著者
高橋 克 清水 章 菅井 学
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

我々は、新規BMP拮抗分子USAG-1欠損マウスにおいて、歯数が増加するphenotypeを見出した。歯数増加は上顎切歯において解析したUSAG-1欠損マウス25例中全例で認められたため、以下の解析は、上顎切歯部において行った。胎生13週から生後3日まで、同部位をHE標本を用いて、組織学的評価を行った。野生型では、痕跡的な乳切歯が胎生15週まで発生が進むが、以後縮小、消失して行くのに対し、USAG-1欠損マウスでは、胎生15週以降も発生が進み、一部エナメル質形成を伴った歯牙の形成を認めた。胎生15週でTUNEL法にてApoptosisを比較したところ歯間葉細胞おいて多く認められ、過剰歯は、同部でUSAG-1欠損によりBMPの機能が亢進されたため歯間葉細胞のApoptosisが抑制されたためと考えられた。痕跡的な乳切歯の歯上皮細胞ではBMP2,BMP4,BMP6、また歯間葉細胞ではBMP4,BMP6の発現が認められた。また同部の歯間葉細胞ではリン酸化smad1/5/8抗体陽性細胞数がUSAG-1欠損マウスで有意に多く、whole mount in situ hybridization法ではBMPシグナリングの下流の分子であるMsx1とDlx2の発現の充進が認められた。USAG-1欠損マウスの上顎切歯部の器官培養において歯数増加を認めたが、BMP拮抗分子の一つであるnogginを添加したところ、歯数増加のphenotypeはrescueされ正常な歯数となった。以上の結果より過剰歯の形成は、同部でUSAG-1欠損によりBMPの機能が亢進されたためと考えられた。ヒトにおいても痕跡的な第3歯堤の存在が報告されており、USAG-1を標的分子として歯牙再生を目指す新しいアプローチとなる可能性を示唆した。
著者
上田 和夫
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1999-03-23

新制・論文博士
著者
加藤 晃弘
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

染色体不安定性症候群の一つであるナイミーヘン症候群の原因遺伝子産物NBS1は、電離放射線などによって生じたDNA二重鎖切断(DSB)に素早く応答し、染色体の不安定化や細胞の癌化、細胞死を防いでいる。その分子メカニズムについては不明な点が多く残されているが、本研究では、DSBの主要な修復経路の一つである非相同末端結合でNBS1タンパク質が機能していることを証明し、NBS1のある特定の領域がそれに特化した機能を担っていることを明らかにした。
著者
高橋 義人
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

ヨーロッパの精神史ではキリスト教と並んでグノーシス思想が大きな役割を果たしてきていること、グノーシス思想を知らなければ、ヨーロッパの哲学や文学も真に理解することはできない、と近年しばしば言われるようになってきた。本報告書の目的は、グノーシス思想をもとに、ヨーロッパの哲学や文学を読み直すことにある。しかしグノーシス思想の全体像について知らなければ、グノーシス主義と近代ヨーロッパの哲学や文学との関係を知ることはできない。そこで本報告書の前半では、グノーシス主義の概要について記した。第1章(失楽園)、第2章(二元論)、第3章(ソフィアと「男・女」)、第4章(救済された救済者)、第5章(黙示録と終末思想)、第6章(アウグスティヌスとマニ教)、第7章(スコラ学派とカタリ派)、第8章(聖杯伝説とグノーシス)、第9章(マイスター・エックハルトとグノーシス)、第10章(ヤーコプ・ベーメとグノーシス)である。本報告書の後半は、全11章からなる。ファウスト伝説がグノーシス主義者シモン・マグスに関する逸話に由来するのではないかと推測した第11章、ウィリアム・ブレイクがベーメの影響の下にグノーシス思想に親しんでいったことを跡付けた第12章、ピエティスムスの指導者エーティンガーの有するグノーシス主義的思想がドイツ観念論にいかに大きな影響を与えたかを論じた第13章、フィヒテの『浄福なる生への導き』のなかにグノーシス思想を探った第14章、シェリングの『人間的自由の本質』における善悪の問題の追究がグノーシス主義的であると論じた第15章、ヘーゲルの「キリスト教の精神とその運命」に見られるグノーシス思想が彼の「弁証法」を生み出し、さらに彼のグノーシス的思想はヘーゲル左派を通してマルクス主義へとつながり、またヘーゲル右派を通してナチズムにつながっていった経緯を明らかにした第16章、さらには自分ではグノーシス主義者とは述べていないものの、『罪と罰』などの見られる思想は明らかにグノーシス的と認められるドストエフスキーについて論じた第17章、同じく自分ではグノーシス主義者とは洩らしていないものの、『パルジファル』には明白なグノーシス思想が認められると論じた第18章、ユング派の医師によって精神病の治療を受け、グノーシス思想に接近したH・ヘッセの記念碑的小説『デミアン』について論じた第19章、タルコフスキー監督の映画『ノスタルジア』や「」サクリファイス』のなかにグノーシス思想を認めた第20章、20世紀後半のSF作家フィリップ・ディックがいかにグノーシス思想に近づいたかを論じた第21章である。
著者
高橋 鉄美 曽田 貞滋
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

