判は、「観念」の背後にあった問題構制を単に回避するものと言わざるをえない。この点を明確にするには、デカルト以後の「観念」の用法を「志向性」の観点からもう一度洗い直す必要があり、現在、「近代観念説における自然学的論理とその変貌に関する研究」という研究課題の下に、平成8年度の科学研究費補助金を申請中である。
著者
坂田 ゆず
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

1年目と2年目における研究から、アワダチソウグンバイ(以下グンバイ)が高密度で見られる集団ほど、セイタカアワダチソウ(以下セイタカ)の抵抗性が高いことが明らかとなった。原産地から侵入地への侵入過程で、どのような自然選択圧が背景となり、グンバイの密度が高まり、セイタカの抵抗性が変化したかを明らかにするために、野外調査、相互移植実験、温室実験を行った。今年度は、これまで行った集団遺伝学的解析の結果、日本のセイタカの集団と最も近縁であることが明らかになった北米南部集団のグンバイへの抵抗性を比較した。日本における圃場実験の結果、北米南部集団のセイタカは、グンバイに対して高い抵抗性を示した一方で、日本のグンバイの侵入が11年目の集団に比べて、抵抗性が低い傾向も検出された。3年間の研究から、原産地でもセイタカとグンバイの関係は地理的な変異が大きく、両地域でセイタカのグンバイに対する防御形質が局所的に適応していることが明らかとなった。そして、グンバイが日本への侵入時に、原産地に比べて侵入地では気候条件が好適で、グンバイの競争者となるその他の植食者が少なく、抵抗性が低いセイタカが全国に分布しているという背景によって、侵入地におけるグンバイの密度が高まったことが示唆された。その結果、セイタカは、グンバイから解放されることで一旦は低下した抵抗性が、侵入地において再会したグンバイが強い選択圧によって、防御形質の適応が短期間に再び生じているといった進化動態が示唆された。以上により、物理的環境と生物的環境の複数の要因が作用し植物と植食者の局所適応が生じていることが示唆された。これらの結果をまとめ、国内外での学会での発表を行い、投稿論文を執筆中である。
著者
高須 清誠
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

同一の反応空間においてひとつの触媒が反応機構の異なる複数の反応を活性化して反応基質を連続的に化学変換することができれば(タンデム触媒系)、複雑な分子構造を単純な原料から一挙に構築することが可能となる。しかし、複数の分子の混合状態において、同一の触媒で選択的に基質を活性化して異なる反応を秩序よく進行させることは極めて困難である。23年度は、マイクロリアクターを用いた空間集積合成への適用を含め、時空間集積および時間集積とあわせて複雑分子の構築法の開発を検討した。また、その反応を利用していくつかの生理活性天然物なちびに低pH応答型の人工DNA切断分子の創製を目指した。検討の結果、以下にまとめた成果を明らかにした。1.マイクロリアクターを用いた室温での触媒的(2+2)環化付加の実現(空間集積)2.タンデム触媒系を利用した連続的異性化-(2+2)環化付加の開発(時間集積)3.低pHに応答してDNAを選択的に切断するシクロブタン化合物の創製(上記の集積反応を活用)4.タンデム触媒系でのイナミドを基質とする反応の開発:不飽和イナミドおよび多置換キノリンの合成(時空間集積)5.不斉共役付加を基点とするワンポット反応でのキラルβアミノ酸誘導体の合成(時間集積)と、統合失調症治療薬ネモナプリドの短行程不斉合成即ち、Tf2NHの多彩な触媒活性を利用した反応集積化を行い(2+2)環化付加を含む連続反応を開発するとともに、生理活性天然物の母核構造の短行程合成に成功した。また、低pH応答型DNA切断分子を設計し、実際に目的の機能を示すことを明らかにした。
著者
高橋 清德
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2005-03-23

新制・論文博士
著者
奥村 優子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

乳児を取り巻く環境は、情報に満ちあふれた複雑な世界である。そうであるにもかかわらず、乳児は驚くべき速さで、そして効率的に、世界の仕組みを学習する。乳児はどのようにして、複雑な世界から有益な情報を獲得していくのだろうか。本研究は、乳児が他者からいかに効率的に情報を獲得するかといった社会的学習のメカニズムを実証的に検討することを目的とした。研究1では、社会的学習の対象となるエージェントそれ自体が乳児の学習にもたらす影響を検討するために、12ヶ月児を対象として、ヒトとロポットの視線が乳児の物体学習に与える影響を比較した。乳児は両エージェントの視線方向を追従したが、ヒトの視線を追従するときのみ物体学習が促進されることが示された。本研究の結果から、ヒトの視線は、乳児の物体学習において強力な影響をもつことが明らかにされた。これは、発達初期におけるヒトからの学習の特異性を示唆している。研究2では、ロボットにコミュニカティブな手がかりとして音声発話を付与することによって、乳児がロポットの視線を学習に利用する可能性を検証した。その結果、乳児は音声発話といったコミュニカティプな手がかりを付与されたロポットの視線を、物体学習に利用できることが示唆された。今後教師役のロボットの設計原理を考えるうえで、この結果は一つの指針を与え、新しい学習戦略への道を開くであろう。研究3では、ヒトが情報源であったとしても、乳児が他者からの情報を区別し、特に、文化的集団のメンバーから選択的な情報獲得を行うかどうかを検討した。生後一年目までに、乳児は話者の方言を手がかりとしてコミュニティメンバーを特定し、自身の養育環境にある方言話者に対して社会的選好を示した。このような選好は、所属する文化的集団メンバーから選択的に情報を獲得する社会的、文化的学習を支えている一つの要因であるかもしれない。