集団内多型の維持機構を解明することは、遺伝的多様性の維持と直結するため、進化生物学的・生理学的に重要な課題である。私は、シクリッド魚類のあるグループに見られる集団内オス色彩二型を例に、その維持機構を解明しようとしている。本研究課題では、飼育個体群を用いた連鎖解析と野生個体群を用いた関連分析を行い、二型を支配する遺伝子が組み換えの制限された狭いゲノム領域に存在することを明らかにした。しかし、二型の維持機構を解明するには至らなかった。当初、異類交配によって維持されるという仮説を設定していたが、それを支持する結果が得られなかった。このため新たな仮説を提唱し、今後の研究に筋道をつけた。
著者
池野 旬 島田 周平 辻村 英之 池上 甲一 上田 元 武内 進一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究計画では、タンザニア北部高地のキリマンジャロ・コーヒー産地を中心的な調査対象地域とした。国際的・国内的な要因によるコーヒー生産者価格の下落という近年の状況に対して、地域全体を統合するような広域の地域経済圏の形態での対応は発見できなかった。地理的分断、居住する民族集団の相違、行政的区分、農産物流通組織の相違等の要因によって、同地域は4〜5の山地-平地という組み合わせの下位地域に細分され、それぞれが別個にコーヒー価格の下落に対応している。メル山地域においては近隣都市の野菜・乳製品等の需要増大に応じて、中核的なコーヒー栽培地域において作目転換・畜産重視という変化が見られた。キリマンジャロ山地域には複数の下位地域区分が存在するが、コーヒーの差別化・流通改革をめざす地域、平地部でのトウモロコシ・米生産を重視する地域等の対応の差が見られた。また、北パレ山塊においては、建設ブームによって山麓にある都市部で人口増大が著しいのに対して、コーヒー産地である山間部では過疎化が進行しつつあることが明らかになった。比較対照のためにとりあげたルワンダ、エチオピアでは、タンザニア北部高地では見られない対応が行われていた。ルワンダにおいては、コーヒー産地は最も人口稠密であり、また有利な換金作物を栽培できる地域であるために、ルワンダの他地域では見られない分益小作制が発生しつつあった。また、エチオピアにおいては協同組合がフェアトレードやオーガニック・コーヒーという差別化に巧みに対応し、民間業者と互してコーヒー流通を担い続けていた。両国の事例は東アフリカにおけるコーヒー経済の存在形態の違いを浮き彫りにしており、本研究計画のめざした比較研究の必要性が改めて確認された。
著者
山本 真也
出版者
京都大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

ギニア共和国ボッソウ村にて野生チンパンジーの調査、コンゴ民主共和国ワンバ村にて野生ボノボの調査をおこなった。同時に、林原生物化学研究所類人猿研究センターおよび京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリのチンパンジーを対象に実験研究をおこなった。集団協力行動・食物分配・手助け行動に焦点を絞り、進化の隣人であるチンパンジーとボノボでの行動を比較することにより、利他性・互恵性・他者理解の進化、ひいては人類進化について新たな考察をおこなった。
著者
窪田 知子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

平成19年度は、これまでの訪英で得られた資料を分析の対象として、イギリスの文脈に沿いながら、インクルージョン概念の整理と概念規定を行うことを目的としていた。そこで、インクルージョンについて理解する上で新たな視点を提供するセバらの「プロセスとしてのインクルージョン」というとらえ方に着目して考察を行った。その成果は、平成19年10月に行われたSNE学会で発表した。また、平成20年5月に同学会の研究紀要(SNEジャーナル)に投稿予定である。本年度の研究では、インクルージョンの先進的な実践としてスキッドモアが紹介しているイギリス南西部のダウンランド校の実践例を取り上げ、同校が、学習上の困難をもつ生徒への対応を発展させていく中で、どのようにインクルージョンの実現をめざしていたのかを検討することを通して、「プロセス」としてインクルージョンを理解することの具体像の一端を明らかにした。またその過程が、統合という「状態」の実現をめざしていた従来のインテグレーションと、インクルージョンの相違をあらためて浮き上がらせるものであることを指摘した。「プロセス」としてインクルージョンを理解することにより、障害児を含めた多様なニーズをもつ生徒の存在を前提として、彼らを包摂する「不断の学校づくりの努力のプロセス」としてインクルージョンをとらえることが可能となり、通常学校教育のあり方そのものを問い直す議論としての視座を明確にすることができた。さらに、昨年度に引き続き、京都市立高倉小学校との共同授業研究では、障害児学級を足場に学習する児童について、教師と協働で具体的な支援について考えた。また、日本学術振興会の許可を得て大阪府大東市教育委員会の非常勤巡回発達相談員を勤め、本研究の成果の普及にも努めた。
著者
堀部 智久
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)関連タンパク質の一つであるPDI P5(P5)の活性阻害剤の低分子化合物スクリーニングを行い、これまでに得られた候補化合物の関連および類似骨格を有する低分子化合物のP5の還元酵素活性への影響を調べた。また、候補化合物の癌細胞におよぼす影響さらには、既存の抗癌剤との併用効果の検討を行った。
著者
伊谷 樹一 黒崎 龍悟 近藤 史 加藤 太
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

これは、経済成長にともなって深刻化しているタンザニア半乾燥地域の環境破壊に焦点をあて、人と林が共存しうる社会の形成を目指した実践的な地域研究である。環境破壊を引き起こしてきた内外の要因を探りながら、環境保全と地域経済に関わる活動を計画・実践し、それらの連携をとおして新たな循環型環境利用モデルを構築しようとした。諸活動のモニタリングや住民との議論を重ねるなかで、環境保全に取って不可欠な技術的・社会的要素を解明していった。
著者
小澤 文幸 竹内 勝彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ピリジンを母核とするPNPピンサー型配位子は,遷移金属錯体上で,塩基の作用により脱プロトン化を起こし,脱芳香族化ピリジン骨格を有する配位子に変化することが知られている.この配位子は強い塩基性を示し, ルイス酸である中心金属との酸-塩基協同作用により種々の結合の不均等開裂を起こす.本研究では,遷移金属に対して強いπ受容性を示すホスファアルケンを配位子骨格に組み込み,錯体反応性の大幅な向上を試みた.その結果,アンモニアのN-H結合切断や二酸化炭素の触媒的ヒドロシリル化に高い反応性を示す錯体を合成単離することができた.
著者
大嶋 正裕 長嶺 信輔 引間 悠太 遊佐 敦 山本 智史 Wang Long
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

従来、高い空隙率で微細な孔構造をもつ発泡体を生産するには、超臨界状態のCO2やN2を発泡剤として利用する射出成形手法が採用されてきた。本研究では、 熱可塑性樹脂の内部にマイクロメータ・スケールの平均径の微細気泡を有する発泡体を製造するための工業的成形手法として、昇圧装置を使わずに、CO2やN2をボンベから直接射出成型機に導入し発泡剤として利用する、あるいは空気をコンプレッサーを使って成型機に直接導入し発泡剤として利用する、低装置コストで低運転コストな新規な射出発泡成形装置を開発した。
著者
長谷 和邦
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2011-09-26

新制・課程博士
著者
進士 昌明
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1984-01-23

新制・論文博士
著者
松島 格也
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

不確実な状況における交通サービス消費行動をモデル化し,意思決定の自由度とコミットメントの価値を理論的に導出した.料金支払いのタイミングの違いに着目して,事前料金システムと事後料金システムの導入が家計厚生に及ぼす影響を分析し,事後割引料金システムの方が社会的厚生の観点から望ましい結果をもたらすことを示した.さらに,航空サービスの早割チケットのような通時的差別化料金システムの経済便益評価を実施した.
著者
御幸 聖樹
出版者
京都大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

本研究は、行政行為に対する議会拒否権の合憲性を考察するとともに、そのような考察を通じて立法機関と執行機関との抑制・均衡のあり方を問うものである。行政行為に対する議会拒否権の合憲性を検討するための判断枠組みを提示した後、アメリカ及びイギリスの法制度及び議論を参考にしつつ、日本への導入可能性の有無を明らかにした。
著者
中島 正愛 BECKER Tracy BECKER Tracy
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

今世紀中盤までにはその襲来が確実視される南海トラフの巨大地震や首都直下地震に対する備えとして、地震動のスペクトル特性に寄らずに地震動入力を低減する効果が期待される、3次元凹型曲面摩擦機構を有する多段階剛性免震装置の免震建物への適用が提案されている。多段階剛性免震装置による共振応答低減効果を評価すること、通常の免震建物と新型免震装置を有する免震建物それぞれに対して極限挙動を定量的に評価した設計方法を提案すること、を本研究の目的とする。研究2年目である本年度は、多段階剛性免震装置の設計法、具体的にはそれぞれの剛性領域での最適挙動を確保するために付与すべき各段階(中小地震時、大地震時、極大地震時)の剛性の決定方法を、関連する実験や数値解析による知見を参照して考案した。とりわけこの免震装置を特に高層建物に適用する場合を考え、高層免震における懸念材料である、転倒モーメントによって生じる免震装置への高圧縮軸力に対する性能、同じく免震装置への引張力に対する性能、極大地震下における免震層変形に対する性能、同じく上部構造の損傷に対する性能を検討した。この結果、多段階剛性免震装置の特徴である引張・圧縮力に対する安定した挙動を踏まえれば、極大地震時に対応する剛性はできるだけ大きいほど全体としての性能(安全性)が向上することを突き止めた。また、高層建物に免震を適用することをためらう米国にその得失を提示するために、典型的な高層免震建物に対する詳細設計・解析を実行した。その結果、変位応答としてみれば免震化による効果は極めて限られているが(せいぜい20%)、加速度応答としてみたときには50%~70%の応答低減が可能になることを明かにし、とりわけ安全性ではなく機能性の向上という視点に立てば、高層構造物であっても免震効果は決して低くない、という所見を得た。
著者
垣本 直人
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究では、超高圧電力系統の事故時復旧操作を、エキスパートシステムにより自動化する研究を行っている。復旧操作は、初期電源の確保、送電系統の充電、発電機の起動・並列、負荷への電力供給などの各段階から成っている。本年度は、負荷への供給が進むにつれ、送電設備に発生する過負荷について検討を行った。以下に研究結果をまとめる。まず、検討の対象としている超高圧系統について、送電線および変圧器の具体的な送電容量を調ベ、オブジェクト形式で記述した系統データに追加した。そして潮流計算により送電線および変圧器に流れる電力量を算出し、これを該当設備の容量と比較することにより過負荷の有無を検出できるよう機能拡張を行った。つぎに文献調査により、過負荷の解消法について調ベた。解消法には系統切替、発電調整、負荷切替、負荷制限などがあり、これらをメソッドとしてシステムに組み込んだ。また、設備過負荷時に適用する具体的な方法は設備ごとに異なるので、設備ごとにルールを設けて個別に対応するものとした。例えば、ある送電線の過負荷を負荷切替えにより解消するには、下立系統の変電所負荷をどのように切替えるかの知識が必要であり、これは送電線によって異なる。最後に対象系統が全停電となった状態からの復旧操作をシミュレーションにより検討した。その結果、送電線1回線や変圧器1台が使用できないような状況下では、過負荷が発生することは稀であることが判明した。また、仮に過負荷が発生したとしても、本エキスパートシステムに組み込んだ機能により解消することができ、さらに負荷制限にまで追い込まれることは検討の範囲内では起こらなかった。以上により過負荷の解消については所期の目的を果たしたと考えている。今後は、潮流計算だけでなく、安定度計算プログラムなどもシステムに組み込み、平常時操作についても検討を行っていく計画である。
著者
里村 雄彦 林 泰一 安成 哲三 松本 淳 寺尾 徹 上野 健一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

2004年7月および2005年3月の2回にわたりカトマンズ(ネパール)のネパール水文気象局本局を訪問し,既存の気象・気候データの所在,保存方法・形態,デジタル化の手順や収集の可能性について調査を行った。また,2004年10月7日には,第1回の現地調査の結果をふまえてアクロス福岡にて国内打合せ会議を開き,第2回現地調査項目および将来の国際共同研究計画への戦略について議論を行った。これらの内容は以下の通り:1)国内会議・南アジア(特にネパール・バングラとインド北部)における雨とそれに関わる大気状態の観測に取り組む必要がある。世界的に見て顕著な降水がある領域であるが、観測・データの制約、研究の少なさのために、まだ基本的な事実自体が十分に解明されていない状況にある。改めて降水の実態把握にこだわる意味は大きい。また,降水量予測もターゲットにするべきであろう。・新しい測器・データの利用と、特別観測、更た新しい研究ツールとしての数値モデルを有効に活用することを通じて、南アジアの降水メカニズムに関する知見を深めていくことを重視すべきである。2)現地調査・地上観測点は多いが,高層観測は全く行っていない。24時間観測をしているのはカトマンズ空港1地点のみであり,他は夜間の観測を行っていない。多くの観測点は日平均値,最大・最小のみの報告を行っている。・最新の自動気象観測装置が数点入っているが、試験導入という位置づけであり,機器の維持・整備の状況に差が大きい。カトマンズ市内の機器を調査した結果,カトマンズ空港以外のデータは研究に利用できない可能性が高い。・高層観測を今後の共同研究で実施する重要度は大きいが,技術的な困難も大きい。・DHMのShrestha長官と面談し、低緯度モンスーン地帯の急峻山脈南山麓という世界的に特殊な環境に起因する気象擾乱や災害について情報交換を行った。また、今後の国際共同研究に向けて具体的な観測項目、そのための事務的な準備などについても打ち合わせた。なお,これらの結果をふまえて実際の国際共同研究を行うため,平成17年度科学研究費基盤Aの申請を行った。
著者
天野 皓己
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

昨年度までの研究結果をふまえ、本年度は茨城県の富栄養淡水湖(北浦)において高アナモックス活性地点が形成される要因を底層水中の硝酸イオン濃度に注目して検討した。2005年8月から2007年10月まで行った長期観測のデータ解析およびアナモックス細菌の16S rRNA遺伝子を標的とした定量PCR法によるアナモックス細菌数の定量を行い、環境因子との関係を解析した。上記の期間中、おおむね2ヶ月に1回程度北浦のKU3, KU4およびKU6の3定点において堆積物を採取し、(1)アナモックスおよび脱窒の潜在活性測定、(2)水質測定、(3)定量PCR法によるアナモックス細菌数の定量を行った。結果、アナモックス潜在活性は季節によらずKU3地点で最も高く、ついでKU4地点でKU3地点の1/2から1/3、そしてKU6地点では0に近い値であった。底層水中のNO_3^-濃度を測定した結果、KU3地点では通常250μM以上であったがKU4地点では半減し、KU6地点ではさらに低い濃度であった。堆積物間隙水中のNO_3^-濃度も同様にKU3>KU4>KU6の順に減少した。アナモックス細菌数は16S rRNA遺伝子コピー数としてKU3地点では堆積物1cm^3あたり3.8-6.0×10^7コピーとKU4地点の2倍、KU6地点の25倍のコピー数が検出された。ここで、KU3地点における季節変動を調査した結果、底層水中のNO_3^-『濃度は夏季、特に6月に減少し、2006年、2007年ともに60μM以下であった。堆積物間隙水中のNO_3^-濃度も同様に夏季に減少した。一方、アナモックス潜在活性は他の季節と比べてやや低いものの、両年6月にも検出された。また、アナモックス細菌の全細菌に対する存在比も両年6月に減少する傾向は認められず、アナモックス細菌は常に存在していた。以上の結果から、KU3地点ではアナモックス細菌群集が安定に維持されていることが明らかとなり、高いNO_3^-濃度条件を経験することがアナモックス細菌群集形成要因の一つである可能性が示唆された。